柚希「どうも、遠野柚希です。クラスのレクリエーションって事は、脅かし役は他のクラスメートだったわけか」
政実「うん。ただ……あの時はそれでもだいぶ怖かったんだけどね」
柚希「まあ、肝試しは怖がってなんぼな物だし、俺は良いと思うぜ? さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第7話をどうぞ」
暑い中、各地で連日蝉達のリサイタルが開催される季節、夏。そんな蝉バンド達の演奏を聴きながら、いつものように学校へ向かって歩いていると、夕士が煌めく太陽を恨めしそうな様子で見始めた。
「あー……暑ぃ……」
「ああ、暑いな」
「そうだな」
俺が額の汗を軽く拭いながら、そして長谷が平然とした様子で答えると、夕士は少し不思議そうな様子を見せた。
「……何で、お前達はそんなに平気そうなんだよ……?」
「平気……ではないぜ?」
「ああ、暑い暑いなんて言ってたり考えてたりする方が暑くなるから、極力考えないようにしてるだけだ」
「極力……考えないように……?」
「そう。確かに暑いは暑いけどさ、でもそこで暑いって考えちゃうと、もっと暑く感じてしまう。だから、極力考えないようにしたり、何か涼しい事を考えたりした方が良いってわけだ」
「後は少し心理学的になるが、こういう暑い時は何か青い物を見て、逆に寒い時は赤い物を見るのも良いらしいし、結局は考え方一つって事になるだろうな」
「考え方一つか……よし、それなら俺は……」
すると、夕士は歩きながら
「……うん、少しだけ涼しくなった気がする」
「そっか、それなら良かったよ。な、長谷」
「ああ」
俺達が静かに笑い合っていると、夕士は太陽のように明るい笑みを浮かべた。
「へへっ、ありがとうな、柚希、長谷」
「どういたしまして」
「どういたしまして」
夕士の言葉に声を揃えて答えた後、俺達は再び学校に向けて歩き始めた。
その日の昼頃、今日は終業式だけだったため、終業式の後に軽く教室などの掃除をした後、俺達は帰りの会をやっていた。そして、帰りの会が終盤に差し掛かった頃、今年の担任である新任の先生がニコッと笑いながら静かな声で話し始めた。
「さて……明日からみんなが楽しみにしている夏休みですが、お休みだからといって、遅くまで起きていようとしたり、宿題をしないまま遊んだりしないようにしましょう。先生との約束ですよ」
『はーい』
先生の言葉に俺達が声を揃えて返事をすると、先生は満足そうに頷いた。
うーん……先生の気持ちは分かるけど、去年も似た事は言われてるしな……。それに先生との約束って、流石に子供っぽいような……。
先生の言葉に俺が少しだけ疑問を抱いていた時、ふと後ろの席に座っている長谷の方を横目で見てみると、長谷は小学二年生としては100点満点と言っても良い程のあどけない笑みを浮かべていたが、その笑顔からは静かな怒りが感じられた。そしてその瞬間、俺はある事を思い出した。
……あ、小学二年生って言えば、たしかあの事件が起きる時だったっけ……。まあ、それがいつ起きても良いように、心の準備だけはしておくか。
そんな事を考えながら先生の方へ視線を戻すと、先生は日直の生徒に挨拶を促した。そして俺達が挨拶をし、それに挨拶を返した後、先生はニコニコとしながら教室を出て行った。その瞬間、教室内は夏休みの予定について、ワクワクした様子で話し合うクラスメート達の声で騒がしくなった。
……まあ、待ちに待った夏休みなんだろうし、そうなるのも当然か。
そんなクラスメート達の様子をボーッと眺めていると、前の席に座っている夕士が同じようにワクワクした様子で俺達に話し掛けてきた。
「柚希! 長谷! 俺達も夏休みの事について話し合おうぜ!」
「……分かったから、一旦落ち着け、夕士。それに話し合うって言っても、遊びの計画についてだろ?」
「ああ、もちろんだぜ!」
「まあ……遊びの計画を立てるのは別に良いけど、当然宿題の事も考慮して考えるからな」
「それが良いだろうな。まあ、本来宿題なんてのはササッと終わる物だが、もし残しておいたりしたら後から辛い目に遭うのは間違いないからな」
「ああ。まあ、夕士なら問題は無いと思うけど、やっぱりそういうのも予定に組み込んどいた方が良いからな。……というわけだけど、夕士はそれでも良いか?」
その俺の問い掛けに、夕士はニッと笑いながら答えた。
「ああ、別に大丈夫だぜ。勉強が大事なのはもちろん分かってるからさ」
「そっか。それじゃあ早速……」
そして俺達が、夏休みの予定について軽く話し合おうとしたその時、
「……あ、いたいた! おーい! 柚希-! 夕士-! 長谷-!」
教室のドアの方から突然そんな大きな声が聞こえた。
……ん、誰だろ?
不思議に思いながら振り向くと、そこにいたのは雪花の時に世話になった隣のクラスの雪村だった。
あの日の翌朝、俺が夕士達と一緒に登校していた時、偶然会った雪村から雪女がいたかどうかを訊かれた。しかし、俺は本当のことを話すわけにもいかなかったため、雪村には夕士達と一緒に捜してみたものの、結局雪女は見つからなかったと軽く夕士達の事を紹介しながら話した。
それを聞くと雪村は少し残念そうな様子だったが、すぐにその気持ちを切り替えると、今度は夕士達と話を始め、一瞬の内に仲良くなった。そしてその日以降、廊下で偶然会った時や体育の時間などで一緒になった時には軽い話をしたりするようになっていた。
それはそうと……一体何の用だろ?
