「むむむ……」
アルティミシアは呻いた。
この世界、この時代に、時間圧縮どころではない危機が迫っていると知らされ、話をするしかなくなったのである。
テレサの精神世界では『マインドフレイア』と『キングベヒんモス』の証言があり、現実ではテレサに依頼を告げ、転生させた神の様子が記された、どうやって動いているのか、未来の技術でも解析不能な『タブレット』を見せられ、信じざるを得なくなった。
実際、『次元の魔物』には不可解な部分が多いのだ。
「私はこの『目』を用いて、バラムガーデンを調査していた。
その際に1度『次元の魔物』を見た」
テレサの身体を操りアルティミシアは呟く。
乗っ取っているというよりも、人形を操っているという感覚が近い。
それほどにテレサの意思による抵抗がないのだ。
「その際の疑問は、3つだ。
1つは、『次元の魔物』という呼び名。
もう1つは、『次元の魔物』の異常な強さ。
最後に、『次元の魔物』の出所だ」
場所はエスタ、オダイン研究所。
魔女アルティミシアの協力を得るにあたって、作戦会議をする場所として、セルフィが提案したのがここだった。
最新科学によって、テレサが開発した新技術を、セルフィとクレアが持ち込み、さらに発展させるべく研究を繰り返していた場所でもある。
「『次元の魔物』て、テレサが言い出したことやね。
最初はゲームから持ってきたんか思ててんけど」
白衣に帽子の少女クレアが呟く。
研究職になっていたらしい。だからエスタから離れなかったのか。
「この娘が創作した造語ではあるようだ。
そして、今まさに関係している別世界の物語が元となったゲームから持ってきておる。
この世界も、まったくの無関係というわけではないらしい」
「あんま嬉しない正解やな」
クレアは顔をしかめた。
「じゃあ、次は『次元の魔物』の強さだな」
シャツとズボンとサンダルという、その辺のオヤジといった恰好の男が先を促す。
「……(コレがエスタ大統領……?)」
「(しかもスコールのパパだったり)」
別にスコールの心の声が聞こえていたりはしないのだが、エルオーネはまるで聞こえているかのように心の中で付け足す。
この会談に呼ばれたエルオーネが選んだ護衛がスコールだった。
エルオーネの護衛はスコールと自然に決まったように見えたが、エルオーネにはスコールとエスタ大統領ラグナを逢わせるという目的もあった。
「オダインも『次元の魔物』の映像データを見たでおじゃるが、なかなかとてつもないものでおじゃるな。
おそらく、『次元の挟間』という場所に魔力が満ちているために、あのように強くなったのでおじゃろう」
珍妙な格好をした老科学者オダインが勝手に説明を始める。
「魔力が満ちた場所で生活しているだけで、ああはならないでしょ?」
これはキスティス。
彼女は魔女アデルの魔女を受け継いでおり、今回の会談に参加することになった。
おそらく、魔女アデルを直接倒したためだろうと考えられているが、詳しいことは分かっていない。
魔女継承の法則は、まだ解明されていないのだ。
一応、エルオーネの護衛を兼ねている。
「タブレットには、『危険な魔物が封印される場所』とあったでおじゃる。
つまり、『次元の挟間』は一種の流刑地だったということでおじゃるな。
邪悪な存在が送り込まれた先が、魔力に満ちた『次元の挟間』であったなら、その大半は積極的に魔力を取り込み、より大きな力を得ようとするのでおじゃろう。
すなわち、『次元の魔物』とは、理屈上は雑魚であろうとも魔女と同等の力を持つのでおじゃるよ」
「参ったぜ、そんなのさすがに想定してねえや」
ラグナは頭を抱えた。
「特殊技術実験部隊という備えはあるだろう?」
「そうは言うけどよ、数足りるか?」
「『別に全部が乗り込んでくるわけじゃないんだろ?』とウォードは言っているが」
「そうなのか?」
「そもそも、こっちから乗り込んで本命倒したら、こっちの世界は助かるんやで」
「それ、あっちの世界はどうなるんだ?」
「――!」
ラグナが当然のように口にした言葉に、アルティミシアは息を呑んだ。
「(コイツ、こちらの世界だけでなく、あちらの世界も救う気か……!)」
欠片も考えていなかった。
「推測はできるんやけど、アッチ行ってみいへんかったら何とも言えへんわ」
「推測できるの?」
「テレサの記憶頼みやから、推測の域出えへんねん。
この世界の情報やって、平行世界になってて、記憶の情報とちゃうことようさん出てきてるし」
クレアは後ろ頭を掻きながら答える。
「アッチの世界て、『クリスタル』が世界を維持しよったんよ。
でも、『クリスタル』が壊されて、しかも『無』っちゅうもんに呑まれてしもとる。
情報通りやったら、ホンマは勝つはずやったヒーローが持ってる『クリスタル』の力で、呑まれたとこが再構築されるんやけど……」
「情報通りかどうかはわからんのでおじゃる」
「そう上手くはいかないのね……」
キスティスは溜息を吐いた。
珍しくスコールが口を開く。
