魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第六十九話 迎撃

 十文字克人が窓の外へ目を向ける。

 

 夜の演習場で、巨大な合成獣が歩いていた。

 一歩踏み出すたび、床を通して微かな振動が伝わってくる。

 その向こうでは、横転した軍用車両が今も炎を上げていた。

 

 止めなければならない。

 だが、前へ出た者が思い思いに戦えば、軍の二の舞になる。

 

「七草。迎撃と避難誘導を分けるぞ」

 

 隣の真由美は、すぐに頷いた。

 

「ええ。ホテルの方に、宿泊客と従業員の人数を確認してもらっているわ。会場にいない人も避難させないと」

「誘導の指揮はお前に任せたい」

 

 真由美の視線が、一瞬だけ窓へ向いた。

 あの合成獣に、自分の魔法がどこまで通じるのか。

 試す必要があることは、彼女にも分かっている。

 

 しかし、今の会場には九校の生徒が集まっていた。

 その全員に指示を通し、ホテル側とも協力して避難を進める者が必要だった。

 

「……分かったわ。こちらは任せて」

「頼む」

 

 真由美は鈴音を呼び、ホテルの担当者とともに避難経路の確認へ向かった。

 地下シェルターへ通じる道はある。だが、そこへ全員を一度に送り込めば、先程と同じ混乱が起こる。

 

「あーちゃんは、避難する人達に付き添って。五十里君は通路の確認をお願い。光井さん、暗い場所で足元が見えない人がいたら、照らしてあげてくれる?」

「はい!」

 

 ほのかが頷く。

 あずさも、まだ青い顔のままCADを握り直した。

 

 その間に、克人は各校の代表者へ声を掛けた。

 必要なのは、避難の時間を稼ぐための戦力だ。

 実戦経験の有無を確認し、危険を説明したうえで、迎撃に参加する者を募る。

 

 やがて、会場の一角には四十人あまりの生徒が集まっていた。

 

(四十人、か……少しばかり多いな)

 

 第一高校からは、服部や沢木、辰巳、桐原をはじめとする生徒達が残っている。

 エドワードの姿もあった。その近くには、深雪、雫、十三束。

 エリカとレオ、幹比古も、避難の列には加わっていなかった。

 

 三高の将輝と愛梨に続き、吉祥寺、栞、沓子も迎撃を申し出ている。

 将輝達と一緒にいたアルフォンス・ロクベルは、真由美の指示を受け、避難する人々の付き添いに回った。負傷者が運び込まれた際には、その搬送にも協力してもらうことになっている。

 ほかの学校からも、九校戦で見覚えのある顔が幾つも集まった。

 

 心意気は頼もしい。

 しかし、競技での成績が、そのまま実戦での生存に繋がるわけではなかった。

 誰かが突出すれば、助けようとした者まで巻き込まれかねない。

 

 克人は、生徒達の前へ立った。

 

「皆、よく残ってくれた。だが、最初に確認しておく。俺達の目的は、あの合成獣を倒すことではない」

 

 話し声が止む。

 

「会場の関係者とホテルの宿泊客は、まだ地下シェルターへの避難を終えていない。俺達の役目は、あれを食い止め、避難が完了するまでの時間を稼ぐことだ」

 

 誰もが、先程の光景を見ていた。

 戦車が覆り、兵士が倒れ、巨大な口に呑み込まれていく光景を。

 

「国防軍には既に援軍を要請している。ただし、到着までにどれだけ掛かるかは分からん。それまでは、俺達で持ち堪える」

 

 九島烈は、既に帰路に就いていた。

 独立魔装大隊の面々も、藤林響子を除いて本部からの呼び出しで現地を離れている。

 藤林との連絡は試みているが、今この場に駆け付けられる状況かどうかは、まだ分からない。

 ここにいない者の助けを前提に、動くことはできなかった。

 

「独断で突出するな。負傷した者は下がれ。仲間が倒れた時も、一人で助けに走るな。必ず周囲と連携しろ」

 

 克人は、一人ひとりの顔へ視線を巡らせた。

 