不思議に思っている内に雪村は俺達の席へと近付くと、ニッと笑いながら言葉を続けた。
「ちょっと訊きたい事があるんだけど、良いか?」
「別に良いが……何の用なんだ?」
「実はさ……3日後に俺達のクラスの何人かを誘って肝試しをするんだけど、お前達も来ないかなーと思ってさ」
雪村が楽しそうな様子で言うと、夕士の顔がぱあっと輝き始めた。
「へー、肝試しか! 面白そうだな!」
「へへっ、だろ? それで、どうだ? お前達も来れそうか?」
「俺は大丈夫だぜ! 柚希と長谷はどうだ?」
「3日後か……」
3日後なら合気道の練習は休みだけど、まさかの肝試しだな。いつも妖とか幻獣とか神様とかと暮らしてる身としては、年相応の楽しみ方が出来るか少し心配だけど……まあ、せっかくの誘いだし、ここは乗っとくか。
「うん、俺も3日後なら大丈夫だ。合気道の練習も無いし」
「俺も大丈夫だ、家の用事も無いし、遠野と同じく合気道の練習も無いからな」
「オッケー! それじゃあ肝試しのコースとかはその日までに決めとくから、3日後の19時頃に学校の前に集合な!」
「分かった」
「おう!」
「了解した」
俺達が返事をすると、雪村はとても楽しそうな様子でコクンと頷いた後、少し急ぎ気味に教室を出て行った。そしてそれを見届けた後、夕士はとても楽しそうな笑みを浮かべた。
「へへっ、何だかんだで夏休みの予定が一個決まったな」
「そうだな。それにしても……向こうのクラスの何人かを誘ってって言ってたけど、どんな奴が来るんだろうな」
「さぁな。まあ……これもせっかくの機会だ、どんな奴が来ようとも仲良くしてみせるさ」
長谷はそこで言葉を止めた後、ニッと笑ってから言葉を続けた。
「人脈ってのは多いに越した事は無いからな♪」
「人脈はって、お前なぁ……」
長谷の言葉に俺が苦笑いを浮かべていたが、それに対して夕士はとても面白そうに笑い出した。
「あははっ、長谷らしいな!」
「……まあ、確かにらしいと言えばらしいけどさ」
「それにさ、長谷の言う通り、どんな奴が来ようとも仲良くなった方が絶対に楽しいと思うしさ」
「それは……まあ、同感だけどな」
夕士の言葉に俺は静かに返事をした。よくよく考えてみれば、今の俺は傍目からみれば、ただの一般的な小学2年生だ。それなら夕士や長谷の言う通り、どんな奴が来ても仲良くなっておいた方が自然と言えば自然かもしれない。
それに雪村が声を掛ける相手に悪い奴はいなそうだし、ここは普通の小学2年生らしく楽しんだ方が絶対に良い気がする。
俺がそんな事を考えていた時、ふと周りを見回してみると、さっきまでクラスメート達の楽しげな声で溢れていた教室には俺達以外には数人程度しかいなくなっていた。
「皆、いつの間にか帰ってたみたいだな」
「え……あ、本当だ」
「それなら俺達も帰ることにして、話の続きは帰りながらにするか」
「そうだな」
長谷の言葉に返事をした後、俺は机の中に入れていた『絆の書』をランドセルに入れ、席から立ち上がってからランドセルをゆっくりと背負った。そして、夕士達もランドセルを背負った事を確認した後、俺達は件の肝試しや他の夏休みの予定について話しながら、教室を出て行った。
「ほう……肝試しですか。ふふ、夏らしくて良いですね」
「はい」
その日の夕食時、俺はいつものように学校での出来事を天斗伯父さんや『絆の書』の仲間達に話していると、風之真が少し不安そうな声を上げた。
「肝試しねぇ……確かに納涼にはピッタリだけどよぉ、ガキだけでやって本当に大丈夫なのかぃ?」
「それは大丈夫だと思う。肝試しって言っても、小学2年生のやる事だし、たぶん二人一組で学校の周辺を歩くだけになるんじゃないかな?」
「それはそうかもしれないが……補導などの心配は無いのか? 柚希よ」
「あ……それについて、全然考えてなかった……」
言われてみれば、こういうのは普通に小学生だけじゃなく、保護者も付くもんだよな……。
「あ、でも……流石に雪村君のお父さんとかが付くんじゃないかな?」
「あ……たしかにそうだよね」
「うむ。よってその点については心配はいらんだろう。しかし、柚希も理解しているだろうが、夜というものは我らのような存在が
「……なるほどのぅ、悪戯好きな小童の妖などであれば良いが、それとは別のモノが紛れ込む恐れもあるという事か」
「その通りだ」
義智は静かに頷いた後、俺の顔をジッと見ながら真剣な様子で話し掛けてきた。
「柚希よ、もし関わるのが我らだけであれば、このような事は言わん。しかし、肝試しは夕士や長谷と共に行くとは限らん。念のために注意だけはしておけよ?」
「ああ、了解」
義智からの忠告に俺は微笑みながら返事をした。義智が言いたいこと、それは雷牙が気付いたみたいに俺の中にある力の存在に気付く奴がいて、ソイツがそれを狙って襲い掛かってくるような事もあるから、一応注意しておけという事なのだろう。
……もしそういう奴が来ても、一緒に行くのが夕士と長谷ならまだ多少は誤魔化したり気を逸らして、皆の力をこっそり借りることは出来る。でも雪村や他の奴だった場合はどうやってやったら良いかわからないし、当日までに何か考えておこうかな。
そう考えた後、俺は夕食のコロッケをゆっくりと味わいながら、皆との楽しい夕食を再開した。
そして肝試し当日、俺は夕士達と一緒に集合場所の学校に向けて話をしながら歩いていた。
