続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
真鍮色の光が、夜の演習場を塗り潰した。
その瞬間、十文字克人は、展開していたファランクスが崩れるのを感じた。
合成獣の体当たりを受けた時とは違う。
障壁を支えていた魔法そのものが、掻き乱されていく。
(何が――)
考えるより先に、頭の奥へ激痛が突き刺さった。
「ぐっ……!」
視界が白くなる。
CADを握った指が、言うことを聞かない。
魔法を組み直そうとした。
だが、そのための思考さえ続かなかった。
誰かの悲鳴が聞こえる。
それに答えようとして、克人は膝をついた。
地面が近付く。
歯を食いしばって持ち堪えようとした体が、横へ倒れた。
◆
「下がれ!」
エドは、合わせた両手を前へ突き出した。
正面から押し寄せる想子の乱流。
無秩序に絡み合ったそれを捉え、錬金術による『分解』を叩き込む。
青白い錬成光が、真鍮色の輝きとぶつかった。
「っ、く……!」
肩から腕へ、重い負担が掛かる。
僅かでも手を緩めれば、自分も呑まれる。
踏み込んだ足で体を支えながら、エドは正面を睨み続けた。
流れを断つ。
その後ろへ、さらに押し寄せるものも。
やがて、合成獣の頭部の光が弱まった。
嵐のような想子の乱れが収まり、演習場に夜の暗さが戻る。
エドは荒く息を吐いた。
「……何だったんだ、今のは」
将輝の声が、背後から聞こえた。
振り返る。
彼の近くには、深雪と沓子が立っていた。
三人とも、何が起きたのか分からない顔をしている。
エドが分解した流れの、ちょうど背後。
そこにいた三人だけが、今も立っていた。
「あの金属が……」
説明しかけて、エドは口を閉じた。
少し離れた場所で、克人が倒れていた。
服部も、辰巳も。
将輝のいた方では、吉祥寺がCADを握ったまま動かなくなっている。愛梨と栞も、倒れたまま立ち上がらなかった。
左右に展開していた生徒達の姿が、地面へ沈んでいる。
「十文字先輩!」
深雪が駆け寄ろうとした。
「待て!」
エドの声に、足が止まる。
彼女が振り返った先で、合成獣が大きく息を吐いた。
先程までの攻撃に加え、今の放出も負担だったのか。
巨体は腹を地面へ近付け、首を低くしている。
だが、死んではいない。
目が動き、倒れた生徒を捉えていた。
「あいつを止める方が先だ。今近付けば、お前も巻き込まれる」
深雪が、唇を噛んだ。
将輝は、CADを握り直した。
「キャスト・ジャミング……なのか?」
「似たようなもんだ。ただ、魔法を使えなくするだけじゃ済まなかったらしい」
エドは、頭部の金属を睨む。
「アンティナイト……あの真鍮みてえな金属だ。あいつが使ってるのは、オレの知ってるものと同じとは限らねえ。けど、あそこから出た想子のノイズをまともに受けたら、こっちも倒れる」
「君が、今のを防いだのか」
「正面から来た分を分解した。周りまでは手が回らなかった」
悔しさを押し込むように、エドは奥歯を噛んだ。
警告が、間に合わなかった。
危険だと分かっていたのに、その力を引き出す前に止められなかった。
それでも、今ここで後悔している時間はない。
◆
ホテルの裏口でも、異変は起きていた。
真由美は、運び込まれた兵士を従業員へ引き渡したところだった。
外の光に目を向けた、その瞬間。
「っ……!」
頭の中を掻き回されるような痛みが走る。
声を出そうとしても、喉から漏れるのは苦しげな息だけだった。
壁へ手をつく。
支えようとした腕から力が抜け、膝が床を打った。
「七草さん!?」
従業員の声が、遠くで聞こえた。
まだ、避難の途中なのに。
誰が残っているのか、確認しなければ。
そんな思いを最後に、真由美の意識は暗闇へ沈んだ。
◆
合成獣が、前脚を動かした。
近くには、動けない生徒がいる。
大きく裂けた口から、舌が垂れた。
「させるかよ!」
エドは両手を合わせ、地面を叩いた。
生徒と合成獣の間へ、厚い岩壁がせり上がる。
