IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 遊撃手の息抜きにちょいちょい書いてましたけど……半年くらい空いてましたね……

 こっちの話を覚えている人、いるのかな……


二十一話

 六月上旬。一年一組の教室に新たな学友がやってきた。

 

 「初めまして、シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。不慣れな事ばかりでご迷惑をかけてしまうと思いますが、これからよろしくお願いします」

 

 「……」

 

 片や金髪、片や銀髪。愛想笑いと不愛想。まったく対照的な二人の転入生の態度に、女子生徒の殆どが困惑していた。

 

 「ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ」

 

 「はい、教官」

 

 「その呼び方は止めろ。ここでは織斑先生と呼べ」

 

 「はい」

 

 千冬が仕方なく促すと、不愛想だった銀髪の少女―――ラウラ・ボーデヴィッヒは一転して従順に答えた。

 

 (教官って……?ああ、そういえば千冬姉って一時期ドイツで軍隊教官やってたよな。あいつはその教え子なのか)

 

 姉を教官と呼ぶ様子から、一夏はラウラについて考える。非常に小柄な体格をしているが、真っ直ぐに伸ばされた背筋や眼帯によって隻眼となった瞳に湛えられた冷徹な光が、彼女を大きな存在に錯覚させる。

 

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 抑揚の乏しい平坦な声で、彼女は己の名を告げる。しかしその後は口を閉ざし、シャルロットの様に喋る事は無かった。

 

 「あの、他には……?」

 

 「ありません」

 

 躊躇いがちに真耶が続きを促すが、語るべき事は無いと言わんばかりにそれをバッサリと切り捨てるラウラ。即座に拒絶された真耶はたちまち涙目になった。千冬を教官と呼んでいた事からおそらく軍人なのだろうが、それにしたってストイック過ぎないかと一夏は少々この場に似つかわしくない感想を抱く。

 その所為だろうか。ふと気づけば一夏は、そのラウラと目が合ってしまった。途端に彼女の表情が険しくなり……自分という一点に収束された憎悪に彼の意識も剣士の頃のそれへと切り替わる。

 

 「貴様が―――!?」

 

 「……え?」

 

 足早に迫る彼女が右手を振り上げ、それから身を守るべく一夏は左腕を掲げたが……予想していた衝撃はこなかった。

 

 「ボーデヴィッヒ。転入早々に私の前で暴力沙汰とはいい度胸だな?」

 

 「き、教官!?」

 

 振り上げられたラウラの右腕が、背後から千冬によって掴まれていたからだ。そして淡々と話す千冬の声から僅かに滲む怒気。周囲の生徒達には分からないそれを捉えられたのは、一夏とラウラの二人だけだった。そして、それだけで身じろぎ一つ許さぬ程の圧倒的な威圧も。

 

 「いいかボーデヴィッヒ。今のお前は祖国(ドイツ)の名を背負う代表候補生だ。自らの安易な行動が同郷の者……ひいては祖国に与える影響を自覚しろ。分かるな?」

 

 「……はい」

 

 「ならいい」

 

 掴んでいた腕を離し千冬は教卓へ、ラウラは予め聞かされていたであろう空席へと向かった。

 

 「で、ではデュノアさんもあちらの席へ。HR(ホームルーム)を始めますね!」

 

 静まった教室の空気を切り替えようとした真耶の、空元気な声が空しく響いた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 屋外での実技授業の為に男子達が教室から出ていった後、ISスーツに着替えた明日奈はグラウンドに向かうがてらシャルロットへと話しかける。

 

 「初めましてデュノアさん。私は結城明日奈、よろしくね」

 

 「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 シャルロット自身、明日奈の事についてある程度の情報は祖国で得ていた。本来密偵として使われる時に、男性操縦者の一人である和人と接触する際に障害になるだろうから警戒しろと伝えられていたからだ。そんな彼女の考えを知ってか知らずか、温和な態度で接する明日奈。

