転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

34 / 50
政実「どうもなにかと四神に関連したキャラクターを作品に出しがちな片倉政実です」
柚希「どうも、遠野柚希です。たしかに四神をモチーフにした名前のキャラとか四神に何か縁がありそうなキャラとかがいるよな」
政実「うん。好きだからというのもあるけど、モチーフにしやすいからつい使いたくなるんだよね」
柚希「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第16話の後編をどうぞ」


第16話 四神の試練と土を司る神獣 後編

 まさか……智虎達の親御さんが試練の相手とはな……。

 

 その様子を見ながら静かに緊張をしていると、智虎のお父さん──剛虎さんが俺に声を掛けてきた。

 

「柚希殿、お久しぶりです」

「……あ、はい。お久しぶりです、剛虎さん」

 

 俺が剛虎さんに返事をしていると、賢亀のお父さんである甲亀さんと護龍のお父さんの飛龍(フェイロン)さん、そして麗雀のお父さんの緋雀(フェイツェ)さんも話へと加わってきた。

 

「柚希さん、お久しぶりです」

「お久しぶりです、柚希殿」

「柚希様、お久しぶりです」

「はい、皆さんもお久しぶりです」

 

 智虎達、四神′sとはまた違った四神の圧に少し気圧されそうになりながらも、俺は静かに微笑みながら甲亀さん達に返事をした。この様子からも分かる通り、智虎と一緒に家を訪ねてきた剛虎さんはもちろんの事、甲亀さん達とも面識がある。

因みにその理由は、天斗伯父さんが賢亀達が『絆の書』の住人となった後に、甲亀さん達にその旨について連絡をした事で、甲亀さん達が直接挨拶に来てくれたからだ。

 

 ……正直、最初に会った時はその力の波動にかなり気圧されてたんだけどな……。

 

 その時の事を思い出し、心の中で苦笑いを浮かべていると、智虎が驚きを隠しきれない様子で剛虎さんに話し掛けた。

 

「でも……本当にどうしてお父さん達がここにいるの……?」

「……先程、護龍君が口にしたように、私達がお前達の試練の相手であるからだ」

「そう、なんだ……でも、どうしてお父さん達が試練の相手なの?」

「それはね、私達がそれを志願したから、そして私達がこの試練において適役だったからだよ、賢亀」

「父上達が志願を……?」

「そうだ。柚希殿や天斗殿、そして様々な方々が師としていて下さるとはいえ、やはり我が子の成長はこの眼で確かめるべきだからな」

「……なるほど。つまり、私達は父さん達を越える、またはそれと同じだけの力を示す必要があるわけね……!」

「……まあ、越えられるというのならば、越えてみて欲しいものだがな。しかし、今回私達が求めるのは、私達が定めた最低限の力、すなわち四神として一人前であると認めるに相応しい力を示す事だ」

「四神として一人前の力、か……」

 

 緋雀さんの言葉を繰り返しながら、俺は緊張感が強くなっていくのを感じた。

 

 ……今回、四神′sだけじゃなく、トレーナー役である俺の力も同時に試されるわけだな。たとえ、俺がどうにか出来ても四神′sがどうにもならなかったらダメ、そして四神′sがどうにか出来ても俺がどうにもならなくてもダメって事だ……。

 

 その瞬間、俺の手が静かにブルブルと震え出した。

 

 ……やっぱり重い。分かっていた事であるはずなのに、その責任の重さを再認識した途端、こんなにも心が辛く、今にも逃げ出してしまいそうになってしまう……こんな状態で智虎達のアシストなんてとても──。

 

 強い緊張感とずっしりとのし掛かってくる責任の重さに思わず目を閉じてしまいそうになったその時、両肩と両足に何かがポンッと置かれた感触があった。そして、そちらへ視線を向けてみると、四神′sの皆が穏やかな笑みを浮かべながら俺の事を見ていた。

 

「皆……」

「大丈夫ですよ、柚希さん」

「智虎君の言う通り、僕達なら絶対に試練を突破できますよ、柚希さん」

「昨日、柚希殿に私達の事を支えて頂いた分、本日は私達も全力で試練に当たります」

「だから、柚希は自分の力を発揮する事に集中して。心配しなくても、私達の事は大丈夫だから」

「……皆」

 

 四神′sの皆の顔を見た途端、俺の中にあった緊張感やプレッシャーなどが徐々に消えていくのを感じた。

 

 ……うん、やっぱりこうして皆が一緒にいてくれる事、この事だけでも充分な心の支えになるな。

 

 智虎達の顔を見ながら静かにそう感じた後、俺は智虎達に話し掛けた。

「ありがとうな、皆」

「ふふ、どういたしまして、柚希さん」

「こういう状況だし、やっぱりお互いにサポートし合わないとね」

「うむ、此度の試練では、私達の団結も暗に試されているはずだ」

「そうね。だからこそ、手に手を取り合って、頑張っていかないとね」

「ああ、そうだな。……皆、今日はこれまで培ってきた力を存分に発揮して、全力で試練を突破するぞ!」

「はいっ!」

「はい!」

「はい!」

「ええ!」

 

 俺の言葉に智虎達が声を揃えて答えた後、俺達は一緒に頷いた。そして、試練の内容について訊くべく、輝麒の方へ視線を向けると、輝麒はどこか羨ましそうな表情を浮かべながら、俺達の事をジッと見ていた。

 

 輝麒……もしかして……?

 

 しかし、輝麒は何かを頭の中から追い払うように頭を横へと振り、表情を元に戻した後、静かに話し始めた。

 

「……それでは、試練の形式についてお話しします。試練は柚希さんと智虎君達の内の誰かが一組となり、剛虎さん達の中でその力の種類に対応した方が相手を務める形です」

「……要は、俺と智虎が組んだ場合は、剛虎さんが試練の相手になるって事だな」

「はい、その通りです。そして、先程も緋雀さんがチラッと話されましたが、緋雀さん達が定めた最低限のラインを超えた力を柚希さん達が示した上、試練の内容をクリアする事が出来れば、試練突破となります。しかし、途中で試練を諦めたり、定めた最低限のラインの力を示せなかった時は、残念ながら試練突破ならずとなります」

「なるほどな」

 

 規定の力を越えた上、試練の内容自体のクリアで試練突破、つまりどちらか一方がダメな時点で試練突破ならず、か……正直、辛いと言えば辛いけど、智虎達の力だけじゃなく、同調も駆使してどうにかやってみるしか無さそうだな。

 

 試練の内容を頭の中で再確認してから、静かにコクンと頷いていると、輝麒がジッと見つめながら俺達に話し掛けてきた。

 

「さて……最初は誰から行きますか?」

「最初は──」

 

 俺が最初の相方を決めようと智虎達の方へ視線を向けたその時、智虎がやる気に満ちた目をしながら一歩前に出た。

 

「僕が行きます、柚希さん!」

「智虎……ああ、分かった。一緒に頑張って試練を突破しようぜ!」

「はい!」

 

 智虎が大きく頷くと、剛虎さん以外はスッと後ろの方へと下がった。そして、剛虎さんは智虎の事を見ながら、静かに声を掛けた。

 

「智虎、たとえ我が子とはいえ、一切手心は加えない。全力で私に立ち向かってくるが良い!」

「はい! もちろんです!」

 

 智虎が大きな声で返事をすると、剛虎さんは静かに頷いた後、『金』の力を発揮した。すると、剛虎さんの目の前に突如幾つもの金属が次々と現れ、それらは大きな音を立てながらその場へと落ちた。

 

 やっぱり『金』の力だけあって、金属が関わってくるみたいだけど、これを一体どうするんだ……?

 

 地面に転がった金属を見ながら不思議に思っていると、智虎が首を傾げながら剛虎さんに話し掛けた。

 

「……お父さん、これをどうにかすれば良いの?」

「……半分正解、半分不正解だ」

「え……それってどういう──」

 

 智虎が疑問の声を上げようとしたその時、目の前に置かれた金属達が突如独りでに震えだし、スーッと上へと浮かび上がると、大きな金属音を立てながら次々と組み合わさっていった。そう、それはまるで何かを形作るように。

 

 ……まさか、俺達が相手にしなきゃないのって……!

 

 俺の中の力がまるで警報を鳴らすように強く反応し始めたかと思うと、目の前にあった金属達はそのまま次々と組み合わさり、程なくして最後の金属が『ソレ』へと組み合わさった。

 

「……マジか、これ……!」

「え……何、コレ……!?」

 

 俺達の目の前に現れた物、それは様々な種類の金属で組み上がった大きな人型ロボットのような物だった。加工などをせずに組み上げた事で、どこか歪な見た目をしているものの、その手には大きな剣と盾を持ち、そしてその無機質な目で俺達の事をジッと見つめていた。

 

 これを……相手にしなきゃないのか……今の俺達の状況で……!

 

「お、お父さん……これを一体どうすれば良いの……?」

「……簡単な話だ。コレの攻撃を躱しながら、お前の『金』の力を用いて、コレを撃破しろ」

「撃破しろって……こっちには武器も何も無しで……!?」

「……武器くらい己の力で確保しろ。さて……それでは、始めるとするか……!」

 

 剛虎さんの大きな声が響き渡った瞬間、金属の巨人は音を立てながら俺達へ向かって歩き始めた。

 

 くっ……! とりあえず距離を取るためにアンと同調をしておくか……!

 

 俺は手の中の『絆の書』にあるアンのページを開き、魔力を急いで注ぎ込んだ。ところが──。

 

「……え、アンと同調出来ない……!?」

 

 そう、何故かアンの魔力が俺の中に来る様子が一切ない上、同調時に生える翼も一向に姿を見せなかった。

 

 ……まさか、この異空間内だとあっちの皆とは同調出来ないのか!? くっ……なら、とりあえず智虎と同調を……!

 

 自分の考えが崩れた事に動揺したものの、俺はすぐに智虎のページを開いた。

 

「智虎、やるぞ!」

「は、はい……!」

 

 智虎の返事を聞いた後、俺は『絆の書』へと魔力を急いで注ぎ込んだ。そして、智虎の『金』の力が俺の中に宿った事を確認した後、俺は目の前の金属の巨人を構成している金属の性質を変えるべく、『金』の力を行使した。しかし──。

 

「……嘘だろ、力が全部弾かれてる……!?」

「え……!?」

 

 俺が行使した力は、巨人に当たる直前でそれよりも強い力によって弾かれていたため、巨人には一切効力を発揮していなかった。

 

 そんな……!

