IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 何気に過去最大の文字数になりました……


十話

 「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。専用機持ちは前に出て機体を展開しろ」

 

 クラス代表を決める為の試合から一週間と数日。四月下旬に差し掛かったある日、一夏達はグランドにて、ISを使った実技の授業を受けていた。初日の挨拶のおりに宣言した通り、千冬はISの基本動作に関する知識を養う座学を一組の生徒達に半月で叩き込んでみせた。厳しくも要点を纏めた授業内容はほぼ全て覚えなければならなかったが、逆に言えばそれさえ覚えておけばISを動かす最低限の知識を得る事ができた為、知識不足が否めない一夏達男子にはありがたかった。

 展開速度に若干の差があったものの、全員が無事にISを展開させる。

 

 「よし、飛べ」

 

 ジャージ姿の千冬の指示に従い、セシリア、明日奈、一夏、和人、巧也の五人が上昇を開始する。代表候補生であるセシリアが先頭を飛び、それに追いすがるように四人が続くと、地上の千冬から指摘が飛ぶ。

 

 「織斑、桐ケ谷、野上、結城、お前達の機体のほうがスペック上はブルー・ティアーズより速度は上だぞ。遅れてどうする」

 

 (……千冬姉、容赦ねぇ……)

 

 姉の鬼教官っぷりがまだ慣れないのか、一夏は胸中で一人愚痴を零す。言っている事が事実の為反論のしようがない所がなんとも悔しいが、こればかりは機体性能を自在に引き出せない自分が悪い。有事の際にこんな体たらくでは間違いなく足手まといにしかならない。

 

 「織斑先生のおっしゃる通りではありますが、皆さんISに触れてから一月と経っていないのでしょう?まっすぐに飛べるだけでも充分吞み込みが早いかと」

 

 「ありがとう、セシリアちゃん」

 

 柔らかな笑みと共にセシリアから励ましの言葉を貰うと、明日奈が四人を代表して礼を述べる。あの時の一件以来、セシリアの態度は随分と軟化したのだ。出会った当初のような高飛車な振る舞いが無くなり、ISの操縦等のコーチ役を買ってでてくれるようになったのは一夏達にとって非常に助かっていた。というのも、何かと多忙な楯無は流石に実技まで面倒を見きれなかったからだ。

 

 「どういたしまして、ですわ」

 

 「でも、説明する時はもうちょっと噛み砕いた方がいいよ?私はいいけど、キリト君達には細かすぎて逆に分かりづらいから」

 

 「ぜ、善処いたします……」

 

 理路整然とした説明は明日奈のように知識を身に着けた者にとっては解りやすいだろうが、一夏達男子は前提となる知識が不足している為に逆効果なのだ。一つの動作を教えるのに明日奈の解説を必要としてしまったのも一度や二度では無く、その事を思いだしたセシリアの表情が引きつった。

 

 (明日奈さんの機体、キリトさんのとよく似てる……いや、逆なんだっけ)

 

 彼女の機体である白夜は極夜より幾分細いシルエットをしているが、おおよその造形は同じである。というのも元々明日奈の為に白夜が開発され、その予備パーツで組み上げ及び調整を加えて作られたのが極夜なのだ。

 

 (それにしたって巧也の方……アレで大丈夫なのか?すげぇピーキーだって話だし)

 

 彼の機体、陽炎(かげろう)はスピード特化の白夜に比べても装甲が薄く、非常に非力な印象を一夏は抱いてしまう。こちらは日本の正式量産機の打鉄のバリエーション機として開発された物で、防御を非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に装備された物理シールドに殆ど依存させる事で徹底的な軽量化を図り、打鉄の馬力を維持したまま高機動を獲得した機体だ。その結果たるや最大速度は白式に追いつきこそしないものの現行ISの平均的な速度を充分超えるという、第二世代の機体では驚異的なものだ。反面耐久性が致命的に低く、防御の要であるシールド裏には機動力の中核を担う大型スラスターがある為、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)を失えばまともに戦えなくなるという欠点が残っている。だが打鉄の柔軟なOSを引き継いでいる為、多少の調整が必要になるものの打鉄のパッケージを装備可能で、拡張領域(パススロット)の容量も非常に大きい。また徹底的にそぎ落とされた四肢は非常に小回りが利き、格闘戦での取り回し易さはトップクラスといえる。

