距離を詰めようと思っても射撃が得意な為そのモビルスーツはほぼ同じ速度で逃げていく。
距離は全く変わらず、不思議が空間を形成する。
強くなった。心の中でそう感じた。最初の頃、地球外縁軌道統制統合艦隊に雇われた身として鉄華団を攻撃していた時、同じく鉄華団に雇われたであろうガンダムが目の前に立ちはだかった。その頃、使っていたシュヴァルベグレイズカスタムもそこまで強いとは言えず、そして未確認のガンダムフレームということで不利だった。それでもそのガンダム、アンドラスというモビルスーツを圧倒し続けた。結局、数が少ないあちらが俺に対して数で圧倒するす戦い方を取ってくるようになった。勿論、あの頃のユウ・タービンも弱いわけではなかった。あの頃から自分の才能を理解して、それに見合った努力を感じた。ニールを倒す程力をつけるのにそこまで時間はかからなかった。
そしてそれから2年後。彼は単身でモビルアーマーを討伐した。ハシュマルという天使長の位につくモビルアーマーだ。狙撃手としては名を馳せる彼が、1人で討伐したのだ。イレギュラーな事だったが逆にそれが嬉しく感じられた。メインカメラを輝かせて、小回りがきいた機動を見せるアンドラス。遠目に見ても弾く自信が湧かない上にその全てが敵の弱点を捉えた射撃。その一撃一撃がまるで自分を狙っているように感じた。それから少し経つととある戦いでアンドラスと1対1で戦う事になった。その戦いにて討伐する対象が彼の家族だったのだ。彼は自らの思いを真正面からぶつけてきた。感情が籠るあまり力んでいたが、それでもその射撃スキルは健在だった。
これだけ戦って見てわかる。彼は最初、自分の才能を磨くことしかしなかった。それが悪いという事ではない。無理なことを永遠とやったところで無理なものは無理だ。それなら伸びる才能を伸ばせばいい。それは事実だ。しかしそれだけで戦えるほど戦場は甘くない。もしこれがスポーツだったら彼は最初から全く成長しなかっただろう。そして俺に負けて地べたを這いずるだけだった。しかし彼は自らの弱点を覆い隠す、そして自らの射撃を生かせるスキルを身につけた。これまで自分の剣技を抑えたシールドだってその1つだ。自慢ではないがこれほどの速さで刀を振るえるのはこの世にいないと自負している。それだけではない。防がれた場合のカバー等の技術も自分を超えるものはいない。しかしその時彼はそれを防ぎ続けた。シールド本体の傷を抑え、それごと斬られないように気をつけながらも全てを防いだ。
その結果刀を1本折られてそしてスラスターのガスの無駄遣いによるガス欠を誘っている。
これを行うことは容易ではない。ただでさえ、ギャラルホルン最強である自分の剣技を1度防ぐだけでも勲章ものと言っているギャラルホルン兵が多いのに対し、それを防ぎきり、ライル・バレルというパイロットを調べ尽くしている。そうでなければここまで出来ない。
本当に彼と向き合うと自分が死ぬのではないかと考える。射撃スキルも彼以上の物は見たことない。というか彼の行為こそが普通では考えられない技術の集合体なのだ。モビルアーマーすら真似は出来ないだろう。それ程なのだ。
10年振りに背中から冷や汗をかく。
でも死ねない。家に帰れば家族がいるのは自分も変わらないのだ。これが終わったら実家に帰る。いままで積んできたものを卸して楽になろうと決めたのだ。それに...彼女の願いもある。
今でも瞳を閉じれば思い出す。透き通った声。陽の光を受けて輝く金髪。傷一つなく、綺麗な色白の肌。
━━ありがとう。ライル。
片時も忘れることの無い思い出。一つ一つの感情すらも鮮明に覚えている。彼女との大切な...どれだけ出されても替えられない大切な時間を。
そしてその願いを。
いつか、産まれや階級などで差別されない。自らの磨いた牙を使うことでのし上がることが出来る世界。彼女はそれを望んでいた。
それを彼女の変わりに実現する。その為に自分の全てを使う。そうしてきたのだ。俺は牙だけでのし上がっていると証明するために敢えて力を誇示する。人々が考える。悪になりきり、結果的に自分を除く部隊の結束を深めながら、牙を磨けば上に上がれるということを証明した。アメリアやクーデリア等今になってソレを望む人が出てきた。後は彼女達に引き継いでもらえばいい。
後は彼女達を守ることだけだ。アメリアに至ってはこの戦いさえ切り抜ければ後は自分がいない方がいいだろう。悪魔が抜けることで残ることはライル・バレルという最強のパイロットがいた事だけだ。そちらの方がアメリアとしては悪い印象を持たなくて済むだろう。そうすれば彼女の願いを叶えられる確率が高くなる。
