「目覚めたか、恐怖の魔女、『始まりの魔女』アデルよ」
魔女は、エスタの技術の粋を尽くして作られたパッキングによる封印を前に、呼びかけた。
これは全周波数帯の電波を妨害することで、アデルの思念を内部に封じるパッキング技術によるものである。
この装置による強力な封印が、魔女アデルを一切抵抗できない状態で封印していたために、18年前、全世界規模の電波障害が発生したのである。
それは魔女アデルの敗北の証でもあった。
赤い髪の大柄な魔女アデルは問う。
「ヘイユー何者だ?」
「『未来の魔女』アルティミシア」
魔女はそう名乗る。
魔女イデアではない、その精神を乗っ取った何者かとして。
「
「後始末を」
「後始末?」
「貴様が『この時代』に好き勝手に暴れてくれたおかげで、遠い未来、人類は滅ぶのだ」
「……」
アルティミシアが向けたのは、先人への敬意でも憧憬でもなかった。
遠い未来、人類を滅ぼすことになる、そのきっかけを作り上げた人間への、憎悪である。
「協力してもらうぞ。魔女アデル。
そのためならば、私は何度でもこの時代へやってくる。
ジャンクションマシーン・エルオーネの力によってな」
「
アデルの怒りと共に大気に魔力が満ちる。
どうでもいいが、アルティミシアはよくアデルの独特のしゃべり方を理解できているものである。
「過去を変えるためならば、何度でも」
「ならば
アイアム、ユアエネミーであろうに」
「別の障害が発生した」
「
「私も、アレを見るまではそう思っていた」
アルティミシアは、自分の記憶から映像を投影する。
それは『次元の魔物』との戦いの模様。
後にカロフィステリという名が判明する、青白い肌の美女。
防御的な戦闘が得意なようで、しばらく相手の力を見極めるように攻撃していなかったが、その魔力は明らかに魔女と同等かそれ以上だった。
「
「わからぬ。だが、問題はこれを倒した何者かの方だ」
「ファッツ、倒した?これを?」
戦いの模様はなかなか進行しなかったが、戦っていた7名ほどが、たった1人の黒髪少女とバトンタッチした途端に、一気に終わりを見せる。
様々な奇妙な現象を発生させ、強大な魔力を持った魔女でさえ、確実に倒せるかどうか分からない相手を、あっという間にバラバラにしてしまったのだ。
「アレが今、計画の邪魔になっておる脅威だ」
「……」
アデルは言葉を失っていた。
予想以上の脅威だったからである。
一方で、エルオーネ狂言誘拐作戦に参加していたスコール班で、とんでもないトラブルが発生していた。
なぜか、特徴的な青いボディスーツに身を包んだエスタ兵が、襲撃をかけてきたのである。
相手はたった1人。
スコール、ゼル、ニーダの3人で対処するも、船の上を縦横無尽に、それこそ空中であろうと海面であろうと関係なく、物理法則を完全無視した動きで圧倒してくる。
「(まるでテレサを相手にしているようだ。だが……)」
視界内に辛うじてチラチラと入る、その小柄な青い人影は、あの黒髪少女とは明らかに違う部分があった。
「(大きい)」
「どこ見てんねん」
「ぐふっ」
スコールの視線を察知したのか、小柄なエスタ兵はスコールの顔面に巨大なヌンチャクを直撃させた。
少々鼻血が出たが、命に別条は感じられない。
「何者だ?」
「それは言えない」
「……トラビア人は確か、仲間意識が強いはずだな」
「……」
一瞬、動きが固まった。
「これ以上、邪魔をするようなら、トラビアガーデンにミサイルが飛ぶぞ」
「……ソレもう……ゴニョゴニョ……」
「なんだ?」
聞きながらも、攻防は続く。
というより、一瞬たりとも油断ができなかった。
どうやら手加減しているのか、即死させようとはしてこないものの、テレサを彷彿とさせる縦横無尽っぷりを見せる相手に、油断する余裕など欠片もなかった。
しかも、今のスコール達は新技術の使用を見せるわけにはいかないのだ。
その気になられる前に、引いてもらうしかない。
「ひゃぶっ!?」
その時、突然エスタ兵の格好をした少女らしき何者かが、海面に落ちた。
「なんだ!?」
スコールは驚くが、頭の中のざわめきが大きくなったことで、その現象の正体に気付く。
「エルオーネ!?」
どうやら、苦戦していると見たエルオーネが、接続能力を使用したようなのだ。
背後を振り返ると、ニーダの背中からこちらに手を振る、従姉の姿が。
