コードギアス 皇国の再興   作:俺だよ俺

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第26話 バグラチオン作戦 発動

皇歴2017年9月8日ロシアソビエト社会主義帝国 

王都兼首都イルクーツク 仮皇宮併設大統領府

 

枢軸軍の侵攻により王宮のあるサンクトペテルブルクとソビエト議会を中心とした公官庁が並ぶモスクワが陥落してから、ロシア帝国は現在のイルクーツクに落ち着くまで、エカテリンブルク、オムスク、ノヴォシビルスクと臨時首都を複数回に渡り遷都を行った。

遷都先にはハバロフスクやウラジオストクも上がったが、同盟国と隣接しているとはいえブリタニア勢力下に近く、信用ならない中華連邦本国と国境を接しており遷都先から外された経緯もあった。

 

現在の首都イルクーツクは、バイカル湖に近く遊牧的で牧歌的な雰囲気の漂う落ち着いた穏やかな空気が流れていた。その一方で、ロシア極東地域とウラル・中央アジアを繋ぐシベリア東部の工商および交通の要衝である。ロシア正教会の大主教座が置かれ、劇場、オペラ座などの文化施設も充実する。これらの公共建築にはかつての戦争で、シベリアに抑留された日本人によって建てられたものも多い。日露関係が親密以上の蜜月関係にある現状、古くからの在留日本人の子孫やブリタニアを逃れてきた亡命日本人達も多く存在し、政府重要職を除く多くの場で活躍する姿が見られている。他の外国人以上に丁重に扱われているのは当然と言えた。

 

 

両施設内の調度品は、かつての首都脱出時に救世主ハリストス大聖堂やトレチャコフ美術館などの聖堂や美術館から貴重品保護の名目で接収した、貴重品の一部がそのまま流用されている。

 

「ブリタニアの目は、先の日本皇国軍の南下、黒の騎士団の蜂起、キュウシュブロックにおける中華連邦の介入によって、日本に向かっています。ナチス第三帝国もウラルの防衛線で膠着状態、それよりも中東を抑え、インド侵攻も秒読みです。」

「ニコライ計画の準備段階はすべてクリアしました。」

 

帝国宰相兼大統領ウラジミール・プーシンは執務室で書類にサインと判を入れながら、参謀総長ヴィクトル・コレンコフと軍務大臣エルゲイ・エジョイクの報告を聞いていた。

プーシンはその手を止めて、顔を上げた。その鋭い視線を2人に向ける。

 

「…我々の機は熟したか。」

「軍部はその様に判断しています。」

 

プーシンは電話の受話器を手に取り機器のボタンを押す。電話はすぐにつながる。

 

「あぁ…私だ。外務大臣に繋いでくれ。………そうだ、私だ。今、軍部のエジョイクとコレンコフが来ている。そうだ、ニコライ計画のことだ。日本の旭光計画について彼らはどのように言っていた?そうか、すでに連合艦隊編成へと向かっているか。時間を取らせたな。ありがとう助かった。」

 

プーシンは二人に向き直る。

 

「ホットラインで大高に直接問う必要がある。それに陛下にも、お伝えする必要がある。直答は出来ない。今日中には返答するので、連絡将校を置いて通常業務に戻ってくれ。」

「「っは。」」

 

2人が出て行ってから、しばらくしてプーシンはコーヒーを秘書官に持ってこさせる。

 

「大高と回線を開く、支度をしてくれ。」

「はい。」

 

さらに時間が経ち、執務室には特殊回線の機器を用意した技官と外務次官、そして秘書官が立ち並んでいた。

急な呼び出しであったが大高はこれに応じた。そして、会談時間となり回線がつながる。

 

『プーシン閣下、急な呼び出しでしたが、どのような内容で?木戸からは重要な案件としか伺っておりませんでしたので。』

 

「ミスタ大高。ニコライ計画の準備段階は全てクリアした事を貴殿に伝えるためだ。」

 

『それは、とても喜ばしい事です。閣下。』

 

「ついては貴国の旭光計画の進捗についてだが…」

 

プーシンは大高の雰囲気が変わったのを感じた。

 

『旭日艦隊も白銀艦隊も再建最低ラインには到達しました。紅玉艦隊も沿岸防衛程度なら可能な程度には回復しました。紺碧・旭日・白銀・紅玉・高杉・坂本・東郷、すべての艦隊は私の指示を待っています。』

 

「……ほぅ、そうか。では、ミスリル特殊作戦戦隊を派遣しよう。」

 

『マルベロ島沖でお願いします。そこで、紺碧艦隊と合流し共同作戦を依頼したい。』

 

「ミスリルは囮か?」

 

『ダメですかな?』

 

「いや、構わんよ。ところで、黒の騎士団はどうするんだ?占領地支持は日本解放戦線より上だろう。」

 

『少々残念ですが、関東州州境の陣地は双方ともに相当固く。関東州で黒の騎士団が行動を起こさねば、付け入ることも難しいのですよ。』

 

