転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

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政実「どうも、一番好きな花は桜、片倉政実です」
柚希「どうも、遠野柚希です。確かに桜は綺麗だし、春っぽいから良いよな」
政実「うん。それに桜の花弁がひらひらと舞う様子を見てると、春が来たんだなぁって感じがして、何だか和やかな気持ちになるんだよね……」
柚希「確かにそうかもな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第14話をどうぞ」


第14話 芽吹きの季節の青き龍

 山の動物達や樹木達が次々と目覚め、様々な香りや声に満ち溢れる季節、春。そんな春の穏やかな気候の中、俺はいつものように夕士と長谷の二人と一緒に学校へ向けて歩いていた。

 

「それにしても……俺達ももう四年生なんだな……」

「そうだな。小学生生活も後半戦なわけだし、色々と気を引き締めていかないとな」

「ああ。来年から高学年になるという意識を持っていないと、後輩達に示しが付かないからな」

 

 長谷が静かに言うと、夕士は晴れ渡った青空を見上げながらポツリと呟くような声で言った。

 

「高学年かぁ……何だか来年の事とは言え、まだ実感が湧かないよなぁ……」

「確かにそうだな。けど、時間は待ってくれないし、早め早めにその自覚を持っておいた方が良いと思うぜ?」

「んー……まあ、確かにそうかもな」

 

 のんびりとした様子で答える夕士の声を聞きながら、俺は道中に植えられている桜の木に視線を向けた。桜の木は時折吹く風に揺れつつ、サワサワサワという音を立てると、俺達や道に向かって花弁(はなびら)を降らせ、瞬く間に桃色の川を作り出していった。

 

 うん、何か春らしい風流な感じで良いな。

 

 そんな事を考えていた時、俺は咲き誇る花達の中に一つだけ、まだ蕾のままになっている物を見つけた。

 

 ……あれ、まだ蕾なのもあるのか。まあでも、こんなに暖かいんだし、数日の間に咲くよな。

 

 そう思い、蕾から視線を外そうとしたその時、近くから微かな霊力と神力、そして智虎や賢亀と同じような気配を感じた。

 

 霊力と神力、それにこの気配は……。

 

 俺が気配などの出所を探ろうとした時、蕾が突然ゆっくりと開き、他の花々と同様に微かな香りを放ちながら綺麗に咲き始めた。

 

 ……花が突然咲いたって事は、どうやら間違いないみたいだな。

 

 俺が気配などの主について大体の目星を付けていたその時、隣から夕士の不思議そうな声が聞こえてきた。

 

「柚希……? あの桜の木がどうかしたのか?」

「ん……いや、今年も桜が綺麗だなぁと思ってただけだよ」

「ふーん、そっか。確かに桜って綺麗だもんな」

 

 どうやら俺の答えに納得してくれたらしく、夕士の顔から不思議そうな様子は消え、咲き誇る桜の花々や降り注ぐ花弁のシャワーへと興味が移ったようだった。

 

 まあ、まだ夕士達には正直に言う必要は無いから、コイツらにはこれで良いとして……この気配とかについては後で智虎達と一緒に確認しに来た方が良さそうだな。

 

 心の中でそう決めた後、俺は学校へ向けて歩きつつ、再び夕士達の会話に混ざっていった。

 

 

 

 

「ふぅ……ようやく今日も終わったなぁ……」

「いや、何か疲れたように言ってるけど、実際は始業式に出て来ただけだからな?」

 

 学校からの帰り道、夕士が疲れたように言うのに対して、俺が静かにツッコミを入れると、夕士は頭の後ろに両手を当てながら言葉を返してきた。

 

「そうだけどさ、始業式での校長先生の話が長かったから、ちょっと疲れたんだよ……」

「……まあ、確かにそうだけどな」

「確かにそれについては否定できないな」

 

 夕士の言葉に俺と長谷は静かに頷きながら答えた。夕士の言葉通り、ウチの学校の校長先生も校長先生というものの例に漏れず、中々話が長い人なため、始業式が終わった後の教室ではわりと校長先生の話の長さについてクラスメートが文句を言っていたりする。

 

『校長先生の話が何故か長い』

これはある意味学校の七不思議並みの謎なんじゃないかな……。

 

 そんな事を考えていた時、俺達は今朝霊力と神力を感じた場所まで来ていた。

 

 ……今は特に気配とかは感じないけど、まだ近くにいたりするのかな……?

 

 そんな事を考えつつ、周囲の霊力などを詳しく探ろうとしたその時、俺の視界に今朝見たのとは違う桜の木が入ってきた。しかし、その桜の木は他の物とは種類が違うためか、咲いている物よりも蕾ばかりが目立っていた。

 

「……あれ、これはまだあまり咲いてないな」

「え……あ、本当だ。何でだろ?」

「おそらくだが、他のとは種類が違うから、開花時期がズレてるんじゃないのか?」

「あー……なるほどな」

 

 俺達がその桜の木について話をしていたその時、今朝感じた物と同じ気配、そして霊力と神力を近くから感じた。

 

 ……やっぱりいたか。でも、一体どこに……?

 

 気配の主の居所を探るため、俺が周囲の霊力や神力などに注意を向けていると、桜の様子を見ていた夕士達が何かに気付いたように突然声を上げた。

 

「……ん? あの辺……さっき咲いてたっけ?」

「いや……さっきは蕾だったはずだが……?」

 

 夕士達の視線の先に俺も視線を向けてみると、そこにはさっきまで蕾だった桜が満開に咲き誇り、快晴の青空の下で綺麗な桃色を主張しつつ、微かな香りを漂わせていた。

 

 ふむ……俺達の会話でも聞いてたのかな……? でも、だとしたらまだ近くにはいる筈なんだけど……。

 

 不思議に思いながらまた周囲の霊力などを探ろうとしたその時、俺はある事を思いついた。

 

 ……そうだ、相手が相手だし、ここはアイツらの力を借りてみるか。

 

 俺はこっそり夕士達に背中を向けた後、ランドセルから『絆の書』を取りだし、智虎と賢亀のページに魔力を注ぎ込んだ。そして、智虎達が神力によって姿を隠した状態で俺の肩の上に現れたのを確認した後、俺は智虎達に神力を通じて声を掛けた。