「最後に、全員に命じる」

 

 短い間を置いて、告げた。

 

「死ぬな。必ず、生きて戻れ。以上だ」

 

「「了解!」」

 

 返事が重なった。

 その声を聞いても、克人の表情は緩まなかった。

 

     ◆

 

「エルリック。あの合成獣について、分かることはあるか」

 

 呼ばれたエドは、窓際から振り返った。

 

「地面に触ってる限り、足元から攻撃されると思ってください。距離を取ってても安全じゃありません」

「先程の岩柱か」

「ええ。足が遅いからって、近付いて殴りゃいい相手じゃない」

 

 桐原が、外の地面へ目を向ける。

 レオも、腕を組んだまま眉を寄せた。

 

「じゃあ、まずは遠くからか」

「近くへ行くにしても、あいつが何をしてくるか見てからだ。巻き込まれたら、踏み潰されるぞ」

 

 エドの声に、普段の軽さはなかった。

 

 頭部に埋め込まれた水晶と、真鍮色の金属。

 あの組み合わせには、嫌な覚えがある。

 しかし、以前見たものと、まったく同じ造りとは限らない。

 

「頭にある水晶と金属にも気を付けてください。何に使うか、まだ断定できませんけど……ただの飾りじゃないはずです」

 

 克人は頷いた。

 

「俺が正面で進路を塞ぐ。遠距離から攻撃できる者は、左右に分かれろ。接近戦を得意とする者は、その後方で待機だ。負傷兵の救出にも回ってもらう」

 

 敵を一か所から囲むのではなく、攻撃を受ける範囲を分散させる。

 避難に使う通路を背にせず、合成獣の向きをホテルから逸らす。

 

 服部達と手短に分担を決めた後、克人は将輝へ向き直った。

 

「一条。お前の攻撃で、こちらへ注意を向けられるか」

「やってみます。ただ、外皮がどの程度のものかは、撃ってみないと」

「それで構わん。最初から倒そうとするな」

 

 将輝の隣で、吉祥寺が頷いた。

 

 深雪は、その会話を静かに聞いていた。

 いつもなら、ここには兄がいる。

 国防軍の用事だと告げて出掛けた、その背中を思い出すと、胸の奥に収めていた不満が再び顔を出した。

 

 だが、今それを口にしても、何も変わらない。

 

「十文字先輩。避難経路から離せれば、私も広範囲の魔法を使えます」

「今は周囲への影響を抑えられるものを頼む。まだ、外に負傷者がいる」

「承知しました」

 

 深雪は、演習場に倒れた兵士達を見た。

 唇を引き結び、CADに手を添える。

 

 エドもまた、彼らを見ていた。

 

(まだ、生きてる奴がいる)

 

 大きな魔法を叩き込めば済む状況ではない。

 動けない者を、攻撃の余波から守る必要があった。

 

「オレが地面を見ます。救出に出る奴は、先に声を掛けてくれ。勝手に走るなよ」

 

「あんたこそ、一人で突っ込まないでよね」

 

 エリカが返した。

 エドは短く鼻を鳴らす。

 

「分かってるっての」

 

 その時、窓の外で合成獣が頭を上げた。

 ホテルの明かりを確かめるように、口を開く。

 

 克人が、出口へ向き直った。

 

「行くぞ」

 

     ◆

 

 外へ出ると、焦げた油の臭いが鼻を刺した。

 

 室内から見ていた時より、合成獣は遥かに大きく感じられた。

 炎に照らされた外皮は、岩の塊のように重なっている。

 その足元には、潰れた車両と、砕かれた舗装の残骸が散らばっていた。

 

 エド達が左右へ展開する。

 克人は、合成獣の進路に立った。

 

「一条!」

 

 将輝がCADを向ける。

 

 次の瞬間、合成獣の肩口が爆ぜた。

 硬い外皮が弾け飛び、巨体が僅かに傾く。

 

 だが、それだけだった。

 

「……浅い」

 

 将輝が呟く。

 合成獣は傷口を気にするように首を捻った後、彼の方へ向きを変えた。

 

