「なんじゃこれぇ!!!」
ガルドを殴った自分の腕を見て叫ぶ。
一誠には自分の腕に赤い篭手などつけた記憶が無い。てか、この篭手自体全く知らない。
どうにか取ろうと引っ張ったり、隙間に手を入れるが一向に外れない。
もしこれが取れないと一生このままなのかもしれない。
ご飯を食べる時も、自慰行為もする時も...利き手が使えない......考えただけでゾッとする。
「この、この!!」
「落ち着いてください一誠さん。多分それはギフトの類です。消えろと念じれば消えるはずです」
「本当だな、消えろ...消えろ」
一誠が念じるとすぐに篭手が消える。
消えて良かったと安堵の息を吐く。
(これで出来るな。良かった...出来なくなるとか死ぬかと思った)
「それは...何故何故何故」
ガルドは篭手を見た瞬間、一誠の事を化け物を見る目で怯えていた。
何故そんなに怯えているのか分からないが丁度いいと飛鳥は近づき語りかける。
「ふふ、私達とギフトゲームをしなさい。期限はそうね...明日がいいわ。ギフトゲームはよく分からないから貴方が決めなさい。それと、勝てたら人質の件は黙っててあげる。けど負けた時は覚悟しなさい」
ガルドは涙を浮かべその場から走り去っていく。
あれ?逃げるの?と全員同時に思っていた。
日が暮れる黒ウサギ達と合流すると案の定全ての事情を聞いた黒ウサギは、うさ耳を逆立てて怒っていた。
「なんであの短時間にフォレス・ガロのリーダーと接触して喧嘩をうる状況になるんですか?それにゲームの日取りは明日?それも敵のテリトリーで戦う?準備している時間もお金もありません!その辺分かっているのですか4人とも!!」
「「「「ムシャクシャしてやった。反省もしてない」」」」
「黙らっしゃい!!」
誰が言い出したか分からないが、口裏を合わせたように一語一句間違えずに返答する。
その返答に激怒して髪が緋色に変化しどこからか取り出したハリセンで4人の頭を叩いていた。
それを見て内容を理解した十六夜は頷き、黒ウサギ達の間に入る。
「まぁいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃねえんだから、許してやれよ」
「十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんが、このゲームでは我々に何もメリットがない物何ですよ!」
黒ウサギが持ち出した『契約書類』は主催者権限を持っていない者が、ゲームを開催するのに必要なギフトである。
この『契約書類』を持ってきたのは逃げ帰ったガルドの代わりに、その手下の白髪の男でワーウルフのドルン=ワイツァが慌てて走って持ってきた。
その時は丁度黒ウサギと合流した時で『契約書類』を見て叫んだのは言わなくても分かるだろう。
そして、その『契約書類』には飛鳥の言った通り、こちらが勝てば罰を与え負ければ見逃すと言った事が書かれていた。
「私はね黒ウサギ。道徳云々よりも、あの外道がのうのうと野放しにされている事が許せないの。それにここで逃せば、いつかまた狙ってくるわ」
「し、しかし」
「僕もガルドを逃したくない」
2人の凛とした眼差しと、語られた言葉に諦めたようにため息を吐く。
それに十六夜が入ればどうとでもなると考えた。蛇神を倒した破格のギフト。ガルド程度なら簡単に倒せるだろうと、しかし問題児は予想の斜め上を行く。
「それでは十六夜さんくれぐれもお願いしますよ」
「何がだ?」
「ですからこのギフトゲームを」
「何言ってんだよ。俺は参加しねえぞ」
「当たり前よ」
「な、何を言ってるんですか!ちゃんと協力しないと」
「そういうことじゃねえ。これはコイツらが売って、ヤツらが買った。そこに俺が入るのは無粋だって言ってんだよ」
「あら、分かってるじゃない」
方や世界の果てを見ると言って蛇神を倒し、方やコミュニティのリーダーに喧嘩を売り、自分達の力だけで戦うと言う。
問題児だとは思っていたが、ここまでだとは思っていなく、黒ウサギの胃はマッハで穴が空きそうだった。だからもうなるようになれと諦めるように肯定した。
