上手く行けば今日中に最終回やりたいですね。
「アンドラス!」
「ベリアル!」
お互いに限界を超えたガンダムフレームの機体。機体性能は同じと考えても良いだろう。つまり、ここからはパイロットの腕次第。
勝つのはどちらか、傍から見ている側にはその戦いを理解することは不可能だが、一刻も早く終わって欲しいと願った。
しかしそのパイロットには黒い塊が紅い線を出しながら動くのと白い塊が翠の線を出しながら回るものしか見えないが。
それでも強すぎるプレッシャーを感じた。
後ほど分かる事だが、運悪く近くにいたパイロットは気絶していたらしい。
両者のモビルスーツが高速で動ける場合、接近戦になることが多い。高速で動くことで射撃は外しやすくなるし、接近戦ならその移動のエネルギーをそのまま相手にぶつけることが出来るからだ。他にも、撃つ時に狙うという作業と撃った瞬間は止まっていないと銃身が壊れたりするというのもある。そのせいか、出力が大きいガンダムフレームは接近戦を好む機体が多い。このアンドラスも本当は汎用機なのだ。フラウロスのような射撃に重点を置いた機体は珍しいのだ。
「だからといって負けるつもりは無いけどね!」
みんなで生きて、帰るために。ここで負ける訳にはいかない。
ここまで来ると消耗などは考えない方がいい。時間が無いのだ。考える内容は少ない事に限る。短時間で必要最低限を思考する。
「勝って、帰るんだからな!」
そう言いながら、ライフルで射撃を開始した。勿論狙いはベリアル。それも、スラスターだ。刀は今から折る余裕はない。しかし、コックピットに弾を入れるにはどうにかして二重装甲、もしくはナノラミネートアーマーの厚いパーツを攻略しなければならないのだ。バリアが貼られているようなものだ。しかも人体の動きを忠実に再現出来る阿頼耶識は回避が非常にやりやすい。ガンダムフレームなら動きの無駄を無くすことが出来る。それにバエル宮殿にて戦った時に思った感想としてあいつは生身でも相当強い。つまり、阿頼耶識との相性はいいはずだ。では、どうするか。答えは簡単だ。阿頼耶識の影響がない部分を狙って戦力を弱くすればいい。生身の体にスラスターはない。
もちろん先程の銃身の件もある。あれだけの速度を誇り、阿頼耶識のリミッターまで外したベリアルは止まるわけないし、旋回も早い。というか銃口を睨まれている時点で
1度わかりやすく、ベリアルを狙う。予想通りベリアルはそこから離れて回り込むようにしてくる。そしてそれを追うようにした後すぐさまベリアルのメインカメラを狙って二発撃つ。その弾は吸い込まれるようにベリアルに当たった。これだ。
やはり幾らライルと言えども僕の気配は感じることはできないのだ。阿頼耶識のリミッターを外してもパイロットが変わる訳では無い。つまり、ある程度の常識は通用するという事。操縦の細かな癖も全く変わらない。予想通り次弾を警戒してベリアルが旋回した。そのまま狙う時間も与えずに突っ込む。
「早い!けど!」
銃身の問題があるので撃つ瞬間は前か後ろにしかいけない。それだけ動きが制限されるこちらに比べると接近戦は逆に範囲が広がる。不利なのはこちらだ。
ベリアルは刀が1本しかないので連撃はおそらく来ない。来るとすればスピードを生かしたヒット&アウェイ。
一撃を防げればもう一撃までの時間が開く。そこを突いてみるしかない。
そう考える間にベリアルの一太刀目が見えた。殺気で読み取ってからでは遅い。勘と反射で動くしかない。
「━━っ!」
「はっ!」
ギリギリまで引き寄せれば最低限の動きでかわせる。あと少し、それを読み取ろうとした事がミスだった。
かわそうとするがその対応が遅く、ライフルを一丁斬られる。アンドラスの動きと連動して斬れた破片が離れていく。
ギリギリなんて考えている場合じゃない。思考する時間は愚か。脳の指令が神経に到達するまでの時間ですから惜しい。剣先などは速すぎて見ることすら出来なかったのだから。
ベリアルを見逃さないように目で追いながらも離れる。しかしフェイントを仕掛けられて視界から消えられた。
「ど...」
━━上だ!
