休暇中。
サイファーはティンバーまで来ていた。
自身が使うガンブレードの調整をしてもらうのが目的だ。
ガンブレードと言いながら、飛び道具ではない。
火薬の衝撃を刀身に伝え、瞬間的に高周波ブレードのような切れ味を発揮させ、威力を上げるタイプの武器である。
こういう武器が発達したのは、擬似魔法が開発され、それが普及したからだ。
擬似魔法は特別な装備を必要とせずに使用できる遠距離攻撃であり、兵士は強力な近接用武器を持っていれば事足りた。
だからこそ、その接近戦の威力を少しでも向上させるために開発された武器。
それがガンブレードである。
幾つかの種類があるが、主に2つの系統に分類される。
『ハイペリオンタイプ』と、『リボルバータイプ』だ。
両者の違いは、柄を両手で持つかどうか。
『ハイペリオン』は無理をすれば両手で持てなくはないのだが、基本的に片手持ちで戦う武器だ。
弾倉の最大装弾数は12。
『リボルバー』は両手持ちが基本であり、一撃が重いが、両手持ち武器の常として、十全に扱うには高い技量を要求される。
弾倉の最大装弾数は6。
ただ、教練にて使用される武器は片刃の大剣が多く、その延長として使用できる武器として、『リボルバー』が選択されることが多い。
それでも、一時期『ハイペリオン』を使う兵士が増えたことがあった。
その理由は、『魔女の騎士ゼファー』という映画が発表されたからである。
いつの時代も、映画の主役は子供達の憧れだった。
サイファーも、同じ理由で『ハイペリオン』を使っていた。
「……ここか」
サイファーは、ガンブレードの製造元に立ち寄る。
『魔女の騎士ゼファー』はティンバーの映画会社で制作された映画で、小道具類は基本的にティンバーのものが使用されていた。
ティンバーは映画が制作される2年前に、軍事大国ガルバディアに占領されており、自立心の強いティンバー市民は、意地でもガルバディア製のものを映画に使用しなかったのだという、製作秘話、噂話がある。
「よくここまで使い込んだね。
1週間もらえれば、最高の状態に仕上げてみせるよ!」
「あ、ああ、頼んだぜ」
なんだか先方に気に入られてしまったらしい。
最近、『ハイペリオン』の使い手がめっきり減ってしまっているのだとか。
映画効果も、15年も経過すれば下火になる。
1週間ほど滞在することになったため、ホテルを予約してから街をぶらつく。
ティンバーはガルバディア軍に占領されているからか、全体的に陰気だった。
とはいえ、普通はそうは見えないだろう。
というのも、市民が決まって、余所者である金髪青年の姿を一度は確認するからだ。
「(大半が何らかのレジスタンスの一員、か……)」
事前情報を頭の中で反芻する。
占領からもう17年にもなる。
そろそろ市民すべてが陰での行動、情報収集に慣れてきているように、サイファーには感じられた。
なんとなく、歩道橋から電車の発着する線路を眺めていると、青い服のガルバディア兵が水色の服を着た黒髪少女に絡んでいるのが見えた。
「なによ、放して!」「大人しくした方が身のためだぞ」「そうそう、俺達ガルバディア兵に逆らうとろくな目に遭わねえからな」
「チッ」
サイファーは、悪くない風景の中に目障りなものが混ざり込んだのが、神経に障るのを感じた。
これは、ティンバー市民でなくとも、眉をひそめるだろう。
ティンバーの、雑多ながら合理の塊でできた街を愛していればなおさら。
飛び込むことに躊躇はなかった。
「カサカサカサカサカサカサ、チン、チン、トゥッ!」
「ぐわっ!?」「なんっ、ぶほっ!?」「気持ち悪ぅっ!?」
ガルバディア兵2人を背後から殴り倒し、少女にはドン引きされる。
「……?」
サイファーは小首を傾げた。
彼は今、武器を預けていて手ぶらで、なおかつ、GFをすべて外した状態である。
なのに、バラムガーデンの生徒ほどの身体能力がなく、油断もしていたとはいえ、あまりに一方的に勝つことができてしまったのだ。
おそらく、この2人はサイファーの姿をすら認識してはいないだろう。
「強くなり過ぎちまったってのか?」
「あ、あなた、早く逃げなきゃ!」
「そうだな、この程度なら束になろうが敵じゃねえが、ガーデンに迷惑がかかるのもいけねえ」
「えっ?」
戸惑う少女の身体を横抱きにして、サイファーは手早くその場を離れる。
