柚希「どうも、遠野柚希です。焼き芋か……確かに美味しいけど、熱々なのを食う時は気を付けないと色々なところを火傷する事になるんだよな」
政実「うん、確かにね。けど、少し冬みたいに寒くなってきた時には、そんな熱々なのが食べたくなるんだよね」
柚希「それについては同感だな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第12話をどうぞ」
吹き抜ける風によって舞い落ちた赤や黄色の葉で出来た海が各地に出現する季節、秋。そんな秋のある日の事、俺は教室の掃除の手を止めて、窓の外でひらりひらりと舞う枯れ葉をボーッと眺めていた。
風に舞う枯れ葉って、見てると何だか気持ちが落ち着く気がするんだよな……。
そんな事を考えながら静かに眺めている内に、外掃除をしている生徒達が落ち葉を竹箒で掃き集め、小さな落ち葉の山を作り出していった。
……まあ、俺と同じ事を考えてるのは義智とか黒銀とかくらいだけどな。風之真達元気三兄妹は焼き芋とかの『食欲の秋』派だし、こころ達ガーデニング組は腐葉土作りに熱心になってるし……ふふ、やっぱり色んな奴が一緒に住んでると、色んな違いがあるから楽しいもんだな。
『絆の書』の住人達の秋の様子を思い出しながら静かに笑っていた時、右の肩をポンッと叩かれた気がした。その事を不思議に思いながら振り向いてみると、箒を手に持った夕士が不思議そうな表情を浮かべながら俺の事を見ていた。
「どうかしたのか、夕士?」
「どうかしたのか、はこっちの台詞だぜ? 柚希。突然ボーッと窓の外なんか見てどうしたんだ?」
「ん……ちょっと風に舞う枯れ葉とかを見てただけだよ」
「風に舞う枯れ葉見てただけって……柚希って本当に同い年なのか時々分からなくなるよな」
苦笑いを浮かべながら言うその夕士の言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけドキッとしながら少々焦り気味に答えた。
「え……いやいや、俺はお前達と同じ小学三年生だからな?」
「あ、いや……俺もそれは分かってるけどさ、何というかこう……柚希から時々長谷とも違う雰囲気を感じる時があるんだよ」
「長谷とも違う雰囲気、ねぇ……」
……さて、何て返したら良いかな。最近の夕士は長谷の影響か鋭い時があるから、下手な答えを返しても更にツッコまれそうな気がするし……。
俺が夕士への答えに困っていたその時、近くで何かが空を切るような音が聞こえた。
……ん?
不思議に思いながら夕士と一緒に向いてみると、そこには箒を剣に見立てて振り回している同じ班の男子の姿があった。
掃除……はしゃぐ男子……箒……あれ、何かこのキーワードに覚えがあるような……?