同時に、反対側の地面から突き出した岩の杭が、巨体の脇腹を打った。
合成獣が顔を上げる。
その目が、エドへ向いた。
「こっちだ、デカブツ!」
周囲を見回す。
横転した戦車が、少し離れた場所にあった。
兵士が救出された後の車両だ。
「一条! 頭を狙え! 今なら動きが鈍い!」
「分かった!」
将輝が、合成獣へCADを向けた。
頭部の外皮が、続けざまに爆ぜる。
肩へ撃ち込んだ時よりも近い距離から、同じ部分へ攻撃を重ねた。
巨体が怯む。
その隙に、エドは戦車へ走った。
装甲へ鋼の手を押し当てる。
車体の表面を、錬成光が走った。
歪んだ装甲板がほどけ、砲身と車体の一部が形を変える。
地面へ据え付けられた、大きな砲台。
その砲口が、合成獣の頭へ向いた。
使える弾薬を確かめる。
破損した部分を避けて組み直し、狙いを定めた。
「頭を下げろ!」
将輝が身を沈める。
轟音が、演習場に響いた。
砲台が跳ね、据え付けた土台が軋む。
射出された砲弾が、将輝の爆裂で剥がれた頭部へ突き刺さった。
血と、外皮の破片が飛び散る。
「もう一発!」
将輝の爆裂が、傷口をさらに広げた。
エドも続けて砲弾を撃ち込む。
合成獣の頭が、大きく後ろへ振られた。
半ば吹き飛んだ頭部から、裂けた肉が垂れる。
巨体が傾き、地面へ倒れた。
重い音とともに、土煙が広がる。
エドは、砲台へ手をついたまま息を吐いた。
将輝も、CADを下げかける。
「……倒したのか?」
誰にともなく、問いが漏れた。
深雪は、答えなかった。
沓子も、じっと合成獣を見ている。
エドは立ち上がりかけて、止まった。
傷口から流れていた血が、止まっていた。
いや。
傷そのものが、動いている。
「おい……」
千切れた肉の端が、互いを求めるように伸びた。
失われたはずの骨が形を取り、その上へ筋肉が重なる。
眼球が、再びこちらを向いた。
「再生、している……?」
深雪の声が震えた。
合成獣の体内で、赤い光が瞬く。
傷の修復に合わせ、何度も。
エドの表情が険しくなった。
「頭を半分吹き飛ばされて、もう再生だと……?」
通常の治癒ではない。
失われた肉も骨も、目の前で次々に補われていく。しかも、傷を負った合成獣が、自らそれを成し遂げていた。
再生に合わせて、体内で明滅する赤い光。
あれが、何かを供給しているのか。
エドは目を凝らした。
だが、修復される組織の向こうに、光の源は隠れてしまう。
「……体の中に、何を仕込んでやがる」
再生を支える仕組みがある。
その疑いは強かったが、正体までは確かめられない。少なくとも、頭部を壊しただけで止まる相手ではなかった。
頭部が元の形へ戻る。
それだけではなかった。
足元の土が砕け、細かな石が巨体へ引き寄せられていく。
傷付いた外皮の上を、硬い鉱物の層が覆い始めた。
肩へ。
背中へ。
四本の脚へ。
継ぎ目を埋めるように、次々と鎧が重なる。
将輝が、再び爆裂を放った。
新しい肩の表面が弾けた。
だが、先程のようには肉が見えない。
砕けた鉱物の下に、さらに別の層があった。
エドも砲弾を撃ち込んだ。
着弾した場所に亀裂が走り、破片が散る。
巨体は、止まらなかった。
起き上がった合成獣が、咆哮を上げる。
砲台へ迫る脚の一歩が、先程より深く地面を抉った。
「離れろ!」
エドが将輝の腕を引く。
二人が飛び退いた直後、砲台のあった地面が隆起した。
錬成した砲身が、岩柱に突き上げられて折れる。
深雪と沓子も、左右へ避けた。
倒れた仲間のいる方向へ敵を向かわせないよう、四人は互いの位置を確かめて移動する。
合成獣が、砕けた砲台を踏み潰した。
鋼の外皮。
その上に重なった鉱物の鎧。
頭部を半分失っても、すぐに元へ戻る再生能力。
周囲には、まだ動けない仲間達がいる。
将輝の顔から、血の気が引いていた。
深雪も、CADを握る手へ力を込めたまま、次の魔法を選べずにいた。
沓子が、地面へ視線を落とす。
四人で守らなければならない範囲は、あまりにも広かった。
「……どうすればよいのじゃ」
