悪魔の王の人理修復   作:七氏

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頬を叩い→頬を叩き、 2017 7/15


1.最低最悪なバースデイ

痛い。心が、体が、死後が、夢が、自分が、魂が、犯されて、侵されて、冒されていく感覚。痛い。来るな。嫌だ。消えたくない。そう叫ぶ彼の意識。目の前には悪を体現した異形が居た。その怪物の名はサタン。魔王とも有名な堕天使とも蛇とも黙示録の獣とも呼ばれる悪魔の長、悪霊の王、神敵の頂点。その怪物に彼の魂は呑み込まれていく。魂を握られ動けない彼はそれを拒絶しながら見ることしか出来ない。

ソレに人格はない。ただ堕落させるだけの機構。ただ頂点を張れるだけの力。彼は今からその"人格"にさせられようとしていた。

英霊にしておくには危険過ぎる異形。しかし確かな知名度がある故に概念英霊としてソレは座の奥に幽閉されていた。世界はソレに人間に敵対しない人格を付与すれば良いのではないか、と判断した。

例え神を恨むような輩になろうともそれがどうした。力は衰えたとは言え悪魔如きが神に勝てる訳が無い。サタンは彼を取り込む。まるで食事をするように。

実際、ソレにとって彼という対象は食事でしかなかったのだろう。しかし取り込まれて数秒後、異変は直ぐにやって来た。取り込む時に侵食していた物が返される感覚。今度はコチラが逆に侵食される側になってしまった。

 

「■■■■■■■ーーーーッ!?」

 

サタンは異常に咆哮を上げる。しかし、神の鎖で繋がれたサタンは身動き一つ取ることはできない。ただ、鎖が揺れる音がしただけだった。

そして、サタンの霊基(からだ)が痙攣するように揺れる。瞬間、魔力が迸りどす黒い王気(オーラ)が辺りを暴れ回る。

王気が鎮まった時、鎖に繋がれたサタンは文字通り変貌していた。

黒髪に、黒目。鋭い目つきはコチラを射貫くかのようだ。酷く消耗したのか肩で息をしている。頭と背中には角と翼が生えており彼が悪魔となってしまったことを象徴していた。

 

「ガッ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

 

彼は息を整え漸く、口を動かした。

 

「貴様のような・・・・・・神は・・・・・」

 

殺意、憎悪、絶望、僻み、そして魔王としての矜持を煮詰めた感情が彼の中で嵐となって荒れ狂っていた。

 

「―――悪魔の頂点であるサタンがその身を以て殺し尽くしてくれる」

 

彼にはその言葉を受けた神々が彼のその宣言に侮蔑を込めて嗤った気がした。

 

 

生前の名前はもう、思い出せない。

 

 

―――――――――――――――――――

 

人理保障継続機関、フィニス・カルデア。犠牲を払いながらも特異点Fの修正を成し遂げたカルデア一同は英霊召喚場に揃っていた。

既に一回目の英霊召喚は終わり、召喚されたのは蒼き騎士王、アルトリア・ペンドラゴンだった。

そして、今二回目の英霊召喚が行われようとしている。

藤丸立香は高度な擬似霊子結晶である聖晶石を三つ握っていた。

 

「次はどんな英霊に会えるんでしょうか・・・・楽しみですね、先輩!」

 

「うん、来てくれた英霊に満足してもらえるよう頑張らなきゃ」

 

「根を詰めすぎないように注意してくださいね、マスター。幾ら人類最後のマスターとは言え貴女は年端もいかない少女だ」

 

「うん、有難うアルトリア」

 

マスターとサーヴァントの関係は良好のようだ。これからどんなサーヴァントが喚ばれるのかも知らずに楽しく談笑している。最も、アルトリアの場合それで緊張を解そうとしているのかもしれない。

 

「よし、じゃあ英霊召喚第二弾行きますか!」

 

「「はい!」」

 

立香が召喚サークルに聖晶石を放り込む。瞬間、光の輪が三つ出現し魔力風が吹き荒れる。いや、それは吹き荒れると言うには些かその空間を蹂躙し過ぎていた。

 

「きゃぁ!?」

 

「先輩!」

 

「マスター、下がって!」

 

「な、何だコレは!? 魔力量だけなら騎士王を超えているぞ!?」

 

すかさずサーヴァント二騎がマスターを下がらせ前に入った。立香には同じく下がっていたDr.ロマンの狼狽した声が聞こえた。

 

「ふむ、騎士王を超えるとなると・・・・・・神代の魔術師か・・・或いは神霊かな・・・?」

 

それにダヴィンチが考察する。カルデアのブレイン二人が考察を巡らせている間に蹂躙は収まり、シルエットが明らかになる。それは黒だった。

現代人で黒が好きな人が欲望のままに服を選んだらこんな感じになったであろうと言うまでに黒い服装。しかし、ソレには人とは違う事を示す物として角と翼が生えていた。顔は道化のような仮面で覆われておりその手には・・・・・・黒い両刃の洋剣が握られていた。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。

