雪花「はい、どうもー! 雪女の雪花です!」
政実「という事で、今回は雪花のAFTER STORYです」
雪花「遂に私だねぇ……まあ、本当の事を言えば、遂にって言う程、まだAFTER STORYも数は無いんだけどね」
政実「ふふ、そうだね」
雪花「さってと、それじゃあそろそろ始めていこっか!」
政実「うん」
政実・雪花「それでは、FIFTH AFTER STORYをどうぞ」
「むむむ……!」
ある日の朝、『絆の書』の居住空間にあるお屋敷の一室で、私は正座をしながら体に力をこめていた。そして、体の奥底に力が溜まったような感覚がした瞬間、部屋の温度が少しだけ上がったような気がし、私は思わずニヤリとしてしまった。
すると、力が急に抜けていくような感覚に襲われ、それと同時に部屋の温度は再び下がっていった。
あう……またダメかぁ……。
失敗をしてしまった自分への落胆と少し出来たからといって気を抜いてしまった自分への怒りを同時に感じていると、私の目の前で座布団に座っていた義智さんは目を瞑りながら静かに口を開いた。
「……残念だったな、雪花」
「はい……」
「原因はわかっていると思うが、今のはお前の気の緩みが招いた物だ。上手く行ったからといってすぐに気を緩めるな。お前の目標はただ力を高める事なのではなく、その漏れ出ている雪女の力と向き合い、それを制御する事なのだからな」
「はい……」
義智さんの言葉に答えた後、私は自分が今ここにいる理由、そしてどうして力の制御の修行を積み始めたのかについて想起した。
私、雪花は元々は妖達が住む世界に住んでいて、家族や他の雪女や寒さに強い妖達と一緒に楽しい毎日を過ごしていた。けれどそんなある日、私が近所を散歩していた時、急に目の前が真っ暗になり、私は怖くなってそのまま目を瞑ってしまった。
そして、突然冷気が少し弱まった事でそれを不思議に思って目を開けてみると、そこは私の知っている雪原ではなく、誰もいない公園だった。いきなり知らないところに何故かいて、その上一人きりだった事で私は不安と恐怖で泣き出し、しばらくその場で泣いていた。
すると、そこに誰かが近づいてくる足音が聞こえ、その人にここがどこなのか訊こうとして振り向いた瞬間、その人は泣き腫らした私の顔に恐怖を抱いてそのまま走り去ってしまった。その事にショックは受けたけれど、それよりも何か悪い事をしまったかもしれないという思いを抱きながらその公園に身を隠しながら過ごす事数日、逃げてしまった人──雪村君から話を聞いて本当に私がいるのかを友達である夕士君達と確認しに来た柚希とその仲間である『絆の書』の皆に出会い、柚希が私の故郷を探す事に協力を申し出てくれた事で、私は『絆の書』の仲間になった。
けれど、まだ私が未熟だった事で私の中にある雪女の力の制御が出来ず、辺りに強い冷気を発してしまっている事が分かり、私は白澤の義智さんの元で力の制御を目標にして修行を始めたのだった。
はあ……修行を始めてからまだ2週間くらいしか経ってないとはいえ、中々上手くいかないのはやっぱりヘコむなぁ……。
「……あの、義智さん」
「……なんだ?」
「義智さんは……私が雪女の力を制御出来ると思いますか?」
「……それはお前の頑張り次第だ。現に始めた当初よりは早く力を抑えられるようになっている。これはお前がしっかりと修行をしている証拠だ」
「義智さん……」
「もっとも、最終的な目標は意識せずとも力を抑えられる事だがな」
「うぅ……やっぱりそうですよね……」
意識せずに力を抑える、かぁ……。言葉にするだけなら簡単だけど、やってみると本当に難しいんだよね……。
「義智さん、因みになんですけど、それを達成するための近道みたいなのって……もちろん無いですよね?」
「……ある事はある。だが、それは肉体的にも精神的にも強い痛みを伴う物だ。雪花、お前にそれを耐えるだけの自信はあるか?」
「……正直、無いです……」
「それならば、今の修行をひたすら頑張るのだな。今は終わりが見えず辛いとは思うが、いつかその頑張りが報われる時が来る。それだけはたしかだ」
「義智さん……はい、わかりました!」
義智さんからの激励に大きく頷きながら答えた後、私は再び修行に励むべく、体に力をこめ始めた。
「……よし、今日はここまでとする」
