転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

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政実「どうも、冬は暖房器具にみかんが至高の片倉政実です」
柚希「どうも、遠野柚希です。……まあ、昔から炬燵にみかんなんていうセットもあるわけだし、悪いわけではないか」
政実「うん。ただ……わりと寒くなる所に住んでるのに、寒さに弱いのはどうかと最近自分でも思ってるかな……」
柚希「そこは慣れみたいな物だし、まずは暖房器具からできる限り離れて生活する事からで良いんじゃないか?」
政実「そうだね……今年からできる限りやってみるよ」
柚希「ん、了解。さて……そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第5話をどうぞ」


第5話 凍てつく冷気の中の雪女

「うーん……今日も寒いなぁ……」

「ああ……寒いなぁ……」

「ああ、寒いな」

 

 山の獣が冬眠を始め、犬や子供が辺りを駆け回る季節、冬。

そんな冬のある日、俺達は話す度に口から白い息を吐きつつ、いつものように三人で一緒に学校へ向けて歩いていた。

 

 冬か……そういえば、あの歌みたいにオルトは今朝の散歩の時に楽しそうに駆け回ってたけど……。もし猫の妖とか、例えば『猫又』とか『ケットシー』なんかが仲間にいたら、すぐに炬燵で丸くなろうとするのかな……?

 

 空から降る雪を見ながらそんな事を考えていた時、夕士が突然何かを思い出したように声を上げた。

 

「あ……そういえば、雪で思い出したんだけどさ」

「ん、何だ、稲葉?」

「他のクラスの奴が話してたんだけどさ、なんでも公園の方で雪女みたいなのを見たらしいんだよ」

「雪女って……あの雪女だよな?」

「ああ。夕方頃に一人で帰ってたら、公園の中に白い着物を来た可愛い女の子がいたらしくてな、どうにもその子が泣いてるように見えたから近付いてみたら、その雪女みたいな子が突然ソイツの方に顔を向けて、ニイッと笑ったらしいんだよ」

「ふーん……突然ニイッとねぇ……」

「それでソイツはすっかり怖くなって、そのまま逃げ帰ったんだってさ」

「ほぅ……」

 

 

 夕士の話が終わると、長谷は興味深そうな様子で声を上げた後、次々と夕士に質問を始めた。

 

「ソイツが雪女みたいなのを見た公園っていうのは、俺達もよく使ってる公園だよな?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ次、他にその雪女みたいなのを見た奴はいるのか?」

「いや、俺が知ってるのはソイツくらいだから分からない。……でももしかしたらまだいるかもしれないな」

「ふむ……」

 

長谷は夕士から情報を次々と聞くと、まるで頭の中で整理するように顎に手を当てながらうんうんと頷いた。

 

 あ……これはまさか……。

 

その長谷の様子から俺は何となく長谷が考えている事が分かった気がし、それを確認するために長谷に話し掛けた。

 

「……長谷、まさかとは思うけど、俺達でその雪女らしきモノを捜そうって考えてたりしないよな?」

「そうだが?」

 

 俺の問い掛けに長谷は当然だといった様子で答えた。

 

 あはは……やっぱりそうだったのか。

 

 すると、夕士が少し心配そうな様子で長谷に声を掛けた。

 

「でもさ、長谷……相手は妖怪だぞ? それに見つけたとしても、その後はどうするつもりなんだ?」

「いや、何もしないぞ?

今日はちょうど俺も遠野も合気道は休みの日だから、その話が本当なのかを調べてみたいだけだ」

「あ……そういう事か」

 

 長谷の答えを聞いて、夕士がホッとした様子を見せると、長谷はニッと笑いながら言葉を続けた。

 

「それに……お前達だって気になるだろ?」

「それは……まぁ」

「たしかに気にはなるかな」

「だろ? だから、放課後にこの三人で雪女が本当にいるかを見に行こうと思うんだが、お前達はどうしたい?」

 

 長谷の問い掛けに俺達は一度顔を見合わせたが、すぐに長谷の方へ向き直ってから返事をした。

 

「俺は大丈夫だぜ、見に行くだけなら別に危なくはないからな」

「俺も大丈夫だ」

「分かった」

 

 長谷は俺達の返事を聞くと、静かに頷きながら答えた。

 まあ、見に行くだけなら確かに危なくは無いか。俺の場合は、いざとなったら皆の力を借りられるけど、夕士達はそうはいかないし、今の俺じゃあ夕士達を絶対に守れるわけじゃないからな。

でも……。

 