 

『智虎、賢亀。ちょっと力を貸してもらっても良いか?』

『はい。それは別に大丈夫ですけど……』

『何かあったんで……』

 

 その時、智虎達は何かに気付いた様子を見せると、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 

『……あれ? この気配は……』

『……うん、間違いなく護龍(フゥーロン)君の気配だよね……?』

『うん……そうだと思うけど……?』

 

 智虎達は不思議そうに周囲を見回した後、再び何かに気付いたような表情を浮かべると、俺に話し掛けてきた。

 

『もしかして、力を貸して欲しいっていうのは……』

『護龍君の事を捜して欲しいっていう事ですか?』

『ああ。たぶん、その護龍って奴は近くで俺達の事を見てるんだと思うんだけど、初対面の俺や夕士達の事を警戒して、こっちから捜しても中々姿を現してくれない気がする。

そこで同じ四神のお前達に呼びかけてもらって、少しでも警戒心を解いてもらおうと考えてたんだが、お前達の様子からするに、この気配の主はお前達の友達なんだよな?』

『はい。僕達と同じ四神で、とても頼りになる子ですよ』

『うんうん、そうだよね。とても勇敢だし落ち着いてるし、僕達の中のリーダーみたいなものだもんね』

『うん。ただ……ちょっと頭の固い所もありますし、人見知りとかではないんですが初めて会う人への警戒心も僕達以上なんですよね……』

『なるほどな……でも、友達であるお前達に呼びかけられれば、流石に少しは警戒心を解いてくれるとは思うんだ。だから、今みたいに神力や霊力を通じて、その護龍に呼びかけてみてくれないか?』

『……分かりました』

『出来る限りやってみますね』

『ああ、頼む』

 

 智虎達へ頼んだ後、俺は再び夕士達の方へと注意を向けた。しかし、夕士達は護龍の力で突如咲いた桜に目を奪われていたらしく、俺の動きには少しも気付いていない様子だった。

 

 ふぅ……良かった。けど、ここにずっといてもしょうが無いし、とりあえずまた歩き始めないとな。

 

 智虎達が護龍に呼び掛ける声を聞きつつ、俺は夕士達に声を掛けた。

 

「さてと……それじゃあそろそろ行こうぜ、二人とも。確かにそれは気になるけど、このままここにずっといても腹が減りそうだからさ」

「ん……確かにそうだな」

「ああ。それに、これは俺達には解決できるような物でも無さそうだし、とりあえず不思議な事があったという思い出として記憶に残してた方が良さそうだからな」

「そうだな」

「うっし……それじゃあ行こうぜ、二人とも!」

「ああ」

「分かった」

 

 夕士の元気の良い声に頷きながら答えた後、俺達は再び各々の家に向けて歩きつつ、他愛ない会話を始めた。

 

 さて……智虎達の方はどうかな?

 

 夕士達の会話を聞きつつ、俺は智虎達に声を掛けた。

 

『智虎、賢亀。調子はどうだ?』

『えっと……正直なところ、良くはないですね……』

『一応、何度も呼びかけてはいるんですけど、まったく応えてくれないばかりか、姿すら見せてくれなくて……』

『そっか……やっぱり俺達がいるから、警戒して出て来ないのかな……?』

『うーん……もしかしたらそうかもしれませんね』

『僕達も最初の頃はとっても警戒されてましたから……』

『うーん……なるほどな……』

 

 となると、何か新しい方法を考えないといけないな……でも、一体どうしたら……?

 

 俺が次の作戦について考え始めようとしたその時、

 

『……あ、そうだ……!』

 

 智虎が何かを思い出したように声を上げた。

 

『ん? どうかしたのか?』

『護龍君は植物がとっても好きなので、何か目を引くような植物があればそれに興味を持ってくれるかもしれません……!』

『目を引くような植物……か。でも、この辺に目を引くような植物なんて……』

 

 その時、俺はある事を思い出した。

 

『……あ、そうだ。それがあったか……!』

『え、何か目を引くような植物がありましたか?』

『ああ。少し前にこころ達、ガーデニング組が庭に花を植えてただろ?』

『あー……そういえば、そうでしたね。確か天斗さんが花の神様などから贈り物として貰ったものだったような……』

『その通りだ。加えて、あれは俺達もあまり見たことが無い花ばかりだった。という事は、その護龍って奴も興味を持つんじゃないかな思ってな』

『なるほど、確かにそうですね』

『護龍君は植物ならずっと見ていられるって前に言っていた程、植物が好きなはずなので、絶対に興味を持ってくれると思います』

『分かった。それじゃあお前達はこのまま護龍の霊力と神力に注意を払いつつ、聞こえそうな声で植物の話題を出し続けてくれるか?』

『分かりました』

『了解です』

 

 智虎達の返事に頷いた後、俺は再び夕士達の会話に混ざり、午後から遊ぶ約束などをしながら家に向かって歩き始めた。そして、夕士達と別れ、智虎達と一緒に家に帰ってきた後、俺達は件の花達が咲いている庭へとやって来た。

件の花達はガーデニング組の世話の甲斐もあって、太陽に向かって元気に咲き誇っていた。

 ……よし、護龍もしっかりと付いてきてるみたいだし、後は……。

 

 俺は静かに息を吸った後、周囲に聞こえそうな声で賢亀に声を掛けた。

 

「さぁ-てと……賢亀、花に水をやらなきゃないから、ちょっと手伝ってくれるか?」

「あ、はい」

 

 賢亀の返事を聞いた後、俺は『絆の書』の賢亀のページを開き、いつもよりも多くの魔力を注ぎ込み、賢亀との同調を開始した。そして、俺の中に賢亀の水の力が宿った事を確認した後、俺は右手を花達へと翳し、水圧を少々強めに設定した状態で右手に水の魔力を溜め始めた。

 

「……え!? ゆ、柚希さん!?」

「柚希さん! その量だと花が千切れちゃいますよ?!」

 

