「では、少し交替する」
アルティミシアがジャンクションを解除する。
アルティミシアがテレサの身体を操っていたのは、別にアルティミシアが無理矢理操っていたからではない。
テレサが支配権を預けてぐうたらしていただけである。
今まで肉体を鍛える意味で身体を動かしていたが、代わりにやってくれる人がいれば任せてしまうのが彼女だ。
元々、プログラマーであって運動が得意なわけではない。
「テレサぁ、スーツのチェックやでー」
「ういうい」
現在、オダイン研究所でクレアが用意した、特製スーツの試験が行われていた。
セルフィが使用しているものとほぼ同じで、魔力予測なども行ってくれる優れモノ。
「ちょっと世界一周してくる。ホァイ」
「コンビニ言ってくるみたいなノリやなー」
テレサは地面に沈み込み、数秒後にはまた戻ってくる。
行きがけの駄賃とばかりにデリングシティからかっぱらってきた、リノア秘蔵のエロ本を抱えて。
「どうやった?」
そんな親友の奇行にも、クレアは驚かなかった。
「最高速やったら、描画が30メートルまで減るでー」
「やっぱフレームの限界超えてんやなー」
「なんと、過剰と思っていたでおじゃるが、足りなかったでおじゃるか!?」
オダイン博士は愕然としている。
「新技術による移動でも追い付くように改造したでおじゃるが……」
「ちなみに、バグって見えた?」
「18コ」
「案外少ないなー。ほんなら、ちゃちゃっとバグ取りしてまおかー」
「うーい」
ゆるい雰囲気で試験は進んでいたが、これは2つの世界にまたがっての最強を生み出すための作業である。
本来、世界を滅ぼしかねない様々な代償を支払って行うことを、彼女らは特に気負うこともなく、下手をすると代償を払うよりももっと上の高みへと手を伸ばそうとしていた。
「そーいや、『無』の解析てどれくらい進んでんのん?」
「今、仮説の確認作業。でも30%くらいやね」
「この世界の『無』は召喚できたりするん?」
「多分、やらん方がエエで。神様が言うた通りやったら、法則違う根源エネルギーの接触でドッカーンやから」
「おおぅ、ヤバいなソレ」
クレアはタブレットで確認する。
「あ、そうや、テレサ、『エニグマ』のことやねんけど……」
「なんかわかったん?」
「アレて、ホンマに生物を紙にするだけなん?」
「また髪の話をしているでおじゃる……」
「あー、生物以外もできる。生物以外やったら、条件はなかったと思うで」
「ほんなら、――できへんやろか?」
「おー、そら考えへんかったなぁ……」
テレサは唸る。
クレアの提案は、それほどリスクの高いものではなかった。
むしろ、試す価値はある。
そして、それはテレサの新技術を、テレサ限定ながら、さらに新しい領域へと押し上げるのに十分なものとなる。
ありていに言うと、エクスデスの勝機は完全に消えた。
サイファーは、エスタ政府の依頼を受けて、『ルナティックパンドラ』を調査していた。
アルティミシアの証言で、『月の涙』が未来に大きな悪影響を及ぼすことが判明したからである。
調査のついでに、いっそのこと『ルナティックパンドラ』の移動装置を取り外してしまおうということにもなっている。
「なんだこりゃ、ガルバディアのミサイルか?なんでこんなとこに?」
破片に書かれていた文字を確認して、サイファーは呟く。
海中に投棄されていた『ルナティックパンドラ』の移動装置は、なぜかガルバディア製のミサイルによって完全破壊されていた。
「これじゃ、再利用の前にまず撤去だな」
とりあえず、ミサイルの破片を証拠として持ち帰る。
後で判明するのだが、これをやったのはテレサだった。
アルティミシアがダメモトで撃ったミサイルを、センサーを狂わせて『ルナティックパンドラ』の浮遊装置に直撃させたのだ。
これによって少なくとも当面の間、『大石柱』による『月の涙』は発生しなくなった。
後は自然発生する『月の涙』を解明し、どう対処するかである。
それに関しては、エスタが行っている研究と備えに任せることになる。
内部に巣食っていた魔物の駆除に入ったサイファーの報告内容を確認した調査隊は、話し合いの結果、破壊された移動装置などは撤去せずに置いておくことにした。
わざわざ
……――。
テレサの精神世界では、無数のモニタに様々な記憶が映し出され、検証が行われていた。
こうした地道な思考の繰り返しの果てに、単独で世界征服も可能な技術を開発し、今もそれを発展させているのだ。
彼女にとっては、『次元の魔物』との戦いも、実験である。
ここへ来て、転生特典の価値が輝きを見せ始めていた。
『タブレット』は、常に高性能なスマートフォンに近く、実験映像の動画撮影などに力を発揮。
『エニグマ』はクレアが新しい利用法を発見したおかげで、1段階技術のステージが上がった。
もう1つが『記憶保護』。