俺は夕士の話を聞いていて、少しだけ気になる点があった。

夕士が聞いた話によれば、雪女が出現したのは街中にある近くの公園だ。雪女の話は日本各地にあるけど、その話に共通してくるのは、『出現場所が山や人が住む場所など』という点と『出会った人間の命を奪ったり、精気を吸いとったりする』という点などだ。

なのに、件の生徒は雪女と出会ったのに、そういう被害を被るどころか、ただ笑いかけられただけだ。

 

……一応、その生徒から直に話を聞いてみた方が良いかもな。そしてそのためにもまずは……。

 

 俺は楽しそうに話している長谷の話をうんうんと頷きながら聞いていた夕士に話し掛けた。

 

「夕士、その話をしていた生徒の名前は分かるか?」

「……ん? ああ、分かるぜ。

隣のクラスの雪村って奴だ」

「隣のクラスの雪村、だな……分かった、ありがとうな」

「どういたしまして。でも、どうしてそんな事を……?」

「ちょっと本人からも話を聞きたくてな。どうせ探すんなら、情報は多い方が良いからさ」

「なるほどな」

 

俺の答えを聞くと、夕士は納得した様子を見せた。

 

 まあ、新しい情報が得られるとは思ってないけど、一応聞いておいて損はないだろうし、昼休みにでも訊きに行ってみるか。

 

 そして放課後の雪女捜しについての話を続けながら、俺達は学校に向けて歩いていった。

 

 

 

 

 昼休み、俺は雪女についての情報を聞くために、隣のクラスの雪村に会いに行った。雪村は隣のクラスの生徒である俺が突然訪ねてきた事にちょっとだけ驚いてはいたが、俺が雪女の話を振ると雪村は納得した様子を見せた。

 

「なんだ、そういう事か。でも、たぶんお前ももう知ってる話くらいしか出来ないぞ?」

「それでも良いよ。この話を一回本人から聞いておきたいと思っただけだからさ」

「そっか……まあ、そういう事なら……」

 

 そして雪村は雪女と出会った時の話をしてくれた。

 

「……あれは一昨日の放課後、学校が終わった後に他の奴と一緒に別の奴の家で遊んだ帰りの話なんだけどさ。ソイツらの家は公園の近くにあるんだけど、俺の家は別方向だったから、一人で公園の近くを歩いてたんだ。

それで公園の入り口に来た時、急に寒くなったんだけど、まあ冬だし仕方ないってその時は思ったんだよ。そしてそのまま帰ろうとした時、ふと公園の方に目が行ったから、何となく公園の中を見てみたんだ。そしたら、少し離れたところに白い着物みたいなのを着た長い髪の奴がいるのが見えたんだよ」

「ふむふむ……」

「それでこんな時間に一体誰なのかなと思って、ちょっとだけ近付いてみたんだよ。そしたら、手で顔を覆ってるのが見えてさ、それでもしかしたら泣いてるのかなと思って、声を掛けようとしてもっと近付いてみたんだ。

でもその時、ソイツが突然クルッて俺の方に振り返ってさ、そしたらソイツは……スゴい赤い目で俺の事を見ながらニイッと笑ったんだよ……!」

「なるほど、それで怖くなったお前は急いで逃げ帰ったんだったな」

「ああ……」

 

 雪村はその時の恐怖を思い出したせいか、ブルブルと震えだした。

 

 うん、やっぱり雪村は特に襲われたわけじゃない。それに赤い目とニイッと笑ったっていう情報……もしかしたらその雪女は……。

 俺がその雪女の事について考えていると、雪村は突然震えを止めると、少しだけポーッとした表情を浮かべた。

 

「……でも、あの雪女みたいなの、スゴく可愛かったんだよなぁ……」

「可愛かったって……ちゃんと顔とかも見たって事か?」

「いや、チラッとしか見れてないけど、それでも十分可愛かったぜ? もし、あの時みたいな出会い方じゃなかったら、仲良くなりたいところだったしな!」

「そ、そうか……」

 

 チラッとでも可愛いと思えるって……まあ、それは置いとくとして、もう少し情報を……。

 

 俺がもう少し雪村から話を聞こうとしたその時、雪村のクラスメイトが雪村の事を呼び始めた。

 

 ……仕方ない、情報収集はここまでだな。

 

 雪村からの情報収集を諦め、俺は雪村に声を掛けた。

 

「どうやらお前の事をクラスメイトが呼んでるみたいだし、俺はこれで失礼するよ。話を聞かせてくれてありがとうな、雪村」

「ううん、別に良いぜ。

お前こそわざわざありがとうな、えっと……」

「俺の名前は遠野柚希だ、これからもよろしくな、雪村」

「ああ、よろしくな、柚希!」

 

