転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

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政実「初めましての方は初めまして、他作品を読んで頂いてる方はどうも、作者の片倉政実です。今回からこちらの作品の投稿もさせて頂きますので、楽しんで読んで頂けたらとても嬉しいです。
これからよろしくお願い致します」
柚希「どうも、この作品の主人公の遠野柚希です。ところで、この作品を投稿しようと思ったのって何でなんだ?」
政実「それはね、純粋に書きたいと思ったからかな。原作が昔から好きで、前々から書きたいとは思ってたんだけど、ちょっと恐れ多くて踏み切れなかったんだよね」
柚希「ふーん、なるほどな。さてと……それじゃあ残りは後書きで話すことにして、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、プロローグをどうぞ」


プロローグ 転生者と天上と魔導書と

 突然だが、幽霊や妖怪、魔物達といったモノ達に対して、貴方はどのような印象を持っているだろう。おそらく()()()()()()()だったり()()()()だったり、または()()()()()()()()()()()()だったりとその印象は十人十色だと思う。

俺は昔から幽霊や妖怪、魔物達のような超常的なモノ達が、そしてそういうモノ達が出てくる物語が好きだった。周りの友達がそういったモノ達から興味を無くしていく中、俺だけはずっとそういったモノ達の話を追い、いつかそういったモノ達に会ったり、話をしたり友達になりたいとずっと願っていた。でも──。

 

「……自分がそれら自身になりたい、なんて言った覚えはまったく無いんだけどなぁ……」

 

 全体に鈍く伝わってくる体の痛みと降り続く雨の冷たさなどを感じながら、俺は仰向けのままぼそっと呟いた。

 

 ……あの本、欲しかったなぁ……。

 

 周囲で上がっている様々な人の怒声や悲鳴、そして野次馬達が携帯で写真を撮るカシャッカシャッという音を聞きながら、ぼんやりとそんな事を考えている内に、視界はまるで夜のように徐々に暗くなっていった。

 

 あはは……そりゃあ、そうだよな。何せ、俺は……車に……()か、れ……。

 

 途切れ途切れになっていく思考を続けている内に俺の意識は完全に失われた。

 

 

 

 

 ……ん? 光……?

 

 意識が失われたと感じた直後、何故か俺は目の前にうっすらとした光を感じ、それと同時に何か硬い物の上に寝ている事に気付いた。

 

 でも……俺はさっき死んだはずだ。なのに、どうして……。

 

 人が死を迎えた後に行くとされる場所、天国や地獄といった場所に光が無いわけではないのだろうが、俺が今感じている光はそういった神々しい光などでは無いまるで普通の晴れた日に目を閉じている時に感じるような光だった。そのため、俺は自分が今置かれている状況がとても不思議だった。

 

 よし……このままジッとしてても仕方ないし、とりあえず目を開けてみるか。

 

 俺は今自分が置かれている状況を知るために、ゆっくりと目を開けた。するとまず目に入ってきたのは、快晴の青空と眩しいほど輝く太陽だった。

そして、そのまま体を起こして周りを見回してみると、俺の周囲には色とりどりの綺麗な花々が咲き誇り、更にその花に留まっていたり、ひらひらと飛んでいたりする様々な種類の蝶。少し遠くの方には、青々とした木々で出来た森があり、何故か離れているはずのここからでも、そこに棲んでいると思われる動物達の姿が見えた。

そして俺の目の前には、虹色に輝く橋が掛かった綺麗に透き通った川があり、橋の向こうには白い(もや)のようなものが漂っていた。

 

 うーん……何なんだろう、ここは……。何だかのどかな場所みたいだけど、人の気配は無いし。それに──。

 

 俺は次に自分の様子に注目した。先程、交通事故に遭った事で破れていたり血で汚れていたはずの制服は、新品同様に綺麗になっており、自分の体にも先程まであった傷などは影も形も無くなっていた。

 

 うーん、この色々な情報から察するに……ここって、もしかして天国って奴なのか……? でも動植物の姿はあるのに、人や天使的な存在がいないし……。

 

 俺はこの謎の空間について、色々と考えを巡らせてみたが、いたずらに時間が過ぎていくだけだった。

 

 もっとも、ここに時間の概念があるかどうかは分からないけどな。まあ、このままいてもしょうがないし、とりあえずあの靄のようなのに向かって歩いてみるか。

 

