この2人ほんとうにどっちが勝つんだ?
第71話
シールドでベリアルの刀の攻撃を抑えるたびに来る衝撃が痛い。しかしアンドラスにとってはそれくらいへでも無いので受け止め続けることが出来る。シールドも無限に攻撃を止められる訳では無いがここまで隙のない攻撃だと攻撃した瞬間にカウンター食らって自爆だ。ここは耐えるしかない。それに移動しながらも着いてきて高速で刀を振るうような技量だ。攻撃のチャンスなんて初めから無いのではないかとまで思える。
良かったのが狙撃手として耐えることにはそれなりに慣れている。とはいえ、モビルスーツの狙撃は対人の時より当てるのは難しいが待つ時間はそこまで長くないのが普通だ。元より運び屋に隠れて狙撃なんてあまりない。その成果戦闘をしているとガンマンじゃないのかと勘違いされることもあるレベルだ。どちらにしろ耐えることにはそれなりに慣れている。ここはその経験を生かして耐え続けるしかない。目にも止まらぬスピードで来る斬撃をアンドラスと自分の思考そして直感のみで位置を当ててシールドで守る。そんな高難易度な事を途方もない時間やらなくてはならないのだ。ベリアルのスラスターのガスが切れるかライルが攻撃を一旦諦める。その瞬間しかない。しかしその時にそこまで頭が回るだろうか。思考のし過ぎで今でも頭が痛い。何かが震える。もし機体がアンドラスでなかったらこの頭痛で頭がやれるかライルの剣筋を見れずに切り刻まれるかだったろう。
結局、シールドが壊れるか、僕がライルに切り裂かれるか、そしてライルが諦めるかしかこの先の未来はない。確率が1番高いのは僕がライルに切り裂かれる事だろう。まずまず一撃一撃が防げる見込みのない攻撃なのだから。
もう傷だらけのシールド。運がいいのかそういう設計なのか歪まないライフル。ここで勝負に出た方がいいのではないかもう一人の自分がそう囁く。
その度に駄目だ。まだ、まだあいつは尻尾を見せてはいないと言い聞かせる。正直それくらいしか出来ないのだ。あとは刀を捌くことに必死なのだ。それぐらいの速度、まず人間である限り思考してからじゃ間に合わない。モビルアーマーレベルの反応速度が無ければまず捌けない速さなのだ。現に幾つか追加装甲に命中している。恐らく、先程のリアクティブアーマーを警戒してか突き刺す攻撃はしてこない。
刀だって本当は消耗が激しい武器なのだ。なのに、ベリアルの刀は一向に割れる気配がしない。ヒビなどは速すぎて確認出来ないが流れるように切ってくることから消耗はそこまでしていないと思われる。
「──っ!!」
集中力が切れた。左足の追加装甲が切れて破片が飛ぶ。装甲自体が斬られて、穴が開く。そこへ追撃されそうだったので、その追加装甲を急いでパージして難を逃れる。
そしてまた接近してきたベリアルの刀を抑える。一瞬だけ火花が散り、盾を削る。もう限界だ。早くしてくれ。そう声を出すことすらままならず、身体と精神を破壊されていく。
気が遠くなる。目も半開きで何故ここまで耐えられたかが分からなくなってきた。
「あぁ...!!」
左のシールドにヒビが入る。刀より消耗が激しいシールド等聞いたことも無いが物理的にも限界だ。
賭けに出てシールドをパージしてみるか。そうすれば1発くらいは当てられる隙が出来るだろう。しかしその賭けもあまり良くはない。慎重に慎重に。刀だってもう限界な筈だ。押せば折れるだろう。彼の思考から長期戦は避けたいから刀をこうも酷使するなど想定外な筈。ギリギリまで粘ればあちらが尻尾を見せてくれる。そう信じるしかなかった。
イサリビ。鉄華団という小さな組織が持つには多すぎる量のモビルスーツがあったのだがそれは全て出してしまった。とはいえ、整備を受けなくてはいけない機体が無い。しかしその殆どが弾切れの補給のみなのでそこまで人員は要らない。
弾切れの補給をしに来た獅電に詰めておいたライフル用の弾を出しながら戦うことが出来ない(まさかのドクターストップ)ため、現在整備士として働いている。
「あいつら、大丈夫か?」
獅電のライフルの弾の補給をしながらもそう呟く。弾入れの作業なんて整備士がありのようにワラワラ集まってすることではないので手が開く人もいる。
ブリッジでは細かい指示を飛ばし、モビルスーツ隊は戦艦の死守に命をかけている。整備士は作戦前と先程までの動きが忙しかった反動があまり仕事がない。先程も述べたように整備士以外は猫の手も借りたいのだ。特にモビルスーツ。時折直撃してくる弾からこれも長くは持たないということはよく分かる。モビルスーツそれも自分が1人行くだけで状況は変わるのではないか。時々そう思う。整備士は今これ以上要らない。ならば人員が欲しいモビルスーツ隊として参加するべきではないのか。ラッキーなことに誰にも使われていないモビルスーツが一機、ユウが拾ってきた機体が一騎のみある。それを使えば状況は変わるかもしれない。しかしこの身体がもっとも限らない。モビルスーツはエイハブリアクターの影響で耐Gが働くから身体への負担が小さいと思うかもしれないが衝撃は耐Gでは守りきれない。それにドクターストップがかかるほどボロボロになった身体が対抗できるか。