 雪村はニッと笑っていった後、クラスメイト達のところへと戻っていった。

 さて……それなりに情報は取れたし、後は実際に会ってみるだけだから、俺も夕士達のとこに戻るか。

 

 そして俺は夕士達に今の話を伝えるために、自分のクラスへと戻った。

 

 

 

 

 その日の放課後、俺達は雪女捜しをするために、いつもの公園へ向かって歩いていた。

 

 ……そうだ、『絆の書』の誰かに力を借りれられないか、一応訊いてみるか。

 

俺はランドセルから『絆の書』を取りだし、表紙に手を載せながら静かに魔力を流し込み始めた。『絆の書』の内外から声を掛けるには、こうやって魔力や妖力を使う必要があるんだが、この状態で話す場合は俺達にしか声は聞こえないため、こういう時にスゴく便利なんだ。

 

『皆、聞こえるか?』

『うむ、聞こえている』

『俺も聞こえてるぜ、柚希の旦那』

『私もオルト君も大丈夫です』

『無論、儂と』

『私も大丈夫です』

『そっか、それなら良かった』

 

 俺が微笑みながら言うと、風之真の不思議そうな声が聞こえてきた。

 

『そんで、俺達に何か用だったのかぃ?』

『ああ。今から夕士達と雪女捜しをするんだけど、誰か手伝ってくれるか?』

 

 すると風之真と黒銀、そしてアンが申し訳なさそうな声で返事をした。

 

『あー……手伝いてぇのは山々なんだが、俺は寒ぃのはちっとムリでな……』

『……すまないが、儂はこの琴からあまり離れられないものでな』

『私も寒いのはちょっと……』

『分かった。義智とこころ、オルトはどうだ?』

『ふん、雪女捜しか……まあ、そのような事はさておき、冬の寒さは気を引き締めるには最適だ。よって、我は参加するとしよう』

『私とオルト君も大丈夫です』

『分かった。それじゃあ早速……』

 

 俺が『絆の書』から義智達を呼ぼうとしたその時、前を歩いていた夕士達がゆっくりと立ち止まり、周りをきょろきょろと見回し始めた。

 

「……何か、いきなり寒くなった気がしないか?」

「……そうだな。遠野、確か雪村が雪女に会った時も突然寒くなったんだよな?」

「ああ。そうだって言ってたぜ」

「……という事は、雪女が俺達の近くにいるって事か」

「……そうなるだろうな」

 

 長谷の言葉に返事をしながら、俺は周囲の妖気を探った。

 

 ……微弱だけど、公園内から妖気を感じる。って事はもしかして……。

 

 俺は再び絆の書の表紙に手を載せながら静かに微量の魔力を流し込んだ。

 

『義智、こころ、オルト、ちょっと来てくれ』

『分かった』

『はい♪』

『ワウンッ!』

 

 

義智達の返事が聞こえた瞬間、絆の書の義智とこころ、そしてオルトのページから小さな光の球が浮かび上がった。光の球は上へふよふよと浮かび、俺の隣で止まった後、小さな状態でそれぞれの形へと変化した。

そして完全に光が止むと、俺の隣には各々の力で夕士達からは姿を隠したいつもの姿の義智とオルト、そして桃色のダウンを着込んだこころの姿があった。

 

 うーん……オルトとこころは良いとしても、義智はそれで寒くないのかな……?。

 

 俺が義智の格好を見ながら疑問を抱いていると、義智は公園の方をジッと見つめながら静かに声を上げた。

 

『ふむ……これは風之真やこころ同様、幼き妖の妖気だな』

『あ、やっぱりそうか』

『ああ。だが、どうやら我らと同じく力を使う事で姿を隠し、静かに我らの様子を窺っているようだ。……こころ、雪女の位置は特定できているか?』

『……一応は出来てます。ですが、ちょっと警戒されてるみたいで、いざとなったら攻撃をしてくる覚悟もしているみたいです……』

『そうか……そうなると、夕士達を早めに帰して、その後に俺達だけで会おうとした方が良いかもな』

『うむ。我らだけならば、雪女も多少は警戒を解くやもしれんからな。柚希、とりあえずは夕士達と共に雪女を捜すフリをしておけ』

『分かった』

 

 義智達との会話を終えた後、俺は少し心配そうに話をしている夕士達に声を掛けた。

 