 俺は座り込んでいた状態からゆっくりと立ち上がり、少しふわふわとする地面を歩き、川に掛かっている橋を渡り、そのままもやの中へと進んでいった。

 

 ……この靄、だいぶ濃いみたいだな。

 

 あまりの靄の濃さに、俺はだんだん方向感覚を失っていった。

 

 ……今、どっちに向かって歩いてるのかまったく分からない。なのに、何故かこっちに行けば良いって頭が分かってる気がする……。

 

 その事に少しだけ疑問を覚えながらも、俺は靄の中をひたすら歩いていった。すると、突然目の前が開け、周囲が白い壁で囲まれた部屋に辿り着いていた。

 

「今度は部屋か……」

 

 俺は少しだけ警戒をしながら、部屋の中を見回してみた。部屋の床には真っ赤な絨毯が敷かれ、部屋の隅には様々な本が収められている高価そうな本棚が置かれ、部屋の中心には一人掛けの椅子と机があり、そして椅子の後ろの壁には金色の扉があった。

 

 本棚とか机があるところを見ると……ここは書斎かオフィスみたいな所なのかな……?

 

 俺がこの部屋について考えを巡らせていたその時、後ろから穏やかな声が聞こえてきた。

 

「おや、もういらっしゃっていたのですね」

「え……?」

 

 振り向いてみると、そこにいたのは優しそうな笑みを浮かべている白い服を着たクリーム色に近い金色の長髪の男性だった。

 

「えっと、貴方は……」

「私は、そうですね……あなた方が言うところの、『神』と言ったところでしょうか」

「神……?」

 

 神様……たしかに見た目とかはそれっぽいけど……?

 

 俺が少し警戒しながら神様の事を見ていると、神様は穏やかに笑い始めた。

 

「ふふっ、たしかにあなた方が認識している『神』の服装に似せてはいますから、やはりそう思うでしょうね」

「あ、やっぱり──って、あれ?」

 

 もしかして……俺が考えてる事が筒抜けになってるのか……?

 

 俺が不思議そうにしていると、神様はクスッと笑いながら答えてくれた。

 

「ええ、その通りです。やはり不思議に思いますよね?」

「ええ、まあ……」

 

 よくよく考えてみたら、神話上の神様も色々と凄いし、今更と言えば今更かもな……。

 

 そんな事を考えて少し気持ちを落ち着けた後、俺は神様に話し掛けた。

 

「えっと……まず一個訊きたいんですけど、ここは……天国なんですか?」

「そうですね……具体的には少し違うのですが、あなた方が言うところの天国に近い場所と言えるかもしれませんね」

「やっぱりそうなんですね……」

 

 ……って事は、やっぱり俺は死んだのか。でも──。

 

「死んだ時でも名前とかの生前の記憶は残ってるものなんですね」

「まあ、そうですね。ただ、時には死のショックによって生前の記憶の一部を失っている方もいるようですが」

「なるほど……」

 

 俺の場合は死んだ時の事も鮮明に覚えてるから、正直良いのかは微妙なところな気がするな……。

 

 俺がその事について考え事をしていると、神様の顔が真剣なものに変わった。

 

「さて……それでは、そろそろ本題に入りましょうか」

「本題……ですか?」

「はい。遠野柚希(とおのゆずき)さん、貴方が亡くなってしまったのは、私の部下のミスによるものなのです……」

「部下……それにミスって……」

 

 さっきまでかなり神秘的だったのに、いきなり会社みたいな話になってきたな……。

 

「会社……とは少し違いますが、あなた方人間の皆さんについての書類などはあります。そしてそれが破れてしまったりすることで、本来の寿命から大幅にズレて亡くなってしまうのです……」

「なるほど……つまり、俺の場合もそういう理由だったわけですね?」

「はい……部下のミスは上司である私のミスでもあります。柚希さん、本当に申し訳ありませんでした……」

 

 神様は本当に申し訳なさそうな様子で俺に頭を下げた。

 

 ……そっか、俺の死にはそんな理由があったのか……。

 

 俺は自分の死因がわかり、少しだけスッキリしたような感じがした後、俺は考え事を始めた。

 

 たしかに俺は、この人の部下のミスで俺は死んだかもしれない。でも、ここでこの人に対して怒るのは何か違う気がするし、自分の死について今更怒ってもしょうがないよな。

 

 俺はニコッと笑った後、神様に優しく話し掛けた。

 

