それに大切なこともありますしね!
目の前のグレイズをパルチザンで器用に解体する。その感覚を身で覚えながらステックを握り直す。全てを忘れてはいないようで安心した。
そのまま、接近して来たモビルスーツ2機を一瞬で仕留める。
反応はお世辞にも良いとはいえないが、モビルスーツとして最低条件は満たしているモビルスーツだ。
スピナロディ・リペア。市販機であり、モビルスーツとして最悪な状態だったものを改造したものだ。それでも獅電やグレイズのレベルには届かず、こうして強くもないのに扱いずらい機体となっている。本当に何故とこのモビルスーツを用意したのかが謎だ。これを置く場所があるのなら、ライフルを二、三丁置いた方がマシかもしれない。それでも今こうして戦闘に勝っていることを考えると結果オーライなのかもしれない。
でも、これでも完璧という訳では無い。機体も良いものとは言えないがそれは身体も同じ。医者に戦闘はするなと言われているこの体で何処まで動けるか。身体に負担がかかると言えば高速戦闘だが元々、この機体はスラスターをフルに使っても高速戦闘にはならないため、心配することは無い。でも、被弾などにおける衝撃の感じ方は一般のパイロットより酷いはずだ。楽観視は出来ない。被弾は出来ない。した時には命を投げ出すような物だ。戦場にいる時点で賭けではあるが生き残りたいのは皆同じだ。死ぬ目的で戦場に行くものなど一番最初に死ぬ。
そう思いながらライフルで牽制する。おそらく相手もこちらの狙いにはもう気付いているだろう。敵の頭を狙っているということを。なのに当たりが弱い。まるで行ってもいいよと言っているようだ。罠が仕掛けられているのかもしれない。しかし鉄華団の
「ああ、母さんどうし...」
「なんで来てるの!エスト!」
「イサリビで待ってろって言っただろ!なんで出てくるんだ!それもこのモビルスーツで!」
高くなったてきたテンションを一旦抑えて言うと辟邪のパイロット、ラフタとアジーはそう言って軽く突いてきた。お仕置き的な感じなのだろう。衝撃としては耐Gの為に何も来ないが。どちらにしろお怒りのようだ。二人とも自分の身体を心配してくれているというのは分かる。それに乗機がこれではもっと心配させるような物だ。多分だが自分よりラフタやアジーの方がこれのやばさを知っているのだろう。
今更なんでこのモビルスーツに俺が乗っているって分かった?等は不要だろう。
「あーいやーごめん。でもさここで落とされたら元も子も無いし」
結局これなのだ。勿論みんな危険だしーとか、自分が燃え上がりそうだーとかなんとかあるが結局これだ。ここでイサリビが落とされてはみんなおしまいだ。マクギリスも尻尾巻いて逃げて、鉄華団と
一見残酷かもしれないがそれが普通だ。それが戦場だ。今更それを悔いる気はさらさらない。
「...わかった。付いてこい」
「アジー!?」
その想いが伝わったのかアジー母さんがイサリビの先頭を指す。するとそこにはもうボロボロになったギャラルホルンのハーフビーク級の戦艦があった。イサリビの中にいても作戦は分かっている。その戦艦を盾にして特攻。適当なところで切り離し、イサリビは撤退。その後、切り離した戦艦からフラウロスがダインスレイヴを放つ。
賭け事をしているような感覚に陥る作戦だがこれが一番いいと言うのはあながち間違ってないのかもしれない。ダインスレイヴは1発しかない為、アリアンロッドみたいに物量でなんとかすることも出来ないし、フラウロスのパイロットがあの位置から射撃しても当たるとは思えない。ならばギリギリまで近づくのがいいが、それだとアリアンロッドの部隊に押しつぶされる。となれば可能性が高いものといえば高速で突っ込んで畳み掛けるしかない。
「駄目だって!そんな身体でマトモに戦えるわけないじゃん!」
ラフタには想いが伝わってないという訳では無い。ただ心配しているのだ。自分の身体がここで壊れてしまうのを。それ相応の覚悟があるのでいいかもしれないが、やはり心配なものは心配なのだ。
