「なんて硬さだ」
ニーナ・アントークは幼生体に一撃加えると眉を寄せながら悪態をついた。彼女の持つ鉄鞭では幼生体の殻を破ることは出来てもその中まで攻撃を届かせるのは骨だった。
(だが守ってみせる)
「はぁあああ!」
彼女は殻の潰した場所をめがけて跳躍した。
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レイフォンはようやく巣穴をよじ登り津波のように押し寄せてきた幼生体へ一直線に突っ込んでいた。地上に降りた低い視点からではどこまでも続く大海原のようにか見えなかった。幼生体の体長は6から8メルトル、その表面には地上の生物ではおよそ持ち得ない鎧のような殻で覆われている。念威繰者の観測では2000以上を数えるという幼生体の足が大地を打ちつけ迫ってくる。
[あと10秒でポイントです]
「タイミングは合わせます」
レイフォンは徐々に速度を落としていくと、迎え撃つべく幼生体の群れに対して正対し立ち止まった。
「レストレーション」
起動鍵語によってレイフォンの手元で錬金鋼が復元されると無数の鋼糸が前方に向けて放射線状に伸びていった。
「攻撃開始だ」
「1から5番、ってー!」
推進剤の光に外縁部が照らされて昼のように明るくなった。少しずつ発射のタイミングをずらした質量兵器の描く軌跡がレイフォンの頭上を通過するのを確認すると、それに合わせて鋼糸が汚染獣へと手を伸ばしていく。
炸薬のはじける眩い光に一瞬間を置き轟音と衝撃波が周囲を走った。
[すごい……]
念威繰者から驚きの声が漏れる。質量兵器は地上に激突すると同時に姿をを火の玉に変えた。しかし熱と衝撃波に晒されただけでは汚染獣はその厚い殻に守られているためその活動を止めることは出来ない。
レイフォンは質量兵器が爆発の数瞬前に一帯の幼生体を切り刻んでいた。しかもその証拠を隠滅するように質量兵器の熱と炎で肉は焼かれ消し炭になった。
しかしヘルメットの中のレイフォンの頬に汗が浮かぶ。彼自身着弾点との距離を見極め、求められる精度を上げるために可能な限り近づかなければならない。さらに1発目の爆発に巻き込まれて錬金鋼がわずかに破損してしまった。
すぐさま予備の錬金鋼に頸を流し込み復元すると次の着弾地点へ鋼糸を飛ばす。使用していた錬金鋼は一時待機状態へ戻した。予備の錬金鋼は4つ有るがこの調子では最後まで持たないと判断したレイフォンはローテーションすることでダメージを分散させることにした。
次々と放たれる質量兵器と鋼糸という繊細な武器の操作にレイフォンは幼生体の数と彼の精神をすり減らせていった。質量兵器が放たれる毎に50以上の幼生体が世界から存在を消されていく。
質量兵器を残り3発残し使用していた錬金鋼の1つが自壊した。他の錬金鋼にもダメージは蓄積され続けている。
(これじゃもう持たない。こうなったら!)
錬金鋼の維持を諦めたレイフォンは全力で1つの錬金鋼に頸を流した。鋼糸は赤熱し、やがて白く光ると幼生体の殻を焼き切ると融けて蒸発した。寿命の最期を迎えた錬金鋼は超新星のように頸の奔流を容赦なく降り注ぎ、これまで以上の効果をもたらしていく。
「うわぁ!?」
だがダメージを蓄積していたのはレイフォンやその錬金鋼だけではなかった。地下に空洞のある上で雨のように絨毯爆撃を行ったため支える物の無い空間を埋めようと地面は陥没し始めた。
[質量兵器20は全て打ちました。残存する汚染獣の数は900を割っています。急ぎ退避を]
それを聞くよりも先にレイフォンは活頸によって強化された身体能力で素早く後ろへ退いていた。
そこでレイフォンはようやく息をつくことが出来た。
(き、きつかった~)
戦闘経験はこの都市の誰よりも多かったが、レイフォンにとってもここまで行動を大きく制限され、しかもその中でより大きな戦果が望まれるなど今までなかった。念のためにと思って錬金鋼を複数用意したがほとんど壊すことになるとは思っていなかった。
(今度専用のベルト用意してもらおう……毎回こんなんじゃやってられない)
レイフォンは再び外縁部までたどり着くとその場でへたり込んでしまった。
生徒会塔は静寂に包まれていた。
ここには生徒会長のカリアンをはじめ他の生徒会役員、武芸長のヴァンゼ、レイフォンをサポートしていたヴァンゼの小隊の念威繰者、各学科の長達が一堂に会しているはずだった。
念威繰者からの情報は数字ばかりではない。映像情報として会議室のスクリーンに映されていたのだ。
レイフォンが退いていくのを見てにわかにざわめき出す。
「ヴァンゼ、どう見る?」
カリアンが口を開く。普段目にしている小隊同士の対抗試合とはかけ離れた光景に、武芸者ではない一般の人間では判断がつきかねていたのだ。
「忌々しいがお前の言うとおり救世主だろうな。あれは非常識だ」
「そうか、これである程度生徒も余裕をもって戦えるな」
「馬鹿を言うな。これから他の武芸科生徒での防衛戦を見ることになるがこんなに簡単にいくと思わないことだ。下手したら死者が出る」