「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ」
「ちょっ、揺らさ、酔っ……!」
この後、少女は滅茶苦茶吐いた。
「悪かったよ。女がか弱いっての、すっかり忘れちまってた」
サイファーの周囲にいた印象深い女性といえば、銀髪の少女とテレサとキスティスである。
テレサは論外として、15歳で正Seedに、さらにこの間、教員試験に合格したキスティスがか弱いという印象はなかった。
そして、最後の銀髪少女もサイファーのもう1人の取り巻きによく蹴りを入れており、なおかつそれなりの戦闘力を持つため、あまりか弱いという印象がない。
既に卒業したが、ルールーもそうだ。
物理のワッカ、擬似魔法のルールーと称されるほどの天才児であり、サイファーも擬似魔法込みの模擬戦では勝ったことがない。
高速移動法を習得した後も、スコールと同じ対処法を身に着けており、結局勝てなかった。
擬似魔法を禁止されると極端に戦闘力が低下するテレサとは、戦闘センスが桁違いだったということである。
「(けど、じゃあ戦闘センスなしであれだけ強いテレサがどうなんだって話だな)」
しばらくベッドで休んでいた黒髪少女は、ふとサイファーに尋ねる。
「ね、あなた、ガーデンの生徒なの?」
「まあな」
「ガーデンの生徒って、みんなあんなことができるの?」
「全員ってわけじゃねえな。アレが開発されたの自体、最近の話だ。
だから、開発した奴から見て盗んでるってのが一番近いだろうな」
「思ったよりカッコ悪かった……」
「言うけどよ。お前、『わざとめり込んでその反発で加速してる』って言われて、理解できるか?」
「ゴメン、私が悪かった」
大体にして、師が弟子に『見て盗め』と言う時は、大抵口で説明できないからなのだ。
「私はリノア。あなたは?」
「サイファーだ」
この後、サイファーはこの少女にティンバーを案内されて、少しトラブルがありながら、観光を楽しむことになる。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回は例の人とサイファーの話です。
もちろん、色々台無しになりました。
GFを外した状態で出歩くのは危険と思われるかもしれませんが、一応ちゃんと専用デバイスに保管していて、戦闘になるようならジャンクションできるようにしています。
今回は必要なかっただけで。
――――設定
『魔女の騎士ゼファー』:原作設定、考察
原作でサイファーが魔女の騎士を夢見た原因で大ヒット作らしい。
実は物語に結構絡んでおり、とある人物が出演している。
どこで制作されたかは公式に明言されていない。
この小説中では映画制作をティンバーの会社としたが、この手のノウハウがある会社がティンバーというイメージによるもの。
可能性としては、他に色々あるが、どれも考えにくい。
デリングシティは、当時魔女戦争の最中、小康状態であり、敵であるエスタの魔女を称えるような内容の映画を発表できたとは考えにくい。
ドールは戦争状態のエスタに大陸でのロケを許可するとは考えられない。
バラムもドールと同じく。
トラビアは、原作ゲーム中における監督の口調がトラビア弁ではなかったため。
ウィンヒルは当時街中まで魔物が入り込んでおり、映画撮影する余裕があったとは思えない。
ティンバーだけはガルバディア軍に占領支配されている最中であり、ガルバディア軍の敵である魔女を応援する機運があったとしてもおかしくない。
ティンバー:アルティマニア情報
ガルバディア大陸南東部に位置する大都市。
名称は『森林』を意味する『timber』にちなむ。
天然資源のアルカイックガスが豊富に採れることから、ガルバディア軍の侵攻目標となり、武力制圧されてガルバディア軍の占領支配を受けている。
マスメディア関連の施設が充実しており、特にティンバー・マニアックスという出版社が世界的に有名。
住民の大半がレジスタンスに所属しているが、過去に行われた弾圧やレジスタンス狩りのおかげで、ほとんどの組織は休止を余儀なくされている。
原作中の描写では、治安の悪さは主にガルバディア兵による横暴が原因らしい。
この小説でもリノアとサイファーの出会いについて、ガルバディア兵の横暴をきっかけとした。