サイファー・アルマシーは焦りを感じていた。
1つ年下で勝手にライバル視してきた後輩の才能が、自分より飛び抜けていると知ったからだ。
さらに、最近は魔女と同等かそれ以上の戦闘力を持つと言われる転校生の噂でもちきりだ。
目にも留まらない速度でガーデン構内を吹っ飛んで行く黒髪少女を、最初は言いがかりをつけて叩きのめすつもりでいたが、通路で待ち伏せしていても例の高速移動で正面突破されるのには参った。
必死に追いかけるも、研究室に入られるとどうしようもない。
基本的に不良生徒であるサイファーには、ああいう場所へ踏み込むのはハードルが高いのだ。
なので、色々と調べ回った結果、通路で捕まえるのは諦め、訓練施設で待ち伏せすることにした。
「うおりゃああああああああああああああっ!」
「ナギッペシッペシッナギッペシッペシッ」
「まだまだぁぁぁっ!!」
「フハハハフハハハフハハハフハハハ」
「ごふぁっ!?」
先客がいた。
15歳でSeed候補生になったばかりの、サイファーからすると後輩の金髪少年ゼル。
稽古がてら挑んだらしいのだが、ものの見事に相手になっていない。
なにしろ、空中で慣性を無視し、後ろに回り込んだりするのだ。
しかも、攻撃が30センチもズレているのに当たったことになったり。
オーラを駆使した小技なのだろうが、それがあまりにも鮮やかで、まるで次元を超えてダメージを与えているかのように見えた。
しかし、それなら今のサイファーなら対応できる。
「おい、転校生、次は俺と勝負しろ!」
サイファーは保健室で目覚めた。
「ぐっ……!」
身体中が痛む。
その痛みで、何があったのかを思い出した。
あの転校生の少女を相手に、ボロ負けしたのだ。
それでも立ち上がって挑み続け、結果として意識を失い、この保健室に運ばれたらしい。
まず、手数が明らかにおかしい。
二刀流を相手にもそれなりに戦える自信があったが、テレサはそれをすら上回った。
サイファーは、候補性の中でも中堅クラス、同年代の中ではかなり強い部類ではあるのだ。
ただの剣では単発の攻撃力で勝てない相手が、目標となる先輩にいるため、武器として『ガンブレード』――火薬によって刀身に一瞬だけ高周波を与え、斬る際の抵抗を低減する特殊な武器――を選択した。
扱いの難しいそれにも徐々に慣れてきて、そろそろガンブレードの威力を活かした戦術を組み立てようとしていたところ。
出現した圧倒的な手数という壁は、あまりにも高かった。
手数が多いから一撃は軽いのかというと、そんなことはない。
小手先のものではなく、ちゃんと体重の載った威力のある攻撃ばかりだった。
スコールが手数と重さを両立する剣術の使い手なのだが、テレサの場合は印象が違う。
決まった型をトレースしているように見せて、変幻自在に変えてくるのだ。
その切り替えがあまりにも早く、技の途中からですら複数回切り替えてくるため、行動が読み切れない。
フェイント、などというレベルではない。
その上に攻撃を受けようとすると、防御をすり抜けるようにオーラを撃ち込んでくるのだ。
いや、最初はオーラを撃ち込んでいるのだとばかり思い、こちらもオーラで防御していたのだが、武器が防御をすり抜けることが何度かあった。
残像かと思っていると、実体を持ってダメージを与えてくる。
正しく『すり抜けた』としか考えられない現象。
さらに、大きく避けたと思ったら、まったく別の角度から柄で殴られたり。
オーラでの攻撃と武器での攻撃は感触が違うため、すぐに分かる。
『アタリハンテイ力学』と彼女は言っていた。
しかも、サイファーからの攻撃が当たったはずなのに無傷ですり抜け、平然と反撃してくるものだから、どうしようもない。
まるで別々のルール、サイファーだけ一方的に不利な物理法則で戦っているかのようだ。
まったく、勝てる糸口すら見えない。
別の次元に生きる生物だとすら思えてくる。
「いや、やってやる。どんな手を使ってでも、強くなってやる……!」
彼はベッドの脇に立てかけられた鞘に入った自身の武器、『ハイペリオン』に誓った。
訓練施設では、数人の男女が集まってテレサが使う技術の検証実験が行われていた。
ルールーが立てた仮説が、大筋で正しいことがテレサの口から語られたためである。
その仮説というのが、『詠唱の終わりで魔力の放出を止めずに次の詠唱に移ることで、前の詠唱の影響が最大限残った状態を利用することができる』というもの。
今までは、一度一度で魔力の放出を止めていたために、次の詠唱が始まる際の残留魔力の影響を一定に保つことが難しかったのである。
だからこそ、キスティスが言った『1つの詠唱の途中で効果が発動している』という感想は、大きな進歩のきっかけとなった。
とはいえ、それは細かい詠唱の変化による魔力の流れの変化まで読み切らなければならないということで、そんなことは今のバラムの設備でも不可能だ。
そのため、詠唱の内容を少しずつ変えていった結果、擬似魔法が発動するか否かを総当たりで検証し、『連続魔法』以上の詠唱速度を実現する技術の確立を行おうとしていた。
もっとも、詠唱速度そのものは単なる副産物に過ぎないということを、彼らは重々承知していた。
テレサはこの理論でも説明のつかないことを、何度も彼らに見せているからだ。
そこは一歩一歩、道のりは長くとも、着実に近付いて行くしかない。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
熱いですね。
しかも雨が降るのかどうかよく分からない天気予報と空模様に困ります。
バラムガーデンの研究陣が、徐々にテレサの秘密に近付きつつあります。
ただし、追い付くとは言っていない。
そういえばTASさんはストーリーありきの小説には不向きだという感想をチラッと見ました。
返信しようとしたんですが、なぜかそれ以降見つからなくなったんですよね。
なので、ここで大雑把に説明しておこうと思います。
テレサの目的はあくまでエクスデスを倒すことであって、その機会を用意してくれる魔女アルティミシアとの接点を破壊するつもりは欠片もありません。
ただ、用済みになった際にどうするかはまた別の話ですが。
なので、原作開始前に原作がなくなるということはありません。
――――設定
サイファー・アルマシー:原作キャラ
原作開始時点で18歳、長身で白いコートとガンブレード『ハイペリオン』がトレードマーク。
ガーデンの風紀委員だが、風紀委員となった理由は詳しくは語られていない。
二次小説によっては風紀委員長と設定している場合もあるが、彼が風紀委員の長であるという設定も原作には存在しない。
ゲーム中、序盤に一度だけ仲間になるゲストキャラの1人。
ただし、特殊技は全体攻撃の1種類だけで、威力も際立って高いわけではない。
ガンブレードのトリガータイミングが地味に面倒。
しかし、低レベル攻略において、序盤で上級魔法を大量入手する際に経験値を吸収させる相手として重宝する。
経験値の取得を極限まで制限するプレイをする場合、コマンドアビリティの『カード』を落ち着いて取得するには彼に頼るしかない。
敵になった時は、おそらくジャンクションシステムをプレイヤー側が理解していない、あるいは連戦という前提でバランスが調整されており、かなり弱く感じるだろう。
それだけに、2回目と4回目に使ってくる特殊技は相対的になかなか見る機会が少なくなっている。
4回目は特定の条件を満たすとサイファーの数少ない雄姿が見られる。
プレイヤーからすると、強いのか弱いのかよく分からないキャラ。