魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうも(゜▽゜*)

今日は生徒会室編。

では、どうぞ( *・ω・)ノ


第十六話 生徒会室

その日、エドは朝からめんどくさそうな顔をしていた。

 

なぜなら……

 

 

「エドワードくぅ~ん!エ・ド・ワ・ー・ドくぅ~ん!!」

 

 

家を出た瞬間、後ろから大きな声で手を振りながら声をかけてくる生徒会長に遭遇したのだから。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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 ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

(な、なんでこんな朝っぱらから、生徒会長なんかに遭遇するんだ……)

 

 

エドは苦い顔をしながら、隣を意気揚々と歩く七草真由美(さえぐさまゆみ)に視線を向ける。

 

真由美は笑顔で言った。

 

 

「おはようエドワードくん!」

 

 

「…………おはようございます」

 

 

「もう元気ないわよ?こんなに天気もいいのに」

 

 

「……逆に生徒会長さんはこんな朝っぱらから元気ですねぇ」

 

 

「それはそうよ。将来有望そうな子がいっぱいいて……これから楽しくなりそうなんですもの」

 

 

「…………へぇ。そうですか」

 

 

真由美は意味ありげな視線をエドへと向ける。

 

エドもその視線から目をそらさずに、真由美の顔をジッと見つめる。

 

真由美の意図としてはエドの反応を見るために見つめ、エドとしてはここで視線をそらすのは真由美に負けた気がするため、互いに視線をそらせずにいた。

 

お互いがどんな反応をするのか伺っていたのだが……二人の周りではそうではなかった。

 

より詳細に言えば……

 

通学途中の二人の様子を商店街の面々はニヤニヤしながら見ていた。

 

そして二人とも客観的に見れば……美形であり、その上小柄で可愛らしいため、周囲の目をよりいっそう釘付けにしていた。

 

エドのことを良く知っている商店街の面子は特に温かく見守っていた。

 

こんな話を小声でしているほどだ。

 

 

『おーおー……エドのやつ朝から見せつけやがって』

 

 

『あの小さくて可愛らしい女の子……テレビで見たことあるよ。ほら、あの魔法で競う大会のやつ』

 

 

『雫ちゃんや、ほのかちゃんに強力なライバル出現かしら……』

 

 

『二人ともちんまい子でかわいいねぇ』

 

 

そんな二人にツッコミを入れる猛者が現れる。

 

 

「ようエド!朝から彼女と見つめあって色ボケてるって?」

 

 

 

ズルッ

 

 

 

エドはその言葉を聞いて前にこけてしまう。

 

そしてすぐに立ち上がり、言い返した。

 

 

「ただの学校の生徒会長だって!!」

 

 

「そうか生徒会長をたらしこんだか。やるな豆!!」

 

 

「………………!!…………ああ言えば……こう言う!!」

 

 

エドは座りながら頭を()(むし)る。

 

 

「ストレスでハゲるぞ?」

 

 

その人物は自転車から降りてエドに笑顔で話しかける。

 

真由美は二人のやり取りを唖然と見ていた。

 

するとその人物は真由美にも話しかけた。

 

 

「おっと、すまねぇなお嬢さん。俺は警察官の彪図(ひゅうず)(ます)だ。一応そこの金髪豆の友人だ。よろしくな」 (以降ヒューズで統一)

 

 

「あ、はい。第一高校生徒会長の七草真由美です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

二人は握手をかわす。

 

ヒューズはエドと偶然知り合った。

 

エドが夜遅い時間に商店街を散歩しているとき、パトロールをしていたヒューズが声をかけたのが始まりである。

 

それ以降、二人は会うことが多かったのでいつしか気軽に話すような関係となっていた。

 

 

「しかし七草っていうとあの十師族の娘さんだろ。エド、お前いつの間にこんな可愛らしいお嬢さん物にしたんだ?」

 

 

「だ・か・ら!さっきから違うっつてんだろうが!!それよりあんた今、仕事中だろ!?パトロールはいいのかよ!?」

 

 

「安心しろ。こう見えてしっかりやってるよ。で、お前さんを見つけたから、挨拶がてら面白い噂を教えてやろうと思ったんだよ」

 

 

「噂?」

 

 