「そういえば、結局肝試しのコースってどうなるんだろうな?」
「そうだな……流石にあまり遠くまでは行かないだろうし、学校の周辺を回るとかじゃないか?」
「あり得るな。街灯があるとはいえ、学校の周辺はそれなりに暗いから、俺達が肝試しをやる程度ならあれくらいで充分だと思うぞ?」
「そっか……神社の脇を通るとか、墓場の傍を通るとかは流石にやらないだろうしな」
「だな。まあ、俺とか長谷なら大丈夫だろうけど……」
「そもそも俺達の学年で、こんな時間に出歩いてる奴の方が少ないだろうし、そんな所を通ろうとした瞬間、恐怖で動けなくなる可能性もあるしな」
「まあ、そうだよな」
そんな会話をしつつ、俺は後方と上空から感じている妖気と魔力に意識を集中した。
……うん、皆しっかりといるみたいだ。
夕士達の会話を聞きながら、俺は皆がいてくれる事への安心を静かに感じていた。肝試しの最中の対策として考えた事、それは家を出る前に『絆の書』の仲間達の何人かに各々の力で姿を隠した状態で出て来ておいてもらい、様々な位置からそういう奴がいないかを監視してもらうというものだ。
形としては上空から風之真とアンに監視してもらい、もし何か怪しい動きをするモノがいた時は、俺の後ろに控えてもらっているこころに聞こえるように、心の中で叫んでもらい、それが聞こえた時にはこころと一緒にいる雷牙に捕らえてもらうという物であり、そしてそれと同時に俺自身も周囲の妖気などには注意を払っている。
……まあ、少しやり過ぎな気はするけど、この先の未来で似たような事や皆との連携が必要な事は少なからずあるわけだし、それのための練習だと思えば良いかもしれないな。
そんな事を考えながら夜道を歩いていると、少し先の方に何人かの子供が立っているのが見えてきた。そして、それに近付いてみると、そこには予定通り雪村達、別のクラスの生徒達が立っていた。
しかし、雪村を含んだ何人かの男子生徒達はやる気満々でいる反面、女子生徒を含んだ残りの生徒達はビクビクしながら周囲の様子を窺っていたが、俺達の姿に気付くと、人が増えたことで安心したからか、女子達の波動に少しだけ安心などの色が浮かんだ気がした。
うーん……たぶんこっち側の奴らは、誘われた時は楽しそうと思ったけど、いざ来た瞬間に怖くなったんだろうな。まあ、まだ小学2年生だし、仕方ないと言えば仕方ないけど。
そして、その生徒達から視線を雪村達へ移した後、俺達は雪村に声を掛けた。
「雪村、来たぞ」
「おっ、来たなお前達。一応お前達で最後だし、早速始めるとするか」
「始めるのは別に良いけど……」
俺は周囲を見回し、大人の姿が無いことを確認した後、小さな声で雪村にこっそりと話しかけた。
「保護者とかの姿が見えないようだけど、もしかして驚かし役とかを頼んでるのか?」
「いや、頼んでないし、そもそも来てもらってすらいないぜ?」
「え……それって大丈夫なのか? 夏休み期間中だから、たぶん警察の人とかが見回ってるかもしれないし……」
夕士が少し心配そうに訊くと、雪村も少し心配そうな表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべながらそれに答えた。
「……まあ、大丈夫だろ。コースだって学校の周りを一周するだけだから、すぐに終わるだろうしな」
「あ、結局コースはそんな感じなんだな」
「ああ。最初は神社にお札みたいなのを置こうとか、墓場にろうそくを置こうとかって話してたんだけどさ、あっちで震えてる奴らがそういうのは怖いって言い始めて、結局こんな感じになったんだよ……」
「なるほどな……」
夜の神社とか夜の墓場には濃いめの霊気とかが漂ってる分、俺達はやりづらかったし、アイツらに感謝しないとな。
未だに怖がっているソイツらに横目で視線を向けていると、雪村が足下に置いていたカバンから何本かの割り箸が入っている筒状のものを二本取りだした。
「雪村、それはもしかして……クジか?」
「ああ。男子用と女子用の二本で、割り箸の先に数字が書いてあるから、その数字同士で組んだら良いかなと思ってさ」
「なるほど。それなら男女で必ずペアになるから、不公平なペアにはならないし、その数字の順に出発させられるな」
「へへっ、だろ? ……というわけで、まずはお前達から引いてくれるか?」
雪村の言葉に頷いた後、俺達は一本ずつ割り箸のクジを引いた。そしてそれを見て、他の生徒達も次々とクジを引いていった。
さてさて……俺は何番かな?
少しだけワクワクしながらクジに書かれている番号に目を向けると、そこには赤ペンで『2』と書かれていた。
『2』か……まあ、どうせやるなら早い方が良いし、ラッキーと言えばラッキーかな?
そんな事を考えた後、俺は夕士達に声を掛けた。
「夕士、長谷、お前達は何番だった?」
「俺は……5番だ」
「それで俺は……7番だな。遠野は何番だったんだ?」
「俺か? 俺は……2番だった」
「へぇー、2番か。早めに出発出来るし、ラッキーだったな、柚希」
「ん、まあな」
俺達が番号について話をしていると、雪村が俺達全員に声を掛けた。
「よし……それじゃあ早速、同じ数字同士で組んでくれ」
その言葉と同時に、俺達は自分が引いたクジの番号を見せ合い、同じ番号が見つかった順に次々と男女のペアが出来上がっていった。
さてさて……同じ2番のクジを引いたのは誰なのかな?