俺がそのキーワードに関係する物を思い出そうとしていると、夕士と班長の長谷がその男子達に声を掛け始めた。
「おい、箒は振り回す物じゃないぞ」
「稲葉の言う通りだ。それに振り回してると、誰かに当たるかもしれないんだから、今すぐ止めろ」
「へへっ!気を付けてるし、へーきだよ!」
しかし、夕士達の注意を聞かず、その男子は箒を振り回し続け、徐々に窓の方へと近付いていった。
窓……あ、まさかこれって……。
俺がある事を思い出したその瞬間、振り回されていた箒の柄が窓ガラスへと当たると、その箇所がパリンッという音を立てた。
「あ……」
その瞬間、男子生徒はやってしまったという表情を浮かべながら、箒が当たった箇所へ視線を向け、そして俺達もその箇所へと視線を向けた。窓ガラスは大きく割れたりはしていなかったものの、箒の柄の大きさほどの穴が空き、その周囲には幾つもの亀裂が入っていた。
あー……やっぱりこれだったのか……。
窓ガラスを見ながらそんな事を考えていた時、割れる音を聞きつけたのか、担任の先生が慌てた様子で教室へ入ってきた。そして先生は、窓ガラスに視線を向けた後、俺達の事を見回しながら声を掛けてきた。
「みんな……怪我は無い?」
俺達が揃って静かに頷いていると、長谷はスッと先生の前へと進み出て、先生の顔をジッと見た後、静かに頭を下げた。
「先生、俺が止められなかったんです。これは班長である俺の責任です。すみませんでした」
「長谷君……」
先生は長谷のその姿に少し驚いたようだったが、すぐに微笑みを浮かべると、静かな声で長谷に話し掛けた。
「……長谷君の言う通り、確かにこの件については班長である長谷君にも非はあります」
「……」
「だから、班長としてこのガラスの片付けや残りの掃除の指示をしっかりと班のみんなに出してくれますか?」
「……はい、もちろんです」
長谷がしっかりと顔を上げながら答えると、先生はニコッと微笑んだ後、俺達に声を掛けてきた。
「さぁ、みんな。先生も手伝うので、長谷君の指示に従ってガラスで怪我をしたりしないように気を付けながら、片付けと掃除を終わらせちゃいましょう」
『はい!』
長谷と男子生徒を除いた俺達は声を揃えて返事をした後、長谷や先生の指示に従って片付けと掃除をし始めた。そしてその最中、男子生徒が長谷に話し掛け、ペコリと頭を下げている様子が目に入った時、長谷は優しい笑みを浮かべながら男子生徒に答えていたが、男子生徒が微笑みながら長谷の元を去った瞬間、誰にも気付かれないようにニヤリと笑った後、何事もなかったかのように再び作業に取り掛かり始めた。
……うん、何となく長谷の考えてる事は分かるけど、帰ってる時に一応確認してみるか。
俺はそう決めた後、班の皆と一緒に作業を進めていった。
「うーん……! 何とか無事に片付けとかが終わって良かったな」
「そうだな」
下校途中、体を上に伸ばしながら言う夕士の言葉に俺は静かに答えた。片付けなどが終わり、長谷が件の男子生徒と一緒に先生からの軽いお叱りを受けている間、俺と夕士は下駄箱で待っていた。そしてそれが終わり、長谷と合流した後、俺達はいつものように三人一緒に下校していた。
……まあ、今日みたいに合気道の練習がない日だから出来たことではあるけどな。
空を見上げながらボンヤリと考えていた時、夕士が後頭部に両手を当てながらポツリと独り言ちるように言った。
「それにしても……さっきの長谷はいかにも班長って感じだったな」
「まあ……そうだな」
夕士にそう答えた後、俺は長谷の方へ視線を向けた。
「長谷、あそこでアイツを庇うような形を取ったのは、話がすんなりと進むようにするためだろ?」
「ああ。あの時、アイツ自身に謝らせても良かったが、やらかした直後ではまともに謝れるとは思えない。だから班長である俺が『責任』とかっていう言葉を使って先に謝っておく事で、担任もとりあえず俺に責任がある事を認め、説教よりも先に片付けとかをする事に目を向けると思ったからな」
「ふふ、やっぱりな」
「ああ。それに……これであのバカに恩を売れたしな」
長谷はあの時と同じようにニヤリと笑いながら俺達にそう言った。
あはは……やっぱりそういう事だったのか。
俺は夕士と一緒にその事に苦笑いを浮かべつつ、さっきの出来事について考えを巡らせていた。
……今回も原作にあった出来事は起きてたけど、やっぱり幾つかの違いは存在していた。となると……これから起きるはずの出来事にも原作との相違が発生する事になるわけだし、やっぱりそれなりに注意はしておくか。
心の中でそう決めた後、俺は夕士達の話に再び加わりつつ、家に向かって歩き続けた。
夕士達と別れた後、再び俺が家に向かって歩いていた時、どこかから霊力と神力のような物を感じた。
霊力と神力……って事は、兎和とか黒烏の時みたいなモノのパターンか。でも、一体どこから……?