何処だという暇もなくて、頭に響いた音に従い、その場から離れる。そこにベリアルが通過する。おそらく狙いは残ったライフルだろう。これを斬られてはマトモな武器がなくなる。
しかしベリアルはまだ諦めずに急に曲がって追ってくる。
その速さは弾丸並みだ。
まだその速さに思考が追いつかないので回って旋回して避ける。
今度こそはベリアルから目を離さずにライフルで撃つ。狙いは変わらずスラスター。しかし、思考が遅いのか射線にベリアルが入らない。
━━遅いか!
━━反応は何とかする!貴方はデータを!
アンドラスから言葉が入るがその内容は理解不能だ。まさかプログラミングをはじめからやり直すということだろうか。
そんな事を考えている間にもベリアルはまた視界から消えて攻撃を仕掛ける。
視界から消えた瞬間にブーストをかけて記憶の中のベリアルがいた位置に行く。ここなら攻めては来ないので一瞬だけ安全だ。
今までの軌道はベリアルのカメラの光が教えてくれる。光が取り残されるほどの速度で動いているのだからベリアルの軌道は読める。勿論過去の軌道だが。
しかしその安全も一瞬でなくなる。ベリアルがアンドラスの軌道を読み取れないはずが無い。すぐさま大きく旋回して戻ってくる。
━━私と自分を重ねて動いて!
先程と同じアンドラスから声がかかる。しかし頭に入ってくる音が少ないからかその真意が読み取れない。
詳しく!と言いたいがその間にベリアルは2回以上は突っ込んでくるだろう。それだけの時間は取り残されてない。
━━操縦桿をはな...
アンドラスの音声が途絶える。その一瞬だけ操縦桿の感度が悪くなった。
まるでこれは必要ないとでも言うように。アンドラスが自分で動かすとでも言いたいのか。しかし、アンドラスなら素早い反応は出来ても大切なテクニックがない。その場合ベリアルとの鬼ごっこが始まるだけだ。
それに抵抗しようとした瞬間をベリアルが逃がすはずなかった。紅い線を描きながら回り、後ろから突っ込んできた。
━━思考を!
━━そうか!
アンドラスが反転するのにどれだけの時間がかかるだろう。この状態ならベリアルがたどり着く前に出来そうだが、その為に回避の時間をとるのは惜しい。となればこの背を向いた状態でかわすのが良いだろう。
後ろに目はない。先程の言ったように殺気やプレッシャーを感じてからでは遅い。
勘で避ける。
それと同時にアンドラスの真意を理解出来た。操縦桿を握って動かす必要は無い。アンドラスがこちらに情報を与えるのならこちらも出来るはずだ。しかもそれは喋るよりも文を見るよりも早い。
動きを想像する。ベリアルの最後に見た旋回のほんの少しの軌道から、そして彼の動きの癖のデータから考えて来るのは
━━そこ!
バランサーを使って軸を倒す。そのギリギリをベリアルが通過した。
操縦桿を全く動かさずに。思ってみればアンドラスがアンドラスを動かすのに操縦桿を必要とはしない。それに自分の身体を動かすように滑らかにかつ、最高の反応速度で動ける。
考えるだけで動く。身体を動かす必要は無い。ただ、外の情報からアンドラスに動きを伝えるだけでいい。身体を動かすという一工程が無くなるだけで反応速度は速くなる。
そして両者ともに加速する。
斬られたライフルを投げる。ライルは何かあると踏んだのかベリアルを大きく回しながら旋回させる。
━今っ!
━当たれ!