そんな事を考えながら、クジの番号を見せ合っていたその時、
「……あ、私も2番だよ」
近くからそんな小さな声が聞こえてきた。声の方に向いてみると、そこにいたのは白いワンピースを着た長い黒髪の大人しめな印象の少女だった。
この子が肝試しのパートナーか……うん、やっぱり皆に待機してもらって正解だったな。
心の中でうんうんと頷いた後、俺はその子に右手を差し出した。
「そっか、よろしくな」
「う、うん……私こそ、よろしくね」
少女は少し躊躇いながらも、微笑みながら俺と握手を交わしてくれた。すると、その様子を見ていたこころが少しからかうような口調でこっそりと話し掛けてきた。
『ふふっ♪ 良かったですね、可愛い女の子と一緒に肝試しが出来て♪』
『いやいや、俺はこの子をそういう目で見てないからな?』
『柚希さんはそう見てなくても、この子の方はちょっと安心してる上、柚希さんの事をカッコいいって思ってるみたいですよ?』
『ふーん……まあ、苦手意識を持たれてないだけマシか』
『ふふっ、そうですね。それにしても……私や雪花ちゃん、そしてこの子と……柚希さんは長い髪の子に縁があるんでしょうか?』
『そう……なのかもしれないな』
言われてみればこころの言う通り、こころと雪花、そしてこの子と俺が知り合う女子は長い髪の子が多い気がする。
これも俺の『縁』が招いたものなんだろうか……?
その事について少し不思議に思っていると、雪村が俺達の事を見回しながら声を掛けてきた。
「よし、これでみんな二人ずつになったな……それじゃあ早速、1番の組からこの懐中電灯を持って出発してくれ」
1番の組の生徒達はコクンと頷くと、雪村から懐中電灯を受け取り、暗い夜道へと消えていった。
懐中電灯一本か……雰囲気は出るけど、あの程度の光だと風之真達が俺達の事を少しだけ捜しづらく思うかもしれないな。ここは流す妖力の量を少しだけ増やすかな……?
空から見てくれている風之真達が捜しやすいように、周囲に流す妖力の量を少し調整していたその時、雪村が再び懐中電灯を一本持ちながら俺達に向かって声を掛けてきた。
「それじゃあ次は……2番の組だな。2番の組もこの懐中電灯を持って出発してくれ」
「分かった」
「う、うん……」
雪村に返事をした後、俺は雪村から懐中電灯を受け取った。そしてパートナーの子の顔を見ながら、出来る限り優しく声を掛けた。
「それじゃあ行こっか」
「うん……」
そして俺達は、一本のスジのように前方をぼんやりと照らす懐中電灯を手に、暗い夜道へ向かって歩き始めた。
道路を横切る車の音などを聞きながらちょこちょこと会話を交わしつつ、夜道を歩き続ける事数分。パートナーの子のゆっくりとした歩調に合わせながら、ゆっくりと車道側を歩いていた時、俺の中にある疑問が浮かんだ。
そういえば……この子はどうして肝試しに参加することにしたんだろ?
隣を歩いているその子の様子を見てみると、少女はビクビクとしながらゆっくりと道を歩いており、自分から肝試しに参加すると言ったようには思えない様子だった。
うーん……やっぱり気になるし、ちょっと訊いてみるか。
「えっと……一つ訊いても良いかな?」
「……え? な、何……?」
「あ、いや……どうして君はこの肝試しに参加しようと思ったのかなぁと思ってさ」
「え……え、えっと……それは……」
その時、答えにくそうにしている少女の目に薄らと涙が浮かんでいる気がして、俺は少し慌て気味に質問をした理由を話した。
「あ……もちろん、悪い意味とかじゃなく、ただ……君はこういうのに自分から参加するような感じに見えないかったからで……」
すると、俺が慌ててる様子を見たからか、少女は一度きょとんとした後、クスッと笑みを零した。俺はその少女の様子を見て、少しだけ安心した後、微笑みながらその子に話し掛けた。
「……良かった、てっきりさっきの質問で泣かせちゃったかと思ったよ」
「ううん、大丈夫だよ。ただ……あまり男の子と話した事が無かったから、何て答えたら良いかわからなくなっちゃって……」
「そっか。でも、あまり考えずに色々と喋ってくれて大丈夫だよ。俺と君は同い年で、今はこの肝試しのパートナー同士なんだしさ」
「う、うん……それじゃあそうさせてもらうね」
その子は完全に安心した様子でニコッと笑いながら答えた。そしてその様子を見て、こころがクスクスと笑いながらこっそりと話し掛けてきた。
『ふふっ、どうやら柚希さんは年下の女の子に泣かれるのは苦手みたいですね♪』
『……ノーコメントで』
『ふふ、はーい♪』
こころは楽しそうに笑うと、それ以上この話題については触れてこなかった。
……さっきの言い方、絶対に風之真の影響だな……。
こころのこれからに少しだけ不安を感じたが、俺はすぐに気を取り直した後、少女に再び話し掛けた。
「それでさっきの話の続きだけど、どうして君はこの肝試しに参加しようと思ったのかな?」
「あ、えっとね……実は友達に誘われたからなの」
「友達にか……それなら俺達と同じだな」
「え……そうなの?」
「ああ。俺達の場合は、雪村自身に誘われたからなんだ」
「そっか、雪村君に……何か意外だったかも」
意外……? 一体どういう事だろ?