その力の主の行方を知るべく、俺が周囲の波動を探ろうとしたその時、その力の気配が徐々に近付いてくるのを感じた。
……この気配から悪意とかそういうのは感じないけど、とりあえず警戒だけはしておくか……。
気配が近付くにつれ、俺が警戒心を強めていたその時、道の向こうから何やら白いモノが二つほど近付いてくるのが見えた。
……あれがこの力の気配の主か。
そのモノが発する突き刺さるようなプレッシャーを体中に感じつつ、俺はそれが何なのかを知るために、ジッとそれが近付いてくるのを待った。そしてそれがだいぶ近づいてきた時、俺の視界に入ってきたのは、周囲の様子を探りながら歩く大小2頭の白い虎だった。
霊力と神力を持った白い虎……って事はこの虎達はもしかして『アレ』かな。
俺は虎達の正体について大体の予想を立てた後、虎達の姿などに注目した。虎達の光沢のある白い毛皮は彼らが歩く度に陽の光を反射してピカピカと輝きを放っていた。
更に口元からはとても鋭い牙が覗き、そして道を強く踏みしめる前後の足には同じく鋭い爪が生えていた。しかし、大小の虎の様子はその同じような姿とは異なっており、周囲の様子を探りながらも悠然と歩く大きな虎に対して、小さな虎は周囲の様子を探るというよりは、少々ビクつきながら歩いているように見えた。
……小さい方の波動から察するに、どうやらあのビクつき方は見知らぬ土地に対しての恐れから来てるものみたいだな……。
俺が虎達の観察を続けていたその時、大きい方の虎がふと立ち止まった後、前に視線を向けると、鋭い眼光でそのままジッと見つめ始めた。そしてそれに続いて、小さい方の虎も大きい方の虎の様子に首を傾げた後、同じように前の方をジッと見つめ始めた。
……あれ、もしかしてアイツらが見てるのって……俺か?
頭の中にそんな疑問を浮かべていると、まるでそれに答えるかのように虎達が静かに俺に向かって歩いてきていた。そして俺の目の前で止まると、大きい方の虎が低い声で俺に話し掛けてきた。
「そこの方、一つ伺ってもよろしいですか?」
「あ、はい。別に構いませんよ」
「ありがとうございます。この辺りにシフル殿──遠野天斗殿の御自宅があると伺ったのですが、ご存じありませんか?」
「あ、はい、もちろん知っています。遠野天斗は俺の伯父で、今一緒に住んでいますから」
「ほう、そうでしたか。……という事は、もしや貴方が遠野柚希殿ですか?」
「はい、そうです」
俺が静かに答えると、大きい方の虎は少し驚いた様子を見せた後、静かに微笑みながら再び口を開いた。
「なるほど、そうでしたか。まさか偶然お目にかかれるとは思ってもいなかったもので、少し驚いてしまいました」
「ふふ、それは俺も同感です。まさか家の近くで『白虎』さんにお会いするとは思ってもいませんでしたから」
「はは、確かにそうでしょうね。私共の住まう場所は、ここよりも遙か遠くにありますので、お目にかかる機会もそうそうありませんから」
「そうですね。……さて、それではそろそろ御案内しますね」
「はい、ありがとうございます」
そして俺は、『白虎』さん達と一緒に家に向かって再び歩き始めた。
『白虎』
中国に伝わる伝説上の神獣の一体で、五行思想において『金行』を司り、西方を守護する存在。そして他の四神と共にその名は広く知られており、数多くの作品などで登場したりや、幕末の会津藩の組織の名の由来になったりなどもしているため、中国のみならず世界中で知られる神獣であると言える。
大きい方の白虎さんと話しながら歩くこと数分、白虎さん達が力を使って姿を隠していた事もあって、俺達は何事もなく家へと辿り着いた。
そして俺は家のドアを静かに開けた後、白虎さん達と一緒に天斗伯父さんの神力の気配がする和室へと向かった。和室に着いた後、俺は襖の向こうにいる天斗伯父さんに向かって声を掛けた。