ベリアルのスラスターから狙いを離さないようにしながら数発撃つ。加速することで衝撃が強くなる接近攻撃に比べ、射撃武器は出力が弱いと逆に弱くなるという障害が発生する。問題は機体の速度ではないのだ。
それでもこのライフルが弱い訳では無い。ナノラミネートアーマーに覆われてさえなければ貫通できる力を持っている。筈なのだ。しかしスラスターに当たっても弾が弾かれる。リミッター解除は装甲に影響を及ぼすとは聞いてない。何かしらの減衰術でもあるのだろうか。
ここは接近戦でもやるべきだろうか。一瞬だけそう考えてすぐに否定した。そんなことしても変わらない所の騒ぎではない。慣れてないことでは強敵は倒せない。
結局かわし続けるしか無さそうだ。
今のうちは残弾の心配をしなくていいのが唯一の救いだろう。アンドラスに操作を任せたから反応は速くなっているのにそれを感じさせないくらい速いベリアル。もうパイロットが人間がどうかすら疑わしい。
ベリアルに向けて何発か撃つ。しかし先程と同じようにスラスターの被害は少ない。おそらく、硬い場所に当たって弾かれているだけだ。スラスターのガスを発射する口ならバルカンでも破壊できる。逆にタンクを守っているパーツはそれなりに硬い。そしてそれは向き合っていて、スラスターを狙うとすると当たる主な場所となる。どちらにしろ、手段がゼロな訳では無いがそれなりの行動を起さなければ負けるので、別の手段を考える必要がある。
まわりを見渡す。なんでもいい。何かライルに大きな隙を与えられるものならなんでもいい。何か、何かないのか。
他のモビルスーツは逃げたし、他の銃器はない。辺りには何もない。
いや、ある。パージした装甲やシールド。宇宙空間に漂っているだけのただのデブリだが有効価値がない訳では無い。
脚部ナイフを展開する。そしてベリアルから一目散に逃げた。アンドラスとベリアルの速度はほぼ同じ。そのアンドラスが逃げればベリアルも簡単には追い付けない。
つまり、思考と会話をする余裕が双方に現れる。
とりあえず深呼吸をする。ベリアルも100mm砲を馬鹿撃ちしているがこの距離とそのエイムでは当たっても損傷は少ない。
機体の損傷度を見るがそこまで悪くは無い。ただ、左腕の損傷が不自然な程に酷い。ライルの刀を何度も受けてきたとはいえ、右腕よりやけに損傷が酷い。
おそらく盾をやられた時だ。その時に破片か何かが関節に入ったりしたのだろう。破片によって関節がすり減ったらしたら面倒くさい。
左で撃つのは控えた方がいい。そして現在は抑えて撃った方が良いがトドメは出力をあげた方がいい。多分そこら辺もアンドラスに言ったら適当にやってくれるだろうが細かい調整が必要なのでそこは手動でやりたい。操縦の手があくのでやりやすくはあるが。
そう思考していると目標の地点にたどり着く。機体の速度が速い割には思考の時間が十分あったということは頭が慣れてきたのだろうか。普通ならありえないがアンドラスが強引にやらせていると考えればなんでも出来そうな気もする。
兎に角作戦とも言えないポッと出の賭けを実行してみる。
ベリアルとの距離は目視だが500辺りだろう。宇宙では距離感が掴みにくいため定かではないが、タイミングを合わせるためにはベリアルの動きと距離を知るのが必要不可欠だ。とりあえずけっている間に追い付かれておしまいなんて距離じゃない。
「さて...とぉ!」
まずはパージした装甲を蹴り飛ばす。ベリアルの速度ならそのまま突っ込んでくる可能性もあるにはある。というか旋回という無駄を省きたいと普通なら考える。外から見ているものだったら、だが。しかしパージした装甲とはいえ高速でぶつかればどうなるか。ライルが分からないはずもないし、高速でデブリなどが接近して来れば幾らガンダムフレームのモビルスーツに乗っていようと流石に恐怖を感じるだろう。コックピットを狙ったのでそこを危険視する可能性もある。
そこまで考えるとベリアルがそこに突っ込んできた。急いで先程頭の中で考えた構想に合わせるようにアンドラスに頭で命令を送る。そしてアンドラスが準備をしながらライフルを構えて、その状態で身体を左斜めに傾ける。右の攻撃を避けるように。
「──っ!」
反射的なのか分からないがベリアルが横に避ける。方法はベリアルから見て右、つまりアンドラスから見て左だ。そして刀を持っている腕も右。左ががら空きだ。
──今だ!