 余談だが巧也曰く、専用のステルス装備を搭載した陽炎が暗部では使用されており、その伝手で手配してもらった……らしい。彼にしては珍しく冗談めかした話だった為、どこまで本当だったのかは今の一夏には解らなかった。

 

 「―――では次に、急下降と完全停止をやってもらおう。目標は地表から十センチ、順番はお前達で決めろ」

 

 「では、わたくしから行かせてもらいますわ」

 

 残りの者達に手本を見せるかのように、最初にセシリアが地面へと加速する。猛スピードで下降しながらも全く危なげなく目標通りの位置で完全停止をこなす姿は、流石代表候補生というべきか。ハイパーセンサーによって彼女の一部始終を見ていた一夏達も、後に続くべく動き出す。

 

 「キリト君、行こ?」

 

 「ああ。二人は後から来てくれ」

 

 明日奈の誘いを和人が断る筈が無く、今度は二人同時に地面へと突き進んだ。

 

 「今よ!」

 

 「く……!」

 

 体にかかるGに多少表情を歪めつつも、明日奈の指示に従い和人は機体に急制動をかける。目標である十センチ丁度にはならなかったが、地面に激突しなかっただけでも上出来だろう。千冬からは停止する為の逆噴射の出力が足りないと指摘されたが、そこは反復練習で覚えるしかないかと和人は内心で腹をくくった。

 

 (……地道な努力が必要ってのは、現実もゲームも変わらないよな)

 

 特に動かし方……実技はそれこそ体で覚えなければならない為、おざなりにはできないのだ。

 

 「ねぇキリト君、アイン君達って大丈夫かな?」

 

 「セシリアと俺達の二回は見てる訳だし、そうそう失敗なんてしないだろ」

 

 「うん。でもアイン君って時々凡ミスしちゃうし……」

 

 「あ」

 

 たまに浮かれてつまらない失敗をしてしまう弟分の悪癖を和人が思い出した瞬間、グラウンドに衝撃と轟音が響いた。そちらへと目を向けた和人達が見たのは、額に冷や汗を垂らしながら白式の脚部を地面にめり込ませる一夏と地面ギリギリの所で何とか停止する巧也の姿だった。

 

 「馬鹿者、誰がグラウンドにぶつかれと言った」

 

 「う、すみません……」

 

 「お前等、停止するタイミングが遅い上に出力に任せて無理矢理帳尻を合わせようとしたな。それでは体と機体に掛かる負荷が大きく、エネルギーのロスも相当になるぞ?」

 

 「はい、精進します」

 

 「分かればそれでいい」

 

 巧也の返事に千冬はそれ以上何も言わなかった。彼女の指摘を記憶に刻みながらも一夏は地面にめり込んだ脚部を引き抜くと、セシリア達に並ぶ。すると和人からプライベートチャンネルで通信が入った。

 

 「ALOであっという間にスグのエアレイドに追いついて見せたアインは何処いったんだよ」

 

 「う……自分だってあんなに速いだなんて思ってなかったんですよ」

 

 「あー、体の感覚任せだとALOの翅とISの速度差って意外と響くよな。刀奈にはそこの修正をみっちりやらされたし」

 

 セシリアとの試合に向けたIS訓練を思い出す和人は急に遠い目をしたが、その内容は当時生身の筋トレや訓練しかできなかった一夏には聞き捨てならないものだった。

 

 「そんな特訓あったなら言ってくださいよ……」

 

 「いやお前、ぶっつけ本番で縦横無尽に飛んでたし……けどその……すまん」

 