召喚に応じさせてもらった。さて、私を呼び出した今世紀最悪に不幸極まりないマスターは誰だ?」

 

途端、そこに居た全ての人間に同じ感情が走った。堕落への願望。この男に全てに身を委ね堕落したいという欲望。気が強い者や神を信じている者は慌てて首を振りその考えを消したが、

少し夢心地に陥ってしまった人間も多いようだ。

立香は後者の一人だった。

この精神を蝕む人類最後のマスターという責任から逃れ彼に全てを委ね堕落したい。溺れたい。受け止めてもらいたい。そんな考えが頭の中を埋めていく。双肩にかかる責任が一番重い故にその効果は絶大だったのだろう、立香はフラフラと彼に近づいていく。

 

「マスター!」

 

アルトリアが呼びかける。立香はびくっと反応し、首を振り自身の頬を叩き、自己嫌悪した。その考えは隣に立つ後輩を見捨てるに等しい行為なのだから、と自身を戒める。

 

「一体どういうつもりだ、貴様――アヴェンジャー」

 

アルトリアが彼に対し、剣呑な気配を以て問いかける。それに彼は肩を竦め

 

「これは私の性質だ。今更直しようもないしそもそも望んで得た力でも無い。しかし・・・・・・

ふむ、その少女がマスターか」

 

彼はパスの繋がりを感じ取りその繋がりの先にある少女を見やる。

 

「―――私の真名()はサタンだ。憶えておくといい」

 

瞬間威圧が空気を占拠した。召喚場の全員が圧迫感を感じる。

 

「サタン!?サタンだって!?」

 

威圧と共に真名を明かされ、そしてその悪魔の名にカルデア一同は驚愕した。

 

「――ッ!? わ、私は藤丸立香。よ、よろしく・・・」

 

それでも立香は自己紹介を返し彼はそれに左手を上に挙げ応えた。すると威圧は解かれ、空気は元に戻った。職員の殆どが安堵しほっと息を吐いた。

 

「ああ、よろしくマスター。

さて、この施設について分からないのだが誰か案内を行う者は居るのか?出来ればマスターにして貰いたいところではあるが」

 

「わ、私!? まぁ、良いけど・・・・・・」

 

「では、私も案内します、先輩!

私は職員ですし、案内もできますから」

 

「では私も行きましょう。構いませんね、アヴェンジャー?」

 

「ああ、問題は無いな。

――そうだ、そこの二人」

 

「ん?どうかしたのかい?」

 

「な、何の御用でしょうか・・・・・・?」

 

上がダヴィンチ、下がロマンの反応だ。後者はもう完全にビビってしまっている。サタンはロマニに向けて両手で落ち着くようジェスチャーし

 

「別に取って食おうって訳じゃあない。私は人間の敵対者ではないからな。

名前を教えてくれ。他の職員より立場が上だと感じたのでな。勿論、後で他の職員の名も聞くつもりだが」

 

「そ、そうかい?それなら良いんだけど・・・・・・」

 

「何だ、そんな事か。では、名乗らせてもらうとしよう。私は万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ!気軽にダヴィンチと呼んでくれていいよ」

 

「・・・・・・最近は史実と性別が反転するのが英霊内では流行っているのか・・・?

まぁ、いい。よろしく頼むよ、ダヴィンチ。それで――」

 

「ダヴィンチちゃん」

 

サタンが話を進めようとした所で不機嫌そうな顔でダヴィンチが言う。

 

「あ、ああ、ダヴィンチちゃん、だな。了解した。

それで如何にも軟弱そうなそこの君は?」

 

「初対面で軟弱って言われた!?

ま、まぁ事実だから否定出来ないんだけど・・・・・・ボクはロマニ。ロマニ・アーキマンだ。皆にはDr.ロマンって呼ばれてるから君も気軽にロマンと言ってくれて良いとも」

 

「ああ、よろしくロマン。では、行くとしようか。そうだ、君の名前を聞いていなかった」

 

漸く施設を巡ろうとした所でサタンはマシュに対して自己紹介を求める。

 

「は、はい、えっと・・・マシュ・キリエライトと言います。宜しくお願いします、サタンさん!」

 

「ああ、よろしくマシュ。さて、長くなって済まないな、マスター。

施設を案内してくれないか?」

 

「うん、了解だよサタンさん!」

 

 

 

これはIFの物語。悪魔の王であるサタンが人格を持ってマスターや他のサーヴァント達と人理修復に挑む物語だ。

そして、それは一人の男が(せかい)に対して行う復讐の物語だ。

 

その物語の結末がどんなものになるのか。今はまだ、誰も知らない。それこそ神さえも。

 

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