「天斗伯父さん、お客さんがいらしてるんですけど、入っても大丈夫ですか?」
「はい、もちろん大丈夫ですよ」
「分かりました」
返事をした後、俺は襖を静かに開け、白虎さん達が通れるようにそのまま横へと避けた。そして白虎さん達が和室へと入った後、俺は襖を静かに閉めてから、お茶の準備をするべく、キッチンへと向かった。
人数分のお茶などの準備を終え、俺がお茶が載ったお盆と『絆の書』を持ちつつ、再び和室へと向かうと、襖の向こうから天斗伯父さんと大きい方の白虎さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
俺はその笑い声を聞きつつ、静かに襖を開けて中へと入りながら天斗伯父さんに声を掛けた。
「天斗伯父さん、お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます、柚希君」
天斗伯父さんの言葉に静かに頷いて答えた後、俺は白虎さん達と天斗伯父さんの前に用意してきたものを声を掛けながら置いた後、天斗伯父さんの隣に敷かれた座布団に静かに座った。
さて、何故俺がこの天斗伯父さん達の話の場に同席をしているのか。それは白兎神様や黒羽さんの時にも同席をしたから、そして俺は天斗伯父さんから家で神様や幻獣などに会う時にはできる限り同席して欲しいと頼まれていたからだ。
俺としては様々な神様や幻獣、果ては大妖にも出会えるチャンスなのでとても嬉しい事なのだが、天斗伯父さんがそんな事を頼んできた理由が少し気になったため、俺がその事について一応聞いてみた。すると、天斗伯父さんの口から語られたのは、俺にとってとても光栄である反面、それと同程度に緊張をしてしまうような理由だった。
先日、神様の新年会の場で白兎神様や黒羽さんと俺の事について話をしていたところ、それに興味を惹かれた他の神様やその従者達が話に加わってきたため、天斗伯父さん達はそのまま俺の事についてその神様達に話した。
するとその結果、話を聞いた神様達は神の甥兼転生者という変わった経緯を持つ俺に更に興味を惹かれたようで、もし会えるなら会ってみたいという話を天斗伯父さんにしていたらしい。
そして天斗伯父さん自身、前々から俺が様々な神様達と会う機会を探していたため、その話を快く承諾した。なので、今日のように俺の都合が良い時には、こうして様々な神様や霊獣達との話の場に参加する事になったのだった。
それにしても……この白虎さん達は何で家を訪ねてきたんだろう……?
俺がその事について疑問に思っていると、天斗伯父さんは俺の様子を見てクスッと笑った後、俺がいなかった間の話をしてくれた。
「柚希君、こちらは私の友人で
「智虎君に関係した事……ですか?」
俺が疑問の声を上げると、剛虎さんは静かに頷きながら答えてくれた。
「はい。実は……この智虎を鍛えて頂けるような方を探していまして、天斗殿ならばどなたか心当たりがあると思い、本日こちらに伺ったのです」
「そうだったんですね。しかし……どうしてそのような方を探しているのですか?」
「実は……先日、我々四神は我らの長である『黄龍』様よりあるご指示を頂いたのです。ですが……それというのが、己の末子を誰かの元へ修行に、または見聞を広げるため旅へと出せという物だったのです」
「自分の末の子供を誰かの元へ修行に、または見聞を広げるための旅に出す、か……」
形は少し違うけど、俺も白兎神様から玄孫である兎和を、そして黒羽さんから末子である黒烏を預かってるわけだし、何というか他人事とは思えない話だな……。
剛虎さんの話からそう考えていた時、天斗伯父さんが静かな声で剛虎さんに話し掛けた。
「つまり、他の四神の皆さんもそれぞれの考えを以て、現在行動を起こしているというわけですね」
「はい、その通りです。そして私もこの智虎を修行へ出そうとしたまでは良いのですが……」