「なぁに。死ぬかよ」
この一言で安心できるとは思っていない。でも焼け石に水であろうが期待はしたかった。ラフタも若干不満そうだが引き下がってくれた。彼女の為にもここでは死ねない。
アジーについて行き、先頭の戦艦に立つ。そこには数えきれない数のグレイズとレギンレイズが武器を構えてこちらに射撃を行っていた。
これだけ砲撃を受ければこの戦艦も長くは持たない。切り離す前に使えなくなるのがオチだ。
つまりは護れということなのだろう。身体がボロボロであろうと出てきたのだから働いてもらうと。
「行くぞ」
良いだろう。受けて立つ。
そう思いながらパルチザンを伸ばして、ライフルを乱射させた。数機のグレイズに当たり、減速した所にパルチザンを嵌めて潰す。振るう瞬間にパーツが弾けてフレームが曲がる。
近づいてきたレギンレイズをラフタとアジーが狩りとる。それもとてもスムーズで心配しなくてもいいレベルだった。
それを見て安心しながらもテンションを抑えようとするのを止める。堪えられなかったら笑いが零れる。
「ふふふ...アハハハ!ハハハハ!雑魚どもが!これくらいでポンポン倒れるなんてさぁ!」
言葉は荒ぶりながらも狙いは外さずにレギンレイズを一撃で仕留める。ゆっくりと、しかし着実に上がっていくテンションを抑える力を持とうとはしなかった。
そうしている間も、最後の一撃の時は近づく。
「ノルバ・シノ!流星号!行くぜオラー!」
全身を貫く痛み。痛覚以外何も感じなくなる。何に身体が触れていのか分からない。まず、身体があるのかすら、分からないのだ。声も出せない。
「────!!」
身体から出てきて自由になった血が無重力だからか浮かぶ。視界が赤くなり、そして狭くなる。アンドラスからのアプローチが消えて、自分だけが一人取り残される。
痛みに悶えながらも自覚した。ああ、僕死ぬんだと。
みんなに生きて、帰ってきてと言われたのに。父さんたちに心配させないために強いからと言ったのに。
まだ心残りはあるのに。
戦場がそれを許さない。そんな簡単に認めてくれない。辛い。それがただただ辛い。死ぬことは怖くない。死んでしまうことでみんなと離れることが怖い。
ジョーカーも、死ぬ時はこんな感じだったのだろうか?今となっては彼も懐かしい。自分が生きるために切り捨てた存在。せめて自分も死ぬことでみんなが生きてくれればと願う。それだけでいいのだ。それだけで。みんなが、家族が平和に、危険もなく、いつまでも笑って暮らすことが出来ればもうそれでいい。ずっとそれだけが欲しいのだ。それ以外のものなど、その為の道具に過ぎない。
しかしそれを成すことが出来なかった。兄に、エストに全てを託すしかない。父さんの覚悟を踏みにじったというのに。本当に僕は救えないクズだ。
そう思うこともおそらく、走馬灯のようなものなのだろう。
最後までどうでもいいことを考えてしまう自分が嫌になる。
ああ...時が見える。真っ赤な視界に何かが輝いたので勢いのまま、意味の分からない事を考えながらそのまま身を投げ出そうとした。
いや、元々しなくてもこの身体は死に絶えているはずだ。身体を貫かれた人間がそこまで長い時間生きていられるわけがない。
では今誰がこれを考えているというのか。天国、いや地獄というものが本当にあるということか。そしてそこは真っ赤な世界でコックピットによく似ていているのか。
そこで違和感に気づく。まるで魔法が溶けたようにハッキリと。
「い、きてる...?」
思ってみれば身体を貫かれたりした感覚のわりには血も少ないし、身体どころかコックピット内部に刀は入っていない。
痛みも引いてきて、頭がゆっくりと回ってきた。世界に色が戻り、広がる。
操縦桿から手を離していた事に驚きつつも、この状態に混乱する。何が起こったのか分からない。
─どう?死んだときの痛み、想像を絶するものだと思うけど?