 「だったら今度ALOでクエスト攻略に付き合ってくださいよ」

 

 了解、と和人が返答して通信が切れる。その直後に仏頂面の箒が詰め寄って来る。

 

 「情けないぞ一夏。他の者はできている事が何故できない」

 

 「返す言葉もございません」

 

 「そんなあっさりと開き直って悔しくてないのか!大体お前というヤツは―――」

 

 不機嫌さ五割増し、と思えるくらいに彼女の眉間の皺が深くなり、言葉も荒くなっていく。普段であれば周りの状況を考えて一言二言で済ませることができたが、これまで溜まっていた不満が彼女の自制心を鈍らせていた。

 六年ぶりに再会した初恋の相手の姿に胸が高鳴ったのは今でも鮮明に思い出せるし、昔から変わらない所や変わった所を少しずつ見つけてドキリとした事も一度や二度ではない。しかも緊急の措置だったとはいえ、同じ部屋で生活する事が彼との距離を縮めるきっかけになると期待だってしていた。だがしかし、一夏は和人と共に毎日放課後は疲れ果てるまでアリーナ及びジムで特訓や筋トレを積み、部屋へ戻ればVR空間で座学の補習を受ける為に寝てしまい……実際は殆ど話す時間が無い。しかも教える相手が生徒会長とくれば、年上かつ目上の者に敬意を払う事を蔑ろにできない箒は何も言えない。一度彼女も一夏と共に楯無のトレーニングメニューをこなした事があるが、箒にとってもかなりキツイ内容だったのは記憶に新しい。それを毎日へこたれずに続ける一夏の姿は一見泥臭くて、みっともなくて……それ以上に眩しかった。そんな彼の邪魔になりたくないという想いから自分との稽古を優先しろなどとは言えず、さりとて彼との時間が殆ど無い現状をどうにかしたくて……モヤモヤとした心を持て余す彼女は時々自分の制御が効かなくなってきていたのだ。

 

 「―――はいはい箒ちゃん、それ以上続けると先生の拳骨が落ちちゃうよ?」

 

 「っ!?ぁ……申し訳、ありません」

 

 明日奈が彼女の肩に手を置き、柔らかな笑みを浮かべやんわりと注意する。すると箒も我に返ったようで、周囲の目から逃れるように俯いてしまった。

 

 (うーん……箒が我を忘れる位、今のオレってみっともないのか……元々自分に厳しいアイツがそうなるって事は、オレが全然ダメって事だよな)

 

 尤も、朴念仁が服を着て歩いていると言っても過言ではない一夏では箒の日々の不満を察する事はほぼ不可能なのだが。

 

 「ね、ね、おりむー。しののーとさ、ちゃんとお話してる?」

 

 「え?」

 

 「折角再会できたのに~、構ってくれなかったら普通寂しいって思うでしょ?」

 

 いつの間にか隣にいた本音は、そう言った次の瞬間には元の場所に戻っていた。普段はかなり遅いのにこういう時に限って素早いとは、流石暗部の一員である。とはいえ本音の言葉は説得力があり、これまでの自分を振り返って反省する。

 

 (確かにここ暫くまともに話していなかったな……今夜くらい、話してみるか)

 

 「では次だ。武装を展開しろ」

 

 瞬時に思考を切り替え、周囲に誰もいない事を確認してから右手を左腰に伸ばす。VRならばそこに差してある刀の柄を握ったつもりで抜刀するイメージと共に右手を軽く振ると、雪片弐型が現れる。和人や明日奈も同様に抜剣するように腕を振るって各自の剣を展開していた。コンマ数秒遅れて巧也も短剣型のブレードを展開し、セシリアに至っては展開されたライフルが射撃可能状態へと移行していた。

 

 「野上、予備動作なしで出せるのはいいが少し遅い。コンマ五秒以内に収めろ。織斑、桐ケ谷、結城は予備動作が大きすぎる。それでは咄嗟に展開できんぞ。そしてオルコット、お前はその変なポーズをやめろ。展開できても横向きでは敵を撃てんぞ。正面へ展開できるよう直せ」