 

 そんな俺達の様子を見て、剛虎さんが静かに話し掛けてきた。

 

「……同調による『金』の力の行使を用いた策は見事ですが、私とて策を講じていないわけではありません。現在、この巨人の周囲には『金』の力で作成した結界が張られているため、ただ力を行使するだけではこの結界を越えて巨人に効力をもたらす事は一切叶いません」

「つまり……この結界を攻略した上でこの巨人をどうにかしない限り、俺達はこの試練を突破する事は出来ない、と……」

「はい、その通りです」

 

 俺の言葉に剛虎さんは静かに頷きながら答えた。

 

 これは本当にマズいな……結界っていうのは、ソレと同等の力をぶつけて無理やり壊すか力の中心になっている物を壊すかしないとどうにもならない。今の場合は、それに加えてこの巨人の攻撃を躱しながら、それを実行しなきゃないわけだ。まあ、見たところ巨人の動きは遅そうだし、そこだけがすく──。

 

 その瞬間、巨人が突然ビクッと震えたかと思うと、勢い良く金属の剣を俺達へと振り下ろしてきた。

 

「……は!?」

「……え!?」

 

 その先程までとは明らかに違う速さに一瞬怯んだものの、俺はすぐに我へと返り、未だに怯んでいる智虎を腕に抱えた後、左の方へと跳ぶ事で巨人の攻撃を躱した。俺達が立っていたところには金属の剣が深く突き刺さっていたが、巨人が首を傾げながら勢い良く引き抜くと、大きな亀裂だけが残っていた。

 

 ……ふぅ、何とかなっ──。

 

 巨人の攻撃を躱せた事に安堵していた時、突如左腕に激痛が走った。

 

「ぐ……!?」

「柚希さん……!?」

 

 智虎の声を聞きながら左腕に視線を向けると、左腕には大きな擦り傷があり、傷からは少量ながら血が徐々に染み出してきていた。

 

 くっ……躱した時に負ったのか……!

 

 左腕の痛みに耐えながら傷について考えていた時、傷の上に赤黒い(もや)のような物が見え始めた。

 

 マズい……思ったより傷のダメージが大きいみたいだ……! 早くあの巨人を守っている結界をどうにかしないと……!

 

 俺はすぐに左手で『ヒーリング・クリスタル』を握り、魔力を注ぎ込んだ。すると、傷から染み出していた血が緩やかに止まっていき、程なくしてそこには血の赤色に染まった痛々しい擦り傷だけが残った。

 

 ……よし、これでとりあえず止血は出来た。ただ、これはあくまでも、一時的に自然治癒力を高めて無理やり止めたに過ぎない……。つまり、長期戦になってしまったら、この後の試練にも影響が出てしまう事に……。

 

 傷の様子を見ながら考えを巡らせていると、智虎が申し訳なさそうな様子で話し掛けてきた。

 

「柚希さん……申し訳ありません……」

「……これは別に智虎のせいじゃないよ。俺がもう少し上手く受け身を──」

 

 俺が微笑みながら答えようとした時、智虎が首を静かに横へと振りながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……いえ、僕があの時、あの巨人の攻撃に反応出来ていれば──怖がらずに一緒に避けようとさえすれば良かったんです……」

「智虎……」

「……巨人の攻撃が迫ってきたあの時、僕は心の底からの恐怖を感じていました。あの頃の臆病な僕を──ただの怖がりだった僕を克服出来たと思っていたのに、僕は未だに怖がりのままだったんです……!」

「智虎……」

 

 涙を必死に堪えながら辛そうに言う智虎に、俺はなんと言葉を掛けたら良いのか分からなかった。自分自身が大丈夫であると、しっかりと克服出来ていると実感していた物が本当は出来ていなかった。そのショックは、やはり本人にしか知り得ない物なのかもしれない。

 

 怖い、か……確かに智虎は臆病な自分を克服する事、そして剛虎さんのような立派な白虎になるために修行に励んでいた。けれど、智虎は少々思い違いをしてるんじゃないかな……?

 

 智虎の様子や言葉からそう感じた俺は、智虎の目の前にしゃがみ込んだ後、両手で智虎の顔を挟み込んだ。

 

「ゆ、柚希さん……?」

「なあ、智虎。怖い物があるって、そんなにダメな事かな?」

「……え?」

「……確かに、お前は臆病な自分を克服するため、そして剛虎さんのような立派な白虎になるためにここまで修行に励んできたよ」

「は、はい……だから──」

「でもな、智虎。お前はもう立派な白虎になってるって、少なくとも俺達はそう思ってるぜ?」

「そんな事……!」

 

 目を瞑りながら辛そうに言う智虎に、俺は更に声を掛けた。

 

「あのな、智虎。もしお前が前のお前のままだったら、まずここにはいないと思う」

「前の僕のままだったら、ここにはいない……」

「ああ。前のお前は、ただ様々な物を怖がってるだけだったから、ここに来ることすら怖がってたと思う。でも、今のお前はこれが試練だとはいえ、ちゃんとこの場に立っているし、実の親である剛虎さんが相手でもちゃんとソレを受け入れている。これはお前がちゃんと成長出来てる証拠だと思うぜ?」

「……僕がちゃんと成長出来ている……」

「ああ。それにさ、誰にだって怖い物なんてあって当然なんだよ。

 俺だって怖い物が無いわけじゃないし、たぶん剛虎さんだってそうだと思う。だからさ、智虎──」

 

 俺はニコッと笑いながら言葉を続けた。

 

「お前はもう、前のお前じゃない。お前はもう立派な白虎になってるんだよ」

「僕が……立派な白虎に……」

 

 智虎はその言葉を噛み締めるように静かに繰り返した。そして、迷いと哀しみに満ちていた眼が決意と覚悟を秘めた眼へ変わると、智虎はさっきまでとは違う凜々しい表情を浮かべながら話し掛けてきた。

 

「……やりましょう、柚希さん。僕達の力であの巨人を倒して、お父さんに成長したという証を示しましょう!」

「……ああ、もちろんだ!」

 

 俺達は一緒にコクンと頷いた後、剛虎さん達の方へ視線を戻した。すると、どうやら俺達の事を待っていてくれたらしく、巨人はその場にジッと立ち止まり、俺達の事を無機質な目で見つめ続けていた。そして、剛虎さんは智虎の事をジッと見た後、静かに口を開いた。

 

「……どうやら覚悟を決めたようだな、智虎」

「……もちろんだよ、お父さん。もう僕は、泣いてばかりの僕なんかじゃない。その事を……今から証明してみせるよ!」

「……そうか、ならば見せてもらうぞ。お前の成長の証、そしてお前の覚悟を!」

 

 その剛虎さんの言葉と同時に再び巨人は動き始め、ゆっくりとした動きで俺達へと近付いてきた。

 

 移動速度は遅いが、攻撃速度はそこそこ速い……なら、巨人の攻撃範囲に入らないようにしながら、アイツの情報さえ手に入れれば良いはずだ!

 

「智虎、少しだけアイツを引き付けてくれるか?」

「はい、任せて下さい!」

 

 智虎は大きく頷いた後、巨人の目の前へと走りながら、自分の毛を『金』の力で硬化させた。そして、巨人の目の前で大きく跳び上がった後、体を前方へ回転させながら硬化させた毛を巨人へ向けて次々と勢い良く飛ばした。しかし、巨人の周囲に張られた結界の力により、毛針は当たる直前でその力を失うと、次々とただの毛へと戻ってしまった。

 

 ……やっぱりそうなるか。けど、巨人の注意はしっかりと引き付けてくれたし、後は俺がしっかりとやれば……!

 

 俺は巨人と剛虎さんの挙動に注意を払いながら、急いで巨人の陰へと走り込んだ。そして、静かに巨人の胴体へ触れた後、精いっぱいの『金』の力を籠めて、巨人の解析を始めた。

 

 ……そうか、そこをどうにかすれば、この結界も巨人も何とか出来るのか……!

 

 結界と巨人、その二つを一度にどうにかする手段を見つけた俺は、すぐに巨人から距離を離し、同じく巨人から距離を離していた智虎に声を掛けた。

 

「智虎! 巨人から何とか剣を奪えないか!?」

「きょ、巨人から剣を……ですか……!?」

「ああ! あの剣さえ奪ってしまえば、俺達の勝ちは見える筈だからな!」

「けど……! 剣を奪うってどうやれば……!」

「そうだな……恐らくだけど、あの巨人を転ばすことさえ出来れば、その衝撃で剣と盾を手放すと思う。だから、まずはアイツを転ばさないと……!」

「巨人を転ばす……あ、それなら一個だけ考えがあるのでやってみますね!」

「……分かった。それじゃあ、俺はサポートに回るから、ここからの攻撃は智虎がメインになってくれ!」

「分かりました!」

 

 智虎は大きな声で返事をした後、再び巨人へ向けて走り出した。そして、直前で今度は自分の尾を硬化させると、巨人の足下目掛けて硬化させた尾を勢い良く衝突させた。すると、巨人の体がグラリと前後へと揺れたかと思うと、静かに後ろの方へと倒れ、程なくして大きな音を立てながら仰向けに倒れ込んだ。

 

 よし……! 後は剣と盾を回収すればいける……!

 

 そう確信した後、俺はすぐに巨人の元へと走り出した。そして、倒れた衝撃で巨人の手から離れた剣と盾に触れた後、俺は『金』の力を用いて、剣と盾を組み合わせた別の武器を組み上げた。

 

 ……後は、これを智虎へ……!

 

 俺はその武器を何とか持ち上げつつ、智虎へと声を掛けた。

 

「智虎! 後は言わなくても分かるよな!」

「はい! 恐らく大丈夫です!」

 

 智虎の返事を聞いた後、俺は持ち上げていた武器を勢い良く上へと放り投げた。そして、智虎は後ろから急いで走り込んでくると、俺の隣で大きく跳び上がり、再び硬化させていた尾を武器の柄へと力一杯に振るった。

 

「はああぁ──!!!」

 

 智虎の気合いの籠もった声と同時に撃ち出された武器は、勢い良く巨人の心臓目掛けて飛ぶと、結界に阻まれる事なくそのまま巨人の心臓へと突き刺さった。そしてその瞬間、巨人の周囲に張られた結界がまるで硝子が割れるような音を立てながら割れ、巨人の体も大きな音を立てながら崩れ落ちていった。

 

 ……倒した、のか……?