そこに頭の中に声が聞こえてきた。何年も聞いてきた女性の声。アンドラスだ。先程までアンドラスからのアプローチは途絶えたはず。なのに今になって復活するばかりかまるで自分がこれを与えたかのように言う。
「アンドラス...?」
モニターを見ても何も見えない。真っ暗な宇宙が広がるだけだ。しかし死んだ訳では無いということは直ぐにわかった。ここはアンドラスが連れてきた空間であるということを。
━気がついた?この馬鹿、無理して
何がどうなっているか不明だが心配をしてくれたようだ。おそらく生きていると思われるのも彼女のおかげと見て間違いない。
操縦桿やモニターがゆっくりと薄くなり、無くなる。コックピットから投げ出されたような感じになり、すべてが消えたらいつから出来たのか白い床の上に立っていた。
見渡す限り白い床。地平線の方までそれが見える。白いと言っても現実の白い床とはかけ離れている。光っているのだ。本当に現実から切り離された感じがする。
知っている。僕はこの場所を知っている。どこかで、見た、大切な思い出のはずだがよく思い出せない。
痛みも完全に消えて何も無かったように成るが、結局何が起こったのか分からない。
とりあえず歩いてみる。足場はしっかりしているようで足音も聞こえる。つまり、聴覚も戻ってきたということ。
すると後ろから気配がしたので振り返る。そこには1人の女性がいた。黒い髪を伸ばし、白いワンピースを着ている。見ているだけで吸い込まれそうな翠色の目をしている。ネックレスを付けていて胸の辺りに指輪が通っている。自分と同じく細身の女性だ。
「アンドラス」
「...今どうなっているか、分かる?」
細身の女性、アンドラスは口を開いた。そして声を出した。その声は今まで僕の頭の中で響いてきた声だが、それを耳でききとれることが素直に嬉しい。
アンドラスの質問についてだが全く分からない。が正解だろう。僕はあの時、死んだと思った。コックピットを貫かれて。自分が敵モビルスーツのコックピットに弾を入れるようにぐちゃぐちゃに殺されたかと思った。しかし身体はしっかりあり、今この場に生きている。
訳が分からない。彼女が自分に夢を見させているようなものだろうか。ならば直ぐに覚まして欲しい。戦場で寝ている時間はない。
「半分合ってて半分違う。ここは貴方の中。貴方の中にあるもうひとつの意識を弄っただけ。だから戦闘中でも影響ないから安心して」
全くわからない。アンドラスの言っていることは意味不明というか理解しようもないが、とりあえず戦闘に影響がないのならいい。地味に心を読まれた気もするが相手はアンドラスなので、今はそこまで大きな問題ではないだろう。しかし大きな問題がもうひとつある。何故、アンドラスはここに自分を導いたのか。無事であるならばそのまま戦闘続行にしておけばいいものを。わざわざ僕を弄ってまでここに引っ張った。
「じゃあわざわざ僕をここに呼んだ理由は?話がしたいからって訳じゃないよね」
アンドラスを指さしながらそういう。
するとアンドラスはくすりと笑いながらゆっくりと頷いた。
「当たり。そもそも貴方、さっきの攻撃をかわせたとでも思ってるの?」
当たりと聞いた時には怒りたくなったが、その続きを聞くとその怒りが急に覚めた。つまり自分では無理だった。防ぐことも、かわすこともできなかった。では何故ここにいるか。死んでいる訳では無いとすると、アンドラスが動かして防いだとなる。そのミスをした僕に対して何かあるのだろう。
「僕を叱りに来たのか?わざわざ?」
「本題は違うけどね。言ったでしょ?ここは貴方の中だって。叱るなら普通に声をかけるわよ。でもね、そんな余裕そもそもないでしょ?」
アンドラスの考えが読めない。まず叱るということも今まで無かった。そんな乱暴な戦いをした訳では無い。確かにアンドラスがいないと死んでいたのかもしれないがそれは結果論だ。今更あーだこーだ言う必要性は無い。まずミスをする度に呼びつけては僕の精神は耐えられないだろう。この経験は1度もない。アンドラスがいないと死んでいたことなんて数え切れないほどある。つまり、叱りに来たということ事態がおかしいのだ。