その呟きを、エドが遮った。
「考えろ!」
三人が顔を上げる。
「立ってんのは、オレ達だけだ。ここで止まったら、あいつが動く。そしたら、倒れてる奴らから食われるぞ!」
荒い言葉だった。
自分自身を叱り付けるような声でもあった。
「怖えのは分かる。けど、今は手を動かせ。使えるものを探せ。まだ、何もかもなくなったわけじゃねえ!」
合成獣の足元へ、錬成した岩の杭を突き出す。
鎧を貫けなくても、その歩幅を乱すことはできた。
その間に、エドは三人へ視線を向けた。
「一条。あんたの爆裂は、外から撃つだけじゃねえだろ」
将輝が、僅かに眉を動かした。
「中に届けば、話は別だ」
「……そうだ。だが、あの外皮が邪魔になる。今は鎧まである」
「なら、穴を開ける」
エドは、まだ残っている別の戦車を指した。
「さっきの砲弾じゃ、足りなかった。形も、撃ち出す力も変える」
細く、鋭く。
厚い外皮を貫き、内側へ届くものを作る。
「オレが砲台と弾を錬成する。あんたは砲台の中で爆裂を使って、弾を撃ち出せるか?」
将輝は戦車を見て、それからエドを見た。
「砲台ごと吹き飛ばす可能性がある」
「持たせる。だから、弾を押し出す方へ力を向けてくれ。細かいところは、作りながら合わせる」
無茶な話だった。
それでも、将輝はもう、ただ敵を見ているだけではなかった。
「……やる。構造を見せてくれ」
エドは頷き、次に深雪へ向き直る。
「深雪。全身を止められるか?」
「ニヴルヘイムなら。ただし、あれほどの相手を、いつまでも拘束できるとは限りません」
「長くなくていい。狙って撃つ間、動かなきゃいいんだ」
深雪が、合成獣を見た。
まだ仲間達の近くにいる。
この場所のまま、広範囲の冷却魔法を使うわけにはいかない。
「先に、離さなければ」
「ああ。そこは一条とオレで引っ張る」
最後に、エドは沓子を見た。
「四十九院。地脈の流れを、あいつの下へ集められるか?」
沓子が、顔を上げる。
「集めることはできるじゃろう。じゃが、先に場所を決めてもらわねば……」
「オレがあいつを連れていく。倒れてる奴らから離れたところだ。そこで、できるだけ力を溜めてくれ」
沓子は、エドの指した先を見た。
車両の残骸も、人影もない場所。
合成獣を動かす距離はあるが、そこまで誘導できれば、少なくとも仲間を巻き込まずに済む。
「何に使うつもりじゃ?」
「弾に錬成陣を刻む。それが体の中へ届いたら、そこを起点に錬丹術で遠隔錬成する。お前が集めた地脈の力を、そこへ繋ぐんだ」
エドは、合成獣の厚い鎧を睨んだ。
頭の半分を吹き飛ばしても、駄目だった。
外から壊している限り、再生が追い付いてしまう。
ならば、内側から。
「あいつの体液を、一気に沸騰させる。地脈の力を使って、全身を内側から吹き飛ばすんだ」
将輝が、息を呑んだ。
深雪も、僅かに目を見開く。
沓子は少しの間、黙っていた。
それから、地面へ膝をついた。
「……分かった。わしに任せるのじゃ」
「頼む」
エドは合成獣へ向き直った。
頭部のアンティナイトに、微かな光が戻り始めている。
もう一度、あのノイズを放つつもりか。
「一条、まずはオレの後ろだ。深雪、四十九院を頼む。あれが光ったら、こっちへ寄れ!」
将輝が走った。
深雪は沓子のそばへ移動し、二人の前に立つエドから離れ過ぎない位置を取る。
エドは、鋼の右手を開いた。
前へ出れば、敵の攻撃を引き受けることになる。
後ろには、作戦を形にするための三人。
さらに、その向こうには、まだ立ち上がれない仲間達がいる。
全員が動けるようになるまで、待ってもらうわけにはいかない。
「さっさと終わらせて、先輩達を起こしに行くぞ」
将輝が、CADを構えた。
「ああ」
深雪も頷く。
沓子は地面へ手を添え、流れを探り始めた。
合成獣が、再び口を開く。
エドは、正面へ踏み出した。
また出来たら投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)