黒ウサギは頬を叩いて切り替えると、十六夜の戦利品である水樹の苗を大事そうに持ち上げ、これからするべき事を決める。
「ジン坊ちゃん。お先に帰っておいてください」
「けど、黒ウサギ」
「明日がギフトゲームだとするなら、早い内にサウザンドアイズに行って、ギフト鑑定をした方がいいと思いますので」
ジンはそうだねと頷くと、小走り気味に自分達の住まいへと帰還する。
それを見送った後今度は突然どっかに行くなんて問題児が出ないように、目を光らせながら歩いていく。
誰も脱走することなく黒ウサギの後に静かについて行くと、道中綺麗に咲き誇る桜が目に入る。
「桜の木?のわけが無いわね。花弁の形も違うし、真夏になっても咲き続けるはずがないわ」
「いやまだ初夏になったばかりだぞ、気合のある桜ならまだ残っててもおかしくないだろ?」
「え?今って桜のシーズンの春だろ?」
「...秋だと思うけど」
うん?と4人の話が噛み合わず頭を傾げる。
それを聞いていた黒ウサギがクスッと笑う。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系なども所々違うと思いますよ」
「それってパラレルワールドってやつか?」
「近いですが違います。立体交差平行世界論と言って...説明するとギフトゲームが始まる日までかかるので、これはまたの機会に」
立体交差平行世界論とは簡単に言うと、
今回はその何らかの要因αが箱庭、黒ウサギ達と言うことになる。
そんな小難しい話をしていると、黒ウサギは足を止める。サウザンドアイズに着いたようだ。
店の掲げている旗は『六本傷』とは違い、蒼い生地に2人の女神が向かい合っている物だ。
すでに日も暮れて看板を下げようとしている割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込んでストップをかけるが、
「まっ」
「待ったは無しですお客様。うちは時間外営業はしておりません」
「コンビニがどれだけ優秀だったか初めて理解したぜ」
「あぁ同感だな。商売っ気が無さすぎる」
「そう思うならどうぞ他所の店へ。それと貴方がたは今後一切のこの店への出入りを禁止します」
「出禁!?たったこれだけで出禁!?少しお客様を舐めすぎだと思いますよ!?」
日本であれば快く開くと思うのだが、やはりこれは名と旗印が無いのが大きいのだと十六夜は考えた。
その予想は見事的中で、コミュニティの名前を聞かれた黒ウサギは言い淀んでいた。
このまま押し黙るのは癪に障るので代理として答える。
「俺達のコミュニティ名はノーネームなんだが?」
「なるほど...それでは旗印を見せて貰ってもいいでしょうか?」
十六夜は相手の店員の腹黒さにすぐさま理解した。この店員は旗印を無いのを知っていながら会えて言ってきているからだ。
なにせ普通の客なら閉店間際でも入れるのが店の常識だろう。それなのに俺らを見ても片付けの手を止めることがなかった。
てことはノーネームの団員を全て記憶していて、その中に黒ウサギがいたからこそ門前払いをしているのだろう。
一層の事このまま殴り込んでやろうか?と思い始めた時、店内から謎の叫び声が駆け寄ってくる。
「ひいっっっっさしぶりだのぅぅぅ!!!くぅぅぅろぉぉぉうさぎぃぃぃぃ!!」
「うぎゃあ!!!!」
中から出てきた着物服を着ている白髪幼女が、黒ウサギの腹部に飛び込み一緒に浅い水路まで飛んでいく。
まさかの珍事件に頭が痛いと店員は頭を振る。
「なぁこの店にはドッキリサービスがあるのか?なら他のパターンも」
「ございません」
「有料でもか?」
「やりません」
真剣に説得しようとする十六夜に、真剣に本気で断ろうとする店員。一見ふざけているように見えるが互いに本気だった。
「白夜叉様!!なんでこんな最下層に!!!」
白夜叉、その言葉を聞いた一誠は一新の言っていた事を思い出す。
『中身はイッセーにやる。だがそれを取り出すには白夜叉の所にいけ』
一新の言っていたことが正しいならあの幼女に会いに行けと言っていたことになる。
