そのせいで原作だと数十ページが残っちまったぜ。やっちまったぜ。
契約書類と睨めっこを初め数分。
未だに何がダメだったのか分からなかった。レティシアが言った通りにそこまで時間は稼げないので、次第に焦りは思考を停止させていく。
そして、全てが抜け落ち思考が停止する。そう真っ白になった。
「嬢ちゃんなら出来るはずなんだ。何せお前は春日部孝明の娘だからだ!」
「なんで名前を」
「な、そんなまさかコウメイだと!」
「お前さんもよく知ってるはずだあの男のことを、なにせ俺は何度も命を救われ、ここアンダーウッドも守ってきた凄い男だったんだからな!」
ガロロはまるで自分の武勇伝を語るかのように嬉しそうに言い放つ。そこからどれだけ信頼し信用をしているのかか理解できる。
春日部孝明元ノーネームの一員であり兵藤一新と肩を並べていた人間にして、春日部耀の実の父親である。
そう、春日部は一誠と同じようにノーネームのメンバーの子供であったのだ。
この事を知らされていなかった春日部は真っ白になった頭が、途端に黒く染まっていく。大量の情報が脳を駆け巡る。
「嘘」
「嘘じゃねぇ!疑うなら帰ったら俺の家にある肖像画を穴あくまで見つめるがいいさ!言葉数が少なくて、不器用で、都合が悪いと小声になる、そのくせ羨ましいぐらいにモテ」
彼女の記憶にない事だらけだったが、それらが嘘だとは思えない。
話を聞くたび身体全体を懐かしく温かい気分が包み込む。
「何より、仲間のために力を発揮できる素晴らしい男だった」
父の言葉が脳裏に浮かぶ。
全て本当のことなんだと、初めてしれた多くの父の事に停止していた思考は徐々に動き出す。
「その娘である嬢ちゃんが、こんなチンケなゲームクリアできないわけねぇ。そうだろ?」
「そうだ。こんなゲームクリアできないわけが無い。だって...だって」
自分の想い人であればこの程度片手を捻るように解くだろう。
彼女以上の問題児であれば欠伸をしながら呆れた表情で解くだろう。
初めての友達ならば笑いながら楽しく解くだろう。
そして、春日部耀を救った春日部孝明ならばいとも容易く解くだろう。
この程度で躓けない。より強固に意思を固め契約書類を見つめ再試行する。
「どうだ?」
全神経を過去最大級に動員しているためガロロの声は聞こえず、より深い思考へ至る。
「正された獣の帯?」
彼女は行き着いた、問題点へと。
「正されたって事は、誤りがあったという事!これが勝利条件にかかる言葉なら、獣の帯...王道十二宮...いや、天体分割法そのものに誤りがあったんじゃ」
耀は壁の溝にはめられた天球儀の欠片を外し正しく並べていく。
白羊。金牛。双子。巨蟹。獅子。処女。天秤。天蠍...
「やっぱりだ。蠍座と射手座が繋がらない。太陽の軌道線上にある星は、十二個じゃなくて十三個だったんだ!」
そも、十二星座による黄道帯の分割法は遥か古代に作られたものだ。この古城自体が衛星として機能していたのであれば、より近代的で高度な天文学を学んでいてもおかしくない。
耀は急いで残りの欠片全てをかき集め並べるも、星座が繋がる事は無い。となれば、抜けている欠片がありそれが攻略の要なのだろう。
「みんな今すぐ蠍座と射手座の間にある星座をさが」
『そこまでだ、小娘ッッ!!』
これからだという時に敵は窓を突き破り侵入をしてきた。
周りが突然の事に気が動転しワンテンポ動きが遅れた中、一人だけジャックは即座に迎撃を行う。
ランタンから、業火を三つ召喚し放つ。これが残り最後の業火であったが、敵の強さが大まかながら分かったジャックは躊躇いなく使用する。
『小賢しいわ!木っ端悪魔がァ!』
が、敵は避ける必要性がないと身体を軽く動かすだけで、業火をあたりに散らした。
かすり傷ひとつ負わなかっ敵に驚愕したジャックは、咄嗟に近くにいた子供を押し出し敵に回廊まで弾き飛ばされる。
「ジャック!」
「だめ、ハクノ逃げて!」
ようやく身体がなれ敵の正体を視認する事が出来た。
サウザンドアイズにいるグリーをまんま黒で塗りつぶしたようで、大きく違う点は額にある大きくうねっている角に、胸元にある生命の目録だろう。
「グライア生きてやがったのか」
『久しいなガロロ殿。だが、再開を喜ぶ時間はない!コウメイの娘よ、お前が私の標的だ!』
「な、なんで」