「エド……お前さん既に商店街中で噂になってるぞ?可愛らしい彼女と登校してるって」

 

 

ヒューズは真由美をチラリと見る。

 

その視線の意図を理解した真由美はコクリと頷き、すぐに行動に移した。

 

 

「一緒に学校に行きましょう~エドワードく~ん。私達……恋人同士だし」

 

 

そう言いながら、エドの左腕に抱き付く真由美。

 

 

「い、いきなりを何を言い出すんだあんたは!?」

 

 

エドは真由美のいきなりの行動に赤くなり、狼狽(ろうばい)する。

 

エドワード・エルリック……こう見えても中身は精神年齢百歳を超えている。

 

だが身体が若くなった影響からか精神がそれに引っ張られ、最近子供時代のように精神的に未熟な面が出始めたりしている。

 

つまり端的に言えば……恥ずかしくなっていた。

 

 

「じゃあおっさんは、そろそろ仕事に戻るとしますかね。若者たちよ達者でな!わっはっはっは!」

 

 

そうしてヒューズは元気良く笑いながら自転車で去っていった。

 

 

「くぉらあああああ!!場を荒らすだけ荒らして……逃げんじゃねえええぇぇぇぇ!!!!」

 

 

エドの渾身の叫びは……虚しく商店街に響くだけだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「じゃあエドワード君の家はあそこだったのねえ」

 

 

「ええまあ。それよりそろそろ腕を離してくれませんかねえぇ!生徒会長さん!!」

 

 

「え~……どうしよっかなあ~」

 

 

そして真由美はエドの左腕に抱き付きながら登校を続けていた。

 

当然それは学校に近付くにつれて目立つことになる。

 

何よりエドは深雪と同じ入試同率の第一位、真由美は生徒会長であるため非常に目立っていた。

 

さっきから行き交う男子生徒達は常にエドに羨望・嫉妬・怨嗟の視線を向けていた。

 

すると、前方に見知った面子の後ろ姿があった。

 

 

「あ、あれ達也君と深雪さんじゃない?」

 

 

「みたいだな」

 

 

(()()()ねぇ……)

 

 

エドは真由美に腕を引っ張られながら歩く。

 

さらに真由美は大きな声をあげた。

 

 

「達也くーん。た・つ・やくぅ~ん!!」

 

 

大きく手を振るおまけ付きで。

 

 

(この女……完全に猫被ってやがる)

 

 

エドは辟易しながら、その後を連れられて歩いていく。

 

達也達はエドと真由美が腕を組んでいることに一瞬驚くものの、挨拶をかわした。

 

 

「「「「「お、おはようございます」」」」」

 

 

そしてレオとエリカが話しかける。

 

 

「ど、どうしたんですか会長!?」

 

 

「っていうか下の名前で呼んで!?しかもエドと腕組んでるし!?え!?二人ってそういう関係!?」

 

 

「ちげーよ!」

 

 

エドは声をあげる。

 

 

「もしかして昨日のことですか!?」

 

 

レオとエリカがビクビクしながら何やら構えつつ真由美に質問をする。

 

奇しくも二人とも同じファイティングポーズであった。

 

この二人……相性は良いのかもしれない。

 

 

「いえ、そうじゃなくてね……司波達也君と司波深雪さんを生徒会室でのランチに招待しようかと思って。もちろんエドワード君も」

 

 

そこに真由美はエドに視線を向ける。

 

 

「めんどくせぇからパス」

 

 

エドは即座に断る。だが真由美の目がキラリと光る。

 

 

「……せっかく私と貴方、二人の今後について話し合おうと思ってたのに……私……悲しいわ……」

 

 

「オレがいつあんたと付き合った!?」

 

 

「昨日はあんなに熱く語り合った仲じゃない」

 

 

「少し校門前で話しただけだろうが!?」

 

 

「オープンスクールで私にあんなに熱い視線を向けていたのに?」

 

 

「あれは少し目が合っただけだ!!」

 

 

エドはゼェゼェ言いながら……ガックリと首を落とした。

 

 

「分かったよ。行けばいいんだろ……行けば。でもオレは飯は食堂で食うつもりなんだが」

 

 

「じゃあ約束ね。食事に関しては問題ないわ。ダイニングサーバーがあるから。あ、貴方達も良かったら一緒にどう?」

 