「頭を上げて下さい、神様。自分が死んでしまったことに対して、俺は別に怒ってなんていませんから」

「柚希さん……」

 

 神様は呟くような声で言った後、少し安心したような顔で言葉を続けた。

 

「本当にありがとうございます、柚希さん」

「いえいえ。まあ……家族に別れを告げられなかった事とか死んだ後の家族の様子は少し心残りではありますけど、死んでしまった事に関しの心の整理は出来ているので大丈夫です」

 

 死んでしまった今、俺に出来るのはジタバタせずに目の前の現実を受け止めることだけだからな。……あ、そういえば……。

 

 俺は気になったある事について神様に訊いてみることにした。

 

「神様。神様のお名前は何と言うんですか?」

「私の名前……そういえば、まだ簡単にしか自己紹介をしてませんでしたね。私の名前はシフルと言います。よろしくお願いしますね、遠野柚希さん」

 

「シフルさんですね、分かりました。 ……あ、それと……俺の事はさん付けじゃなくても良いですよ」

「分かりました。それでは、改めてよろしくお願いしますね、柚希君」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、シフルさん」

 

 そして俺は、シフルさんとがっちりと握手を交わした。

 

 昔から幽霊や妖怪みたいモノ達に会いたいと思っていたけど、まさか死んでから神様と知り合いになるなんてな……。

 

 握手を交わしながらそんな事を考えていると、シフルさんはニコリと微笑みながら静かに口を開いた。

 

「さて……自己紹介を終えたことですし、そろそろもう一つの本題に入りましょうか」

「もう一つの本題……ですか?」

「はい。柚希君、貴方には──」

 

 そして、シフルさんの口から語られた言葉に、俺は静かに驚きの声を上げることになった。

 

「『転生』をして頂きます」

「転生……? 転生って、あの転生ですよね?」

「はい、柚希君の考えている通りの転生で間違っていません」

「転生……俺が……?」

 

 転生、か……滅多にできることでも無いし、俺自身したい気持ちはあるけど──。

 

「転生をすると言っても、どんな世界に転生をするんですか?」

 

 俺が問い掛けると、シフルさんはニコッと笑いながら答えてくれた。

 

「それは、転生をしてからのお楽しみです。ですが、柚希君にとってとても楽しい世界であるのは間違いないと思いますよ?」

「俺にとってとても楽しい世界……」

 

 何だろう……俺にとってとても楽しいって事は、俺が会いたいと思ってる非日常的な存在達が棲んでる世界とかなのかな……? まあ、今訊いてみても転生後のお楽しみとしか言われなそうだし、ここは大人しく後の楽しみとして取っておくことにするかな。

 

 心の中でそう決めた後、俺はシフルさんに返事をした。

 

「分かりました。ところで、転生をするのは今からですか?」

「今からと言えば今からですが、その前に一つ、柚希君にお渡しするものがあります」

 

 シフルさんが手を上に向けてゆっくりと広げると、シフルさんの手に徐々に光が集まり始めた。そして光は少しずつ球のような形に整い始め、完全に球体になった途端、光の球はピカッと強い光を放った。その瞬間、その眩しさから俺はすぐに目を閉じたが、目を瞑った状態で光が止んだことを感じた後、俺はゆっくりと目を開けた。すると、シフルさんの手には金色の宝玉のような物が乗っていた。

 

「これは……宝玉、ですか?」

「これは『力の宝玉』という物で、邪な願いや世界のバランスを壊しかねない願い以外ならば、三つまで願いを叶えることが出来る物です」

「願いを三つまで……そんな物を、俺に……?」

「はい。柚希君ならば、きっと大丈夫だと思ったので」

「シフルさん……ありがとうございます」

「いえいえ。それではまず、この『力の宝玉』を受け取って下さい」

 

 俺は静かに頷き、シフルさんから『力の宝玉』を受け取った。そして手の中にある宝玉の微かな重みを感じながら、俺は集中をするために静かに目を閉じた。

 

「さあ、心の中で思い浮かべて下さい。柚希君が叶えたい、その願いを」

 

 暗闇の中でシフルさんの穏やかな声を聞きながら、俺は叶えたい願いについて考えを巡らせ始めた。

 

 願い……どんな世界に行くのか分からない分、どんな世界でも大丈夫な物にしたいけど……。

 

 願いについて決めかねていたその時、ふと生前に好きで幾度となく読み返した本の事を思い出した。

 