 

 息を切らしながら目の前の状況をボンヤリと見ていると、同じく息を切らしながら智虎がボンヤリとした様子でポツリと呟いた。

 

「……倒した、んですよね……?」

「……ああ、結界も破れてたし体も崩れてるから、そうだと思うけど……」

 

 お互いにボンヤリとした様子を続けながら、剛虎さんの方へと視線を向けると、剛虎さんは俺達の事をジッと見詰めた後、静かにフッと笑った。

 

「遠野柚希殿、そして我が子智虎。

共に『金』の試練を突破した事をここに証明しよう」

 

 その言葉を聴いた瞬間、俺の中に喜びが込み上げてきた。

 

「……よっしゃあー!!」

「……突破……! 僕……試練を突破出来たんだっ……!」

 

 俺達が共に喜びの気持ちを声に出していると、剛虎さんは静かな声で話し掛けてきた。

 

「柚希殿、私の創り出した巨人の弱点を見つけ出した技術、そして智虎を鼓舞し再び立ち上がらせた手腕、実に見事でした」

「ありがとうございます、剛虎さん」

「いえ、こちらこそ先程の柚希殿の動きなどから、多くの事を学ばせて頂きました。柚希殿、これからも智虎の事を何卒よろしくお願い致します」

「はい、もちろんです、剛虎さん」

 

 俺が静かに微笑みながら言うと、剛虎さんは静かに頷いた後、今度は智虎の方へ視線を向けた。

 

「智虎。先程、柚希殿が仰っておられたように、お前は既に一人前の白虎だ。だが、今回の結果に甘える事なく、これからも精進するのだぞ」

「はい! お父さん!」

 

 智虎の嬉しそうな返事を聴くと、剛虎さんは満足そうに頷いた後、甲亀さん達の方へと静かに歩いて行った。

 

 これでまずは一つだけど、後三つもどうにか頑張らないとな……。

 

 俺の中にある魔力量、そして左腕の傷の様子を見ながら考えていた時、ふとさっきのロボットの残骸がある方へと視線を向けた。すると、あった筈の残骸達はまるで最初から無かったかのように、跡形も無くなっていた。

 

 ……あれ、どこに行ったんだろ?

 

 その場所を見ながら不思議に思っていると、智虎がとても嬉しそうな様子で声を掛けてきた。

 

「柚希さん! 本当にありがとうございます!」

「どういたしまして、智虎。だけど、この結果はお前の頑張りもあっての結果だ。その事はちゃんと誇って良いと思うぜ?」

「柚希さん……」

「後は……さっき剛虎さんが言ってたけど、この結果に満足する事なく、これからも更に頑張っていかないとな」

「はい! もちろんです! これからも柚希さんと一緒に、この『金』の力を更に強くするため、精いっぱい頑張ります!」

 

 そう俺に言う智虎の顔は、とても晴れやかで凛々しく、見ているこっちまで明るくなりそうなものだった。

 

 うん、これで智虎は大丈夫そうだな。

 

 智虎のその様子からそう感じつつ同調を解いた後、ふと輝麒の方へ視線を向けてみた。すると、輝麒は喜んでいる智虎の事を見ながら、心の底からホッとしたような様子を見せていた。

 

 ……もしかして、輝麒が今回の監督役に選ばれた理由って……。

 

 しかし、ハッとした表情を浮かべた後、輝麒はすぐに真剣な表情を浮かべながら静かに話し始めた。

 

「それでは、次の試練に移りたいと思いますが、次は誰が行きますか?」

「次は──」

 

 俺が次の試練の挑戦者を決めようとした時、賢亀がゆっくりと歩いてきながら声を上げた。

 

「次は僕が行きます、柚希さん」

「……分かった、一緒に試練を突破しようぜ、賢亀!」

「はい」

 

 賢亀は静かに頷きながら答えたものの、そのゆっくりとした動きのせいか、中々こっちまで辿り着く様子が無かった。

 

 ……そうだった、賢亀は歩くのがそこそこ遅いんだっけな……。

 

 その様子に苦笑いを浮かべていると、智虎が静かに微笑みながら賢亀へとトコトコと歩いていった。そして、賢亀の所へ着くと、賢亀の事を軽く咥えながら背中へと乗せ、再びこっちへ向かって歩いてきた。

 

「柚希さん、お待たせしました」

「うん、ありがとうな、智虎」

「いえいえ。それじゃあ僕は、護龍君達の方へ行ってますね」

「ああ、分かった」

 

 俺が微笑みながら答えると、智虎はニコッと笑いながら静かに頷いた。そして、賢亀を背中からゆっくりと降ろした後、微笑みながら賢亀に声を掛けた。

 

「賢亀君、試練頑張ってね」

「うん、ありがとう、智虎君。僕も智虎君みたいに、柚希さんと一緒に精いっぱい頑張ってみるよ」

「うんっ!」

 

 賢亀の言葉に智虎は嬉しそうに返事をした後、護龍達がいる方へと走っていった。そして、それと同時に甲亀さんがのしのしと前へと進み出てきた。

 

 今度は『水』の試練……でも、どんな試練内容なんだ……?

 

『水』の試練の内容について、俺が疑問に思っていると、甲亀さんが静かに話し始めた。

 

「賢亀、私も一体の四神として手心を加えずにやるつもりだから、全力で向かってくるんだよ」

「うん、それはもちろんだよ、お父さん。それで、僕の試練の内容はどういうのなの?」

「それはね──」

 

 甲亀さんが静かに答えたその時、甲亀さんの足元から突如水が湧き出し、俺達の足元まで迫ってきた。そして、水は足元でピタリと止まると、高さだけがそのまま徐々に増えていった。

 

 何というか……ちょっとしたビニールプールみたいになったな。

 

 水の様子を見ながらそんな事を考えていると、甲亀さんが静かに話し始めた。

 

「私からの試練はこれ、この水を使って何かを作ってみる事だよ」

「何かを作ってみる事って……智虎君の試練みたいに何かと戦うわけじゃないんだね」

「まあ、戦うわけじゃないけど、集中力を欠いてこようとするモノはしっかりと用意してあるから、それに集中力を欠かれないようにしながら、私が納得する物を作ってくれ」

「うん……分かったよ、お父さん」

 

 賢亀は静かに返事をした後、俺の方へと顔を向けた。

 

「柚希さん、どんな物を作ったら良いと思いますか?」

「そうだな……俺はあくまでもお前のサポート要員だから、コレを作れみたいな事は言えないし言わないけど、お前が作りたい物を作れば良いんじゃないのか?」

「僕が作りたい物……分かりました。とりあえず考えてみます」

「ああ」

 

 賢亀の言葉に返事をした後、俺は『絆の書』の中の賢亀のページを開き、魔力を注ぎ込んだ。そして、賢亀との同調が完了した後、俺は周囲の様子に注意を向け始めた。

 

 ……賢亀が何を作るかは分からないけど、俺のやるべき事は決まってる。今はそれにだけ神経を使っていれば問題は無いはずだ。

 

そう思いながら神経を集中させていたその時、突如賢亀の横から水で出来た魚のような物が飛びだしてきた。

 

「なっ……!?」

「えっ!?」

 

 その咄嗟の事に俺達が茫然とする中、水の魚は賢亀の頭上を軽やかに飛び越えると、そのまま水の中へと消えていった。

 

 ……まさか、今のが甲亀さんが言っていた邪魔をしてくる奴なのか……?

 

 さっきの水の魚について疑問を浮かべていると、甲亀さんがクスクスと笑いながら賢亀に話し掛けてきた。

 

「ふふ、早速邪魔をされてしまったみたいだね、賢亀?」

「……って事は、さっきのがお父さんが言ってた邪魔をしてくる奴って事?」

「……まあ、一応はそうだね」

 

 甲亀さんは少し含みのある言い方で、賢亀からの問い掛けに答えた。

 

 一応は、って事は……アレよりも遙かに危ない物も出てくるかもしれないって事か……?

 

 甲亀さんの答えに嫌な予感を感じながらも、俺は賢亀に声を掛けた。

 

「賢亀、とりあえず落ち着いていこう。お前も知ってる通り、『水』の力は落ち着いている事が必要になってくるからな」

「……は、はい、そうですよね。よーしっ……!」

 

 賢亀は気合いを入れ直すと、再び何を作るかを考え始めた。

 

 ……さっきみたいなのやさっきよりも危ないのが出てきた時は、全力で妨害しないとな……。

 

 そして、再び周囲の様子に注意を向け始めたその時、俺の横から何かが跳ね上がってくる音が聞こえた。

 

 ……来た!

 

 瞬時にそちらへ視線を向けると、そこにいたのは──。

 

「……は? さ、鮫……!?」

 

 そう、そこにいたのは、水の体を持った大きな鮫だった。

 

 いやいやいや!? さっきは小魚で、何で今度は鮫なんだよ!?

 

 そのあまりの落差に俺は心の中で思わずツッコミを入れてしまっていた。そして、その隙に水の鮫は賢亀に狙いを定めると、大きな口を開けて賢亀に向けて泳ぎ始めた。

 

 くっ……! マズイ、急いで何とかしないと……!

 

 俺は急いで水の魔力を左手に溜め、水の鮫へ向けてソレを撃ち出した。ところが、水の鮫は何故かすぐに進路を変えてしまったため、俺が撃ち出した水の砲撃は賢亀に向かって飛んでいってしまった。

 

「賢亀! 避けてくれ!」

「……え?」

 

 俺が急いで声を掛けたものの、集中力を高めていた賢亀は反応が遅れてしまっていたため、突如向かってきている水の砲撃を避けられずにいた。

 

 くそっ……! こうなったら……!