 

 淡々とした指摘に巧也、一夏、和人、明日奈はぐうの音もだせなかったが、セシリアは思わずといった様子で反論した。

 

 「で、ですがこれはわたくしにとってイメージを纏めるのに必要な―――」

 

 「―――横に味方がいてもそうするつもりか?暴発でもしたらフレンドリーファイアは確実だろうな」

 

 「う……」

 

 「分かったなら直せ。いいな」

 

 だがそれも見事に論破され、あえなく撃沈する。指摘された内容がもっともである以上、文句があっても従うしかない。そのためセシリアは黙って頷いた。

 

 「よし。では出席番号順に五つのグループに別れ、訓練機を起動させろ。専用機持ちはサポートに回れ」

 

 千冬の号令に従って女子生徒達が動き出す。決められた手順に従って装着、起動、直立、駐機姿勢、停止、装着解除をこなすだけだが、今回が初めて訓練機を用いた授業である。大きな問題こそ起きなかったが、数名が起動に手間取ったり、うっかりPICで数センチ浮き上がってしまったりするなどしてしまい、一通りの作業ができたのは授業時間ギリギリだった。

 

 「―――時間だな。今日の授業はここまでとする。織斑、グラウンドにつけた足跡は埋めておけよ」

 

 「了解です」

 

 「手伝おうか?」

 

 「いえ、オレ一人でやります」

 

 自分の失敗の尻拭いなのだから、自分一人でやるべきだと己を律した一夏は、和人や巧也、セシリア達の手伝いを丁重に断るのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「えーそれでは、織斑君のクラス代表就任を祝って……かんぱーい!」

 

 「かんぱーい!」

 

 「イエーイ!」

 

 その日の夜。一年生寮の食堂に集った少女達は夕食後の自由時間を使い、一夏のクラス代表就任パーティーを開催していた。……本来一組のみの筈が、どう数えても他のクラスまでいるとしか思えない程の人数になっているのは気のせいではないだろうと一夏と和人は同じ事を考えていた。

 

 (けど、こういう祝い事って……いいよな)

 

 SAOでは、慢性的に殺伐とした空気を少しでもどうにかしようと何かとかこつけて祝い事が開かれていた。その事を思いだした一夏は、コップに注がれたジュースの水面を眺めて一人微笑む。

 

 ―――こうやってバカ騒ぎすんのも、命あってこそだ。生きてりゃ万事どうにでもなるってのを忘れんじゃねぇぞオメェら!

 

 ―――リーダーそれいっつも言ってるっスねぇ。おれ耳にタコできる位聞いたっスよ?

 

 ―――オレもオレも!リーダーの女運の無さは相変わらずだけどな!

 

 ―――だあああぁぁうっせぇ!

 

 今でも鮮明に思い出せる、風林火山のギルドホームでのパーティー風景。クラインだけでなくメンバー全員が気さくで親しみやすく、年の離れた一夏や弾、簪、本音もあっという間に打ち解ける事ができた。時々悪ノリが過ぎて呆れる事もあったが、それを差し引いても彼等全員が立派な大人だったと一夏は胸を張って言える。そんなクライン達が共通でモットーにしていたのが、生き残る事だった。大抵の事など生きていればどうとでもなる。だが死ねば……それで終わってしまう。だからこそ、どんなに見苦しくても、醜いとあざ笑われようとも……生きる事から逃げてはならないのだと、彼等は言っていた。

 

 (箒とばったり再会できたのも……キリトさんやカンザシ達と同じ学校に通えるのも……全部、生きてるからこそなんだよな…………ホント、クラインさんの言ってた通りだよ)

 

 水面に映る少年は、ただただ優しげな笑みを浮かべる。そんな彼を見た少女達は、その笑みが自分に向けられたものでは無いと分かっていても胸がときめくのを抑えられなかったが、当の本人は全く気付いていない。

