IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 こっちの更新するの久しぶりです……(汗)


十四話

 曇りの無い、早朝の青空の下。普通なら、生徒の誰もが微睡みの中を漂っているこの静かな時間帯だが、グランドには人影があった。

 

 「ふっ……はっ……ふっ……はっ……」

 

 「よし、そこまで」

 

 IS陽炎をPICをカットした状態で身に纏い、先程までマラソンに勤しんでいた巧也と、彼のIS使用の監督役を務めていた千冬である。息を整えながら彼が歩く度に、鋼鉄の脚がガシャリ、ガシャリと音を立てる。その音にかき消されぬよう声量に気をつけながら、千冬は巧也へと結果を伝える。

 

 「昨日よりコンマ七秒早い。一周毎のタイムも安定してきている……ようやく今の手足に慣れてきたか」

 

 「そう、ですね……以前より、馴染んできている感覚はあります」

 

 「そうか……アイツ等に何かあった時、すぐ隣で手を貸せるのはお前だからな。これで少しは安心できそうだ」

 

 ジャージ姿であっても、普段の時と変わらぬ鋭さを宿した雰囲気が、少しだけ緩くなる。とはいえ彼女に隙ができたり、気を抜いたりした訳では無い。

 

 (この方も、心は普通の人……なのですね。(一夏)を、家族を想い、慈しむ……普通の(ひと)……)

 

 世界最強などと呼ばれ、誰からも英雄視されていても。日頃は教師として事務的な態度を崩さず、私情を挟まぬ冷血さを見せていても。彼女の本質は(かぞく)を愛する普通の(ひと)なのだと、巧也は察した。

 

 「さて、今日はそろそろ戻っておけ……しかし、よく桐ケ谷は気づかないな」

 

 「和人は朝に弱いんです。こちらから起こさない限り、普通は夢の中のままですよ」

 

 「……寝坊させるなよ?」

 

 「承知しております。本日もありがとうございました」

 

 千冬に一礼した後、巧也は陽炎を待機状態へと移行させる。次いでベンチに置いておいた自分のジャージをISスーツの上から着込むと、足早に寮へと戻る。

 

 「野上……お前が敵でなくて、良かったよ」

 

 彼の背を見届けてから、千冬は一つため息をついた。あの油断ならない生徒会長の部下……暗部の人間だと紹介されてから今日まで振り返るが、彼の言動・振る舞いに警戒するような事は一切なかった。

 

 ―――そう、こちらに一切の警戒心を抱かせなかった(・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 ある程度容姿は整っている方だが日本人として見れば特筆するようなものは無く、背格好も平均的。物腰も控え目で穏やかであり、強いて挙げる特徴といえば、大抵の事はそつなくこなせる器用さと、周囲への小さな気遣いに幾分長けている、程度のもの。一度街中で人混みに紛れてしまえば、すれ違ったとしても誰も全く気にも留めないだろう。

 

 (ISを纏っての走り込みを見ていたからこそ、充分な武術や体力を身に着けていると分かったが……普段の身のこなしでは察知されない訓練をしてきたのか……)

 

 記憶にある彼の動きや仕草をいくら思い返しても、表向きのプロフィール―――更識が表側の事業として行っている武術道場にて、多少の心得を身に着けた程度のひよっこ―――が本当であるとしか思えない。代表候補生のセシリアや、実家の剣術を曲がりなりにも修めてきた箒ですら、恐らくは巧也の正体を見抜けていないだろう。

 仮に彼が一夏の死を望む者達の刺客として潜り込んでいたら、自分はまんまと出し抜かれて一夏を殺されていたかもしれない……千冬はそう考えずにはいられなかった。

 

 (ISに延長された四肢の感覚がすぐには馴染まなかった辺り……かなり繊細なのだろう。それに正面切っての戦闘も不得手……暗殺者(アサシン)に特化している、という言葉は本当のようだな、更識楯無)

 

 巧也が早朝にISを装着してのマラソンの監督役をしてほしい、そんな依頼を持ち掛け、食えない微笑みを崩さなかった少女が脳裏をよぎる。巧也がISの補助があっても延長された四肢に違和感が消えなかったのは本当だったが、同時に彼の特性についての売り込みも兼ねていたらしい。百聞は一見に如かず、という(ことわざ)どおりだ。

 

 「おっと、そろそろ戻らなくては……考え事ばかりで教師が遅刻、なんて醜態を晒す訳にはいかんな」

 

 両手で軽く自分の頬を叩く。次の瞬間に彼女の顔はIS学園の教師のソレへと切り替わっていた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 五月に入り、クラス対抗戦(リーグマッチ)の開催日は瞬く間にやってきた。第一試合の組み合わせは一夏と鈴音、片や希少な男性操縦者、片や一年で代表候補生の座を勝ち取った才女という、注目を集める者同士であった。二人の試合を見ようと大勢の生徒達が詰めかけた結果、第二アリーナは全席満員な上に通路に立ったままで見ようとする少女達で埋め尽くされていた。それでもなお客席に入り切れなかった者達は、リアルタイムで上映されるモニター越しに試合の行く末を見届けようとしていた。