そう言う余裕は無かったが心の中ではそう思いながら展開させていたバックパックのサブアームをベリアルの脚に絡ませる。丁度スラスターだったらしく、そこに早撃ちの要領でライフルを動かして向けて撃つ。スラスターが一瞬火を噴いたかと思うとベリアルをはじき飛ばした。その負荷に耐えられなかったのかサブアームの関節パーツが弾けて壊れた。しかし後ろを取れた状態でスラスターをひとつでも壊せたというのは正直大きい。
直ぐ様ライフルで再び狙いをつける。とはいえ簡単な物だが外しはしない。引き金を引く。それとほぼ同じタイミングでベリアルが振り向きながら刀を振るった。弾丸は当初の予定だったスラスターをかすり、膝に命中した。そして刀はアンドラスの左腕の付け根に突き刺さり、そして壊された。アンドラスの左腕が斬られたのだ。
「──っ!」
声を出そうとしても出せなかった。それほど動揺したのだ。アンドラスの左腕が破壊されたのはこれで初めてだ。それどころではない。明確な部位破壊をされたがはじめてなのだ。これまで何度もライルと戦ったが腕も脚も破壊されなかった。それだけ守ってきたのだが今回は違う。ライルもベリアルというガンダムフレームのモビルスーツに乗り込み、そして戦いリミッター解除という段階まで足を踏み入れたのだ。
殺す気なのも彼が常識を簡単に破壊するほど強いのも分かっている。それに安心したわけでも慢心したわけでもない。
単に壊されたということに驚きを感じた。それと共にまた明確な恐怖を。死の1文字が大きくなるのを感じた。
しかし頭を直ぐに切り替える。ここでやられたらみんなの気持ちも、僕の努力も、父さんや母さんの積み上げたものが全部無駄になる。それはさせない。それだけは絶対にさせてはならない。
──痛いだろう、アンドラス。ゴメンな。でも、負ける訳にはいかないんだ!
アンドラスがツインアイを再び光らせる。それと共に頭の中に音が流れる。その音にも感情が籠る。
──いいよ。私も背負うから。行こう。
──ああ。一緒に!
アンドラスを加速させる。斬られたのがライフルやそれを持った右腕でなかったことは不幸中の幸いだった。
まだ続行できる。
ライフルの出力を上げる。狙いはバックパック。完全な無力化をするしかない。
「うぉぉぉぉお!」
「はぁぁぁ!」
2人のガンダムパイロットが雄叫びを上げながら攻撃する。ベリアルの攻撃をシールドがない変わりに脚部ナイフで受け止める。その度に脚部ナイフを固定しているパーツが悲鳴を上げる。その為脚部ナイフを使ってこちらから仕掛けることは出来ない。
両者が後ろをとろうとして、加速をしながら攻撃を繰り返す。その度に装甲に傷がつき、武器は消耗していく。しかし流れる緑と赤の光は交わりながらも混ざり合うことなくお互いの得物を酷使し続ける。
アンドラスも限界だ。ライフルの残弾も正直言って無限になる訳では無いのでここまでやっていれば弾切れも近い。自分の身体ももう持たないだろう。加速しているからか身体から嫌な音がする。今力を抜いたら身体が壊れてしまうのではないかと思ってしまうほどだ。勿論試さないし、試したくもないが。
しかしこのままでは共倒れだ。痛み分け所ではない。何も変わらない。お互いにお互いを殺して終了。
何か策を打たなければならない。とは言っても思考はベリアルの動きに対応することで精一杯だ。戦場から離れているのか近づいているのかすら全くわからない。分かることはもう随分と思考しっぱなしという事だ。激しい頭痛もする。もう自分がどうなっているかすら全く分からないのだ。
出るのは雄叫びかうめき声。マトモに喋ることすら出来ない。
しかし耳は大丈夫なようだ。時折何処かから声が聞こえてベリアルの場所を教えてくれる。それがどこかで聞いた懐かしい声も混じっているという所は思考を切った。
味覚は分からないが触覚、嗅覚も明らかに鈍くなっている。これもアンドラスの力の影響なのだろうか。
答えはわからない。しかし考えずに戦うことしか僕にはできない。やるしかないのだ。
その時だった。アンドラスから情報が流れた。
──ユウ!