 その間に、ホテルとは反対側へ将輝が移動する。

 追おうとした合成獣の前脚が、不可視の障壁に阻まれた。

 

 十文字家の防御魔法、ファランクス。

 

 空気が震えた。

 丸太のような脚が障壁を押し、克人の靴底が地面を擦る。

 

「今だ。攻撃を重ねろ!」

 

 合成獣の左右から、魔法が飛んだ。

 正面の外皮を避け、脚の付け根や、将輝が傷付けた肩へ攻撃が集中する。

 砕けた破片が落ちるたび、合成獣が低い唸り声を上げた。

 

 それでも、まだ倒れない。

 

 エドは、その後脚を見ていた。

 指が地面へ食い込み、巨体の重心が僅かに沈む。

 

「来るぞ! 足元から離れろ!」

 

 両手を合わせ、そのまま地面へ叩き付ける。

 

 青白い錬成光が走った。

 ほぼ同時に、合成獣の足元にも錬成陣が浮かび上がる。

 

 地面が盛り上がった。

 

 エドは、迫り上がる土の動きを追って錬成を繋ぐ。

 岩柱になろうとする塊を崩し、生徒達のいる場所へ届く前に、低い土の隆起へ作り替えた。

 

 しかし、すべてには間に合わない。

 

 右手側で、一本の岩柱が突き出す。

 他校の男子生徒がいた場所だった。

 

「危ない!」

 

 辰巳がその生徒の腕を掴み、引き倒すように飛び退いた。

 岩の先端が、二人のすぐ脇を掠める。

 

「っ……!」

 

 助けられた生徒が、土に汚れた顔を上げた。

 自分の背丈を超えた岩柱を見て、言葉を失う。

 

「止まるな! 場所を変えろ!」

 

 克人の声に、生徒達が動いた。

 同じ位置から攻撃を続けず、互いの退路を空けながら散開する。

 

 合成獣が、今度は体ごと障壁へぶつかった。

 重い衝突音が響く。

 

 克人は一歩下がり、すぐに次の障壁を重ねた。

 

 その横で、深雪がCADを操作する。

 合成獣の片方の前脚が凍り付き、踏み出しかけた動きが止まった。

 

「長くは保ちません!」

 

 氷に亀裂が走る。

 だが、その僅かな時間に、兵士の救出へ回っていた者達が動いた。

 

 レオが倒れた兵士を背負う。

 エリカはその脇に付き、幹比古の声に従って進路を変えた。

 

「そっちは地面が崩れてる! 左へ!」

「分かった!」

 

 桐原達も、別の負傷者を抱えて下がってくる。

 服部は救出班が戻るまで攻撃を待たせ、その退路へ迫った瓦礫を魔法で弾き飛ばした。

 

 誰か一人が戦い、ほかの者が見ている状況ではなかった。

 攻撃を受け止める者。

 足を止める者。

 その隙に、人を運び出す者。

 

 指示を交わす声が、咆哮と魔法の炸裂音の間を縫って飛んでいた。

 

     ◆

 

「七草会長。演習場側から負傷者が来ます!」

 

 連絡を受けた真由美は、ホテルの裏口へ向かった。

 運ばれてきた兵士を見た従業員が、息を呑む。

 

「こちらへ。担架をお願いします。歩ける方とは経路を分けてください」

 

 声を掛けながら、真由美は外へ目を向けた。

 

 合成獣の進路はホテルから逸れている。

 しかし、遠くで炸裂する魔法の光は、絶え間なく続いていた。

 

 自分も、あちらへ行くべきではないか。

 そんな思いを抑え、運び込まれた兵士のそばへ膝をつく。

 

「聞こえますか? 今、安全な場所へ移動します」

 

 兵士は、僅かに頷いた。

 

 後ろから、鈴音が近付いてくる。

 

「客室の確認が終わりました。一部の方が階段の途中で動けなくなっています。五十里君と光井さんが付き添っています」

「分かったわ。あーちゃんにも伝えて。私達も、ここを片付けたら向かいましょう」

 