「スコール!今の子、探して!」
「なに?」
突然の要求に驚く。
「今の、セルフィなの!」
「……!」
どうして気付かなかったのか、とスコールは自分の不明を叱咤した。
テレサと同じ技術を使うトラビア人といえば、テレサの親友2人しかいない。
その内の1人は、スコールとも面識がある、セルフィである。
セルフィは、同じ『イデアの家』という孤児院で暮らしていたことのある、幼馴染なのだ。
ならば、エルオーネを助けに来たとしてもおかしくはないだろう。
スコールは慌てて海に飛び込もうとして、そして気付く。
波間の遥か彼方、残像を残しつつジグザグに、海の彼方へ去っていくエスタ兵の服を着たセルフィの姿に。
「ダメだ、追い付けない」
珍しくもないが、彼は舌打ちをした。
もう少し早く気付いていれば、作戦を伝えて参加してもらうこともできたのに。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はアルティミシアとアデルの対話と、最大の不確定要素の話でした。
アルティミシアの時代になるまでの歴史は、FF8二次創作では色々とありますが、この二次小説ではできるだけ矛盾が少なくなるように仮説を組んであります。
ところで、アデルのしゃべり方はこんな感じになりました。
英語と日本語の境目がちょっと曖昧です。
――――設定
リノアル説:リノア=アルティミシア説について
FF8発売後、数年経過してから唱えられた説である。
1.スコールとリノアしか知らないはずのグリーヴァの名前についてアルティミシアが知っている。
2.時間圧縮中の魔女連戦が始まる際、イベントが始まる部屋が『始まりの部屋』、リノアがスコールに恋をした部屋と同じ見た目である。
3.エンディングでリノアの姿がスコールの記憶から消える際、アルティミシアの顔が重なる。
4.イデアの家で、リノアがスコールに『悪い魔女になったら殺してほしい』と言っていた。その約束を果たしてもらうために、スコールのいる過去と未来を繋げる時間圧縮を行った?
しかし、矛盾も多々ある。
1は、スコールをイデアに乗り移ったアルティミシアが『伝説のSeed』と呼んだことから、未来では有名な話だった可能性がある。
それと、由来と名前はともかく、スコールがグリーヴァの指輪を大切にしていることを、ゼルは確実に知っている。
2は、アルティミシアが用意したとは限らないとしか。
時間遡行を行ったメンバーに魔女リノアが含まれているため、彼女の思念に引き摺られた可能性も少なくない。
3は、アルティミシアがリノアとスコールの子孫であるとすると、面影がある理由を説明可能なため、確定するのに十分な材料にはならない。
4は、そもそもアルティミシアがイデアを乗っ取ったのが12年前であり、スコールに殺されるのが目的ならば、その時点で時間圧縮を行えばよかった。
さらに、サイファーにSeedやバラムガーデンが魔女に反抗する理由について拷問させているが、リノア=アルティミシアならば、ヘタするとイデア以上に知っているはずの話である。
リノアル説では、宇宙で魔女アデルを復活させ、さらにその後リノアを宇宙に投げ捨てた理由が説明できない。
リノアには『月の涙』を発生させる理由もアデルを復活させる理由もなく、さらに下手をすると自分が魔女の継承もできないかもしれない宇宙の藻屑になるところだった。
(スコールは助けに来るだろうが、目の前でスコールの死体を眺め続ける羽目になり、『その内考えるのを止めた』になる可能性が高い)
また、スコールの死後(老衰?)、何らかの理由でリノアの魔女が継承されなかったという説もあり、こちらは記憶の矛盾についてある程度説明できるが、ラストバトル前の、Seedを執拗に憎む言動について説明できない。
他にも平行世界のリノア=アルティミシアがかかわったとする説、不確定原理を唱える者もいるが、結局誰しもを納得させることができるリノア=アルティミシア説を唱えた者はいない。
最後に。
ゲーム本編中のイデアのセリフに、
『アルティミシアは未来の魔女です。私の何代も何代も後の遠い未来の魔女です』
とあるため、イデアのすぐ次の代であるリノア=アルティミシアである可能性は、それを覆す公式情報が出ない限り否定されている。