12歳になった生徒は、近場における魔物との戦闘も授業に入ってくる。
基本的に安全を取って3人1組で班を組むのだが、さらに最初は2組の班をまとめて6人で行動させることで、戦闘がダメな人間と戦闘ができる人間を安全に見極めようとしていた。
戦闘がダメな人間は、徹底的にダメな場合があるのだ。
それは戦闘員として班を組ませると、最悪本人か仲間が死ぬことになる。
トラビアという人口の制限された国においては、たとえ無能であったとしても貴重な労働力であり、戦闘力を発揮できないからと言って仕事が割り振られないなどということはない。
ある意味、ニートに厳しい環境なのである。
そして、6人での近場を探索中。
「なんやアレ?」
チームメイトの男子生徒が指差す。
「黒い、モヤモヤ?」
そちらに目を向けたクレアが呟いた。
空中に黒い何かが浮かんでいるのだ。
大体地上4メートル前後、6人がいた場所から30メートルほど離れた場所。
テレサの知識の中にも、タブレットにあった攻略情報にも、あんな物体の情報はない。
「なんかちょっとヤバそうやし、離れてセンセ呼んで――」
班長を任されていたテレサは、もしものために黒い靄から離れるように指示を出そうとして、一瞬靄の中から見えた紫色の光が目に入った瞬間、衝撃を受けたように身体が跳ねて、そのまま仰向けに地面に倒れ伏した。
「テレサ!?」「なんや!?」
突然のことに、班員は慌てふためく。
「うが、あぁ……!」
痺れ、力が入らなくなった上に、脳の不快感から、少女はうめき声を上げた。
その時に気付いたが、上手く舌が回らない。
『逃げろ』とも言えない。
彼女は前世の記憶から、相手の正体に気付いた。
同時に、中途半端な特典と情報しか寄越さなかった神を呪った。
転生特典に与えられたタブレットには、エクスデスがこの世界へ来る前兆となる現象が、何も書かれていなかったのである。
だから、テレサはこの事態を予見できなかった。
知っていたならば、もっと的確に備えることができたのに。
「男子、テレサ抱えて!ガーデンまで走りぃ!」
突然倒れた黒髪少女の代わりに、セルフィが指示を出す。
「りょ、了解や!」
こういう、不測の事態に活躍するのが感覚型の天才たるセルフィだった。
おかげで混乱していた班がまとまりを取り戻し、トラビアガーデンへ移動を始める。
テレサは心の中でセルフィに感謝しつつ、一方で脳の不快感に耐えながら、全身が痺れて動かないながらも、なんとか動かないか、色々と試していた。
麻痺の感覚というのは、2通りある。
1つは感覚が消えてなくなるだけ。感覚はないが、動かせば動く。
もう1つは、神経の伝達そのものが切れてしまい、動かそうとしても動かないケース。
テレサが感じたところ、この麻痺は前者であり、決して動かないものではなかった。
とはいえ、こういうものはかなり慣れなければ自由に動くことはできない。
戦闘行動ができるほどとなると、いきなりは不可能だ。
結局、今回は麻痺が回復するまで、待つことになった。
セルフィの指示でトラビアガーデンまで逃げてきた少年少女達は、教員に危急を告げる。
「よっしゃ、わかった。テレサは保健室や、後は俺ら大人に任せえ」
「あ、う……」
テレサは、何かを言おうとしたが、上手く言葉にならない。
自分が感じたこと、危険な相手だという警告を伝えることができないもどかしさと共に、男子生徒に背負われて、保健室に向かうことになった。
保健室のベッドに寝かされて10分ほど後、テレサはなんとか感覚が戻ってきたのを感じる。
結局、麻痺の効果が切れるまで、まともにしゃべることも、身動きもできなかったことが、とても悔しかった。
『ケアル』で脳の不快感は消えていたものの、妙な疲労感が残っており、自分で追加の『ケアル』を使いながら、彼女は戦場に戻る。
「テレサ!」「大丈夫なん?」
「あたしは大丈夫や。麻痺とちょっとのダメージやから、大したことない。
でも、センセはヤバいかもしれへん」
「え」「どないゆうこと?」
あまりに想定外が起こり過ぎて、固まっていたクレアをよそに、セルフィが尋ねる。
「アレ、『マインドフレイア』や。
エクスデスの元の世界におる魔物で、ラスダンにおる雑魚敵やねん。
雑魚でもラスダンまで行ったら、序盤のボスなんか軽くヒネるで」
「ヤバい、センセ3人ほどで行ったで」
「追っかけよ」
「追っかけて、今のテレサに何ができるん!?」
クレアが叫ぶ。
「テレサまで死んだらアカン。他の上級生とかに任せよ、な?」
「……ゴメン、センセはまだ死んでない。まだ助かるんや。
でも、今からヒト呼んでる時間もないんよ。
それに……あたしも死にに行くわけやない。倒せる算段はあるねん」
