機動戦士ガンダムテイワズの狙撃手   作:みっつ─

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今日も頑張りたいですね



第68話 これしかない

アリアンロッド。

ファフニールの中で何度かのモビルスーツ隊からの報告を受け取ったアメリアが違和感に気付く。すぐにラスタルの後ろに回り耳打ちする。

 

「鉄華団が退きました。おそらく体制を整えた後、此方に突っ込んでくると思います。どうします?お父様」

「ジュリエッタの隊を下がらせろ。数回に分けて補給をしながら艦隊前で待機だ」

 

ラスタルはそのまま何事もなかったようにオペレーターに指示を送る。それを見ながらアメリアは胸騒ぎを覚えてモビルスーツデッキに通信を行った。

 

「ガンダムベリアルの補給の準備、お願いします。後同時にパイロットのメディカルチェックを至急お願いします」

 

 

 

そして鉄華団もホタルビにモビルスーツを収用させて補給を取らせていた。

しかし状況は最悪だ。

イサリビの中でオルガとユージンとビスケットが作戦会議を行っている中に一人の鉄華団団員が端末を持ちながら入って来る。

 

「団長!報告します!獅電合計八機が大破、一機が小破。ランドマン・ロディ三機が大破。フラウロス、グシオンが中破。バルバトスが小破しました」

「そんな!三日月達は!?」

「機体が大破されたパイロットは...」

 

その団員はばつが悪そうに口を紡ぐ。仕方ないだろう。鉄華団はその力で圧倒的な力で数で劣る戦いも勝ってきたのだ。だと言うのに数で勝った戦いに負けた。

それもこの被害はベリアルというたった一機のモビルスーツによってもたらされた被害なのだから。

 

「一応チャドさん、ダンテさん、デルマさんは命に別状は無いようです。しかし傷は深く、今回の戦いではとても...」

「機体の状況は!?」

「バルバトスならすぐに出せるようです。グシオンとフラウロスも時間があればある程度の修理は出来るようです」

 

バルバトス、フラウロス、グシオン。鉄華団の虎の子の兵器だ。ガンダムという300年前の機体でありながらその性能は折り紙付きで鉄華団の力の象徴となっていた。

その機体がまだ戦えると聞いてひとまず安心するも、状況は良くならない。

 

「兄貴を殺った兵器のせいで全艦隊の半数以上が大破したってのに...」

「どうするオルガ!ギャラルホルンから引っ張ってきた船を盾代わりに使えば接近することだって...」

「それは危険だ!大体アリアンロッドと戦うってことが無茶だったんだ!」

 

ユージンが出した捨て身の意見をすぐにビスケットが否定する。今回の戦い。ビスケットは上手くオルガ達のブレーキをかけることが出来なかったが流石に特攻は許せなかった。

 

「じゃあこのままプチプチとやられていくしかねぇじゃねえか!そんなの勝てる分けねぇだろ!」

 

今の彼らには後ろ楯があるようでない。ここで逃げてしまえばテイワズは鉄華団を見捨てる。

本当にあの時に切られた企業となってしまう。

 

「だからって!特攻したって犠牲を増やすだけだ!」

「...」

 

ユージンとビスケットが激しい口論を繰り広げている間で挟まれながらオルガが目を閉じて考える。

確かにビスケットの言う通り、特攻は得策ではないのかもしれない。ここで突っ込んだところで相手に挟まれて落ちるだけかもしれない。そんな危険な賭け...出来るだけ乗りたくない。しかしユージンの言う通り、ここで撃ち合ってた所で相手がモビルスーツを出しきってしまえば物量的に劣る此方は簡単に落とされる。マクギリスもレヴォルツ・イーオンも、残りのテイワズ精鋭も。

決めなければいけない。それに三日月達が束になっても少しの間止めることしか出来なかったパイロットの対処法も...考えなくてはならない。

 

「オルガ!ここは一旦退いて...」

「退いて何処へ行くんだ?何処にも居場所なんてねぇぞ。ここで勝たなきゃな」

 