 

「「「いえ、結構です」」」

 

 

レオ、エリカ、美月は即座に断った。

 

 

「遠慮しなくていいのにー」

 

 

「いえ、遠慮じゃないです」

 

 

真由美達が話してる間、司波兄妹は相談していた。

 

 

「どうしましょうお兄様?」

 

 

「深雪の好きにしていいぞ?」

 

 

「私はお兄様に従います」

 

 

「深雪はもっとワガママを言ってもいいんだぞ?」

 

 

だが不思議なことにすぐにイチャイチャオーラができるため、二人の周りは自然と人が遠ざかっていた。

 

そして相談が終わった司波兄妹は真由美へと視線を向ける。

 

真由美はエドにくっついているため、自然とエドも視界に入るが。

 

深雪はジッと真由美を見つめる。

 

 

(でも正直、お兄様に対するさっきの親しげな呼び方といい……会長とお兄様を近づけるのは危険な気が……)

 

 

そこで深雪の視線は疲れきってるエドの方へと向く。

 

 

(でも会長は今はエドワードさんに夢中な様子……そうだわ!このまま会長とエドワードさんをくっつけてしまえば!会長に対するお兄様への注意をそらせられる!?)

 

 

「あ、別に取って食おうってワケじゃないのよ?」

 

 

真由美が深雪の警戒を下げるように、笑顔で話す。

 

 

「ただより良い学園を作るために貴方の力を少し貸してほしいなって思って。貴方もこの学園には思うところがあるでしょ?」

 

 

「……分かりました。では兄と一緒にお邪魔させていただきます」

 

 

「よかった。じゃあ、詳しいお話はその時に。お昼に生徒会室でお待ちしてますね。では、また」

 

 

そしてくるりと背を向けた真由美は、スキップでもしそうな足取りで校舎へ立ち去った。

 

 

「はぁ~……」

 

 

それを見送ったエドは大きくため息をついた。

 

この登校の十五分でエドは、精神的にかなり疲れきっていた。

 

だが彼を襲う心労はこれだけではなかった。

 

 

「「おはようエド……」」

 

 

そのとき、底冷えするような声が校門前に響いた。

 

エドは冷や汗をかきながら後ろを向く。

 

 

「ずいぶんと楽しそうだったね」

 

 

「腕まで組んでた」

 

 

そこには目の笑っていない笑顔のほのかと、いつもと変わらない無表情のはずなのに目が据わっている雫の姿があった。

 

エドはなぜだか胃が痛くなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

そして早くも昼休み。

 

深雪と一緒に教室を出たエドは達也と合流すると、足取りが重く感じながらも生徒会室へと向かった。

 

途中、司波兄妹が相変わらずイチャイチャオーラ全開で話し始めたので生徒会室につく頃には、エドの顔は死んでいた。

 

生徒会室は校舎の四階の廊下、突き当たりにある。

 

見た目は他の教室と変わらず、合板(ごうはん)の引き戸であった。

 

木彫りのプレートと、壁にあるインターホン、そして巧妙にカムフラージュされている数々のセキュリティ機器が目立っていた。

 

そしてプレートには『生徒会室』と刻まれていた。

 

ノックは深雪がする。

 

歩いていた順番は達也、深雪、エドであったが、生徒会室に呼ばれたのは深雪とエドのため、ノックするのは二人の内どちらかである。

 

だがエドは後ろに下がることで辞退したので空気を読んだ深雪が必然的にノックすることになる。

 

 

「司波深雪、司波達也、エドワード・エルリックの三名揃いました」

 

 

「どうぞ」

 

 

微かな作動音と共に扉のロックが外れる。

 

引き戸の取っ手には達也が指をかけ、深雪を庇う様に戸を開いた。

 

その様子を後ろで見ていたエドは、達也の行動に違和感を感じていた。

 

 

(こいつ……護衛みたいな動きしやがる)

 

 

扉が開く。

 

中には四名の女性がいた。

 

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

 

正面奥の机から声がかけられる。

 

真由美は三人を笑顔で手招きして入れる。

 

深雪が先に通り、その次に達也、最後にエドが入った。

 

