魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第七十話 残された四人

 真鍮色の光が、夜の演習場を塗り潰した。

 

 その瞬間、十文字克人は、展開していたファランクスが崩れるのを感じた。

 

 合成獣の体当たりを受けた時とは違う。

 障壁を支えていた魔法そのものが、掻き乱されていく。

 

(何が――)

 

 考えるより先に、頭の奥へ激痛が突き刺さった。

 

「ぐっ……!」

 

 視界が白くなる。

 CADを握った指が、言うことを聞かない。

 

 魔法を組み直そうとした。

 だが、そのための思考さえ続かなかった。

 

 誰かの悲鳴が聞こえる。

 それに答えようとして、克人は膝をついた。

 

 地面が近付く。

 歯を食いしばって持ち堪えようとした体が、横へ倒れた。

 

     ◆

 

「下がれ!」

 

 エドは、合わせた両手を前へ突き出した。

 

 正面から押し寄せる想子の乱流。

 無秩序に絡み合ったそれを捉え、錬金術による『分解』を叩き込む。

 

 青白い錬成光が、真鍮色の輝きとぶつかった。

 

「っ、く……!」

 

 肩から腕へ、重い負担が掛かる。

 僅かでも手を緩めれば、自分も呑まれる。

 

 踏み込んだ足で体を支えながら、エドは正面を睨み続けた。

 

 流れを断つ。

 その後ろへ、さらに押し寄せるものも。

 

 やがて、合成獣の頭部の光が弱まった。

 嵐のような想子の乱れが収まり、演習場に夜の暗さが戻る。

 

 エドは荒く息を吐いた。

 

「……何だったんだ、今のは」

 

 将輝の声が、背後から聞こえた。

 

 振り返る。

 彼の近くには、深雪と沓子が立っていた。

 三人とも、何が起きたのか分からない顔をしている。

 

 エドが分解した流れの、ちょうど背後。

 そこにいた三人だけが、今も立っていた。

 

「あの金属が……」

 

 説明しかけて、エドは口を閉じた。

 

 少し離れた場所で、克人が倒れていた。

 服部も、辰巳も。

 将輝のいた方では、吉祥寺がCADを握ったまま動かなくなっている。愛梨と栞も、倒れたまま立ち上がらなかった。

 左右に展開していた生徒達の姿が、地面へ沈んでいる。

 

「十文字先輩!」

 

 深雪が駆け寄ろうとした。

 

「待て!」

 

 エドの声に、足が止まる。

 彼女が振り返った先で、合成獣が大きく息を吐いた。

 

 先程までの攻撃に加え、今の放出も負担だったのか。

 巨体は腹を地面へ近付け、首を低くしている。

 

 だが、死んではいない。

 目が動き、倒れた生徒を捉えていた。

 

「あいつを止める方が先だ。今近付けば、お前も巻き込まれる」

 

 深雪が、唇を噛んだ。

 

 将輝は、CADを握り直した。

 

「キャスト・ジャミング……なのか?」

「似たようなもんだ。ただ、魔法を使えなくするだけじゃ済まなかったらしい」

 

 エドは、頭部の金属を睨む。

 

「アンティナイト……あの真鍮みてえな金属だ。あいつが使ってるのは、オレの知ってるものと同じとは限らねえ。けど、あそこから出た想子のノイズをまともに受けたら、こっちも倒れる」

「君が、今のを防いだのか」

「正面から来た分を分解した。周りまでは手が回らなかった」

 

 悔しさを押し込むように、エドは奥歯を噛んだ。

 

 警告が、間に合わなかった。

 危険だと分かっていたのに、その力を引き出す前に止められなかった。

 

 それでも、今ここで後悔している時間はない。

 

     ◆

 

 ホテルの裏口でも、異変は起きていた。

 

 真由美は、運び込まれた兵士を従業員へ引き渡したところだった。

 外の光に目を向けた、その瞬間。

 

「っ……!」

 

 頭の中を掻き回されるような痛みが走る。

 声を出そうとしても、喉から漏れるのは苦しげな息だけだった。

 

 壁へ手をつく。

 支えようとした腕から力が抜け、膝が床を打った。

 

「七草さん!?」

 

 従業員の声が、遠くで聞こえた。

 

 まだ、避難の途中なのに。

 誰が残っているのか、確認しなければ。

 

 そんな思いを最後に、真由美の意識は暗闇へ沈んだ。

 

     ◆

 

 合成獣が、前脚を動かした。

 

 近くには、動けない生徒がいる。

 大きく裂けた口から、舌が垂れた。

 

「させるかよ!」

 

 エドは両手を合わせ、地面を叩いた。

 

 生徒と合成獣の間へ、厚い岩壁がせり上がる。

 同時に、反対側の地面から突き出した岩の杭が、巨体の脇腹を打った。

 

