刀語 恋刀・真剣   作:乱月

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プロローグ

 虚刀流。

 

 数百年前、幻の剣術として史実に登場した、謂わば伝説の剣術流派。

 虚刀流が登場する文献の数が、その時代の文献の中でも圧倒的に少なく、その剣術が存在したかどうかさえ怪しい剣術であった。

 

 しかし、どの文献を見ても、虚刀流は最強であり、当時から現代まで日本最強の剣士として名を馳せている錆一族にすら、勝利を収めた、というものまでもが存在している。

 

 だがどの文献も信頼性に欠けるもので、本当に存在したかどうか、はっきりはしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「非常に面倒だ」

 

 現在、俺は非常に面倒なことに巻き込まれている。

 友人のアキラと帰宅途中、アキラはバッグごと財布を盗まれてしまった。

 しかしアキラは万が一のためと、バッグの中に発信器を付けていた。準備が良いのか悪いのか分からないが、俺はその発信器の発信源を追ってみると、そこは堀ノ外にある廃墟となったビルだった。

 街の不良どもの仕業か、ビルには落書きが施され、窓ガラスはほとんどヒビが入っている。

 

「なんだ、てめえは。ここはてめえみてえな奴が来るところじゃねえんだよっ!!」

 

 ビルを見ていた俺に気付いた不良達に囲まれる。

 どいつもこいつも俺と首一つ分小さい男で、ナイフや小道具をチラつかせているが、全く怖くない。どいつもこいつも威勢だけ一人前で、何の凄みもない男たちだ。

 

「俺の友達のバッグが、このビルにあると思うんだけど、知らないか?」

「知らねえよっ」

「つーかおめえ、自分の立場分かってる? さっさと金目のもの出せよ、川神学園の坊ちゃんよお」

 

 どうもここの連中とは言葉が通じないようだ。俺としてはさっさとアキラのバッグを返して貰って、この場から去りたいんだ。

 

「もう一度だけ聞く。ここにある盗んだバッグを出せば、俺は帰る」

「てんめえ……人の話を聞いてんのかぁあ?!」

 

 男の一人がナイフを取り出して、俺に向ける。

 そして、ナイフを持つ男の右腕の、間接部じゃない場所が曲がる。

 やっちまったと、俺はそう思いながらも男の右腕を蹴り砕いた右足を地面に下ろす。

 腕を折られた男は、その激痛から地面にひざまずき、悲鳴のような叫び声を上げる。

 

「て、てめえ、なにしてくれんだあ?!」

「だから言ってるだろ? 俺はバッグを返して欲しいんだ」

 

 お前らとやり合うつもりはない。

 面倒臭いし、これ以上俺と戦おうって言うんなら、お前等の存在を否定しかねない。

 

「俺がお前等を否定する前に答えろ。盗んだバッグを返す気はあるのか、それとも否定されたいか」

 

 男たちは俺の異常さに気付いたのか、大人しく着いてこいと、ビルの中へ案内された。ビルの中も、思った通りゴミや汚れで汚い。

 ビルの最上階には、男達のリーダーと思われるスキンヘッドの筋骨隆々な二十代の男性が黒いソファに悪役よろしく座っていた。

 

「おい、誰だよこいつ?」

「荒木さん、それが、こいつ盗んだバッグを返せってうるさくて……」

「はあ? 知らねえよ。んで俺に聞くんだよ、言ってるだろ? このビルに来る奴ら、全員ヤれって」

「そ、そうなんですが、こいつ、普通じゃないんですよっ。さっきも一人、一瞬でやられちまって……」

「それがどうした? こいつも例外じゃない。お前等はそいつにやられたいのか、それとも俺にやられたいのか?」

 

 荒木と呼ばれた男が睨みを利かせると、途端にこの場所にいる奴らが俺に殺気を向ける。

 だから、面倒だからやりたくねえんだよ。

 

 俺は仕方なく、一の構え《鈴蘭》を取る。

 

 完全に囲まれたこの場所で、一番効果的に発動できるのはあの奥義しかないだろう。

 と、そんな事を考えていると、突然背後から女性の声が響き渡った。

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ、ここに見参!!」

 

 金髪に青い瞳、さらにレプリカと思われるレイピアを持った俺と同じく川神学園の制服を着た女学生だった。

 確か4月にドイツからきた転入生だ。どうしてこいつがここにいるんだ?

 

「悪党共、ここで会ったが100年目。神妙にお縄を頂戴しろ!!」

 

 そう言うと、突如転入生は俺に敵対心を抱いていた男達へと攻撃を始めた。男達も訳が分からず戦うが、転入生は思った以上に強く、男達を倒していった。

 と、転入生の背後を鉄パイプを持った男性が振りかぶると、突如窓が割れ、振りかぶった男の鳩尾に一本の矢が貫いた。

 

「流石京だな。的確な援護だ」

 

 転入生はつぶやき、俺は窓の外を見る。数百メートル離れた建物の屋上には弓道着を着た女性がこちらを狙っていた。

 すると割れた窓からさらにポニーテールの女性が乱入。

 

「同じく川神一子、参上!」

 

 どうなっているんだ? なんでこいつらがここを襲撃している?

 まあ俺の手をわずわらせずにこいつらを倒してくれるのは嬉しい誤算だ。

 俺は構えを解いて、アキラのバッグの捜索に入った。

 

「荒木隆児!! 貴様の悪事は全て私達にお見通しだ!! 窃盗放火暴行傷害っ! 警察まで着いてきて貰うぞ!!」

 

「舐めんなよ、このクソアマど」

 

 も、と言おうとしたところで、突然荒木という男は倒れる。

 その荒木の背後には、大変発育のよろしいお嬢さんが剣を構えていた。

 

「す、すすすみません、思わず、斬っちゃいました」

 

 と照れながら喋るお嬢さん。いやいや、思わず斬るって俺かよ。

 こっちも無事アキラのバッグが見つかったし、さっさとお邪魔しますか。

 

「待て、そこのお前」

 

 と、金髪少女に呼び止められる。

 何か嫌な予感がする。

 

「お前もここの奴らの仲間だろう? 大人しく警察へ着いてこい」

「やっぱりそんな勘違いか。悪いが、俺はそれを否定する」

 

 と、俺はクラウチングスタートような構えを取る。

 彼女たちもそんな俺に対して構えを取り、俺は言った。

 

「位置について」

 

 腰を上げ、体重を前方に掛けながら力を込める。

 

「ヨーイ、ドンッ!」

 

 俺は一直線に外へと続く最も短い窓へめがけて駆ける。

 

 窓から飛び降り、そのまま俺はアキラの待つ方向へと駆けだした。

 

 四階の高さからまさか飛び降りるとは考えてもいなかったのか、彼女たちは俺を追うことなく、ビルから俺を呆然と眺めていた。

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