 

 (あれが鈴のIS、甲龍(シェンロン)……すっげぇトゲトゲした感じで、痛そうだなぁ……)

 

 セシリアのブルー・ティアーズとはまた違った形状の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に注目しながらも、一夏は規定の位置へと白式を移動させる。

 

 「一夏」

 

 「鈴?」

 

 試合が始まる前に、鈴音から個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)が入る。聞こえてきた彼女の声は普段の勝気なものではなく、一夏を気遣うような、遠慮がちなものだった。

 

 「念の為言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないわ。シールドエネルギーを突破される程の攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる……今のアンタの身体、普通のヤツより弱っちいんだから、変な意地張らない方が身の為よ」

 

 「……それは弁えてるつもりさ。てか、トドメにぶん殴るって言ってたんじゃなかったのか?」

 

 「な、アンタねぇ!人が折角心配してやってるってのに、揚げ足取ってんじゃないわよ!」

 

 「はっはっは、変な気遣いとか鈴らしくなかったからな。オレが真剣勝負で手を抜くのも抜かれるのも嫌いなの、覚えてるだろ?大丈夫、本当にヤバかったらちゃんと降参(リザイン)するさ。泣かせたくない人達がいるからな」

 

 「わ、分かってるならいいのよ……絶対に泣かしてやるわ!」

 

 彼女はその宣言と共に回線を閉じ、二振りの青龍刀……双天牙月(そうてんがげつ)を構える。一夏も続いて雪片弐型を左腰へ移し、左手を刀身に添える。

 

 (今のオレの勝機は、初撃で零落白夜を直撃させる事……この一撃で、斬る……!)

 

 試合開始のブザーを聞き逃さぬように注意しながら、一夏は鈴音以外の情報を削ぎ落していく。相手の得物の特徴や構え方、全身の力の入り具合……そして視線。そこから彼女の初撃を予想し、こちらの初撃の軌道を決める。

 

 ―――試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 先手必勝とばかりに甲龍が駆ける。大質量の塊を力任せに叩き込む―――刹那、鈴の直感がかつてない程の警鐘を鳴らし、眼前の白式が掻き消えた。

 

 (ヤバ―――!)

 

 強引に体を捻ると、左側を白式が駆け抜けた事が感覚で分かった。ハイパーセンサーに映る背後の映像にいる彼は、刀身が割れた雪片弐型を振り切っていた。

 

 ―――割れていた……否、零落白夜の為に展開していた刀身が閉じる。

 

 突如甲龍の左腕装甲が爆ぜ、装備されていた腕部用小型衝撃砲、崩拳(ほうけん)の破損と大幅なシールドエネルギー減少を警告するアラートが鈴音の視界に表示された。

 

 「こん、のぉおお!」

 

 しかし、彼女とてやられっぱなしではなかった。肩部の大型衝撃砲、龍咆(りゅうほう)を起動し、背後へと発射。不可視の弾丸が、追撃するべく振り返りかけていた一夏の横っ面へと叩き込まれる。

 

 「へぶっ!?クソ、仕留めきれなかったか……!」

 

 二発目が右肩を掠める中、彼は瞬時に後退して間合いを取る。彼女のIS、その非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が試合開始前と違ってアクティブとなっている為、先程の不可視な衝撃は向こうの武装によるものだと推測する。

 

 「初っ端から瞬間加速(イグニッション・ブースト)で居合切りだなんて……やってくれるじゃない!」

 

 「人の切り札凌いだ相手に言われても嫌味にしか聞こえねぇよ!おわっ!?」

 

 「初見で衝撃砲凌いでるアンタだって色々オカシイわよ!」

 

 三次元跳躍起動(クロス・グリッド・ターン)をはじめとした戦術的機動を駆使して衝撃砲を捌き、時として鈴音に肉薄する一夏。まだ拙い所があるとはいえ、セシリア達に伝授された技術を発揮する姿は、とても素人のものとは思えない。その上で剣の間合いに鈴音を捉えた時の剣筋は冴えており、彼女の身を幾度と掠める。

 

 (―――侮ってた……!こんなに……こんなにも、速くて鋭いなんて……!)