その義智さんの言葉と同時に、私は疲れを感じながら目の前にバタリと倒れ込んだ。
「うー……今日も疲れたぁ……」
「疲れを感じているという事は、しっかりと修行に励んだという事だ。そこは誇ると良い」
「は、はい……」
「さて……我はこれから遠野家の和室で瞑想をするとしよう。雪花、お前はどうする?」
「え……えーと、私も外に出ます」
「わかった」
私の返事を聞くと、義智さんは静かに頷きながら答え、天井を見上げながら外にいる柚希に声を掛け始めた。
「柚希、聞こえるか?」
『……ん、聞こえるけど……どうした?』
「なに、 我と雪花を外に出してほしくてな」
『……わかった。それじゃあちょっと待っててくれ』
その柚希の声が聞こえた瞬間、私達の体は白い光に包まれだし、目の前が白い光でいっぱいになった後、静かに目を開けると、そこは遠野家のリビングであり、柚希はソファーに座りながら私達に視線を向けると、ニコリと笑った。
「ほい、転送は無事に完了したぞ」
「ああ、すまないな。柚希」
「ありがとう、柚希」
「どういたしまして。それじゃあ俺はまた読書に──」
「……柚希、すまないがもう一つ頼まれてくれるか?」
「それは別に良いけど……なんだ?」
「少し雪花の話し相手になってやってくれるか?」
「……え?」
「雪花の話し相手か……ああ、それは別に構わないぜ? せっかくだから、最近の修行の様子も聞かせてもらおうかな」
「それが良いだろう。では、また後でな、二人とも」
「ああ」
「あ、はい……」
私達の返事に頷いてから、義智さんがリビングを去っていくと、柚希は笑みを浮かべながらゆっくりとソファーから立ち上がった。
「さて……話を聞かせてもらう前に何か準備するか。雪花は何が良い?」
「え……あ、それじゃあ冷茶が良いかな」
「わかった」
大きく頷きながら答えると、柚希は機嫌が良さそうな様子で鼻歌を歌いながらキッチンの方へ向かって歩いていき、私はそんな柚希の事を見送ってからゆっくりとソファーに座った。
……義智さん、一体何を考えているんだろう? もしかして、柚希との会話で何かを掴んで欲しいのかな?
そんな事を考えながら待つ事数分、冷茶が入ったグラスとホカホカと湯気を立てる湯呑み茶碗の二つをお盆に載せた柚希がリビングへと入ってきた。
「お待たせ、雪花」
「あ……ありがとう、柚希」
「どういたしまして。ほら、疲れてるだろうし、ゆっくり飲めよ?」
「うん」
そして、柚希から冷茶を受け取り、私の隣に柚希が座った後、柚希は熱いお茶を一口啜ってから静かに口を開いた。
「さて……それじゃあ早速話を聞かせてもらおうかな。雪花、最近の修行はどうだ?」
「うん、まだ無意識下での力の制御は出来てないけど、義智さんが言うには始めた頃よりは力を抑えるのが早くなったみたいだよ」
「そっか……」
「まあでも、出来たと思ったら嬉しくなっちゃってすぐに気が抜けちゃうんだけどね……。それでさっきも失敗しちゃったし……」
「はは、それは残念だったな。けど、少しずつ成長はしてるわけだし、焦らずに頑張っていけばいつかその頑張りが報われる時が来ると思うぜ?」
「それ、義智さんにも言われたよ」
「ふふ、そっか」
クスリと笑いながら言う私の言葉に柚希はニコニコと笑いながら答えると、もう一口お茶を啜ってからふぅと小さく息をついた。そして、少し心配そうな表情を浮かべながら私の方に顔を向けた。
「それにしても……風之真だけじゃなく、雪花もこことは違う世界から迷い込んだ事を義智との同調時の能力で知った時は驚いたよ。まあ、二人の話を聞く限り、風之真と雪花はたぶん同じ世界の出身なんだろうけど……他に何か手掛かりって無いんだよな?」
「あ、えっとね……お母さんからは私達のいる世界の裏側には、今私達がいるような人間や他のモノ達が住んでる世界があって、私のご先祖様達は当時の人間達から身を隠すために妖怪達が住む世界に移り住んだって聞いた事があるよ」
「なるほどな……という事は、人間や他のモノ達が住んでる世界と妖達の世界の間には何らかの『扉』みたいなのがあって、それを通る事でお互いに行き来してるんだろうな。もっとも、それを通るには何らかの『力』が必要そうだけど」
「『力』っていうと……妖力や魔力みたいな?」
「ああ。そうじゃないと、悪意を持った普通の人間達がまた妖達の生活を脅かす事になるからな。だから、そういう仕掛けはあると見て間違いないと思う」