アンドラスの考えていることが分からないことは何度かある。いままではまあいいか。で済ませてきたが今回こんな場所に連れ込まれているのでまあいいか。では済まされない。本当に理解しなければならない時が来た。
「アンドラス、君の目的はなんだ」
「...じゃぁ言ってあげる。貴方、生きる気ある?」
アンドラスの言葉に思わず口を紡ぐ。まさか彼女は僕が死に場所を探していると思っているのだろうか。
死にたい訳が無い。姉さん達を悪いやつから守るには絶対的な力が必要だ。暴力だけでなく、権力、気力、威力、実力、活力、勢力。それを手にする為に戦っている。もし僕が途中で死んでも大丈夫なように。だから父さんが築き上げて、僕が壊してしまったものを築き直すんだ。あわよくばそれよりも積み上げる。それこそが僕の存在意義なのだから。それ以外の理由なんて無い。要らない。それを積み上げるもの僕の手元には何にもない。みんなが優しすぎるから僕はそれに甘え続けていた。だったらいままで与え続けてきた愛を返さなくてはならない。それがその時なのだ。
「貴方はなんにも分かってない。タービンズのみんなは貴方に死んで欲しいなんて微塵も思っていない」
「わかってる!わかってるよ!けど、命投げ出すくらいしないと僕が生きる意味がないじゃないか!」
僕が犯した罪にはそれ相応の罰が下るべきなのだ。本当ならそこで僕は死ぬべきだった。生きたいとか死にたくないとか関係なしに、死ぬべきだった。しかし何も積み上げてない僕はここでまた甘えた。父さん達が積み上げたものを崩したのだからそれを直せばいいと。そう許しがでたのだ。みんなに甘え続けた結果まだ甘えることしか出来ない自分が嫌になったがそれでもタービンズにはどちらの方がいい影響を及ぼすかと考えて自殺するほど、僕は馬鹿ではない。死ぬのはまだ早い。せめて父さん達が積み上げたものを戻してから死ぬなり、傭兵になるなりすればいい。
それが最適解なのだ。それこそが本当の正解なのだ。何が違う?何処が、どう間違えているのかがわからない。
「そうやって間違えたら死ねばいいって自分勝手な考えは止めなさい!」
「違う!僕なんて、いない方がいいんだ...だってそうだろ?僕がいなければ僕があの時父さんと母さんの気持ちを理解していたら、今頃姉さん達はここにはいなかった!戦争なんかせず、歳星でゆっくりすることも、運び屋の仕事をすることだって出来た!」
いない方がいいのに、必要ないのに。そんな物が沢山の人を救ってきた父さんや母さんの意志を踏みにじったのだ。そんなこと許されていいはずがない。許されてはいけないんだ。だから罰として自分の命を差し出す覚悟だってある。だからライルに自分から仕掛けて対戦を挑んで、そしてリミッター解除まで追い込んだ。
リミッター解除は予想外だったがこれこそが僕の答えだ。今更アンドラスに言われたところではいそうですかと言う訳にはいかない。
「なんで許して欲しいって言えないの?」
「言ったって何が変わる!何も変わらないじゃないか。行動に起こさなきゃ意味ないだろ!そもそも、許してもらう貰わないじゃない。義務だ。僕が命を投げ出して姉さん達を守るのは義務だ。権利じゃない!」
やらなければならないことなんだ。自分で自分を強制するしかないんだ。
確かにこれだけで姉さん達が僕を許してくれるとは思わない。普通なら何を行っても許されてはならないんだ。命を投げ出し、苦痛を味わい、死ぬことより嫌なことを味わい続けなければならない。それが罰だ。
いくら謝罪に誠意があった所でその罪がなくなる訳では無い。父さんも母さんも帰ってこないのだ。僕の弱さが殺した。その罪は、計り知れない罰が必要だ。
「タービンズのみんなは貴方に名瀬さんをやって欲しいわけじゃない!名瀬さんを求めているわけじゃない。もう彼女達は弱くなんてないじゃない。貴方が命を投げ出すことで悲しむのは誰!敵?赤の他人?違うでしょ?積み上げたところで貴方が死んでは水の泡よ」
