魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうも(゜▽゜*)

続き書けたで候。

では、どうぞ( *・ω・)ノ


第三十五話 九校戦の舞台へ

「勝者エドワード・エルリック!」

 

 

服部の声が響く。

 

 

「ふぅ……」

 

 

エドは静かに息をはく。

 

目の前には座り込んで項垂れている森崎の姿があった。

 

中央にいた服部が、森崎に近付き話しかける。

 

 

「森崎、約束通りモノリス・コードのリーダーは勝者であるエドワード・エルリックに決まったが……異存はないな?」

 

 

「…………」

 

 

森崎は茫然自失としているのか返事をしない。

 

するとそこに割り込む人物が一人。

 

 

「待ってくれ、はんぞー先輩」

 

 

エドである。

 

 

「なんだエドワード?それと何度も言うが、服部先輩と呼べ」

 

 

「そんなことより、少しそいつと話をさせてくれ」

 

 

「そんなこと……まあ、いいだろう」

 

 

服部は何か言いたげな様子であったが、言葉を飲み込む。

 

こう見えても冷静であれば、空気は読める方なのだ。

 

エドは一歩ずつ森崎に近付いていく。

 

ある程度近付くと止まり、話しかけた。

 

 

「……モノリス・コードのリーダー、お前がやれよ」

 

 

「なに……?」

 

 

森崎は俯いていた顔をエドの方へと向ける。

 

 

「別にオレは、売られた喧嘩を買っただけだ。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

エドは視線を横へと向ける。

 

その視線の先には、話し込む達也達の姿があった。

 

 

「ふむ。良い勝負だった」

 

 

「ええ、なかなか見応えのある模擬戦だったわ」

 

 

「あのエドワード君をあそこまで追い詰めるなんて凄いですうぅ」

 

 

十文字、真由美、あずさが感心しながら話している。

 

 

「凄かったね雫!」

 

 

「うん。色々参考になる模擬戦だった」

 

 

ほのかと雫も興奮しながら話していた。

 

 

「森崎家の早撃ち……実際にこの目で見るのは初めてだったが、収穫はあった。おかげで戦術の幅を少し広げられそうだ」

 

 

「お兄様の早撃ち……深雪は見てみたいです!!」

 

 

司波兄妹は相変わらず自分達の世界に入っていた。

 

森崎はその様子を唖然とした表情で見ていた。

 

 

「もちろん、()()()()()()()()()

 

 

すると森崎は小さく呟く。

 

 

「なるほど……敵わないわけだ」

 

 

「あ?」

 

 

森崎の呟きが聞こえなかったエドは首を傾げる。

 

 

「いや、リーダーはお前がやれ、エドワード・エルリック。元々そういう約束の筈だ」

 

 

「おい……」

 

 

「その代わり、絶対に優勝するぞ。僕は負けるのが嫌いなんだ。それと……」

 

 

森崎は立ち上がる。

 

そしてエドの方へと向き直り、言った。

 

 

「今度は僕が勝つ。だからそれまで誰にも負けるんじゃないぞ」

 

 

森崎はそのまま真由美達の方へと歩いていく。

 

そして一言二言話すと、頭を下げて演習場から出ていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

エドと森崎の模擬戦から約二週間、第一高校では九校戦に向けての特訓が開始された。

 

それはエドも例外ではない。

 

エドの出場する競技はアイス・ピラーズ・ブレイクと、モノリス・コードの二つである。

 

だが錬金術とこの二つの競技の相性は良すぎた。

 

アイス・ピラーズ・ブレイクでは、遠隔錬成で自らの陣地の氷柱の硬度を強化し、敵陣の氷柱を凸凹にすることで根元から倒す。

 

他にも錬丹術師メイ・チャンの使っていた(ひょう)、クナイのような物を錬成し、それらを氷柱に突き刺すことで水分を瞬時に分解した。

 

モノリス・コードでは、攻撃面で相手を拘束・翻弄することで動きを封じ、防御面ではモノリスを土壁で覆うことで接触自体をさせないようにした。

 