 

 「そんなにかしこまらなくても良いのよ。分からない事があったら何でも聞いてね?……一応、貴女の事情は聞いているから」

 

 「っ!?な……何で、それを……?」

 

 「私が楯無ちゃんと交流があるから、かな。一年生で知っているのは男子三人と私、本音ちゃん、クラスは違うけど楯無ちゃんの妹のカンザシちゃんね。みんな口は堅いから大丈夫よ」

 

 他人に聞かれないように注意しつつ、明日奈は開示した情報にシャルロットがどう反応するのかと様子を伺う。図らずともシャルロットにとって不意打ちに近いその告白に、IS学園に来る直前で執事から聞かされた情報が脳裏によぎった。

 

 (協力者(・・・)がいるって、ボクの事情を知っている人がいるって意味だったんだ……)

 

 動揺する心を隠すべく、シャルロットは咄嗟に曖昧な笑みを浮かべた。声が聞こえる距離に人がいなくとも、注目されやすい編入生の自分と話している明日奈に興味本位で視線を向けている生徒達はどこにでもいるからだ。表情を繕わねば、そんな事情を知らない数多の生徒達から疑問を持たれ、あらぬ事を邪推されるかもしれない。幸い笑顔を張り付けるのはもう慣れている。

 

 「そう言う事でしたら、今後はお言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 「ええ、よろしくね」

 

 だからだろうか。上辺だけでも繕うべく無難な返事をしたつもりのシャルロットに向けられた明日奈の微笑みが、純粋な厚意によるものだと気づけたのは。

 

 (あったかくて……綺麗だなぁ……)

 

 自分という存在を押し殺してきたシャルロットにとって、本心からの表情を露わにできる明日奈の姿は眩しくて……空虚だった胸の内が、ほんの僅かに温かく感じられた。

 

 (ジェイムズ……貴方の言う通り、こっちの方が居心地がよさそうだよ)

 

 フランスに……デュノア社にいた頃の日々で色褪せていた心は、戸惑っているけれど。自分の身の上を知った上で話しかけてくれた明日奈のように、手を差し伸べてくれる人を信じてみようと、シャルロットは思うのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「―――では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

 (……相変わらず慣れねぇ……てか、後ろ振り向けねぇよ)

 

 千冬の号令で授業が始まる中、一夏は考えが表に出ていない事を祈りながらも内心で溜息をつく。教室と同じく最前列にいるため、どの授業でも一定数以上の生徒達からの視線が無くならず、さらに今は二組との合同授業。単純に視線の数が激増している。加えて皆が着ているISスーツというのが体のラインを鮮明にしてしまうので、年頃の男子としては非常に目の毒なのだ。

 

 (うぅ……キリトさんも巧也も、何で平気なんだよぉ……)

 

 ちらりと横に目を向ければ、自分のように煩悩に苛まれている気配が全くない男子二人の姿が映る。平然としていられる彼らを羨ましく思う一夏だが……二人の場合、幼馴染が楯無をはじめとした容姿の優れた異性だらけだった幼少期を過ごしてきた事で、耐性がついていただけだったりする。

 余談だが、主に楯無が行っていたスキンシップを含んだ悪戯の数々によってついてしまった、和人の異性への耐性の強固さに、SAO時代の明日奈が涙をのんだのも一度や二度ではなかったと記しておく。

 

 「まずは戦闘の実演をしてもらおう。そうだな……凰!オルコット!前へ出ろ!」

 

 「はい」

 

 「分かりましたわ」

 

 専用機を持つ代表候補生の二人が前に出る。そのまま指示に従いそれぞれの機体を展開し、即座に臨戦態勢へ移行したところで、千冬から待ったをかけられた。

 

 「そうはやるな小娘ども。今回の相手は―――」

 

 「―――ど、どいてくださぁぁああい!!」

 

 突如上から響く悲鳴に、誰もが空を仰ぐ。同時に甲高い風切り音が耳朶を打ち、何かが真っ直ぐにこちらへと飛来……もとい落下してきた。

 

 (速い!?のほほんさん達の退避が間に合わない!!)