 

 「おーおー、アインのヤツ……さっそくやらかしてるな」

 

 「あはは……多分SAO(むこう)での事を思い出してるんじゃないかな?風林火山はフロアボスを倒す度にお祝いのパーティーやってたらしいし」

 

 「クラインらしいな……」

 

 普段はバカな事ばかりやるお調子者な野武士面の青年を思い出した和人もまた、懐かしむように目を細める。憎まれ役であり続けた彼は、攻略組ギルド合同で開催されたパーティーでさえも顔を出さず、攻略組の影として一人で戦い続けた。それ故にこういう祝いの場でどうするべきかなど全く分からず、とりあえずきゃいきゃいと騒ぐクラスメイト達を眺めていた。

 

 「―――はいはーい、新聞部でーす!今話題の男子新入生にインタビューに参りましたー!」

 

 おぉー!と上がる歓声と共に、一夏の意識は現実に引き戻される。一夏が顔を上げると目の前に二年生の少女が立っており、名刺を差し出していた。

 

 「私は黛薫子(まゆずみかおるこ)。二年生で新聞部の副部長よ。よろしくね」

 

 「あ、織斑一夏です。こちらこそ」

 

 咄嗟に名刺を受け取ると、早速彼女はボイスレコーダーを取り出す。インタビューと言われても何を話せばいいのか分からないが、とりあえず断る理由もないので一夏は応じた。

 

 「ではズバリ!クラス代表になった意気込みをどうぞ」

 

 「やるからには全力で、最善を尽くすつもりです」

 

 経緯はどうあれ、クラスの期待を背負う立場になったのだから、それを裏切るような事はしたくない。それが一夏の偽らざる本心だ。

 

 「おぉう……短いけど、聞く側にもなんだかずっしり来るわね。その表情が言葉に重みを持たせてくれてるのかな?」

 

 「?」

 

 彼自信は真面目に答えただけなのだが、傍から見ればまるで言葉にできない何かを背負っているかのような真剣な表情をしていたのだ。

 

 「うーん、でも記事にするにはもうちょっとコメント欲しいかな」

 

 「そう言われましても……オレ、結構口下手なんで」

 

 「えぇ~……まぁ、急なインタビューだししょうがないかぁ。じゃあ次、桐ケ谷君!」

 

 「な、俺もか!?」

 

 突然呼ばれた事にたじろぐが、逃れられないと悟ると意を決して一夏の隣に並び立つ。

 

 「桐ケ谷君って実は私達二年生と同い年だってたっちゃんから聞いたんだけど、それって本当なの?」

 

 何処で聞いたのだろうか?と思わずツッコミを入れたくなった和人だが、グッとそれを堪える。更識家と縁がある故に顔写真と名前以外徹底して報道される事が無いように国内の情報は統制されていた筈だし、だからこそ彼の家族が重要人物保護プログラムによってバラバラにされる事だって防がれているのだ。それに綻びがあるという事は由々しき事態で……

 

 (いや、あの女狐か……!)

 

 彼女の言う’たっちゃん’が楯無……もとい刀奈の事であるならば。年齢くらいはポロっとバレてしまっても不思議ではないだろう。

 

 「あー、はい。その通りだよ。だからアインの事は弟みたいに感じてるし、コイツも俺を兄貴みたいに慕ってくれてるんだよな」

 

 「ちょ、キリトさん……頭撫でないでくださいよ」

 

 「おっと、悪い悪い。もうクセなんだよなぁ、コレ」

 

 「わお!桐ケ谷君ってお兄ちゃんっぷりが板についてるのね。これはこれでいいネタゲット!」

 

 早速メモ帳にペンを走らせる薫子に苦笑しつつ、和人は次の質問に内心で身構える。恐らくインタビューはこれで終わらないだろうという直感が彼に安堵を許さない。

 

 「その本名じゃない呼び方ってあだ名なの?」

 