そして肝心のコンビネーションであるが、意外にも上手くいっていた。

 

森崎はエドのことを認めたこともあり、素直にエドの指示に従っていた。

 

得意のドロウレスやクイック・ドロウの技術を駆使することで、相手を瞬時に仕留め、もう一人のメンバーも突出した面はないものの、二人の動きに合わせて臨機応変に動いていた。

 

バランスの良いチームであった。

 

そして二週間という月日はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

────────

──────

────

 

 

 

八月一日。

 

第一高校が九校戦の会場へ出発する日である。

 

会場は富士演習場南東エリアとなり、第一高校からはかなり近い。

 

九校戦自体は八月三日から始まるのだが、夕方から懇親会があるため、その時間に間に合うように前々日から会場入りするのである。

 

しかし、第一高校のバスの出発時間は大幅に遅れていた。

 

 

「遅いな……」

 

 

「そうですね」

 

 

「そうっすね」

 

 

摩利、達也、エドの三人がバスの前で待機していた。

 

 

「バスの中で待っていて良かったんだぞ二人とも?」

 

 

摩利が二人に視線を向けると、達也とエドは淡々と答えた。

 

 

「いえ、仕事ですので」

 

 

「オレはあの氷の女王から避難してきた」

 

 

エドの言葉に達也と摩利が視線を向けると、バスの一部分から黒いオーラが漂っていた。

 

 

「「…………」」

 

 

二人は何も見なかったことにした。

 

 

「それにしてもあちぃな。こういうときこそ、こうだな」

 

 

エドは両手を合わせて錬金術を発動させる。

 

すると途端に涼しくなった。

 

 

「……何をしたんだ?」

 

 

「錬金術で周囲の水分を霧雨状にしたんっすよ」

 

 

摩利の疑問にエドは答える。

 

 

「本当に万能だなお前は……」

 

 

摩利は呆れたように返す。

 

それから約二十分後……

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ~い!」

 

 

 

 

 

 

ようやく真由美が到着した。

 

彼女はつばの大きな帽子を被り、サマードレスを纏っていた。

 

予定時間より一時間三十分の遅刻である。

 

彼女が遅れていたのには訳がある。

 

真由美はこれでも日本を代表する十師族の一家、七草であるため、政治的に大きな力を持つ。

 

それだけでなく彼女の魔法力と美貌から、様々な縁談を持ち込まれることも少なくない。

 

今回遅れたのも、急遽お見合いを入れられたため大幅に遅れてしまったのだ。

 

 

「これで全員ですね」

 

 

達也は最後の確認として真由美の欄にチェックを入れる。

 

人数が揃っているかを確認するのが彼の仕事なのだ。

 

ちなみにエドと摩利はその付き添いとして、同じくバスの外で待っていた。

 

八月になっているせいか、外は炎天下で汗が滲み出るほど暑い。

 

だがエドの錬金術のおかげで彼らの周りはうっすらと冷えており、汗をかくことなく過ごせている。

 

 

「遅いぞ真由美」

 

 

「ごめんごめん」

 

 

摩利が真由美に小言を一言。

 

真由美は申し訳なさそうに謝る。

 

そして真由美は達也とエドにも視線を向ける。

 

 

「ごめんね、達也君にエドワード君も。私一人のせいでずいぶん待たせちゃって……」

 

 

「いえ、家の事情とお聞きしていますので」

 

 

すると何を思ったのか、真由美は二人の側に近寄る。

 

 

「ところで二人とも、これどうかな?」

 

 

「……とても良くお似合いです」

 

 

「……似合ってると思いますよ」

 

 

二人は淡々と答える。

 

 

「そう……?ありがと」

 

 

しかし真由美的には物足りなかったようで……

 

 

「でももうちょっと照れながら褒めてくれると言うことなかったんだけどな~」

 

 

真由美は二人に可愛らしさアピールをする。

 

明らかな猫被りにエドはげんなりする。

 

 

「……大変だったんですね。お察しします」

 

 

そして達也は冷静に受け流す。

 

 

「えっ?」

 

 