「夕士、長谷。とりあえず雪女を捜してみよう。雪村の話通りになってるって事は、いる確率が高いって事だからさ」

「……ああ、そうだな。元々そのためにここまで来たわけだし、ここで怖じ気づいているわけにはいかないからな」

「だな。それに本当に雪女がいるなら、色々と訊いてみたい事もあるし、ここはとりあえず柚希の言う通りに捜してみるか」

 

 夕士と長谷は顔を見合わせながらうんと頷いた後、同時に俺の方へと顔を向け、そして同時に声を掛けてきた。

 

「行こう、柚希」

「行くぞ、遠野」

「ああ」

 

 俺は頷きながら答えた後、夕士達と一緒に公園の中へと入っていった。

 

 

 

 

 公園内へ入ってみると、冬という季節と時間の関係からか、そこには俺達以外の人の姿は無かった。

 

 つまり、今のこの場にいるのは、俺達と雪女だけか。

 

 俺は夕士達と一緒に歩きながら、『力』を通じてこころに声を掛けた。

 

『こころ、雪女の様子はどうだ?』

『えっと……まだ私達の事を警戒してますけど、今はとりあえず様子見に徹しようとしてるみたいです』

『……分かった。とりあえずこころはそのまま雪女の様子を探ってくれ』

『はい、了解です♪』

 

 そして公園の中心にある噴水の辺りまで来た時、夕士達が立ち止まると同時に俺もその場に立ち止まり、雪女捜しの事について夕士達に声を掛けた。

 

「さてと……どうやって雪女を探そうか?」

「そうだな……公園の中は広いし、ここは手分けして捜す事にしよう。ただ、時間も時間だから、軽く捜したらここに集合することにしよう」

「分かった」

 

 同時に頷いた後、俺達はバラバラの方へと歩き始めた。そして夕士達との距離が少し離れたのを確認した後、俺は義智達へ普通に話し掛けた。

 

「長谷が手分けして探すことを提案してくれて助かったな」

「うむ。だが、こうなればこの捜索時間中に雪女と話をした方が良いかもしれんな。今は我々の様子を窺っているだけだが、いざとなれば夕士や泉貴を襲いかねないのだからな」

「はい。今、雪女さんの心の中はとても強い不安と私達に対する小さな警戒で占められているみたいなので、考えたくは無いですけど、もしかしたらその可能性もあるかもしれないです……」

「クウン……」

「……分かった。それじゃあ早めに雪女に会ってしまおう。こころ、雪女の心の声はどの辺から聴こえる?」

「えっと、今は……あちらの方みたいです」

 

 こころが指差したのは、俺達が集合場所として定めた噴水の辺りだった。

 

「分かった。よし……夕士達の気とかは向こうの方から感じるし、今の内に雪女と話をしてしまおう」

「うむ」

「はい!」

「ワンッ!」

「……オルト、もう少し声を小さくして良いからな?」

「……ワン」

「……よし」

 

 そして俺は義智達と一緒にさっきまでいた噴水の方へと歩いて行った。すると噴水に近付くにつれて、体に感じる冷気と妖気が強くなり、噴水に着いた時には上着を着ていてもとても寒いと思える程の冷気を感じていた。

 

 さて……そろそろ声を掛けてみるか。

 

「おーい、雪女-……! ちょっと話をしたいんだが、出て来てくれないか-……!」

 

 夕士達に聞こえないように少し声を抑えながら噴水に向かって呼び掛けると、噴水の陰の方から少し青みがかった黒髪の女の子がひょこっと顔を出した。女の子の顔からは俺達に対して警戒と不安、そして少しだけの期待のような物が感じ取れた。

 

 あ、いたいた。

 

 女の子の姿を確認した後、俺は再び声を抑えながらその子に呼び掛けた。

 

「俺達は別に君に何かをしようなんて思ってない、ちょっと話をしたいだけだ。だから、ちょっとこっちの方まで出て来てくれないか?」

 

 女の子は少しだけ迷ったような表情を見せたが、すぐに覚悟を決めた様子を見せると、噴水の陰からゆっくりと出て来た。女の子は雪村の話通り、白い着物――白装束を身に纏っており、背丈は俺より少し低い程度で顔付きから歳は同じくらいだと予測できた。

そして女の子と俺達との距離が近付くにつれて、微かに冷気が強くなっていった。

 

 う……さ、寒い……。でも、雪女と話すためだ。ここは我慢しないと……。

 

 俺が冷気に耐えている内に、女の子は俺達の目の前で立ち止まり、少しだけ警戒した様子で俺に話し掛けてきた。

 

