続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
横浜。
無頭竜の拠点だった建物を出た達也は、待機していた藤林響子の表情に気付いた。
彼女は端末を耳へ当てたまま、こちらを見ている。
仕事が終わったことを労う顔ではなかった。
「……分かりました。引き続き、状況を送ってください」
通話を切ると、藤林は達也へ歩み寄った。
「富士演習場が襲撃されたわ」
達也の足が止まる。
「後夜祭の会場ですか」
「その近くに、所属不明のヘリがコンテナを投下。中から大型の合成獣が出てきたそうよ。現地の部隊が応戦したけれど、防衛線を突破されている」
達也は、端末を取り出した。
深雪へ繋ぐ。
応答はなかった。
「避難状況は」
「地下シェルターへの誘導が進んでいる。十文字君達が迎撃に出たという連絡も入っているわ」
十文字達。
その中に、深雪が含まれている可能性は高い。
エドワードも、黙って避難するとは思えなかった。
「ヘリは使えますか」
「既に手配しているわ。こちらの処理は引き継ぐ。私達は富士へ戻りましょう」
達也は頷いた。
無頭竜の拠点を特定するための情報が揃うまで、予定以上の時間を要した。
小野遥の調査でも、手掛かりが途切れたり、確認に回った先が空になっていたりしたという。
その遅れで、達也は後夜祭へ出席できなかった。
そして今、自分が離れた場所へ、別の敵が現れている。
単なる偶然か。
それとも、こちらの動きを見ていた者がいるのか。
考えは後回しにした。
「敵が錬金術を使うという報告はありますか」
「地面を変形させて攻撃しているらしいわ。詳細は移動しながら確認する」
藤林が、駐機場所へ向かう。
達也もその後を追った。
◆
富士演習場。
「一条! 右へ回るぞ!」
エドの声に、将輝が走った。
合成獣の顔を、倒れた生徒達とは反対側へ向ける。
CADの照準が、鉱物の鎧の継ぎ目を捉えた。
爆裂。
口元の外皮が弾け、合成獣が頭を振った。
今度の攻撃も、致命傷にはならない。
だが、その目は将輝を追った。
「こっちだ!」
エドも、地面から突き出した杭を敵の前脚へ打ち付ける。
歩き出そうとする脚を阻み、さらに遠ざかる。
合成獣の頭部が、再び輝いた。
「後ろへ!」
将輝がエドの背後へ滑り込む。
少し離れていた深雪と沓子も、すぐに距離を詰めた。
四人がばらばらになれば、守り切れない。
攻撃するたびに立ち位置を確かめ、次の放出に備える必要があった。
エドが両手を合わせる。
サイオンノイズが、正面から押し寄せた。
その流れへ、分解を重ねる。
「っ……!」
肩が痛む。
錬成を続けた腕にも、足にも、疲労が溜まっていた。
それでも、手を下ろすことはできない。
光が弱まる。
エドは息を吐き、すぐに顔を上げた。
「今だ、一条!」
将輝の爆裂が、合成獣の鼻先を打った。
怒った巨体が、四人を追って踏み出す。
エドは後方を確かめた。
倒れた仲間との距離が、少しずつ開いている。
もう少しだ。
沓子が指した、地脈の流れを集められる場所まで。
◆
柳連が不審な輸送ヘリを見つけたのは、演習場を離れ、車で東京へ向かっていた時だった。
翌日は休暇だ。
本部へ戻る面々とは別れ、一人で車を走らせていた。
夜空を横切る機影へ目を向けたのは、進路が気になったからだった。
大きなコンテナを吊ったヘリが、富士演習場の方へ向かっている。
九校戦は、もう全競技を終えていた。
この時間に、あの荷物を運び込む理由は何だ。
柳は、安全に車を止められる場所へ入り、現地へ確認を取った。
その最中、遠方に異様な光が走った。
続いて、遅れて届く重い音。
返ってきたのは、搬入予定の確認ではなかった。
所属不明のヘリによる襲撃。
コンテナから出現した、大型の合成獣。
柳は車の向きを変えた。
休暇のことは、もう頭になかった。
◆
「ここじゃ!」
沓子が、足元を示した。
ホテルからも、倒れた仲間達からも離れた場所。
エドは周囲を見回し、人影がないことを確かめた。
「一条、もう一度だ。ここへ向けろ!」
将輝が、爆裂を放つ。
合成獣の頭が傾き、踏み出した前脚が狙った場所へ入った。
沓子が地面へ手を添える。
エドにも、流れの変化が分かった。
周囲を走っていた地脈の力が、合成獣の真下へ寄り始めている。
沓子は目を伏せたまま、呼吸を整えた。
「……そう急かすでない。道を繋いでおるところじゃ」
「分かってる。あいつは、オレが止める」
