転生したらアニメの世界に居た、なんてチープでありきたりな転生だろう……。
この新たな世界で初めて抱いた感想である。
鬱蒼と茂る森の中木々の間からこちらを覗く顔にはけものの耳を生やした女の子。そう、ここはけものフレンズの世界。
「ねえあなた、何のフレンズかな? あ、ちなみに私はワオキツネザルっていうんだけど」
「え、あ。あ~っと。よ、よくわからないかなぁ」
突然声をかけられたせいで変に詰まって答えてしまった、恥ずかしい。
「んぅ~? この耳と尻尾はイヌ科っぽいけど……。飼育員さんに聞いてみるのが早いかな!」
「え、飼育員!?」
「ん? 何か変なこと言った?」
「い、いえ~」
飼育員、アニメで飼育員という単語はなく。アプリはやっていなかったが確かガイドさん、アニメではミライさんだったはず。
「あ」
「うん? どうしたー。さっきからうんうん唸って」
「あ、いやなんでも…ナイデス」
漫画の方か……。ちょっと手に取ってみたけどアニメの方が先だったから、世界観が違ってさっと読んだだけなんだけど。
「あの、ワオキツネザルさん? ここってどういう場所なのかなって」
「ん~ここはっと。着いた着いた、ようこそ!ジャパリパークへ!ってね」
「あ、ハイ」
森を抜けた先にあったのは大きな遊園地を中心に人工物が立つ新品の街並みのジャパリパークであった。
「反応悪いぞー。まあ、いいけどさ」
ワオキツネザルは飼育員を呼んでくると言って駆けていった。
どうする、どうしよう。そんな言葉が頭にぐるぐるとリピート再生しているのがわかる。そして頭を抱えて……あ、気持ちいい。
手に触れた耳の感触にループしていた言葉はどこかにふっとんで行った。そんなこんなで30分ほど耳や尻尾の感触を楽しんでいるとワオキツネザルが戻ってきた。
「もどったよ! おとなしくまてたかなぁ?」
「子ども扱いしないでよ」
「生まれたてで自分が何のフレンズかもわからないんじゃん」
「うぐぅ」
あまりにも正論過ぎて変なうめき声だけが漏れる。
それを見たワオキツネザルはけらけら心底おかしそうに笑った。
いつか絶対見返してやる。そう心の中で決心していると遠くから息の切れた情けない声とその声の主を鼓舞する元気のよい声が近づいてきた。
「はひ。も、もうちょっとゆっくりお願いしますぅ」
「もー、ミライさん! 新しい子が待ちくたびれちゃうよー!」
「ワオキツネザルさんが、先に戻って、くれてますからぁ。大丈夫だとぉ」
「あ、おーい! ミライさん、はやくはやくー!」
そんな姿を見てワオキツネザルと一緒に手を降ると、それに気づいた元気な子の方がスピードを上げた。
「あー、逆効果だったか。サーバルにはゆっくり来てくれていいって言っといたんだけど」
「あははは……」
「とーちゃーっく! ねぇねぇ! あなたは何のフレンズ? 何が得意なの!?」
あまりの勢いに目を白黒させているとワオキツネザルが間に割って入って宥めてくれ、サーバルが落ち着くのと同時位に息も絶え絶えのもう片方、ミライさんが到着した。
「えーコホン。改めまして。ここ、ジャパリパークでガイドをしているミライといいます」
よろしくお願いしますと続ける目の前の女性は、先ほどまでの酸欠と乳酸で死にそうになっていたのを感じさせない所作でそれでと続ける。
「イヌ科のおそらく狼に属するフレンズだと思うのですが。すいません。見たことのない子ですね」
「ガイドさんでわからないなんて、もしかしてすっごくレアなフレンズなのかな?」
「わー、すごーい!ますます何のフレンズか知りたくなっちゃったよ」
レア度の高いオオカミって、覚えている限り5種類。そしてこの毛並って2種類、個体差考えても3種類。
「何か思い出せそうかしら?」
「……いえ、よくわかりません」
たぶん森で生まれたということはあの子しかいない。そう確信したとき、原作へ繋がると分っているからこその近い未来に起こるであろうことの恐怖と人間への不信が膨れ上がった。
ミライさんへそれを物理的にぶつけなかったのは、原作で最後まで調査を続けていたと知っていたこと、近くにサーバルとワオキツネザルが居たこと、成熟した精神でどこかまだ他人事のような気がしていたなどが重なったからだ。
それだけ強い、本来なら自分じゃどうにもならないような衝動が走った。
「顔色悪いよ、大丈夫?」
「そう気を落とすなって、そのうち自分がなんなのかなんて思い出すさ!」
「えっと、それじゃあ1回本部まで来てもらって登録と飼育員の斡旋をしましょうか」
「……いらない」
ミライさんは一瞬何を言われたのかわからなかったようだが、頭が追いつくとあわて始めた。
「い、いらない? えっと、飼育員は体調とか住居の環境とかいろいろ管理してくれる人で……」
「……しってる。でも人間なんでしょ?」
「え? ええ」
「じゃあ、いらない。胸のここのあたりから『あいつらは信じられない』『きっと裏切る』って声がするの。だからいらない」
私の答えに驚愕と混乱で二の句を告げないミライに代わってサーバルやワオキツネザルが説得しようとするが、耳には聞こえても心には入ってこない。
私はこれ以上は無駄だと一方的に話を打ち切り森へと駆け戻った。そのとき見たミライの悲しげな瞳だけがちくりと少しだけ胸に刺さった気がした。
つづく
なぜワオキツネザルだったか、ほどほどに知名度があってぱっと出た。
こんな理由であるが後悔はしていない。