 「ああ。もともとネットゲームで知り合って、オフ会で意気投合って感じだったから、この呼び方でお互いに定着したんだ」

 

 「ほぇー、ゲームで知り合うなんて予想外だよ」

 

 いい記事が書けそう、とせわしなくペンを走らせつつも彼女は質問を重ねる。

 

 「じゃあ次の質問!そこの結城さんとお付き合いしてるって噂は本当?」

 

 その質問が飛んだ瞬間、各々騒いでいた少女達がぴたりと静まり返った。決して聞き逃してなるものかという執念じみた彼女達の行動に若干引きながらも、和人は口を開いた。

 

 「……本当だ。ちなみに明日奈は俺より一つ年上だ」

 

 「あちゃー、ざんね……ってええぇぇ!?結城さんって私より年上!?」

 

 食堂のみならず教室でも度々仲睦まじくしていた為、一組の生徒達はおおよそ察していたようだ。やっぱりかー、そんな気がしてたんだよねー、等呟きながら苦笑を浮かべている。一方他のクラスの者は衝撃の事実に打ちのめされて絶叫を上げている。質問した薫子自身は和人に恋人がいる事よりも明日奈が年上である事に驚いていたのだが。

 

 「年上だっていっても一年生なのに変わりは無いから、そんなに畏まらなくていいよー」

 

 当の明日奈は朗らかな笑みを浮かべるだけだが、その落ち着いた物腰が和人の言葉が偽りのないものである事を如実に物語っていた。

 

 「えぇっと、気を取り直して……あ、いたいた。三人目!」

 

 「はい?僕もですか?」

 

 「当然!」

 

 思い思いに騒いでいた少女達の妨げにならぬように、各テーブルのジュースやお菓子の補充、片付け等の裏方作業に努めていた巧也だったが、薫子の誘いに応える為に一旦作業を中断する。

 

 「野上君は桐ケ谷君ととっても仲良しに見えるって話だけど、それで合ってるのかな?」

 

 「はい。彼とは家が隣同士で、幼少の頃からの付き合いなんです」

 

 巧也は別段緊張する事もなく、自然体のままで答える。

 

 「ふむふむ……じゃあ桐ケ谷君に彼女がいるっていうのはどう思ってるの?」

 

 「どう、と言われましても。とても喜ばしい事だと思いますよ」

 

 薫子の質問の意図が読めず、巧也は僅かに首を傾げる。

 

 「いやいや、そうじゃなくって……年頃の男の子なんだし、もっとこう、無いの?桐ケ谷君が羨ましいなーとか、自分も彼女欲しいなーとかさ」

 

 一方で彼女は彼の回答が予想外だったのか、苦笑いをしながら再度尋ねる。それでようやく薫子が聞きたがっている事を理解した巧也は、微笑んで見せた。

 

 「そういった気持ちが全く無い、といえば嘘になります。ですが今はそれ以上に和人が……家族同然に想える人が幸せである事が、何より嬉しいんですよ」

 

 少しだけ照れくさそうに告げられた、彼の本心。今まで和人や一夏にばかり目を向けていた者達にとって、それは不意打ちにも等しいときめきを与えた。

 

 「ちょ、今くらっと来たかも……え、何この子いい子過ぎない?っていうか普段織斑君達ばっかり注目されててホントに何ともないの?」

 

 「はい。元々目立ちたくない性分ですし、目立つ故に苦労してる二人の様子も見てますから……今の状態が丁度いいんです」

 

 巧也が浮かべる笑みが陰る事は一切無く。その言葉が決して見栄ややせ我慢ではない事を薫子に雄弁に伝えている。

 

 「いやービックリ!正直野上君って地味っ子かなーってあんまり期待してなかったんだけど、これは隠れ良物件ってヤツじゃない?」

 

 「買いかぶり過ぎですって。今は良くても、数年経ったら和人に嫉妬してばっかりかもしれません」

 

 「いやいや。メンタルのイケメンっぷりはヤバイんだし、絶対IS学園(ここ)の皆がほっとかないって!」

 

 なんなら私も狙っちゃおっか?と茶化すようにウィンクする薫子。それに愛想笑いを浮かべながらも、巧也は内心焦った。

 

 (しまった……思春期の少年らしく我欲があるように見せるべきでしたね……これでは二人とは別の意味で注目されてしまう……!)