エドが一歩前へ出る。
合成獣の足元へ、錬成した岩を絡ませた。
力任せに砕かれる。
その間に別の場所を盛り上げ、進路を塞ぐ。
倒すための攻撃ではない。
頭をこちらへ向けさせ、沓子が作る道から出させないためのものだ。
「深雪! 四十九院が終わったら頼む!」
「はい!」
深雪は、エドと沓子の両方が見える位置で待った。
冷却範囲に、人が残っていないことを確認する。
合成獣が、再び錬成陣を展開した。
岩柱が、エドの足元を狙う。
跳んで避け、その側面へ手をつく。
尖った岩を崩し、敵へ向けて押し返した。
合成獣が、それを前脚で踏み砕く。
「しつけえな……!」
頭部の光が強まる。
エドは、三人が背後へ入ったことを確かめて両手を合わせた。
また、サイオンノイズを分解する。
息が詰まる。
額から流れた汗が、顎へ落ちた。
放出が終わった直後、沓子が顔を上げた。
「エドワード! 繋がったぞ!」
地面の下へ、力が集まっている。
それを確かめ、エドが叫んだ。
「深雪!」
CADから、起動式が展開された。
ニヴルヘイム。
合成獣を取り囲む空間から、急速に熱が奪われた。
巨体を覆う鉱物に霜が走り、四本の脚が地面へ凍り付く。
開きかけた口が止まり、吐く息が白く固まった。
深雪は、合成獣を睨んでいた。
鎧の隙間から動こうとする脚へ、冷却を重ねる。
「今のうちに!」
エドは駆け出した。
目指すのは、戦車の残骸だ。
鋼の手を装甲へ押し当てる。
砕けた金属も、折れた部品も、材料にする。
先程の砲台よりも厚い砲身。
後方には、爆裂の力を受けるための空間を設ける。
その前へ、細長く、先端を鋭く尖らせた砲弾を収めた。
錬成陣は、その側面へ刻む。
将輝が近付いた。
「後部は、ここか」
「ああ。ここに絞れ。弾の後ろへ圧力を掛けるんだ」
将輝は構造を確かめ、CADを構えた。
エドも砲台へ手を添える。
射角を合わせる。
凍り付いた合成獣の、頭部へ。
◆
ヘリの中で、藤林は現地から送られた情報を達也へ示した。
「迎撃に出た生徒達の大半が倒れている。原因は、合成獣から放たれた強力な想子のノイズと見られるわ」
達也は、画像を見た。
地面に倒れた人影。
戦車の残骸。
鉱物の鎧に覆われた、巨大な合成獣。
「キャスト・ジャミングですか」
「それだけで済む強さではないようね。意識を失った者もいる」
藤林の端末へ、追加の連絡が入る。
「……今も戦っているのは、エドワード君、一条君、それに深雪さんと四十九院さん」
達也は、顔を上げた。
深雪は、まだ動いている。
しかし、四人だけで、倒れた者を守りながら戦っているのか。
窓の向こうに、演習場が見え始めていた。
散らばった車両の火が、夜の地面を照らしている。
白く凍り付いた巨体も、見えた。
その脇で、エドワードが何かを錬成している。
将輝が、その後方へ回る。
砲台。
達也は、敵と四人の位置関係を確かめた。
「扉を開けてください」
藤林が操縦士へ指示を出す。
達也は扉のそばへ移動し、CADを握った。
◆
合成獣の脚を覆う氷に、亀裂が走った。
深雪が、さらに熱を奪う。
巨体は、まだ動けない。
だが、その足元が光った。
「地面が……!」
沓子が顔を上げる。
エドも、錬成反応へ目を向けた。
止まっているのは、合成獣の体だけだった。
周囲の大地がせり上がる。
厚い岩壁が、四方を囲み始めた。
「射線を塞ぐ気か!」
エドは砲台から片手を離しかけた。
しかし、将輝の爆裂を受ける砲身も支えなければならない。
壁を崩すために、もう一度離れるか。
その間に、深雪の拘束が破られるかもしれない。
迷う時間はなかった。
岩壁の向こうから、無数の礫が飛び出した。
砲台へ。
将輝へ。
深雪と沓子へ。
ただ飛んでいるのではない。
それぞれが、四人の動きを追って軌道を変えていた。
「伏せろ!」
エドが地面へ手を伸ばす。
深雪も、防御へ切り替えようとした。
間に合わない。
迫った礫が、突然、形を失った。
爆発は起きなかった。
砕けた破片さえ飛んでこない。
四人へ向かっていたものが、一つ残らず消えていく。
エドは顔を上げた。
頭上に、ヘリがいた。
開いた扉から、CADを向ける人影。
「達也……!」
続いて、合成獣を囲む岩壁が消えた。
砲台と敵の間に、遮るものがなくなる。
深雪も、兄を見上げていた。
「お兄様!」
喜びに緩みかけた表情が、すぐに引き締まる。
まだ、魔法を解くわけにはいかない。
合成獣の頭部が、強く光った。
エドが身構える。
