惑う戦士   作:gawain

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第5話

◆  ◆

 

 グレンダンで君と別れてからもう2ヶ月も経ってしまったね。手紙を出すのが遅れてしまってごめん。途中の都市で足止めをされてしまって、この手紙を書く前日にツェルニに着いたところなんだ。途中寄った都市からでも手紙を送れなくは無いのだけど、返事を僕が貰えないのはさびしくて今まで書かないでいたんだ。全く軟弱だよね。

 ともかく、ツェルニには何とかたどり着けたし体の調子もいたって健康だよ。君はどうかな?僕のせいで孤児院の子供達とはちゃんと話せてないんじゃないかと…いや、僕よりずっと人付き合いの上手い君なら時間はかかっても溝を埋めていけるんだろうね。

 僕のほうは人間関係は全然だけど、グレンダンを出たおかげでいろんな都市を知ることが出来たよ。それぞれの都市で味付けに使われる香辛料も違うし、パンの種類だって一つや二つじゃないんだ。レシピが分かったら手紙に書くから是非作ってみて欲しい。

 あと、ちゃんと書いておかなきゃいけない事があるんだ。僕は――

 

◆  ◆

 

 

 

 

 

 その夜、カリアンは久々に安らかな気持ちで就寝できていた。当初、脅迫してでも力を取り込もうと考えていたが、思わぬレイフォンの申し出に肩透かしに終わり、結果として穏便に協力を取り付けることが出来たからだ。

 彼は夢を見ていた。ツェルニが華々しく連勝を重ねる、そんな都合の良い夢だ。しかし今はそれがただの夢ではなくなった。周囲の人間が知る普段の彼からは想像出来ない、だらしない寝顔をしていた。

 だがカリアンの夢は唐突にかき消された。激しい縦揺れが彼の腰を打ちすえ、ベッドから振り落とした。病室の窓ガラスは一瞬悲しそうに叫びを上げると、粉々になってカリアンの上に降り注いだ。幸い掛け布団に包まったまま落ちたため大きな怪我は避けられた。

 寝起きにも関わらずカリアンの頭は、状況の打開に動き始める。緊急事態なら他の役員に対応を任せていられない。彼は立ち上がると、身を守ってくれた布団を橋代わりに、ガラスの池から何とか脱出した。

 

「カリアン聞こえるか!」

 

 そこに武芸長のヴァンゼから通信用の念威端子に通信が入った。最優先すべき人物からの連絡に、思わず顔がほころぶ。

 

「今分かる限りの報告を」

「現在、建物や人的被害の情報は精査中で詳しいことは分かっていない。確実なことは都市の足の3分の1が谷か何かにはまって都市の身動きが取れないということだ。今から自分も生徒会塔へ向かう」

「有難う。このまま通信は繋げたままにしてくれ」

「わかった。部下の一人を迎えに向かわせる」

「いや、それは今必要なくなった」

「なに?」

 

 ガラスの破片が軋む不快な音が、窓の残骸からこちらへ近づいてくる。

 

「都市の中心部から遠い宿泊施設から3分足らずか。今は君の非常識さが頼もしいよ」

「……緊急事態と思ったので」

 

 そこには寝癖が着いたままのレイフォンが私服姿で立っていた。急いでいたのだろう、シャツのボタンを掛け違えている。

 

「レイフォン君が考える緊急事態とは」

「汚染獣が来ます」

「誰だ、カリアン!それに汚染獣っての――」

「ヴァンゼ、都市外の状況確認が最優先だ。第1から第10までの念威繰者に当たらせろ。それ以外は引き続き都市内の探索と都市警と連携してシェルターへの避難誘導をバックアップだ」

「……後で聞かせてもらおう」

 

 救世主が来るというのは、新学期当初カリアンはヴァンゼに伝えていたが、遅れていたレイフォンが到着した、という情報はまだヴァンゼは持っていなかった。

 

「汚染獣が来るという根拠はなんだい?」

「レギオスは見えている地形ならば回避することが出来ます。そして今回のように見えない地下に汚染獣の巣があって、踏み抜いてしまうということはいくつもの記録だけでなく、経験もあります」

「それを知らせに来てくれただけでも助かるが――。傲慢な私はこれ以上の協力を求めてしまうんだ」

 