 俺のその様子に智虎達が焦ったように声を上げ始めたのを見て、俺は左手の人差し指を立て、静かにするように合図をした。そして、智虎達が戸惑いながら口を閉じたのを確認し、俺は“ただ水の魔力を右手に溜め続けていた”その時だった。

 

「ま……待て! そこの人間!」

 

 少し焦ったような声を上げながら、青みがかった緑色の体の小さな龍が俺の目の前に立ちはだかった。その龍の目からは花を守ろうとする強い意志と花に危害を加えようものならば今にも襲いかかろうとする決意の色が浮かんでいた。

 

 ……よし、そろそろ良いかな。

 

 俺はクスッと笑った後、水が細かい粒状になるように発射方法を変えつつ、右手を斜め上へと向け、そのまま発射した。すると、放たれた水達は緩やかな曲線を描きつつ、太陽の光を反射してキラキラと輝きながら次々と静かに花達へと降り注いだ。

 

「……は?」

「え……?」

「……あれ?」

 

 俺のその行動に智虎達はポカンとした表情を浮かべながらそんな声を上げていたが、俺はそのまま放水を続けた。

 

 ……うん、こんなもんかな。

 

 土の湿り具合や花達の波動の様子からだいたいの見当を付けた後、俺は放水をゆっくりと止め、完全に止まってから賢亀との同調を解いた。

 

 ……ふぅ、やっぱり同調はそれなりに力を使うな……。

 

 そんな事を考えつつ、右手に付いている水滴を払っていると、智虎がポカンとした表情のままで声を掛けてきた。

 

「えーと……柚希さん? もしかして、最初から花に水をあげる気だったんですか?」

「まあ、半分はそうだな。そして、もう半分はコイツを誘き出すためだよ」

「……私を誘き出すため、だと……?」

「ああ。お前が植物好きなのは智虎達から聞いてたから、家に咲いてる花の苗の花をしたら絶対に食い付くし、花達に危険が及べばすぐにでも駆け付けると思ってたからな」

「ぐ……! 実際、その通りであったため、反論のしようが無い……!」

 

 俺の言葉を聞き、龍が悔しそうな声を上げた。

 

 ……まあ、流石に悔しいだろうな、俺だってあそこまですんなりと行くとは思ってなかったし……。

 

 俺は少し苦笑いを浮かべつつ、悔しそうな表情を浮かべている龍に声を掛けた。

 

「さて……お前は智虎達の友達の『青龍』の護龍で良いんだよな?」

「……いかにも、私は『青龍』の護龍。黄龍様のご指示により、この世のあらゆる場所を旅している者だ」

 

 護龍はさっきまでの悔しそうな表情とは打って変わって、四神らしい凜々しい表情で答えた。

 

 

『青龍』

 

中国に伝わる四神の一体で、東方を守護し、五行思想においては木を司る神獣。他の四神同様、様々な物語やゲームなどに登場しているため、中国のみならず世界中でその名が知られている龍の一体とも言える。

 

 

 ……まあ、今のは四神らしいと言えば四神らしい感じだったな。

話し方も何だか厳かな感じだし……。

 

 そんな事を考えながら、俺が護龍の様子を見ていた時、智虎が不思議そうな表情を浮かべながら護龍に声を掛けた。

 

「ところで……何で護龍君がここにいるの?」

「それはだな……」

 

 護龍が静かに語り始めようとしたその時、俺達の背後からとても穏やかな声が聞こえてきた。

 

「……おや? 柚希君達、帰っていたんですね」

 

 振り向いてみると、そこには買い物袋を持って優しい笑みを浮かべている天斗伯父さんの姿があった。

 

「あ、天斗伯父さん、ただ今戻りました」

「天斗さん、ただ今戻りました」

「ただ今戻りました、天斗さん」

「はい、おかえりなさい、皆さん。そしてそちらにいるのは、もしや……?」

「あ、はい。智虎達の友達で青龍の護龍と言うそうです」

「ふふ、やはりそうでしたか」

 

 天斗伯父さんが穏やかな表情を浮かべながら言っていると、護龍は再びポカンとした表情を浮かべながら、静かに声を上げた。

 

「……あの方が、父上の御友人である天斗殿、なのか……」

「ああ。まあ、今は人間の姿をしてるけど、普段はしっかりと神様としての仕事もこなしつつ、人間としての仕事もこなすスゴい人なんだ」

「ふむ、なるほどな……。して、おま──いや、貴方は天斗殿の甥殿という事か」

「そう。俺は遠野柚希、様々なモノ達と暮らしつつ、智虎達のトレーナー役もやってる転生者だよ」

「……なるほど、智虎達のトレーナーか……」

 

 俺の言葉を聞くと、護龍が少し暗い表情を浮かべながらポツリと呟いた。

 

 ん……? もしかしてコイツ、旅の最中で何かあったのかな……?

 

 その事が気になり、俺がちょっと訊いてみようとしたその時、護龍は決意を固めたような表情を浮かべると、天斗伯父さんに声を掛けた。

 

「天斗殿、少々お話ししたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「あ、はい。それは別に構いませんが、どうかしましたか? 護龍君」

「それは……」

 

 そして護龍が話し始めようとした時、護龍の腹から少し大きな音が聞こえてきた。

 

 あ……これはまさか……。

 

「護龍、もしかして……腹が減ったのか?」

「……はい。実は朝から何も食べていなかったもので……」

「そっか。それじゃあ、今日の所はウチで食べて行きなよ。修行のための旅の最中だと、あまりのんびりと食べられる機会も少ないだろうからさ」

「それは助かりますが……本当によろしいのですか?」

「ああ。天斗伯父さん、大丈夫ですよね?」

「はい。智虎君達の御友人が困っているところを放ってはおけませんからね」

「柚希殿……天斗殿……誠に(かたじけな)いです……」

「どういたしまして。さてと……それじゃあそろそろ中へと入りましょうか」

「そうですね。それでは、柚希君。お昼ご飯のお手伝いをお願いしますね」

「分かりました」

 

 天斗伯父さんの言葉に頷きながら答えた後、俺達は昼食のために家の中へと入っていった。

 

 

 

 

『いただきます』

 

 昼食を作り終えた後、俺達はいつも通りの席へと座り、声を揃えて食事の挨拶をしてから昼食を食べ始めた。今日の昼食は和風メインのため、鰹と昆布の香りが漂ううどんと天斗伯父さんが貰ってきた稲荷寿司と漬け物、さして少し熱めに淹れた緑茶が並んでいた。

 

……うん、このメニューならそれなりに腹には溜まるはずだ。

 

 うどんの汁を啜りつつそんな事を考えていると、出汁に使った鰹と昆布の香りが口から鼻の方へスーッと突き抜けていったため、味覚と嗅覚の2つでうどんの旨味を感じることが出来た。

 

 さて……護龍の方はどうかな?