 

 元々狭き門を潜り抜けてきた才女であるクラスメイト達は素早く逃げ始めているが、落下してくる物体の方が圧倒的に速く、避難が間に合わないと直感で悟った一夏。自己ベストを更新する速度で白式を展開し、彼女達の盾となるべく身構える。

 

 ―――轟音。

 

 「あ、あれ……?」

 

 剣士としての意識に切り替える前の状態でのアクシデントに、つい目を閉じていた一夏だったが、予想していた衝撃が来なかった事を不審に思い目を開く。

 

 「皆さん、ご無事ですか?」

 

 「た、巧也!?」

 

 前方に非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の物理シールドを構えた少年の背中が視界に映り、彼は驚きから声を上げる。

 

 「助かったよ。俺もアインも盾持ってないからな」

 

 「いやキリトさん、問題そこじゃないでしょ。巧也の機体が一番脆いんですよ!?」

 

 同様に極夜を展開していた和人が、庇うように抱えていた明日奈を下ろしながら告げた言葉に、一夏は思わずツッコんだ。

 

 「問題ありません。衝撃も盾の許容範囲内でしたし、先生(・・)も対処してくださいましたから」

 

 「せ、先生?」

 

 「うぅ……お、おでこが痛いですぅ……」

 

 煙が晴れた先に目を向けると、涙目で額を抑える一組副担任の姿が。学園で打鉄と並んで採用されているIS、ラファール・リヴァイヴを纏っている事から、先程落下してきたのは彼女だったのかと理解する。

 

 「いやいや、下手したら墜落事故で怪我人出てたんじゃないのか……?」

 

 「最低限、生身の生徒達が巻き込まれないように急制動と軌道変更をしていましたよ。結果論ですが、僕らが出しゃばらなくてもギリギリ後方へすり抜けてから不時着するコースでした」

 

 ハイパーセンサーで試算したのか、巧也が苦笑する。一番体を張った筈の彼が何事もなかったかのように振る舞う様子に、先日簪から伝えられた「使われる存在」という言葉が脳裏をよぎる。

 

 (オレ達の身代わりになるのが当たり前だって言いたいのかよ、巧也……?)

 

 織斑一夏は、野上巧也について知らない事が多すぎる。故に今、彼の在り方に違和感を抱いてもその心に踏み込めない。その事実が形容しがたいモヤモヤとして胸の内に燻る。

 

 「―――山田先生、しっかりしてください」

 

 「お、織斑先生!?はい!すみません!!」

 

 蹲っていた真耶だったが、千冬の声にすぐさま直立不動の姿勢をとる。赤くなった額や目元に滲んだ涙がそのままだったので教師としての威厳が全然感じられない。

 

 「はぁ……大した怪我ではありませんし、山田先生にはそのままオルコット達と戦ってもらいます。いいですね」

 

 「わ、分かりました!!」

 

 静かな担任の声に再度姿勢を正す副担任。しかしその内容にセシリアが聞き間違いではないかと声を上げた。

 

 「お、織斑先生?いくら何でも二対一というのは……」

 

 「なぁに、安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける(・・・・・)。遠慮せず全力でいけ。でなければ―――」

 

 事実のみを伝えるような、淡々とした口調で語っていた千冬が、愉快そうに口許を歪める。

 

 「―――無様を晒すだけだぞ、ひよっこ共」

 

 受け継いだ遺産を守る為、一度離れざるを得なかった想い人の傍に舞い戻る為、並々ならぬ努力の末に代表候補生の地位を勝ち取った二人にとって、挑発だと分かり切っていても応じないという選択肢は無かった。

 

 「ええ、ええ。仰るとおり全力で行きますわ!」

 