深雪は手を揃え、目を伏せ、礼儀作法のお手本のようなお辞儀を見せる。

 

これには思わず、達也以外の全員が驚いた。

 

 

「失礼します」

 

 

(どこかのご令嬢か?少なくとも一般家庭って線はねぇな)

 

 

エドだけは深雪の動作から分析をしていたが。

 

 

「えーっと……ご丁寧にどうも」

 

 

深雪の丁寧な所作を見せられて流石の真由美も少したじろいでいた。

 

 

「どうぞ掛けて。お話は食事をしながらにしましょう」

 

 

そして奥から深雪、達也そしてエドが席に座った。

 

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

 

リスのような印象を持つ二年生の女子生徒が三人に聞く。

 

司波兄妹は精進を選び、エドはお肉を選んだ。

 

女子生徒は壁際に置かれた和箪笥(わだんす)ほどの大きさの機械を操作し、席へと戻っていく。

 

しかし気のせいでなければ、少し目を輝かせながらエドの方をチラチラと見ていた。

 

 

「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音(いちはらすずね)、通称リンちゃん」

 

 

「……私のことをそう呼ぶのは会長だけです」

 

 

鈴音はきつめの印象ではあるが、顔は整っており、背が高く手足も長い。美人という表現にふさわしい容姿の持ち主だ。

 

 

「その隣は知ってますよね?風紀委員長の渡辺摩利(わたなべまり)

 

 

「よろしくな」

 

 

摩利は一瞥してから軽めのウィンクをする。

 

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

 

「会長……お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。私にも立場というものがあるんです」

 

 

あずさは真由美より小柄であり、童顔で上目遣いの潤んだ瞳は、泣き出しそうな子供に見える。

 

エドはその様子を見て思わず笑ってしまった。

 

 

「あーちゃん……プッ」

 

 

「!!」

 

 

あずさは顔を赤くしながら、目の前のエドを涙目で睨み付ける。

 

エドはその視線に気付きながらも、目を合わせないようにした。

 

真由美は二人のやり取りに気付きながらも紹介を続ける。

 

 

「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

 

(はんぞーくん?ああ、あのメンチ切ってきたいけ好かねえ野郎か)

 

 

エドの脳裏に入学式で睨んできた長身の男の姿が浮かんだ。

 

 

「私は違うがな」

 

 

「そうね。摩利は別だけど。あ、できたみたいよ」

 

 

ダイニングサーバーのパネルが開き、摩利以外全員に料理が配られた。

 

摩利は弁当を取り出し目の前に置いた。

 

そのとき、深雪が話しかける。

 

 

「渡辺先輩、そのお弁当はご自分でお作りになられたのですか?」

 

 

「そうだが……意外か?」

 

 

「いえ、少しも」

 

 

達也が間髪入れずに否定する。

 

 

「普段から料理をしているかどうかはその手を見れば分かりますから」

 

 

「うっ……そうか」

 

 

摩利は気恥ずかしさを覚えて顔を赤くした。

 

エドはフォークでお肉を食べながら思っていた。

 

 

(天然ジゴロめ……)

 

 

「そうだ。お兄様、私達も明日からお弁当にしましょうか?」

 

 

「それはとても魅力的だけど……二人になれる場所がね……」

 

 

「……兄妹というより恋人同士の会話ですね」

 

 

鈴音の言葉に司波兄妹を除いたここにいる全員が同じ事を思っていた。

 

 

「そうですか?まぁ、確かに考えたことはあります。血の繋がりがなければ……恋人にしたい……と」

 

 

気のせいでなければ、ピンク色のイチャイチャオーラがこの兄妹からは出ていた。

 

その様子を見て、生徒会の面子まで赤くなっていた。

 

 

「もちろん冗談ですよ」

 

 

「「え!?」」

 

 

あずさと深雪が声をあげる。

 

 

「ん?」

 

 

達也はそんな深雪の様子を一瞥する。

 

深雪は顔を赤くさせながら、静かに俯いた。

 

 

「な、なんでもありません」

 

 

少し気まずい空気のまま、生徒会室での食事は続いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

 

真由美の一声に注目が集まる。

 

 

「当校の生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長に選任・解任が委ねられています。各委員会の委員長も一部を除いて会長に任免権(にんめんけん)があります」