 

 俺はうどんの入った器を静かに置いた後、護龍の方へと視線を向けた。護龍は智虎達と時折話をしつつ、静かに昼食を食べていたが、その表情にはゆったりと出来ている事による安心感と智虎達と会えた事の喜びの色が浮かんでいた。

 

 うん、どうやらゆっくりはしてくれてるみたいだし、そろそろ護龍に話を聞いてみるとするか。

 

「なぁ、護龍。そろそろお前がここにいる理由を教えてもらっても良いか?」

「……む、そういえばまだ皆さんにはお話していませんでしたな。

それでは、お話させて頂きます」

 

護龍は俺達の方へ体を向けた後、静かにここまでの経緯について話し始めた。

 

「黄龍様のご指示があった後、私は父上に呼び出され、旅に関する指示を受けました。そしてその指示というのが、まずは見識を深めるための旅に出、見識がそれなりに深まったと自分自身で感じた後、自分自身がこの方ならばと感じた方のお世話になり、自分自身の『木』の力を高める修行を積め、という物でした」

「旅に出るだけじゃなく、その後にトレーナーになってくれる人を自分で捜さないといけないなんて……何だか智虎君達よりも難しい事をしてるような……」

「……確かにそのようですが、この修行の方法については各々で決め、そしてこなしていくもの。この事について、私は文句などを言う気はありません」

 

 護龍がカッチリとした答え方をしていると、風之真が少々腑に落ちない様子で首を傾げた。

 

「んー……なーんか固ぇなぁ……」

「固い……とは?」

「おめぇの話し方だよ。おめぇの話し方を聞いてっとな、なーんかこう……智虎達と同じ歳ってぇ感じがしねぇんだよなぁ……」

「……なるほど、そういう事でしたか……。この話し方なのですが、実は父上の話し方が移った物でして、度々直そうとはしているのですが……どうにも直らないため、今でもこの話し方になっているのです……」

「あー……そういう事なら仕方ねぇよな。俺も兄貴の話し方が移った結果、こんな話し方になっちまったわけだしなぁ……」

「そうなのですか?」

「ああ。だが、この話し方は気に入ってるし、兄貴との繋がりみてぇなもんだと思ってるから直す気はさらさらねぇけどな」

「……移った話し方も、家族との繋がりとなり得る……」

 

 護龍は呟くような声で独り言ちた後、少し淋しそうな表情を浮かべた。

 

 護龍、もしかして……。

 

 俺はその事について訊こうとしたが、護龍はすぐに真剣な表情へと戻ると、話の続きを始めた。

 

「……失敬、話を続けます。そして父上の指示を受けた後、私は様々な場所を旅しました。見た事の無い獣達が住む場所や様々な文化が共存する場所などもあり、私はそこで様々な事を見聞きし、知識を増やしていきました。

そして、私の『木』の力も高まってきた頃、そろそろどなたかのお世話になろうと考え始めたのですが……旅の最中は他の方には殆ど出会えず、修行をつけて頂けるような方も知らなかったため、私はどうしたものかと途方に暮れていました。

しかしその時、私は父上から以前天斗殿のお話を聞いていた事を思い出し、微かな記憶を頼りにしながら、この地へと渡り、柚希殿達と出会った結果、今に至るというわけです」

 

 護龍がそう話を締めくくると、雪花が少し不思議そうな表情を浮かべながら護龍に声を掛けた。

 

「でも、どうして天斗さんに会いに来たの?」

「天斗殿は神々のみならず、様々な方々と親交を深めていらっしゃる方なので、どなたか『木』の力に精通している方を紹介頂ければと思い、本日こちらを訪ねたのです」

 

 護龍が静かな声で理由を話すと、天斗伯父さんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら答えた。

 

「『木』の力に精通している方……確かに何名か心当たりはありますが、どなたも遠くに住んでいらっしゃいますし、何よりそういった弟子を取る事などにはあまり興味を持っていない方ばかりですので……」

「そう、ですか……」

 

 天斗伯父さんの言葉に護龍はとても落胆したようだったが、天斗伯父さんは俺の事をチラリと見てクスッと笑った後、護龍に話し掛けた。

 

「護龍君、『木』の力に精通している方に関しては先程申し上げたとおりですが、その他の力──霊力や魔力といった様々な力に精通し、且つ我々のような存在への関心が高い方ならここにいますよ?」

「ここに……ですか?」

「ええ。そうですよね、柚希君?」

「あ……やっぱりそうでしたか」

 

 天斗伯父さんの言葉に俺が苦笑いを浮かべていると、護龍が少し大きな音が不思議そうな表情を浮かべながら天斗伯父さんに声を掛けた。

 

「柚希殿……ですか。あ……そういえば先程、賢亀の『水』の力を自在に操っておられましたね。流石に仕組みまでは分かりませんでしたが……」

「あ、さっきお前を引っかけた時の奴だな。でもアレは俺の力だけじゃなく、賢亀の協力があって出来た奴だよ」

「賢亀の協力……そういえば庭先でお会いした時、智虎達のトレーナーでもあると仰ってましたね」

「ああ。まあ、俺自身もまだまだ修行中みたいなもんだから、正確にはトレーナーとは言えないかもしれないけど、剛虎さんと甲亀さんから預かってる身として、精一杯一緒に頑張ってるつもりだよ。

たとえ、人間と神獣という別の種族同士だとしてもな」

「別の種族同士が……共に頑張り合う……」

 