一瞬アンドラスに示された場所を見るとそこにはアリアンロッドの戦艦があった。ファフニールかは分からないのでこいつを壊しても戦争は終わらないかもしれないがここまで接近するとは思わなかった。そしてここまで接近して撃たれないことも。
そこまで考えた瞬間にバックパックに大きな衝撃を感じてその戦艦に叩きつけられた。見なくても思考しなくても分かる。ライルだ。しかし背中から押し付けられたということはこちらが背を向けているということ。それは不味い何かしらの手を打たなければ負ける。どちらにしろ出しては防がれるのイタチごっこだが。
──アンドラス!
このままでは危険なので左脚を軸として右脚を振り回す。遠心力の入った脚部ナイフがベリアルに叩き込まれる。
何かが歪む音がした。限界を迎えて右脚の脚部ナイフが曲がる。
しかし軸が安定していたベリアルはそのままの勢いで刀を刺す。コックピット付近に刺されたそれは破片を飛び散らしてアンドラスを押し付けた。破片がコックピットの中に入る。そのうち、1つが腹に刺さった。
アンドラスが与えたものでは無い。本物の痛み。とめどなく血が溢れる。痛い。そのあまりか思考が止まる。しかしその一部をアンドラスが緩和するように光が包む。
痛みが緩和したので今度は左脚の脚部ナイフをベリアルに突き刺した。とはいえ、その位置は左腕だが。
流石にライルもこの位置では殺せないことを知っているので直ぐに抜いて一旦離れる。そこにライフルの残弾を叩き込むように引き金を引きまくった。
鉄の雨が降るようにベリアルを破壊していく。巻き添えになった戦艦も火を吹いて壊されていく。
──アンドラス!出力全開!
流石にこれではライフルの弾切れでこちらの負けだ。もう勝つ方法はひとつしかない。完璧アドリブのゼロ距離射撃。つまり、刀の間合いで撃つことになる。
緊張が高まる。しかしベリアルはそれを楽しむように戦艦を一周して後ろに来た。
ここでは無理だ。そう悟って脚部ナイフを盾にして一撃を防ぎきる。しかし衝撃で飛ばされてまた戦艦に叩きつけられた。もう耐Gが働いてないのではないかと思うほどの衝撃が身体を壊す。
頭の中がぐちゃぐちゃになって行く。でも、生を諦めたくはなかった。
アンドラスのスラスターを破壊する勢いでガスを使う。コックピットでは爆音が轟き、コックピットに身体が押し付けられて、身体に刺さった破片がより深くまで行く。血が飛び散り、コックピットは無残な形と成り果てる。
「俺は...お前を殺す!」
ベリアルからそう聞こえた。完全にライルの全力の声だ。重いプレッシャーがかかるがそれを気にせずに引き金に指をかけるように操縦桿を握る。スナイプモード用の引き金は破片で壊されてしまった。少なくとも今は効果を期待できない。
「ここで仕留めて終わりにしてやる!」
「こっちもそのつもりだ!」
まだ何故か呂律はしっかりしていた。しかし自分でも何を叫んでいるのかその言葉がよく分からない。それほど集中を高めてベリアルに特攻した。
死を覚悟する訳では無い。生きる為の、みんなでまたやり直すための特攻。
思考の時間も十分じゃない。マトモに頭では考えられないこの状況でなんでこんな答えが出たかすら、分からない。
しかしそれが僕の答えだ。
「確かにお前は強くなった。最初は見間違えるほど、しかし!」
ベリアルは直ぐに構えて特攻に対応する。ライフルの引き金を引かせずに終わらせるつもりだ。ライルも分かっているのだろう。ゼロ距離射撃が狙いだと。しかしそのタイミングは掴めないし、いつ襲ってくるかが分からないのでいつでも対応できるようにしているのだ。
「それは負けてもいい理由にはならない!」