剛虎さんは智虎君の方をチラリと見た後、一度息をついてから言葉を続けた。
「この智虎には臆病な所がありまして、初めて見る物などにはあまり近付こうとしないばかりか、己よりも小さなモノすら恐れてしまう程なのです」
「そうなのですね……」
なるほど……だからさっきもビクつきながら歩いていたわけか。
俺が静かに納得していると、天斗伯父さんが静かな声で剛虎さんに話し掛けた。
「剛虎さん、その師となる方に求める物などはありますか?」
「求める物、ですか……?」
「はい。簡単に言うならば……こういった力を持った方が望ましいやこのような気性の方が良いなどといった希望、といったところでしょうか」
「そうですね……強いて言うならば、智虎にしっかりと寄り添っていける方が望ましいですね」
「智虎さんにしっかりと寄り添っていける、ですか?」
「ええ。先程も申しましたが、智虎は初めて見る物などにはあまり近付こうとしないほど臆病な子ですので、どなたかにお預けしたとしても、中々その環境などに馴染むことが出来ないと思います。
ですが、私個人としては、ゆっくりでも構わないので、智虎には様々な物に触れ、少しでも心身ともに成長をしてもらいたいと思っています。ですので、私はそんな智虎の特徴などを理解し、出来る限り智虎に寄り添って下さる方が望ましいと考えています」
剛虎さんが真剣な表情で言うと、天斗伯父さんはいつものように見るモノ全てを安心させるような笑みを浮かべながらそれに答えた。
「ふふ、確かにどなたの元へ修行に出すのならば、そのような方の元が望ましいですよね。本人としても、私達保護者としても」
「ええ。ですが天斗殿……そのような方に心当たりなどはございますか?」
「はい。現在、お一人だけならば浮かんでいますよ」
天斗伯父さんはクスッと笑った後、隣に座っている俺に声を掛けてきた。
「柚希君、引き受けてみる気はありませんか?」
「……え? 俺、ですか?」
「はい、柚希君ならばこの件に関しては適任だと思いましたので」
天斗伯父さんが静かに微笑みながら答えると、剛虎さんが不思議そうな様子で天斗伯父さんに話し掛けた。
「天斗殿、何故柚希殿ならば適任だと思われたのですか?」
「ふふ、それはですね……身内の贔屓目などは無しで見たとしても、柚希君にはそれだけの実力が、そして実績があるからです」
「実力と実績……」
「ええ。まず実力の方ですが、柚希君の中には妖力や魔力、そして霊力や神力といった様々な力の集合体と言える物がありますし、現在様々な妖や霊獣の皆さんをまとめつつ、共に協力し合いながら生活をしています。これは一般的に見ても、中々出来る事では無いと私は感じています」
「……なるほど」
「次に実績ですが、現在柚希君は白兎神さんから玄孫の兎和さんを、そして八咫烏の黒羽さんからご子息の黒烏さんを預かっている身である上、先日近くの神社に封じられていた犬神と勝負を行った際、友人であり仲間でもある方と協力し合う姿を見せ、自らの思いを伝える事で勝利した後、その犬神すら仲間に加えてしまうという実績があります」
「ほう……そうなのですね」
「はい。そして何より、柚希君は我々のように人とは違う存在への理解が深い上、我々のような存在の事をこよなく好んでくれていますし、柚希君自身には様々なモノを惹きつける力もあります。
ですので、私個人の意見としては、この件に関して柚希君が適任だと思っています」
「天斗伯父さん……」
……前世も含めて、ここまで評価してもらったことが無いせいか、ちょっと気恥ずかしい気はするけど、天斗伯父さんがこんな風に言ってくれるのはとても光栄だし嬉しい。だったら俺のやる事は一つしか無いよな。
俺は小さくクスッと笑った後、天斗伯父さんに話し掛けた。
「天斗伯父さん、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