 レイフォンはその言葉に苦笑しながら頷くが、ここに着いてからただ従うだけだったことを思い出して、どうにかしてやり返してやりたいと考えた。こういうことは苦手なレイフォンだったが、彼にとっては上出来なものが思いつき、カリアンへゆっくりと近づいていくと手を差し出す。そして一言「自分は高いですよ」と言い放った。

 レイフォンの精一杯の皮肉はカリアンにとってどうやら笑えないものだったのか、今日2回目の握手にカリアンの手は汗でぬれていた。

 

 

 

 

 レイフォンは一人、今だツェルニへ取り付けていない汚染獣の幼生体へ、先制攻撃を仕掛けるべく動いていた。都市の外縁部に程近い養殖科所有ビルの屋上から地平線を見下ろす。地上と空との境は闇に溶けて見えない。課せられた任務は質量兵器の威力に偽装しながら、出来る限り戦力を削ることだった。

 カリアンもレイフォンも、出来る限り力を隠しておきたいと考えていたため採られた手段だった。しかし武芸長であるヴァンゼは、防衛線へ出る武芸科の安全性から、もっと確実に減らす方法を選ぶべきではないか。そして商業科長には高額な質量兵器の使用による損失から反対を受けた。

 それに対してカリアンは、武芸科が一人の人間頼りきるようになりかねないのは教育上問題であるし、幸い敵の戦力をコントロールできるのだから実戦経験を積む良い機会だ。それに都市が無くなってしまっては元も子もない。更にレイフォンへ図る便宜として必要経費だと半ば強引に押し切った。

 よってレイフォンは反対する彼らをなだめる為にも、商業科とカリアンとの妥協点である20発の質量兵器を使用する間に学生武芸者達の負担になり過ぎない量に汚染獣を間引く、という面倒なことをすることになっていた。

 

[サポートの準備が整いました。母体の位置も判明したので今はルートを探しています]

 

 第1小隊の念威繰者から連絡が入った。念威繰者とは遠くのものを見通すことが出来る、千里眼のような能力をもった人間のことをさす。その能力を持つものは武芸者に比べてもわずかで、都市にとって宝石に例えるほどの価値がある。また都市内であれば電信が張巡らせてあるので、単純な情報のやり取りは可能だが、無線で戦闘の邪魔をすることなく通信できることから、大規模な戦闘において無くてはならない存在だ。

 レイフォンはゆっくりと息を吐いた。意識をゆっくりと沈めていく。

 ふとリーリンの顔が思い浮かんだ。

 

『――また剣を握ることにしたよ』

 

『――気づいてしまったんだ。何かに追い込まれたとき、僕が動けばどうにかなるとき、僕は武芸以外の方法を知らないんだって』

 

 カリアンに言った言葉はここにはいないリーリンにこぼすのを想像すると、途端に言い訳に聞こえてレイフォンは思わず苦笑した。

 

[どうかされましたか?]

 

 念威繰者の機械的な声にレイフォンは我に返った。なんでもないと答えると今度は断ち切るように。いや、今は心に残るわだかまりから逃げるように短く息をする。

 

「お願いします」

 

 都市外装備に身を包んだレイフォンは大きく都市外へ跳躍した。

 

 

 

 

 

◆  ◆

 

 武芸以外の方法を身につける為にグレンダンを出たというのに本末転倒だと自分でも思うよ。きっと僕がまた剣を握ったなんて知ったらよくない顔をする人が大勢いるだろうね。出来れば父さんにもしばらく教えないで欲しい。

 今はまだ悩んでる。必要に迫られて振るう剣なんだ。でももう自分には資格は無いはずなのにってどうしても考えてしまう。そもそもレイフォン・アルセイフが振るって良い剣てあるんだろうか。少なくとも刀やヴォルフシュテインではないはずだ。

 

 こうやって書くと君は心配するかもね。でも少なくとも剣を取ったからには僕は自分が生きることをやめないよ。今は剣以外の自分を夢見てる。

 

 武芸者じゃない僕として君ともう一度会えることを祈って。

 

 親愛なるリーリン・マーフェスへ

                               レイフォン・アルセイフ

◆  ◆




いまだにリーリン以外のヒロインが登場しない事態に自分自身も困惑を隠せない

読みづらい所とかあったら是非ご意見下さい
直すかどうかは全体を見て考えなきゃですが

あと単語が分からんとか…興味を持った初見の方は原作読んでね!(現在24巻)
っと言うのは厳しいので物語が用語集にならない程度に補足しながら出来ると良いなぁ
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