じゃれ合いながらも首都ガタンに到着した一行。
「おーしお前ら。分かっちゃいると思うが、ここはサラマンダー領の首都だ。アインら三人は絶対に離れんじゃねぇぞ?」
「了解っすリーダー!」
クラインの念押しにブイが威勢よく返事をし、アインとカンザシも分かっているという様子で頷いた。この街はサラマンダーの首都である為、サラマンダーはシステム上攻撃を受ける事は無く、一方的に他種族を攻撃できてしまうのだ。アインら三人はサラマンダーでないので、はぐれてしまえば面倒事に巻き込まれるだろう事は火を見るよりも明らかだった。
「そんじゃ、新しい仲間を迎えに行くか!」
「おー!」
リーダーの掛け声にノリ良く応じ、風林火山の面々はビギナーのスタート地点へと歩きだす。すれ違うサラマンダー達のほとんどは、他種族であるアイン、カンザシ、ブイを見て驚き、次いでクライン達を見て納得するといった反応をする。
特に問題が起こる事はなく、鈴との約束の時間の直前に目的地に到着。彼女がどんな姿のアバターでやってくるのかをメンバー全員で予想しあう事しばし―――
「―――なぁんでよおおおぉぉぉ!?」
―――女性のものと思しき絶叫が響きわたった。気になったアイン達がそちらに視線を向けると、新参プレイヤーと思しき小柄な人物が姿見の前で頭を抱えていた。
「……なぁアイン、まさかとは思うが」
「鈴、かもな……時間的に」
ブイにそう答えながらも、’もしかしたら別の人かもしれない’という一抹の不安を隠せないアイン。如何に探している相手のリアルが分かっていても、ここは
「……」
「何か、呟いているみたいだけど……ショック、大きかったみたい」
「アインよぅ。このままじゃ埒が明かねぇし、あの嬢ちゃんに確認取って来いよ」
「うぃーっす、けどクラインさんはついてきてくださいよ……ここサラマンダーの本拠地なんすから」
件の少女はその場に蹲ったまま動かず、それを見かねた一同は急きょ予定を変更する。そろそろ他のサラマンダーが彼女へ向ける視線が多くなってきており、放置していたらより大きな騒ぎになりそうだ。
「あのー」
「……」
アインが声をかけたが、少女は反応しない。ただ声をかけるだけでは気を引けないと判断した彼は、一歩踏み込んだ事を口にした。
「君のキャラネーム……スズネ、で合ってるか?」
事前に鈴音から聞いていた、ALO内での彼女の名。それを開示した効果は覿面で、サラマンダーの少女は弾かれたように顔を上げる。そこには驚いた表情がありありと浮かんでおり、次いでアインを凝視すると瞳に宿っていた警戒の色が薄れていった。
「い、いち―――」
「―――待て待てスズネ、
現実側の名前を呼ぼうとした少女の前に手を翳し、アインは諭すように告げる。その落ち着いた仕草に倣うように、少女もまた一呼吸おいてから再び口を開く。
「そうね、アンタの言う通りだわ……見つけてくれて、ありがとい……アイン」
立ち上がったスズネの姿を、アインは改めて見る。サラマンダーらしく炎を思わせる赤い短髪と瞳が目を引くが、顔立ちはどことなく野生的な雰囲気を醸し出していて、活発的な印象を抱かせる。それはまるで……
「……ちっさくないか?リアルよりも」
まるで、子供―――小学生のようだと言える程に、今の彼女は背が小さかった。恐らく現実世界の鈴音よりも頭一つ分小さい。
「う、うっさぁああい!それ言うならアンタだってリアルより小さいしガキっぽいじゃないの!」
「いやオレの場合は二年くらい前の体格がベースだからな……」
SAO初日に当時十三歳だった織斑一夏の姿に戻されたアイン。それから二年間戦い続けたキャラデータをALOにコンバートした為、彼以外にもカンザシやクライン達といったSAOからの仲間は殆どが現実世界とほぼ同一の外見だ。とはいえ成長途中の姿でアバターが構築されたアインの場合は帰還後の成長が反映されていないので、現実世界よりも幼い外見になってしまうのが若干の悩みになってきているのだが。
「ぐぬぬ……せめてこっち側くらい、アンタの事見下ろしてやりたかったのに……!」
「いや無理じゃね?オレより背が高いり……スズネとか想像できねぇよ」
「なんですってええぇぇ!」