天斗伯父さんの返事にニコッと笑って答えた後、俺は剛虎さんの方へ視線を向けた。
「剛虎さん。智虎君の修業の件、俺に引き受けさせてください。
よろしくお願いします」
「柚希殿……」
剛虎さんは俺と天斗伯父さんの顔を見た後、真剣な表情を浮かべながら智虎君の方へと視線を向けた。
「智虎、私は柚希殿の申し出をとても良いものだと思っている。だが、これはお前の修業の問題だ。智虎、お前自身はどうしたい?」
「僕、は……」
剛虎さんの問いかけを聞き、智虎君は少し不安げな表情を浮かべながら俯きつつ少しだけ考え込んでいたが、程なくして決心したような表情になると、剛虎さんの方へ視線を戻した。
「僕は……臆病な今の自分を変えたい……! 色んな物に怖がってばかりで、お父さん達の陰に隠れてばかりの自分なんて……もう、嫌だから……!」
「智虎……ならば、己の取るべき行動は分かっているな?」
「……はい!」
そして智虎君は、大きな声で返事をした後、俺の方へと視線を移し、真剣な表情で話し掛けてきた。
「……柚希さん。僕は……自分の臆病な性格を直し、そしてお父さんみたいに立派な白虎になりたいと思っています。だから……僕を一人前の白虎になれるように鍛えて下さい! お願いします!」
「智虎君……」
智虎君の決意を聞き、俺はニッと笑いながら返事をした。
「ああ、任せてくれ」
「柚希さん……! ありがとうございます!」
「どういたしまして。まあ、俺もまだまだ修行中の身みたいな物だから、俺が鍛えていくというよりは、お互いに高め合っていく形で頑張っていこうぜ、智虎」
「はい……! これからよろしくお願いします、柚希さん!」
「うん、こちらこそよろしく」
そして、智虎と握手を交わした後、俺は剛虎さんの方へ視線を移した。
「剛虎さん、大事なご子息をお預かりします」
「はい。智虎の事、
「はい、もちろんです」
剛虎さんの言葉にしっかりと頷きながら答えた後、俺は傍らに置いていた『絆の書』を手に取り、剛虎さん達に『絆の書』についての説明を始めた。そして説明を終えると、剛虎さんは興味深そうな様子を、そして智虎は興味津々な様子を見せた。
「……なるほど、これが『絆の書』ですか……」
「スゴい……! この中に……本当に別の世界があるんですね……!」
「ああ、そうだ。『絆の書』の仲間達の話を聞くに、自然に満ち溢れたかなり広い世界らしいし、和風や洋風の屋敷まであるっていう話だな」
「わぁっ……! そうなんですね……!」
俺の話を聞くと、智虎はさっきまでの怯えた様子とは打って変わって、とてもワクワクした様子で言った。
智虎っていう名前だけあって、本当は色んな事に興味があるんだな。
その智虎の様子を見てクスッと笑った後、俺は空白のページを開いてから、畳の上に『絆の書』を置いた。そして、智虎の顔を見ながら俺は静かな声で話し掛けた。
「さて、その居住空間に行くには、この『絆の書』に自分自身を登録する必要があるんだけど……智虎、やり方は大丈夫か?」
「えっと……僕の力と柚希さんの力をこのページに注ぎ込むんですよね?」
「そうだ。よし……それじゃあ早速始めようか」
「はい!」
智虎は大きな声で返事をした後、右の前足をポンと空白のページへと置いた。そして俺も左手で『ヒーリング・クリスタル』を握りながら、静かに右手を空白のページへと置き、いつも通りのイメージを頭の中に浮かべた。
その後、体の奥に沸き立つ魔力が腕を伝って、手のひらの中心にある穴から『絆の書』へと流れ込むイメージが無事浮かんだ事を確認した後、俺は静かに魔力を流し込み続けた。
そして必要な量が流れ込んだ瞬間、俺はいつもの頭痛に似た現象に備えて、目を閉じながら身構えていたが、何故か今日はその現象が起きる気配が一切無かった。
……あれ、いつもの頭がキーンとなる奴が来ない……? まさか……智虎の登録が失敗したとか……!?