もしかして聞き間違えたか?と首を傾げながらズボンのポケットの中にあるギフトカードに触る。
黒ウサギはどうにか白夜叉を引き剥がし、店側に投げるが足元が湿っていて、つい滑り一誠の方に飛ばしてしまう。
「あっ」
「うわ!危な!」
「ゴデバァ...お、おんし......殺す気か」
一誠は咄嗟に受け止めようと手を前に出すと、普通なら腹部を受け止めることが出来たのだろうが、生憎と幼女は背が小さく、喉に拳を叩き込む事になった。
「流石にそれはどうかと思うぜ」
「変態はどこまでいっても変態」
「ううんそうね...」
問題児3人と1歩後ろに引いて汚物を見るような目で見ていた。
なにせ目の前で幼女の殺人未遂......誰でも引くことになるだろう。
違うと弁明しようと、手に持っていた白夜叉を黒ウサギに投げ返して、またカオスな空間となっていた。
この店のオーナーでもあった白夜叉は謝罪をすると共に店の中へと案内して、自分の私室へと案内される。
私室に案内された5人は白夜叉の言う通り、近くにあるソファーへと腰を下ろす。
「さて、改めて自己紹介をするかのう。三三四五外門に本拠を構える、サウザンドアイズの幹部白夜叉じゃ」
「?外門って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若ければ若いほど、外壁の中の方に行き力も強大になっていくのですよ」
黒ウサギは分かりやすく適当な紙にパパッと外壁を書き、4人に見せる。
「超巨大なタマネギ?」
「いやバームクーヘンだろ?」
「私もバームクーヘンだと思うわ」
「バームクーヘンだな」
過去においてこの門をバームクーヘンだの巨大タマネギだとと例えた人物はいない。まさかの例えに肩をガックリと落とす。
黙って聞いていた白夜叉は面白いのうと笑う。
「実に面白い例えをするのう。ならばじゃ今いるこの場所はバームクーヘンの薄い皮の部分じゃな。そして、そのすぐ隣は世界の果て...つまり強力なギフトを持った幻獣達がうようよおる。そう、その水樹の持ち主のようなな。して、誰がどのようにして勝った?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いいえ。この十六夜さんが素手で倒しました」
自慢げに言った黒ウサギに白夜叉は驚く。
「なんと!まさかそこの童は神格持ちか?」
「それも違うと思います。もし神格を持っているならば見れば分かるはずです」
「確かにな...ならば何が?」
神格とは与えられるとその種の最高のランクに昇格させるものだ。
蛇神もその一つで、蛇に白夜叉が神格を与え巨大な水の蛇神として誕生させていた。
そして、その神格持ちを倒すとなると同じ神格持ちで無ければならない。眼には眼を歯には歯を神格持ちには神格持ちをと。
どんな理由で倒せたのか皆目検討がつかずかんがえていると、あのヘビの神格わ与えたのが白夜叉だと知った十六夜は獰猛な笑みを浮かべる。
「なぁ、お前はあのヘビより強いのか?」
「当たり前じゃ、私はこの東区画の階層支配者だぞ。この東区画の四桁以内にあるコミュニティでは並ぶ者のいない、最強の主催者なのだからな」
最強の主催者...3人の問題児を滾らせるのには十分な物だった。
「ふふ、つまり貴方を倒せば私達のコミュニティは東区画で最強ってわけね」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
「うん楽」
3人が闘気をむき出しで白夜叉を見ると、白夜叉はお前はと一誠を見る。
「いやいやいや。俺普通の高校生だぜ?無理無理」
「そうか」
「な御三方本気ですか!」
「まぁまて黒ウサギ。私も最近暇でな丁度遊びたいと思っておった」
黒ウサギの発言を止め立ち上がると懐から旗印と同じ紋が入ったカードを取り出す。
「して、おんしらに問おう。おんしらが望むは挑戦か?それとも......決闘か?」
刹那、全員の視界は瞬く間に変化する。
数々の記憶にない場所を転々と移動して、最後に辿りついたのは白い雪原と凍る湖畔......そして、水平に太陽が回る世界だった。