 合成獣が顔を上げる。

 その目が、エドへ向いた。

 

「こっちだ、デカブツ!」

 

 周囲を見回す。

 横転した戦車が、少し離れた場所にあった。

 兵士が救出された後の車両だ。

 

「一条! 頭を狙え! 今なら動きが鈍い!」

「分かった!」

 

 将輝が、合成獣へCADを向けた。

 

 頭部の外皮が、続けざまに爆ぜる。

 肩へ撃ち込んだ時よりも近い距離から、同じ部分へ攻撃を重ねた。

 

 巨体が怯む。

 その隙に、エドは戦車へ走った。

 

 装甲へ鋼の手を押し当てる。

 

 車体の表面を、錬成光が走った。

 歪んだ装甲板がほどけ、砲身と車体の一部が形を変える。

 

 地面へ据え付けられた、大きな砲台。

 その砲口が、合成獣の頭へ向いた。

 

 使える弾薬を確かめる。

 破損した部分を避けて組み直し、狙いを定めた。

 

「頭を下げろ!」

 

 将輝が身を沈める。

 

 轟音が、演習場に響いた。

 

 砲台が跳ね、据え付けた土台が軋む。

 射出された砲弾が、将輝の爆裂で剥がれた頭部へ突き刺さった。

 

 血と、外皮の破片が飛び散る。

 

「もう一発!」

 

 将輝の爆裂が、傷口をさらに広げた。

 エドも続けて砲弾を撃ち込む。

 

 合成獣の頭が、大きく後ろへ振られた。

 

 半ば吹き飛んだ頭部から、裂けた肉が垂れる。

 巨体が傾き、地面へ倒れた。

 

 重い音とともに、土煙が広がる。

 

 エドは、砲台へ手をついたまま息を吐いた。

 将輝も、CADを下げかける。

 

「……倒したのか?」

 

 誰にともなく、問いが漏れた。

 

 深雪は、答えなかった。

 沓子も、じっと合成獣を見ている。

 

 エドは立ち上がりかけて、止まった。

 

 傷口から流れていた血が、止まっていた。

 

 いや。

 傷そのものが、動いている。

 

「おい……」

 

 千切れた肉の端が、互いを求めるように伸びた。

 失われたはずの骨が形を取り、その上へ筋肉が重なる。

 

 眼球が、再びこちらを向いた。

 

「再生、している……?」

 

 深雪の声が震えた。

 

 合成獣の体内で、赤い光が瞬く。

 傷の修復に合わせ、何度も。

 

 エドの表情が険しくなった。

 

「頭を半分吹き飛ばされて、もう再生だと……?」

 

 通常の治癒ではない。

 失われた肉も骨も、目の前で次々に補われていく。しかも、傷を負った合成獣が、自らそれを成し遂げていた。

 

 再生に合わせて、体内で明滅する赤い光。

 あれが、何かを供給しているのか。

 

 エドは目を凝らした。

 だが、修復される組織の向こうに、光の源は隠れてしまう。

 

「……体の中に、何を仕込んでやがる」

 

 再生を支える仕組みがある。

 その疑いは強かったが、正体までは確かめられない。少なくとも、頭部を壊しただけで止まる相手ではなかった。

 

 頭部が元の形へ戻る。

 それだけではなかった。

 

 足元の土が砕け、細かな石が巨体へ引き寄せられていく。

 傷付いた外皮の上を、硬い鉱物の層が覆い始めた。

 

 肩へ。

 背中へ。

 四本の脚へ。

 

 継ぎ目を埋めるように、次々と鎧が重なる。

 

 将輝が、再び爆裂を放った。

 

 新しい肩の表面が弾けた。

 だが、先程のようには肉が見えない。

 砕けた鉱物の下に、さらに別の層があった。

 

 エドも砲弾を撃ち込んだ。

 着弾した場所に亀裂が走り、破片が散る。

 

 巨体は、止まらなかった。

 

 起き上がった合成獣が、咆哮を上げる。

 砲台へ迫る脚の一歩が、先程より深く地面を抉った。

 

「離れろ!」

 

 エドが将輝の腕を引く。

 

 二人が飛び退いた直後、砲台のあった地面が隆起した。

 錬成した砲身が、岩柱に突き上げられて折れる。

 

 深雪と沓子も、左右へ避けた。

 倒れた仲間のいる方向へ敵を向かわせないよう、四人は互いの位置を確かめて移動する。

 

 合成獣が、砕けた砲台を踏み潰した。

 

 鋼の外皮。

 その上に重なった鉱物の鎧。

 頭部を半分失っても、すぐに元へ戻る再生能力。

 

 周囲には、まだ動けない仲間達がいる。

 

 将輝の顔から、血の気が引いていた。

 深雪も、CADを握る手へ力を込めたまま、次の魔法を選べずにいた。

 

 沓子が、地面へ視線を落とす。

 四人で守らなければならない範囲は、あまりにも広かった。

 