ここまで構えられるとゼロ距離所ではない。気付けば斬られているようなレベルなのだ。フェイントでも、使ってみるか。しかしそれに簡単に騙されてくれるとはとても思えない。最悪こちらが乗せられる可能性だってある。
そう思った瞬間、ベリアルが一気に距離をつめてきた。速すぎて殺気を感じる前に刺されそうだが勘からしてライフルが狙いではない。狙いはコックピットだ。仕留めに来ている。勿論こちらもそのつもりだが刺し違える覚悟もあるし、可能性も考えている。
「僕には、帰る居場所があるんだー!」
ここで仕留められては全てが無駄になる。
タービンズの家族が...シュインだって僕の帰りを待っている。だから負ける訳にはいかない。
──アンドラス!頼む!君の全てを僕にくれ!
動かしても意味が無いというのに操縦桿を握る強さが強くなる。それと同時に歯を食いしばりながらそして、痛みに耐えながらベリアルを見る。
ベリアルが馬鹿正直に突っ込む。そんな馬鹿正直な突きでも動きは読めない、力はナノラミネートアーマーを貫通する、そして、下手な芝居を諸共しないその速さ。
アグニカ・カイエルの再来とはよく言ったものだ。
だからこそ全てを使う。自分が今まで積み上げてきたものを全て、ここで使うことでライルを倒す。
そしてこの戦いを終わらせる。
「うおおっ!」
ベリアルの刀をずっと見ても攻撃はかわしきれない。確認してからでは遅い。もっともっと早く。反応速度の問題なら自分が一番はやいのだ。だからこそ、かわせない訳が無い。2人ならかわせないはずがない。
そう思っていると強い殺気を感じた。その瞬間から目に見えない力に動かされるようにアンドラスを斜めに傾ける。するとアンドラスが先程までいた場所に刀が通り過ぎる。
しかしベリアル本体はかわしきれずにそのまま衝突する。物凄い速度の質量が当たる衝撃は馬鹿にならない。実際メイスなどで叩かれるより、質量も速度もある。その衝撃に耐えられなくなったのかフレームが悲鳴をあげる。このままペチャンコになってしまうのではと思うほどベリアルが近くに来て、そして離れた。しかし警報の類は一切流れなかった。おそらくアンドラスが止めているのだろう。それを確認している時間があればライルは確実に仕留めてくる。普段は危険を知らせる警報が危険を呼び寄せることとなるのだ。そういう小さな配慮にも感謝しながらもすかさずバルカンを放ち、ベリアルのメインカメラを傷つける。しかしバルカンの威力ではそこまで期待はできない。当たり前のように動くベリアルの攻撃をすんでのところでさける。
そのままベリアルとの鬼ごっこが始まる。もうそろそろ、フラウロスの一撃が決まってもいい時間なのだがそれらしい音は全く聞こえない。ミスしたのか。となればこちらも逃げたいがライルが逃がしてくれるはずもないし、ライルを逃がす気もない。そのまま鬼ごっこを続けている間に最初に叩きつけられてその後盾として使っていた敵艦が落ちていくのを感じた。流石にアンドラスとベリアルの力には耐えきれなかったか。敵艦なのでそこまで大きな問題は無いがこれでベリアルとの直接対決を妨げるものは無くなった。
「これで!」
ライルもそれを分かっていて、尚且つゼロ距離射撃の可能性を分かって突っ込んでくる。ベリアルの100mm砲を全く使わずに、そのまま真っ直ぐ突っ込んでくる。
自分だって死ぬかもしれない。戦場に立っているのだからそんなこと分かる。しかし彼は今の今まで死ぬ可能性が高い手を使ってきただろうか。否、あれだけ強いと間違っているように感じるが彼は生き残ることも大切にしている。しかし今彼は死ぬ可能性が高い手段を使い殺しに来ている。
それでないと殺せないと分かっているから。自分と同じ、強いパイロットと認めた。その証拠だ。
──ここで決める!