その為にもこの戦いには勝たなくてはならない。そしてアメリアだけでも守らなくてはならない。強くなった
「やりたくなってみた」
案は一つだけある。アメリアに止めろと言われた、阿頼耶識の最後の段階。
リミッター解除。厄祭戦、特に四大天使討伐時は当たり前のように使われた手であるがそれは最早欠陥品だ。出力が正常値を大きく上回り、どこに隠していたのか分からないがスラスターのガスの心配もなし。まるでエイハブリアクターを弄ったようなものだが、その代わり、パイロットの神経を取っていくらしい。どのように、何故等分からない点が多すぎるが実際そうなのでなんとも言えなかったらしい。
どうせ自分がつけている阿頼耶識も同じようなものなのだ。
ある時はモビルアーマーに反応すると自動的に働くようにしてしまうプログラムも組み込まれたらしいがギャラルホルンの技術なら外せるらしく、実際ヴィダールとベリアルは外れている。とはいえ、使えない訳では無い。使おうと思えば今でもリミッター解除して身体をぶち壊しながらアンドラスの解体ショーを繰り広げることが出来る。磨きに磨いた牙として人の目に映るか。それとも、狡をして力を上げたイキリ野郎として映るのか。
まだアメリアの元にいるのでそこは少し問題だ。アメリアは部下に無理矢理リミッター解除させて勝利したとなれば悪いイメージもついて行く。それではわざわざ自分が辞める意味が無い。いやしかし、力こそが正義な世の中ではその事も闇に葬られて、アメリアは有能ということだけが残る。都合のいい考えたが、ここで負けては元も子もないためこれしかない。
「おい、ベリアル。お前の力はこんなもんじゃないだろう?もっと、もっとよこせ。セブンスターズを大きく超える...」
ガンダムはまだ限界を超えていない。
パイロット保護なのか、力を持て余して暴れるのを防ぐ為なのか。その真意は分からないがそんなものどうでもいい。自分にそのリミッター解除が行えれば。それだけで
英雄達と同等若しくはそれを超えるということなのだから。
「お前の力を」
悪魔の眼が紅く輝いた。
アンドラスとベリアル。
お互いに自分の強さを相手に削られ続けたため、残りの手段まで削られないように温存している。残りの手段といえど、それのみで仕留められるとは思っていない。お互いがどれだけの強さか分かっているから。それだけ戦ってきた相手だから。とはいえ、ここで一瞬でも気を抜けばその瞬間、気を抜いた方は魂をこの世から切り離すこととなってしまう。
結果、この状態だ。しかし、それなりの強さのモビルスーツパイロットならこの空間に進んで入ろうとはしない。入った瞬間味方に殺される可能性もあるから。それだけ貼り詰めた空間を形成している2人のエースパイロット。
とはいえ、二人ともこの状態を待っていた訳でもこの状態を作りたかった訳でもない。先程も言ったように(強いとも、確実とも言ってない)最後の切り札を温存しているだけだ。
スラスターのガスも、弾丸も、集中力も無限に続く訳では無い。
多数の外装を付けてフルアーマー化したアンドラスは長期戦が向いているとはいえ、追加装甲は全てパージしてしまった上、気を抜けば死に至る戦場において楽観は出来ない。そして今も、双方がいつ出すかいつ出すかと頭を悩ませながら距離を保つ。
その時僕はライルの切り札が僕の集中力が切れた瞬間に一瞬だけ加速して、攻めて斬ると思っていた。つまり、忘れていたのだ。阿頼耶識の、もうひとつの段階を。
「やりたくなってみた」
不意にライルがそう呟いた。お互いに集中していながらもその声はよく聞こえた。全く隙を見せずにそう呟いた。
頭があまり回らない状態だったため何も考用途しなかった。ただ、ライルが何かを呟いたという情報だけが頭の中に入った。
そしてベリアルが一旦離れる。先程まで、一瞬で詰めれないギリギリの距離を保っていたので詰めてくるのではなく、逆に離れたのは予想外だった。
その時におかしいと思ってももう遅い。まだあいつは諦めていない。
ベリアルのメインカメラが、人で言う眼にあたる部位が紅く輝いた。紅い光が尾を伸ばす。
大きさも何も変わっていない筈なのに、大きくなったように見えて圧倒される。
「なにこれ...」
集中力を保ちながらもその覇気に押し潰されないようにとりあえず声を出した。しかしその声も掠れていて、力がない。頭に浮かぶのはアグニカ叙事詩に書いてあった阿頼耶識のリミッター解除。
