機動戦士ガンダムテイワズの狙撃手   作:みっつ─

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サブタイトルのアベックにはカップルと似た意味があります。つまり...(お察し)


第63話 アベック・スナイプ

「はぁっ!」

 

通信越しに聞こえる怒号や雄叫びに重ねるように気合いを込めて先程自分が倒した機体の残骸を蹴り飛ばしてそれを避けた機体目掛けて、目の前の機体に持っていた大剣をコックピットに突き刺す。

その隙に接近してきたもう一機を確認して大剣を瞬時に抜き放ちスレ違い様にフレームを切り裂く。

その後ろでもがいていた一機は僚機に落とされた。

黒と緑のツートンカラーでその得物はガドリングと斧。

ゲイレール・ウムゲケート。レヴォルツ・イーオンが真っ正面から戦闘をする際に一般兵が用いる。モビルスーツ。

此方の機体はマッドナッグ。厄祭戦にて使用された機体でロディ・フレームでありながらフレームも改造されているためその姿はガンダムに酷似している。その為そのフレームをマッドナッグ・フレームという人も少ないながらもいる。所謂偽ガンダムでガンダムタイプより扱いやすく(とはいっても通常の機体より癖があるが)カスタムの幅が広い。この機体はその背中に大剣をラックさせ、腰にライフル。得物はその二つのみだ。カラーは青。

 

回りに機体がいないことを確認して一度貯めていた息を吐き出す。この戦いが始まっていくらたつのだろう。一週間過ぎた辺りから数えるのを辞めた。地球のとある国では8時間で終わった戦争もあると聞いたのでここまで長いとそれは嘘なのではと思ってしまう。

倒した敵の数ももう数えるのをあきらめた。

 

「お見事です。ユダ様。」

 

僚機の内の一機がそう言いながらこちらに接近してくる。その間も周りの警戒は怠らない。

 

「世辞はいい。本当にあいつらモビルスーツを無限に持っているのかと思われる量だな」

 

周りにあるのは仲間と敵モビルスーツの残骸のみだ。これだけ倒したというのにアリアンロッドにとっては傷とも感じていないのだろう。戦力差は倍もなかった筈だがここまでやっても変わらないとなるとモビルスーツが無限にあるのではと考えてしまう。

 

「しかしこのまま続ければいつか尽きます」

「だと良いんだけどな」

 

流石に天下のギャラルホルンの中でも一番の兵を持つアリアンロッドと言っても無限ではないし、最初から全員で当たるなんて考えるわけがない。此方の兵力だって大体は理解している筈なのだ。長期戦になるくらいわかる筈だ。

 

「とりあえずこいつを使って敵の新しい情報の解析しろ」

 

先程コックピットではなく、フレームを切ったモビルスーツを蹴り飛ばす。おそらくだがパイロットは生きているだろう。僚機がそれをキャッチした瞬間にそのコックピットの壁を剥ぎ取った。すると中から人が飛び出す。それを大剣で凪ぎ払う。

すると僚機が倒した機体を持っていった。

 

「この戦い。いつになったら終わるんだ」

 

そう言い残して僚機についていった。

 

 

 

 

双方の司令官から見ると戦場は膠着状態だった。

アリアンロッドは連度の低い革命軍を狙い艦隊の分断を狙っている。それを読んでいたグウィディオンは革命軍側に元テイワズ精鋭、傭兵達を運び分断を阻止。

アリアンロッドはゆっくりと囲むような陣形をとりながらグウィディオンを殲滅していた。

 

「やはり連度の低い革命軍を狙ってきますか。そちらには元テイワズ精鋭を行かせたので大丈夫ですが」

 

レヴォルツ・イーオンの船にてサイオンは画面を睨み続ける。我々レヴォルツ・イーオンや元テイワズ精鋭を加えた革命軍とアリアンロッドの戦力差は少ない。アリアンロッドが少し大きいが彼らなら充分戦って勝てるレベルの差だ。

しかしアリアンロッドは未だに隠している兵がいるのではと思うほど、湧いてくる。モビルスーツの量が圧倒的に違うのだ。

 

「前に頂いた資料は間違っていたということですか...ラスタル・エリオン。やり手ですね」

 

特に今回の戦争はラスタルの娘、アメリアも指揮をしている。この膠着状態もすぐに終わる。相手を調子に乗らせてはいけない。それをわかっていたサイオンはすぐにレヴォルツ・イーオンの部隊に広がるように指示を送った。

 

「読み通りに動けば良いですけど...アメリア・エリオンが自分の部隊しか動かせないことを祈るのみですね」

 

そういう彼の視界には敵軍の後退信号が飛び込んできた。

 

