「まいったな〜」
そう薄く見えてきた月を見上げ、少しだるそうに頭をクシャクシャしている男、高坂朝也はつい先日アメリカから日本に到着したばかりであった。朝也は「とある事情」で日本の国立魔法大学付属第一高校に入学しなければならないのだが、そこで大きな問題に直面していた。入学金である。単なる高校ならまだしも国の財産である魔法師を育成する学校なのだから、かなり立派な金額を支払うのは目に見えているのだが、銀行のカードやら何やらが入った財布をどこかに落としてしまったのだ。
「俺の青春どうしてくれんだよ…」
はぁー、と大きな溜息を漏らし、とぼとぼ歩き始めた。
「雫、教科書買った?」
ほのかにそう聞かれた雫は、そのことをまったく覚えていなかった事に気がつく。
「忘れてた。今から書店で買えば間に合うかな?」
「まだ大丈夫だよ。行こっか」
うん、と雫はほのかと一緒に書店へ向かった。
「まだ開いてて助かったね」
教科書を無事に買い終え、雫とほのかは書店から出て来た。
「ありがと、ほのか。」
「ううん、いいよ。雫と学校行くの楽しみだし。」
私も、と雫に言われ、ほのかは照れ笑いする。
いつも通りの他愛のない会話の後、途中まで一緒だった二人も分かれて家に帰り始めた。
「結構遅くなっちゃったな」
もうすっかり空は闇に包まれ、綺麗な月が出ていた。雫は両手に教科書の詰まった手提げを持って、薄暗い街灯が照らす路地を歩いていた。あまり表情が豊かではないが、これから始まる高校生活を楽しみにしながら僅かに口角が上がり、軽やかな足取りで帰っていると、背後から声がした。
「お嬢ちゃ〜ん、お兄さん達と遊んでいかない?」
三人組の若い男達が話しかけてきた。ナンパか何かかと思った雫は無視して去ろうとするが、すぐさま男達が退路を断つように取り囲んだ。
「急いでるから、邪魔するなら攻撃する」
雫の口調が強くなるが御構い無しに一人が肩に触れようとしたその瞬間、雫の魔法が炸裂し、その男は反対側の壁に衝突するまで吹っ飛んだ。
「こいつ、魔法師か!ヤベェ」
「慌てんな。魔法師…、ちょうどいい。こいつを使ってみるか」
リーダー格の男は、ポケットから指輪のようなものを出し、指にはめた。
何かをする気配を察知した雫は魔法で対処しようと手を素早く伸ばした。がしかし、雫の魔法は発動せず、男達がニヤニヤ笑うだけだった。雫は慌ててCADが故障しているのではないかと慌て、確認するが、
「CADの故障じゃないんだよなぁ」
リーダーの男は見透かしたように、上機嫌で言った。
「こいつはアンティナイトっつって、キャストジャミングができる軍事鉱物で、まあ細かいことはよくわかんねぇけど、とにかく魔法師は魔法が使えなくなるらしいぜ」
「くっ…」
ついさっきまで優位に立っていた雫は突然立場が逆転し、余りに自分が非力な事に気がつき、這い上がる恐怖で言葉を失い、その場に立ちすくむ。
「そういうわけだから、ちょっと楽しもうぜ」
ジリジリと距離を詰め、やがて男は雫の上着を乱暴に脱がせた。そして、下に着ていたレースをナイフで切り裂き、綺麗な白い肌があらわになる。
「ひゃはっ、たまんねぇな」
息を荒げながら手を伸ばす男と目を閉じ、顔を背ける雫。
「助け…て」
次の瞬間、体が浮き上がった感じがして雫は目を微かに開けると、黒いマントにフードを被った日本では珍しい格好をした170センチ前後の男にお姫様抱っこされていた。
「…?」
「無事か?少し待ってて。すぐ終わるから」
男はそう言い残すと、来ていたマントを雫に被せると、二人組の方へ歩いて行った。
「誰だお前?いいとこだったのに邪魔すんなや。」
リーダーの方の男が苛立ってナイフを取り出したその時、いきなりそのナイフを持っていた手が切断されていた。
「があぁぁぁぁぁ!」
悲鳴にも似た醜悪な叫び声が聞こえ、リーダーの男は自分の血の池の中に倒れこみ、やがて動かなくなった。それを見てもう一人の連れの男は転びながら逃げようとしたが、突然胸にリンゴ一つ分くらいの穴が空き、絶命した。
「ありがとう。あなたは一体…?」
「怪我はないか?」
先ほどほんの30秒前後で二人を文字通り瞬殺した男は、倒れている雫の前にしゃがみ込んだ。すると今までの恐怖や緊張の糸が切れたのか、朝也の胸に顔を埋めてすすり泣く。朝也は照れながら恐る恐る雫の頭に手を置いた。
「ありがとう!本当にありがとう!君には感謝してもしきれないくらい感謝している」
雫の父、潮がお礼を言っているのは北山家の中の客間。朝也は雫を担いで北山家まで行き、潮に事の顛末を説明して今に至る。
「いえいえ、たまたま通りがかっただけですから。娘さんが無事で何よりですよ」
「何か私にできることはないかね。なんでも協力しよう」
何でもと聞いてピクリとした朝也は思い切って尋ねた。
「国立魔法大学付属第一高校に入学したいんですが、お金が全く無くて…。奨学金のようなものはあるんですか?」
「何と、雫と一緒の高校!運命的なものを感じるな。そんなことなら卒業までにかかる全金額私が代わりに払おう。」
いえいえと遠慮しようとしたが、とても断れる雰囲気ではなかったので、ありがたく受諾した。これで高校へ入れると安心していたその時、急に他の問題が発覚した。
「潮さん。高校の近くに格安物件とかありますか?寮は無いみたいだし、寝泊まりできる所ならどこでもいいんですが」
「なら、うちに住めばいい」
疲れてベッドで寝ていたはずの雫が客間に入って来て、思わぬ発言をした。
「流石にそれは…」
「雫、ナイスアイディア!朝也くん、うちでよければタダで生活できるが、どうかね?」
しかしこのままではヒモまっしぐらなので何かしたいと朝也が言うと、朝也をいたく気に入った潮は、雫を守ることを交換条件にし、結局朝也は北山家で居候する事に決定した。
潮が仕事に戻った後、部屋には雫と朝也だけになった。
「助けてくれて、ありがとう」
「いや、大したことしてないっすよ。」
部屋に女の子と二人きりで緊張しているからか、変な口調になってしまう。雫もそれを察してかクスッと笑い、朝也も緊張が解けた。
「私と同じ高校に行くって本当?」
「ん。そうゆう事になる」
それを聞いた雫は顔がパァと明るくなり、やった、と小さく呟いた。そして、もじもじしながら
「じゃ、明日休みだからショッピングいかない?もちろん朝也さんの生活用品とかを揃いに…」
と、赤面しながら朝也に提案する。
「本当⁈もちろん行く!」
二つ返事で了解する朝也の笑顔を見て、より顔が赤くなる雫は、バレないようにうつむきながら頷いた。
評価や感想などなんでもお待ちしています!
次回は朝也と雫がデート?