「だからそうなってもいいようにしているんだろ!」
父さんも自分が死んでいいように準備していた。結果的には僕が壊してしまったのだから意味はなくなってしまったが、本当なら僕やエストにその代を引き継ぐ筈だったのだ。それだけ準備していたというのに壊してしまったことを悔いながらも、それと同じものを積み上げて最悪僕が死んでもエストやほかの兄弟に引き継ぎ出来るようにしておくべきだ。それもちゃんと考えている。
「だから貴方まで死んでみんなを悲しませてどうするの!」
「そんなのいいよ。僕がいた事なんてすぐに忘れられる。そもそも邪魔者はいない方が...」
いい。そこまで言おうとした時だった。アンドラスが直接殴ってきたのだ。それも拳骨で。感情がこもっていた為避けられると思ったが何故か身体が動かずにマトモに食らった。まさか殴られると思わなかった事が理由のひとつだが他にもありそうだ。アンドラスに殴られたのは勿論今回が始めてだ。
殴られた反動で飛ばされた所に襟首を掴まれて引き起こされる。ラフタに首を絞められるより、痛く、苦しい。
仕返しをしようとしても身体が上手く動かない。ここがもし、アンドラスの作った空間なら僕の身体を動かないようにしたのだろうか。そんなこと想像出来ないが、おそらくそうなのだろう。そうでなければ何故、動かないか理由がつかない。無理なんだ。
そう思っているとアンドラスが一際強く襟首を持ち、首を絞める。
「...どうして」
抵抗しようとするがアンドラスの声でそれが自然と止まる。何故か抵抗をしてはいけないように感じた。誰かに言われた記憶もない。それよりも急に首を閉められて抵抗しない方がおかしいのだが。別にそれが気持ちのいいものでは無いことなど誰の目からも明らかだ。なのに、手が出ない。アンドラスが何かをしたということは間違いではなさそうだ。そう思いながら視界から外していたアンドラスを見る。
「どうして変わってしまったの...」
アンドラスは悲痛な表情をして僕を見ていた。目頭が赤く、その目はからうっすらと涙らしきものが見える。
その表情でこの身体が動かないのはアンドラスのせいじゃないと分かる。おそらく、心のどこかでまだ甘えているのだろう。それがアンドラスを殴っては、アンドラスの言葉を否定しては駄目だと言っている。まだ、甘えているのか。他人に対して悪い影響しか与え続けなかったと言うのに。まだ、まだ甘えるというのか。自分が嫌になる。
「僕も大人になったんだ。もう...君と会った頃の僕じゃない」
「みんなそう言って、私から離れた。あの子だって...だから...」
あの子とは誰だろうか。おそらく厄祭戦時のアンドラスのパイロットだろうが、アンドラスはその話を進んでしようとしない。此方もわざわざ傷を掘り起こすつもりはないので聞こうとはしなかった。
その時の気がついた。アンドラスがここまで感情豊かな理由。それを僕は知らない。最初は小さい頃だったので全てに感情が宿っているのが当たり前という意味のわからない考えをして、アンドラスの意識があることを普通として生きてきたので考えようとはしなかった。そういえば、アグニカ叙事詩には悪魔が宿っていると書いてあった。では、その悪魔は何処から来る。それにアンドラスのこの感情は悪魔的イメージとはかけ離れている。
何がどうなっているのかが分からない。
「大人って無責任ね。他人の為に行動しているように見えて自分勝手。そうでしょ?今の貴方がいい例よ!そうやって他人の気持ちを考えないで!」
アンドラスの目から涙が零れる。
その彼女を見てやるせない気持ちになりながらも、こんな所で曲げる訳にはいかない。
アンドラスの手が緩んだところでアンドラスから数歩離れて叫ぶ。
「そうだよ...そうだよ!身勝手でさ!自分のやりたことしかやらない!他人から奪うことになんの感情も起こらない!人の事しらないで勝手に戦争おっぱじめて、好き勝手に人を殺す!でもね、それが人なんだ。子供とか大人とか関係ない。ただ、大人になったことで考えてそれを行おうしたりするだけだ!」