 

 

「私が務める風紀委員長はその例外の一つだ。風紀委員は生徒会、部活連、教職員会の三者が三名ずつ選任するが、その内部選挙によって風紀委員長は選ばれる」

 

 

(ふーん。たかだか高校生の内部組織にしてはしっかり組織化されてんのな)

 

 

エドは考えながらも、しっかり聞いていた。

 

 

「うん。さて、これは毎年の恒例なのですが新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。深雪さん……私は貴方が生徒会に入って下さることを希望します」

 

 

真由美は深雪の目を真っ直ぐに見て言う。

 

 

「引き受けていただけますか?」

 

 

深雪は手元を見たあと、達也へ視線を向ける。

 

この場合の生徒会に入るということは言うまでもなく、生徒会の役員になるということだ。

 

達也は深雪の背中を押す意味も込めて、小さく頷いた。深雪も小さく頷くがなぜか思い詰めた瞳をしていた。

 

 

「会長は兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

 

「!!」

 

 

エドは隣にいる達也が僅かに目を見開いたことに気付く。

 

 

(動揺している?)

 

 

「すごい成績ですよね?先生も驚いていました」

 

 

「成績優秀者や有能な人材を生徒会に迎え入れるのなら、私よりも兄の方がふさわしいと思います!」

 

 

そして深雪は勢い良く立ち上がる。

 

 

「私を生徒会に加えていただけるというお話についてはとても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒というわけには参りませんでしょうか?」

 

 

「おい深雪!?」

 

 

達也は深雪に声をかけるが、深雪は止まらず最後まで言い切った。

 

 

「残念ながら、それはできません」

 

 

だがその回答は真由美ではなく、鈴音が答えた。

 

 

「生徒会の役員は第一科の生徒から選ばれます。これは不文律ではなく、規則です。これを覆すためには生徒総会で制度の改定が決議される必要があります」

 

 

鈴音の言っていることは最もであった。

 

これは学校規定で定められたもの、云わばルールである。

 

深雪の言っていることは、それを無視して無理矢理入れようとする子供の駄々と同じようなものであった。

 

 

「……申し訳ありません。分を(わきま)えぬ差し出口、お許しください」

 

 

「いえ、デスクワークなら成績優秀者はむしろ適材なので本来なら欲しいところなのですが……生徒会が規則を破る訳にも参りませんので」

 

 

それを深雪も分かっているのか、素直に謝罪し、深々と頭を下げる。

 

 

「ええと、それでは、深雪さんには書記として、今期の生徒会に加わっていただくということでよろしいですね?」

 

 

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」

 

 

再び頭を下げた深雪に、真由美は満面の笑顔で頷いた。

 

 

「具体的な仕事内容はあーちゃんに聞いてくださいね」

 

 

そして真由美の視線は次にエドへと向く。

 

 

「エドワード君にも伝えたいことがあったの」

 

 

エドは胡散臭そうな視線を真由美に向ける。

 

エドの様子に苦笑いしながら、真由美は告げる。

 

 

「エドワード君には風紀委員をしてもらいたいの」

 

 

「風紀委員?なんでオレが……」

 

 

「君は教職選任枠で風紀委員に推薦されたんだ」

 

 

エドの疑問に摩利が答える。

 

 

「聞けば君はそこの司波兄妹には劣るものの筆記試験、実技試験共に二位の好成績だったそうじゃないか。どうだ?その力を風紀委員で試してみる気はないか?」

 

 

(正直、面倒だが……司波深雪が生徒会に所属するっつーなら、なるべく側にいられるようにした方が得策か?)

 

 

「…………」

 

 

エドは顎に手をやり少し考える。

 

そして頷いた。

 

 

「よろしく頼む……頼みます」

 

 

敬語でないことに気付いたエドは、途中で言い直した。

 

エドの答えに満足だったのか、摩利は特に気にもせず頷いていたが。

 

 

「じゃあ、そろそろ終わりましょうか?」

 

 

そして真由美が会議を終わらせようとしたとき……

 

 

「ちょっといいかな?」

 

 

再び摩利が手をあげる。

 

 

「風紀委員生徒会選任枠の内、前年度卒業生の一枠がまだ埋まっていない」

 

 