 

 鈴音の心は打ち震えていた。白式が武装は近接ブレード一本のみの高機動型機体で、自身のエネルギーを攻撃に転用する特殊能力ゆえに継戦能力に乏しいという情報は得ていた。先んじて行われていたセシリアとの試合の映像だって何度も見返し、イメージトレーニングやシミュレーションだって怠っていなかった。肉体的にも体力に乏しい彼が、初撃に全力を注いだ超短期決戦以外の戦略は取れないという確信だってあった。

 その上でなお……正面からぶつかって押し切れる自信が、鈴音にはあったのだ。

 

 ―――そして一夏は、正面から鈴音を斬り裂いてみせた。

 

 結果として甲龍は左腕が半壊し、双天牙月が満足に振るえない程に出力が低下している。機体本体の損傷はそれだけだが、一方でシールドエネルギーは半分程喪失している。直撃を避けた一撃でこのザマ……もし初撃をモロに喰らっていたら、一発でゲームエンドは必至だったと、彼女は戦慄しながらも手を止めない。試合の流れは向こう側に大分傾いているが、こちらの勝機が消えたわけでは無い。

 

 「おりゃあぁぁ!」

 

 「シッ……!」

 

 分割状態の双天牙月を、右腕で叩き付けるように振るう。肉厚の刃が雪片弐型の細身の刃と接触した瞬間、一夏は太刀の向きを変えて受け流す。そのまま懐に飛び込むが、先んじてスタンバイしていた龍咆が吠える。

 

 「あっぶな―――ぐぁぁああ!?」

 

 「ハッ、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってね!!」

 

 避けた筈、そう困惑しながらも数多の衝撃を受けて離れる一夏。今まで回避できた攻撃を受けた事に、彼は衝撃を隠せない。あの時白式のハイパーセンサーは、至近距離を不可視の弾丸が通過した事を確かに教えてくれた。だが現実ではその直後、見えぬ拳が無数に叩き込まれた。しかしその一方で、受けた弾丸の数に対してシールドエネルギーの減少量はさほど多くない。

 

 「ふふん、丁度いいから教えてあげる。衝撃砲ってのは、出力を抑えればマシンガンみたいに弾をバラまける……さっきアンタを滅多打ちにしたみたいにね!」

 

 「マジかよ……思ったほどダメージが少なかったのは、そういう訳か……!」

 

 勝気な笑みを浮かべる鈴音に対し、思わず一夏は歯噛みする。近づかなければ彼女は倒せない。しかし接近すれば、避けられない程に連射される衝撃砲を浴びなくてはならない。

 

 (エネルギーは……あと四割……瞬間加速(イグニッション・ブースト)と零落白夜の消費がデカすぎる……!)

 

 最初こそ有利をとったように見える一夏だが、今ではそれが失われ……逆に追い込まれ始めている。

 

 「甲龍の一番のウリは、燃費と安定性……一方そっちは、そろそろガス欠じゃないの?……機体も、アンタ自身も。大方エネルギーは半分以下、体の方もそろそろ息が上がってくる頃じゃない?」

 

 「やっぱり、バレてるか……」

 

 苦笑する彼の頬を、一筋の汗が伝っていく。一夏の全身には薄っすらと汗が浮かんでおり、鈴音の指摘は殆ど図星だった。天才肌にして感覚派の彼女の直感の鋭さと厄介さは、こうして相対すると如実に感じられる。

 序盤こそ勢いで押し込めたが、実際甲龍に与えられた損害はある程度のエネルギー減少と左腕のみ。彼女の人となり、クセを知っているからこそ不可視の衝撃砲をかいくぐって肉薄できたものの、類稀なるセンスによってあと一手攻め込む前にいなされ間合いを取られる。再び接近しても同様に凌がれ、それらの間に此方も幾何かの被弾は避けられない。

 やがて序盤の勢いが失われ、互いにジリジリとシールドエネルギーを削り合う持久戦に移行していくと……一夏と白式が先に息切れを起こすのは必然であった。

 

 「ハッキリ言ってあげる。最初に切り札を切っておいて、勝負を決められなかった今のアンタに……勝ち目は無いわ!」

 

 切り込む為の最大の一手である瞬間加速(イグニッション・ブースト)の使用は、既に警戒されていて悪手でしかない。しかしそれ無しではどうにか彼女の懐に飛び込んでも、刀を振るう前に衝撃砲で削り切られるのが先。息の上がってきた一夏の体もそう長くはもたず、一方で鈴音はピンピンしている。

 時間が鈴音の味方となる状況に於いて持久戦にもつれ込んだ以上、一夏側はほぼ詰んでいた。だが、それでも彼の瞳から、闘志は失われていなかった。

 

 「かも、な……でも……それでも……オレにだって意地がある……!」

 

 例え地に伏す事になろうとも、最後の一瞬まで諦めずに抗い続ける。せめてあと一太刀は浴びせんと、一夏が雪片弐型を正眼に構え―――

 

 ―――突如、アリーナ全体を揺るがす衝撃が走り、遮断シールドを貫いたナニカが盛大な土埃を上げてステージに降り立った。




 最新刊が出てから早一年と数カ月……そろそろISの最終巻出てこないかな?と思うこの頃です。(原作者がどうやってケリつけるのか想像つかないですけど……)
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