「行きましょう会長。バスの中でも少しは休めると思います」

 

 

「ちょっとあの達也君!?何か勘違いしてない?」

 

 

「さあ、乗ってください会長」

 

 

達也は真由美の相手をしない。

 

その様子を見ていたエドは吹き出した。

 

 

「ぷっ」

 

 

「あー!エドワード君!今、笑ったわね!!」

 

 

「はいはい、さっさと乗りますよ」

 

 

エドは真由美の背中を押して、バスへと入れていく。

 

 

「エドワード、後は頼んだぞ。俺は作業車の方へ行く」

 

 

「おう、また後でな」

 

 

「ちょ、ちょっと達也君!?それにエドワード君、自分で歩けるから押さないでえぇ!!」

 

 

そしてバスは九校戦の会場へと向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

バスの中で真由美はいじけていた。

 

 

「もうっ!二人とも私のことをなんだと思ってるのかしら!席だって隣に誘おうと思ったのに、達也君は作業車の方にさっさと行っちゃうし、エドワード君も後ろの席に座っちゃうし!!」

 

 

すると隣で座っている鈴音が冷静にツッコむ。

 

 

「的確な判断です。会長の美貌の『魔力』に耐えられる男子生徒はほとんどいないでしょうから。もっとも司波君は相手の魔法を無効化する技能に長けていますし、エドワード君も受け流すのが上手いので通用しないと思いますが」

 

 

「もうっ……リンちゃんまで……」

 

 

鈴音にまでツッコまれた真由美は、窓際にもたれかかる。

 

その様子を見ていたある一人の男子生徒が、心配そうに近寄ってきた。

 

 

「会長……」

 

 

服部である。

 

その手にはブランケットを持っていた。

 

 

「会長がお疲れのようだと司波が言っていましたが、杞憂ではなかったのですね」

 

 

「はんぞーくん?ええと……別にそういう訳じゃないんだけど……」

 

 

「我々に心配させまいと無理をなさって体調を崩されては元も子もありません!」

 

 

気になる女子が体調を崩していれば、心配するのが男子というもの。

 

それも美少女であれば尚更。

 

服部の視線は、自然と真由美の膝下へと向く。

 

 

「服部副会長、どこを見ているのですか?」

 

 

だが男子のそんな視線に女子は敏感なのである。

 

 

「市原先輩!?わっ私は別に何もっ!そのっ!会長にブランケットでもと思いまして……」

 

 

「副会長が会長にブランケットを掛けて差し上げるのですか?では、どうぞ」

 

 

「あっ、あの!?」

 

 

その様子を後方で見ていた摩利は呆れていた。

 

 

「何をしているんだあいつらは……」

 

 

すると摩利は隣に座っている千代田花音(ちよだかのん)が、不機嫌なことに気付く。

 

 

「花音……?」

 

 

「……なんでしょうか摩利さん?」

 

 

「許嫁の五十里(いそり)と離れ離れが残念なのは分かるが、宿舎に着くまでせいぜい二時間くらいだろう。なんでその時間まで待てないんだ?」

 

 

「あ!それ酷いです!あたしだってそれくらい待てますよ!!」

 

 

すると花音は悔しそうに拳を握る。

 

 

「でも今年は啓も技術スタッフに選ばれて楽しみにしてたんですっ!今日はバスの中でもずっと一緒だと思ってたのに!!」

 

 

そして力の限り、叫んだ。

 

 

「なのになんで!技術スタッフは作業車なんですか!このバスだってまだ乗れるのに!!」

 

 

「とりあえず落ち着け」

 

 

ひとまず摩利は、花音を宥めることに全力を尽くすことにした。

 

 

「…………」

 

 

一方、深雪の機嫌も悪かった。

 

 

「…………」

 

 

隣に座ってるエドは身体を震わせていた……物理的な意味で。

 

 

(さ、さみいいいぃぃぃぃ!!!!!!)