しかしあれは高度なスキルな上に自分の身体を壊してしまう代物だ。もし使えたとしても、もう戦わないと言ったライルが使う手ではない。
何故その存在を知っている。そして何故それを今使う。どうやって戦うかという事を考えずただ頭に浮かぶのはライルがリミッター解除を行ったことを考えていただけだ。
戦場にて余計な事を考えることは思考を放棄しているのとあまり変わらない。つまり、先程までギリギリで保っていたのもが限界を迎えたということだ。
その瞬間、穴が空いた左側の盾が真っ二つに斬れた。綺麗な切れ口で真っ二つに切断された。防ごうと思う前だ。思考が別の方向に行ってしまったからと言っても流石に速すぎる。それほどにライルが反射神経、ベリアルの反応速度が速いということだ。
その衝撃で目が覚める。
確認できない速度で斬られた盾。斬られたからか、盾が朝って方向へと行く。今更拾っても防御性能は望めないだろう。ライフルも若干掠っているのか傷が見える。
目だけを動かしてベリアルを追う。その姿は確認出来なかったが一瞬の殺気を感じ、バック転の要領で回ると先程までコックピットがあった部分に刀が突き出ていた。一回り大きく感じる刀。二刀流では無いため、二連撃目は遅いだろうと踏んで脚でその刀を持っていた右腕を蹴り上げる。
「右か!」
自分が折った刀は右の刀。つまり、先程の見えない間に左で持っていた刀を右に移動したということになる。マニュピレーターが故障した訳では無い。恐らく、右利きなのだろう。今考えてみれば剣が1本だった時も右で持っていた。
ベリアルの右腕に渾身の蹴りが決まる。それは申し訳程度に2機の距離を離し、ベリアルの姿勢を同じく申し訳程度に崩した。
瞬間的に左側にライフルを構える。狙いは右腕。この距離では外すわけもない。躊躇い無く、引き金を引く。しかしベリアルが引き金を引いたとのとほぼ同時に右側に避けた。疲れたのかボヤけてきたその姿を確認してシールドを構える。でも、普通に構えるだけではダメだ。先程斬られた盾を思い出す。ボロボロになるまで打ち合った盾とはいえ、あんなにも簡単に斬れるなど想定外だ。いや、簡単ではない。物を切るという行為そしてそれを無重力で行うこと。それだけで相当難しいのだ。しかしライルはそれを簡単に行うパイロット。彼が阿頼耶識のリミッター解除をおこなったということは完全にこちらを切り捨てる気だ。
「だからって...そこ!」
ライルの方も盾と向き合うのは避けたいようで盾を構えると回り込もうとしてくる。確かにその速度にまだ慣れていないのでそれは有効打となる。
何度もベリアルに向けて撃っているのに1発も当たらない。全て弾が見ているように避けられる。
しかしそんなことは無い。そして、タイミングが読まれているということも。
あれだけの速度で動きかながらも銃口から目を離さずにいる。
射撃が当たらないのであればもう何にもできない。このままベリアルのガス欠を狙いたいがこの状態では上手くいかないだろう。となれば勝てる可能性があるのはただ一つ。この速度に慣れるしかない。
ただでさえ、この戦いでベリアルの二刀流に慣れるのに相当な時間を要した。それもアンドラスをフルアーマー化して、防御重視にしたため耐えられただけのこと。しかし今はその防御性能も半減所ではない。追加装甲は全てパージしてしまい、シールドも一つ失った。
耐えられるはずがない。万事休すか。
そう思った瞬間、目を離さなかった筈のベリアルが視界から消えた。シールドを構えると強い殺気を感じた。振り向くと後ろにベリアルが刀を構えた状態でいた。後ろを取られていた。
自分の反応が遅くなっている。そう気付き、スラスターを一瞬だけフルに使って前に進む。刀を振れば当たる距離にいるのでとりあえず前に進まないと斬られるからだ。後ろを見ずに左のライフルでベリアルがいたであろう位置に向けて撃つ。手応えはなかったが、それで下がってくれればと思って撃つ。その間もベリアルの反応を探す。
音がした。金属が奏でる、美しい音。しかしそこには何か嫌気を感じた。
「しまっ──」
気づいた時には遅かった左のライフルが解体されていた。先程のフェイントにまんまと乗ってしまったのだ。
そして反射的に振り向いたのも間違いだった。
嫌な音がした。
まるでナノラミネートアーマーを貫くような。まるで何かが人体を貫くような。骨が砕ける音、筋繊維が裂ける音、限界を迎えた筋肉がちぎれる音。
おそらくはそれだろう。頭から何かが落ちた。赤い液体。血だ。
それと共に自覚する痛み。それが全身を貫く。声も出せずにそのまま。
何かが消えた。
ユウが死んだ!この人でなし!