 

 俺は急いで賢亀の周囲の水を操作し、大きな水の盾を砲撃の前に作り出した。そして、俺が撃ち出した水の砲撃がどうにか水の盾にぶつかった事で、賢亀がダメージを負っている様子は見られなかった。

 

「賢亀! 無事か!?」

「は、はい……何とか」

「そっか……」

 

 賢亀の返事を聞き、俺は胸をなで下ろした。

 

 冷静になって考えてみれば、あの水の魚達は甲亀さんが作り出してる物なんだし、あんな動きをするのは当然だ。つまり……まさに水のように変幻自在に襲い掛かってくる邪魔モノ──水製生物(アクアクリーチャー)を相手にしつつ、甲亀さんの課題に答える必要がある。これは思っていたよりも難問かもしれないな……。

 

『水』の試練という難問の難しさを改めて思い知っていると、賢亀がさっきの智虎のように申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 

「柚希さん、すいません……僕がもっとぱっぱと作る物を作れれば、こんな事にはならないのに……」

「いいや、お前のせいじゃないよ、賢亀」

「でも──」

 

 申し訳なさそうに言葉を続けようとする賢亀の声に被せるようにしながら俺は賢亀に話しかけた。

 

「……なあ、賢亀。突然だけど、お前はどんな玄武になりたい?」

「……え? どんな玄武にって……本当に突然ですね?」

「はは、まあな。それで、どんな玄武になりたい?」

「どんな玄武に、か……そういえば、今までそんな事考えた事無かったかもしれないです。いつも、のんびりと過ごしてきてたし、修行を始めてからも自分の性格を『水』の力に活かせる方法なんかを考えてただけですから」

「……そっか」

「はい、でも……強いて言うなら──」

 

 賢亀はスッと顔を上げ、ニコッと笑いながら言葉を続けた。

 

「僕は今のままののんびりとした僕でいようと思います。もちろん、智虎君がいつも言ってるようにお父さんのような立派な四神は目指しますけど、智虎君とか護龍君とか麗雀ちゃん、後は柚希さん達の事を静かにのんびりと支えていけるような玄武になりたいです」

「賢亀……」

 

 そう俺に話す賢亀の顔はいつものように穏やかだが、どこか他人に安心感を与えるような優しい雰囲気を漂わせていた。

 

 静かにのんびりと他人を支えていけるような玄武、か……ふふ、何だか本当に賢亀らしい玄武の形かもしれないな。

 

 そう感じた後、俺は賢亀に微笑みながら言葉を続けた。

 

「俺は良いと思うぜ? 何だか賢亀らしい玄武の形だと思うからさ」

「……ふふ、ありがとうございます、柚希さん」

 

 賢亀は静かに微笑んだ後、再び甲亀さんの方へと向き直った。

 

「お待たせ、お父さん」

「ふふ、別に良いよ、賢亀。それよりも……その様子を見るに、どうやらさっきの会話で何かを掴んだみたいだね」

「うん、もちろん。だから、ここからはお父さんの思い通りには行かないかもよ?」

「……さて、それはどうかな?」

 

 甲亀さんのその言葉と同時に、甲亀さんの周囲には水で出来た魚を始めとした様々な生き物を模った水製生物が出現した。

 

 あはは……今からアレ全部を相手にするのか……。これは本当に思ってたよりも骨が折れそうだ。

 

 無数の水製生物達を前に、俺は心の中で苦笑いを浮かべたが、すぐに気を取り直してから賢亀に声を掛けた。

 

「賢亀、ここからは更に気合いを入れていくぞ!」

「うん!」

 

 元気の良い返事をした後、賢亀は『水』の力を用いて周囲の水を目の前に集め始めた。 そして、それを見た甲亀さんが尾を一振りすると、それを合図に水製生物達が一斉に俺達へ向かって飛んできた。

 ……生憎だけど、これ以上賢亀の邪魔はさせない……!

 

 俺は頭の中で静かにたゆたう水面(みなも)をイメージする事で気持ちを落ち着けた後、再び左手に水の魔力を溜め、向かってくる水製生物達へ向けて次々と撃ち出した。

撃ち出した水弾は、一発として外れることなく次々と命中したが、それに応じて次々と別の水製生物が作り出され、俺達へ向かって飛んできた。

 

 ……やっぱり切りがないな……けど、賢亀のためにもどうにか持ちこたえないと──。

 

 その時、甲亀さんが右前足を静かに動かしたかと思うと、向かってきていた水製生物達は次々と一体の水製生物へと集まっていき、程なくして俺達の目の前にはさっき見たモノよりも明らかに大きな水の鮫が現れた。

 

 ……まさか、今からこれが来るって言うのか……!?

 

 そう、そのまさかだった。甲亀さんがニッと笑いながら再び尾を一振りすると、巨大な水製鮫(アクアシャーク)がその大きな口を開けながら俺達へ向かって襲い掛かってきたのだ。

 

 くっ……! これから賢亀を守るには──。

 

 体の中にある水の魔力を多量に使い、賢亀の目の前に大きな水の盾を作ろうとしたその時、賢亀が突然大きな声を上げた。

 

「……よし、出来た!」

 

 弾かれたように賢亀の方へ視線を向けると、賢亀の目の前には、いつの間にか水で出来た大きな玄武が姿を現していた。

 

 コレって……まさか、さっきの会話で話してた、賢亀がなろうとしている玄武の姿か……?

 

 賢亀の作り出した水製玄武(アクアトータス)のその大きさや完成度に驚いていると、水製玄武はその大きな体を揺らしながら、目の前の水製鮫へ向かって歩を進めた。そして、水製鮫に肉薄すると、こちらも大きな口を開けて水製鮫へと牙を立て、水製鮫もそれに負けじと鋭い牙を水製玄武へと立てた。

両者は一歩も譲らずにそのまま牙を立て続けていたが、俺がその光景に小さく息をついた瞬間、二体の水製生物の体が徐々に崩れていくと、ただの水へと戻りながら、そのまま大きな音を立てつつその場へと落下した。

 

 互角……って事か?

 

 二体の水製生物の戦いの結果に疑問を覚えたその時、賢亀が静かにその場へと倒れ込んだ。

 

「賢亀!」

 

 俺はすぐに賢亀の元へと駆け寄り、静かに賢亀の事を持ち上げた。

 

「賢亀! 大丈夫か!?」

「あ、あはは……ちょっと力を使い過ぎちゃったみたいですけど、僕は大丈夫ですよ……」

「……そっか、良かった……!」

 

 賢亀の声の調子や賢亀との同調が自動で解けていない事、そして賢亀の体に纏わり付いている靄のような物が疲労による物であった事から、賢亀の調子に大きな問題が無い事を感じ、俺は心の底からホッとしていた。

 

 ……うん、本当に良かった……。

 

 そして、賢亀の体に『ヒーリング・クリスタル』を付け、魔力を注ぎ込む事で賢亀の疲労を少しずつ取っていると、甲亀さんが心配そうな表情を浮かべながら俺達へ向かってのしのしと近付いてきた。

 

「……柚希さん、賢亀は大丈夫ですか?」

「はい、どうやら力の消費による疲労のようです」

「そうですか……それなら良かった」

 

 そうホッとしたように言う甲亀さんの顔は、先程までの真剣な様子とは違い、心の底から息子の無事に安堵をしている父親の物だった。

 

 ……やっぱり、親子の絆って本当にスゴく大切で暖かいものなんだな……。

 

 甲亀さんの様子を見ながらそう感じていると、賢亀が静かに甲亀さんへと視線を向けた。

 

「お父さん……僕、精いっぱい頑張れたかな……?」

「……ああ、もちろんだよ、賢亀。父親として、本当に誇らしく思っているよ」

「……ふふ、そっか」

 

 賢亀がニコッと笑いながら言うと、甲亀さんはそれに優しく微笑みながら頷いた。そして、すぐに先程までの真剣な表情へと戻ると、静かな声で話し始めた。

 

「……遠野柚希殿、並びに我が子賢亀。

共にこの『水』の試練を突破した事をここに証明する」

「お、お父さん……! 本当に良いの……?」

 

 賢亀が嬉しさを顔に滲ませながら訊くと、甲亀さんは再び父親の顔になりながらコクンと頷いた。

 

「ああ、あそこまで見事なもの──賢亀が目指す玄武の形を見せてもらったからね。試練は合格だよ、賢亀」

「お父さん……! ありがとう……!」

「ふふ、礼には及ばないよ。賢亀、これからも自分の目指す玄武の形を忘れないように頑張るんだよ?」

「うん! もちろんだよ!」

 

 疲労が多少取れた事で大きく返事をする賢亀を見て、甲亀さんは静かに頷いた後、今度は俺の方へと視線を向け、穏やかな笑みを浮かべながら話し掛けてきた。

 

「柚希さん、これからも賢亀の事をよろしくお願いします」

「はい、任せて下さい、甲亀さん」

 

 俺が静かに返事をすると、甲亀さんは静かに頷いた後、のしのしと剛虎さん達の方へと歩いていった。

 

 これでようやく半分……『水』の試練で想定してたよりも力を使っちゃったし、ここからは本当に考えて臨まないとな……。

 

 試練を突破した事による喜びを素直に表情に表している賢亀を見ながらそう感じた後、俺はさっきの水がいつの間にか消えていることに気付いた。

 

 ……まただ。さっきの金属といい、今の水といい、何か秘密がありそうだけど、今は……。

 

 そして、俺は再び輝麒の方へと視線を向けた。すると、輝麒は賢亀の事を見ながら、心配半分安心半分な表情を浮かべていたが、すぐにまたハッとしたような表情へと変わると、再びすぐに真剣な表情へと変えながら俺達に話し掛けてきた。

 

「さて……それでは、次の試練に移りますが、次は誰が行きますか?」

「それじゃあ──」

 

 俺が次の四神の名前を口にしようとした時、護龍が静かに声を上げた。

 

「では……次は私が行くとしよう。守護をする季節の順としても丁度良いからな」

「……分かった。一緒に試練を突破しようぜ、護龍!」

「はい、もちろんです」

 

 護龍は静かに返事をした後、隣に立っていた智虎に声を掛けた。

 

「智虎、そろそろ賢亀の事を迎えに行ってやれ。『ヒーリング・クリスタル』で多少回復をしたとはいえ、あそこまで疲弊しているのだからな」

「うん、もちろん!」

 

 智虎は元気良く返事をした後、俺達に向かって急いで走ってきた。

 

「柚希さん! 賢亀君! 二人とも本当にお疲れ様!」

「ああ、ありがとうな、智虎」

「ありがとう、智虎君」

「えへへ、どういたしまして」

 

 智虎は嬉しそうに笑いながら答えた後、賢亀の事を軽く咥え、静かに背へと乗せた。そして、俺の方へと向き直ると、智虎はニコッと笑いながら声を掛けてきた。

 

「それじゃあ、柚希さん。残りの試練も頑張って下さい!」

「ああ。護龍と麗雀が試練を突破できるように、精いっぱい力を尽くしてみるよ」

「はい! よし……それじゃあ行くよ、賢亀君」

「うん」

 

 賢亀の返事を聞いた後、智虎は走って麗雀がいる方へと戻っていった。そして、護龍はそれを見てフッと笑った後、静かに俺の方へと近付いてきた。

 

「護龍、智虎達に続いて試練を突破できるように精いっぱい頑張ろうな!」

「はい」

 

 護龍が静かに返事をしていると、飛龍さんが厳かな雰囲気を醸し出しながら静かに近付いてきた。

 

「それでは、これより『木』の試練を開始しよう。護龍、準備は良いか?」

「はい、父上。私が今日(こんにち)まで励んできた修行の成果、必ず示して見せます」

「……そうか。ならばその修行の成果とやらを、しかと見せてもらうぞ!」

 

 飛龍さんが大きな声を上げながら『木』の力を発揮すると、突如俺達の周囲に大きな樹木が幾つも出現し、程なく俺と護龍は『木』の力で発生した森の中に閉じこめられた。

 

 森の中……でも、これが修行とどんな関係が……?

