IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 すみません、今回はちょっと短いです。というか、前回が長すぎましたね……


十一話

 一年生寮の食堂は、混迷を極めていた。

 

 「それで織斑君、その子と付き合っているんでしょ?」

 

 「……はい。オレはこの子と……カンザシと付き合っています」

 

 一夏は沸き上がる羞恥心を抑え込み、受け止めた少女を抱きしめながらも、真実を告げた。

 

 「ぎゃああぁぁ!」

 

 「神は死んだ!!」

 

 「明日から何を糧に生きればいいの!?」

 

 再び響き渡る、少女達の悲鳴。和人に続き一夏までもが恋人持ちという事実は、彼女達の心を容赦なく打ちのめしたのだ。

 

 「ひゃー凄いね、この反響。桐ケ谷君も織斑君も、ホント罪作りだね~」

 

 「な!?アインはともかく、俺は違うだろ!」

 

 「それオレの台詞ですってキリトさん!」

 

 自分へと向けられる異性からの好意に鈍感な者同士、互いに罪を擦り付け合うのは仕方の無い事だろう。自分がどれだけ異性の目を惹きつけてしまうのかを、二人共自覚していないままなのだから。

 

 「あっはは。たっちゃんの言ったとおり、そこらへんは似た者同士だね。本音ちゃんもありがと……はいコレ、約束のお菓子詰め合わせ」

 

 「わ~い」

 

 「「買収済みかよ!!」」

 

 薫子が何処からか取り出した袋を、喜々とした様子で受け取る本音。そんな彼女を見た二人は、見事に一致したツッコミをかます。

 

 「う……ぅ……本音ぇ……」

 

 簪は一夏の腕の中から恨みがましく声を上げるが、それは余りにもか細く、本音に届いていないのは明白だ。

 

 「えーっと、カンザシ?とりあえず落ち着けって。ほら、深呼吸」

 

 「おーい織斑君、それ逆効果だよ?それとも分かってて言ってる?」

 

 「へ?何がですか?」

 

 「……こ、恋人に自分の腕の中で深呼吸しろって……’オレの匂いを嗅げ!’って言ってるようなものでしょ」

 

 一夏、大自爆である。薫子に指摘された事を理解した瞬間、彼もまた簪と同じくらいに赤面した。

 

 「あー楽しかったっと……それじゃあ次!代表候補生のセシリアちゃん、コメントちょうだい」

 

 「……え?えぇ……解りましたわ」

 

 放心していたのかワンテンポ遅れて、セシリアは薫子の取材に応じる。だがその心は先程のショックから立ち直っているとは言い難い。

 

 (ええ……ええ、そうですわ。会って間もないわたくしにだって惜しみない称賛を送ってくださる方ですもの。親密な関係を築いた女性がいても、不思議ではありませんわ……)

 

 裏表のない彼の真っ直ぐさに、セシリア自身救われたばかりなのだ。きっと一夏は今までもああやって誰かに手を伸ばしてきたのだろう。自分以外に好意を抱く者が……その上想いを通じ合わせた者がいるであろう事は、冷静に考えればすぐに気づけた筈だった。

 

 (わたくしは……一夏さんに、恋をしていたのですね……)

 

 初恋。そんな泡沫の夢に溺れていたからこそ、セシリアは気づけなかった。一夏の周りを見ていなかった。けれども―――

 

 (ここで折れてしまう程、わたくしは諦めが良くありませんわよ……!)

 

 乙女心は、まだ夢から醒める事を拒む。彼が選んだ人ならば、簪という少女が魅力的な女性(レディ)である事は間違いないだろう。しかし、だからと言って自分が彼女より劣っている筈がないと、セシリアは己を奮い立たせる。

 

 (もっともっと、一夏さんの事を知らなくては……!)