「……君は、私の事が怖くないの?」

「まったく怖くは無いな。見ての通り俺には瑞獣や妖、そしてアンズーとオルトロスの友達兼仲間がいるし、元々妖とかみたいなモノが大好きだからさ」

「友達……仲間……」

 

 俺の答えを聞き、女の子は小さな声で寂しそうに呟いた。

 

 ……この様子、やっぱりそういう事なんだろうな。

 

 その様子からある予想を立てた後、俺は女の子に話し掛けた。

 

「さて……一応確認するけど、君は『雪女』で間違いないよな?」

「うん……そうだよ」

 

 女の子──雪女はまだ寂しそうな様子で俺の言葉に答えた。

 

 

『雪女』

 

日本各地に話が伝わっている有名な妖の一体で、雪女をテーマとした作品やキャラクターなども作られている。そして雪女について伝わる話には、人の命を奪ったりする物が多いが、人の命を奪わない物や歳神として要素が含まれた物なども存在するため、一概には危険な妖とは言えない。

 

 

 まあ、雪村が襲われなかったのは、また別の理由があるからだろうけどな。

 

その雪女の様子からは、各地の話にあるような人に対しての静かな殺意などは感じられず、こころが言うような不安や心配などの感情が見て取れた。

 

 色々と気になる事はあるけど、とりあえず話を聞いてみるか。

 

 俺は雪女がここにいる理由、そして雪村の話の真相を訊くために、静かに話し掛けた。

 

「雪女、君の話を聞かせてもらえないかな?」

「私の……話……」

「ああ。君がここにいるのには、何か理由があるんだろうからさ」

「でも……正直、私自身よく分かってないけど、それでも良いの?」

「うん、大丈夫だ」

「……分かった」

 

 そして雪女は静かな声で話を始めた。

 

「……私はここじゃないところ、あまり誰も来ないような雪原にお母さん達と一緒に住んでるの。そこには私達の他にも色んな寒さに強い妖が住んでて、たまに一緒に遊んだりしてとても楽しい毎日を過ごしてた。

でも一昨日、私はちょっと散歩をしようと思って、一人で外に出たの。それで辺りの綺麗な景色とかを見ながら楽しく歩いてたら、突然目の前が真っ暗になって……私はそれがちょっと怖くなったから、ギュッと目を瞑ったの」

「ふむ……」

「それでずっと目を閉じてたら、突然冷気が少しだけ弱くなった気がして、それが不思議だったからゆっくりと目を開けてみたら……」

「もうここにいたわけか」

「うん……いきなり知らない所に一人でいたから、どうしたら良いか分からなくなって、そしたらドンドン涙が出て来て……」

 

 雪女はその時の不安を思い出したのか、少しだけ目に涙を浮かべていたが、白装束の袖で涙を拭った後、話を続けてくれた。

 

「それで一人で泣いていたら、突然後ろの方から誰かの足音が聞こえてきたの。

『そうだ……この足音の人にここがどこか訊いてみよう』

そう思って後ろを振り向いてみたら、そこにいたのは同じくらいの年の男の子だったの。

『大人じゃなくて同じくらいの歳の子で良かった……』

そう思ってちょっと安心してたら、ちょこっと口元が緩んじゃって……そしたら、その男の子の顔が急にサーって青ざめて、どうしたのかなと思って声を掛けようとしたら、悲鳴を上げながらそのまま走って行っちゃったの……」

「なるほど……」

 

 雪村の話にあった赤い目は泣いていたからで、ニイッと笑ったように見えたのは安心で口元が緩んだからだったか。まあ、夕方に一人でそんな状態のモノに出会ったら、普通の小学生ならたしかに怖くなるかもな……。

 

 雪村の話の真相を知り、一人で納得していた時、雪女はショボンとした様子でポツリと呟いた。

 

「……私、あの子に何か悪いことでもしちゃったのかな……」

「あー……いや、それに関しては君が悪いわけじゃないし、アイツが悪いわけでもないし……。ちょっとした誤解があっただけだから、特に気にしなくても良いぜ?」

「……そう、なの?」

「ああ」

 

 俺が頷きながら答えると、雪女はとても安心したような表情を浮かべた。

 

「良かった……私ね、悲鳴を上げながら逃げられちゃったのは、スゴく悲しかったし辛かった。でもそれよりも、あの子に何か悪いことでもしちゃったのかもしれないっていう罪悪感の方がずっと辛かったから……だから、今はとってもホッとしてるよ。ありがとね、えっと……」

 

 雪女が言葉に詰まった様子を見て、俺は自己紹介がまだだった事を思い出し、少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「あはは……そういえば自己紹介がまだだったな。俺は遠野柚希だ、よろしくな」