少女のその言葉が気になり、俺はその事について訊いてみることにした。
「えっと、意外っていうのは……?」
「あ、それはね……クラスの子達が柚希君達は色々なところに遊びに行ってるって話してたから、てっきり雪村君に柚希君達から声を掛けたのかと思ってたの」
「クラスの子達がって……俺達は別のクラスの話題に上がることをした覚えとかは無いんだけど……?」
「あ、えっとね……柚希君たちはとってもカッコイイ三人組って、私たちのクラスだけじゃなく、他のクラスの女の子達の中でも話題になってるみたいなの」
とってもカッコイイ三人組、ねぇ……何だか詳細を聞くのが怖いけど、一応訊いてみるか……。
「えっと……例えばどんな風に言われてるのかな?」
「例えば…… 夕士君はいつも元気でスポーツが出来てカッコイイとかで。長谷君はいつも大人みたいな上に頭も良くてカッコイイとか。それで柚希君は本を読んでる時とかの雰囲気とか同じクラスの子が困ってる時にすぐに助けてあげられる所とかがカッコいいだったかな……? あ……後は柚希君達に共通することなんだけど、顔がカッコイイって言ってる子もいるみたいだよ」
「な、なるほど……」
俺達三人の周囲からの感想に、俺は戸惑いを隠しきれなかった。
俺達って別のクラスの女子からそういう風に見られたのか……いや、夕士と長谷なら分かるけど、まさか俺までそんな風に見られていたとはな……。
その時、俺は俺達が到着した瞬間に女子達の波動に喜びや安心の色が見え始めたことを思い出した。
……なるほど、だから波動がちょこっと変化してたのか。ただ、これは喜んで良いのか微妙な気がするけどな……。
俺がその事について苦笑いを浮かべていたその時、突然近くから妖気を薄らと感じた。
……妖気、か。でもこれは義智に言わせれば、大したことの無い幼い妖の妖気みたいだし、とりあえず正体を見極めるために様子を見てみるか……。
そして俺は妖気を通じて、後ろに控えてくれているこころ達に話し掛けた。
『こころ、雷牙、お前達も気付いてるか?』
『はい、バッチリです』
『私も気付いているぞ、柚希』
『なら、良かった。とりあえずお前達もこの妖気に気付いてないフリをしていてくれ。ただ、もしこの妖気の主が悪意を持って近付いてきたその時は……』
『ああ。私がそやつに飛びかかり捕まえている内に、こころが風之真達に助太刀を頼む、だったな』
『その通りだ。よし、それじゃあ……』
俺がこころ達に指示を出そうとしたその時、件の妖気がゆっくりと俺達に近付いてきたのを感じた。そしてそれと同時に、チッチッチッという音が聞こえ始めた。
……これは、雀の鳴き声……? って事は、妖気の主は……。
俺が妖気の主について大体の当たりを付けていたその時、少女の体が弾けるようにビクッと震えた。そして少女は、恐怖の表情を浮かべながら周囲を見回し始めると、声を震わせながら俺に話し掛けてきた。
「な、何……? この音……」
「……何だろうな。鳥の鳴き声……みたいにも聞こえるけど……」
俺はその正体について何となく分かっていたが、それを説明するわけにもいかないため、それが何か分からないふりをした。
……うん、スゴい罪悪感を感じるな、これ。
その事について俺が罪悪感を感じていると、少女は恐怖で目に涙を浮かべながら再び話し掛けてきた。
「……ねぇ、柚希君……」
「ん、どうした?」
「手……繋いでもらっても……良い、かな……?」
「……うん、良いよ」
俺は微笑みながら頷いた後、少女の手をしっかりと繋いであげた。
……小学生だし、やっぱりこの状況って怖いよな。うん、この子のためにも早めになんとかしてあげよう。
少女の様子を見て強く決心をした後、俺は少女と一緒に歩きながら、妖力を通じて後ろに控えてくれているこころ達に話し掛けた。
『こころ、雷牙。俺に一つ考えがあるから、妖気の主がお前達の横を通っても、一切手を出さないでくれ』
『え……良いんですか?』
『ああ、妖気の主の正体は大体見当が付いてるからな。それとこころ、今の内に風之真とアンに静かに降りてきてもらってくれ。そして風之真達が降りてきたら、この妖気の主には手を出さないように言ってくれ』
『分かりました』
『承知した』
こころ達の返事を聞いた後、俺は妖気の主が近付いてくるのを待ち続けた。そしてそれから程なくして、妖気の主がこころ達の横を音も無く通り抜け、俺の肩へ静かに留まった事を感じた後、俺は妖気の主に対して妖力を通じて話し掛けた。
『……肩に乗ってる奴、俺の声が聞こえるか? もし聞こえてるなら、お前も妖力を通じて答えてくれ』
『……こんな感じで良いかな?