俺はすぐに『絆の書』へと視線を向けた。すると、そこには周囲が岩山で囲まれた丘のような場所で力強く立っている智虎の姿と白虎に関して書かれた文章が浮かび上がっていた。
……良かった、登録は無事に出来てるみたいだな。
その事にホッとした後、俺は『絆の書』の義智のページと智虎のページに手を置き、静かに魔力を注ぎ込んだ。そして、『絆の書』の義智と智虎のページから光の珠が浮かび、義智と智虎が出現した事を確認した後、俺はまず智虎に声を掛けた。
「智虎、居住空間は良さそうな感じだったか?」
「はい! 空気も水もとても澄んでいますし、綺麗な花々が咲いている場所もありましたし、とても良い場所だと思いました!」
「そっか、なら良かったよ」
智虎の感想に微笑みながら答えた後、今度は俺の隣に座っている義智に声を掛けた。
「義智、さっき智虎を登録した時にいつもの頭痛みたいなのが起きなかったんだけど、それが何でなのかとかって分かるか?」
「……あくまで予想に過ぎないが、それでも良いのか?」
「ああ、もちろんだ」
「……分かった。まず、その頭痛に似た現象、そして今までに発生していた
「つまり、僅かではあるけど、キャパシティーオーバーを起こしてたってわけか」
「ああ。だが、今回はその現象が起きる気配が一切無かった。つまり、『ヒーリング・クリスタル 』に備わっている『分配』の力を含めた状態且つ一体程度の登録であれば、一度に消費したところで問題は無いと柚希の体が判断したと言えるだろうな」
「なるほどな……」
義智の予想を含めた説明に納得しつつ、俺は心の中で小さな喜びを感じていた。
つまり、義智との修行の成果はしっかりと出てるって事が証明されたわけだ……! うん、やっぱり一歩ずつでもやってきた甲斐はあったな……!
そして、喜びの気持ちが顔に出そうになったその時、義智がいつものように落ち着いた様子で声を掛けてきた。
「……しかしこれは、あくまで『ヒーリング・クリスタル』の助力があっての事だ。それは分かっているな? 柚希よ」
「……ああ、それはもちろん分かってるよ。けど、このまま続けていけば、いつかはこれ無しでも出来るって事なんだし、これからもそれを目指して地道に頑張ってみるよ」
「……ふん、ならば良い」
義智は鼻を鳴らしながら答えた後、剛虎さんの方へと視線を向け、落ち着いた様子で声を掛けた。
「さて……実に久しいな、剛虎よ」
「ええ、本当に。最後に会ったのは、義智さんがまだ天上での職務をしていた頃なので……大体十年くらい前になりますね」
「……そうなるだろうな」
剛虎さんの言葉を聞き、義智は珍しく懐かしむような表情を浮かべていたが、すぐにいつものような表情へ戻ると、静かな声で言葉を続けた。
「剛虎。既にシフルより聞いたと思うが、柚希は修行中の身ながら、内なる力は未だ底知れぬ物であり、そして妖や霊獣などへの理解もあるという人間にしては珍しい奴だ。お前の息子の件については、安心して柚希に任せておけ」
「ふふ、もちろんそうさせてもらいますよ、義智さん」
剛虎さんが微笑みながら答えると、義智は小さく息をついた後、俺の方へと視線を戻した。
「柚希、そろそろ奴らも呼んでやれ。奴ら──具体的には風之真達が新たな仲間に興味があるようだからな」
「ん、了解」
俺は頷きながら答えた後、『絆の書』の表紙に右手を置き、静かに魔力を注ぎ込んだ。そして『絆の書』から幾つもの光の珠が現れると、それらは俺の周りへ移動した後、それぞれの姿へと変化していき、程なくして『絆の書』の仲間達が一堂に会した。