 

 

深雪から冷気が漏れていたのだ。

 

 

「はいエド、温かいお茶」

 

 

「サ、サササ、サンキュー……」

 

 

エドはお茶をズズズッと飲む。

 

 

「ええと……深雪もお茶どう?」

 

 

ほのかが深雪にお茶を進める。

 

しかし深雪は笑顔で断る。

 

 

「ありがとうほのか。でも、ごめんなさい。そんなに喉は渇いていないの。私はお兄様のようにこんな炎天下で立たされていた訳じゃないから」

 

 

「ウ、ウン。ワカッタヨ」

 

 

黒い笑顔だった。

 

 

「お兄さんのことを思い出させてどうするの?」

 

 

「不可抗力よっ」

 

 

雫がほのかにツッコむが、ほのかは涙目であった。

 

 

「……全く誰が遅れてくるのか分かっているんだから外で待つ必要なんてないのに……何故お兄様がそんなお辛い思いを……しかも機材で狭くなった作業車で移動だなんて……せめて移動の間くらいゆっくりとお休みになっていただきたいのに」

 

 

深雪はブツブツと呟く。

 

すると隣に座っていたエドがキレた。

 

 

「だぁあああああ!さっきからブツブツブツブツ鬱陶しい!いい加減、機嫌直しやがれ!!」

 

 

「落ち着いてエド」

 

 

だが暴走しそうになった利かん坊を雫が首元への手刀で止める。

 

 

「うっ……テ、テメェ雫、止めるにしたって止め方ってもんが」

 

 

「ちょっと黙ってて」

 

 

ドスッといった音が響く。

 

先程より強力な手刀がエドの首元に叩き込まれた。

 

 

 

チーン……

 

 

 

エドはそのまま気絶してしまった。

 

 

「深雪、お兄さんは立派だと思う」

 

 

「えっ?」

 

 

「バスの中で待っていても誰も文句を言わないのに、『選手の乗車を確認する』という仕事を誠実に果たしたんだよ。つまらない仕事でも手を抜かず、当たり前のようにやり遂げるなんてなかなかできないよ」

 

 

(こういうセリフを赤面しないで言えるのって雫のキャラよねぇ……)

 

 

ほのかは赤面しながら様子を見守る。

 

 

「深雪のお兄さんって本当に素敵な人だね」

 

 

「そ……そうね。本当にお兄様って変なところでお人好しなんだから」

 

 

深雪の機嫌は無事元に戻った。

 

ほのかは小さくガッツポーズ、雫はバレないように小さくピースした。

 

ちなみに気絶しているエドには誰も触れなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

九校戦の会場である富士演習場を目指して走るバスの中、真由美がふと通路を挟んだ隣に座る十文字へと声を掛けた。

 

後ろの方に座っている生徒には聞こえないように。

 

 

「十文字君、ちょっといいかしら?」

 

 

「何だ?」

 

 

「例の件について、何か進展があったか聞きたくて……」

 

 

真由美が口にした“例の件”とは、三カ月前に発生したブランシュによる学校襲撃事件……

 

正確には、その最中で司一が使用した常識を覆す術式と、それを可能にした触媒のことである。

 

 

「……目下調査中だ。残念ながら、今のところ進展は無い」

 

 

「師族会議には報告したんでしょう?」

 

 

「まず最初に親父に報告した。事実とはいえ、内容が内容だ。流石にそのまま報告というわけにはいかなかった」

 

 

十文字の懸念は尤もだった。

 

幻想の支配者(ザ・ワールド)然り、物質創造(マテリアル・クリエイト)然り、エリクシル然り……。

 

話を聞くだけでは、あまりに荒唐無稽過ぎて、まず信じてもらえない。

 

物証も無いのだから、猶更である。

 

 

「尤も、話した当初は親父もお前達と同じ反応をしていたがな」

 

 

「あ、あはは……それで、どうなったの?」

 

 

「師族会議への報告に関しては、戦闘時の状況説明はぼかすこととなった。術式と触媒の件は、九島(くどう)閣下にのみ報告することとした」

 

 

「九島閣下に?」

 

 

九島閣下こと九島(れつ)は、国防軍魔法顧問であり、二十年前までは世界最強の魔法師の一人として数えられた人物である。

 