『ああ、大丈夫だ。すまないな、いきなりこんな事を頼んでしまって……』
『ううん、別に良いよ。だってこれって、君の隣を歩いてるこの子をこれ以上怖がらせないためでしょ?だったら、ボクにも責任はあるし、君のお願いを聞くのは当然のことだよ』
『……そっか、ありがとうな、『
『どういたしまして』
妖気の主である夜雀は肩の上から明るい調子で返事をした。
『夜雀』
高知県や愛媛県などに伝わる鳥の妖怪で、名前が示すように雀のような鳴き声を上げながら、山道を進む人の前後に現れると言われている。
ある地では、夜雀に憑かれるのは不吉の証拠であると言われ、またある地では迂闊に捕まえると
実際、今も俺の頼みを聞いてくれてるし、肩に留まっているだけで何かをしてくる様子も無いみたいだし、このまま話し合いで何とかなりそうだな。
夜雀の様子を見て確信した後、俺は様々な事を聞くために再び夜雀に話し掛けた。
『夜雀、色々と訊かせてもらいたい事があるんだけど、大丈夫か?』
『うん、良いよ。だけどその代わり、ボクにもキミ達の事を教えてもらうよ?』
『……分かった。それじゃあまずは自己紹介から始めようか。俺は遠野柚希、見ての通り妖達と一緒に生活をしている人間だ』
『柚希だね。ボクは
『ああ……所謂、僕っ娘って奴だな』
『へぇー、人間達の間だと、ボクみたいな子ってそう呼ばれてるんだね)』
『まあ、一応はな。それで次だけど、お前達夜雀はここから離れた地域に住んでるはずなんだが、お前がここにいるのって、もしかして一人旅ならぬ一羽旅中だからか?』
『うん、その通り。でもよく分かったね』
『ああ、それは……』
俺が同じようにして知り合った雷獣、雷牙の事を話そうとした時、少女が不思議そうな様子で俺に話し掛けてきた。
「……さっきの鳴き声みたいなの、聞こえなくなったね……?」
「そうだな……もしかしたら寝ぼけた鳥の鳴き声だったのかな?」
「寝ぼけた鳥の鳴き声……ふふっ、もしそうだったらちょっと可愛いかもね」
「ああ、そうだな」
俺が微笑みながら答えると、少女の顔から完全に恐怖や不安といった感情が消え、その代わりに安心などの色が見え始めた。
うん、これなら大丈夫そうだな。
少女の様子を見てホッとしていると、鈴音が少しのんびりとした調子で声を掛けてきた。
『ふふ、柚希は優しいし、冗談みたいなのを言って、場を和ませられる。これはスッゴくモテるだろうねぇ……』
『……正直、俺としては不本意なんだけどな。今のところ、そういった色恋沙汰には興味は無いからな』
『おやおや、勿体ない。まっ、これは当人の問題だし、他人が口出すことでも無いから、これ以上は言わないでおいてあげるよ』
『……助かる』
『ううん、別に良いよ。ただ……ボク達の会話は後の方が良いみたいだし、とりあえずキミの肩の上で大人しくしてるよ』
『わかった、ありがとうな、鈴音』
『どういたしまして』
鈴音の返事を聞いた後、俺は少女と話をしながら夜道を歩き続けた。そしてそれから程なくして、先の道に子供のような背丈の誰かが立っているのが見えたため、それに向かって近付いてみた。するとそこには、肝試しの提案者の雪村と1番のクジを引いたペアの姿があった。
あれ、何で雪村が……?
少しだけ不思議に思った後、俺は肝試しを始める時に雪村が進行役みたいに動いていた事を思い出した。
……なるほど、雪村はスタートでありゴールでもあるここで待つ役だったのか。
俺はその事について納得した後、少女と一緒に雪村達の所へ歩いていこうとした。しかしその時、俺は手の感触から鈴音の鳴き声の一件で少女と手を繋いでいた事を思い出した。
あ……そういえば、あの時からこの子と手を繋いでいたんだっけ……。うーん……もしこのままゴールしたら、手を繋いでいた事で、この子がからかわれるかもしれないよな。……よし、とりあえずこの子自身はどうしたいか、一応訊いてみよう。
「えっと……一つ良いかな?」
「うん、どうしたの?」
「この繋いでる手についてなんだけど……君はどうしたい?」
「繋いでる手……あっ!」
少女はどうやら俺と同じで、手を繋いでいた事を今思い出したらしく、しっかりと繋がれている手をジッと見て、少しだけ頬を赤く染めながら慌てた様子で話し掛けてきた。
「ど、どうしよう……! もし……このままゴールしたら、みんなから何か言われちゃうよね……!」
「……たぶんな」
俺は少女の言葉に返事をしながら、どうするべきかを考えていた。
……たぶんこのままゴールしたら、俺やこの子が思っている通り、何かからかわれたりするかもしれない。でも……。
俺が少女の方をチラリと見ると、少女の表情から皆に見られる前に手を離すべきだと考えている気持ちと暗い夜道に対する恐怖の色が見て取れた。俺はその様子を見て、ある決断をした。
この肝試しにおいて、この子のパートナーであるのは俺だ。だったら、最後の最後までこの子をサポートし、守ってあげる必要がある。肝試しのパートナーとして、そして男として……。
俺は強く決意した後、繋がれている手を更にしっかりと握った。すると少女は少し驚いた様子で呟くように声を掛けてきた。
「柚希……君?」
「行こう、このまま」
「え……で、でも……」
不安そうな様子を見せる少女に、俺は微笑みながら静かに言った。
「大丈夫だよ。たとえ雪村達に何かを言われても、俺がしっかりと説明をする。だから、安心してくれ」
「柚希君……」
少女は小さな声で言いながら、俺の顔をジッと見ていたが、やがてコクンと頷くと、雪村達が待つ方へと顔を戻した。
「よし……それじゃあ行こうか」
「……うん」
そして俺達は雪村達が待つゴールへ向けて再び歩き始めた。
ゴールへ着いてみると、1番ペアは肝試しの内容について話をしており、雪村は暇そうに俺達が歩いて行った方向をジッと見つめていた。その様子に少しだけ苦笑いを浮かべた後、俺は雪村にゴールしたことを告げるために声を掛けた。