 

 

 

そしてその膠着状態はすぐに終わる。

始まるのだ。なぶり殺しが。騎士道も武士道も何ももたず、ただ自分の利益の為に動ける人間の成れの果て。 

それは、革命軍側の青いグレイズの内の一機を注視した。その肩にはとある兵器が担がれている。

 

「アメリアには反対されたが...バレてはいないようだ」

 

そしてその青いグレイズはその兵器の引き金を引いた。オレンジ色の閃光と共に自らの軍の何人かが殺られていく様を見ながらそれは高笑いをした。

勝利を確信した瞬間だったからだろうか。それともこれを見抜けなかった革命軍を馬鹿にしたからだろうか。

答えは本人しかわからない。

 

「革命の暴徒は違法兵器を使用した。その愚行を断じて許してはならん!アリアンロッド艦隊総司令官ラスタル・エリオンの名において命じる。ダインスレイヴ隊禁忌をもって報復せよ!」

 

 

先程革命軍から撃たれたダインスレイヴはたったの一発だがアリアンロッドは数えきれないレベル...正確に言うと120機のダインスレイヴが一斉に3列に並ぶ。

そして躊躇いもせずにそれが一斉に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

長細い閃光が曲がりもせずに真っ直ぐに飛ぶそれは革命軍側のいくつものモビルスーツ、戦艦を破壊していく。

 

「っ!しまっー!」

 

その閃光のたどり着く居場所を大体の位置で特定したある男はそのタイミングをあわせて自身の得物である大剣を振るい、ダインスレイヴの矢を弾く。

しかしそれでも数本程度。残りは邪魔されることなく真っ直ぐに進んで近づくものを破壊し続けた。

数えきれない爆発の量に革命軍側の殆どの兵の視界は薄い酸素の中で燃える真っ赤な炎とそれを吐き出しながらエイハブリアクターによる疑似重力によって崩壊していく金属の塊となった。

 

「本当にダインスレイヴが使われるなんて...」

 

敵が退いたので補給をしようと戻っていたユウはアンドラスの中で呟いた。ギャラルホルンの船が簡単に破壊されていく。これが禁忌の力。父さん達の命を奪い、ハンマーヘッドを爆散させ、百錬を砕いた。

詳しい情報は伝わってこないが全艦隊の半数は破壊されているだろう。膠着状態だった戦場が一気に不利になった。

その時に思い出すのはそれによって壊滅的な状態になった輸送船、ハンマーヘッド、ピンク色の百錬。そしてその対抗策を考えていたレヴォルツだった。

彼はダインスレイヴが使用される可能性があることを自分の中だけとはいえ、考えていた。グウィディオンだけならまだしも、ここまでの兵力が揃うと普通に戦ったら負ける可能性をアリアンロッドは考えると。

それにラスタル・エリオンという男の性格を考えると何かしたらの力、それも禁忌レベルの物は使用されるだろうと。勿論、これほどとはおもわなかっただろうが。グウィディオンにもそれを話、最悪の可能性を考慮してダインスレイヴを持ち出したらしいがそれが裏目に出たらしい。

しかしまだ終わりではない。もうひとつ、対抗策がある。

 

──貴方にダインスレイヴを破壊してほしいんです。

 

 

あのときは正気かと疑ったが今彼はそれなりに有能だと感じた。もしかしたらただ、スパイを入れていただけなのかもしれないが。

どちらにしろそれが出来る力がある。

 

「アンドラス。力を貸してくれ」

──いつも通り。やればいいんでしょう?

「ああ。固まっている銃をミサイルで射抜くと考えればいい」

 

アンドラスにそうとだけ伝えて武装の再確認、システム面の整理をもう一度行う。端末を叩く指に汗を感じる。ここでミスをすれば一巻の終わりだと。でもこれを成し遂げれば勝利に導かれる。

するとレヴォルツ・イーオンから幾つかの画像と座標が届いた。その画像にはダインスレイヴの発射される瞬間の光が幾つかの角度から載っていた。そして座標はおそらく味方側のものだろう。おそらくあの位置だとモビルスーツのエイハブウェーブは感知出来ない。この画像と照らし合わせて狙撃しろ。そういうことだろう。動いている可能性は考慮していないようだ。

 

 

「やってくれる...!」

──無理だと思うの?