 ……ここは一つ、賭けに出るか。転生先がここだっていう想定の下に、願いを考えてみよう。まあ……もし、転生先がここじゃなかったその時は……自分のカンが悪かったって事で諦めよう。

 

 静かにうんうんと頷いた後、俺は再び願いについて考えを巡らせた。

 

 もし、転生先があの世界だったとして、あったら便利なのは……『これ』と『これ』……それと『これ』かな。……うん、この三つで大丈夫そうだ。

 

 心の中で確信したその瞬間、手の中に『力の宝玉』がピカッと強く光ったのを感じた。そして光が止んでから目を開けると、『力の宝玉』は淡い金色の光を帯びたまま、徐々に光の粉のような物へと変わっていき、キラキラと輝きながら徐々に形作っていき、今度は小さな水晶のような物へと姿を変えた。

 

 これで……良かったのかな?

 

 俺が小さく首を傾げていると、シフルさんはクスリと笑いながら俺の疑問に答えてくれた。

 

「はい。これで柚希君の願いは全て叶えられましたよ」

「あ、はい……分かりました」

 

 何というか……このフワッとした叶えられ方といい、この変わり方といい、この感触が無いと何だか幻でも見てたんじゃないかって錯覚してしまいそうになるな……。

 

 手の中にかすかに残っている『力の宝玉』の感触の余韻、そして手の中にある物の微かな重さに浸りながら、そんな事をぼんやりと考えていると、シフルさんが穏やかな微笑みを浮かべながら話し掛けてきた。

 

「ところで、柚希君の中から膨大な力を感じますが、柚希君は何を願ったのですか?」

「あ、えっと……実は、すぐに願いが思い付かなかったので、転生先の予測を立てて、その世界で住むにあたってあったら便利な物を願ったんです」

「ほう……」

「まず、最初に欲しいと思ったのは、シフルさんが感じている通り、霊力や魔力といった『力』です。想定している世界では、持っていて損はない物だったので、最初にこれを選びました。

 次に願ったのは、周囲の様子を探るための『気や波動を感じ取る能力』です。これさえあれば、自分や周囲の人が不慮の事故とかに遭う確率もグッと減らせるんじゃないかと思い、これにしました。そして最後は――」

 

 俺は手の中にある透明な水晶を見せながら言葉を続けた。

 

「この『治癒』や『浄化』の力を内包した宝石です。と言っても、実際に願ったのは、『治癒や浄化の力を持った物』だったので、この水晶の形を取ったのはちょっと驚いていますけどね」

 

 俺が説明を終えると、シフルさんは微笑みながら静かな声で言った。

 

「ふふ、なるほど。柚希君の願いは自分だけでなく、他人の事までも考えた物ばかりなのですね?」

「あはは……ちょっとお人好し過ぎますよね?」

「いえ、私はとても良いと思いますよ。一つの存在が全ての存在を救うことこそ出来ませんが、自分にとって『見えている』存在、そして『手の届く』存在を助けようとすることは、とても大事なことですから」

「自分にとって『見えている』存在、そして『手の届く』存在……か」

 

 シフルさんの言葉を繰り返しながら、俺は体の奥にある『力』達と手の中にある宝石の重みをうっすらと感じた。

 

 このもたらされた願い達の力は、ある種強大なモノと言える。ちゃんと考えて使うようにしないとな……。

 

 心の中で強く決心しながら、俺が水晶を制服のポケットに入れていると、シフルさんが何かを思い出したように声を上げた。

 

「……っと、そうだ。柚希君にはもう一つ、渡そうと思っている物がありました」

「渡そうと思っている物……?」

 

 シフルさんの言葉に疑問を覚えていると、シフルさんは再び手を上に向けて広げた。すると、突如シフルさんの手の中に真っ白な表紙の一冊の本が現れた。

 

 これは、本……? うっすらと魔力を感じるから、たぶん魔導書の類いだと思うけど……。

 

 俺がその本についてあれこれと予測を立てていると、シフルさんは穏やかな声で本についての説明をしてくれた。

 

「これは『絆の書』という魔導書です。まあ、今は表紙も中も白紙なんですけどね」

「表紙も中も白紙……」

「はい。この『絆の書』は所有者がいて、初めて意味を成す物なのです。柚希君、この本に触れてもらっても良いですか?」

「あ、はい」

 

 返事をした後、俺は表紙にそっと触れた。すると、表紙が急に光を放ったと同時にその表面に徐々に文字や何かの絵のような物が浮かび上がった。

 

 何だ、この文字……今まで見たことが無いはずなのに、何て書いてあるのかがしっかりと理解(わか)る……!