「雪村、2番ペア、無事に戻ったぞ」
「……ん? おっ、柚希に金ヶ崎じゃん、お疲れさん」
そして雪村は俺から懐中電灯を受け取ろうとしたその時、俺と金ヶ崎の手が繋がれている事に気付いたらしく、弾かれたように俺達に視線を移すと、少しニヤッとしながら話し掛けてきた。
「柚希、どうやら肝試しを利用して金ヶ崎と仲良くなってたみたいだな?」
「生憎だが、雪村。お前が考えているような事はしてないよ。肝試しの最中に何か不気味な声が聞こえてきたから、安心してもらうために繋いでいただけだからな」
「不気味な声……! それって、お化けが出たって事か!?」
「いや、本当に出てきてたかは分からない。ただ……その時にこの子、金ヶ崎が怯えちゃってたから、少しでも安心してもらうために手を繋いでいたんだよ」
「ふーん……まあ、良いや。とりあえずお疲れさん、柚希、金ヶ崎」
「ああ」
「うん」
雪村の言葉に対して返事をした後、俺は金ヶ崎の方へ視線を向け、微笑みながら声を掛けた。
「お疲れさま、金ヶ崎。よく頑張ったな」
「う、ううん……柚希君が手を繋いでくれてたおかげだよ。柚希君、本当にありがとうね」
お礼を言ってくれている金ヶ崎の顔には、さっきまであったはずの恐怖などの色は無く、その代わりに信頼や心からの安心などの色が見えていた。
うん、これで完全に大丈夫だな。後は……。
そして俺は静かに微笑みながらそれに答えた。
「どういたしまして。さてと……それじゃあそろそろ……」
「……うん」
俺達はしっかりと繋がれていた手を静かに離した。すると、金ヶ崎は俺に向かってにこっと笑った後、1番ペアにいた女子の方へ向けて歩いて行った。そしてその様子を静かに見ていた時、雪村がこっそりと話し掛けてきた。
「……柚希、金ヶ崎と手を繋いでみてどうだった?」
「どうって……例えば?」
「……え、手を繋いでみてドキドキしたとか嬉しかったとかそういうのは無かったのか……?」
「そういうのは……無いな。あくまでも金ヶ崎に安心してもらうために繋いでいただけだから、そういうのはぜんぜん無かったな」
俺が静かに答えると、雪村は信じられないといった表情を浮かべた。
「マジかよ……繋いでる時に金ヶ崎の事とかは何とも思わなかったのか……?」
「うーん……金ヶ崎はたしかに可愛い子だとは思う。ただ、さっきも言ったけど、手を繋いでいたのは金ヶ崎に安心してもらうためだから、それ以外の感情は一切ないな」
俺が静かに答えると、雪村はとても驚いた様子を見せた。
「そ、そっか……流石、モテる奴は違うな……」
「……それに関しては、本当に不本意なんだけどな。さてと……それじゃあ他の皆が戻ってくるまで、その辺で適当に待ってることにするよ」
「あ、ああ、分かった」
雪村の返事を聞いた後、俺は皆から見えづらい暗がりになっている所を探した。そして見つけ終えた後、俺は肩に留まっている鈴音に声を掛けた。
「お待たせ、鈴音。ずっと待ってたから暇だったろ?」
「ううん、全然。むしろ柚希のカッコいいとこが見れてたから、スッゴく楽しかったよ」
「そっか、なら良かったよ」
そうやって鈴音と話していた時、後ろの方からこころ達の妖気を感じ、俺は静かに振り向いた。そして、こころ達がしっかりと揃っている事を確認していると、こころ達は微笑みながら俺に声を掛けてくれた。
「ふふっ、お疲れさまです、柚希さん」
「お疲れさん、柚希の旦那」
「お疲れさまです、柚希お兄さん」
「お疲れさまだな、柚希」
「うん、皆こそお疲れさま。皆がいてくれたから、安心して肝試しに臨めたよ。本当にありがとうな」
俺がお礼を言うと、雷牙の頭に乗っていた風之真がニッと笑いながらそれに答えた。
「へっ、あんなん朝飯前……いいや、夜食前ってもんだぜ」
「風之真……流石に夜食前というのはおかしくはないのか?」
「んー……そうかぃ? 時間的に見りゃあ、そろそろ夜食時だと思うんだが……」
「……いや、そういう事では無くてだな……」
風之真の言葉に雷牙が少しため息を付きながら答えていると、アンを肩に乗せたこころが俺の肩に留まっている鈴音に微笑みながら声を掛けた。
「初めまして、鈴音さん。私は覚のこころ、柚希さんのお友達兼仲間の一人です♪」
「そして私はアンズーのアン、こころお姉さんと同じく柚希お兄さんのお友達兼仲間の一匹です」
「うんうん、こころにアンだね。そしてそっちにいるのが……」
「鎌鼬の風之真と雷獣の雷牙だ。さっき言いそびれてたけど、雷牙は鈴音と同じく旅をしていたんだよ」
「へー、そうなんだ-。ふふっ、種族はぜんぜん違うのに何だか親近感が湧いてくるよ」
「それなら良かったよ。それと……一緒に暮らしてる仲間は他にもいるんだけど、風之真達も含めて皆良いやつばかりなんだ」
「ふーん、そうなんだ。それならボクも安心かな?」
「安心……?」
「うん」
そして鈴音は俺の顔をジッと見ながら言葉を続けた。
「ねえ、柚希。ボクもキミ達の仲間に入れてくれないかな?」
「え……それは別に良いけど、どうしたんだ、いきなり……」
俺が驚きながら訊くと、鈴音は楽しそうに笑いながらその理由を答えてくれた。
「ふふっ、何だかキミ達を見てたら、とても楽しそうだなぁと思ってね。それにさ……旅を始めたのも、元々は故郷とは別の場所が見たかったから、そして面白そうな物が見たかったからだったんだ」
「そうだったんだな」
「うん。だから……」
そして鈴音はニコッと笑いながら言葉を続けた。
「みんな、ボクもキミ達の仲間に入れてくれないかな?」
「鈴音……ああ、もちろんだ」
「ふふっ、私も大歓迎です♪」
「もちろん私も大歓迎です!」
「へへっ、こんな面白そうな嬢ちゃん、拒むわきゃねぇよな!」
「面白そうかは別として……新たな仲間が増えるというのなら、私も拒む理由は無いな」