 

 俺が疑問を抱いていると、どこからか飛龍さんの声が聞こえてきた。

 

「では、試練内容を発表する。

『樹木らの声を聞き、その森の中より脱出せよ』」

「樹木らの声を聞き……つまり、普通にはこの森の中からは脱出できないという事ですね?」

「左様です、柚希殿。その森の中には特別な呪いが掛かっているため、樹木らの声に従わぬ限り、いかなる理由があろうとも、その森の中より出る事は叶いません」

「いかなる理由があろうとも、か……」

「つまり、長期戦になればなる程、私達が不利になるのは明白という事ですね」

「ああ、そうだな。……正直、俺の力の残量も不安なところだし、どうにか早めに突破できるように頑張っていこう」

「はい」

 

 護龍が静かに返事をした後、俺達は森の中を進み始めた。森の中を進むこと数分、護龍が突然耳を澄ませ始めた。

 

「護龍、何かあったのか?」

「はい、どこからか話し声のような物が聞こえてきましたので、それに神経を集中させていました」

「話し声のような物……もしかして、それが樹木らの声って奴なのかな?」

「恐らくは」

「分かった」

 

 コクンと頷いた後、俺は『絆の書』の中の護龍のページを開き、護龍と一緒に頷き合ってから魔力を注ぎ込んだ。そして、体の中に『木』の力が備わった事を確認した後、俺は護龍と一緒に耳を澄ませ始めた。すると、護龍の言う通り、どこからか話し声のような物が聞こえてきた。

 

 ……この音の感じからすると、たぶんあっちの方だな。

 

 声がする方角に大体の当たりを付けた後、俺達はその方角へと歩き始めた。再び歩く事数分、話し声のような物は徐々に大きくなっていき、更に数分歩いた頃、俺は目を疑うような光景に出くわした。

 

「……何だ、アレ……?」

「……恐らくは、アレがこの話し声の主達なのだと思います……」

 

 俺達の目の前にあった物、それは枝を動かしながら話をしている何本もの木々だった。

 

 ……ヴァイスと初めて会った時以来だな、こういう不思議な存在を見て自分の目を疑ったのは……。

 

 その事を思い出し、少しだけ懐かしさを感じた後、俺達はその木々へと近付いた。

 

「なあ、お前達。ちょっと良いか?」

「……ん? おぉ、こんな所に迷い人と迷い龍とはな……!」

「不思議! 不思議! あはははっ!」

「こんな事、滅多にないから、本当に不思議だよね」

「ほんとほんと!」

 

 木々は俺達の姿を見ると、そんな声を上げ始めた。

 

 不思議度で言えば、そっちの方が不思議だと思うけどな……童話とかの中でしか、こんな光景はお目に掛かれないし……。

 

 木々を見ながら心の中で苦笑いを浮かべていると、護龍が小さく息をついてから木々に話し掛けた。

 

「……私達はこの森を抜ける術を探しています。皆様は何かご存じ無いですか?」

「そうじゃのぅ……知っていると言えば知っておるが、知らないと言えば知らないかのぅ……」

「知ってる! 知らない! あはははっ!」

「教えるのは簡単だけど、ただ教えるなんてのはつまらないからね」

「ほんとほんと!」

「……それじゃあ、どうやったら教えてくれるんだ?」

「そうじゃのぅ……どうやらお主達は『木』の力を持っておるようじゃし、儂ら全員の枝から葉を全て落とす事が出来たら、教えることにしようかのぅ」

「全部! 全部! あはははっ!」

「もちろん、一枚ずつ落としても良いけど、落とす時は必ず『木』の力を使ってね」

「使ってね使ってね!」

「……分かった」

 

 木々に返事をした後、俺は個性的な木々の話し方に思わず額を押さえていた。

 

 ……ダメだ、何かコイツらの話し方を聴いてると、段々頭が痛くなってくる。別に苦手ではないけど、今の状況にこれは辛い……。

 

 ふと護龍の方へ視線を向けると、護龍も額を押さえながら辛そうな表情を浮かべていた。

 

 あはは……やっぱり護龍はこういうのって苦手みたいだな。ここは護龍のためにも、早めに抜けてやるか。

 

 護龍の様子からそう感じた後、俺は護龍に声を掛けた。

 

「護龍、大丈夫そうか?」

「……はい、何とか大丈夫そうです。ですが……早々にここを抜けられるのならばありがたいです」

「……分かった。それじゃあ、ささっとコイツらの葉を全て落とす方法を考えるか」

「……はい」

 

 護龍の返事を聞いた後、俺は個性的な木々の葉を全て落とす方法を考え始めた。

 

 さて……どうしたら良いかな。一応、一枚ずつ地道にやるのはアリって言ってるけど、『木』の力を使ってとなると、だいぶ量を持ってかれるし……。

 

あれこれと考えを巡らせていたその時、護龍が静かな声で話し掛けてきた。

 

「柚希殿、一つよろしいですか?」

「……ん? どうした、護龍?」

「いえ……一つ柚希殿のご意見を伺いたい事柄がありまして……」

「ほうほう、それでその事柄って何なんだ?」

 

 俺が興味ありげに聞くと、護龍は少し暗い表情になりながら話し始めた。

 

「……私自身自覚があり、智虎達からもよく言われる事なのですが、私は少々物事について考え過ぎる事があります。冷静になってみれば、何という事もない事柄であっても、つい何かまだ他にあるのではないかと勘繰り、必要以上にその事について考えてしまい、結局無駄な時間を作ってしまうのです……」

「なるほどな……」

 

 護龍が抱えるその悩みを聴き、俺は呟くような声で答えた。

 

 考え過ぎる事が悩みか……。

 

 護龍は四神′sのブレインとしてだけではなく、義智や蒼牙のようによく『絆の書』の面々の相談にも乗っている上、すんなりとその解決策なんかも提示している。そのため、そういった悩みを抱えてるようには見えなかったんだが、実はそうじゃなかったようだ。

 

 考え過ぎの解決策か……長谷にも言われたけど、俺も自分の事となると、考え過ぎる傾向があるみたいだからな。まあ、俺だって長谷と話したからこそ、自分なりの解決策が見つかったんだけどな。

 

 昨日の長谷との会話を思い出した後、俺は護龍の言葉に答え始めた。

 

「……実は、俺も護龍みたいに考え過ぎる傾向があるみたいなんだけどさ」

「……そう、なのですか?」

「ああ。と言っても、昨日長谷に言われて初めて知った事なんだけどな」

「は、はぁ……」

「それで、その後に俺は自分なりの解決策を一応考えてみたんだよ」

「自分なりの解決策……ですか?」

「ああ。そして、その解決策っていうのが──」

 

 俺はニッと笑いながら言葉を続けた。

 

「原点回帰とあえて考えない事の二つだ」

「原点回帰、そしてあえて考えない事……」

「ああ。考え過ぎっていうのはさ、大抵は考えて考えて元々の問題からドンドン離れて行って、その内に思考が迷子になるものなんだ。だから、そこまでの思考を一度放棄して、元々の問題をもう一回見直すことで、自分がさっきまで気付かなかったものなんかに気付けるようになるんだよ」

「なるほど……」

「そして、もう一つの方はそのままだな。自分の直感を信じてそのまま答えを出したり自分の中に元々ある答えを提示する。これでも問題は解決する事もあるから、意外とバカには出来ないんだよ」

「自分の直感……元々ある答え……」

 

 護龍はその二つの言葉を呟くように繰り返すと、護龍の目は覚悟を決めたような眼差しへと変わった。

 

「柚希殿、一つ提案があるのですが、よろしいですか?」

「ああ、良いけど?」

「では……」

 

 そして、護龍はその提案をこっそりと俺に耳打ちした。

 

 ……なるほど、たしかにそれならだいぶ楽にここを突破できそうだな。でも……。

 

「護龍、お前はそれでも良いのか?」

 

 その提案内容がいつもの護龍らしくなかったため、俺は首を傾げながらそう訊いた。すると、護龍は静かに首を縦に振った。

 

「はい、本来の私であれば、この答えを行動に移すことはありません。しかし、今はそのような事を言っている場合では無い上、それ以外の解答を見つけられる気が致しません。なので──」

 

 護龍はフッと笑った後、静かに言葉を続けた。

 

「ここは私の“直感”に任せてみようと思います」

「……そっか」

 

 護龍の答えを聞いた後、俺はフッと笑いながら木々の方へと向き直った。そして、『木』の力を使う準備をし終えた後、ニヤッと笑いながら護龍に声を掛けた。

 

「それじゃあ……始めようぜ、護龍。楽しい楽しいショータイムをな!」

「畏まりました」

 

 同じく護龍がニヤッと笑いながら答えた後、俺達は木々へ向かって『木』の力を使った。

 

「……ほうほう、ようやく儂ら全員から葉を落とす方法を思い付いたようじゃのぅ……」

「全員! 全員! あはははっ!」

「さて……僕達に力を使った後はどうするのかな……?」

「どうするどうする!」

 

 俺達のその様子に、木々は楽しそうに声を上げた。

 

 どうする、か……。

 

「こうするんだよ! やるぞ、護龍!」

「御意!」

 

 そして、俺達は木々へと行使した『木』の力で木々の動きを操作し始めた。すると、木々は自らの枝を上へと振り上げ、隣接する木へ目掛けて枝を振り下ろした。

 

「ほうっ! ほうっ! これは、中々! 考えたのぅっ!」

「バサバサ! バサバサ! あはははっ!」

「これはっ! かなり痛い! けど楽しい! よね!」

「ほんとほんと!」

 

 木々は大きな声を上げながら、お互いに枝をぶつけ合った。そしてその内に、枝から徐々に葉が取れ始めると、それと同時に木々の根元には落ち葉が積もり始め、程なく木々の枝に付いていた葉は全て根元へと落ちた。

 

「……よし、これで全部落ちたみたいだな」

「はい」

 

 木々の枝の様子を見ながら俺達が話をしていると、木々は感心した様子で話し掛けてきた。

 

「ふぉっふぉっ! まさかこのような術を用いようとは思わんかったわぃ!」

「すべすべ! すべすべ! あはははっ!」

「ちょっと痛かったけど、何だか楽しかったよ!」

「ほんとほんと!」

 