 

『絆の書』の表紙に浮かび上がった文字と絵を食い入るように見ていると、シフルさんがニコッと笑った。

 

「これで『絆の書』の所有者は柚希君になりました。どうぞ、受け取って下さい」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 俺は少しだけ緊張をしながらも、シフルさんから『絆の書』を受け取った。

 

 これが俺の魔導書……か。当然ではあるけど、魔導書なんて持つのは初めてだからちょっと緊張するな……。

 

 手の中にある『絆の書』を緊張しながら眺めていると、シフルさんが穏やかな様子で声を掛けてきた。

 

「それでは、『絆の書』の説明に移りますね。この『絆の書』には、所有者と絆を結んだモノ達を入れる事が出来ます」

「絆を結んだモノ達を入れる……?」

「はい。と言っても、封印をするとかではなく、『絆の書』を扉の代わりとして、絆を結んだモノ達の居住空間のような場所へと送る形ですね。なので、絆を結んだモノ達は、本を通して話し掛けることも出来るため、柚希君に許可を取れば、好きな時に出入りが出来る事になります」

「なるほど……」

「そして絆を結んだモノ達の姿と詳細は、白紙のページに順々に書き込まれていくので、誰かを出したい時は、そのモノのページを開き、魔力を注ぎ込むことでそのモノを外へと出す事が出来ます。そして、『絆の書』にはもう一つ重要な力がありまして、絆を結んだモノと力を同調させることで、柚希君の中にそのモノを代表する力を宿らせることが出来ます」

「力を宿らせる……」

「はい。例を出すならば、脚力に長けたモノならば、魔力を同調させることで、柚希君の脚力を強化することが出来、風を起こす力を持つモノならば、魔力を消費して風を起こす事が出来るようになるといったところです」

「なるほど……でも、デメリットはありますよね?」

「はい。魔力を同調させている間は、お互いに少しずつ魔力を消費する事になります。なので、どちらかの魔力が尽きてしまった時は、強制的に同調が解かれます。因みに、柚希君の魔力が無くなった時は、しばらく『絆の書』の力を使うことが出来なくなり、同調していたモノの魔力が無くなった時は、しばらくそのモノとの同調が出来なくなります。なので、魔力の残量には気を付けて下さいね」

「はい、分かりました」

 

 絆を結んだモノとの同調か……何かの折に絶対頼ることになりそうだな……。

 

 そんな予感を感じながら、俺は『絆の書』のページをペラペラと捲った。すると、シフルさんが何かを思いついたように声を上げた。

 

「そうだ。せっかくなので、一人だけ紹介させてもらいますね」

「紹介って……誰かアテがあるんですか?」

「ええ。彼は知識が豊富なので、きっと柚希君の助けになってくれますよ。……では──」

 

 シフルさんがパチンと指を鳴らすと、シフルさんの隣に銀色の扉が現れた。そしてシフルさんが現れた扉をコンコンと叩くと、ガチャッという音を立てて、ゆっくりと扉が開いた。

 

「……シフル、我に何か用か……?」

 

 少し不機嫌そうな様子で扉を潜ってきたのは、三つ目の牛のような動物の仮面を付け、灰色の和服を着た白い短髪の男性だった。

 

 三つ目の牛……それに知識が豊富って、まさか……?

 

 俺がその男性の正体に関して、大体の予想を立てていると、男性は俺の存在にようやく気付いた様子で、仮面越しに俺の事をジロジロと見た後、不機嫌そうな様子のままシフルさんに話し掛けた。

 

「……シフル、この人間はお前の新しい部下候補か何かか?」

「いいえ、違いますよ、義智(よしとも) さん。この方、柚希君はこれから転生をする方です」

「そうか……それで、なぜ我を呼んだのだ?」

「貴方に柚希君のアシストをお願いしようと思いましてね。義智さんの豊富な知識は、柚希君の転生先でも助けになると思いますから」

「断る。……と言っても、無駄なのだろう?」

「いえ。本当に嫌なのであれば、私も無理強いはしませんよ。ただ、義智さんならば適任だと思ったので、こうして来て頂いたのです」

 