『我が名はグライア=グライフ!兄ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ!今一度血族の誇りにかけ決着をつけようぞ!』
己をグライアと名乗った黒い鷲獅子は、口を開き雄叫びをあげる。
鉄すら容易に切断する爪が耀を引き裂こうと繰り出され、紙一重でよけるも白いワンピースの先が少し裂ける。
「今のうちにはやく十三番目を見つけて!」
「しかし、」
「はやく!」
ガロロは耀を助けたい。ものの戦闘力が明らかに劣る自分では足を引っ張るだけだと判断し、すぐに背を向け回廊へ駆け出す。
遠くなっていく背中をゆっくり眺める余裕を与えてくれる敵ではなく、すぐさま二撃三撃を繰り出す。
それもどうにかかわしながら、この場にいても不利だと破壊された窓から外に飛び出る。
無論グライアもついていき、焔の渦を作り出し先程よりも多彩な技を放つ。
過去一番強いと言って過言でもない敵との相対となる。
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「うーーん迷った」
『残念だが俺には分からん、便利なマップ機能なんて物はついてないからな』
「だよな...どうすっかな、勢いで入ったはいいんだけど......」
何故ここにいるのかは理由があった。
ランスロットが自ら地上に残り自身の後始末をすると言ったためだ。一緒に地上に残って手伝っても良かったのだが、戦力が固まりすぎるのもダメだと言われ古城へ突入する事にした。
レティシアもどきがいなくいとも簡単に壁をぶち抜いて侵入するも、暗闇の上に自分がどこを歩いているのかすら分からないそんな状況だった。
なので宛もなくブラブラ欠伸をしながら歩いてると、背後で瓦礫が転がる音が鳴りすぐに振り返る。
「誰だ!」
部分禁手をし両手持ちをした
「その剣...あんた一新の息子か!」
「うん?父さんの事知りあい?」
「まぁそんなとこだ、てか今そんな事話してる場合じゃない!」
顔だけを覗かせ様子を伺っていたガロロは馴染み深い聖剣を見つけ、笑みを浮かべながら物陰から出てくる。
強力な仲間を見つけられた事に安堵のため息を吐くが、相当慌てているのか身振り手振りもかなり大きく大げさになっている。
「嬢ちゃんが、春日部耀が大変なんだ!」
「詳しくその話を」
耀の身に緊急事態が起こっているのだと知ると、食い気味に何があったか聞き、全身赤い鎧で包むと廃墟を破壊しながら高速で耀の元へ向かう。
あまりの速度にソニックウェーブが発生しガロロは廃墟に埋まり、一新と同じように規格外過ぎると笑を零した。
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空での戦闘はやはりと言うべきか空での戦闘に慣れていたグライアに軍配が上がった。
このまま空で戦闘を続けても負けると瞬時に判断した耀は、自分の能力が最も輝くである廃墟でのゲリラ戦へと移す。
のだが、姿を何度も変化させるグライアになす術なく一方的に押されていた。
「はぁ...はぁ...」
『小娘その程度か?』
「このッッ!!」
肩で息をするほど疲れている中最近何故か使えるようになった剛腕に従い、姿が変貌したグライアへ突貫する。
最初の対面の時は黒い毛が生えたが、その全ては強靭な鱗へと変わり爪や牙がより鋭利に伸びる。
四足歩行で立つその様は西洋の龍そのものだった。
『しかし、解せんな何故生命の目録の力を使い変幻しない?そのギフトを使えばもう少しマシな戦いになると言うのに』
グライアから語られたのは衝撃的すぎる一言であり、硬い鱗に拳を防がれた耀は聞くことしかできない。
『それは生体兵器を製造するギフト。使用者は例外なく合成獣となり、他種族との接触でサンプリングを開始する。よもや知らぬまま使っていたのか?』
「サンプリング?...」
『そうだ。先程使っていた剛腕巨人族のものであろう、先日の襲撃の際に奪ったはずだ』
嘘だ!と叫びたい。が、グライアの言っていることは否定するには根拠がなさすぎた。
突然使えるようになった剛腕。不思議に思っていたがよくよく考えれば巨人族とのあの接触以降から、使えるようになっており友達に巨人族はいない。
「あぁぁああ゛あ゛!!」
『哀れだな、知らぬまま父親に化け物にされていたとはな。せめてもの情けだこの技で仕留めてやろう』