当初はGFの代償が運動神経だったため、何の意味もない特典とテレサ自身も考えていたが、精神世界での検証を繰り返すうちに、その重要性に気付いた。
『記憶保護』というのは、言い換えれば完全記憶能力の付与である。
どんなゴミ記憶も忘れることがない。
これが検証の際、どれほど重要だったのか。
『エニグマ』を再検証し、新しく実験する際に、テレサは思い知った。
『記憶保護』によって検証実験の回数を大幅にカットできたのである。
それはもう、次の5日目に間に合うほどに。
次の『次元の魔物』は、機械だった。
4つ足、膨大な魔力を秘め、センサーで周囲を眺めつつ、破壊対象を探す。
自身の意思を持たず暴走している、完全なる無差別大量破壊兵器。
今までの『次元の魔物』とは一線を画している。
その場にいる全員が、『次元の魔物』に慣れているはずのバラムガーデンからの見学者でさえ、全身が悪寒で総毛立った。
「アカン、これ、ヤバいやつや……!」
セルフィでさえ、すがるようにテレサに視線を向ける。
今までのような、耐性やバリアを無視すれば倒せるというような、ある種簡単な相手ではないということだ。
この場にいる全員が命懸けで戦って、勝てるかどうか。
全員がそんな印象を持っていた。
次の瞬間、ほとんど前触れもなく魔力が集中すると、放射状に広範囲を薙ぎ払うレーザー、『波動砲』が放たれる――。
それは、避ければエスタ市街の大半が焼き払われるほど、威力と範囲があり、そのままではエスタの壊滅も避けられなかっただろう。
その直前、テレサのタブレット操作が間に合わなければ。
「『エニグマ』!」
どれほどの魔力を内包していようと、どれほど危険な暴走兵器であろうと、いくつの世界を滅ぼしていようと。
それは無機物であり、魂を内包しているわけではない。
転生特典によりテレサがタブレットを持っている時にだけ使用可能な『エニグマ』は、魂を持たない無機物ならば、無条件に紙にしてしまうことができるのだ。
つまり、今回の敵『オメガ』も、一瞬で紙にしてしまった。
――――あとがき
こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
まさかの『オメガ』瞬殺でした。
コレ、予想できていた人いますかね?
実は転生特典を決めた時から、このネタは温めてありました。
『オメガ』は色々と設定があるようなんですが、結局魂があるわけでなし、世界渡航中の暴走兵器には違いないだろうってことです。
――――設定
『オメガ』:FF5
『次元の挟間(洞窟)』にシンボルエンカウントとして出現する古代文明の破壊兵器。
『空より現れし、心を持たぬもの』とFF5のゲーム中、『次元の挟間(図書館)』に記述が確認できる。
また、同じ部屋に『12の武器を持つ勇者達でもかなわない…しずかに、次元のはざまに、眠らせておくべし…決して、かたりかける事なかれ』とあり、相当に危険な相手であることが見て取れる。
ただ、できれば『オメガ』のシンボルが出るエリアの前にその情報を置いておいてほしかった。
『オメガ』のシンボルは割と動き回るため、思い切りがないと割と長時間足止めを食らうことになる。
シンボル、グラフィックは『プロトタイプ』や『マシーンヘッド』と同じ。
両方ともその時点で戦うと決して弱くはないが、『オメガ』はそれらと比べても桁違いに強い。
『ブラスター』は単体に即死、『レベル5デス』はレベルが5の倍数のキャラを即死、『デルタアタック』は単体に石化、『サークル』はカウンター行動で味方キャラ1人を戦闘から除外と、即死系が一通り揃っている。
他にも『アトミックレイ』は全体攻撃、『はどうほう』は全体に最大HPの半分の割合+スリップダメージ、『地震』という全体攻撃、『ミールストーム』は全体を瀕死化、攻撃が多彩で行動も早い。
しかも常時『リフレク』。カウンターに大ダメージ+スリップの『マスタードボム』や割合3/4ダメージの『ロケットパンチ』も使用する。
普通に戦うと、大体は『サークル』に怯えながら高い回避率に苦しむことになるため、1回の行動で大ダメージを与えるのが肝要になる。
そのため、攻略サイトには『魔法剣サンダガ+二刀流+みだれうちが正攻法』と書かれることも。
ただ、弱点がないわけではない。
有名なのは『ストップ』が効くことで、素早さを限界まで上げて『ヘイスト』をかけた3人で『あいのうた』を使い続けるとカウンターも何もしてこなくなる。
雷属性も弱点で、普通はこれらが突破口になる。
普通でない倒し方をするなら、『祝福のキッス』と『ゴーレム』を組み合わせたり、『デスポーション』を使用したり、『くろのしょうげき』と『レベル2オールド』でレベルを下げて『レベル5デス』を当てたり、やり方は色々とある。
(どのボスでも大体効く)