え、一年たってる?
いつのまにか人理焼却事件が起きてたみたいですね……
すみません、第五話どうぞ。
「とりあえずは予定通りというところですかね」
アサシンの使い魔を通じ初戦を見終えたシロウ・コトミネは、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「まさか本当に出て来るとはの。半ば予想していたとはいえ第3陣営の参戦は厄介よな」
突然現れたアサシンが背後からシロウの独り言に応えた。
「……アサシン、心臓に悪いので気配遮断で近づかないでほしいのですが」
シロウは少し抗議しながらアサシンの方へ振り向く。
「我のマスターとなった以上慣れるしかないの」
「それは困りましたね」
アサシンの言葉に笑いながら応え、シロウは作業を始める。
「何をしておるのだ?」
「獅子劫さんに情報をお伝えしておこうと思いまして」
「あ奴らか。良いのか?」
「情報の共有は大切ですよ。単独行動とはいえ今はまだ赤の陣営の一員ですからね」
「では援護の一つでもを送るか?最優のクラスを従えているとはいえ、この状況での単独行動は厳しかろう」
「いえ。それは共闘を断った彼に失礼でしょう。
それに敵が増えた今、これ以上戦力の分散は避けたいので」
「ならば精々かき乱して、『黒』と『月』の両陣営の情報を引き出してくれるといいの」
「ですね。それでアサシン、あなたの宝具の完成具合はどうですか?」
「材料の方は問題ない。あと数日といったとこよな」
「そうですか、では準備が完了次第トゥリファスに攻めいります」
「まずは聖杯の確保が優先か?」
「ええ。ないとは思いますが、前回のように聖杯を持ち逃げされても困りますので早めに確保しておきましょう」
2人が今後の目標を定めたところで、部屋の扉がノックされた後開かれた。
「キャスターですか、どうかしましか?」
「おおマスター、それにアサシン殿もご機嫌麗しゅう」
扉から入ってきた男は芝居掛かった口調で挨拶する。
「挨拶はよい、我らは要件を聞いておる」
「一つご報告したいことがございまして」
「さっさと言え」
もったいぶるキャスターに少しイラついた様子でアサシンが先を促す。
「バーサーカーがトゥリファスに向けて進軍を開始しました」
「何!?」
キャスターの報告に声を荒げるアサシン。
「どうやら倒すべき相手を見定めたようで」
「はあ、唆したのはあなたですねキャスター」
「唆したとは人聞きの悪い。吾輩は世間話として、串刺し公と名高いヴラド三世の話をしただけですとも」
「お主という男は……」
「……仕方ありませんね。一先ずはアーチャーとライダーに追わせましょう。出来れば引かせたいところですが、深追いはしないよう伝えてください」
「致し方無しか」
「ええ。あのバーサーカーは止まりません。私はバーサーカーの通る道への対処に動きますので、しばらく動けません。これでも教会から派遣された監督役ですからね」
「よく言うの」
「それでこそ我等がマスターですぞ」
シロウは獅子刧以外の赤の陣営のマスターをアサシンの力で操り、実質赤の陣営を支配している。さらには聖杯戦争において中立であるルーラーの殺害指示までだした。
そんな男が今更、監督役を名乗るのはおかしな話だ。しかし、そんな男だからこそ二騎のサーヴァントはシロウ・コトミネをマスターとして認めている。
「さて、忙しくなりますね」
吐いた言葉とは裏腹にその顔は晴れやかだ。予想外のイレギュラーは発生したが、この戦いはシロウが待ち望んだものだ。
「聖杯戦争の始まりです。私の、いや俺の願いを叶えるための」
小さく呟いた言葉には力があった。たとえこの戦いで何があろうとも、叶えるべき願いを持つシロウの覚悟が揺らぐことはないだろう。
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ルーマニア・トランシルヴァニア地方に位置する都市・トゥリファス。中世の雰囲気を残したその街に、ユグドミレニア一族が本拠地とするミレニア城塞が存在する。数多くのトラップとホムンクルス、ゴーレムに守られたその城には、ルーマニアに伝わる偉大な王が王座に腰掛けている。『串刺し公』ヴラド三世。ユグドミレニアの長、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアのサーヴァントであり、黒の陣営の王でもある。
現在、彼を中心にユグドミレニアのマスターとサーヴァントが集まっている。
「ダーニック、奴らは一体何者だ?」