世の中は残酷だ。救いなんてない。神の手なんて殺傷道具にしかならない。欲望があるから人は成長出来る。しかし、その欲望に知識が加わることで他人に不幸を与えたり、することが出来る。
動物は殺し合いしないと、人間の戦争より動物の喧嘩の方がマシだと誰かが言った記憶がある。それが証拠だ。他の動物だって人間並みの知能があれば争う。時には殺し、その結果で強くなる。絶対的な力は他者を食い散らかし、経済的には貧富の差を産む。その中に優しさなど儚いものは消え去ってしまう。それほどに人は、獣は、欲望が強いのだ。
それが人なのだ。今更何を言っても、何をしても変わらない。それが人だ。
そして僕は人だ。だから人でいさせてくれ。儚い優しさで僕を塗りたくって美しい物にしないでくれ。
「だから死ぬくらい僕の勝手にさせてくれよ!...いままでありがとう。アンドラス」
アンドラスには感謝している。何度も命を救ってもらった。精神的も、ひとりじゃないことは支えになった。狙撃する時には観測手になってもらったり、僕の心の支えだった。
しかし今はそれを否定する。僕はアンドラスじゃない。アンドラスにはなれない。
もう彼女のアプローチはいらない。最初に決めた通りにライルと戦い、ライルには勝てなくても戦争に勝つことでテイワズの中でのタービンズのイメージを上げる。そしてマクギリスを利用してタービンズの力を上げて、父さんと母さんが積み上げて、僕が崩してしまったものを積み上げる。
それだけ。それだけ出来ればいいのだ。
最初から決めている。後はここから出よう。彼女との別れを告げて、本当に1人で、ライルに立ち向かおう。最後まで戦い切ってやる。
そう決めて、アンドラスに背を向けた時だった。
「だったら自分の気持ちに正直になりなさいよ!」
彼女の叫びが聞こえた。
本当は僕だってそうしたい。だけど許されないことなんだ。それが罰だから。正直にはなってはいけない。僕はもう、人として扱われることを否定される。タービンズの中で単純な暴力を使う化け物、悪魔。それがいいのだ。そうでなければならないのだ。なのに、未だにわかったと言いたい自分がいる。甘えている自分がいる。それが嫌だ。もう断ち切った筈なのに今更そこに戻るなど許されない。
「言ったでしょ!それは許されちゃいけない!これが僕に下った罰だ!」
辛くなければ罰である意味が無い。苦しくなければ罰である意味が無い。あれだけの罪を犯した僕が簡単な罰では許されない。そんな勝手なことは許されない。
僕は1人だ。1人で堪え続けて執行されなければならないのだ。
アンドラスに背を向けたまま歩き出す。このまま歩けば元に戻れそうだ。ライルとの戦いに戻れそうだ。これは間違いではないと証明できそうだ。
アンドラスはその場から動こうとしない。僕を止めようとしない。それでいい。
今度はもっとマシなパイロットを探せよ。
最後にそう言おとした時だった。
「それくらい!じゃあそれを!私にも背負わせなさいよ!お前も背負えって言いなさいよ!」
アンドラスの言葉に思わず歩が止まった。歩き直そうとしても足が動かない。アンドラスに抵抗しようとした時と同じだ。弱い僕がアンドラスの言葉を肯定している。甘えている。
「...このっ!動け!動けよ!まだ甘えるのかよ!僕は!」
必死に足を動かそうとすると引きずってでも、這ってでも動かなければならない。そう思うのとは裏腹に足はピクリとも動かない。結局そこで倒れる。
そこにアンドラスがゆっくりと近づく。
来るな。来るな来るな。もうお前とは別れた。僕は1人だ。
そう言いながら必死に身体を動かそうとする。しかしその時には手の指すら動かなかった。
「貴方が戦うのは、貴方が1人じゃないからでしょ?その背中の後ろに守りたい家族がいるからでしょ?なのに、生きるのを諦めるなんておかしいよ。貴方を、子供に死んでもいいなんて言う親が世界の何処にいるのよ...」