 しかし、護龍は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「……しかし、やはり皆さまを傷つけるような策を講じてしまった事に変わりは……」

「いやいや、良いんじゃよ、若人よ。人も四神も、そして木々も時には傷つく事で成長に繋がる事もあるからのぅ」

「みんな成長! みんな成長!」

「それに、そういった申し訳なさを感じてくれるだけでも、僕達は嬉しいからね」

「ほんとほんと!」

「皆様……」

 

 護龍が静かに顔を上げると、長老木は優しい声で話し掛けてきた。

 

「若き人の子、そして若き青龍よ。優しさの意味、そして慈しみの心。この二つを履き違えぬようにこれからも精進していくのじゃぞ?」

「はい、もちろんです」

「はい」

「うむ。では──」

 

 すると、木々はサワサワサワという音を立てながら横へと動き、そしてその間から外へと繋がっているであろう道が姿を現した。

 

「行くが良い、若人達よ」

「バイバイ! バイバイ! あはははっ!」

「これからも頑張ってね、二人とも」

「頑張ってね頑張ってね!」

「はい!……よし、行こうぜ、護龍!」

「御意!」

 

 そして、俺達は木々が開けてくれた道をしっかりとした足取りで走って行った。走り続けること数分、視界が光に包まれたかと思った瞬間、俺達の視界にはさっきまでいた試練空間の光景が広がっていた。

 

「ここは……」

「……外、ですね……」

 

 俺達がボーッとした声で話をしていると、後ろから静かな声が聞こえてきた。

 

「……どうやら、無事に脱出を果たせたようですね」

「……え?」

 

 振り向くと、そこには飛龍さんの姿があり、俺達がいたはずの森は跡形もなく消えていた。

 

「飛龍さん、あの森は一体……?」

「……あの森は、ある方の力をお借りして作り上げた幻の森です」

「幻……という事は、私達は幻を見ていたという事ですか?」

「……似たような物だな。しかし、あの森の木々の言葉はその身に染みたであろう?」

「……はい。優しさの意味、そして慈しみの心、この二つはしっかりと私の中で受け止め、これからの私の生活の中で活かしていこうと思います」

「……そうか」

 

 護龍のその言葉に、飛龍さんは安心したように静かに微笑んだ後、真剣な表情を浮かべながら厳かな声で話し始めた。

 

「遠野柚希殿、並びに我が子護龍。

共に『木』の試練を突破した事をここに証明する」

「父上……しかし、よろしいのですか?」

「うむ。あの森を正規の手段で抜けた事、そして柚希殿と護龍の眼、この二点より私は合格点を与えるに相応しいと感じた。よって、『木』の試練は無事に合格だ」

「父上……ありがとうございます」

「礼などいらん。私は為すべき事を為した、ただそれだけの事だ」

「……分かりました」

 

 護龍が静かに頷きながら答えると、飛龍さんは護龍の顔を正面から見ながら静かに声を掛けた。

 

「護龍。これからも様々な物を見聞きし、それらをお前の力としろ。そして、柚希殿や他の皆様、智虎君達の力となるのだぞ」

「……はい、もちろんです、父上。この護龍、父上より認めて頂いた四神として、恥ずかしくないように努めて参ります」

「……うむ」

 

 護龍の言葉に静かに頷くと、飛龍さんは今度は俺の方に視線を向けた。

 

「柚希殿、我が子護龍をこれからもよろしくお願い致します」

「はい、任せて下さい、飛龍さん」

 

 俺が頷きながら答えると、飛龍さんはフッと笑いながら頷いた後、剛虎さん達の方へと戻っていった。

 

 ……これで後は『火』の試練だけ。一応、まだ力は残ってるし、『ヒーリング・クリスタル』も多少は大丈夫だけど、最後まで保ってくれるかどうかは心配だな……。

 

 護龍との同調を解きつつ、力の残量について心配をしていると、護龍が静かに話し掛けてきた。

 

「柚希殿。此度の試練、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。でも、護龍の考えのおかげであそこから脱出したようなもんだったけどな」

「いえ、柚希殿のお力やお言葉が無ければ、試練に臨む事すら出来なかったと思っています。これからもご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」

「……ああ、こちらこそこれからもよろしくな、護龍」

「はい」

 

 俺の言葉に静かに答えた後、護龍は智虎達の方へと体を向けた。

 

「……では、私は麗雀と交代致します。柚希殿、『火』の試練も頑張って下さい」

「ああ、もちろんだ!」

 

 護龍は安心したようにフッと笑うと、智虎達の方へと戻っていった。そして、それと同時に麗雀がこっちへ向かってゆっくりと飛び始め、そのまま俺の肩へ静かに留まった。

 

「さて、最後は私達ね、柚希」

「ああ、頑張っていこうぜ、麗雀!」

「ええ。智虎達が合格できて、私だけが合格できないなんてカッコ悪い真似はしないわ!」

 

 麗雀が翼を広げながら、やる気に満ちた目で答えていると、緋雀さんが静かに前へと進み出てきた。

 

「麗雀よ、試練へと臨むその意気は認めよう。しかし、私も手心を加える気は一切無い。それは分かっているな?」

「ええ。むしろ、そんな事をしようものなら、一生口を利かないつもりだったわよ?」

「フッ……そうか、それは父親としてだいぶ困るな。……さて、それではこれより『火』の試練を開始しよう!」

 

 緋雀さんがその言葉を口にしたその瞬間、俺達と緋雀さんの間に幾つもの火の壁のような物が出現し、それらは徐々に何かを作り出すように組み合わさっていった。そして、程なくして俺達の目の前に現れた物、それは──。

 

「……炎の迷路、か……?」

「……どうやらそうみたいね……」

 

 そう、俺達の目の前に現れたのは、メラメラと燃え盛る炎で作られた大きな迷路だった。

 

 これ、だいぶ熱そうだけど……俺が通っても大丈夫なのか……?

 

 炎の迷路についてそんな疑問を覚えていると、迷路の向こうから緋雀さんの声が聞こえてきた。

 

「これはある方の力をお借りして作り上げた幻の炎の迷路。なので、熱さこそ感じるでしょうが、燃え移る事などはありません」

「あ、そうなんですね……」

「……まあ、そうじゃないと、私しか入れないものね」

「確かにそうだな……」

 

 炎の迷路を見ながらそんな事を話していると、再び迷路の向こうから緋雀さんの声が聞こえてきた。

 

「私が課す『火』の試練、それはこの炎の迷路を柚希殿と麗雀が共に抜け出す事。よって、迷路の外側を通るなどという手段は使えず、迷路に入った時点で入り口と天井は炎で封鎖されるため、一度入った後は出口から出る以外の手段は封じられます。何か質問などはありますか、柚希殿」

「えっと……制限時間とかはありますか?」

「制限時間はありません。しかし、炎の熱などで柚希殿の命に関わるような事態に陥ったその時は強制終了と致します」

「分かりました。麗雀は何か質問とかはあるか?」

「……無いわね。この迷路の中に賢亀の時みたいな邪魔者とか護龍の時みたいな課題も無さそうだしね」

「分かった。……それじゃあ、早速行くか、麗雀」

「ええ」

 

 麗雀が頷きながら答えた後、俺達は炎の迷路の中へと足を踏み入れた。そしてその瞬間、緋雀さんの言葉通りに入り口と天井が炎で封鎖され、体に感じる熱さが更に強くなった。

 

 ……流石は『火』の試練、だいぶ熱いな……でも、ここまで頑張ってきたんだし、この試練だって絶対に突破してやる……!

 

 心の中で強く決意を固めた後、俺は『絆の書』の麗雀のページを開いた。

 

「よし……やるぞ、麗雀!」

「ええ!」

 

 そして、麗雀のページに魔力を注ぎ込み、麗雀との同調が完了した後、俺達は炎の迷路の中を進み始めた。炎の迷路の中を進む事数分、俺は炎の熱と少しの息苦しさを感じながらひたすら迷路の中を進んでいた。

 

 ……ふぅ、それなりに歩いたはずだけど、一体どこまで進んだのかな……。

 

 そんな事を思ったものの、それを確かめる術が無い事を思い出し、俺は他の事を考え始めた。

 

 ……そういえば、迷路の壁に手を付けながら進むと、必ずゴール出来るとか聞いた事あるけど、ここでも通用するのかな?

 

「なあ、麗雀。この迷路に手を突いたら流石に熱いよな?」

「そうね……私とかなら大丈夫だと思うけど、柚希だと流石に火傷するんじゃないかしら?」

「……それもそうだな」

 

 麗雀の言葉を聴き、その考えを頭の中から追い払った。

 

 ……それに、確かにいつかは辿り着けるだろうけど、それは緋雀さんの求めてる脱出法じゃない気がするしな。とりあえずここは、そのまま進んで行く事にするか。

 

 そして、それから更に進んだ頃、感じていた熱さと息苦しさが更に強くなった気がした。

 

「……まだ、着かないみたいだな」

「……そうね。柚希、だいぶ苦しそうだけど、大丈夫なの?」

「……あ、ああ。何とか、な」

 

 麗雀には微笑みながらそう答えたものの、本当はだいぶ辛くなってきていた。ここまでの試練での体力と力の低下、そして迷路の炎から感じる熱と酸欠による息苦しさ、それら全てが組み合わさった事で、俺の思考能力や気力などは確実に消費されていた。

 

 ……ヤバいな、少しだけ頭がボーッとしてきた……でも……ここで倒れるわけにも……。

 

 ボーッとした頭でそんな事を考えていた時、

「──ずき、柚希!」

「……え?」

 

 声を上げながら向いてみると、麗雀が心配そうな表情を浮かべながら俺の事を見ていた。

 

「……麗雀、どうかしたのか……?」

「どうかしたのかは貴方よ、柚希! さっきから話し掛けても何も答えないし、フラフラとしながら歩いていたし!」

「え……そう、だったのか……?」

「そうよ! それに眼も虚ろだったし、息もかなり苦しそうだったし……!」

「そ、そうか……ゴメンな、麗雀……」

 

 俺が素直に謝ると、麗雀は涙を滲ませながら辛そうに答えた。

 

「……いいえ、柚希が謝る必要なんて無いわ。私がもっと考えてここに入るべきだったのよ、人間である柚希への負担とかそういうのをしっかりと……!」

「麗雀……」

 

 その麗雀の顔には、いつものような勝ち気なところなどはなく、俺への心配や自分に対しての非難の色が浮かんでいた。

 

 ……違う、俺にだって落ち度はある。朱雀である麗雀と人間である俺の差とかそういうのを考慮すべきだったし、ここを早めに抜ける努力を怠っていたし……。

 