家督は長男に譲っているものの、師族会議においては長老に相当する立ち位置にあり、その影響力は未だ健在の重鎮でもあった。

 

 

「九島閣下からは、この一件について緘口令を敷くようにとの達しが出た。当事者の司波兄妹、桐原、エルリックは勿論、俺達にもだ」

 

 

「十師族に対しても?」

 

 

「ああ。九島閣下が何を考えているかは分からん。俺の報告をどこまで事実と受け止めているかも想像できん。だが、今回の一件を広めないようにしていることだけは確かなようだ」

 

 

「九島閣下は何かご存知なのかしら……?」

 

 

「分からん。だが、気掛かりは他にもある。現在行方不明の司一と、証拠品収容施設から消えた触媒のことだ」

 

 

ブランシュのリーダーであり、現在、物議をかもしている触媒と、それを使った常識離れした魔法を使って見せた、司一。

 

事件の容疑者として確保されたものの、護送車が走行中に謎の襲撃を受け、それ以来行方不明となっていた。

 

押収した触媒、エリクシルもその日の夜の内に何者かに盗み出されたことが分かっている。

 

 

「司一の件は私も聞いている。現場の状況からして、まず生存はしていないだろうということだろう?」

 

 

「ああ。護送車の中に残されていた血痕も、DNA鑑定の結果から、司一本人で間違いないということだ。確認された出血量からして、死亡はほぼ確定だ……」

 

 

途中から入って来た摩利の問いに答えた十文字が、不快そうな表情を浮かべて答えた。

 

司一を乗せた護送車が襲撃されたという報を聞いた十文字はその翌日、警察が証拠物品として回収した護送車の確認に出向いた。

 

そこで十文字を待っていたのは、赤いペンキをぶちまけたかのように車内を赤一色に染めた護送車だった。

 

十師族の仕事の関係上、十文字も人死にを伴う荒事に立ち会うことは珍しくないが、ここまで凄惨な現場は中々無かった。

 

 

「私も後から写真で確認したけど、想像以上の惨状だったわ。しかも、あそこまで護送車を破壊して、死体も血痕以外欠片も残さないなんて……一体、犯人はどんな手口を使ったのかしら?」

 

 

「それも調査中だ。それともう一つ、証拠物品収容施設から消えた例の触媒も行方を追わねばならん」

 

 

「あの施設が破られたと聞いた時には、私も耳を疑ったぞ……」

 

 

触媒が何者かに盗まれたことは勿論だが、それに際して施設の警備を突破されたこともまた、摩利にとっては衝撃的なことだった。

 

 

「施設の建築設計は、十師族も監修したと聞く。外壁は高周波ブレードでも容易に通さず、一条の爆裂にも耐え得る構造らしいじゃないか」

 

 

「犯人は、十師族と互角か、それ以上の実力の持ち主ってことになるわね……」

 

 

「それともう一つ。あの施設の中には、魔法犯罪組織にとって垂涎(すいぜん)の物品が多数収容されていた。その中から、犯人はあの触媒だけを持ち去った」

 

 

「犯人はあの触媒がどんなものか知っていたってこと?」

 

 

エリクシルは十師族ですらその存在・効果を感知できなかった代物である。

 

他の証拠物品に目もくれず、それだけを盗み出したということは、犯人はエリクシルが何なのかを把握している以外に考えられない。

 

 

「犯人は、司一を襲撃した奴と同一か、或いは共犯者ということか……」

 

 

「容疑者の襲撃と証拠物品の盗難が同日に発生したんだ。そう考えるのが自然だろう」

 

 

「得体の知れない敵……だけど、想像以上に危険みたいね」

 

 

「……エドワードなら、何か知っているということは無いだろうか?」

 

 

事件の背後に潜んでいる、途轍もなく巨大な黒幕の気配に神妙な面持ちを浮かべる中、摩利が後方の座席で寝ている後輩の生徒をちらりと見ながら、そう口にした。

 

『賢者の石』といえば『錬金術』。

 