「そうか。では、日本の計画を支援する意味合いでも、そろそろ我がロシアが動かねばならんな。」

 

『よろしくお願いします。』

 

「うむ。」

 

 

電話会談が終わるとプーシンはリュミドラ女王に作戦発動の旨を伝えるために、併設される仮皇宮へ繋がる回廊を渡り、門前に待機する女官に女王への面会の求めを伝えると、女官はリュミドラ女王がボゴヤヴレーニエ大聖堂へ戦没者のためのパニビダに参加していると告げられた。

プーシンは秘書官に車を回すように伝えた。

 

 

 

 

王都兼首都イルクーツク ボゴヤヴレーニエ大聖堂

 

 

パニビダは本来未信徒には行われないが、ウラル戦線や極東戦線では日々戦死者が増え続けており、そう言った情勢を鑑みて例外的に合同告別式の形式をとったパニビダが執り行われていた。既に日は沈み、パニビダは後半に入っており、リティヤの儀が始まっていた。

 

プーシンが聖堂に入ると詠隊の連祷が耳に入る。儀も終盤の様だった。

「「「「「「「主憐れめ、主憐れめ、主憐れめよ、福をくだせ。」」」」」」

 

プーシンの来訪に気が付いた修道士が開いている貴賓席へ案内する。

 

「死より復活し、生ける者と死せし者を全能の手に保ちたもうハリストス我ら真の神は、

その至浄なる母、光栄にして讃美たる聖使徒、克肖捧神なる我が諸神父および諸聖人の祈祷によりて、我らに別れしその僕婢らの霊を諸義人の住いに入れ、アウラアムの懐に安んぜしめ、諸義人の列に加え,および我らを憐れみたまわん。善にして人を愛する主なればなり。」

「「「「「「「「アミン。」」」」」」」

 

戦死者にはロシア軍人を中心とするロシア人、EUやワルシャワ条約機構からの亡命者、その他義勇兵など多くいた為なのか。パニヒダを主宰したのはモスクワ総主教ベラヴィンであり、今も司祭役として祈祷文を朗誦している。

 

「主よ、なんじの眠りし僕婢らの幸いなる眠りに永遠の安息を与え、彼らに永遠の記憶をなしたまえ。」

「「「「「「「永遠の記憶、永遠の記憶、永遠の記憶。」」」」」」」

 

リュミドラ女王は司祭位を持っている為、ベラヴィン総主教の傍で、輔祭として、輔祭朗誦を唱えていた。

 

プーシンも信徒の一人として、修道士・修道女、そして列席者と共にパニヒダの儀終了まで戦死者への祈りをささげた。

 

 

王都兼首都イルクーツク ボゴヤヴレーニエ大聖堂の一室

 

紅茶とジャムが出されたテーブルを挟んで、プーシンはリュミドラ女王に上奏する。

 

「陛下、ニコライ計画の準備段階は完了しました。日本皇国の旭光計画も同様です。陛下の許可が下り次第、すぐにでも次の段階に移したく思います。」

「わたくしからは、よしなにとしか答えることはありません。ウラジミール…軍事政治の事は貴方に任せています。私は聖職者として、祈りをささげる事しかできません。」

 

以上の会話を見るにリュミドラは一応の政治権力を持っているのだが、基本的には大統領のプーシンに一任している。プーシンがリュミドラの信頼を得ているとも言えるのだが、あまりにも軍事政治に不干渉で聖堂に籠っている日々の現状に対して、プーシンは僅かながら不満を持っていた。

 

「陛下、もしよろしければ…議会に出席されるか、軍を視察されてはどうでしょう?」

「わたくしの様な、軍事も政治もわからぬ者が、出しゃばっても迷惑なだけでしょう。」

 

ジャムをスプーンですくって舐めながら、リュミドラは答えた。

プーシンは手にしたティーカップを下ろして、それに反論する。

 

「陛下、その様なことはございません。陛下のご尊顔を拝見すれば、現場の軍人も役人達も大いに士気が上がる事でしょう。」

 

プーシンの言葉にリュミドラはぶるりと肩を震わす。

 

「…そうですか。考えておきますね…。」

 

リュミドラ女王がジャムのついたスプーンを咥えたまま答える。

これは、嫌がっている時にする幼い時からの癖だ。

 

「陛下…。」

「ウラジミール、わたくしは日本の皇陛下の様に強くはありません。どうか、わかってください。」

「わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした。」

「いえ、いいのです。」

 

プーシンは、そんな彼女の様子を見て彼女の経歴を思い出していた。

 