テレサはクレアの悲痛な叫びを振り切って、現場へ向かった。
「クレア、武器持ってついてきて。
セルフィ、多分、大人はみんな倒れてるから、運ぶのにヒト呼んできて」
「う、うん」
「うぅ……!」
『ショートスピア』を杖代わりにしつつ、黒髪少女は現場へ戻る。
現場には、法衣を身に纏ったイカの怪物が、黒い靄=次元の穴、から姿を現わしていた。
教員は倒れていたが、テレサがそうしていたように、麻痺している中でもわずかずつ動いており、なんとか生きていることが見て取れた。
少女は両方の世界にとって異質な、異常な力を披露する。
今まで、一部の教員にしか見せて来なかった、親友にも秘密にしていた、実験と鍛錬の成果を。
「目標設定:対象物の破壊」
これは自己暗示。
平時にはあまりに危険な力であるため、目標を設定しない限り、使用しないようにしているのだ。
「“ミリオンスライスープロケット逆風の熱線放射電束ミサイルプラズマ幻魔雑霊爆砕金剛跳弾神速ダーク電磁放射電撃曲射陽子ロケット落雷ジャイアントロコ集中稲妻グリフィスローリン三濁流清流タイガー短勁スカイライジングロザリオ塔三龍羅刹十字散水”『略して剣』」
40もの擬似魔法を重ねることで、対象の耐性を無視して異種の『魔法剣』を5つ重ねがけし、内部から原子単位の破壊を行う、究極の分解魔法。
FFシリーズにはほとんど登場しない、『
だが。
イカの怪物は絶望を告げた。
「ぐうぅぅっ、だが、ワガハイを滅するには、まだタリ――」
あくまで今まで通じていたのは耐性も何もない、一抱えほどの石に対してのみ。
それを知っていたのは、何よりテレサだった。
だからこそ、仲間を連れてきた。
新型の『赤魔法』、しかも、テレサがよく知る技術の使い手。
ラケットに収まった炎の灯った弾に、もう1つ擬似魔法を重ねる。
「“――”『スロウ』」
「そんなモノが――グアァァァッ!?」
『スロウ』の遅延効果によって、ほんの3秒だけ破裂までの時間が延びた小石は、狙い通りイカの怪物は腕で防ぎ、トラビアガーデンからの移動中に1発の『ストップ』と8発の『ファイア』を蓄積していた小石は、合計10発分の擬似魔法のエネルギーによって爆発し、炎を撒き散らした。
これは、トラビア軍の研究施設で発見された、『赤魔法』の安全な運用法である。
『ストップ』によって小石の時間が止まっている内に数発の擬似魔法を蓄積しておき、時空魔法の上書きの性質を利用して時間停止を解除、狙ったタイミングで破裂させる、というものだ。
『スロウ』は対象物の時間を遅くする魔法で、破裂までの時間を調整する目的で使用された。
「コムスメどもとアナドったか……」
イカの怪物は、人魂のような光となって、テレサの胸に吸い込まれていった。
『マインドフレイア』は、自律エネルギー体、つまりGFだったのだ。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ついに大きな転換点です。
テレサにとっても、他の仲間達にとっても。
そしてやっと出てきました、FF8の目玉であるGFが。
この小説は、ここから本格的にヒドいことになります。
――――設定
マインドフレイア:FF5、『次元の挟間』の雑魚敵
速攻で倒さないと青魔法『マインドブラスト』を連発してくるウザい敵。
逆に青魔法『マインドブラスト』をラーニングするのにこれ以上の敵はいない。
ところが、コイツに出会う頃には、『マインドブラスト』は味方が使っても大した技ではなくなっている。
『マインドブラスト』は麻痺とスリップと無属性ダメージ。
麻痺が目的なら『デスクロー』の方が便利で、無属性のダメージソースとしても、他に優秀な魔法やアビリティが多く揃ってしまうため。
スリップでダメージが稼げるまで待っているなら、とっとと倒してしまうというのもある。
味方が使うと大したこともないが、敵が使うとウザい技の使い手。
以上。
FF4では召喚獣となっており、それを参考に今回も自律エネルギー体、つまりGFとして設定した。
『スロウ』、『ストップ』:擬似魔法、時空魔法
便利な時空魔法。
『スロウ』は対象の時間を遅くし、『ストップ』は対象の時間を止める。
今回は最初に『ストップ』を『魔法剣』ではない形で小石にかけて、『魔法剣』の重ねがけによる破裂を遅延させていた。
ゲーム中、相手の動きを完全に止め、カウンターも不発させてしまう『ストップ』の方が強力だが、なかなか通じる相手がおらず、『スロウ』の方が便利であることの方が多い。
『ストップ』は使ってくる相手にST防御ジャンクションにセットする程度がほとんど。
カード稼ぎのための調整時、ST攻撃にセットすると敵のダメージモーションを確率でカットできて便利なこともある。