「(みんな……! うん、これからよろしくね!)」
俺達の返事を聞くと、鈴音はとても嬉しそうな様子でニッコリと笑った。
さて……それじゃあそろそろあれについて話しておくか。
俺はカバンから『絆の書』を出した後、俺自身の事や『絆の書』の事などを鈴音に話した。そして話し終えると、鈴音はとてもワクワクした様子で話し掛けてきた。
「そっか、そんな事もあるんだね……! ふふっ、やっぱり旅はしてみるもんだね♪」
「そうかもな。さてと、それじゃあ……」
俺はこころの方に視線を向けた後、『絆の書』をこころへと差し出した。
「こころ、ちょっと『絆の書』を持っててくれるか?」
「それは良いですけど……一体どうして?」
「ちょっと新しい方法を考えてみたから、それを試してみたくてな」
「新しい方法……分かりました、それじゃあお預かりしますね」
「ああ」
俺は『絆の書』の空白のページを開いた後、こころに『絆の書』を手渡した。そして鈴音とアイコンタクトを交わし、鈴音が右の翼を空白のページに置いた後、俺は左手で『ヒーリング・クリスタル』を握り、右手で空白のページに触れ、いつものように魔力を注ぎ込むイメージをした。
……さて、成功するかな。
そんな事を考えながら精神を集中させ、体の奥から魔力が沸き上がり、腕を伝って手のひらにある穴から空白のページに流れ込むイメージを浮かべつつ、静かに魔力を『絆の書』へと注ぎ込んだ。そして、必要な量が流れ込んだ瞬間、少しだけ頭がキーンとなったが、いつものように倒れ込みそうになる事は無かった。
……よし、こっちは成功したな。後は……。
俺が『絆の書』へ視線を落とすと、そこには普通の雀とは違う黒い翼をはためかせながら空を飛ぶ、鈴音の姿と夜雀の詳細について書かれた文章が浮かび上がっていた。
うん、こっちも成功。どうやらこの方法でしばらくは大丈夫そうだな。
新たな方法が無事に成功した事で、俺は心の底から安堵していた。新しい方法、それは先日の雷牙の登録の際に思いつき、天斗伯父さんに加えてもらった『ヒーリング・クリスタル』の新機能、『力の貯蔵と分配』を利用した物だ。
……まあ、それでもさっきみたいに少しだけは俺にも疲労とかの形で負荷は掛かるみたいだけど。
そんな事を考えた後、俺は左手で握っていた『ヒーリング・クリスタル』に視線を移した。『ヒーリング・クリスタル』の中は魔力の欠乏により少しだけ白く濁ってはいたものの、穏やかな月の光に照らされると、その濁りは徐々に消えていった。それを確認した後、俺はこころの方へと視線を戻した。
「こころ、ありがとうな」
「ふふっ、どういたしまして♪」
そしてこころから『絆の書』を受け取った後、俺は鈴音のページに魔力を流し込んだ。すると『絆の書』から小さな光の玉が浮かび上がり、俺の肩の辺りまでふよふよと移動した。そして光の玉は鈴音の形に変化した後、俺の肩にポトンと落ちてそのまま肩に留まった。
「アレが居住空間かぁ……ふふっ、何だかとっても楽しそうな場所だったなぁ……」
「ふふ、気に入ってくれたようで良かったよ。さて、あっちは……」
俺が雪村達の方へ視線を移すと、5番目のペアである夕士達が戻ってきた所だった。
夕士も来たことだし、そろそろ戻っておくかな。
「よし……皆、向こうに戻っておこう。そろそろ戻らないと、流石に怪しまれそうだしさ」
「はーい♪」
「はい!」
「おうよ!」
「承知した」
「了解!」
そして俺達は夕士や雪村達がいるゴール地点へと戻った。
「うーん……! 肝試し、スッゴく楽しかったな!」
「そうだな」
「ああ」
夕士が楽しそうに言うその言葉に、俺達は静かに答えた。全ペアが無事に戻ってきた後、俺達は各自で解散をする事にした。そして雪村達が女子メンバー達を連れて帰っていく時、金ヶ崎が突然俺の方へ視線を向け、ニコッと微笑みかけてきたのが少しだけ印象に残っていた。
そういえば……俺は前世でもあまり彼女を作ることとかに興味が無かったなぁ……。それよりも妖とか西洋の幻獣とかの話を追う方がずっと好きだったし……。
穏やかな輝きを放つ青白い月を見上げながらそんな事を考えていたその時、長谷が何かを思い出したように声を上げた。
「そういえば、さっき女子の一人が遠野の事を見てたけど……遠野、肝試し中に何かあったのか?」
「……ああ、ちょっとな」
「ちょっとなって……そのちょっと、俺達はスゴく気になるけどな……!」
「……そうだな。遠野、何があったのか……根掘り葉掘り聞かせてもらうぞ?」
「え……あぁ、それは……」
……正直、金ヶ崎の事を考えるとあまり話したくは無いんだけど……。
俺が金ヶ崎との事について話すべきか迷っていると、鈴音達がその俺の様子を見てクスクスと笑っていた。
……まあ、夕士達なら言い触らさないだろうし、良いことにしちゃおうかな。
俺は静かに観念した後、夕士達に肝試し中の事を話した。そして話をしている最中、何故だか金ヶ崎のニコッと微笑みかけてきたあの顔が鮮明に浮かんできた。
金ヶ崎、か……俺の苗字が遠野なせいか、何か不思議な『縁』を感じるな……。
そんな事を思いつつ、金ヶ崎との肝試しの話を終えた後、俺は今度は夕士達が話してくれた肝試しの話を聞きながら、大切な仲間達と共に優しい月の光に照らされた道を歩き続けた。
政実「第7話、いかがでしたでしょうか」
柚希「今回はオリキャラ回+パワーアップ回みたいな感じだったな」
政実「うん。雪村は動かしやすいキャラだから、これからも度々出してくかもしれないし、金ヶ崎も機会があれば出していくつもりだよ」
柚希「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めよっか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」