 俺の言葉を聞き、護龍が呟くような声で独り言ちていると、智虎がふと時計をチラリと見た。そして何かに気付いたような表情を浮かべた後、智虎が話し掛けてきた。

 

「柚希さん、そろそろ夕士さん達との約束の時間じゃないですか?」

「……え?」

 

 智虎にそう言われたため、壁掛け時計に目を向けてみると、時計の針は約束をしていた時間の丁度15分前くらいを指していた。

 

 ……おっと、いけないいけない。智虎に言われなかったら、気付かないところだったな。

 

 俺はニッと笑いながら、智虎の頭を撫でつつお礼を言った。

 

「ありがとうな、智虎」

「ふふっ、どういたしまして」

 

 智虎が微笑みながら嬉しそうな声を上げていると、それを見ていた護龍が真剣な表情を浮かべながら話し掛けてきた。

 

「柚希殿。貴方は先程、別の種族同士だとしても共に頑張り合っている、と仰っていましたよね?」

「……ん? あぁ、言ったぜ? まあ、智虎や賢亀とだけじゃなく、他の絆の書の皆ともだけどな」

「……そう、ですか……」

 

 俺の答えを聞くと、護龍は少し難しい顔をしながら黙り込んでしまった。

 

 ……あれ、俺……何か変なことでも言っちゃったか……?

 

 その護龍の様子に俺が心配をしていると、天斗伯父さんが声を掛けてきた。

 

「柚希君。せっかくなので、夕士君達との約束に護龍君も連れて行ってみてはどうでしょうか?」

「護龍も……ですか?」

「ええ。流石に夕士君達と触れ合うわけにはいかないかもしれませんが、外の風を感じてみれば、何か変わるかもしれませんから」

「あ、なるほど……」

 

 天斗伯父さんの言葉に納得した後、俺は難しい顔を続けている護龍に声を掛けた。

 

「護龍、お前はどうしたい?」

「私は……天斗殿の案に乗ってみたいと思います。天斗殿の言う通り、外の風を感じてみれば、この考えの答えが見つかる気がするので……」

「ん、分かった。それじゃあ、ちゃちゃっと昼食を食べちゃおうぜ?」

「……承知しました」

 

 護龍の答えを聞いた後、護龍を含めた外出組は急いで昼食を食べ始めた。

 

 正直、護龍の考えてる事はちょっと気になるけど、それについて訊くべきタイミングは今じゃない気がするし、護龍自身が話してくれるのを待ってみた方が良さそうだな。

 

 先程の護龍の様子についてそう結論付けた後、俺は外出組同様に急いで昼食を食べ始めた。

 

 

 

 

「それじゃあ……行って来まーす!」

「んじゃあ、行ってくるぜ-!」

「行って来まーす!」

「行ってくるね-!」

「それでは、行って来ます!」

「……行って参ります」

 

 昼食を食べ終えた後、後片付けを残る組の皆にお願いしてから、俺はいつものバッグを背負いつつ、外出組と一緒に残る組の皆に声を掛けながら外へと出た。

 

 さぁーて……約束の時間まであまり余裕も無いし、ここは『ヒーリング・クリスタル』頼みで走って行く方が良いか……!

 

 時間などの都合からそう決めた後、俺は自分の力で姿を隠している風之真を始めとした外出組の皆に声を掛けた。

 

「よし、皆。ここから公園まで皆で走って行こうと思うんだけど、皆はどうだ?」

「俺はもちろん良いぜ、柚希の旦那。もっとも俺と鈴音なんかは『飛ぶ』だけどな?」

「あははっ、確かにそうだね! そして、ボクももちろん構わないよ、柚希!」

「僕も大丈夫だよ、柚希兄ちゃん!」

「僕も大丈夫です、柚希さん」

「……私も問題ありません」

「分かった。よし……それじゃあ早速出発だ!」

 

 風之真達が頷いたのを確認した後、俺達は夕士達が待っているであろう公園へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 走りだしてから数分後、俺達は公園の入口に辿り着いた。

 

 ……よし、どうにか間に合ったかな。

 

 そう思いながら首に掛けている『ヒーリング・クリスタル』の力を借りて、走ってきた分の疲れを取っていると、公園の中の方から既に来ていた夕士達が話をしながら歩いてきたのが見えた。

 

 あ、やっぱりもう来てたか。

 

 そんな事を考えつつ、夕士達が歩いてくるのを見ながら、俺は風之真達に声を掛けた。

 

「それじゃあ、皆。ここからはいつも通り、帰る時間まで自由行動にして良いぞ。ただし、くれぐれも危ない真似だけはしないでくれよ?」

「へへっ、わかってるって!」

「了解だよ、柚希兄ちゃん!」

「ボクもりょーかい♪」

「分かりました、柚希さん」

「……承知しました」

「……よし、それじゃあひとまず解散!」

 

 俺の声と同時に風之真達は思い思いの方へと散っていったが、護龍は智虎に連れられて一緒の方向へ飛んでいった。

 

 護龍の事はとりあえず智虎に任せよう。友達だからこそ、何か話せる事もあるだろうし。

 

 智虎達が向かっていった方をジッと見つめていたその時、突然近くから声が聞こえた。

 

「……ずき? どうかしたのか?」

「……え?」

 

 そんな声を上げながら声がした方を向いてみると、そこには不思議そうな表情を浮かべている夕士と長谷の姿があった。

 

 あれ……いつの間に近くにいたんだろ……?