「摩利……それは今、人選中だと言っているじゃない」

 

 

「確か風紀委員の生徒会選任枠は、二科の生徒を選んでも規定違反にはならない……だったよな?」

 

 

「ナイスよ摩利!そう!それよ!!」

 

 

真由美は思わず立ち上がり、大きな声をあげる。

 

 

「それならば納得です。ただし……二科生が入ることによる反発をどうするかですが」

 

 

「あーまあそれはおいおい……」

 

 

鈴音も賛同する……がそううまくはいかないようだ。

 

 

「確かにな。特に今来てない……」

 

 

服部(はっとり)副会長ですね」

 

 

「ちょっとうるさいことになるかもな……」

 

 

(服部副会長……例のはんぞーくんとやらか)

 

 

エドはあのときの男子生徒のことを思い出すと、若干イライラしていた。

 

 

「ちょっと待って下さい!!」

 

 

しかしこれに声をあげる者がいた。

 

他でもない達也本人である。

 

自分の預かり知らぬところでトントン拍子で話が決まっていくのだから当然であろう。

 

 

「俺の意思はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする委員なのかも説明を受けていませんよ」

 

 

「妹さんやエドワード君にも、生徒会や風紀委員の具体的な仕事の説明はまだしていませんが?」

 

 

「……いや、それはそうですが……」

 

 

達也の抗議は鈴音によって出鼻を挫かれる。

 

しかしここで真由美が代わりに説明をした。

 

 

「まあまあ、リンちゃん、いいじゃない。達也君、風紀委員は学校の風紀を維持する委員です」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「……それだけですか?」

 

 

「はい?」

 

 

その割には役割を全うできていなかったが。

 

達也は視線を前に向けて、右にスライドしていく。

 

鈴音は同情するような視線を向ける。

 

摩利は面白がっている。

 

あずさは狼狽していた。

 

達也はジッとあずさを見る。

 

 

「あ、あの、風紀委員の主な任務は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりです」

 

 

続いて達也は摩利に視線を向け話す。

 

 

「……念のために確認させてもらいますが」

 

 

「なんだ?」

 

 

「今のご説明ですと、風紀委員は喧嘩が起こったら、それを力ずくで止めなければならない、ということですね?」

 

 

「まあ、そうだな」

 

 

「そして、魔法が使用された場合も同様である、と」

 

 

「できれば使用前に止めさせる方が望ましい」

 

 

「あのですね!俺は、実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」

 

 

達也はとうとう大声を出す。

 

それを隣で見ていたエドは驚いた。

 

 

(こいつも大きな声を出すなんてことがあるんだな)

 

 

そんななかでも、二人の会話は続く。

 

 

「構わんよ」

 

 

「…………」

 

 

「力比べなら、私がいる」

 

 

そのとき、学校のチャイムが鳴る。

 

 

「続きは放課後にしたいんだが、構わないか?」

 

 

「……分かりました」

 

 

ひとまず話はここまでとなり、一旦お開きとなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

そして放課後、エドは雫とほのかに先に帰るように伝えた後、再び深雪と一緒に教室を出て達也と合流してから生徒会室へと向かった。

 

ドアをノックして達也から入る。

 

 

「失礼します」

 

 

三人で入り、まずは一礼した。

 

 

「司波達也です」

 

 

「司波深雪です」

 

 

「…………エドワード・エルリックです」

 

 

生徒会室では各自が仕事を行っていた。

 

まずは三人に摩利と真由美が気付き、手をあげた。

 

 

「よっ!来たな」

 

 

「いらっしゃい深雪さん、達也君とエドワード君もご苦労様」

 

 

そのとき奥にいた長身の男子生徒がエド達に厳しい視線を向ける。

 

その視線には敵意があった。

 

そして段々と近付き……

 

 

「副会長の服部刑部(はっとりぎょうぶ)です。司波深雪さん、生徒会へようこそ」

 

 

()()()()()()()()()()、深雪に挨拶をした。

 

エドはその様子を冷めた様子で見つめていた。

 

深雪も服部の態度に思うところがあったのか、少しムッとしていた。

 

だが抑えたのか、服部に向けて一礼した。

 

そして服部はそのまま達也とエドを無視して自分の席へと戻っていった。

 