 そうやって自分の落ち度などを並べていたが、その内に俺はその事を考えるのをやめた。

 

 ……ダメだ、ここでそうやって落ち度とかを並べたところで、何も得られやしない。だから……ここは、まず……。

 

 段々思考能力が無くなっていくのを感じつつ、俺は麗雀に声を掛けた。

 

「……麗雀、そうやって自分を責めないでくれ」

「で、でも……!」

「……お前はいつものように……何に対しても、自信満々でいてくれれば……良いんだ。その自信の強さが、お前にとっての……強さになるん、だからさ……」

「自信の強さが……私の強さに……」

「ああ、そう……だ。だから、お前は緋雀さんが言う通りに自分の『火』の力を信じろ……お前は立派な朱雀、なんだから……な」

「柚希……」

 

 麗雀は静かに俺の事を見詰めた後、覚悟を決めたような表情を浮かべた。そして、静かに目を閉じたかと思うと、静かな声で話し掛けてきた。

 

「……柚希、今から私が言う方へと進んで。そうすれば、絶対にゴールに辿り着けるから」

「……分かった。それじゃあ……頼んだぜ……?」

「ええ、絶対にゴールに辿り着かせてあげるわ!」

 

 そして、俺は麗雀の言葉通りに迷路の中を進んでいった。時には右へ、またある時は左にと、朦朧とする意識の中、俺は麗雀の言葉を信じ、ひたすら迷路の中を進んだ。そして迷路の中をそのまま歩き続けていたその時、俺達の目の前に炎と炎の隙間のような物が見えた。

 

 ……あれって、もしかして出口……か?

 

 ぼんやりとそんな事を考えながら歩いていくと、目の端に見えていた炎が消え、感じていた熱と息苦しさが徐々に和らいでいった。

 

「……あれ、もしかしてゴール、なのか……?」

「……ええ、そうよ! 私達、無事にゴール出来たのよ!」

「そっか……良かった……」

 

 何とかゴール出来た事に対して、静かに安堵感を覚えていた時、体が少しだけふらついた。

 

 あ、倒れるな……。

 

 そう思っていた時、誰かに体を支えられたような気がした。

 

 ……あれ、誰だろ……?

 

 そんな事をぼんやりと考えつつ、そちらへ視線を向けると、そこには──。

 

「ふふっ、お疲れ様です、柚希君」

「え……天斗伯父さん……?」

 

 いつものように穏やかな笑みを浮かべながら俺の事を見ている天斗伯父さんの姿があった。

 ……あれ、何で天斗伯父さんがここに……?

 

 未だにぼんやりとしている頭でそんな事を考えていると──。

 

「旦那ー! 大丈夫かー!?」

「柚希兄ちゃーん! 大丈夫-!?」

「柚希さーん!」

 

 向こうにいるはずの風之真やオルト、そして智虎の声も聞こえたため、そちらへ視線を向けると、そこには本当に向こうにいるはずの『絆の書』の皆が智虎達と共に立っていた。

 

 え、え……? 何で皆までここに……?

 

 予想外の展開に俺が混乱していると、天斗伯父さんがクスリと笑いながらその理由を話してくれた。

 

「実はですね……ここでの試練の様子を私達はずっと見ていたんです」

「ずっとって……まさか、俺達がここに来た時からずっとですか?」

「はい、その通りです。もっともここに来たのは、ついさっきなんですけどね」

「ついさっき……」

「はい。先程、柚希君が炎の熱と息苦しさで意識を失いかけていたその時、風之真さんやオルト君を始めとして、皆さんが柚希君のところへ行きたいと言って下さったので、こうして皆さんと一緒にここへ来たんです」

「な、なるほど……」

 

 そういえば……ここって天斗伯父さんが作った道具で行けた空間だったっけな……。

 

 そんな事を考えていたその時、俺はある変化に気付いた。

 

「……あれ、そういえばさっきまで意識がぼんやりしてたのに、今はスッキリしてる気がする……」

「それに……話し方も途切れ途切れじゃなく、いつも通りに戻ってるわね……?」

「ああ……それに、何だか力も徐々に戻ってる気がする……」

 

 そう、ボーッとしていたはずの頭が突然スッキリとしている上、ここまでの試練で消費していたはずの力がいつもよりも速く戻っていっていたのだ。

 

 ……もしかして、これって……。

 

 天斗伯父さんの方へ再び視線を向けると、天斗伯父さんはニコッと笑いながら答えてくれた。

 

「柚希君が試練を頑張っていたご褒美の一つですよ。あのまま辛いよりはこっちの方が良いでしょう?」

「あ、はい。……ありがとうございます、天斗伯父さん」

「ふふ、どういたしまして。……まあ、これは私の力だけでは無いんですけどね」

 

 天斗伯父さんはいつものように優しく微笑みながら答えると、『絆の書』の皆の方へと顔を向け、少し大きめな声で呼びかけた。

 

「皆さん、柚希君ならもう大丈夫ですよ」

 

 すると、義智や黒銀といった静かな面々を除いた全員が、一気に俺達の方へ走ったり飛んだりしてきた。そして、俺達の目の前で止まると、風之真がとても心配そうな表情を浮かべながら声を掛けてきた。

 

「旦那! 本当に大丈夫なのかぃ!?」

「ああ、天斗伯父さんのおかげで、だいぶ元気になったよ、風之真」

「……本当に? 本当に大丈夫……?」

「ああ、大丈夫だよ、オルト」

「うう……本当に良かったぁ……! 柚希お兄ちゃんが無事で……!」

「そうだね……柚希さんが倒れそうになった時は、本当に気が気じゃなかったもんね……」

「あはは……ありがとうな、兎和、黒烏」

「……柚希が辛そうだった時、こっちまで辛くなったもんね……」

「そうそう、実際にボク達がやってるわけじゃないのに、何だか胸の辺りがキューッとなったからねぇ……」

「そっか……ゴメンな、雪花、鈴音」

「でも……柚希さん達が無事に出て来られて本当に良かったです」

「うんうん、出て来られずに倒れ込んでたら、本当に一大事だったからね」

「あはは、確かにそうだよな、智虎、賢亀」

 

 そんな風にしながら一足先に掛け寄ってきてくれた皆と話していると、義智を始めとした残りの皆も俺達の所へと来てくれていた。

 

「ふふ、柚希さんが無事で本当に良かったです♪」

「そうですね……柚希さんは私達にとって、本当に大切な人ですから……♪」

「……そうじゃな。柚希との出会いがあったからこそ、今の儂らがいるわけじゃからな」

「その通りだ。もはや柚希は、私達にとって掛け替えのない存在と言っても過言ではないからな」

「ふふ、本当にそうですよね」

「柚希、お前が想像している以上に、私達がお前の事を大切に思っている事を努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ?」

「ああ、もちろんだよ、皆」

 

 俺がフッと笑いながら答えると、義智が静かに話し掛けてきた。

 

「柚希、智虎達四神との出会いと今回の試練への参加は、確実にお前自身の力となった。その事にお前は気付いているか?」

「え……それって……?」

「『金』の試練と『水』の試練。この二つの試練の際、お前はダメージの可視化が出来、『水』の試練の終了後には賢亀の疲労の治癒を促進した。そして今も、シフルの助力こそあれど、疲労の回復速度が明らかに増進している。この意味、当然お前でも分かるな?」

 

 え、それってつまり……。

 

「……つまり、前よりも確実に成長してるって事か?」

「ああ、そうだ。そして、試練内での四神達への助言なども見事だった。……成長したな、柚希」

「……義智……?」

 

 その時の義智の様子は、何故かいつもの義智とは違うように感じていた。もちろん、成長した事を言ってもらえるのは嬉しいんだけど、雰囲気だとか声の調子だとかそういった一部分一部分が少しだけいつもの義智とは違うように感じ、俺は少しだけ違和感を覚えていた。

 

 ……そういえば、義智の過去について、一回も聞いた事なかったな……。もしかして、義智は過去に何かあったのかな……?

 

 そんな事をぼんやりと考えていると、緋雀さん達が揃って俺達の所へと歩いてきた。そして、緋雀さんは天斗伯父さんの方を向くと、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「天斗殿、大切な甥御殿を命の危険にさらしてしまい、本当に申し訳ありませんでした……」

「ふふ、謝らなくても良いですよ、緋雀さん。これも柚希君にとっては、大事な成長のチャンスだったのですから。そうですよね、柚希君?」

「はい、今回の四神達の試練は、俺にとって滅多にない経験でしたから」

「天斗殿、柚希殿……本当にありがとうございます」

 

 緋雀さんは静かにお礼を言った後、俺の肩に乗っている麗雀の方へと視線を向けた。

 

「……麗雀、此度の試練は見事だった。あのような状況で『火』の力を用いて、迷路内の様子を察知した技術は充分評価に値する」

「え……それってもしかして……!」

 

 麗雀が顔をぱあっと輝かせると、緋雀さんは静かに話し始めた。

 

「遠野柚希殿、並びに我が子麗雀。

共に『火』の試練を突破した事をここに証明する」

「父さん……! 本当にありがとう……!」

「礼はいらん。試練を突破した事を認めるに相応しいと感じたからに過ぎないからな」

 

 緋雀さんは静かに答えた後、俺の方へと視線を向けた。

 

「柚希殿、麗雀の事をこれからもよろしくお願い致します」

「はい、もちろんです、緋雀さん」

 

 俺が微笑みながら答えると、緋雀さんは安心したように微笑んだ。

 

 ……ふふ、やっぱり四神′sの親御さん達は皆良いお父さんなんだな……。

 

 緋雀さんの様子を見ながらそう感じていると、智虎がふと何かを思い出したように輝麒に話し掛けた。

 

「そういえば、輝麒君。試練が全部終わったら、僕達ってどうすれば良いの?」

「あ、それはね──」

 

 輝麒が説明をしようとしたその時、突然近くからとても強い神力と霊力の気配が漂い始めた。

 

 ……このタイミングで来るのって、まさか……!