 「ふふふ……いいじゃない、やってやろうじゃないの!」

 

 「い、いきます!」

 

 闘志をむき出しにした二人の生徒と、頼りなさが残る様子の教師が空を駆ける。一夏や和人を含めたほぼ全員がセシリア達の勝利を予想する中、千冬が口を開く。

 

 「丁度いい。デュノア、山田先生のISの解説をしろ」

 

 「は、はい」

 

 唐突な指名に驚きながらも、シャルロットは祖国の……それも実家の会社製の機体について淀みなくスラスラと解説を述べていく。そんな彼女の声を聞きながらも、全員が信じがたいという表情で空を見上げていた。

 

 「あ、あれ……ホントに山ぴー?」

 

 「凰さんの格闘いなして……」

 

 「セシリアのレーザーもビットまで躱してるよ……」

 

 「織斑君たちだって、まだ全部は避けれないのに……」

 

 低威力でマシンガンの如く衝撃砲を乱射し牽制しながら双天牙月の斬撃を仕掛ける鈴音をブレードで受け流し、離れた瞬間に飛来するレーザーの雨を最小限の動きで回避するどころかセシリアに銃撃を返す真耶。普段のどこか抜けた柔らかな雰囲気とは一転して冷静な姿に、皆が唖然とする。

 

 「ああ、セシリアちゃんそこで撃っちゃダメ……鈴ちゃんの踏込みにブレーキかかっちゃう」

 

 「あの二人の連携が拙いってのもあるが……完全に手玉に取るとか凄いな」

 

 「ですね。って鈴、今突っ込むなよ……ほら、セシリアの射線遮っちまった」

 

 代表候補生二人に普段からISの教えを乞うようになり、彼女らの実力を知っている明日奈、和人、一夏もまた、真耶がしている事に求められる技量を想像し戦慄を隠せなかった。

 

 「―――ふむ、詰んだな」

 

 千冬がそう呟いた直後、誘導されたセシリアと鈴音が衝突し、すかさず投げ込まれたグレネードが直撃。黒煙を引きながら二人がグラウンドに墜落した。

 

 「言い忘れていたが山田先生は元代表候補生だ。専用機持ちだろうが何だろうが、諸君らが束になっても敵わんぞ……以後、敬意を持って接するように」

 

 敗北が悔しかったのか、ぎゃいぎゃいと言い争う代表候補生二人を背に千冬がそう告げると、いつもの雰囲気に戻った真耶が降りてきた。

 

 「昔の話ですよ織斑先生。それに、私は候補生止まりでしたし……」

 

 苦笑する真耶だが、その実セシリアと鈴音を下したばかりの彼女は息を乱すどころか汗一滴すらかいていない。それに気づいた生徒達は先程の担任の言葉が純然たる事実であると理解せざるを得なかった。

 

 「では専用機持ちである織斑、オルコット、桐ケ谷、デュノア、野上、ボーデヴィッヒ、凰、結城の八人をリーダーとし、出席番号順に各グループに分かれろ。順番は今言った通り。もたつくようならばISを背負ってグラウンド百周させるぞ!」

 

 パンパンと手を叩いて千冬が号令をかける。少女達も淀みない動きで分かれていくあたり、千冬の指導が行き届いているというべきだろうか。

 

 「はぁ……織斑、オルコットと凰の仲裁をしてこい」

 

 「あっはい」

 

 やれ射線に入るなだとか、やれビットが邪魔だとか、不毛な言葉の応酬が止まる気配の無い二人に呆れた担任の命令に、内心では同じく溜息をつきたくなるのを堪えて一夏は従う。断ったりでもすればすぐさま鉄拳制裁が飛んでくるのが目に見えているから、などとは口が裂けても言えないが。

 

 (けど、二人とも我が強いからなぁ……どっちも悪い、とか言っても絶対納得しないよな……)

 

 どうやって二人を止めようか、と頭を抱えたくなった一夏だった。

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