アキラにバッグを返すため、事前に落ち合うと約束していた変態橋の下へ行くと、そこには女制服を着たアキラが外国製のキーボード付きスマートフォンを弄くっていた。
「うん、相変わらず伊那の仕事は速いね。関心関心」
「何が感心だよ。面倒な事にしやがって。これでいいだろ?」
「ありがとう。いつも助かるよ」
「そう思うなら引ったくられんなよ」
アキラは満足そうな顔でバッグを受け取ると、それを背負ってまたスマホを弄り始める。
アキラは有名な情報屋で、こうやってスマホやコンピュータ関連の物を使っているときは、依頼人と交渉している時だ。
普通ならこれで情報を得るのだろうが、アキラは独自の方法により、情報を得ている。その方法は、俺にも分からない。
「今、学園の同級生から依頼が来ているんだ」
「珍しいな。学校の中にお前と取り引きできる相手がいるなんて」
アキラの取引相手は、大抵裏世界の住人や政治や大企業関係の関係者だ。それ程まで深い相手と取り引きしている中、アキラに依頼をする学生とはいったい誰だ?
「うん。さっきとある不良集団の一斉検挙があったんだって。それで一人、逃亡者がいるみたいだからその居場所と情報を送った」
「さっき逃げた奴の居場所なんか分かるのか? 幾らお前でも、無理だろ」
「それが無理じゃないんだよね」とアキラはスマホを俺の方に向ける。
そこには長身の男性の写真があった。
服装は俺と同じ川神学園の制服。長髪を無理矢理ひとまとめにしたような黒髪。そして俺とそっくりな顔。
「俺だな」
「伊那だね」
「それで、俺の居場所は送ったのか?」
「もちろん。僕の仕事は迅速丁寧正確がモットーだからね」
あー面倒だ。これから警察に行って俺が逃亡者だっていう事を否定するのも、これからここへくるだろう追っ手を相手するのも面倒だ。
「で、どうする? あと数分で依頼主の仲間が来ると思うけど、何か僕から情報が欲しい? 今回は友情出血大サービスで無料だよ」
「今回は、っていつもだろ」
「細かいことは気にしない気にしない。で、どうするの?」
そうだな。今回はその情報を求めた奴の情報が欲しいな。それとその仲間。
その事をアキラに伝えると、アキラは淡々と情報を話し始める。
「さっきの依頼人の名前は直江大和。川神学園二年F組。
学園では軍師という愛称で呼ばれていて、交友関係の広さや学園の成績も優秀。
それで、今回こっちに向かってくる直江君の仲間で最有力候補者は、ご存じ川神百代さん」
「川神百代って、あの?」
「伊那の想像通り、女好きで武神として有名な川神百代」
面倒臭いって言ってる場合じゃないが、何も事の一部始終を理解しているアキラが、川神百代に俺があいつ等の仲間じゃないって事を否定してくれればいい事じゃねえか。
「と言うわけで、武神の説得を任せたアキラ」
「うん、任せられた」
と言うわけで、武神が降臨した。いや、本当に降臨なさった。
空からどこぞのドラゴンボールかスーパーマンよろしく生身のまま飛んできたよ。
「カワイコ発見!! どうだい、これから一緒にお茶でも?」
しかも俺に目もくべず真っ先にアキラに飛びついた。良いぞ、今日のアキラは女だから楽して川神百代を説得できる。
「あの百代さん、ちょっと話し良いですか?」
「あ、ちょっと待った。その前にちょーっとやること思い出した」
そう言うと、川神百代は俺に正対し、余裕の笑みで言った。
「お前か、大和が言っていた逃亡犯。仲間も捕まって私に見つかったのだから、諦めて大人しく捕まった方が身のためだぞ? 私もさっさとこのカワイコちゃんと遊びたいし」
おい、最後に本音が漏れてるぞ。
「百代さん、その人はちが、」
「下がっていた方がいいぞ、カワイコちゃん。こいつ、かなり出来る。しかも大人しく捕まってくれそうにないな」
「だから、僕の話をきいてくだ--」
ニヤッ、と川神百代は不適で不気味な笑みを浮かべる。
どうやらアキラの話しに耳を貸すつもりがないらしい。
面倒だ。と俺は頭を掻いて、一の構え《鈴蘭》に構えた。
アキラは咄嗟に俺と川神百代と距離を置く。川神百代との戦闘の間に何とかしてくれよ。
「やる気だな。構えを取ったというのなら、もう引けぬぞ?」
「ここで逃げても百代さんに逃げきれる訳ないですし、俺が幾らあいつらの仲間じゃないって否定しても無駄でしょうし。まあ時間稼ぎということで、数分間お相手しましょう」
面白い、と言って川神百代は急に俺との間合いを縮めた。
「川神流奥義、無双正拳突きッ」
「菊」
川神百代は常人では捉えることが出来ない程速い正拳を繰り出した。
俺はその正拳を避けながらも右腕と左腕、そして背中で挟み梃子の原理を利用して川神百代の右腕を折った。本来であれば刀や武器などの破壊に特化した剣術だが、咄嗟の判断で川神百代の腕を破壊した。
しかし川神百代はそんな事に微塵も気にせず、俺の後頭部をフック気味に殴る。そのまま俺は吹き飛んで、多馬川の対岸まで吹き飛ばされた。
「ハハハハハハハハッ!! 良いぞ、お前、この私が傷を負うなんて久しぶりだ!!!!」
「いっつ…………って、いやいや、オカシいでしょ、さっき俺右腕破壊したよね?」
見れば既に俺が負うわせたはずの右腕は治癒されており、川神百代は無邪気な子供のように笑いながら構えを取る。対する俺も、陸上の短距離走を思わせるクラウチングスタートに似た虚刀流七の構え《杜若》を構える。
「一つ、聞きたいことがある」
「なんだ、面倒なのは嫌だぞ」
「お前の流派は何だ? 私は数々の武道かを見てきたが、そのような拳術は初めて見る」
「面倒だ」
「そうか、ならばこれで決める」
そういって、川神百代は集中し始める。
対する俺も、腰を上げて前方方向に体重を乗せる。
「川神流奥義--」
「第七奥義--」
と、決着が突きそうな場面で、誰かのケータイが鳴り出した。
「すまない、私だ」
と構えを解いてナチュラルにケータイに出る。俺も同時に構えを解く。
しばらく川神百代は電話越しの相手と喋り、終了間際には凄く落ち込んだ表情を浮かべていた。
「私の弟からだ。どうやらお前への疑いは晴れたようだ。しかし私は暴れたりない。この続きは、」
「面倒」
「だよな。はあ、さっきのカワイコちゃんのナンパするか」
アキラが上手く事を運んでくれたのだろう。川神百代はそのまま、アキラの方へナンパに向かった。