「我は白澤の義智だ」

「私は覚のこころです。 そしてこっちの子はオルトロスのオルト君です♪」

「ワンッ!」

「柚希君に義智さん、それとこころちゃんにオルト君だね。私は雪花(せっか)だよ、よろしくね」

「ああ、よろしくな、雪花」

「うんっ!」

 

 雪花はとても明るい笑顔で俺の言葉に答えた。

 

 雪女って基本的には静かなイメージがあるけど、雪花は明るい雪女っていう感じだな。

 

 雪花の様子からそう感じていると、こころが何かを思い出した様子で小さく呟いた。

 

「そういえば……雪花さんのお話って、風之真さんのお話と似たところがあるような……」

「風之真さんって?」

「風之真は俺達の仲間の鎌鼬で、春に出会って以来一緒に住んでるんだけど、アイツも雪花と同じような形でこの街に来たみたいなんだ」

「ふーん、そうなんだね。あ、でも一緒に住んでるって事は……」

「ああ。未だにアイツが住んでる場所も帰る方法も分かってない」

 

 俺が静かに答えると、雪花は再びショボンとした様子を見せた。

 

「そう、だよね……。つまり……私もまだお母さん達の所には帰れないって事に……」

 

 雪花の声がどんどん小さくなるにつれて、雪花の目にも涙が溜まっていった。

 

 雪花……よし、こうなれば……!。

 

 俺はある事を決めた後、雪花に話し掛けた。

 

「雪花」

「……なに……?」

「良ければ俺達と一緒に来ないか?」

「柚希君達と一緒……? あ……そ、それって…… !?」

「ああ。俺達に雪花が帰る手伝いをさせて欲しいんだ」

「柚希君……でも本当に良いの? それに他のみんなも……」

 

 雪花が不安そうに義智達のことを見ていると、義智が静かな声でそれに答えた。

 

「雪花よ、我らは既に風之真を受け入れ、そして共に生活をしている。そのような中で、今更お前だけを拒むような真似はせん」

「私ももちろん大丈夫です♪ それに雪花さんをこのまま放ってはおけませんから」

「ワン! ワウンッ!」

「ふふっ♪ オルト君も大歓迎みたいですよ?」

「みんな……!」

 

 義智達の答えを聞き、雪花の顔がぱあっと明るくなった。

 

 まあ、義智の言う通り、俺達の中に雪花の事を拒むような奴はいないしな。さてと……。

 

 俺はある事を訊くために、雪花に声を掛けた。

 

「それで雪花、君はどうしたい?」

「私……私は……」

 

 雪花は真剣な表情を浮かべながら、静かに考え始めた。そしてそれが覚悟を決めたような表情に変わった時、雪花は俺達の顔を真正面から見ながら静かに口を開いた。

 

「私……今日までスゴく不安だったし怖かったの。ここは知らない場所だし、近くを通るのは妖怪じゃない知らない人間達ばっかりだったから。だから……柚希君達に会うまで、住んでた場所にはもう帰れないし、お母さん達とももう会えないって思ってた。でも……」

 

 雪花はニコッと笑った後、言葉を続けた。

 

「こうして柚希君達と会って、色々と話をしてたら、何でか大丈夫だって思えたの。だから……私は住んでいた場所をみんなと一緒に探したい。みんなとだったら、絶対に探し出せるってそう思うから」

「雪花……ああ、分かった」

 

 そして俺は雪花に右手を差し出しながら言葉を続けた。

 

「それじゃあ…これからよろしくな、雪花」

「うん! よろしくね、みんな!」

「うむ、よろしく頼む」

「よろしくお願いします、雪花さん」

「ワンッ!」

 

 雪花が俺達の手を取った瞬間、手にひんやりとした感触が伝わってきた。

 

はは……さすがは雪女ってとこだな。さて……どうやら幸いにも夕士達はまだみたいだし、さっさと説明しとくか。

 

 俺は雪花に俺や絆の書の事について説明を始めた。そして話を終えると、雪花は少し驚いた様子で声を上げた。

 

「絆の書……転生者……なるほど、そうだったんだね」

「ああ。……という事で雪花、早速お願いしても良いか?」

「うん! もちろん!」

「分かった。それじゃあ……」

 

 俺が手に持っていた絆の書の空白のページを開いた後、俺達は空白のページに手を置いた。すると、いつものように、体の奥から腕を伝って、手にある穴から絆の書へと魔力が流れ込むイメージが頭の中に浮かんできた。

 