真由美も服部の態度には思うところがあったのか、少し苦い顔をするが、今は触れるべきではないと判断したのか、あずさへと指示を出した。

 

 

「早速だけど、あーちゃん、お願いね」

 

 

「…………はい」

 

 

そしてあずさは指示通りに、深雪を壁際の端末へと誘導した。

 

 

「じゃあ、あたしらも移動しようか?」

 

 

「どちらへ?」

 

 

「風紀委員本部だよ。色々見てもらいながらの方が分かりやすいだろうからね」

 

 

「…………オレもですか?」

 

 

エドは摩利に尋ねる。

 

摩利は何を言っているんだと言わんばかりに答えた。

 

 

「当然だろう?君は教職選任枠だぞ?」

 

 

「……了解」

 

 

そしてエドと達也は摩利についていこうとしたとき……

 

 

「渡辺先輩、待って下さい」

 

 

服部が摩利を呼び止めた。

 

 

「何だ?服部刑部少丞範蔵(しょうじょうはんぞう)副会長」

 

 

「フルネームで呼ばないで下さい!」

 

 

エドは思わず真由美に顔を向ける。

 

だが真由美はエドの視線の意味が分からず、小首を傾げる。

 

 

(はんぞーって……本名だったのか)

 

 

ずっとニックネームだと思っていたエドであった。

 

 

「じゃあ服部範蔵副会長」

 

 

「服部刑部です!」

 

 

「そりゃ名前じゃなくて官職だろ。お前の家の」

 

 

「今は官位なんてありません!学校には『服部刑部』で届けが受理されています!……いえ、そんなことが言いたいのではなく!」

 

 

「じゃあなんだ?」

 

 

服部は達也の方に視線を向ける。

 

 

「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

 

そして冷静に言った。

 

 

「過去……二科生(ウィード)を風紀委員に任命した例はありません」

 

 

服部の言葉に摩利は眉をつり上げる。

 

 

「二科生をウィードと呼ぶのは禁止されている。私の前で使うとは良い度胸だな」

 

 

「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?風紀委員はルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職です!実力で劣る二科生(ウィード)には務まらない!!」

 

 

服部のある種、傲慢(ごうまん)とも言える主張に摩利は先輩として、達也が風紀委員にふさわしいと確信した理由を言い返す。

 

 

「確かに風紀委員は実力主義だが、実力にも色々あってな……達也君には起動式を直接読み取り、発動される魔法を正確に予測する目と頭脳がある」

 

 

「まさか!?基礎単一工程の起動式だってアルファベット三万字相当の情報量があるんですよ!?それを一瞬で読み取るなんてできるはずがない!!」

 

 

そう。

 

普通ならできるはずがない。

 

それがこの世界における魔法師の一般的な常識だ。

 

 

「常識的に考えればできるはずがないさ。だからこそ、彼の特技には()()()()()

 

 

普通の魔法師には使う直前の魔法など分かる訳がない。

 

だがそれが分かる魔法師がいたら?

 

そのあり得ない可能性こそが司波達也なのだ。

 

 

「彼は今まで罪状が確定できずに軽い罪で済まされてきた未遂犯に対する強力な抑止力になる。それに……私が彼に委員会に欲する理由がもうひとつある」

 

 

摩利は話す。

 

 

「お前の言うとおり当校には、一科生と二科生の間には感情的な(みぞ)がある。一科の生徒が二科の生徒を取り締まり、その逆がないという構造はこの溝を深めることになっていた。私の指揮する委員会が差別意識を助長するのは私の好むところではない」

 

 

「…………っ!」

 

 

服部は歯噛みする。

 

そして真由美の方を向いた。

 

 

「会長!私は副会長として司波達也の風紀委員就任に反対します。魔法力のない二科生に風紀委員は務まりません。この誤った登用は必ずや、会長の体面を傷つけることになるでしょう。どうかご再考を!!」

 

 

そのとき、服部の主張に異議を申し出る声が上がった。

 

 

「待って下さい!」

 

 

深雪である。

 

 

「兄は確かに魔法実技の成績が(かんば)しくありませんが、それは評価方法に兄の力が適合していないだけのことなのです!実戦ならば兄は誰にも負けません!!」

 

 

「司波さん」

 

 