問われたダーニックはヴラド三世に対して答えることができない。むしろダーニック自身が最も混乱していると言ってもいい。
「……あらゆる方面から調べましたが、レオ・ハーウェイと名乗ったマスターについては、このルーマニアへの入国記録どころか一切の情報が出てきませんでした。まるで突然現れたかのようです」
「そうか。だが実際にサーヴァントを連れており、ルーラー、すなわち聖杯も月の陣営とやらの参戦を認めているということか」
「……そうなります」
「ふむ。大賢者よ、君はどう考える?」
大賢者、そう呼ばれたのはフィオレ・フォルベェッジ・ユグドミレニアのサーヴァント・黒のアーチャーである。その真名はギリシャ神話に名高い英雄達の師をつとめ、
ケイローンは咳払いしたあと口を開いた。
「まだ情報が少な過ぎますが、こちらがどういった対応をとるかを考える必要があります。まず最悪のシナリオは、赤と月の二つの陣営に手を組まれることですね」
「確かに14騎ものサーヴァントを相手にするような事になれば、私達の敗北は必須となります」
彼のマスターであるフィオレがその状況を想像したのか硬い表情で応えた。
「ええ。いくらこのルーマニアにおいて最高の知名度を誇るランサーがいれども、数というのは単純な脅威です。現在確認している赤のセイバー、赤のランサー、月のセイバー、そして姿は確認できていませんが月のアサシン、どれも強力なサーヴァントです」
最悪の事態の想定に沈黙がおりる。そんな中でこの場に似合わない明るい声が沈黙を破る。
「ねえ、セイバー?月のマスターくんは自分のサーヴァントの事をガウェインって呼んだんだよね?」
黒のライダー、アストルフォ。セレニケ・アイスコル・ユグドミレニアが呼び出したサーヴァント。シャルルマーニュ十二勇士の一人に名を連ねる英雄である。
「あんなものはハッタリに決まっている!自らのサーヴァントの名を明かすなどありえん!」
ライダーの問いにゴルドが怒鳴りながら割り込んだ。
「ボクはセイバーに聞いたんだけどなー」
「セイバーには口を開く権利は与えていない!」
「戦闘の時は普通に話してたじゃないか?」
「……あれは非常時だったからだ」
「もうよしなさいライダー」
「はーい」
セレニケに止められたことで引き下がるライダーをゴルドは睨みつけている。
「本当に嘘だと思いますか?」
「自分のサーヴァントの真名は隠すものだと言っている。ギリシャの大賢者ともあろう者がわからんのか?」
「確かに真名は隠すもの。しかし、決めつけるのは早計かと。とはいえ情報不足のことでこれ以上議論するのは生産的ではありませんね」
その場は引いたケイローンだが、レオと名乗った少年が言ったことは真実だろうと半ば確信していた。多くの英雄やその卵を見て来たからこその観察眼は、映像越しの姿からさえ少年の本質に迫っていた。
「それでは今後についての話に戻ります。一先ず月の陣営に関しては置いておきましょう。当然、放置するわけではありません。使い魔により探索はします。しかし、発見してもこちらから仕掛けることはしません」
「あくまでも赤の陣営に集中すべきだと申すか?」
黒のランサーの問いに頷き、さらに言葉を続ける。
「ええ。いまだ目的がはっきりしない月の陣営に対し、こちらから仕掛けるのは愚策になる可能性が大きい。まずは当初の予定どおり、赤の陣営を優先的に叩くべきかと」
「王よ、引き続きこちらでも調査は続けます。今はアーチャーの進言通り、まずは御身の領土に踏みいる魔術協会の者共を滅ぼすべきかと」
「……よかろう。いずれにせよ余の領土に踏みこむ蛮族には、死をもって償わせねばならぬ」
「話の途中だがかまわないかな?」
今まで無言を貫いていた黒のキャスター・アヴィケブロンが口を開いた。
「何か策でもあるのかね、キャスター?」
「いいや、そうではない。警戒用に放っているゴーレムに反応があった。かなりのスピードでこちらに向かうサーヴァントを感知した」
「なんだと」
「こちらでも確認しました」
ダーニックの言葉が終わると同時に、トゥリファスに向けて突き進む大男の姿が映しだされた。
次なる戦いの幕が上がる。
一年空いたのに全く進まない第五話でした!
かきたいことが上手く言葉にできないし、赤と黒の視点もしっかりいれていきたいと考えているうちに手が完全に止まってました。
なぜ一作目からアポクリファを選んだのか……
次もいつになるかわかりませんがもし読んでくれてる方がいれば気長にお待ちください。
次回予定は月視点から戦闘までいけたらなと思います。
力尽きて月視点の会話だけで終わる可能性もあります