時折思い出す。暗く何も無い空間で起こった一日にも感じれば数億年にも感じた時間の中。あそこは精神的に辛かった。何も無い、何も出来ない空間で数億年も暮らせばしない。眠気もない、腹も減らない等良いこともあったがそこに閉じ込められたのは一言で表すなら地獄だ。もうあそこには出来るだけ入りたくない。しかし昏倒状態となった者は入ってしまうのかもしれない。状態となった者は入ってしまうのかもしれない。あの空間がどんなものでなんの意味があるのか知らないのでなんとも言えないが。あそこは辛いだろう精神がしっかりしていないやつは耐えられないのかもしれない。生きることを諦めてしまうかもしれない。そうなれば死ぬのだろうか。自分はそう考えている。
ユウは勿論、ラフタやアジーもその空間に捕えられたら出れるかと言われたらその時は首を横に振るだろう。それほど辛かったのだ。そこの空間は。
簡単に言うと心配なのだ。家族が心配で、なのに戦えない自分に嫌気がさしている。
「...行くか」
なら簡単だ。行ってしまえばいい。身体に不調は感じなかったし、この際船が落とされるよりマシと言ってしまえば許されそうな気がしてきた。機体だって丁度テイワズから取った余り物が残っている。性能的には獅電より弱いがこの際わがままは言ってられない。そう想いながらイサリビの端っこに佇む一機のモビルスーツを見た。
左のシールドを庇いながら攻撃を受け止めると右のシールドも限界を迎えた。しかし、その中でも衝撃に耐えながら、手応えを感じていた。
蹴りが増えたのだ。
ライル程のパイロットならこれだけ高速で動き刀を振るったことでどの程度傷つき、限界までどれくらい振れるかわかるはずだ。そして長期戦を嫌うライルが決定打になりにくい蹴りを混ぜてきて、その割合が増えてきた。つまり、刀をこれ以上無駄に振るうのを避けたいということとなり、それは即ち刀の限界が近いということ。
一瞬だけでも隙が作れれば出来る対応が増える。それにこれ以上ガードするのはシールドも限界だ。勝負に出るか。
そう思った瞬間だった。ベリアルの刀が右腕の追加装甲を貫いて本来のアンドラスの装甲に到達した。少しだけ削りながら、動きが急激に遅くなる。
「...っ!」
今だ。など言う余裕すらなく、反射的にそこの追加装甲をパージして離れるベリアルにお返しとばかりに射撃を行った。乱れ打ちのようなものだが相手が呆気とられたからか全弾命中。勝負の流れがこちらに来た。怯んでいる。今がチャンスだ。
今まで刀の攻撃を防ぐのに酷使し続けたアンドラスをまた呼び起こす。アンドラスから送られてきたのは機体の損害状況、残弾等の機体の調子だ。それを一瞬で送られてきたが頭がタフになったのかそれに全く動じずに狙いを付けて射撃する。狙いは全て武器。ベリアルの刀を見てみると右の刀の損傷は特に酷い。うっすらとヒビのようなものが見える。
「ああっ!」
その間1秒もせずに処理をして動く。もしここで僕の射撃がライルに気付かれたらかわされて流れが元に戻っただろうがそれを悟らせるほど僕は甘くない。
狙うは右の刀。ヒビの部位。それも刀が横を向いたその瞬間。そこしかない。刀は性質上、横方向の力に弱いのだ。
まずは手始めに前から右肩に向けて1発。弾のタイミングを掴めないからか斬るのではなく、射線に刀を入れて弾く。やはり右肩を失うのは惜しいようで何発か撃っても刀で守る。
その瞬間、頭の中に閃光が流れる感覚とプレッシャーが同時に来た。アンドラスではなく、自分の本能のようなものだ。ベリアルからオーラのようなものが出てきて、アンドラスを通過する。殺気とは少し違う気もするが反射的にそれが攻撃方向だと理解をしてそこから避ける。するとそのオーラもゆっくりと方向が変わる。薄くて世の中に存在するものでは無いということは分かる。幻覚が見えている訳ではなく、まるで未来が見えるようなものなのだ。
「なんだと!?」
ベリアルから驚きの感情が
理解した。こいつの動きに頭が慣れていると。人の慣れとは普通こんなに早く訪れる訳はない。2年間積み上げたものが花開いたのか。しかしその可能性も薄い。こいつの速さはガンダムフレームに乗ったことで磨きがかかっていたのだ。逆にライルの速さになれるのであればここで困惑していたはずなのだ。
どちらにしろこれは好機だ。ここまで耐え続けたかいが
「あったんだ!」
人体では耐えられないであろう加速をするベリアルをかわしながら刀に狙いをつけて連射する。
ベリアルの方も時折、攻撃はしてくるが全てシールドでがっちり防いだ。今までライルの流れだったのがこれで変わった。それぞれがほぼ、同じ技量を持つ、均衡した状態へと。