 ……うん、やっぱり最初の頃に比べれば、まだ楽に出来るな。

 

そして、必要な量の魔力が流れ込んだ瞬間、いつものように体中から力が抜けたが、瞬時に足全体に力を入れる事で、何とか倒れずにすんだ。

 

 ふぅ……今回も何とかなったけど、やっぱり目指すべきはこうしなくても倒れないようにする事だな。

 

 額の汗を拭いながらこれからについての目標を改めて定めた後、俺は絆の書に視線を移した。そこには、妖しげな笑みを浮かべながら立っている雪花と雪女についての詳細が浮かび上がっていた。

 

 よし……今回も無事成功だな。

 

 無事に雪花の絆の書への登録が完了した事に、小さな達成感を覚えていたその時、絆の書から風之真の焦ったような声が聞こえてきた。

 

『ゆ、柚希の旦那ぁ!』

『ん、どうした、風之真?』

『どうしたもこうしたも……! あの雪女の嬢ちゃんが来た途端、周りが凄ぇ寒くなりやがってよぉ……!』

『来た途端、寒くなった……?』

 

 風之真の言葉を聞いた時、俺達はさっきまで感じていた冷気が無くなっている事に気づいた。

 

『そういえば……さっきまで少し寒かったのに、それに比べたら今はあまり寒くないですね……?』

『クゥン……?』

 

 こころとオルトが不思議そうに首を傾げていると、義智が静かに口を開いた。

 

『柚希、一度雪花をこちら側へと出せ』

『あ、うん、分かった』

 

 返事をした後、俺は雪花のページに手を置き、静かに魔力を注ぎ込んだ。すると、雪花のページから光の球が浮き上がり、俺の目の前に移動すると、ゆっくりと雪花の姿へと変化した。そしてその瞬間、さっきまで感じていた冷気が、再び俺達の周囲に発生した。

 

 ……これってもしかして……。

 

 俺がこのような現象についてある予測を立てていたその時、義智が静かに独り言ちた。

 

「ふむ……やはりか」

「やはりって……何がなんですか?」

 

 雪花が義智に不思議そうに訊くと、義智は静かな声でそれに答えた。

 

「雪花よ。まずお前は、この冷気に気付いているか?」

「冷気……あ、もしかして、さっき『絆の書』の中の人達が言ってた……」

「ああ、その通りだ。そして恐らくだが、この冷気はお前自身が雪女という種族が生まれ持つ力を制する事が出来ていないために起きているのだろう」

「雪女の力を……でも、一体どうしたら……」

「……我も確かな事は言えん。だが、しばらくは己の妖力を高めつつ、雪女の力と向き合っていくほか無いだろうな」

「妖力を高めつつ、雪女の力と向き合っていく……でもそんなのどうやって……」

 

 雪花が少し不安そうな表情を浮かべていると、義智は静かな声でそれに答えた。

 

「そうだな……妖力を高める方法だけであれば数限りなくあるが、雪女の力と向き合えるかどうかは……雪花、お前次第だ」

「向き合えるかどうかは……私次第……。そう、ですよね……雪女の力は私の中にある力。だったらそれとちゃんと向き合えるのは、私だけですもんね……」

「ああ、その通りだ。己や己の力と向き合い、それを我が物とした後、更にそれを昇華させる。それこそが、今お前自身が成すべき事だ。……出来るか? 雪花よ」

「……私、は……」

 

 雪花は不安そうな様子でポツリと呟いていたが、すぐに覚悟を決めたような表情を浮かべた後、言葉を続けた。

 

「正直なことを言えば、自信も無いですし、とても不安です。でも……この雪女の力を制御出来ないまま、もしお母さん達の所に戻ったとしても、私はこのままずっと雪女の力と向き合うこと無く過ごしてしまう気がするんです。

それに……私だけがここに来て、柚希君や義智さん達と会う事が出来たのは、たぶんこの雪女の力としっかりと向き合うチャンスみたいな物をもらえたからだと思うんです。だから……私はこのチャンスを無駄にはしたくない、このチャンスを活かして、しっかりと雪女の力と向き合いたい、そう思っています」

「……そうか」

 

 義智は雪花の答えを聞いた後、雪花の顔をジッと見ながら静かに口を開いた。

 

「ならば、我はその思いに応えるとしよう。もっとも、我の考えている方法が確かな物であるとは言えないがな」

「義智さん、それって……!」

「うむ、雪花よ。しばらくの間──お前が最低限の妖力を制御出来るようになるその時まで、我の課す試練や修行に付き合ってもらうぞ。覚悟は良いか?」

「……はい! もちろんです!」

「……分かった」

 