しかし今度は、放出されたサイオンノイズが、四人へ届く前に乱れを失っていった。
達也のCADが、敵へ向いている。
「こっちは任せろ」
風と回転翼の音の中で、その声が聞こえた。
エドは頷き、砲台へ両手を戻した。
「一条! 撃つぞ!」
将輝が、照準を合わせ直す。
その瞬間、合成獣が体を捻った。
凍り付いた脚の一本が、地面ごと持ち上がる。
氷が割れた。
深雪が追い掛けて冷却を掛ける。
だが、砕けた地面を足場に、巨体が向きを変えようとしていた。
頭部が、砲口の正面から外れる。
「くそっ……!」
エドは砲台の向きを変えようとした。
その前に、巨体の下で地面が跳ね上がった。
ただ隆起したのではない。
足場そのものを返すような力が、合成獣を押し上げる。
鉱物の鎧を纏った体が、横へ傾いた。
踏ん張ろうとした脚が、空を掻く。
巨体が、裏返った。
地響きとともに背中が落ち、頭部がこちらへ向いたまま、動けなくなる。
「今だ、エドワード君!」
声のした方に、柳がいた。
現地へ戻り、四人の動きと砲台の狙いを見たうえで、攻撃を合わせたのだ。
千畳返し。
合成獣は起き上がろうと脚を振るが、鎧の重さもあり、すぐには体勢を戻せない。
エドは、砲口を敵の頭へ合わせた。
「一条!」
「行くぞ!」
砲身の後部へ、極限まで凝縮された爆裂が発動する。
エドは、砲台の構造を支えた。
膨れ上がった圧力を逃がさず、前へ。
鋭い砲弾を、押し出す方向へ。
轟音。
土台が地面へ沈む。
砲身から射出された突起状の砲弾が、合成獣の頭部へ突き刺さった。
鉱物の鎧が割れる。
その下の外皮も貫き、錬成陣を刻んだ側面が、巨体の内側へ入った。
「四十九院!」
「繋ぐぞ!」
集められていた地脈の力が、走る。
エドは両手を合わせた。
離れていても、分かる。
自分が刻んだ錬成陣。
そこへ沓子が繋いだ、力の道。
その先にあるものを捉える。
合成獣の体内を流れる、体液。
厚い外皮も、鉱物の鎧も、今度の錬成を遮ることはできなかった。
熱が生まれる。
一か所で終わらせず、内側へ、さらに奥へ。
合成獣の体が、痙攣した。
開いた口から、白い蒸気が噴き出す。
鎧の継ぎ目へ、亀裂が走った。
再生が始まるよりも速く、内部の圧力が膨れ上がっていく。
「下がれ!」
柳の声に、将輝が身を伏せた。
深雪は沓子を庇うように寄り、エドも地面へ両手を叩き付ける。
四人の前へ、厚い防壁が立ち上がった。
次の瞬間、合成獣の巨体が内側から破裂した。
凄まじい音が、演習場を揺らす。
蒸気とともに、肉と鉱物の破片が吹き飛んだ。
防壁へ、重い衝撃が幾つも叩き付けられる。
エドは膝をついたまま、その向こうを見ていた。
やがて、何も飛んでこなくなった。
立ち上る蒸気の隙間に、巨体のあった場所が見える。
残っていたのは、砕けた鎧と、散らばった残骸だけだった。
頭部の光は、もうない。
何かが起き上がろうとする気配も、錬成の反応もなかった。
◆
ヘリが降下する。
柳は合成獣の残骸を警戒したまま、四人へ声を掛けた。
「動けるか」
エドは、防壁へ手をついて立ち上がった。
将輝も、ゆっくりと顔を上げる。
深雪が、沓子の肩へ手を添えた。
「大丈夫ですか?」
「……少し、力を使い過ぎたのじゃ」
沓子は苦笑した。
その顔からも、血の気が失せている。
着陸したヘリから、達也と藤林が降りてきた。
「深雪」
呼ばれた少女は、一歩だけ兄へ近付いた。
その胸へ飛び込みたい気持ちを抑え、背筋を伸ばす。
「お兄様。十文字先輩達が、まだ……」
「ああ。救護班もこちらへ向かっている」
達也は彼女の顔を確かめてから、倒れた生徒達へ目を向けた。
藤林は既に、現地との連絡を取り始めている。
エドは、克人のもとへ走った。
「先輩!」
肩へ触れる。
呼び掛けても、返事はなかった。
呼吸はある。
だが、苦しげで、間隔も一定ではない。
少し離れた服部も、同じように意識を失っていた。
「エルリック!」
将輝が、吉祥寺のそばから呼んだ。
友人の体を支える顔には、先程までとは別の焦りがあった。
藤林の端末から、声が聞こえる。
ホテル側にも、倒れた者がいる。
七草真由美も、その一人だった。
エドは、克人の手首へ指を当てた。
死ぬな。
戦いに出る前、全員へ命じた声を思い出す。
合成獣は倒した。
けれど、まだ、その命令を守り切ったわけではなかった。
また出来たら投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)