すると、それを見た智虎が少しだけ後退りそうになったものの、風之真達元気三兄妹がすぐに智虎の近くへと寄り、あれやこれやと話し掛け始めた。
そしてそれを義智や蒼牙がどうにか止めようとしたが、戸惑いながらもどうにか答えようとしている智虎の姿を見ると、やれやれといった様子でその場に座り、こころ達はそんな皆の様子を微笑みながら見ていた。
……まあ、俺も含めてここには個性的な存在が揃ってるけど、この調子なら智虎もすぐに馴染みそうだな。
風之真達の問いかけに笑顔で答え始めた智虎の姿を見て、俺はそう確信しながら静かに智虎達の様子を見ていた。
翌日、服の中に入り込んでくる朝冷えに少しだけ身を震わせながら、俺は朝の日課であるオルトの散歩をしていた。
……今日はそれなりに冷えるな。
歩きながらそんな事を思った後、俺はオルトの隣を歩いている智虎に声を掛けた。
「智虎、今日はそれなりに冷えてるみたいだけど、お前は大丈夫か?」
「はい、これくらいへっちゃらです、柚希さん」
「分かった。けど、寒いと思ったらすぐに言ってくれよ?」
「わかりました」
頷きながら返事をすると、智虎は再び歩きながら周囲にある物を見始めた。さて、何故智虎がオルトと一緒に朝の散歩をしているのか。事の発端は、昨日の夜に智虎から受けた相談だ。
昨日の夕食後、俺は自分の部屋で智虎から修行の内容についての相談を受けていた。智虎が達成するべき目標は大きく分けて二つ、臆病な性格の矯正と立派な白虎になるための力の増強なのだが、力の増強とは違って、性格の矯正というのはどうしたら良いのかまったく見当がつかなかったため、俺達はこの事について義智に相談をしてみた。
そして、義智から提案されたのがオルトの朝の散歩への同行やこころ達のガーデニングの手伝いなどだった。義智によると、性格というのはそう簡単に矯正できる物では無い上、何かきっかけとなる物が無い限り変わる事は殆ど無いため、皆と触れ合っていく中で、そのきっかけとなる物を探していくのが現時点では最適なのだという。
……確かに簡単に矯正できる方法があったら、試してるはずだもんな。
そんな事を考えながら智虎に目を向けてみると、智虎はオルトと一緒に歩きつつ、周囲をきょろきょろと見回していたが、智虎の波動には恐怖を表す紫色などは見られず、その代わりに好奇心などを表す黄色などに染まっていた。
……うん、この調子なら臆病な性格が変わるのもそう遠くはなさそうだな。
智虎の様子からそう感じた後、俺は智虎とオルトに声を掛けた。
「智虎、オルト」
「はい、何ですか? 柚希さん」
「クゥン?」
「ゆっくりでも良いから、これからも一緒に頑張っていこうな」
「……はいっ!」
「ワンワウンッ!」
揃って返事をする智虎達のその表情は、俺達の頭上に広がる快晴の青空のように晴れ晴れとしたものだった。
さて……俺もコイツらに負けないようにしっかり頑張らないとな。
智虎達のその表情を見ながら、そう強く決心した後、俺は快晴の青空の下、オルト達との散歩を再開した。
政実「第12話、いかがでしたでしょうか」
柚希「作中の表現からすると……智虎以外の四神とも何かのきっかけがあって出会いそうな感じだな」
政実「一応そのつもりでいるよ。まあ、最初は四神を仲間にするのはアレかなとは思ったけど、よくよく考えてみたらもう因幡の白兎とかが仲間にいるし、これはこれでアリかなと思って、今回みたいになった感じかな」
柚希「なるほどな。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」