 

 彼女は優雅な笑みでインタビューに答えながら、静かに決意を固めるのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「た……大変な目に遭った……」

 

 本音が簪を連れてくるというサプライズにより、一夏の精神的HPはレッドゾーンにまで突入した。夜十時過ぎまで続いたパーティーを終えてから簪を部屋まで送り届け、自室に戻った途端に彼は自分のベッドに倒れ込んだのだった。

 

 「……人気者だったな。さぞ楽しかっただろう」

 

 刺々しい口調で放たれた箒の嫌味に思うところが無い訳ではないが、彼女の人となりをよく知る一夏が機嫌を損ねる事はなかった。

 

 「……毎日珍獣扱いされた上に、恥ずかしい瞬間の写真撮られたら……お前は楽しかったって言えるか?」

 

 「うっ……ああ、そうだろうな」

 

 ベッドに顔を埋めている一夏に箒の表情は見えないが、それでも不機嫌そうに唇を尖らせそっぽを向いた彼女が目に浮かぶ。本心とは違っているのに、一旦言い出したら引っ込みが付かずに自爆するのは昔から変わらない箒の悪い癖だった。

 

 (こういうトコは変わってないのに……何で前より不機嫌になる事が多いんだ?)

 

 ―――しののーとさ、ちゃんとお話してる?

 

 日中の間に本音から言われた事を思い出し、一夏は疲労した体を起き上がらせる。一週間ほど同じ部屋で過ごしていたのに、自分が目の前の幼馴染と言葉を交わした時間は驚く程に少なかった事に改めて気づいたのだ。

 

 「箒」

 

 「な、何だ」

 

 未だに彼女は気まずそうにしていたが、今の一夏はそれにかまってはいられない。話合い、互いの心を知らなければ解りあう事はできない。唯一の家族である姉でさえ、言葉を重ねなければ伝わらなかったのだから、今の自分が箒と解りあえているとは言い難いだろう。

 

 「……さっきから機嫌悪そうだけど」

 

 「き、気のせいだ」

 

 目を逸らしている以上図星だと解るが、意地を張っている箒がこちらを見てくれるであろう話題が、一夏には分からない。分からないが―――自分の中で一つ、今と昔とで大きく変わった事ならばと一縷の望みをかけて口を開く。

 

 「もしかして……そんなに意外だったのか?オレが女子と付き合ってるのが」

 

 「!?」

 

 ビクリと音がしそうな程に箒の肩が跳ねる。その反応に手応えを感じた一夏はさらに続ける事にした。

 

 「そりゃ今まで知り合いや友人たちに、鈍いだの朴念仁だの唐変木だの……散々言われてきたけどさ。オレだって普通……とまではいかなくても男なんだぜ、一応。色恋の一つや二つあってもいいだろ」

 

 「わ、私は……私は……!」

 

 離れ離れだった六年間に積もり積もった想いが、箒の中であふれ出しそうになる。

 

 ―――「好きだ」と言ってしまいたい。自分だけを見てほしい。

 

 だが……顔を上げた時。六年前と変わらぬ……いや、より眩しい程に強い意志を宿した瞳を見た瞬間、声が詰まった。

 

 (一夏の中では……私はずっと、幼馴染のままだったのだな……)

 

 羞恥に頬を染めながら、水色の髪の気弱そうな少女を気遣っていた一夏の姿が脳裏に蘇る。彼に恋し、彼を見ていたからこそ……あの少女をどれ程想っているのかが、箒には解ってしまった。

 

 「ほ、箒……?」

 

 「っ……私は、怒っているんだ!」

 

 「ぅえ!?」

 

 この想いをぶつけても、今の一夏には届かない。それが分かった瞬間、箒の口から出てきたのは本心とは違うものだった。

 

 「こ、恋人ができたのはめでたい事だろう!何故すぐに言わなかったんだ!?」

 

 「そ、そりゃ言う暇が無かったっていうか……恥ずかしいじゃん」

 

 「言い訳無用だ!」

 

 「な!?それは横暴だ!っていうか、言ってもお前絶対信じないだろ!」

 

 溢れる激情を怒りと偽ってから、売り言葉に買い言葉で二人の口喧嘩が加速する。それはまるで……六年前まで続いた日々に戻ったかのような気安さで。

 

 「そ、そんなの当たり前だろう!お前の鈍さにどれだけの女が泣かされていたと思っている!?」

 

 「はぁ!?小学生ん時に色恋に目覚めるヤツとかいないだろ!」

 

 「そんなセリフが出る時点で鈍いままなのだと言っている!」

 

 「こちとら初めて告白されたのは中学だっつーの!その前はいなかったぞ!!」

 