 

 その事を少々不思議に思ったものの、俺はすぐにほほえんでから返事をした。

 

「いや……今日も風が気持ちいいな、と思ってさ」

「あ……言われてみれば、確かにそうかも。何か晴れてる日って、風が気持ち良く感じる気がするんだよな」

「同感だな。カラッとした風、とまではいかないが、曇りや雨の時みたいなジメッとした風よりは晴れてる時のサラッとした風の方が気持ちが良いからな」

「そういう事。さて……それじゃあ今日は何から始める?」

「そうだな……」

 

 そんな会話を交わし、そしてやる事を決めた後、俺達は晴れ渡った空の下で遊び始めた。

 

 

 

 

 遊び始めてからおおよそ二時間後、俺達は休憩をするために噴水の傍にあるベンチに並んで座っていた。

 

 ……ふぅ、やっぱり夕士達と一緒に何かするのって楽しいな。

 

 額から流れてくる汗を静かに拭いつつ、そんな事を考えていた時、俺はふと出会ってから昼食時までの護龍の様子を思い出した。

 

 ……そういえば、俺が智虎達のトレーナー役を務めている事を言ったり、智虎達と一緒に頑張り合っている事を言ったりした時、何だか暗い顔してたけど、もしかしてあれって……。

 

 護龍の様子についてある予想を立てた後、俺は夕士達に話し掛けた。

 

「なぁ、二人とも。ちょっと訊いても良いか?」

「ん、別に良いけど……」

「どうかしたのか? 遠野」

「もし……もしだけど、自分の知らない所で友達が自分よりも頑張ってる事を知ったら、そして自分よりも力をつけていたら……お前達はどう思う?」

「自分の知らない所で友達が自分よりも頑張ってて……」

()つ自分よりも力をつけていたら、か……」

 

 俺からの問い掛けに夕士達は少し俯きながら考え込んでいたが、程なく自分なりの答えを出したらしく、再び俺の方へ視線を向けた。

 

「俺は……その友達に負けないように更に頑張る……かな?」

「……ほう?」

「だってさ、その友達に負けっぱなしなのは何か悔しいだろ? だったら、その友達と同じ方法を使ってでも、俺はその友達に負けないように精一杯頑張りたいってそう思うんだ」

「なるほど……長谷はどうだ?」

「俺も稲葉と大体同じだが……俺の場合は自分が誇れる物を増やそうとするかな」

「自分が誇れる物を増やす、か……」

「ああ。稲葉の言う通り、同じ方法を使ってやるのも結構だが、どうせなら自分が誇れる物、自分が他の奴よりも得意な物を増やしてみるのも面白いと思ってな」

「自分が得意な物を増やす……か。確かにそれはそれで面白いかもな」

「だろ? まあ、俺がもしその状況に陥ったら、自分の得意な物を増やしつつ、ソイツの得意な物も超えてみせるけどな♪」

 

 長谷がニヤッと笑いながら言うと、それを見た夕士が楽しそうに笑い始めた。

 

「あははっ! 確かに長谷なら出来そうだよな!」

「当然だ。何なら、初めてやる事すらマスターしてみせるぜ?」

「あー……確かに長谷ならそれすら出来そうだな」

「だろ? まあ、俺にとってそれくらい負けたくない身近な相手は……」

 

 長谷は俺と夕士の顔を交互に見ながら言葉を続けた。

 

「当然、お前達だけどな」

「長谷……」

 

 夕士がポツリと呟くような声で言うと、長谷は真剣な表情を浮かべながら話を続けた。

 

「……自分でも言うのもアレだが、俺は他の奴──同じ学年の奴らには何の勝負だとしても負ける気はしない。けど、稲葉と遠野を相手にした時だけは違う。お前達が相手になった時、その時だけは他の奴らの時と違って、“負けたくない”っていう心の底から思うんだ。たとえ、どんな物だったとしてもな」

「うん……」

「たぶん、俺はお前達の事を掛け替えのない友達だと思うと同時にライバルとしても見てるし、お前達の事を頼りになる存在としても見てるんだと思う。俺が将来会社を興したり何か大きな事をする時には隣に立っていて欲しいくらいにな」

 

 そう俺達に言う長谷の眼は、とても真剣であり、先程語ったようなとても強い思いが籠もっている気がした。友達でありライバルみたいな関係。この言葉を思い返した時、長谷の姿に護龍の姿が重なったような気がした。

 

 ……うん、たぶん護龍の思ってる事、考えてる事はそういう事なんだろう。だから智虎達の姿を見た時に少し暗い顔をしていたんだ。

だったら俺が出来る事は……。

 

 護龍の事に対しての答えを出した後、フッと笑いながら長谷に返事をした。

 

「長谷、俺達だって同じ気持ちだぜ? な、夕士」

「ああ、俺達だって長谷の事を大事な友達でありライバルみたいなものだって思ってるぜ? 長谷」

「遠野……稲葉……」

 

 呟くような声で言いながら俺達の事を交互に見た後、長谷は静かにフッと笑った。

 

 ……そうだ、せっかくだしこんな事でも提案してみるか。

 

 俺はある事を思いついた後、夕士達に声を掛けた。

 

「夕士、長谷。ちょっとやりたい事があるんだけど、良いか?」

「別に良いけど……」

「それって一体何なんだ? 遠野」

「えっとな……」

 

 俺は右手を裏返しにした状態で前に出してから言葉を続けた。

 

「順番はどうでも良いから、この上にお前達の右手を重ねていって欲しいんだ」

「ああ、なるほど。じゃあせっかくだし、俺がその上で……」

「そして俺が一番上にしておくか」

 

 そして夕士、長谷の順に俺の右手の上に手が置かれた後、夕士が不思議そうな表情を浮かべながら俺に話し掛けてきた。

 

「それで? この後はどうするんだ?」

「ん、どうもしないよ。ただ、さっきお互いの関係の再確認みたいなのをしたから、ちょっと友達の誓いみたいなのをやってみたかっただけだよ」

「友達の誓い、か。……うん、何か良いな、それ」

「だな。ただ、これの細かい所を変えたら、桃園の誓いみたいになりそうだな」

「あ、確かにそうだな。となると……劉備は長谷で、張飛が夕士……とか?」

「って事は……関羽は柚希だな。……あれ? でもそれだと俺が一番下の義弟になるんじゃ……?」

「いや、俺はわりとしっくり来るぜ? それにこの中での長兄っていうのも、中々面白そうだしな♪」

「……まあ、面白そうって言えば、確かに面白そうかもな」

「だろ?」

 

 夕士が微笑みながら言うその言葉に長谷がニッと笑いながら言葉を返した。

 

 うん、やっぱり良いな、この感じ。さて……後は護龍達の方をどうにかしてやらないとな。

 