絶望的な状態だがまだ諦める訳ではない。ここで勝たなければ完全に後ろ楯を失うことになるのだ。テイワズも、マクギリスも。

全てが無駄になる。そんなことはあってはいけない。

例え、どれだけ汚い手を使ったとしても...。しかしその汚い手でもアリアンロッドに一泡吹かせるとは思えないのだ。

 

「ちょっといいか?」

 

するとその指令室に誰かが入ってきた。

 

赤い髪を生やした黄色い目を持つ長身の男。額には包帯が巻かれている。

マクギリスに勝るとも劣らない美形でその綺麗な白い肌を持ちながら服の上からも筋肉が見える。

 

「なぁに。無理して勝とうなんてしなくてもいい。ようはあいつらに存在を認めされるだけでいい」

「は?あんた急に入ってきて何言ってるんだ?」

 

ノーマルスーツを着ているのとその外見から三日月達が拾った男だと推測できる。しかしその男も気絶レベルはいっていたと思ったが回復が速く、そして頭が冷えるのも速い。

 

「アリアンロッド司令、ラスタル・エリオンもその娘であるアメリア・エリオンも馬鹿ではない。特にアメリア・エリオンは今後モビルアーマーと戦闘する事を加味してここでの犠牲を出来るだけ減らしたいと思っている」

「モビルアーマー?」

「お前、マクギリス・ファリドの奴から聞いてないのか?テイワズ精鋭がモビルアーマーの天使長ハシュマルを討伐したと言う一大ニュース。あれで未だに厄祭戦は終わっていないと言う証明の意味は充分果たしたと言えるだろう」

 

ユウが願いだなんだ言いながら倒した化け物兵器だと思い出す。

確かマクギリスはアーラとか言うモビルアーマーを討伐するときに乱入してきた奴を確認したことで厄祭戦は終わってはいないのではないかと推測していたがまさかあのハシュマルで充分な証明が出来たとは思ってなかった。

 

「とあるモビルアーマーを追っている組織がいてな。そこには俺の友人もいるんだが。そいつらも確認しているようだ。300年前百合の花園(ヘブンズフィア)から退却するモビルアーマーをな」

「んでそれが今回の戦いと何の関係があるんだ?」

 

百号やらなんやら知らない単語が次々に飛び出して頭が狂いそうになるが出来るだけ整理しながらも理解しようとする。しかし話が難しすぎて理解できない。

 

「お前、何聞いてたんだ?耳あんのか?モビルアーマーはお前らもわかる通り馬鹿みたいな火力に優れたAIを持っている。文字通り世界の光となって消えたヘイムダルが解体された今、誰がどうしてあれを止められようか」

「そこでモビルアーマーを討伐した実績のある僕らを使いたいということですか?」

「まぁな。だから双方の意見は違うように見えて実は同じだ。モビルアーマーを対策するために組織の再編成をしたい。その為にトップになってギャラルホルンを一時的でも支配したい。単にマクギリスはお前らと言うカードを持っているだけだ」

 

冷静に返答するその男を睨む。

こいつは三日月達が束になっても倒せなかった相手にひけをとらない戦いをした最強のパイロットといってもいい奴だ。その頭だってナマクラではない筈だ。

しかしそれはつまり、戦争をする必要がないのに始めたと言う事。単なる子供の喧嘩ならまだしも、犠牲が出ていると言うのに。

 

「んじゃお前はそれを知ってこの戦争に協力してんのかよ!狂ってんじゃねぇのか!?あぁ!!」

「待ってユージン...すみません。失礼ですがお名前は」

 

ユージンも流石に怒れてきたようで掴みかかる。しかしその男はそれをかるく払いのけてユージンの追撃を軽くかわす。

その動きはとても慣れている。そしてその背中に阿頼耶識があるかないかを確認したがそれは無かった。

また繰り返そうとしたユージンをビスケットが必死に止める。

場の空気を悪くしながらもその男は全く悪びれずに手を降りながら答える。

 

「ユダ。ユダ・カイエルだ。好きに呼べ」

「んで、あんたは戦いたいだけの戦闘狂か?そうでもなければなんだ?しなくてもいい戦争に協力して俺たちの家族を無駄に死なせた。もしそれが戦いたいだけだったら...その落とし前、しっかりつけてもらわないと困るが」