そう意気込んでライフルでベリアルを狙う。チャンスは一度、もう残弾全てを吐き出す。その上その射撃が有効なタイミングは一瞬もない。思考しても間に合わない。精神を研ぎ澄ます。するとアンドラスから何か送られたのか衝撃が来て刺された場所から血が飛び出る。その時に構えたベリアルを見ると、ベリアルの動きが何かと重なって見えた。そして少し遅くなる。とはいえ、その速度は目で追える速度ではない。思考を加速させたという事は直ぐに分かった。自然な思考の加速の慣れでは間に合わない。そうアンドラスだって分かったのだろう。
突っ込んでくるベリアル。その速さはアンドラスの限界を超えている。もしアンドラスからの思考の加速が無ければ確認することすら不可能だっただろう。しかし狙いアンドラスのコックピットということは分かりきっている。しかし、今から回避したところで無駄な時間を喰うだけだ。意味は無い。接近してくれるということはゼロ距離射撃がやりやすくなる。これは相手の攻撃をかわした方が勝つ。本能的にそう悟った。刀の軌道もゼロ距離射撃の為のライフルの動き軌道もわかりにくい訳では無い。双方共に相手の動きは熟知している。だからこそ、そのわかり切った動きをどうやって当てるか。思考の時間は十分にない。フェイント等を使うこともおそらく不可能。使えても使ってこないだろう。
単純な接近勝負だ。素人でも、よくある勝負。ただ、それが機体の限界を超えた勝負だということだけ。しかしそれがパイロットの身体と精神を壊していく。
身体の中で血が逆流するような気持ち悪さとともに口から何かが飛び出る。
しかしそれでもベリアルの刀から目を離さない。それを目で追いながらアンドラスの行動を頭で組み立てる。
ベリアルが刀を振りかぶる。普通ならそのまま衝突するだろう速度。それに合わせられるということはライルもベリアルの援護を受けているのか。真意は分からないが、その思考は常人離れというレベルではないということだけはよくわかった。
ベリアルが刀を振るう。それはアンドラスのコックピットをかすり、その横に突き刺さった。そしてアンドラスのライフルもコックピット横を貫通した。そして当たった部位から爆発が起こった。
両者のモビルスーツのフレームをぶっ壊したのだ。しかし直撃を免れたコックピットも無事ではない。すぐ横で爆発が起こったのだ当然先程とは比べ物にならない破片が飛び散り、身体を割く。そして爆炎によって身が焼かれる。
「エ、エイミー...」
「アンドラス...」
また爆発が起こる。小さなものだったがそれはお互いのモビルスーツを離しアンドラスのライフルを破壊した。
流れていくアンドラスの中で意識が遠くなる。アンドラスが与えている痛みではない。逆にアンドラスが弱めてくれているのだ。それと同時に悟る。もう死ぬんだと。もう身体の感覚がほとんどないのだ。土手っ腹には大きめの破片が突き刺さり、血が止まらない。それだけではなく、ノーマルスーツを貫通するほどの大きさの破片が数え切れないほど突き刺さっている。流石に死を覚悟した。
それと同時に理解した。これはアンドラスが最後に用意してくれた時間であると。
──ごめん。私にはこの程度しか
頭の中にアンドラスの声が聞こえる。ずっと僕を守ってくれた、支えてくれた声。死ぬ時も聞かせてくれたのだ。
「あぁ...んどら...す...」
肺もやられたのか、スースーと音が聞こえて、声も上手く出せない。勿論上手く呼吸もできない。身体も動かずにただ、身体から出て自由になった血がコックピットを赤く染めていた。
目の前が真っ赤で良く見えない。こんなにも世界は赤かったのか。それがなんの色なのかよく分からない。
「みえ...な...」
──大丈夫。私はここにいる。ずっと貴方のそばにいる。