 心の中でそう決めた後、俺は再び夕士達の会話に混ざり、夕暮れ時までの間、とても楽しい時間を過ごした。

 

 

 

 

 午後5時頃、公園を出てからいつもの場所で夕士達と別れた後、俺は外出組の皆と一緒に家に向かって歩いていた。

 

「ん~……! やっぱ伸び伸びと飛べるって良いなぁ……!」

「あははっ、そうだね~♪」

「僕の場合は走るだけど、その気持ちはスッゴく分かるよ!」

 

 風之真と鈴音がオルトの頭の上に座り、オルトも混ぜて楽しそうに会話を交わす中、俺は隣を飛んでいる護龍に声を掛けた。

 

「護龍、考えの答えは見つかったか?」

「……いえ。外の風を感じた事で、多少は気持ちがスッとはしましたが、考えの答えに関してはまったく……」

「護龍君……」

 

 暗い顔をしている護龍の事を智虎が心配そうに見ている中、俺は夕士達との会話の中で見つけられたかもしれない答えについて話す事にした。

 

「なぁ、護龍。俺なりにお前の考え、そしてその答えについて考えてみたんだけど、聞いてくれるか?」

「……柚希殿が考えた……私の考えとその答え……」

「ああ。……まあ、俺なりのだから色々と間違ってるかもしれないけどな」

 

 俺がニッと笑いながら言うと、護龍は少し考え込んだ後、静かに頷きながら答えた。

 

「お聞かせ願えますか? 柚希殿」

「ああ」

 

 俺はコクンと頷きながら返事をした後、俺なりに考えた事について話を始めた。

 

「……護龍。お前は智虎と賢亀の事をただの友達だと思ってないんじゃないか?」

「なっ……!?」

「えっ……?」

 

 俺の言葉に護龍が驚愕の表情を浮かべると同時に智虎が弾かれたように護龍の方へと顔を向けた。

 

 あ……ちょっと言い方が悪かったかな……?

 

 智虎達の反応からそう思った後、俺はすぐに言い方を変えた。

 

「言い方が悪かったな。俺が言いたかったのは、護龍が智虎達の事を友達でありライバルみたいな関係だと感じてるんじゃないかって事だよ」

「友達でありライバルみたいな関係……」

 

 智虎が護龍の事を見ながら呟くような声で繰り返していると、護龍は静かに頷いた。

 

「……私自身、この感情が何なのかは分からなかったのだが……先程の柚希殿の言葉、その言葉こそがこの感情を表すに相応しい物なのだろうな」

「でも……いつから……?」

「わから──いや、恐らくだが旅に出ると決めた時からなのだろうな」

「そう、だったんだ……」

「ああ……私はいつからかお前達の事をまとめる役目を担い、その役目を全うしようと常に考えつつ、お前達という友人達がいてくれる事をとてもありがたく思っていた。しかし、黄龍様のご指示により旅に出ると決めた瞬間、私の中で自身の力を高めようという気持ちの他にもう一つの感情が生まれた。

それが……お前達に誇れる自分を、負けない自分を目指そうという感情──ライバル意識だった。私はこの初めての感情に困惑した。

お前達に負けたくない、お前達に誇れる自分になりたいという感情は私の知っている友情とは違い、お前達との関係を否定する物に感じられたからだ。

そしてそのような迷いを抱えながら、私は旅へと出発した。迷いを抱えながらも、私は己の力を高めようと、様々な物を見聞きし、それらを己の力にどうにか利用できないかとひたすら考え続けた。私の中にある迷いから必死に目を逸らすために……」

「護龍……」

「そして、修行の旅を続けて半年が過ぎた頃、私は自分の力が多少なりとも高まったと感じ、次のステップへと進むべく、天斗殿の元を訪れようとこの地へと降り立った。降り立った後、私は天斗殿のお宅を探すため、この辺りを探索していた。

すると、その道中で見事な桜の木を見掛けた。そしてその桜の木を見た瞬間、私の中にあった迷いや焦りが少しずつ薄らいでいったのを感じ、私はこの上ない安心感を覚えていた。しかし、それから程なくして、私よりも遙かに強力な力の奔流を感じ、私の中で薄らいでいった迷いと焦りが再び濃くなっていった」

「それが……今朝の事、だよな?」

「はい。何故かその時、私はこの力の持ち主に私の力を見せつけたいと思い、私の『木』の力を用い、まだ蕾だった桜の花を咲かせました。すると、力の持ち主はそれに少し驚いた後、そのままその場を去って行きました。

私はそれを感じた時、桜の木を見た時とは違った安心感を覚え、再び天斗殿のお宅を探し始めました」

「そして、昼頃にまた力の持ち主──俺の気配を感じたから、今朝と同じように桜の花を咲かせたんだよな」

「はい。しかし、この時は今朝とは違い、その後に智虎と賢亀の気配を感じました。その瞬間、私は懐かしさを感じると同時に眠っていた智虎達へのライバル意識が燃え上がったのを感じました。

智虎達に負けたくない、智虎達に誇れる自分になりたいという感情が再び濃くなり、私はどうしたらいいのか分からなくなっていた時、智虎達が私の好きな花の話をしているのが聞こえました。その瞬間、私はその花々を眺める事でこの感情を少しでも収めようと思いつき、距離を離しながら柚希殿達の後を付いて行きました」

「……そして、俺の考えによって姿を見せることになった、だよな」

「はい……そしてその後、柚希殿や智虎達の話を聞きながら、智虎達の力が旅に出る前よりも遙かに強くなっている事に気付き、私の中の迷いと焦りが更に強くなっていきました」

 

 護龍はそこで一度言葉を切ると、夕陽でオレンジ色に染まった空を哀しそうな表情を浮かべながら見上げた。

 

「……そして、今も私はその迷いと焦りの気持ちに囚われていますし、智虎達へのライバル意識を持て余しています。智虎達と『友人』でありたい私と智虎達に『ライバル』として負けたくない私が(せめ)ぎあい、私自身の心を徐々に曇らせていくのを感じながらも、それをどうにも出来ない自分自身にもどかしさを感じながら……」

