多分これが一番…   作:ひろっさん

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7/25 エアコンはなぜかその時の気温より1度下げるだけで寒く感じる。


ドール実地試験

ドールで何が起こったのかを説明するには、ガルバディア軍による侵攻により、ドールに通じる唯一の陸路ドール峡谷の防衛線が破られる数時間前のバラムガーデンでの出来事を語る必要があった。

 

「今報せが入りましたが、ドールがガルバディア軍の侵攻を受け、峡谷の防衛線崩壊も時間の問題であるようです」

 

たった1人の部隊を前に、メガネの太った中年男性は話す。

 

「少々フライングではありますが、テレサ君にはアオヤギ君のドールへの送迎をお願いします。

彼をドール議事堂に送り届け、交渉成立後にまたバラムガーデンへ送り返してください」

「うい」

「それではよろしくたの――」

「ホァイ」

 

こうして、実はルールーとワッカが避難誘導や傭兵仲間達による戦闘への参加を要請していた頃、既にドール議事堂内では、バラムガーデンへの依頼と値段交渉は完了し、2人はバラムガーデンへ戻っていたのである。

 

 

 

そうして、たった3人の部隊が高速艇で派遣された。

 

1つはアオヤギによる交渉開始があまりにも早く、都合が良過ぎたこと。

そのために疑惑をかけられ、それを晴らすために値段を抑えざるを得なかったのだ。

だからこその、たった3人とも言える。

 

「命令は第一に市街地からのガルバディア軍排除、それから防衛陣地の奪取よ」

「実地試験っつっても、評価役のSeedが1人だけなんだよなぁ」

「一番心配なサイファーは私が見ているから心配しないで」

「勘弁してくれよ」

 

サイファーはキスティスの軽口に苦笑で返した。

 

「そういやサイファー、1年前の休暇の時に、ガルバディア兵とやり合ったって言ってたよな?

どんな感じだったんだ?」

「GF外して、素手で殴っても普通に勝てたって言えば分かるか?」

「ああ、よくわかったよ」

「……(なるほど、それで今回の試験に文句を付けなかったのか)」

 

GFを外すと、GFのジャンクションに慣れた者は著しく戦闘力が低下する。

なぜならば、運動神経が常人のそれよりも低下してしまうからだ。

それは戦闘時以外は外していればそこまで問題無いことなのだが、鍛錬のためにも戦闘が多くなるバラムガーデン生にとっては到底無視できない問題だった。

 

しかし、それでも1年前の時点のサイファーが、武器もなしに勝てたということは、それだけ実力差があったということを示していた。

もちろん、テレサから盗んだ技術のおかげもあっただろうが、サイファーの戦闘センスが運動神経の低下をものともしなかったということもあるだろう。

 

「さて、そろそろだ、全員でデッキに上がるぞ」

「……了解」「了解!」

 

やることは皆、分かっていた。

 

高速艇は、あくまで彼らの足が届く距離に近付くまでの乗り物なのだ。

その足が届く距離というのが、今回は数キロメートル先になっているという、ただそれだけのことである。

 

「確認するが、俺らが固まってやってても非効率だ。

それぞれ手分けしてかかる。

スコールは中央広場方面、ゼルは港一帯、俺は防衛陣地の奪還だ。

自分とこだけ獲物が少なそうなんて言うなよ」

「……了解」「了解!」

「いい距離だ。サイファー班、出るぞ!」

 

海上の高速艇から、3人は陸地へ向けてそれぞれ床を蹴る。

 

彼らには、上陸地点の確保すら必要なかった。

進路上に立ち塞がる敵を、片端から倒していくだけだからだ。

 

正しく弾丸の速度で上陸した3人は、事前の打ち合わせ通り、手分けしてガルバディア兵の掃討に当たる。

 

それは戦闘などではなく、屠殺だった。

圧倒的実力差のせいで、戦闘の結果を覆す可能性を得ることが、ガルバディア兵達には誰にもできなかったのだ。

 

スコールは、たまたま持ち込まれるところだったカニのような機械兵器に遭遇。

 

「“ミシン流、フンッ!ヤッ!トゥッ!テイッ!トリャッ!”『遅いけど速い変態』(真顔)」

 

敵を認めると懐に飛び込み、機械の中枢らしき場所を秒間10回というありえない速度で切り刻み、破壊する。

さすがに自己修復機能を持った機械兵器も、修復が追い付かずに破壊された。

5秒ほどで。

 

「なんだと――ひでぶぅ!?」

「く、くる――あべしぃ!?」

 

周囲のガルバディア兵達も、逃げる暇もなく斬り伏せられていく。

 

その移動速度は、意外にもそれほど速くなかった。

普通に走る程度だ。

 

これには理由があった。

土地鑑のないスコールでは、敵がどこに潜んでいるのか分からないため、敵兵側から出てきてもらおうと彼は考えていたのである。

そのためには、姿を視認できない速度で動き回るのは都合が悪かったのだ。

 

