IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

16 / 23
 リライズ、バビロニア、SAO……今月から週の楽しみが一気に増えました。


十六話

 『―――巧也、オルコットさんは配置についたよ』

 

 「承知しました。こちらはロック解除まであと十秒です」

 

 和人達と異なり一人ピットに残っていた巧也。彼は何もせず待機していた訳では無く、楯無の代理として非常事態における暗部の指揮権を一時的に預かっている簪の指示に従って、黙々と準備を進めていた。

 自身の専用機たる陽炎をステルスモードで展開し、ピットゲートへ向けて伏射姿勢をとる彼の手には、セシリアのスターライトmkⅢを遥かに超える―――ISであっても抱えたままではまともに動けない程の―――長大なライフルが握られていた。

 

 「―――ロック解除、AIと打鉄弐式のリンクをお願いいたします」

 

 『データリンク確認……パスワード入力、トリガーセーフティ解除……巧也、私の権限で許可できるのは、この一発だけだから……絶対に当てて』

 

 「それは、御命令(・・・)ですか?」

 

 『っ…!』

 

 巧也の言葉に、簪は息を呑む。自分が電子の世界に囚われている間に変わってしまった、彼の一面を突き付けられた彼女の胸が痛む。

 

 『……うん、更識楯無の代理として命じます(・・・・)

 

 けれど今は感傷に浸る時ではないと、己を奮い立たせて……簪は幼馴染(巧也)命令(・・)を下す。

 

 『―――絶対に、当てなさい』

 

 「承知」

 

 簪に……当主代理に命じられ、巧也の意識が切り替わる。本来射撃武装を扱う場合に使用するセンサー・リンクは一切使っておらず、彼の視界にはただただ、ピットゲートとアリーナを隔てるシャッターが映る。そこに打鉄弐式から送られてくる座標データのみを元に一夏、鈴音、侵入者の位置を想定し、照準を合わせる。

 

 「……」

 

 今の巧也が侵入者に対して唯一持っているアドバンテージは、存在を知られていない事。ISのセンサーは確かに優れた精度を誇るが、火器管制システム(FCS)が放つ照準用のレーザーや電波の(たぐい)が相手に感知されるリスクが高い。故に彼は自らを精密機器と化して、完全に自分の手(マニュアル)で狙いをつける。

 

 (誘導……成功)

 

 後は一夏が零落白夜で侵入者へ肉薄し、遮断シールドを破壊。次にセシリアが参戦し、オールレンジ攻撃によって足止め。最後に簪の合図で巧也が引き金を引き、対象のISモドキを討つ―――搭乗者ごと。

 構えた銃は全長四メートルに届くかという長大さを誇る。専用の特殊合金製の弾丸とあわせて運用されるそれは、言うなればISサイズの対物狙撃銃(アンチマテリアル・スナイパーライフル)。あらゆる遮蔽物及び対象ISのシールドバリア、アーマー類を破砕・貫通し、着弾時の衝撃によって絶対防御の致命領域対応を意図的に発動させ、搭乗者を昏睡させる為のモノ。当然競技用のレギュレーションを逸脱した違法武装であり、巧也が学園側に表向きに提出してある陽炎の武装データの中にこの銃は含まれていない(・・・・・・・)

 当然使用制限があり、ISのハイパーセンサーの処理速度でもってしても解除まで数分間かかる超高難度の暗号を解読しなければ弾丸の装填ができず、楯無か彼女の代理人のISと銃のAIをリンクさせて一射毎にパスワードを入力してもらわなければトリガーセーフティが解除されない。

 

 『―――行くぞ、鈴!』

 

 『任せなさい!』

 

 (白式……接近準備)

 

 簪の打鉄弐式を介して聞こえる通信から、巧也は一夏達の状況を把握する。必殺の一撃を放つその時が間近に迫るのを感じながらも、暗部―――更識家に仕える部下(手駒)として、彼は静かに引き金に指をかけた。直後―――想定外の事態が起きた。

 

 『一夏ああぁぁぁ!!』

 

 『な、箒!?』

 

 スピーカーから響く箒の声。白式も甲龍も侵入者も、僅かな時間とはいえ立ち止まっていた。

 

 『男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!』

 

 『あのバカッ!鈴、撃て!今すぐ!!』

 

 『言われなくても!!』

 

 焦燥に駆られた声。当初の予定からは大きくズレた状況。それらを認知したうえで、巧也は眉一つ動かさなかった。

 

 (状況の変化を確認。指示内容の変更の有無を―――)

 

 『撃って!!』

 