「アンドラス...ああ...」
涙を流しながらアンドラスが後ろに座る。ゆっくりと僕の身体を起こして、そして抱いた。温かい、生命の温度。それが身体を温める。
「重いものなら一緒に背負う。みんなでそうしてきたでしょ!今になって...じゃあ1人で背負うなんておかしいでしょ!1人にさせるなくらい怒ってみせてよ!」
「でもこれは僕のせいなんだ。僕が...!...あっ...」
その時白い床に涙が落ちているのに気付いた。これはアンドラスじゃない。僕だ。僕が泣いているのだ。アンドラスの言葉で泣いているのだ。
「いつも一緒だから。ね?だって家族でしょ?家族なんだから、一緒じゃなくっちゃ...」
そう言ってアンドラスは僕を強く抱き締めた。その時許された気がした。
僕は1人ではない。その事実が、当たり前が優しい。
その時、声が聞こえた。記憶に懐かしい声。
「お前は強いんだろ?ユウ、見せてくれよ。お前達の力を」
父さん。僕の目標となり、家族の居場所になってくれた。
それと共に1つの光の玉が来る。
「なぁに大丈夫さ。あんたなら。いつもどうりにやりな」
母さん。僕の母親になってくれた。本当は母さんが子供が産めない体だということは知っていた。だけど、僕からしたら母さんは母さんなのだ。
また光の玉が2人の周りを回る。
「いつまでも泣いてんじゃねェ。負けたら、その時はその時だ。やるべきコトをやれ」
「大丈夫だよ──キミならきっと」
「アンドラスを...お願い」
それだけではない。聞いたことの無い男女の声が聞こえた。数えきれない量の玉が身体中を回る。
その光はとても温かい。これが道を照らしてくれる。迷うことは無い。
今なら行ける気がする。今なら、2人なら。
「行こう、アンドラス」
そして目を閉じた。この光があれば迷いはしない。自分の道を行くことが出来る。
みんなで。
目を開けるとやはりアンドラスのコックピットの中だった。ベリアルの攻撃はすんでのところで止まっている。アンドラスがベリアルの腕を掴み止めてくれたようだ。これで再開できる。
アンドラスの姿もないし、先程まで僕らの周りを回っていた光もない。
けど、1人ではないと確信できる。あれば夢ではない。
行ける。
深呼吸をする。そこにはまだアンドラス達の温かさがある。これで僕は強くなれる。
「アンドラス、一緒に行こう。僕らの限界を超えに」
アンドラスのツインアイが輝く。そしてベリアルと同じように線を描く。しかし、その線は阿頼耶識のリミッター解除をした紅ではなく、通常のアンドラスと同じ、緑色だ。
それと同じ瞬間にコックピットの中に温かさを感じる。アンドラスがやってくれているのだろう。安心出来る。
「こいつ...今の一瞬で何を!」
ベリアルから接触回線で伝わるライルの声から先程の現象が一瞬だったと理解出来る。でも、僕はその一瞬を非常に有意義に使えた。
「さぁ、終わらせよう。ライル」
ベリアルの腕を離し、その瞬間に蹴りを入れる。ベリアルが離れた瞬間にシールドをパージして残った2丁のライフルを両手にそれぞれ一丁づつ持つ。
ライフルの残弾はまだある。スラスターのガスも、少なくともこの戦いの間は心配しなくてもいい。
「そうだな。もう年だから身体も悲鳴を上げてきた。終わりにさせてやるよ」
2機のガンダムフレームはお互いに高め合うようにプレッシャーを放つ。だからか、止まっているはずなのに誰も襲ってこない。それどころか逃げる機体が増える。
まるで2人のために用意された空間だ。しかし、これは2人にとって都合がいい。最後を締める為に無駄な乱入は防ぎたいから。
そしてそのプレッシャーが切れたと思ったその瞬間に、2機のガンダムフレームは動き出した。
本当に亡霊達に愛されるユウ。
というかアンドラスの擬人化に騒いでくれる人がいると僕は信じる
とここまで熱い雰囲気出しといて次はアンドラスVSベリアルではありません。一応あれ影でやってるんで...グヴィディオンVSアリアンロッドです!