 まだ、避難は終わっていない。

 克人達が作ってくれている時間を、無駄にはできなかった。

 

     ◆

 

「右前脚だ。さっきより踏ん張れていない」

 

 吉祥寺が将輝へ伝えた。

 合成獣の脚には、氷と砕けた外皮がまとわり付いている。

 肩の傷を庇っているのか、攻撃を受けるたび、同じ方向へ体が傾いていた。

 

「十文字先輩! もう一度、止められますか!」

「合わせろ!」

 

 合成獣が頭を振り、牙を剥いて克人へ迫った。

 その鼻先へ障壁が展開される。

 

 進路を塞がれた巨体が、僅かに上体を起こした。

 

 そこへ、将輝の爆裂が叩き込まれる。

 先程と同じ肩の傷が、大きく裂けた。

 

 合成獣が叫ぶ。

 

 深雪が後脚の動きを鈍らせ、左右からの攻撃が重なった。

 外皮が砕ける。

 巨体がよろめいた。

 

「効いてる……!」

 

 誰かが声を上げた。

 

 エドは両手を合わせ、地面へ触れた。

 合成獣の後方に、斜めに傾いた岩の壁がせり上がる。

 

 後退しようとした合成獣が、それに脚を取られた。

 体勢が崩れ、腹が地面へ近付く。

 

「まだだ! 近付くな!」

 

 克人が叫んだ。

 前へ出かけた生徒が、足を止める。

 

 倒れかけた合成獣は、頭を低くしたまま唸っていた。

 その足元から、再び錬成光が走る。

 

 エドが、作った岩壁へ再び錬成を掛けた。

 岩の塊が壁から離れようとする。その根元を太く繋ぎ直し、地面へ固定する。

 合成獣が岩を射出しようとするたびに、エドは形を変えて押し留めた。競り合った岩に亀裂が入り、砕けた破片が足元へ落ちる。

 

「そいつは使わせねえよ!」

 

 代わりに、崩した土を前脚へ絡ませた。

 合成獣が力任せに踏み砕く。

 その隙に、雫達の魔法が、剥き出しになった肩へ集中した。

 

 傷口から血が流れ、地面へ落ちる。

 

 国防軍を蹴散らした怪物が、今はホテルに背を向け、足を止めていた。

 誰も、倒したとは思っていない。

 だが、止められている。

 

 それだけでも、生徒達の顔に変化があった。

 

「焦るな。このまま距離を保て」

 

 克人は、敵を見据えたまま指示を出した。

 彼の額にも、汗が浮いていた。

 連続した衝突を防ぎ続ける負担は、決して小さくない。

 

 エドは呼吸を整えながら、合成獣の頭へ視線を移す。

 

 傷付いた肩ではない。

 頭頂部の水晶の根元。

 真鍮色の金属が、先程よりもはっきり見えていた。

 

(……何だ?)

 

 周囲の炎が映っただけではない。

 金属そのものが、薄く光っている。

 

 その隣で、沓子が地面へ目を落とした。

 

「エドワード。あの下の流れが、おかしいのじゃ……」

 

 言い終わる前に、合成獣の唸り声が止まった。

 

 巨体が静止する。

 肩から血を流したまま、ゆっくりと頭を持ち上げた。

 

 金属の光が、水晶へ伝わっていく。

 

 将輝は射線を変えようと移動し、エドの後方へ来ていた。

 深雪も、次の足止めを合わせるために、その近くへ寄っている。

 地面を探っていた沓子が顔を上げ、同じ方向を見る。

 

 エドの脳裏に、かつて目にした鉱物の名が浮かんだ。

 

 アンティナイト。

 

「まずい……!」

 

 両手を合わせる。

 将輝が、その動きへ振り返った。

 

「エルリック?」

「下がれ! そいつから――」

 

 頭部の金属が、激しく輝いた。

 

 真鍮色の光が、夜の演習場を塗り潰した。

 




また出来たら投稿します。

では、また∠( ゚д゚)
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