 思考とは別に照準を外さなかった体は、簪の命に従い即座に引き金を引く。爆発と錯覚する程に大きな衝撃が体を襲い、迸った巨大な炎が視界を灼く。ISの搭乗者保護機能が無ければ耐えられない、大きすぎる反動をどうにか抑え込んだ彼は、すぐさま銃を格納する。第三者にこの銃の姿を直接見られる訳にはいかないからだ。

 次いで左手に表向きに登録してある通常の大口径スナイパーライフルを展開し、ハイパーセンサーによってアリーナ内部の様子を目視する。視界を遮っていたゲートのシャッターは、先程の一射で跡形もなく破壊されていた。

 

 (対象の状況は……)

 

 『オルコットさん!』

 

 「お任せを!」

 

 右腕を断ち切られ、左脚が逆に曲がった侵入者は、左腕を軸に右脚で一夏を蹴り飛ばそうとする寸前で、ブルー・ティアーズのレーザー射撃を一斉に浴びていた。流石は代表候補生というべきか、セシリアは侵入者のISモドキの関節部等といった防御の薄い箇所をピンポイントで撃ち抜いていた。

 

 「……」

 

 大きな音をたてながら、侵入者は地面へと仰向けに崩れ落ちる。しかしまだ沈黙には至らない。

 

 「左腕の熱量増加を確認」

 

 『止めて!』

 

 再び命に従い、一切の躊躇い無く引き金を引く。放たれた弾丸は、対象の露出した左肩関節を狙い過たず撃ち抜き、左腕が自重を支えきれず地に伏した。一拍遅れて胸部装甲内部で小爆発が起こり、侵入者のISモドキは完全に沈黙した。

 

 「……終わった……のか?」

 

 未だ緊張の糸が切れていない鈴音とセシリアは、一夏が零した言葉に即座に答える事ができなかった。

 

 『うん、その機体は完全に停止したよ。……みんな、お疲れ様』

 

 司令塔として全体を見ていた簪だけが反応し、全員を労う。それによって鈴達も警戒を解き、各々武器を収納する。

 

 「そう、か……良か……た……」

 

 「一夏っ!」

 

 体力が限界だった一夏はその場に崩れ落ち、最も近くにいた鈴音がすっ飛んで支えに入る。

 

 『本当にお疲れ様、アイン』

 

 その一言を聞き、完全に気が緩んだ一夏は意識を手放すのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 微睡んでいた意識が、ゆっくりと浮上していく。

 

 「ん……?」

 

 二度、三度と瞬きを繰り返して目の焦点を合わせた一夏の視界に映ったのは、夕陽に照らされた見慣れぬ天井だった。仄かに感じられる医薬品の匂いから、恐らくは保健室だろうか。

 

 (確か……アイツを倒して……それから―――あ、何か痛ぇ……)

 

 記憶を辿り、自分が何故ここで眠っていたのかを考えようとした一夏は、そこで初めて全身が鈍く痛む事を知覚した。決して耐えられない程ではないが、逆に全くの無問題という訳でもないという、微妙な痛みだった。

 

 (オレが倒れた後、結局どうなったんだ……?)

 

 あの無人機と思しき侵入者は倒した。それは間違いなく覚えている。だがそれ以外……アリーナに閉じ込められていた一般生徒達や一緒に戦った鈴音達がどうなったのかが全く分からない。

 

 「い……一夏……?」

 

 彼にとって聞き馴染んだ声が、耳朶を打った。そちら側へと顔を向けると、声の主である少女―――鈴音が瞳を潤ませていた。

 

 「鈴?お前、泣いて……?」

 

 「な、泣いてないわよバカ!」

 

 慌てて彼女は目元を拭うが、その行為が何よりも彼の疑問を肯定していた。それでも素直に認めない頑固さは、離れ離れになる以前から変わっていないようだ。

 一方で一夏は鈴音の涙に大きな心当たりがあった。

 

 「悪い……思い出させちまったよな。SAOの事」

 

 「っ……!」

 

 彼女の肩が一瞬跳ねる。病室を彷彿とさせる保健室と、眠り続ける自分。この二つが揃って気づかない程、彼も愚鈍ではない。SAO事件被害者の親族や友人達は皆、自分の大切な人が何時命を落としてしまうのか、もう二度と目覚めないのではないかという恐怖に二年間晒され続けたのだ。当時の事がトラウマになっていてもおかしくはない。

 

 「どうして……」

 

 「鈴?」

 

 俯き、声を震わせる鈴音。彼女にかける言葉を探す一夏だったが、未だに異性の心の機微に聡いとは言えない彼では、そんなものは見つからない。

 