「そっか……」
「まあ、世界は数限りなくあるけど、手掛かりさえ増えればいつかは見つかるはずだし、絶対に元の世界に帰れるようにはするよ。雪花だって故郷の家族や友達にはまた会いたいだろ?」
「……うん、会いたい。会いたいけど……まずは雪女の力の制御が出来ないと……」
そう、柚希達ならいつか私と風之真を元の世界に帰してくれると思う。けれど、それだけじゃダメなんだ。雪女の力の制御が出来て、ようやく私は自分の事を誇れるし、風之真を始めとした『絆の書』の仲間達に迷惑を掛けずにすむし、胸を張って帰る事が出来るんだ。
そう思いながら冷茶を一口飲んでいたその時、「なあ、雪花」と柚希が話し掛けてくるのが聞こえ、私は柚希の方へ顔を向けた。
「ん……どうかした?」
「修行を頑張ったり、高い目標を持つのはもちろん良いと思う。けど、あんまり気を張ってると、すぐに潰れちゃうぜ?」
「柚希……でも、私は……!」
「雪花が力を早く制御出来るようになりたいのは知ってる。でも、雪花には雪花のペースがある。だから、雪花。お前はお前自身のペースで力を制御できるようにしていけば良いんだよ。それが今のお前に一番合ってる方法だと俺は思うぜ?」
「私は、私のペースで……」
「ああ。まあ、最終的にどうするかはお前次第だけどな」
ニッと笑いながらそう言う柚希の顔を見ていると、柚希は少し冷めたお茶を一気に飲んでから静かに立ち上がった。
「さて……俺も雪花に負けずにこれから宿題でもするかな。雪花、お前はどうする?」
「え、うーん……ここでもう少し考え事をしようかな」
「わかった。後、それ飲み終えたらそのままテーブルに置いてて良いからな」
「うん、わかった」
私の返事に頷くと、柚希は自分の分の湯呑み茶碗を持ってキッチンの方へ向かって歩いていった。そして、それを見送った後、私は柚希に言ったように考え事を始めた。
……さて、柚希からは私のペースで力を制御できるようにしていけば良いとは言われたけど、どうやって私のペースっていうのを見つければ良いんだろう……?
「私のペース……私のペース……うぅ、さっぱりわからないよぅ……」
頭を抱えながら自分のペースがどのような物かについて考えていたその時、「……うぉっ!」という声がリビングの入り口から聞こえ、私はそちらに視線を向けた。するとそこには、オルトロスのオルトとオルトの頭の上で少し寒そうにしている鎌鼬の風之真の姿があった。
「あっ、ゴメン! ちょっと待っててね……」
風之真に声を掛けた後、私は体に力を加えて雪女の力の制御を始めた。すると、すぐに部屋の気温は下がり、それと同時に風之真の顔もみるみる内に安心した物へと変わり、オルトと風之真は私へと近づいてきた。
「ふぃー……すまねぇな、雪花」
「ううん、こっちこそゴメンね」
「ワン、ワンワオン?」
「あ……風之真、通訳をお願いしてもいい?」
「おうよ! えっとな……雪花は何をしてたのかって訊いてるぜ」
「私はさっきまで修行の事や私の元いた世界について柚希と話をしてたんだ」
「なるほどな……ところで、修行の方は順調なのかぃ?」
「ううん、順調とは言い難いかな。でも、柚希からは自分のペースで雪女の力の制御をしていけば良いって言われたよ。もっとも、その自分のペースっていうのがまったくわからないんだけどね……」
「クゥン……」
オルトが心配そうな鳴き声を上げる中、風之真は少し考え込む素振りを見せた後、静かに口を開いた。
「なんでぃ、そんなの簡単じゃねぇか」
「え?」
「自分のペースなんてのは、やっていく内に掴みゃあ良いんだよ。のっけからこうすれば良いなんて誰にもわかりゃしねぇ。だから、ひたすら試行錯誤するしかねぇんだ」
「試行錯誤する……」
「おうよ。それに、修行に付き合ってる義智の旦那だってああしろこうしろとは明確には言ってきてないんじゃねぇか?」
「……あ」
「言ってみりゃあ、義智の旦那だって試行錯誤してるところなんだ。どうすりゃあおめぇが早く力の制御が出来るか、な」
「ワン、クゥン?」
「ん? 義智の旦那でも悩む事があんのかって? はっはっは! そりゃあ義智の旦那にだって悩みの一つや二つあるだろうよ! むしろ、悩みすぎて頭だけが巨大化しそうな──」