 雪花の答えを頷きながら聞いた後、義智は俺の方へと顔を向けた。

 

「では、柚希よ。我と雪花は先に戻らせてもらうぞ」

「ああ、分かった」

 

 俺は返事をした後、『絆の書』の中の義智のページと雪花のページを開いた。そして、義智と雪花は自分のページへと手を置き、静かに自分の力を『絆の書』へと流し込むと、そのまま『絆の書』の中へと戻っていった。

 

 雪花、頑張れよ。

 

 心の中で雪花にエールを送っていると、こころが少し不安そうな様子で俺に話し掛けてきた。

 

「……柚希さん、雪花さんは雪女の力を制御出来るようになるでしょうか?」

「俺は出来ると思うぜ? 白澤である義智がついてるわけだし、何より雪花自身が決めたことだ、だから雪花なら絶対にやり遂げられると思ってるぜ」

「柚希さん……ふふっ、そうですね」

「ワウンッ!」

「ふふっ♪ オルト君もそう思うんですね♪ 私達が出来ることは少ないかもしれませんが、私達も雪花さんが頑張っていけるように支えていきましょうね?」

「ワンッ!」

 

 オルトがこころの言葉に返事をするように鳴き声を上げていたその時、サクッサクッと誰かが雪の中を歩いてくる音が聞こえてきた。そして音のした方に向いてみると、夕士と長谷が話をしながら一緒に歩いてきているのが目に入ってきた。

そして夕士達は俺の姿に気付くと、少し急ぎ気味に近付き、目の前で止まってから俺に話し掛けてきた。

 

「柚希、先に戻ってきてたんだな」

「ああ、まあな。ところで、二人は雪女を見つけられたか?」

「いや……全然だったよ」

「俺もだな……遠野はどうだ?」

「俺も見つけられなかったよ。……寒さも少し弱くなったみたいだし、もしかしたらもうここにはいないのかもな」

「そっか……」

「もしそうなら、仕方ないな」

 

 俺の言葉を聞くと、夕士達は諦めたような表情を浮かべた。

 

 う……仕方ないとは言え、二人に嘘をつくのはやっぱり辛いな……。

 

 二人に嘘をついた事、そして無駄足を踏ませてしまった事に罪悪感を感じていると、長谷が空を見ながら静かに呟いた。

 

「……どうやら軽くやるつもりが、思っていたよりも真剣に捜していたみたいだな」

「え……あ、本当だ」

「だな」

 

 季節のこともあってか、空は既に薄暗くなっており、幾つかの星々がちかちかと瞬いていた。

 

 まあ冬だし、仕方ないと言えば仕方ないか。

 

 空の様子からそう感じた後、俺は夕士達に声を掛けた。

 

「それじゃあ雪女探しはここで切り上げて、そろそろ帰ることにするか。あまり遅くなると、お互いに心配されそうだからな」

「ああ」

「そうだな」

 

 夕士達の返事を聞いた後、俺達は公園の入口に向けて歩き始めた。そして俺は歩きながら話をしている夕士達を見ながらこころ達に声をかけた。

 

『こころ、オルト、お前達は『絆の書』の中に戻ってて良いぞ?

帰る途中にまだまだ寒くなるかもしれないからさ』

『ふふっ、私達なら心配ご無用之助です♪ ね、オルト君♪』

『ワンッ!』

『心配ご無用之助って……もしかして風之真の影響か何かか?』

『ふふ、ご名答です。それに私達はこうして柚希さんと一緒にお家に帰るのが好きなので、このままで大丈夫ですよ♪』

『ワウンッ!』

『そっか。そういう事なら良いけど、震動で肩から落ちないように気を付けろよ?』

『はーい♪』

『ワンッ♪』

 

 こころ達の返事を聞いた後、俺は手に持っていた『絆の書』の雪花のページを開いた。

 

 雪花、これからお互いに頑張っていこうな。

 

『絆の書』の中の居住空間で義智との修行を頑張っているであろう雪花の姿を思い浮かべながら、俺は心の中で静かに語り掛けた後、再びちらちらと降り出した雪の中を大切な仲間達と一緒に歩いていった。




政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
柚希「この調子だと……このオリジナル要素8割強、原作からの情報が2割弱の過去編の進み具合は、各季節につき1話程度ずつになるのか?」
政実「そうだね。本来はもっと短い予定だったけど、それだと絆の書の住人がちょっと少ないかなと思って、こういう形になった感じかな」
柚希「そっか。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」
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