 「どうしてアンタは……アンタのままで、いられるのよ……!」

 

 顔を上げた鈴音は、双眸から溢れ出す涙を隠そうとはしなかった。再会してから今日まで、ずっと胸の内にしまい込んでいた思いの丈に突き動かされるまま、彼女は言葉を零す。

 

 「二年間ずっと、命懸けだったんでしょ……今日また死ぬかもしれない危険な目に遭ったのに、何でアンタはそうやって……優しくできるのよ……!」

 

 SAO生還者(サバイバー)の多くはあの二年間を忌むべき記憶として封じ、人格にも大なり小なり影響が出ていると、以前どこかの報道であった事を一夏は思い出す。自分や和人達のように、今の己を形作る大切な二年間だったと肯定できる者は極少数であり、鈴音にとって今の一夏は異常に見えるのかもしれない。

 

 「確かに死ぬのは、怖いさ。もう懲り懲りだ」

 

 「だったら―――」

 

 「―――でもそれ以上に、目の前の大切な人を失う事が……怖くてたまらないんだ……」

 

 昨日笑いあった友人と翌日に連絡がつかず、その名に横線が引かれていた。ボス戦の最中、相手のイレギュラーな行動に対応しきれず仲間が命を散らす。

 彼の城ではそんな事は日常茶飯事に近く、自分の仲間達がいつか同じ道を辿ってしまうのでは……一夏にとっては自らの命を賭した戦いよりも、守りたいと願った人達を喪失する事の方が恐ろしかったのだ。

 

 「誰かを守る事に憧れて、意地張って空回って、逆に守られたり……それだけじゃない。守りたかった筈の人を危険に晒した事も、傷つけてしまった事も、あるんだよ……」

 

 無意識の内にシーツを握っていた一夏の両手が、小さく震える。時が経っても、当時の後悔や無力だった自分への怒りは彼の中に焼き付いたまま、消えていないのだ。

 

 「でも、だからオレは……戦えるんだと思う。守りたい人達がいるから……一緒に生きていたいから……守れなかったって、後悔したくないんだ」

 

 真っ直ぐ鈴音の瞳を見つめて、一夏はそう告げた。強固な決意を宿した眼差しを受けた彼女は、やがて小さなため息をついた。

 

 「そっか……アンタはあの二年を、受け入れているのね」

 

 「そうだな……辛い事とか苦しい事とか……悲しい事の方が多かったけど、嬉しかった事や、幸せだって思えた事もあったんだ。何より……あそこで繋いだ絆は本物だから……全部忘れて、無かった事にしたくないんだ」

 

 「はぁ……ちゃんと話せばすぐ解る事で悩んでたのね、あたし……」

 

 SAOでの二年間を受け入れ、自らの一部である大切な記憶なのだと認めるか否か。言葉にすれば簡単な、しかし本人に聞くには大いに憚られること。それが分かった今、鈴音の心は静まっていく。

 

 「だからなのね……まだ弾とVRゲームやってるのは」

 

 「おう……って、あれ?オレお前に言ったっけ?」

 

 「蘭から聞いたのよ……メールのやり取り続けてるから」

 

 最初に蘭から聞いた時はとっちめてやる気満々だったが、再会した時に再燃した恋心や、既に恋人がいる事への衝撃やらを整理するので手一杯で後回しにしていた事。彼の肯定を、穏やかな状態で受け入れる事など夢にも思っていなかったが……今の鈴音は、すんなりと認めてしまった。

 

 「なぁ、怒ってないのか?」

 

 「んーん、そんな気失せちゃったわ。でもそうねぇ……申し訳ないって思ってるなら、そのゲームあたしにも教えなさいよ」

 

 「鈴……ああ、もちろんだ」

 

 悪戯っぽく笑う鈴音の言葉に、二つ返事で頷く一夏。同じ楽しみを共有できる仲間が増えるのは、とても喜ばしい事なのだから。

 

 「そういえば鈴、月末って空いてるか?」

 

 「予定はないけど……藪から棒に何よ?」

 

 「SAOのオフ会やるんだよ。参加する人達の多くがALO……今オレがやってるVRゲームやってるし、弾や蘭も来るぞ」

 

 思っても見ないタイミングで、これから出会う者達と友好を深める機会がある事に驚きつつも、彼女は迷わず彼の誘いに乗る事にした。

 

 「へぇ……面白そうじゃない。大方殆ど女の子でしょうけど」

 

 「そんな事は…………ないぞ」

 

 「ちょっと、今の間は何よ!?」

 

 「いや、モテんのはキリトさんだから!オレじゃないって!」

 