 

片目を閉じながらそして殺気を放ちながら威嚇する。

しかしユージンの攻撃を軽くかわしたような人間がその程度の威嚇が通じるわけもなく、そして威嚇を威嚇と思うことなく軽く話す。

 

「はっ。言ってくれる。俺が単なる戦闘狂だと?またまた。冗談でも辞めてくれ。戦う事しか能がない男どもにそういわれる日が来るとは。先祖に笑われそうだ」

「随分と上から目線だな」

「それは許せ。お前らのような相手と話した経験は少ないんだ。礼儀ができる相手ならそれ相応の礼儀で返すさ」

 

嘗めたような口調でユダは話ながら何処からか端末をさっと出してなにかを打ち始めた。

何も殺気を感じない筈なのだがそのオーラに此方が負けそうだ。人間として最悪の恐怖を感じる相手。

 

「俺は、この戦争...必要だと思っている」

「ここで戦争すれば俺たちが死ぬかもしれねぇのにか?あんた正気か?戦争が必要だと?」

 

戦いによって資金を得て生活している鉄華団でも戦争が必要だという感情はない。敢えていうなら稼ぎ方としてだが、だからと言って戦争を起こす馬鹿はいない。

 

「出来レースとは言わないがここで勝者が出ることがこの戦争で一番重要なことだ。セブンスターズとか言う昔の威光の欠片もないじじい共ではなく、力を持った権力者がギャラルホルンを支配する。どちらともモビルアーマーを驚異と感じているのは当たり前だ。そして編成したギャラルホルンをモビルアーマーにぶつける」

 

ユダがまるで他人事ように喋る。何処にも感情が籠っていない、棒読みのように読んでいる。

しかしどちらでもいいのなら今から白旗を上げて降伏するはずだ。しかしそれをしないということはマクギリス側、もしくはラスタル側に何かしらの感情が入っていると推測される。

 

「んとまぁとにかく、敵を無理して倒そうなんてしなくてもいい。ただ、敵大将の船のど真ん中に銃を構えて佇むだけ。それで終わりだ」

「それでも、危険なのは変わりないですよね」

 

先程まで黙っていたビスケットがユダの目の前に出ていく。言葉から臆病なようにも見えなくはないがこの男の目の前に出ていけるとは本当に肝っ玉が座っている。

目の前に立たれるだけで此方の背中は汗で濡れる。

 

「...そうか。お前はそういう奴か」

 

ユダは低い声でそう言ってビスケットを睨む。その視線が此方に向いているわけではないのに身体が震えだした。勿論睨まれた本人であるビスケットも分かりやすくカタカタと震える。

殺されると思ったわけではない。なんなのかわからない。しかしこいつは危険だと頭の中の本能が告げている。

 

「鉄華団とは勢いでなった小企業だと思っていたが...頭が動く奴もいるのか。しかしその頭が脚を引っ張ることもあるのを忘れるな。デメリットを考えすぎて踏み込めない奴は結果を出せない」

「だからと言って...アリアンロッドの数を考えれば僕たちが勝てる可能性は低いです。ですので...」

「だから、お前耳あんのか?勝つ必要はねぇよ。あっ、これマクギリスには言うなよ。怒られそうだ」

 

こいつとマクギリスは交流があるのかわからないが笑いながらユダは口の前に人差し指を立てる。おそらく何かのジェスチャーだろうが何を意味するのかわからない。

マクギリスとの交流はおそらくあるだろう。あれだけ強いパイロットだ。おそらく三日月より強い。そのようなパイロットがいたことに驚いたがマクギリスなら知っていてもおかしくはない。

 

「では、アリアンロッド相手に何をすれば終戦出来ると言うのですか?モビルスーツで接近するなんて普通に狙うより難しいですよ」

「うーむ。俺は、そうしようと思ったんだけどなぁ。アリアンロッドの力は半端じゃない。しかもお前らも結構な痛手を背負っている。その状態で今、ライル・バレルとか言う二つ名で先祖の名前を使っているような不届き者をどうするか...だか?」

「先祖?」

 