 優しい笑みを浮かべながら言うシフルさんの言葉を聞くと、義智さんは深くため息をつきながら答えた。

 

「はあ……分かった。お前の願いを聞くとしよう、シフル」

「ありがとうございます、義智さん」

「……礼などいらん。我もお前には借りがあるからな。その分を返すためと考えれば、大したことでは無いと思ったに過ぎん」

「ふふ、理由はどうであれ、引き受けて頂きありがとうございます」

「やれやれ……普段のその腰の低さ、本当に神とは思えんな」

「あはは、そうかもしれませんね」

「まったく……」

 

 義智さんは呆れたように言った後、俺の方へと顔を向けた。

 

「小僧……いや、柚希といったか。我は聖獣の一種、白澤の義智という。シフルに借りがあり、それを返すためにこの天上において手伝いをしている者だ。これからよろしく頼む」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします、義智さん」

「……さんはいらん。ついでに敬語もいらん。敬語など、このシフルで聞き飽きているのでな」

「……ふふ、じゃあ……お言葉に甘えさせてもらうかな」

 

 小さく笑いながら言った後、俺は義智に右手を差し出しながら言葉を続けた。

 

「改めてこれからよろしく、義智」

「ああ」

 

 そして俺達はガッチリと握手を交わした。人型を取っているせいか、義智の手にはじんわりとした温かさがあったが、白澤という聖獣が持つ力が発する波動も同時に感じたため、俺の中でワクワクと緊張が混じり合いながら込み上げてきた。

 

 ……それにしても、まさか最初から白澤が仲間になってくれるなんてな……。こうなってくると、これからどんな奴が仲間になってくれるのか、これからワクワクするなぁ……!

 

 俺が心の中で静かにワクワクしていると、シフルさんがニコッと笑いながら俺に話し掛けてきた。

 

「さて……柚希君、『絆の書』の最初のページを開いてもらえますか?」

「はい、分かりました」

 

 返事をした後、ゆっくりと『絆の書』の最初のページを開くと、シフルさんは白紙のページを見ながら静かに頷きつつ言葉を続けた。

 

「お二人とも、そのページに手をついて下さい」

「はい」

「わかった」

 

 そして平手でページに触れた後、俺が何となく目を閉じていると、シフルさんの優しい声が再び聞こえてきた。

 

「それでは、頭の中で自分の体から腕を通して、魔力をページに注ぎ込むイメージをして下さい」

「……はい」

「……うむ」

 

 俺達はそれに返事をした後、シフルさんが言った通りのイメージを頭の中で描き始めた。

 

 体の中の魔力を腕を通して、手のひらからページに注ぎ込むイメージ、っと……。

 

 すると──。

 

 ぐっ……!? な、何だ……これ……!?

 

 体の中にある何か──魔力が突然独りでに動き始め、凄い勢いで腕まで移動し、そのまま手のひらに空いている穴から『絆の書』のページへと流れだしたようなイメージが頭の中に浮かんだ。そしてそれが全て流れ終えた時、身体中の力が一気に抜け、危なく倒れ込みそうになったが、何とか両足で体を支えることで倒れずにすんだ。

 

 ふぅ……危ない危ない。もし、毎回こうなるんだとすると、早めに慣れるようにしないといけないな……。

 

 心の中で静かに決心した後、ふと義智の方を見てみると、そこにいたはずの義智が忽然と姿を消していた。そしてそれに疑問を抱きながら『絆の書』に目を戻してみると、そこには筆のような物で妖の白澤のそのものの姿として描かれた義智の姿、そしてその隣には白澤の詳細と思われる文章が浮かび上がっていた。

 

「これが……『絆の書』の力……」

 

 俺が『絆の書』に描かれた義智の姿をジッと見ていると、シフルさんが穏やかな様子で話し掛けてきた。

 

「お疲れさまです、柚希君。初めてだったので、少々疲れたのではありませんか?」

「はい……でも、死んでるのに疲れてるなんて……何か不思議な気分ですね」

「ふふ、そうですね」

 

 俺の感想を聞き、シフルさんは小さく笑いながら返事をしてくれた。

 

 あ、そういえば……。

 