「物語と言っていたが、未来の情報が分かったりするのか?」
「んー、当たるわけあらへん情報でエエんやったら」
「当たらない?」
「デリングシティでパレードの時に、魔女暗殺ミッションでイデアさんに挑んで負ける」
「なかったな」
「D地区収容所脱出した後に、ミサイルがトラビアガーデンに撃たれて壊滅。
コレはセルフィがなんとかした。
バラムがガルバディア軍に占領されたり、F.H.がガルバディア軍に襲撃されたりとか、アルティミシアがここにおったら、もうありえへん。
そもそも、イデアさんの魔女継承するん、リノアっちゅう女の子やし」
「……そうか、それはそれでよかった……のか?」
「ディンゴー砂漠の決戦はどうなの?」
「バラムガーデンとガルバディアガーデンの決戦がセントラ大陸ってなっとる」
「ああ、バラムガーデンが飛んだんだな。ガルバディアガーデンと同じように」
「なるほど……もう、かなり違ってるわけね」
もう原作通りにはならない。
実はそれは2年前、セルフィとクレアがエスタに向かった時に決まっていたのだが、その情報は必要ないだろう。
いずれにせよ、テレサの原作情報は、未来予知とするにはアテにならず、世界観に関しても、歯抜けが多く、アテにならないのが現状だ。
「ところで、アルティミシア、でいいんだよな」
ラグナがアルティミシアに声をかける。
「あんた、結局何がやりたかったんだ?」
「なぜそんなことを聞く?」
「いや、あんたが時間圧縮したいってことまでは分かってんだが、そもそも目的が分かってたら、俺らでどうにかできることもあるんじゃねえかって思ってな」
「……!(この男、私まで救おうというのか……!)」
アルティミシアの心は揺れる。
「そうは言うがラグナ君。もし彼女がアデルのように話が通じない魔女だったら、どうするつもりだ?」
「そりゃここに来て、話をしてくれてんじゃねっかよ~!」
「……」「む……」
大男ウォードに言われて、キロスは口を噤む。
『珍しく言い負かされたな』とでも言われたらしい。
ウォードは過去、エスタ兵に咽喉をやられており、声が出なくなっていた。
しかし、なぜかラグナとキロスは意思疎通ができるのだ。
『顔を見ればわかる』とはラグナの弁だが。
「……私の目的は……」
アルティミシアは、ラグナからの善意の圧力に耐え切れなくなり、口を開く。
「(なんだ?魔力も技術もない、GFの力すらない、ただの人間のはずなのに)」
最初は打算も混じっていた。
あの酷い未来を回避できる可能性が少しでもあるのなら。
そう考えたのだ。
しかし、話している内に感情的になり、いつしか涙を流している自分がいた。
自分の言葉が切って捨てられず、受け入れられるなど、彼女は長く経験していなかったのである。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
主に情報交換ですね。
バラムガーデンでは、主に制服教員が自分達に都合のいいところだけ取り入れようとしていましたが、エスタでは最初からエクスデス対策の研究が進められていました。
これも器の違いというやつですね。
――――設定
エスタ:アルティマニア情報、独自設定
17年前に他国との交流を断ち、いわゆる鎖国状態にある国。
元々優れた科学技術を持った国だったが、次第に軍事国家へ傾倒していき(この時F.H.独立と思われる)、魔女戦争の際は世界を相手に戦った。
魔女アデルによる支配から、独裁体制を倒す動きが活発化し、魔女の封印に成功したラグナを大統領に多数の補佐官がサポートする、共和制へ移行している。
17年もラグナが大統領をしているが、民衆から不満は出ていないらしく、エスタ市街の大きさに比べて、エスタ兵の数は少ない印象。
鎖国は、エスタの進み過ぎた科学技術が漏れることによる混乱を懸念してのもの。
エスタへの渡航は、大陸を囲むように張り巡らされた光学迷彩装置によって遮断されており、都市の位置さえ分からないという徹底ぶり。
そのため、エスタへ渡航する、空路以外の現実的な方法は、現在は閉鎖されているホライズンブリッジを歩いて渡るか、稀に出てくるエスタ軍の船に乗せてもらうかのどちらか。
軍隊はハイテク技術を応用した兵器を配備しており、規模も世界最大と、今なお世界最大の軍事大国を維持している。
ただし、軍の規模は必ずしも国力、人間を犠牲にしておらず、アンドロイドや機械兵器、強化服を用いたコスト低減が進められている。
逆に、アデル時代の状況を知らない若い人間の兵士は強化服に頼る傾向が強く、運動不足が懸念されている。
開発されているアンドロイド『ターミネータ』はカードバトルもこなせるほど優秀で、ゲーム中でも一般のエスタ兵より若干強い。生身のエスタ兵の存在意義が問われるが、どうやら『ターミネータ』は生産や維持費が高いため、あまり多くは導入されていない模様。
この小説では、セルフィとクレアがもたらした新技術を解析し、導入した特殊部隊が存在する。
筋力補助はGFの代わりに特製の強化服にて行われている。