「そうだったな。幼生体がもっとも弱い部類であるがグレンダンであっても数に押しつぶされ極まれに死者が出ることもあると。ましてやここは学園都市だ」
「ゴルネオから話が聞けてよかった。でなければお前のように要らない慢心を産むことになっていたぞ。防衛線を敷く生徒にも広がらないようにしなければならない」
「どうやら彼の実力は私たちの計りでは分からないようだね」
「あれと一緒だなどと思われては武芸科生徒の多くを失うぞ」
ヴァンゼの顔は複雑な感情にゆがんでいた。彼も一部芸者としてレイフォンを尊敬の目で見ると同時にその能力に嫉妬し、恐れた。それは当然のことだった。彼は武芸長であり、レイフォンは直属ではないがその部下となる。
扱いづらいジョーカーをどう使うのか、これからのことに頭を痛めた。
「会長、このことはどのように?」
役員の一人が緊張したように手を挙げる。
「始まる前にも伝えたが彼のことを外に洩らす訳にはいかない。彼との約束でもあるしね…緘口令をだす。今回の先制攻撃は錬金科の新兵器の成果によるものとして処理しよう。いいね?情報を共有している念威繰者がいたら注意してくれ。所属する小隊長にも許可出来ない」
その必要性を全員が認識したのか反対する者はいなかった。「洩らしたとばれたら彼が逃がさないよ」とレイフォンの性格を計りきれていないカリアンはそう釘をさすことも忘れなかった。
[彼が通信を求めています]
「すみません、用意してもらった錬金鋼を壊してしまって使い物にならないので急ぎ用意してもらえますか?剣でも槍でも良いので」
レイフォンの気の緩んだ声が会議室に広がる。緊迫した空気は一瞬解けたが、一部の人間は先ほどの戦闘との落差に逆に警戒を高めた。会議は一段落したのでカリアンは錬金科長に任せるとヴァンゼと防衛線構築の進歩状況の確認作業へ入った。
[あと3分で第1次防衛線、戦闘に入ります]
ヴァンゼが慌しく指示を出す声が会議室に響き続ける。
大仕事を終えたレイフォンだったが母体を叩くという任も与えられていた。全てをレイフォンに任せるのを嫌がったヴァンゼが強襲部隊を組もうと提案したが、不慣れな都市外での戦闘では都市外装備が破れただけで命に関わるため却下された。
とはいえ幼生体は巣穴から全てで払っており敵は母体1体のみで特にレイフォンにとって難しいということは無かった。
錬金鋼を受け取るまで僅かながらも休息をとることも出来た彼は問題なく帰ってきた。
問題なのは外縁部で防衛線を張っている学生達だった。戦闘が始まってから1時間半程度が経過したが戦線は膠着状態が続いていた。
現在ツェルニの学生数は6万に程でその5%しかいない武芸科の生徒ではあったが、それでも3千人弱いる。1体に対して3人で当たる事が十分可能だったが、初の実戦となる彼らは力不足から幼生体の殻に対して有効な攻撃手段が少なかった。また手段を持つ者達もスタミナの配分に難儀していていた。
自然と攻撃力のある小隊員への負担は増え動きを鈍くなってきている。
だが絶望的かといえばそうでもなく幼生体の数は確実に減らし、残りは100を超える程度になっていた。小隊長達は学生を鼓舞するために「あと少しだ!」「ここが堪え所だ!」としきりに叫んでいた。
しかしそれに気を抜いてしまった学生が目の前に一人、無防備に背中を晒しているのを17小隊体長ニーナ・アントークは見つけた。
「おい!避けろ!」
言うが早いかニーナは学生との距離を縮めに足を踏み出した。学生は気づいたようだがその場から動けないでいる。恐怖に染まったその学生の目は幼生体から離せず固まったままだ。
ニーナは半ば体当たりのように強引に学生を抱きとめると体勢を崩し、もつれ合うように幼生体の軌道から逃れた。学生の背中越しに汚染獣と視線があった気がした。
「ニーナ!」
1つ上の学年だが彼女の部下となっているシャーニッドが焦った声を上げた。
(しまった)
別の幼生体の前に出てしまったらしく、すぐそこまで忙しなく動く足音が迫ってきている。ニーナもまた疲労を蓄積しており反応が遅れた。シャーニッドは狙撃手という特性上、仕留める事が出来たとしても突進してくる巨体を止めることは出来ない。
今度はニーナの体がこわばり動くことを拒否した。時間がゆっくりと流れる。今日まで過ごしてきたツェルニでの生活と思いが頭の中を駆け巡る。
(私はツェルニを守れただろうか)
ニーナは目の端に光が走るのが見えた。その光は一直線に目の前に迫った汚染獣へ向かい斜めに直線を1つ書き加えた。
幼生体は徐々に動きをに緩め、加えられた直線に沿っておどろおどろしい色の体液が噴出し巨体はずれていった。
幼生体の体液の雨は周囲に降り注ぎニーナを濡らした。
「お前は……」
次第に意識が遠のいていく。ニーナは霞む視界の先に茶髪の少年の振り返る姿を見た。
実はこの作品はニーナを如何にヒロインにするかというのが自分の中で目標の一つであったりします(ぇ
それが実るかどうかは決めてませんが。
ハーレムだけはしないというのも決意としてあります。
ハーレムなんてシャーニッド様が作ればいいんですよ。
なんですかあの飄々としながらやるときゃやるイケメンは!
カッコイイじゃないですか兄貴!