リュミドラ女王は今年で15歳になった。女王に即位したのは15年前の皇歴2002年、当時リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノヴァは0歳の乳児。当時、末娘であった彼女は皇帝ニコライ4世及び兄姉達が王宮内の病気感染により病床の身に、産後間もない上に未熟児であった彼女は病院に預けられていた。さらに不幸なことに、皇后エリカテーナは周囲の反対を押し切り家族の看護の為に王宮へ戻り感染。半年以内にリュミドラを除く王族直系が全滅してしまう。この急な事態で、彼女の大叔父であるスコルゲギー・エヴゲーニエヴィチ・リヴォフ大公爵が宰相となり、リュミドラは急遽即位することになったのだ。また、プーシンはその当時から大統領であり、リヴォフ公爵を補佐した。

また、革命時に多くの貴族は処刑されたが、リヴォフの様に領地を返上し法衣貴族として生き残った者も僅かにいた。

 

リヴォフ大公爵はリュミドラが幼い事もあり、大公爵の既知の間柄であったベラヴィン総主教のいるモスクワ総主教公邸の1室に預けられた。唯一の皇族と言うこともあり厳重な保護下に置かれた。ただし、リヴォフ大公爵と政府高官で孫のアレクセイは高い頻度でリュミドラと会っていたことから、女王リュミドラをないがしろにした訳ではない。そのあたりは、当時から大統領であったプーシンも認めるところである。そして、不幸な事態が起こる。皇歴2008年11月、将来的にリュミドラと結婚し、皇帝になると目されていたアレクセイ・エヴゲーニエヴィチ・リヴォフが交通事故で死亡してしまう。この件は、暗殺の可能性が示唆されている。さらに翌年、宰相スコルゲギーが失意のうちに老衰で死亡。王家の正統な血筋はリュミドラの代で確実に途切れることが決定してしまう。アレクセイ死後の報道で過去の王宮内の伝染病の蔓延が取り上げられ、皇族の暗殺説が大々的に報じられていた。その上に、アレクセイの件もありスコルゲギーも当時暗殺説が出ていた。当時の報道では、すでに滅んだとされていた共産過激派の残党やEU民主派の暗殺者などの多くの無責任な報道が流れており、プーシンがメディアを掌握するまで続いていた。

この時期のリュミドラ女王は暗殺の影におびえて過ごしていた。スコルゲギー死後に会ったリュミドラ女王は、それ以前まで普通に会話していたプーチンと会った時でさえ、唯一信用していたベラヴィン総主教の法衣の裾を握ったまま、震えながらこちらを見つめていた姿は今でも記憶に残っている。

皇歴2010年、2年の準備期間を通じて王都サンクトペテルブルクへ居を移すことになった。この2年は、プーシンが彼女から信用を得るために必要とした期間である。

サンクトペテルブルクに居を移してから、判明した事であったが彼女が気を許す修道士・修道女数名と親代わりであるベラヴィン総主教、そしてプーシンがいないとき、部屋の隅ですすり泣きながら一日中肩を抱いて震えていると言う事があり、医師の診断で心的外傷後ストレス障害があったことが判明した。サンクトペテルブルクに移る以前は教会と言う閉鎖世界で限られた信頼できる人物としか接することがなかった故に発覚が遅れたのだ。

だが、この事実を世間にバレるわけにはいかなかったために、彼女の身の回りには彼女が心を許した修道士・修道女が常に身の回りを世話し、プーシンとベラヴィン総主教は非常に高い頻度でサンクトペテルブルクに出入りした。これは、ある程度回復した現在でも皇宮と大統領府が併設されていることからもわかる様に続いている。今ではいい年をしている彼だが、男女の関係が疑われるほどだった。

 

一通りの回想が終わり、プーシンはリュミドラにわからない程度に肩を落としてから、礼をして皇宮を後にした。

 

 

王都兼首都イルクーツク 仮皇宮併設大統領府

 

リュミドラ女王の事を考えるのは一度切り上げ、電話の受話器を持ち上げる。

 

「連絡将校はいるか。いや、彼らではだめだ。閣僚全員を呼べ。」

 

1時間もしないうちに閣僚と連絡将校が到着し、入室してきた。

プーチンは作戦指示書を取り出す。そこにはすでにリュミドラ女王のサインと刻印が押されていた。リュミドラ女王の記入欄の下の段にある自分の欄にサインと判を押してから、連絡将校に差し出す。

それを、連絡将校が受け取ってから一歩下がる。

彼らを睨みつけるような鋭い視線を向けてから、告げる。

 

「ロシアソビエト社会主義帝国女帝リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ及び帝国大統領ウラジミール・プーシンの連名にて枢軸に対する反抗計画ニコライ計画の第一段階として、ロシア東部のブリタニア軍一掃を目的とするバグラチオン作戦の発動を命令する。バクラチオンの成功の可否は我が祖国の解放、日本の旭光計画、インドのラナーデュラグラハ計画、枢軸と戦うすべての国家の命運を握っていると言っても過言ではない。陸海空全軍、否、国家国民の総力を持ってことにあたるのだ。」

 

「「「「「「「っは!!」」」」」」

 

 


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