 一夏の脳裏に、一人の少女がよぎる。あれは自分がSAOに囚われる前の事だったか。彼女の想いに応える事はできなかったが、その告白がきっかけとなり……一夏は自分なりに恋愛について考え始めたのだ。

 

 「っ、そ……そもそも!恋人と別の女と同居なぞ……浮気以外の何物でもないだろう!」

 

 「だからそれはオレの意志じゃねぇって言っただろ!」

 

 「予防線を含めて言っておくのは礼儀だろう!もし同居人があの女なぞお構いなしにお前に迫るようなヤツだったらどうするつもりだったのだ!?」

 

 「……ど、どうするって言われても……」

 

 「VR装置だとかつけて無防備な姿を毎晩晒していたんだぞ!き……既成事実でも作られたらどうするつもりだったのだと言っている!?」

 

 「……あ」

 

 「この……阿呆がああぁぁぁ!!」

 

 遂に箒の堪忍袋の緒が切れた。背後に鬼神がいるのではないかと思わせるほどの怒気を纏い、ゆらりと立てかけてあった木刀を握る。

 

 「そこになおれこの馬鹿者!」

 

 「ちょ、待て待て!その木刀で何する気だ!?」

 

 「貴様のその性根……今ここで叩きなおす……!」

 

 その宣告と共に、箒は正眼に構えをとる。現役の剣道少女たる彼女の構えは恐ろしいまでに余計な力が入っておらず、木刀が真剣ではないかと幻視する程だった。

 

 (これは……殺される!?)

 

 戦慄した一夏は逃走を試みたかったが、既に彼女の眼光はこちらを捉えて離さない。逃げようものなら、その前に一閃されるのは火を見るよりも明らかだった。残された手段は言葉による説得のみ。

 

 「あの……箒、さん?」

 

 「問答……無用!」

 

 だがしかし、一夏にそんな猶予は残されていなかった。振り下ろされた木刀を何とか両手で受け止め……そこで彼の意識は途切れた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「……全く、軟弱者め」

 

 拳骨を食らって気絶した(・・・・・・・・・・・)一夏を抱きとめ、箒は呟く。剣道を辞めたという話は本当のようだが、それとは別の……より実戦に近い何かを経験してきたであろうことは薄々感じていた。そうでなければ彼はさっきの打ち込みを白刃取りで防ぐ事はできなかっただろうし、それにあわせて彼女も木刀を手放して無手で攻める事もなかった。

 

 「……VRMMOと言ったか?いや、まさか……」

 

 仮想世界で己の手足を動かし、剣を振るう。そんなゲームがあった事を、箒はふと思い出す。もし一夏がそこで戦いに明け暮れていたのなら……体力が異様に乏しい肉体に、それに不釣り合いなまでに鋭い視線や反応速度に一応の説明がつく。

 

 「お前は……ソードアート・オンラインにいたのか……?」

 

 腕の中の彼は伸びてしまっていて、彼女の問に答える事は無い。何より箒の憶測でしかない以上、確証のないまま一夏に問いかけるのは憚られた。

 

 「だが、私は……」

 

 知りたい。自分がいなかった六年間に、この幼馴染に何があったのかを。何を見て、何を感じ、どうやってあの少女と心を繋いだのかを。

 一夏を寝かしつけながら、箒は気持ちに整理をつける。一夏が自分ではない人を見ている事に胸が痛み、彼の心を独占しているであろうあの少女に嫉妬しているのは紛れもない本心だ。そしてそれ以上に、諦めてなるものかと歯を食いしばる自分がいる。各地を転々としながら過ごした、灰色の六年間の中であっても決して色褪せる事のなかったこの想い。障害の一つ二つや、思いがけないライバルの出現があろうと、そう簡単に手放すつもりは一切無い。

 

 「覚悟しておけ一夏。そして―――更識簪とやら」

 

 静かな宣戦布告と共に見上げた夜空は、久しぶりに綺麗だと思えた。




 よっぽどのゲスキャラでもない限り、個人的にはアンチとかはしたくないんですよね。まぁ、そこら辺も個人の好き嫌いでバッサリされたらどうしようもありませんけど……(汗)
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