ライル・バレルという男は知っている。あの黒いモビルスーツを動かしているパイロットで幾つもの死線を潜り抜けてきた鉄華団のメンバーであるビスケットやオルガをビビらせるレベルの覇気のような物を持っている男であるユダ、鉄華団最強のパイロットである三日月を倒した敵。しかしその男の2つ名は知らない。そして目の前にいるユダも今日始めて知ったのだ。先祖の話など知ることもない。

 

「まぁ、先祖の話はおいおいするとしよう。とりあえず、ファフニールに接近する。あいつらは今失うには惜しいからな。半殺し程度に止めておけ。最悪ライル・バレルは此方に引っ張ってくれれば俺の部下達が何とかするだろう」

「賭けに出るのか」

「それしかねぇぞ。いいか、こんなときにビビっているようじゃ勝利はねぇぞ」

 

ゾクリと背中に嫌な物を感じた。

もう覚悟は出来ている。少しでもでかくなるために、斬った張ったの世界から離れるために、決めたことだ。

すると近くに敵モビルスーツの反応を感じた。レギンレイズが三機。此方に接近してきた。

此方がモビルスーツを引っ込めたからと言って彼方が手を緩めてくれるわけではないのだ。

 

「覚悟は出来たか?」

 

ユダがそう言った瞬間船が揺れた。直撃だ。あまり長い時間こうすることは出来ない。

もうこれしかない。成功の確率は少ない。ほとんどないだろう。失敗の確率の方が高い。しかし0と1は大きく違う。決断するときなのだ。鉄華団団長として。

 

「...くっ!ユージン!今すぐホタルビに戻ってホタルビにかけたギャラルホルンの船とモビルスーツ隊を寄越せ!」

「わかった!」

 

ユージンが司令室から出ていったのを見ながら艦長席に座る。

これしかない。これしかない。そう心の中で繰り返しながら命令を送る。

 

「ホタルビから受け取ったらその船を盾代わりにしてギリギリまで接近する!フラウロスとグシオン、バルバトスを出撃準備!他のモビルスーツ隊を船に着けて露払いをさせろ!」

「りょ、了解!」

 

敵の船に突っ込んでそれなりの損傷を与えてそして帰ってこれそうな三人のパイロットのモビルスーツの名前を出す。

ユダは銃を構えるだけでいいと言ったがそれだけでは不十分だ。何処かで撃たれる可能性もある。

そう思いながらユダの方を見るとそれでいいと口を動かして司令室から出ていった。

おそらくユダはわかっているのだろう。ただ、近くにモビルスーツを寄せて終わりが正解でないことを。三機のガンダムフレームの名前を出したのが彼にとっての正解。

 

「ビスケット」

「もういいよ。その代わり必ず成功させるよ」

「ああ。負傷者をホタルビに移せ!ホタルビが囮として使えるかわからねぇがやってやる」

 

二年前地球にて使用した手だ。負傷者等を囮としてギャラルホルンの目を引き、その間にモビルワーカーで仕掛けた。

今思い付いた手だ。穴はあるかもしれない。しかしこれしかない。

 

「マクギリスの方に連絡を取れ!もう覚悟は決めたってな!」

 

 

 

 

 

イサリビから出て仲間に誘導されながら近くのハーフビーク級の戦艦に乗り込む。ハーフビーク級、ヘイムダルがいた時代から運用されている戦艦だ。

その中でも黒と赤に塗装された戦艦。メガセリオンの愛称で呼ばれる戦艦の中に入り、ため息をついた。

壁に凭れる。すると近くの兵士が声をかけてくるがその声もあまり耳に入ってこない

 

 

「わりぃな。サイオン、もう限界だ」

 

あんだけ大きく言っておいて、あんだけギャラルホルンに恨みがあって。

一人の男に負けて、血の気が多い男共に完全勝利はしなくてもいいと弱気な事を言ってしまった。

 

「後は...頼む...」

 

ゆっくりと視界が黒くなっていく中でその意識を手放した。




ユダは死んでません。疲れ切っただけです。
とはいえ、絶望的な状況で鉄華団が出した答えを読んだアメリアさんは一体...
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