「……どうすればよいのじゃ」

 

 その呟きを、エドが遮った。

 

「考えろ!」

 

 三人が顔を上げる。

 

「立ってんのは、オレ達だけだ。ここで止まったら、あいつが動く。そしたら、倒れてる奴らから食われるぞ!」

 

 荒い言葉だった。

 自分自身を叱り付けるような声でもあった。

 

「怖えのは分かる。けど、今は手を動かせ。使えるものを探せ。まだ、何もかもなくなったわけじゃねえ!」

 

 合成獣の足元へ、錬成した岩の杭を突き出す。

 鎧を貫けなくても、その歩幅を乱すことはできた。

 

 その間に、エドは三人へ視線を向けた。

 

「一条。あんたの爆裂は、外から撃つだけじゃねえだろ」

 

 将輝が、僅かに眉を動かした。

 

「中に届けば、話は別だ」

「……そうだ。だが、あの外皮が邪魔になる。今は鎧まである」

「なら、穴を開ける」

 

 エドは、まだ残っている別の戦車を指した。

 

「さっきの砲弾じゃ、足りなかった。形も、撃ち出す力も変える」

 

 細く、鋭く。

 厚い外皮を貫き、内側へ届くものを作る。

 

「オレが砲台と弾を錬成する。あんたは砲台の中で爆裂を使って、弾を撃ち出せるか?」

 

 将輝は戦車を見て、それからエドを見た。

 

「砲台ごと吹き飛ばす可能性がある」

「持たせる。だから、弾を押し出す方へ力を向けてくれ。細かいところは、作りながら合わせる」

 

 無茶な話だった。

 それでも、将輝はもう、ただ敵を見ているだけではなかった。

 

「……やる。構造を見せてくれ」

 

 エドは頷き、次に深雪へ向き直る。

 

「深雪。全身を止められるか?」

「ニヴルヘイムなら。ただし、あれほどの相手を、いつまでも拘束できるとは限りません」

「長くなくていい。狙って撃つ間、動かなきゃいいんだ」

 

 深雪が、合成獣を見た。

 まだ仲間達の近くにいる。

 この場所のまま、広範囲の冷却魔法を使うわけにはいかない。

 

「先に、離さなければ」

「ああ。そこは一条とオレで引っ張る」

 

 最後に、エドは沓子を見た。

 

「四十九院。地脈の流れを、あいつの下へ集められるか?」

 

 沓子が、顔を上げる。

 

「集めることはできるじゃろう。じゃが、先に場所を決めてもらわねば……」

「オレがあいつを連れていく。倒れてる奴らから離れたところだ。そこで、できるだけ力を溜めてくれ」

 

 沓子は、エドの指した先を見た。

 車両の残骸も、人影もない場所。

 合成獣を動かす距離はあるが、そこまで誘導できれば、少なくとも仲間を巻き込まずに済む。

 

「何に使うつもりじゃ?」

「弾に錬成陣を刻む。それが体の中へ届いたら、そこを起点に錬丹術で遠隔錬成する。お前が集めた地脈の力を、そこへ繋ぐんだ」

 

 エドは、合成獣の厚い鎧を睨んだ。

 

 頭の半分を吹き飛ばしても、駄目だった。

 外から壊している限り、再生が追い付いてしまう。

 

 ならば、内側から。

 

「あいつの体液を、一気に沸騰させる。地脈の力を使って、全身を内側から吹き飛ばすんだ」

 

 将輝が、息を呑んだ。

 深雪も、僅かに目を見開く。

 

 沓子は少しの間、黙っていた。

 それから、地面へ膝をついた。

 

「……分かった。わしに任せるのじゃ」

 

「頼む」

 

 エドは合成獣へ向き直った。

 

 頭部のアンティナイトに、微かな光が戻り始めている。

 

 もう一度、あのノイズを放つつもりか。

 

「一条、まずはオレの後ろだ。深雪、四十九院を頼む。あれが光ったら、こっちへ寄れ!」

 

 将輝が走った。

 深雪は沓子のそばへ移動し、二人の前に立つエドから離れ過ぎない位置を取る。

 

 エドは、鋼の右手を開いた。

 

 前へ出れば、敵の攻撃を引き受けることになる。

 後ろには、作戦を形にするための三人。

 さらに、その向こうには、まだ立ち上がれない仲間達がいる。

 

 全員が動けるようになるまで、待ってもらうわけにはいかない。

 

「さっさと終わらせて、先輩達を起こしに行くぞ」

 

 将輝が、CADを構えた。

 

「ああ」

 

 深雪も頷く。

 沓子は地面へ手を添え、流れを探り始めた。

 

 合成獣が、再び口を開く。

 

 エドは、正面へ踏み出した。

 




また出来たら投稿しますー。

では、また∠( ゚д゚)
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