現実世界と殆ど変わらぬ様子でじゃれ合う少年少女。だがいい加減長くなってきたのを見かねたクラインが間に入って窘める。
「相変わらず脳ミソと口が直結してんなアイン。口は禍の元、って何べんも言っただろうが。嬢ちゃんもコイツの事、本当は分かってんだろ?イチイチ真に受けねぇで、ちょいと大人になってくれ。皆待ってんだ、そろそろ行くぞ」
「いてっ、すんません」
「え、誰このおっさん」
軽く頭を小突かれたアインが驚く程素直に従う様子に目を瞬かせたスズネ。そんな彼女の口から零れたおっさん呼びに心にダメージを受けたクラインだが、弟分がいる手前もあってグッと飲み込んで自己紹介する。
「おれの名はクラインつってな。アインやカンザシの嬢ちゃん達のいるギルド、風林火山の頭やってるモンだ。これからよろしくな」
「前のゲームからお世話になっているんだ。で、クラインさん。コイツはスズネで、オレのリアルでの幼馴染で今は同じ学校にいるんです」
「……!」
仲介するように補足説明するアインの仕草や言葉から、スズネは瞬時に悟った。彼―――クラインもまたSAO帰還者であり……先日アインが語っていた、’憧れた大人’であると。
(へぇー、この人が……ねぇ。見かけによらないってヤツなのかしら。まぁ確かに、悪い人じゃないって直感はあるけど……今後の様子で確かめればいっか)
そう判断したスズネは、自分も自己紹介を返すべく口を開く。
「初めまして、スズネよ。アインから聞いているだろうから、細かい事は言わなくていいでしょ。こっちこそよろしく」
いつも通りの勝気な笑みを浮かべ、小柄な体を大きく見せようと胸を張って。彼女は堂々とした態度で、手を差し出したのだった。
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ウンディーネ領の首都内に設けられた初期スタート地点。予定時間の五分前にそこへたどり着いたキリトとアスナは、仲睦まじく手を繋いで新たな仲間の到着を待っていた。
「楽しみだね、キリト君」
「そうだな」
「私も楽しみです!」
二人の間を可憐に飛び回り、愛らしい声で無邪気に笑うユイ。彼女は元々SAO内に存在していたAIであったが、紆余曲折を経てキリトとアスナの娘となった。今はALOのシステムに順応しナビゲーションピクシーとして掌サイズで過ごす事が多いが、仲間達からもよく可愛がられている。
「私、学校でのパパやママの様子がもっと知りたいです」
「お、おいおい……それならアイン達からいつも聞いているじゃないか」
「もっといろんな方からも聞きたいんです!今はまだ、現実世界の様子をリアルタイムで知る事ができませんから」
「……ごめんねユイちゃん。システムの構想は皆のお陰で目途は立っているんだけど、中々時間が取れなくて」
現実世界で肉体が無いユイと、仮想世界と遜色ないふれあいができるようにする。それはキリトにとって絶対に成し遂げたい目標の一つだ。今はまだ愛娘の五感の代わりとなる端末を用意して現実世界の情報を随時受信できるようにシステムを構築するくらいしかできないが、いつかは……やがていつかは、人型のものが用意できればとキリトは願っている。
「でも驚いたよね。まさかISが持ち歩く予定の端末代わりになれるって、カンザシちゃんから聞いた時は」
「そうだな……マイクやカメラが無い筈の待機状態でもOKって、どーなってんだホント」
ISについて無知ではないが、かといって積極的に専門の知識を学んではいなかったキリトや、競技用の用途以外については充分な知識を身に着けているとは言い難かったアスナにとって疑問が尽きなかった。それでも喜ばしい事には違いなく、キリト達は忙しい日々の合間を縫って着実に用意を進めていた。
「現実世界のママ達と、沢山お話できるようになるのが楽しみです」
「私達も同じだよ。ワクワクしてる」
互いに満面の笑みを浮かべるユイとアスナ。そんな二人を穏やかな表情で眺めながらも、キリトは現実世界でも同じ光景を実現させるのだと己の心に強く誓う。
三人で談笑していると、新たなプレイヤーの出現を示すエフェクトが起こった。時間的にセシリアがダイブしてきたのだろうかと、キリト達はそちらへと顔を向ける。現れたのは妙齢の女性で、濃い青色の長髪を揺らしながら周囲を見回す。ほどなく彼女の視線が此方に向けられ、ウンディーネの女性がアスナ達へと歩き出した。