そんな事を風之真が言っていたその時、「……ほう」という冷たい声がリビングの入り口から聞こえ、私達はビクリと体を震わせてからそちらにゆっくりと視線を向けた。すると、そこにいたのはさっきの声と同じくらい冷たい視線を風之真に向ける義智さんであり、風之真は声を軽く震わせながら義智さんに話し掛けた。
「よ、義智の旦那……瞑想はもう良いのかぃ……?」
「……ああ。充分心も落ち着き、妙案も思いついたので雪花に話してみようと思ってきたのだが……風之真、何やら面白そうな話をしているでは無いか?」
「え、あ……いや……」
「それで? 誰の頭が悩みすぎで巨大化するというのだ?」
「あ、あはは……それは……」
「それは?」
「……に、逃げるぞ! オルト!」
「ワ、ワン!」
そして、オルトに乗って風之真がリビングを去っていくと、義智さんはリビングの入り口を見ながら小さく溜息をついた。
「まったく……
「あはは……そうかもですね……。ところで、さっき妙案を思いついたと言ってましたけど、どんな案を思いついたんですか?」
「……ああ、それなのだが、雪花の修行に瞑想も加えてはどうかと思ってな」
「瞑想も……ですか?」
「そうだ。自分でやっていてわかるのだが、瞑想中は心を静めて自分と向き合う良い時間と言える。だから、雪花も瞑想をすれば、雪女の力ともっと向き合えると思ったのだが、お前はどうしたい?」
「私は……」
瞑想……正直、ただジッとしてるのは苦手だから自信は無いけど、義智さんがせっかく考えてくれたわけだし、この機会を逃すのはやっぱり良くない気がする。
「……私は、やってみたいです。瞑想やいつもの修行を通して、自分のペースという物を見つけてみたいです!」
「……どうやら、柚希や風之真との会話から何かを得られたようだな。わかった。では、明日から──」
「いえ、今日の午後からにします!」
「それは構わないが、本当に良いのか?」
「はい、大丈夫です」
義智さんの目をしっかりと見ながら言うと、義智さんは私の目を真っ直ぐに見返してから小さく息をついた。
「……わかった。それでは、昼食後に行うとしよう」
「はい、わかりました!」
うん……これで後は自分のペースを見つけていくだけ……!
そう思った瞬間、不意に気が抜けた気がし、それと同時にリビングの温度が徐々に下がっていった。
「あっ……またやっちゃったぁ……」
「ふ、残念だったな。だが、風之真達と話していた時から今まで無意識下での制御が出来ていたのは大した進歩だと思うぞ」
「……あ、言われてみれば……私、一旦力を抑え込んだ後、力の制御に意識を向けずに風之真達と話せていたかも……!」
「ならば、よし。後はそれを好きな時に出来、更に持続させられるように出来れば上出来だ」
「はい!」
そっか……私、しっかり成長出来てたんだ……!
自分が成長していた事に嬉しさを覚え、これからの修行に対してのモチベーションが上がっていくのを感じていると、義智さんは時計をチラリと見てから再びリビングの入り口へ視線を向けた。
「さて……そろそろ
「はい!」
義智さんの言葉に返事をした後、私はチラリと窓の外に目を向けた。窓の外では晴れた空から雪がゆっくりと降ってきていて、それを見た瞬間、故郷の事を思い出したけれど、私はすぐに頭の中から追い払った。
故郷のみんなの事は心配だし、早く帰ってあげたい気持ちはある。でも、焦ったってしょうがない。だから、私は私のペースで力を制御して、帰れた時にはそれをみんなに胸を張って報告するんだ!
その新しい目標を胸に秘めた後、柚希や天斗さんを呼びに行くため、私は義智さんと一緒にリビングを出た。
政実「FIFTH AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
雪花「これまでもそうだったけど、私も新しい目標を見つけて、それに向けて歩いてく感じだったね」
政実「そうだね。完全な日常回もそろそろ書く予定だけど、それを誰のAFTER STORYにするかはまだ未定かな」
雪花「ん、りょーかい。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いしまーす!」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
雪花「うん!」
政実・雪花「それでは、また次回」