今度は真っ黒になった。瞼が閉じたのか。それとも目に異常が出たのか分からない。
しかしアンドラスが安心させるように光を出す。真っ暗な世界に温かさだけを感じる。しかし冷たい世界では焼け石に水だ。なんにも感じない。
死ぬんだ。僕は死ぬんだ。
死にたくないと言って。まだ死ねないと足掻いて。しかし死ぬんだ。
心残りはある。タービンズのみんなは、これからどうするのだろう。僕が死んでも、大丈夫だろうか。苦しくないだろうか。これから辛いことは沢山あるので僕の死で諦めて欲しくない。エストだけでは無理かもしれないから地球から兄弟を呼ぶのだろう。僕がやったように。それなら守れる。ちゃんと父さんと母さんが作ったものを作り直せる!シュインは悲しむだろう。生きて帰ってくると誓ったが志半ばで倒れることになったのだから。お腹の中の子が男か女かも分からない状態で。まだ見ぬ我が子を抱きもせずに。そして、アンドラス。僕がここで死んだら君はどうするのだろうか。何処かに回収でもされるのだろうか。その時に直そうとした整備兵やパイロットを殺したりしないだろうか。悪魔だから殺ってしまうかもしれない。少し心配だ。
──アンドラス、僕が死んだら次はもっとマシなパイロットに乗ってもらえよ
──貴方以上のパイロットなんて...もう...!
最初は全く理解できなかったアンドラスの気持ちが痛いほどわかる。感情が理解できる。その時に10年前のあの日のことを思い出す。逃げてた僕に立ちはだかった君を。
あの時は何も理解できなかった。十分ではない力を振り回していただけだ。今は少しくらいマトモになれただろうか。少しくらいかっこよくなれただろうか。
──もう十分よ...お休みなさい。ユウ
──ありがとう。相棒...
そう心の中で思った瞬間身体が急に軽くなった。これが死か。魂が身体を捨てて飛び立つのだ。みんななら大丈夫。僕はちゃんとあの世で見てるから。僕がいつまでも見ているから。
すると世界に色が生まれた真っ白だ。アンドラスに連れられた空間は下が白だったが、ここは全てが白だ。
身体を感じる。気がつくと自分の身体があった。傷も何一つない身体だ。あの世での仮の身体だろうか。そういうことを1回も調べようとしなかったのは少しやらかしたなと思ったが今更仕方ない。
そう思っていると、後ろに人の気配を感じた。振り向くとそこには2人の男女がいた。
男の方は黒髪の長髪で世界と同じような白い帽子と服を羽織っている。女の方は露出が大きく、赤いブラジャーのようなものを付けている。
僕はこの2人のことをよく知っている。僕をあの世界に産んでくれて、育ててくれた人だ。
「父さん!母さん!」
走りよって2人に抱きつく。その2人から生きている人の温かさは伝わらなかったが、他にある大切な何かを感じた。2人は死んでしまっているがそれでも僕らを見てくれていたと、そう感じられた。
「よく頑張った。ユウ」
「じゃあ行こうか」
「うん!」
右は名瀬の手を握り、左はアミダの手を握って2人の間で歩きながら笑う。
そして僕らは白い空間に消されて行った。
まさかの主人公死亡!ユウが死んだ!
先生などアフターストーリーに協力している読者の前で出てくる出てくる言っておいて死亡!まさにしてやったり!ですね。
しかし上手く消えたなぁ...ユウ。お前は案外、良い奴だったよ。
ではこれで完結か?違います。まだ2期までの最終回があります。そしてアフターストーリーもあります。知ってますか?これはテイワズの狙撃手であり、ユウの物語とは誰も言ってませんよ!次回!77話!
切り良いですね。ラッキーセブン!原作分...なんですがとりあえず最終回!
遺されたもの
お楽しみに!
今日中に投稿したいですね