「そっか……」

 

 護龍の心からの声を聞いた後、俺は静かに微笑みながら声を掛けた。

 

「やっぱり良いんじゃないのかな? 友達でありライバルっていう関係でさ」

「……え?」

「友達とライバルってさ、一見違うように見えるけど、本当は同じような物なんだよ。友達は仲良く何かをする関係、ライバルはお互いに競い合う関係ってだけに思えるけど、どちらも誰かと仲良くするっていう意味では同じ物なんだよ」

「友達もライバルも同じ物……」

「そう。お互いの力を認め合い、お互いに切磋琢磨し合う。それは友達だってライバルだって同じ事。そうやって行く事で、昔から誰もが成長して来たんだよ」

 

 世の中にある様々な物語に誰かと競い合い、力を高め合う描写が出てくる事は多い。それはやっぱり、そういった事が成長に繋がるって心の底で理解しているからなんだと思う。どんなに泥臭い友情でもどんなにピリッとした関係でも心の奥底ではお互いの力を認め合い、お互いに負けたくないと思い合う。

そういった感情を持っているからこそ、誰もが自分の力を高めながら成長をしてきたんだと俺は思っている。

 

「だからさ、護龍はそのままでも良いんだよ。智虎達の事を友達と思いつつ、それと同時にライバルとしても意識する。

そういう感情を持った、今のままでもさ」

「柚希殿……」

 

 護龍は真剣な表情を浮かべながらポツリと呟いた後、静かにフッと笑った。

 

「……まさか、半年も迷っていた物の答えがこんな簡単で当たり前な物だったとは……」

「いや、簡単な物で当たり前な物だからこそ、答えを見つけるのに時間が掛かることもあるんだよ。簡単で当たり前だからこそ、すぐには気付けないからな」

「……そうかもしれませんね。実際、今の私がそうだったのですから……」

 

 護龍は静かにそう言うと、智虎の方へと視線を向けた。

 

「智虎、これからもお互いに高め合い競い合っていこう。……同じ場所の下でな」

「護龍君、それって……!」

 

 智虎の嬉しそうな様子にコクンと頷いた後、護龍は再び俺の方へと視線を向け、真剣な表情を浮かべながら口を開いた。

 

「柚希殿、私のトレーナー役の件、正式に引き受けて頂けませんか?」

「……ああ、もちろん引き受けるさ。これからは一緒に頑張って行こうぜ、護龍」

「はい。承知しました、柚希殿」

 

 そう言う護龍の顔にはさっきまであったはずの迷いなどは微塵も無く、とても晴れやかな気持ちであるのが見て取れた。

 

 ……うん、何とか護龍の助けになれたみたいだな。

 

 そんなちょっとした安心感を覚えつつ、智虎と嬉しそうに話をしている護龍の姿を見ていると、風之真が俺に話し掛けてきた。

 

「柚希の旦那、これでまた新しい仲間が増えるってぇことかぃ?」

「ああ、そうだ。分かってるとは思うけど、仲良くやるんだぞ?」

「ふふっ、分かってるよ、柚希」

「柚希兄ちゃんがそうなように、僕達だって色々なモノと仲良くしたいからね」

「うん、それなら良いや。さてと……」

 

 元気三兄妹との会話を打ち切った後、俺は護龍に声を掛け、俺の事や『絆の書』について話した。そして話し終えると、護龍はとても興味深そうな様子を見せた。

 

「……『絆の書』、そして同調……なるほど、柚希殿が賢亀の『水』の力を使えたのにはそのような理由があったのですか……」

「まあな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか、護龍」

「はい」

 

俺がバッグから『絆の書』を取り出し、空白のページを開いてみせると、護龍は右前足を静かに空白のページへと置いた。そして俺はある事を試すために、左手に『絆の書』を持ったまま、右手を空白のページへと置き、そのまま頭の中でいつものイメージを浮かべた。

その後、体の奥底にある魔力が腕を伝って、手のひらの中心にある穴から流れ込むイメージが無事に浮かんだ事を確認し、俺はそのまま魔力を流し込んだ。

そして必要な量が流れ込んだ瞬間、頭が軽くキーンとなったが、それを目を瞑りつつ歯を食いしばって耐え、それが止んだ瞬間、俺は静かに目を開けて、『絆の書』に視線を移した。

すると、そこには森のような場所で様々な種類の樹木を真剣に見つめている護龍の姿と青龍に関して書かれた文章が浮かび上がっていた。

 

 ……成功はしたけど、やっぱりまだ『ヒーリング・クリスタル』の力に頼らなきゃいけないみたいだな。

 

 その事に苦笑いを浮かべた後、俺は護龍のページに再び右手を置き、そのまま静かに魔力を注ぎ込んだ。そして、護龍が『絆の書』から出て来た後、俺は不思議そうな表情を浮かべている護龍に声を掛けた。

 

「護龍、居住空間はどうだった?」

「そうですね……様々な方々が住まう場所であるからかもしれませんが、霊力や神力のみならずその他様々な力の気配があり、あの場にいるだけでも自分の力が高まっていくような感じがするだけでなく、雰囲気も良いためとても住みよい場所であると思いました」

「ふふ、そっか。さて……それじゃ、ささっと帰ろうか。他の皆にも護龍が新しく加わった事を報せたいからさ」

「へへっ、だな!」

「ボクもさんせーい!」

「僕も賛成だよっ!」

「もちろん、僕も賛成です」

「承知しました、柚希殿」

 

 皆の返事に俺はコクンと頷いた後、皆と一緒に家に向かって再び歩き始めた。夕暮れ時のオレンジ色の空の下、桜の花弁の桃色がひらひらと風によって舞う、その中を。




政実「第14話、いかがでしたでしょうか」
柚希「今回で青龍が仲間になったわけだし、これで次回に出てくる奴は確定したな」
政実「まあね。そして、それだけじゃなくその後に出てくるのも絞れてきた感じだね」
柚希「まあ、四神と言えば……みたいなのがいるからな。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこっか」
柚希「そうだな」
政実・柚希「それでは、また次回」
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