 

 任務を遂行するには、ノーマークである方がやりやすい。誰にも注目されないよう、入学してからは常に気配をある程度誤魔化して存在感を薄くした上で和人や一夏の傍に控えていたが……今回のインタビューでその努力も水の泡になった恐れがある。

 

 ―――巧也君ってば私や和人の為にって任務を頑張るのはいいんだけど……もっと我儘言わないと枯れてるって誤解されちゃうぞ?

 

 入学前に告げられた、冗談交じりな楯無の忠告が頭をよぎったが、それも今更である。とはいえ彼自身嘘偽りのない想いを口にしただけでこうなるとは全く想像できなかったのだが。

 

 「よーし、男子三人のインタビューができて大収穫っと。後は―――」

 

 カメラを準備し始めた薫子の様子から、男子三人の写真でも撮るのだろうか?と一夏は和人と巧也の二人と顔を見合わせる。ともかくインタビューがもうじき終わるのならと緊張を解き、手にしたジュースを口に含んだ。

 

 「―――織斑君ってたっちゃんの妹と付き合ってるんでしょ?」

 

 「ふごぁ!?」

 

 その言葉が、たった今口に含ませたジュースを噴出させた。不幸中の幸いか噴き出したのはごく少量で、それも誰もいない方向だった。すかさず巧也が床に飛び散った雫を何処からか持ってきた雑巾でふき取り、和人が一夏の背中を摩る。少しの間咳き込んだ一夏だったが、薫子の目は未だに怪しく光ったままである。

 

 「うーん、そろそろだと思うんだけどなぁ」

 

 「何だよそろそろって……おい巧也、本音は何処いった?」

 

 「そういえば……そこのテーブルでマイペースにお菓子を食べていたのを見たのが最後です」

 

 「それは何時だ?」

 

 「……インタビューが始まる直前だったかと」

 

 周囲の少女達が一夏にも恋人がいるのかと騒がしくなる中、和人の頭には急速に一つの仮説が組みあがっていく。

 

 (まさか……本音のヤツ、これからアインがフラグ立てまくるのを見越して強硬手段を選んだのか……!)

 

 普段はのんびり、マイペースで人畜無害な雰囲気全開の妹分だが、その実暗部の家系に相応しい強かさを持ち合わせているのだ。彼女がSAOで朴念仁な一夏と内気な簪の仲を進展させる為に、影で尽力していたのはいうまでもないだろう。

 

 「お待たせー!かんちゃん連れてきたよー!」

 

 「待ってました!こっちこっち!」

 

 「ちょ、何これ……本音、引っ張らないでって……」

 

 いつの間にか姿を消していた本音が、クラスメイト達を押し退けて現れる。簪の腕をしっかりと抱え込んで。それを見た瞬間、和人は己の予想が凡そ間違っていなかったと確信した。

 

 「はーい、愛しのおりむーへダーイブ!」

 

 「いと!?きゃっ!」

 

 「カンザシ!!」

 

 一瞬で耳まで真っ赤になった簪の背後にまわった本音は、軽くその背を押す。簪はそのままつんのめって転びそうになり、それを一夏が駆け寄って抱きとめる。その瞬間にカメラのシャッターが切られ―――

 

 「ベストショット、頂きました!」

 

 ―――薫子の歓喜の声と少女達の驚愕の叫びが、食堂に響き渡るのだった。




 やりたい事詰め込みまくったら、いつの間にかこんな事に……しかもまだ終わってないとは。

 多分これが今年最後の更新になるかもです。
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