「シフルさん、一つ良いですか?」

「はい、何でしょうか?」

「こうして成功したとはいえ、俺は義智と絆を結んだようには思えないんですけど、これって……?」

「ああ、その事ですか。たしかに私は説明の際に、『絆を結んだ』という表現を使いましたが、実は双方が共に好感を持っていれば、これは成功するんですよ」

「……つまり、義智は俺に好感を持ってくれてたって事ですか?」

「ええ、もちろんです。先程彼は、柚希君にさん付けや敬語はいらないと言っていましたが、彼がそのように言うのは、私の知る限りでは柚希君だけなんです」

「そう、なんですね……」

 

 俺は再び『絆の書』に描かれた義智へと視線を向けた。

 

 俺の何が気に入ってくれたのかはわからないけど……心を開いてくれてありがとうな、義智。

 

 心の中で義智にお礼を言っていたその時──。

 

『おい、柚希。一度我を外へと出せ』

 

 突然『絆の書』に描かれている白澤の絵から義智の声が聞こえてきた。

 

「……え? 今、絵から声が聞こえた……?」

 

 あ……そういえば、シフルさんが説明の中でそれっぽい事言ってたかも。たしか──。

 

 俺がシフルさんの説明していた事を思い出そうとしていると、再び絵からイライラしたような声が聞こえた。

 

『おい……聞こえているのか……!』

「あ、ゴメンゴメン。今、出すからちょっと待っててくれ」

 

 義智の絵に向かって謝った後、俺は義智のページに魔力を注ぎ込んだ。すると、義智の絵から光の球体が浮き上がり、俺の隣で滞空したかと思うと、球体が徐々に人型へと変化し、光が消えた時にはイライラした様子の義智がそこに立っていた。

 

 あ……これはだいぶお怒りみたいだな……。

 

「まったく……! なぜすぐに、我の事を出さなかったのだ……!」

「ゴメンゴメン。いきなり絵から声が聞こえたから、ちょっと驚いちゃってさ」

「……ふん。まあ、今回は良い事にしよう。だが、次からすぐに出すのだぞ」

「ああ、分かったよ」

 

 俺が素直に返事をすると、ようやく義智は少し機嫌を直してくれたようだった。

 

 ふう、良かった……。

 

 心の中でホッとしていた次の瞬間、シフルさんがニコッと笑いながら話し掛けてきた。

「そうそう、因みに注ぎ込む魔力の量を調整すると、人形のようなサイズで外へと出す事も出来るので、何かの折に試してみて下さいね、柚希君」

「シフル! 貴様という奴は……!」

 

 ようやく落ち着いたかに見えた義智の機嫌は再び悪くなり、義智はシフルさんに対して拳を震わせながら怒声を上げた。

 

 ……このタイミングでそれを言うなんて……もしかして、シフルさんって天然なのかな……?

 

 そんな事を考えながら俺は聖獣が神様に対して怒りをぶつけるという変わった光景に苦笑いを浮かべた。そしてそれから約数分後、義智がようやく落ち着いた時、シフルさんが穏やかな様子で俺に話し掛けてきた。

 

「さて……それでは、そろそろ旅立ちの時です。義智さん、まずは『絆の書』へと戻って頂けますか?」

「……了解した」

 

 義智は静かに答えながら自分のページに手を触れると、再び光の球体となり、そのまま『絆の書』へと吸い込まれていった。

 

「そして柚希君、私の机の後ろにある扉まで一緒に来て下さい」

「あ、はい」

 

 そして俺は、シフルさんと一緒に金色の扉の前に立った。金色の扉はただその場にあるだけなのだが、まるで生きているかのように静かな威圧感や力の波動を発していたが、シフルさんはそれに対して何も反応を見せずに静かに口を開いた。

 

「この扉を潜れば、貴方は無事転生をすることが出来ます。柚希君、心の準備はよろしいですか?」

「はい、もちろんです」

 

 俺は扉に手を掛けながら返事をした。

 

 これから何が待っているのかはまったく分からない。けれど、俺なら──いや、俺達なら大丈夫。何だかそんな気がする。

 

 そして俺は力を込めて、扉をゆっくりと開けながら扉を潜った。

 

「行ってらっしゃい、柚希君」

 

 後ろからそんなシフルさんの声が聞こえた瞬間、俺の意識は完全に失われた。




政実「プロローグ、いかがでしたでしょうか」
柚希「プロローグなのに割と長くなったな」
政実「うん、ちょっと書きたいことが多すぎてね。けど、第1話からはもう少しコンパクトになるとは思うから」
柚希「そっか。そして最後に、この作品への感想や意見もお待ちしておりますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「よし……それじゃあそろそろ締めようか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」
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