しかし、敵を発見した際は一瞬でそこへ向かい、斬り伏せる。

こうすることで、見た目の怪しさも倍増し、敵を誘引する効果も倍増する。

 

しばらくそうやって進んでいると、なぜか『スケルトン』の群れに遭遇。

 

「……?」

 

疑問に思いつつ、斬ったり蹴ったり擬似魔法で細かいところまで掃討しながら、中央広場方面へ。

 

スコールが受け持っているのは中央広場ではなく、中央広場を含む北側エリア一帯であるため、ひたすら『スケルトン』の群れを探しつつ走って行くことになった。

途中で逃げ惑うドール兵に遭遇したが、まずは周囲の安全確保が先と考え、そのまま魔物を含めた敵の掃討を続行。

 

その途中で、知り合いに遭遇した。

ドール議事堂前の広場で『スケルトン』を相手に奮闘していた元Seed、ルールーとワッカである。

 

「状況は?」

「わけがわからん。最初はこのガイコツどもがドール兵に化けてたが、やり合ってる内に見た目からガイコツに戻った」

「ガルバディアの離間工作だと思っていたのだけれど、それだとSeedが派遣された理由が分からないわね」

「そうか、ガーデンの交渉人を送迎したのがテレサだからだ。

おそらく、直接議事堂内に送ったんだろう」

「ああ、それを敵が気付かずにこの離間工作をやっていたということ」

 

ルールーは事態を理解した。

議事堂内では、バラムガーデンとドールの連携にヒビを入れる、離間工作の影響が及んでいなかったのである。

 

 

 

イデアは今回のドール侵攻で、Seedの派遣が行われたことを知った。

 

しかし、確認されたのはわずか3名。

たったそれだけで、ものの数分で市街地に送り込んだガルバディア兵や機械兵器はおろか、500体もの『スケルトン』の大群が蹴散らされたというのだ。

 

ガルバディア軍司令官の判断は正しく、そのまま戦闘を続行していた場合、何の利益も見込めないままに、さらに損害は増えていただろう。

 

「『この時代』のSeedの力を過小評価していた……?

いや、仕組みそのものは後の世のSeedとも同じのはず。

まさか、『伝説のSeed』……?」

 

『目』から見たルールーやワッカの戦いぶりは確かに大したものだったが、ものの数分で『スケルトン』を掃討するなどという馬鹿げたものではなかった。

精々が『連続魔法』の極致とも言える連射を見せ、途中からはアンデッドに対する回復魔法で浄化していたくらいだ。

 

『この時代』の人間としては戦闘力が高いと言えるが、あくまで人間レベルである。

 

「まさか、潜伏していた魔女が手を貸した?いや、それはありえぬ」

 

疑問を口にし、即座に否定する。

そんなことをする魔女が1人でもいたのなら、イデアは『こう』はなっていないのだから。

 

今まで、世界最強の戦力が整っているとはいえ、バラムガーデンだけで国家や魔女を倒すほどではないとして、それほど強くマークされてこなかったのである。

しかし、今回の結果はその定説を覆すに余りあるものだった。

 

ともかく、今後の方針として計画を練り直し、もっと慎重に進めることが決定した。

ガルバディア大統領も、可能な限りバラムガーデンの情報を集めるという。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
バラムガーデンの授業にテレサの技術が導入された結果、肝心の電波塔までガルバディア兵が到達しませんでした。
そのせいでイデアもビンザー・デリングも、慎重にならざるを得なくなっています。

時系列的にドール実地試験なんですが、同時に新技術を導入したガーデン生のお披露目でもあります。

ちなみに、『スケルトン』はただ簡単に数を揃えられそうな魔物ということで考えました。
原作にも『ナムタルウトク』っているので、アンデッドならある程度はいけるかなと。

もう1つ、アオヤギは原作に存在しないオリキャラですが、設定は深く考えていません。
デンネンと同じく、制服教員とだけ書いてもいいくらいのキャラです。



――――設定

カニのような蜘蛛のような機械兵器:『X-ATM092』
通称『ブラックウィドウ(蜘蛛の一種)』。
名前から必死に蜘蛛を主張するが、4本脚に左右1本ずつ、ハサミの付いた腕と、どちらかというとカニに近い。

負けイベントのようなもので、通常はコイツに追いかけられながら帰還ポイントである『ルプタンビーチ』まで走ることになる。
最初の1戦目だけは絶対に倒せないが、それ以降は何度も大ダメージを与えていると破壊できる。

HPが一定以下になると地面に伏せて自己修復モードに入り、その間に逃げることができるようになる。
HPが0になると強制的に復帰し、HPも全回復している。
しかし、一度HPを0にすると、大量のAP(アビリティポイント)とドロップアイテムを入手できるため、やり込みプレイヤーは時間が許す限りコイツと戦い続ける。

原作ゲーム中に『シュネルアインス号』と『シャルフツヴァイ号』という名前付きの個体が出てくるが、戦うのはドール実地試験時の1体のみ。
両方とも、ドール実地試験後に電波塔へ向かうとその雄姿()を見ることができるが、名前が出てくるのはその時の一度だけ。
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