そして、それを扱うのは必然的に『錬金術師』である。

 

魔法師にして錬金術師でもあるエドに結びつくのは、当然のことと言えた。

 

 

「司一も、彼の二つ名を知っていたそうじゃないか。黒幕がエドワードのことを知っているということは、その逆も然りと考えるべきじゃないのか?」

 

 

「けど、エドワード君は何も……」

 

 

「真由美も気付いていた筈だ。エドワードは、私達に何かを隠している。もしかしたら、黒幕の正体も知っているどころか……どこかで通じているかもしれない」

 

 

「摩利!」

 

 

摩利が口にした推測に、真由美が咎めるように声を上げる。

 

思わずはっとなる真由美だったが、声はほんの少し大きくなった程度で、幸いにも後ろの方の座席に座っている生徒達には特に気付かれることは無かった。

 

 

「七草、落ち着け。渡辺だって、本気でエルリックが黒だと疑っているわけじゃない。それに、エルリックが隠し事をしているのは間違いない。違うか?」

 

 

十文字に窘められ、居心地が悪そうに黙り込む真由美。

 

隣に座る摩利も、言い過ぎたとばつの悪そうな顔をしていた。

 

エドがブランシュの事件に関して……

 

特にエリクシルと黒幕の正体に関して、何か隠し事をしているのは、三人とも気付いていた。

 

三人とも、伊達に十師族とそれに連なる家系で育ってきたわけではない。

 

腹黒い大人のやり取りを間近で見てきただけに、嘘や隠し事を見抜く洞察力は人並み以上にあるのだ。

 

 

「エリクシルについても、伝承以上のことを知っているのは間違いない。尤も、司一とのやりとりを見た限りでは、その正体が碌でもない代物であることは間違いない。それを扱う黒幕も、それだけ危険だということだ」

 

 

「本当のことを話さないのは、私達や司波さん達……周りの人を巻き込まないためなのかしら?」

 

 

「或いは、自分だけでケリをつけるつもりなのかもしれんな。彼はそういうところのある人間だ」

 

 

エドの性格から考えて、摩利の言う可能性も十分に考えられる。

 

どの道、エドを問い詰めても、本当のことを教えてくれる見込みは無い。

 

しばらくは様子を見るしかないという結論に三人は至った。

 

 

「そういえば、さっきの施設の構造の件で思い出したんだけど……今年は確か、一条家の御曹司が出るって話じゃない」

 

 

「出場種目は『アイス・ピラーズ・ブレイク』と『モノリス・コード』と聞いている。見事にエドワードと出場種目が被っているな」

 

 

一条の爆裂は十師族の中でも随一の破壊力で知られている。

 

テロ対策や戦列に加わることもしばしばあり、佐渡侵攻事件が特に有名である。

 

今回の九校戦に出場する一条家長男は、『クリムゾン・プリンス』の名で知られる実力者である。

 

 

「だからこそ、俺は良い機会だと思っている」

 

 

「十文字君?それって……」

 

 

「人間の本質というものは、追い詰められた時にこそ見えてくるものだ。競技とはいえ、『モノリス・コード』はそれを確かめるのに非常に適している。一条が相手ならば猶更だ」

 

 

「つまり……件の『クリムゾン・プリンス』との戦いを通して、エドワード君の本質を見極めようと?」

 

 

「実際に当たるかどうかはまだ分からんがな。だが、必要なことだと考えている」

 

 

十文字がエドに注目しているのは、やはりブランシュの襲撃事件が不完全な形で解決したことが大きい。

 

ブランシュなど比にならない程に巨大な黒幕の存在が垣間見える以上、有力な手掛かりを握っているであろうエドを見極めようという十文字の考えは尤もなことだった。

 

そして真由美がさらに話をしようとしとき、突如轟音が響く。

 

前方を見ると、一台の車が炎上していた。

 

 

「危ない!直撃するぞ!!」

 

 

摩利の焦る声がバスの中に響いた。

 




次回は懇親会。

挑発挑発挑発回です。

荒れます。

では、また(・∀・)ノ

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