 「白々しい嘘つくんじゃないわよ一級フラグ建築士!」

 

 「ひでー!」

 

 気づけば、どちらともなく笑い出していた。そう、SAOに囚われる以前のように、何も難しい事を考えずに馬鹿笑いした時と同じように。

 

 「いてて……笑ったら、痛みが……」

 

 「衝撃砲で加速しようなんてアホな事やったツケよ。全身に軽い打撲だって話だし、暫くはちょっとした地獄じゃないの?まぁ、数日は謹慎だから、反省文書きながら静養してなさい」

 

 「え、謹慎?反省文?」

 

 鈴音から告げられた予想外のワードに、一夏の表情が引きつる。

 

 「非常事態とはいえ、アリーナの設備ぶっ壊したのよ?形式上のものでも処分を下さなきゃ、お偉方に示しがつかないのよ。あたしだって退避の命令無視したから反省文書かなきゃだし、シャッター壊した野上と放送室で叫んだ箒はアンタと同じ処分だってさ。千冬さん達教師陣は事後処理してるし、何故か簪もそっちの手伝いしてて来れそうにないみたい」

 

 彼女の説明に納得した一夏は、小さく息を吐いた。簪が来れないのは大方暗部としての事が絡んでいるのだろう。一方でもう一人の幼馴染が同じ処分を受けている事が、彼にとっては少し気がかりだった。

 

 「箒……大丈夫なのか?千冬姉にこってり絞られてなかったか?」

 

 「マジの拳骨貰ってたわ。流石にソレが効いたみたいで、大人しく処分を受け入れてるっぽい」

 

 「そうか……」

 

 箒のあの行動。確かにあれは誤ったもので、自分だけでなく放送室にいた他の者達を巻き込む危険な行動に他ならない。だがそれでも……一夏は彼女を責めるどころか心配していた。

 

 ―――あの叫びに込められた、自分へのエールは本物だったから。

 

 気持ちだけが焦り、空回りして周りを危険にさせた事は一夏とてSAOで何度もあった。その度に仲間達に助けられ、怒られはしたが……彼等は一夏の想いを否定する事は絶対に無かった。そんな彼には、箒の想いを否定する事はできない。

 そんな彼の心情を察してか、鈴音の表情がいささか険しくなる。

 

 「アンタの事だから、箒を心配してるんでしょうけど……ちょっと甘すぎじゃないの?時には怒る事も必要よ」

 

 「そうかもしれない……けど、怒るのは千冬姉がもうやったんだろ?やった事は間違いだったとしても、その時の気持ちは間違いなんかじゃないって、そう言ってくれる人がいないのは……すごく辛いだろ」

 

 「それもSAO(むこう)での経験則?」

 

 「ああ。すっげぇ立派でカッコイイ、いつかそうなりたいって思える大人達に教えてもらった事だよ……」

 

 彼の脳裏に浮かぶのは、風林火山のメンバー達。聖人君子では無い為、誰かを妬んだり、理不尽に対して怒ったりする事はあったけれど……誰もが仲間を見捨てず、共に前を向いて戦い続けた彼等は、一夏にとって和人とは別の意味で尊敬する存在なのだ。

 

 「そ。アンタがそう言うなら、止めはしないわ。その代り、今後同じような事があったら、あたしは遠慮しないわよ」

 

 表情から険しさをなくした鈴音はそう釘を刺すと、そろそろ暇を告げるべく立ち上がる。

 

 「あたしは先に帰るわね。アンタはそこの痛み止め飲んで、もうしばらく休んでから帰りなさい」

 

 「痛み止めって……あるなら先に言ってくれよ」

 

 「ごめん、次から気をつけるわ」

 

 大して悪びれていない様子で告げる鈴音に、一夏は思った。

 

 ―――こいつ絶対反省してないな。

 

 彼からの視線による抗議を受けながら、鈴音は改めて己が想いを自覚する。

 

 ―――あたしは、一夏が好き。

 

 既に彼の隣には別の女の子がいて、一度はフラれた訳ではあるけれど。この恋心を諦めるのは、まだ暫く先の事になりそうだから。

 

 「一夏」

 

 「何だよ?」

 

 「いつか……あたしを選ばなかった事、後悔させてやるから」

 

 虚栄ではなく、本心から……いつも通りの勝気な笑みを浮かべた鈴音は、そう宣言すると保健室を後にするのだった。

 

 「……あの笑顔は、反則だろ……」

 

 夕日に照らされた彼女は今までで一番眩しくて、綺麗で……直視した一夏は暫くの間、顔から熱が引かなかった。




 一夏と鈴、一旦はこれで和解……のつもりです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。