テレサは焦りを感じていた。
何に対して焦っているのか、自分でもよく分かっていないのだが、このままでは将来よくないことが起こるということだけは感じていた。
そんな漠然とした不安が起こったのは、サイファーと対戦した後のこと。
脳機能の拡張を無理に行ってきたテレサは、計算能力が桁違いに高い代わりに、判断力が普通よりもかなり低下してしまっており、しかも『次元の魔物』の来襲のせいで、サイファーのように長期休暇もできない状態が続いていた。
だから、それはある意味で必然だったのかもしれない。
テレサは、以前に自分が禁じ手としたものに手を出すことを決意したのだ。
「“レイヴン、助けてくれ、レイヴンが化け物だ”『ナニカサレタヨウダ』」
そして、なぜ自分が禁じ手としたのかを、彼女は思い出した。
「……」
目覚めると、3日経っていた。
これが第一の理由。
つまり、脳にかかる負荷が、これまでよりもさらに大きいのだ。
そして、部屋に届けられていた槍、『ジャベリン』は、テレサの禁じ手に耐えられずに破壊されていた。
以前よりは原形を留めている分、マシとも言えるが。
逆に言えば、以前も同じことになったのだ。
それが第二の理由。
つまり、テレサの本気に、武器が耐え切れないのである。
元々、理想に到達してしまったなら、耐えられる武器などないのは分かっていたのだが。
それでも、これはテレサとトラビアガーデンの仲間達を繋ぐ、彼女を人間のままに押し留める、絆の一つだった。
幸いにして予備はあるのだが、問題はテレサが絆を失うことに慣れてしまった場合である。
それが第三の理由。
この世界のGFは記憶を抑え込まない。
しかし、今のテレサの利用法は、判断力を低下させる。
本当に大事なことを、目的のために無視し始める可能性があった。
もう誰しもが記憶の彼方に放り投げているであろう『記憶保護』も、この世界では役に立たない。
他よりも、最後の理由が最も大きい。
テレサには、エクスデスを倒すのと引き換えに、この世界を滅ぼすことをよしとする可能性があるのだ。
「うああああああっ!!」
少女は自分の行いの意味に気付き、慟哭した。
「恐れとったことが起きたっちゅうやつやな」
明らかに様子がおかしくなったテレサを保健室で休ませて、デンネンは腕を組んで皆に説明する。
「何があったんですか?」
「『バーサク』使うたんや。もちろん、普通のやないけどな」
彼は語る。
「つまり、一時的に、脳味噌に極限まで負荷かけてんよ」
「今回って、そんな強いやつじゃなかったろ?」
「目的は分からへん。けど、トラビアガーデンで俺らが大怪我した時も、同じことしよってんやわ。
俺らはそれに巻き込まれて大怪我したんよ」
「それって……」
「味方ごと攻撃した……?」
聞いていた全員が、顔をしかめた。
「判断力の低下で、味方を巻き込んでも、死なへんかったらええ、て思うたんかもしれへん」
「そんなことが……」
「前の時はこんな、塞ぎ込んでなかったんだろ?」
「まあなぁ、セルフィもクレアもおったし。
みんなで大丈夫なようにて作ったんが、あの『ジャベリン』やねん。
予備はあるんやけど、単なる武器やいう以上に、テレサにとって大事なもんやってんやなぁ」
「そういえば、前から不思議に思っていたのよ」
キスティスが話す。
「『次元の魔物』と戦う時、『任意コード』を使った時って、槍は使わないのよね。
それ以外だと氷で槍を作ることも少なくないわ。
彼女にとって、本来武器なんて必要ないんじゃないかしら」
「……」
この中で、最も複雑な表情をしていたのは、サイファーだった。
GFによる脳機能のリミッター解除の副作用として、実際に判断力の低下という症状が発症したことがある、唯一の人間だ。
彼自身の症状が進めばこうなる、という実例が、テレサなのだ。
「そろそろ、本番でもいいのかもしれない」
そんな皆の様子を見ていたスコールが、珍しく自分から意見を言う。
「本番って?」
「『次元の魔物』を、テレサ抜きで倒せないか?」
「!」「――」「!」
皆が驚く。誰もしなかった発想だったからだ。
「それはいいですねえ」
「学園長先生」
全員がそれぞれ、敬礼をする。
各ガーデンで文化や戦術、事情が大きく違っていても、この敬礼だけは共通していた。
学園長は答礼する。
「休みなさい」
バラムガーデン学園長、シド・クレイマーはこう言った。
「テレサ君の負担を軽減することは、トラビアガーデンとの契約でもあります。
そのために君達は、彼女から様々な技術を学んできました。
ならば、そろそろ本格的に彼女の役目を代替することを始めてもいいのかもしれません。
たとえ、本来は文字通り、テレサ君のサポートが目的の契約だったとしても。
君達は
最初に言い出したスコールはもちろん、この場にいる全員がやる気になっていた。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
珍しくシリアス回でした。
今回のネタは、『アーマードコア』シリーズからです。
ついでに、『次元の魔物』のネタを解説していなかったということを思い出しましたので、今回解説しようと思います。
ちなみに今回の『次元の魔物』は、決めてはあったんですが、本編に表現が入りませんでした。
――――設定
『ドラゴンエイビス』:FF5、25話『タイムリミット』
『次元の挟間(塔)』に出現する雑魚敵。
『りゅうのきば』を落とす。
全体攻撃の『ブレスウィング』を使ってくる。
周囲に出る雑魚敵の中ではHPが高めで少々面倒だが、出現場所自体がそう広くもなく、他に多く面倒な敵が出る場所なため、印象に残りにくい。
というか、一緒に出てくる『にんじゃ』の方が10倍面倒なため、そちらの印象に持って行かれている。
空を飛ぶ魔物で霊体を憑依して偵察できるという基準で選定した。
そのため、前回等に比べると魔物のランクがいくらか落ちている。
『すいしょうりゅう』:FF5、28話『カードバトル』
『次元の挟間(ラストフロア)』に出現する雑魚敵。
『ひりゅうのやり』が盗める。
全体攻撃の『ブレスウィング』を使用する他、常時『リジェネ』状態で、HPもかなり高い。
FF5の強戦術を発見していない内は、かなり厄介な相手。
特に高HPと自動『リジェネ』による高いタフネスのおかげで、ボス並みに時間を食われることもある。
ただ、常にお供を連れずに単体で出現するため、『にとうりゅう』+『みだれうち』の餌食。
この小説中で選択された理由は、エクスデスによる実験。
異世界に送り込める魔物のランクをどれだけ高められるか、という内容。