「君がいなければね」

 

軽い会話をしながらその情報をアンドラスに送る。

ダインスレイヴを破壊するのはアンドラスの背中にラックされているため大型のミサイルポッド。これを特定の場所でプログラムを打ち込んで切り離し、小型ミサイルでダインスレイヴを狙撃。ダインスレイヴはその威力を持ちながらデメリットとして衝撃に弱い。小型ミサイル一発でも当たれば二度と撃てなくなるか整備が必要になる。その整備も1日2日で終わるものではない。少なくともこの戦場で直す事は不可能。

大型ミサイルポッドに入っている小型ミサイルは合わせて120。ダインスレイヴの総数と同じ。偶然だがダインスレイヴが多すぎなくて安心した。もし小型ミサイルの総数よりも多かったらどうしようかと思った。

兎に角これで安心だ。

僕がここにこう撃つと思考をしてアンドラスがそれを実現する。完璧だ。

 

「ユウ!アンドラス出れるぞ!」

「了解!ユウ・タービン!ガンダムアンドラスtypeβで出撃します!」

 

再度出撃する。出てすぐに何機か狩りとったであろう辟邪が二機いた。パイロットは勿論ラフタとアジーだ。

 

「ゆーちゃん!」

「作戦通りにいくよ!」

「了解!」

 

 

幸いな事に敵パイロットは存在せず、破壊された船等の破片が散らばるのみだった。

モビルスーツに当たったって損害はないがこの位置で撃つと残骸に当たって無駄になる弾は増えるし、まず射程外だ。

残骸かわしながら高速で進む。露払いの必要すらないこの空間が不思議に思えるがそこまで余裕はない。

ダインスレイヴが次弾を撃つのもすぐだろう。ダインスレイヴには装填用のモビルスーツが必要となるがそれさえあれば二三発はほぼ連続して撃てる。

一秒でも遅れると次が撃たれる可能性がある。次が撃たれてしまえば損害は相当な物となり、たとえダインスレイヴを潰したとしても勝利の可能性はほとんど無くなってしまう。そんなことはさせてはならない。

一秒が惜しい。最悪これが成功したあとはまた補給をうければいいのでスラスターをフルに使い特定の場所に着く。

残骸が多いがこれを避けるしかない。

 

弾の軌道を想像する。120発ものミサイルの軌道。一番無駄無く、そして砲撃による破壊が難しく、残骸を避けられる。そんな軌道を。

ミサイルの細かいデータを加味しながらひとつひとつ、細かい動きを想像する。

 

「ここか!」

 

それでも避けられないであろう残骸をライフル付きシールドで退かす。ゆっくりと動いていく幾つかの残骸を見ながら再度想像してその軌道を頭の中で完成させる。

 

「っ!アンドラス!」

──任せて!...出来た!

 

アンドラスに呼び掛けることで人間だと数時間かかるプログラムも数秒でやってくれる。しかし出来るのはプログラムによる武装の動きのみでそれを細かく伝える、そしてそれが可能な物であるかどうかもパイロットにかかっている。

まさしくこの二人でなければ不可能な行動だ。

よくレヴォルツは出来ると考えたな。

すると画面に幾つかの線が浮かび上がってくる。120本となった線は全てダインスレイヴを狙っている。

 

「ミサイル各部の軌道修正完了。敵モビルスーツによる損害、無し。弾のブレ、修正。射撃の妨害、確認できず。視界は良好。エイハブリアクターによる疑似重力、計算済み」

 

ほとんどがアンドラスの手柄だ。本当にアンドラスには頭が上がらない。

そのままプログラムを流し込み、ミサイルポッドを射出した。

 

「いっけぇぇ!!」

 

大型ミサイルポッドはそのまま元気よく飛び出す。この程度では気付く輩はいないだろう。まさかダインスレイヴを狙っているだなんて。

そしてそのまま小型のミサイルポッドがそれぞれ二つ、合計4つ出てくる。その小型のミサイルポッドがスラスターを使いプログラム通り、ギリギリまで接近する。

ここが敵の最後のチャンス。そして気付く人間が出てくるであろう場所だ。

それを見届けながら汗を流す。ここで誰かに撃たれて爆破でもすれば終わりだ。

しかし気付く物はいなかった。そのまま小型のミサイルを大量に細かく言えばそれぞれに30発。三つの面からそれぞれに10発。合計で30発のミサイルを着けた小型のミサイルポッドが4つなので合計120発のミサイルが飛び出す。

それがモビルスーツの間をすり抜けてダインスレイヴには着弾し小さな爆発を作るのを見届けながら息を吸うことを忘れていたことに気付き、深呼吸をした。




え?スナイプとか言いながら全然狙撃してないじゃん?見えてないから狙撃でいいんだよ!(爆論)

どちらにしろチート射撃を行うユウとアンドラス。一応言っておきますけどこれ、狙ってやってますからね?次回、最後の指導。
うん、久しぶりのネタバレサブタイトルだ。

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