服部が深雪に話しかける。

 

 

「魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければなりません。不可能を可能とする力を持つが故に、社会の公益に奉仕する者として自らを厳しく律することが求められています。魔法師を目指す者は身贔屓(みびいき)に目を曇らせることがあってはならないのです」

 

 

「お言葉ですが私は目を曇らせてなどおりません!お兄様の本当のお力を()ってすれば……」

 

 

「深雪」

 

 

深雪の前に達也の手が(かざ)される。

 

達也は深雪を一瞥したあと、服部の正面に移動した。

 

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

 

「…………なに?」

 

 

達也の言葉に全員が驚く。

 

 

(へぇ、達也のやつ言うじゃねえか)

 

 

そして全員の視線が集まる中、服部の身体がブルブルと震え始めた。

 

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

 

「ふっ」

 

 

罵倒を受けてしまった達也は困ったような表情を浮かべ、苦笑した。

 

 

「何がおかしい!」

 

 

「先程……ご自分でおっしゃっていたではないですか。魔法師は冷静を心掛けるべき、でしょう?」

 

 

「く……」

 

 

「俺は別に風紀委員になりたい訳じゃないんですが……妹の目が曇っていないと証明するためならば、やむを得ません」

 

 

「……いいだろう。身の程を弁えることの必要性を、たっぷり教えてやる」

 

 

そして一触即発の雰囲気になっていたとき……

 

 

 

 

 

 

「くっ…………ぶはははははは!!」

 

 

 

 

 

 

エドの笑い声が生徒会室に木霊した。

 

全員が何事かとエドに視線を向ける。

 

 

「達也……お前意外と冷静に見えて結構熱くなるのな。特に深雪のことになるとそれが顕著に出ていやがる。それは深雪も同じみてぇだが……やっぱりお前ら、兄妹揃って筋金入りのシスコンとブラコンだわ」

 

 

エドは司波兄妹を呆れたような視線で見る。

 

だがその視線はどこか羨ましいような……羨望のようなものがあることに達也と深雪は気付いた。

 

そしてエドは達也に向けて言い放った。

 

 

「達也……お前だけ面白そうなことしやがって、ずりぃぞ。その模擬戦、先にオレに譲れ」

 

 

「…………何を言っている?」

 

 

「オレもその、はんぞー副会長に言いたいことがあんだよ」

 

 

エドの一言に服部の頬が引きつる。

 

そして、エドは服部に話しかけた。

 

 

「どうもはんぞー副会長。一年A組のエドワード・エルリックでーす。さっきあなた様に()()()()()()()()ここで挨拶させていただきまーす」

 

 

エドは良い笑顔で服部に告げる。

 

 

「な、なんのつもりだエドワード・エルリック」

 

 

「いや~、他の生徒会役員の方々はオレ達にちゃんと挨拶してくれたのに、はんぞー副会長()()何もなかったもんで。なんとも器のちっちぇー野郎だなあ~ってずっと思ってて~。それに生徒会副会長ともあろう御方が、二科生のことをウィードと言ってるのがチャンラチャラおかしくて!」

 

 

エドは挑発するような顔でさらに続ける。

 

 

「それに魔法師は冷静を心掛けるべきだとか言いながら自分は全く心掛けられてねぇし、渡辺先輩が達也の根拠を言ったときも駄々こねてるようにしか見えなかったし……ぶっちゃけ屁理屈こねてるガキが文句言ってるようにしか見えませんでしたー!!」

 

 

「き、貴様には……まず先輩に対する態度というものを教えてやらねばならないようだな」

 

 

「ならオレは、はんぞー副会長に人としての常識ってやつを教えてあげますね!」

 

 

そしてエドは不敵に笑いながら、服部に告げた。

 

 

「だからさ、はんぞー副会長……()()()()()……模擬戦しようぜ?」

 

 

「いいだろう。まずは貴様に身の程を弁える必要性を教えてやる」

 

 

「上等だ。かかってこいよ。あんたとオレとの格の違いってやつを教えてやる」

 

 

こうしてエドと服部の模擬戦が急遽決まったのだった。

 




ヒューズさんでました。
あとお兄様の前に、エドがはんぞーくんと模擬戦します。

では、また(・∀・)ノ

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