耀はがむしゃらに殴っていてそこに知性の欠片はない。そのため、龍の行動を見て回避する。そんな考えは存在していなかった。
龍の口元から火炎が溢れる。熱量で言うならばジャックの使っていた業火の何倍何十倍の威力があろうかと思われる。
首を九十度旋回させたグライアは、腹部を殴っていた耀に向け爆炎を放つ。
「一誠...」
意識が無くなり狂戦士となった耀は死を感じた直後に口から、彼の名が漏れた。
死と言う人類の終着点を前に呟いたまるで無駄なような言葉だが、たしかにその言葉は彼の耳に届いていた。
「そこかァァァァッ!!」
耀の隣の壁が細切れにされると、赤い鎧が光輝く双剣を携えて駆け出していた。その距離五mはくだらず、もう目前に爆煙が迫っている耀を助けるのは十六夜ですら難しいであろう。
そこを一誠は
「え、」
「デュランダルゥゥゥ!!!」
双剣から最も使い慣れたデュランダルに持ち替え、加速とはまた違う方法で移動し耀と爆煙の間に入る。
ここに武術を収めた物がいれば絶句していたであろうが、ここにそんな者はいない。今一誠が行った歩法が縮地だと言うことに。
縮地。
武術における最速の歩法である。
十歩の距離を一歩で進む。第三宇宙速度などとは違い目で追いかける事は、余程の武人でなければ不可能である。
一誠は何かしらの武術を収め縮地を習得していたのではなく、過去の赤龍帝達の経験を元に身体を動かしたに過ぎない。
ほぼ負けに近い大博打だったが見事一誠は縮地を成し遂げた。
地面に突き刺さったデュランダルにより爆炎は四方に散り、耀を脇に抱えて数十歩下がり一旦距離をとる。
『貴様...赤龍帝か...』
「おっ?そっちまで有名なのか?俺」
『ふっ、なるほどただの親の七光りだと思っていたが、以外にそうでもないようだな』
「そう思ってくれたんなら嬉しいぜ」
鎧の兜に隠れしたの顔は見えないが一誠の声から笑っているのが分かる。いや、分かってしまう。
「大丈夫か耀?」
「大丈...くっ」
「俺が来たからもう安心しろ、後ろで休んでろよ」
彼には悪気がないのだろう。純粋に心から思った事を言っているのだ。
剣を持ち替えグライアに彼は向き合う。また、また、耀は一誠に守られてしまう。
耀は何度も考えた事があった。
好きな一誠に何度も守らていた事について。
ガルド=ガスパーの時は庇われ大怪我を負わせてしまった。
ルイオス=ペルセウスの時は強くなっていた一誠に簡単に守られてしまう。
そう、毎回守られてしまうのだ。確かに一誠は優しく女子を守るのが当たり前だと思っているのだろうが、耀は余計に考えてしまう。
『このまま背中を見ているままでは父と同じようにいなくなってしまうのでは?』
耀は決して一誠の後ろに隠れ女の子扱いされながら守られたいのではない。
一緒に肩を並べ、息をし、血を流し『仲間』として戦いたいのだ。
確かに一誠の事は好きだ。好きで好きでしょうがない。もうやけだ愛してると言ってしまってもいいとすら思っている。
だが、それらすべての前に同じ仲間なのだ。一誠が肩を並べるのは十六夜や黒ウサギのような強者である必要がある。
だが、それには力が足りない圧倒的に。
じゃあどうすればいい?今のままでは負けるし、また守られてしまう。
分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
生命の目録は未だに分からないことだらけだ。もしかしたらグライアの言っていた事は真実だったのかもしれない。
だけど、違う。それは違うと思える。
これは力を奪うのではない。
無くなっていた力がより強大になり身体を駆け巡る。
「一誠ダメ。こいつだけは私がやる」
耀はゆっくりながらもボロボロな身体で立ち上がり、一誠の右手首を掴む。
「けど、今の耀は」
「私は弱い。けど...ううんだからいつまでも一誠の背中を見てるだけは嫌だ!一緒に肩を並べて仲間になりたい」
「......本気か?」
「超本気」
「分かった、だけどこれだけ約束な。このゲームが終わったら何でも言うことを聞いてやる、だから...絶対に死ぬなよ」
「うん」
展開していた鎧と剣を解除し息を整えその場から走り去っていく。
「ありがとう止めないでくれて」
『さっき言っただろう。最初から目的はお前だと』
「だったら見せてあげる私の...絆の力を」
耀は拳を前に向け勝利を宣言する。