たった一機で、それも狙撃手という正面戦闘が苦手な者が。ギャラルホルン、いや世界最強に対して正面戦闘で均衡状態を作ることが出来る。それは大きなことだ。そしてイレギュラーにも程がある。
しかし、ライルはなんにも疑問はなかった。少し早いと感じた程度で。いつかはそうなると分かっていたのだろうか。そう感じさせる余裕を感じた。
「そうだ!お前の強さを俺に見せろ!」
ベリアルから出てくる感情から高ぶりを感じる。死への境地に近づいているというのにその高ぶりには喜びも含まれているように感じる。
強い敵と出会えた喜び。というのは理解出来る。理解出来るが共有したいとは思わない。
自分だって人だ。死ぬのは怖いし、死ねない理由を作られてしまった。この状況では死の可能性が高いことをしたくない。
「お前がダインスレイヴを破壊したことでギャラルホルンの中ではお前の株は上がるだろう。モビルアーマーの討伐をするならお前という戦士が必要だと、誰もが思う!」
「それがどうした!そちらが勝てば力を基準とした世界ではなくなる!僕は
それぞれの得物をぶつけて高速で戦場を駆け巡りながら、言葉をぶつけ合う。その空間には誰も入れない。入ったものは一人残らず、屍へと姿を変えられる。
「家族が最優先事項か」
「当たり前だ!いままで、どれだけ僕が事態を引っ掻き回したか。わかっているんだよ!」
鉄華団。タービンズ。僕という人間がどれだけ事態を引っ掻き回して悪影響を及ぼしたか。あの時に父さんの言う通り、テイワズでお留守番しておけば、全ては失わなかった。父さん達の大切な意志を。命を落としてでも守りたかったものを。自分勝手な行為で振り払ったのだ。
だから同じものを作る。タービンズを。今までのタービンズと同じものを作る。それが僕の人生の中で1番やらなければ行けないことだ。その為ならギャラルホルンが崩れようがモビルアーマーが騒ごうがこちらに不利益がないならどうでもいい。勝手に騒げ、勝手に殺せ。
それさえ出来れば僕に居場所はない。また作るもよし、1人で朽ち果てるもよし。それは作ってからの話だ。その為に負けられないのだ。ライルにも勝てないと僕はタービンズを守りきれない。
「その為に僕は悪魔になる!アンドラスに僕の全てを捧げるんだ!」
「そのための悪魔か!お前は!悪魔に魂を売ればそれで強くなれると!」
「今はお前さえ消えれば!」
それぞれの得物にヒビが入り、限界は近い。しかし長期戦になればなるほど長期戦向きのフルアーマーアンドラスの方が有利となる。
勿論伸ばせば勝てるという訳では無い。しかし無理に当たらなくてもいいということは余裕を産む。
しかし感情が、それを許そうとしない。こいつを殺せ、こいつを消せと何度も訴えかける。確かにこいつの相手をしている間に他のみんなが危なくなるのかもしれない。でも、ここで先に行っては犬死だ。そしたらタービンズはもう...
「僕は1人じゃない!それでも!お前を倒せなきゃ...前には進めないんだ!」
「だから、だろ。お前はタービンズの総意を自分の器に注ぎ込めると思ったか!思い上がりだ!そもそもお前はそれほど大きな人間じゃない!」
機体からアラートが鳴ってくる。アンドラスも限界に近いようだ。しかしそれより大きな負担をかけているベリアルも限界が近い筈だ。だから無理には踏み込めない。
でもライルも馬鹿ではない。もっと良い方法を何処からか出すのかもしれない。その前に倒さなければ、倒さなければ行けない。
「じゃあそこで止まるのか!僕の命はタービンズの為のものだ。罪を重ねた僕が、許されてはいけないんだ!」
「ならば、ここで死に果てろ!すればお前の命はささげたことにだってなろう!」
ベリアルの刀がアンドラスの追加装甲を削る。あれだけ打ち合ったというのにまだその切れ味は健在なようだ。しかしその瞬間鈍ったのを見逃さなかった。
「その為に殺す!」
スラスターを一瞬だけ吹かしてベリアルの背後に回る。ライフルをベリアルのバックパックに向けた状態で引き金を引く。それを防ぐようにベリアルが刀を振るい、射線に合わせて弾く。素早い切り返しだったからか、弾が切れてベリアルをかする。
「その為の!」
それを合図にタックルをする。衝撃が伝わるのと同時にシールドのみを動かし、右の刀の横を叩き、そこに目掛けて射撃をする。
その時だった。ここまで幾度となく、ライルの剣技に耐え続けてきた刀がついに限界を向かえて半ばで折れた。右の刀だ。
そのまま蹴りでも加えようとしたが軽く避けられる。ベリアルは乱暴に動かしてお返しとばかりに左を振るうがそれはシールドの端を切り取って終わった。
流れが、また変わった。
【悲報】刀、脆かった。
まぁ、それでもここまで耐えたユウ、特に影ながら援護したアンドラスが化け物なんですけどね