「無事に合流できたって感じかな。ユイ、悪いけど一旦大人しくしててくれ。ちゃんと後で呼ぶから」
「はーい。でもパパ、前みたいにうっかり忘れないでくださいね?」
「大丈夫。ママが見張っておくから……あれ、あの子……ちょっと様子が変っていうか……危なっかしい感じがするわ」
「アスナ?」
歩いてくる女性がセシリアだと判断し一安心したキリト。彼女の前で最初からユイがいたら色々と混乱しそうだったので、致し方なく愛娘には胸ポケットの中で少しの間待機してもらう。一方でアスナは何か違和感を抱いたようで、足早にセシリアと思しき女性へと近づいていく。すぐさま駆け足になった彼女を追いかけようとキリトも歩き出した、その瞬間―――
「きゃ!?」
―――何もない所で件の女性が躓いた。そのまま前のめりに倒れそうになった所を、先んじて予測していたアスナが駆け寄って抱きとめる。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございますわ、アスナさん」
受け止めた女性を起こして手を離したアスナが尋ねると、女性は名乗っていない彼女の名を口にした。ならば目の前のこの女性の正体は予想通り人物だと確信したアスナもまた、相手の名を口にする。
「どういたしまして。セシ……シズクちゃん、でいいのよね」
「はい、そうですわ!これからよろしくお願いいたしますわ」
互いに微笑み握手を交わすと、二人にキリトが追いついた。彼もシズクと挨拶を交わすと、真面目な顔つきで彼女のアバターを観察する。
「成程な。どうりでアスナが走った訳だ」
「どういう事ですの?」
「さっきシズクが転びそうになった事だよ」
納得した様子のキリトに対し、シズクは首を傾げるばかり。そんな彼女に気づいてもらえるように、アスナが口を開いた。
「ねぇシズクちゃん、私と目を合わせてくれるかな」
「目を、ですか?構いませんが……」
「私のアバターって身長がリアルと同じくらいなんだけど、何か違和感とか無い?」
アスナの言葉に従って目を向けると、少し見下ろすように視線が下がる。今までならば少し見上げる筈で、その違いに気づいたシズクは彼女が言わんとする事を察した。
「これは……わたくしの背が伸びた、という事でしょうか」
「そういう事。今のシズクちゃん、織斑先生くらいだよ。その分手足の長さも違うから、リアルと全く同じ感覚じゃ上手く歩けなくなっているの」
「細かい所を捕捉すると、現実の体とアバターを動かす感覚ってのも微妙に違うから、大抵の場合は慣れるまでにはちょっと時間がかかるぞ」
アスナ達の言葉に、シズクは少しばかり気落ちする。この周囲だけでも現実世界ではありえない未知の光景が広がっており、さらに広大なこの世界を楽しむ事に大きな期待を抱いていた。だがそれが最初の一歩で躓き、もうしばらくお預けの状態になったようなものだから、彼女の落胆は当然と言える。
「大丈夫、ちゃんとアバターを動かしていけば自然と慣れてくるから」
「そうそう、また転びそうになったら私が支えるから気にしないで?」
「かず……キリトさん、アスナさん、ありがとうございます。今暫くはお言葉に甘えさせていただきますわ」
英国淑女として身に着いた仕草なのだろう。シズクがとった優雅な一礼は、現実世界と遜色ないほどに自然で滑らかな動作だった。
「さてと。とりあえず最初は装備やアイテムを揃えようか。俺達もそこまでこの街に詳しくはないけど、基本的な店の場所は分かるから」
「今日は観光気分で行きましょ、シズクちゃん……あ、そうだキリト君、アレやろうよ」
「ああ」
アスナのいうアレとは何なのか、とシズクが疑問を挟むよりも先にキリトとアスナの二人は互いに頷きあう。そのままシズクの前で左右対称に手を伸ばす。それはまるで迎え入れるようなもので―――
「「
―――柔らかな笑みと共に、新たに舞い降りた
なおこの後ユイについて説明するのに一悶着あった模様。
SAO組の正確な身長がイマイチ分かりません……調べてみてもアスナが160前後らしいっていう考察があるとか、キリトがそれより若干高いとかくらいしかっていう曖昧な感じでした。