 

 その力の気配の主に予想がついた時、突然後ろの方から厳かな雰囲気を纏った声が聞こえてきた。

 

「……どうやら、此度の試練は全員が合格のようだな」

 

 俺達がその声の方へ顔を向けると、そこにいたのは、金色(こんじき)に輝く一体の龍だった。

 

 あはは……まさか、本当にそうだったとはな……。

 

 俺がその龍が本当に登場した事に、心の中で苦笑いを浮かべていると、天斗伯父さんがクスリと笑いながらその龍へと話し掛けた。

 

「久しぶりですね、煌龍(ファンロン)さん」

「……うむ、久方振りだな、シフルよ」

 

 その龍──『黄龍』の煌龍様は楽しげに笑いながら答えた。

 

 

『黄龍』

 

 四神達の主である龍で、中央を守護し、五行思想においては『土』を司る。四神に比べれば名前などの浸透率は低いものの、中国では皇帝の権威を象徴する龍であるとされたり、日本でもめでたい獣としてされていたりと、その名前自体は広く知られている。

 

 

 そして……やっぱり天斗伯父さんと黄龍様──煌龍様は知り合いだったんだな。

 

 そんな事を考えていると、天斗伯父さんは微笑みながら煌龍様に話し掛けた。

 

「そういえば、今回の試練で使用していた物、あれらは全て私達が以前作り出した物でしたね」

「うむ、此度の試練の内容を思案していた際、あれらであれば丁度良いと感じたのでな」

「ふふ、確かにそうでしたね」

 

 煌龍様のその言葉に天斗伯父さんは小さく笑いながら答えた。

 

 ……え、時空球だけじゃなく、あの試練で使われた奴って全部天斗伯父さんと煌龍様が作り出した物だったのか……?

 

「天斗伯父さん、その話って本当ですか?」

「はい、本当ですよ。以前、煌龍さんと四神の試練の内容について話をしていた際、自身が司る力以外にも何かを掴んで欲しいという事になったので、色々と案を出していく内にあのような形になったんです」

「自身が司る力以外にも何かを掴む……」

 

 その瞬間、俺はここまでの試練の内容が瞬時に頭の中に甦った。

 

 ……確かに、今思えばどの試練でもただ力を使うんじゃなくて、何かもう一つの要素を求められてた気がするな……。

 

 ここまでの試練の事を思い出しながらそう考えていた時、煌龍様はゆっくりと輝麒の方へ視線を向け、静かに話し掛けた。

 

「我が同輩たる『麒麟』聖麒(シァンチー)の子、輝麒よ。此度の試練の監督役の任、実にご苦労であった。汝の監督役の任を全うしようとするその様、実に見事な物であったため、汝を推した事はどうやら間違いではなかったと確信した」

「……はい」

「よって、此度の『土』及び『中央』の試練は合格とする。輝麒よ、これからも精進する事を忘れるでないぞ?」

「はい……! ありがとうございます、煌龍様……!」

 

 煌龍様の言葉に輝麒は顔をぱあっと輝かせながら答えた。

 

 あ、やっぱりそうだったのか。

 

 煌龍様と輝麒の様子を見ながらそう思っていると、話を聞いていた智虎達から次々と声が上がった。

 

「……え? 『土』及び『中央』の試練って、まさか……!」

「……つまり、輝麒君も僕達みたいに試練に挑戦してたって事……?」

「……なるほど、そういう事だったのか……」

「でも……輝麒が試練に挑戦してる様子なんて全くなかったわよ……?」

 

 何かに気付いた様子の護龍とは違い、智虎達は不思議そうな様子を見せていた。

 

 ……まあ、いきなり言われても何が何だかだよなぁ……。

 

 智虎達の様子に苦笑いを浮かべた後、俺は煌龍様に静かに話し掛けた。

 

「四神の試練の監督役をしっかりと果たす、そして四神の試練が全て終わるまでは、四神にその試練の存在を気付かれてはいけない。それが『中央』の試練だったって事ですよね、煌龍様?」

「うむ、その通りだ。流石はシフルの甥であり転生者である者といったところか」

「ありがとうございます、煌龍様」

 

 煌龍様の言葉に返事をしていると、智虎が不思議そうに話し掛けてきた。

 

「柚希さん、いつからその事に気付いてたんですか?」

「もしかしてと思ったのは『金』の試練の後だよ。あの時、智虎が無事に試練を突破したのを見て、輝麒が心の底からホッとした顔をしてたからさ、本当は素直に喜びたいけど、何かの理由でそれが出来ないんじゃないかって思ったんだ」

「その何かの理由っていうのが、『中央』の試練だったわけですね」

「ああ。監督役をしっかりと務めようとする気持ちがあったからこそ、智虎達が試練を突破した事を一緒に喜ぶわけにはいかなかったんだろうしな」

「なるほどね」

 

 俺の答えに麗雀が納得した様子を見せていると、輝麒が申し訳なさそうな様子で智虎達へと近付いてきた。

 

「みんな、本当にゴメンね……試練のためとはいえ、あんなに冷たい態度を取っちゃって……」

「輝麒君……」

「輝麒君……」

「輝麒……」

「輝麒……」

 

 智虎達は揃って輝麒の様子を見た後、静かに微笑みながら話し掛けた。

 

「謝らなくても良いよ、輝麒君。それが輝麒君が挑戦していた試練だったのなら、本当にしょうがないからね」

「そうそう、もし同じ立場だったら、僕達だって同じようにするだろうしね」

「そうだな、申し訳ないとは思いつつも、試練を全うせねば、推して頂いた黄龍様や父上達に申しわけないからな」

「つまり、貴方は謝る必要なんて全然無いのよ、輝麒」

「みんな……うん、ありがとう」

 

 智虎達のその言葉に輝麒は心からの笑顔を浮かべた。

 

 うん……これでひとまず一件落着かな?

 

 智虎達の様子を見ながらそう思っていると、煌龍様が静かに話し始めた。

 

「……さて、ではこれより、試練を乗り越えた四神達へ例の物を授けるとしよう」

 

 そして、煌龍様の体が光り輝いたかと思うと、煌龍様の放つ光が智虎達の体を優しく包み込んだ。

 

 例の物……一体何だろう……?

 

 不思議に思いながらその様子を見ていると、光は徐々に智虎達の尾の方へ集まり、程なくして光は一つの玉へと姿を変えた。

 

「これは……宝玉……? それも、みんなそれぞれお父さん達と同じ色の……」

「ちょっと小さいけど、そんな感じだよね」

「うむ……しかし、この玉からはとても強い力を感じるな……」

「そうね。それに、この玉を通じて、私達の中に力が流れ込んでくるような感じもするし……」

「うん、何だか不思議な感じだけど、どこか暖かい感じもするよね」

 

 宝玉を見ながら智虎達が話をしていると、煌龍様は静かに宝玉について話し始めた。

 

「その玉は、試練を乗り越えた四神にのみ与えられる証のようなものだ。先に汝らの親からも言われたであろうが、此度の試練の結果に満足することなく、これからも精進する事を忘れるでないぞ?」

「はい!」

「はい」

「畏まりました」

「はい」

「はい」

 

 煌龍様の言葉に智虎達は揃って返事をした。そして、その時の智虎達の表情は、幼い四神達としてのものではなく、剛虎さん達を彷彿とさせるような立派な四神達としてのものだった。

 

 ……何というか、智虎達のトレーナーとして感慨深い物があるな……。

 

 そんな事を考えていた時、俺達の後ろから再び強い神力と霊力の気配が漂ってきた。

 

 ……このタイミングで来るって事は、たぶん……。

 

 そして、俺達がその気配の方へ視線を向けると、そこには──。

 

「……どうやら、試練をしっかりと乗り越えたようだね、輝麒」

「……うん、お父さん」

 

 輝麒のお父さんである聖麒さんの姿があった。聖麒さんは、とても神々しいオーラを放っており、見ているだけでも何だか落ち着いてくるような雰囲気を漂わせていた。

 

 ……何というか、本当にスゴいよな。四神の親子に麒麟の親子、それに黄龍に神様に妖や霊獣や幻獣、そして転生者なんてのが一堂に会してるわけだし……。

 

 そのあまりにも特殊なメンツの揃い方に妙な感動を覚えていると、聖麒さんは輝麒へと静かに近付いた後、穏やかに微笑みながら話し掛けた。

 

「輝麒、麒麟としての試練を良く乗り越えたね。私も父親として誇らしい限りだよ」

「……うん、ありがとう、お父さん」

 

 輝麒はニコッと笑いながら答えた後、チラッと智虎達の方を見てから、聖麒さんに話し掛けた。

 

「あ、あのね……お父さん。その……一つお願い事があるんだけど、良いかな……?」

「……うん、もちろんだよ。言ってごらん、輝麒」

 

 聖麒さんに優しく促された後、輝麒は一度小さく息をついてから真剣な表情で口を開いた。

 

「……僕を柚希さんのところで修行させて欲しいんだ」

「……やっぱりか」

「え……?」

「へ……?」

「……ほう?」

「……へ?」

「……やっぱりそれだったんだね」

 

 智虎達が驚きの声を上げる中、俺と聖麒さんだけは静かに微笑んだ。

 

 あの『金』の試練の前の様子的にそうかなと思ってたけど、まさか本当にそうだったとはな……。

 

 その時の輝麒の様子を静かに思い出していると、輝麒は静かに話し始めた。

 

「この試練の監督役に任命される前、智虎君達の様子を煌龍様から教えて頂いた時に思ったんだ。羨ましい、僕も皆と一緒に生活してみたいな、って。最初は本当にその気持ちだけだったんだけど、この試練での皆の様子とかを見てる内に、僕の中にもう一つ別の気持ちが出来たんだ。

 この人、柚希さんと一緒なら僕も一体の神獣として、一体の麒麟してもっともっと力を付けていける、ってね。もちろん、智虎君達や柚希さんの事を思ってここまで駆け付けてくれた皆さんとの生活が楽しそうっていうのはあるけど、やっぱり僕にとって一番の理由は──」

 

 輝麒は再び智虎達の方を見てから、静かに言葉を続けた。

 

「麒麟として、煌龍様やお父さんのように中央を守護する神獣として、そして智虎君達の友達として、智虎君達の事を支えていきたい。それが僕にとって一番大きな理由なんだ」

「輝麒君……」

「ふふ……そっか」

「……なるほどな」

「……ふふ、輝麒らしいわね」

 

 智虎達が嬉しそうな様子を見せていると、聖麒さんは静かに微笑みながらそれに答えた。

 

「輝麒、お前の気持ちはしっかりと私に伝わったよ。とても輝麒らしい思いであり、素晴らしい考えだと私は思っているよ」

「お父さん、それじゃあ……!」

「うん、私は賛成だよ、輝麒。お前自身が決めた道を私は否定する気は無いからね」

「お父さん……ありがとう!」

「どういたしまして。……さて、それじゃあ後は分かるね?」

「うん、もちろん!」

 

 輝麒は元気良く答えた後、俺の方へと体を向け、真剣な表情で話し掛けてきた。

 

「柚希さん、僕を仲間に加えて下さい! お願いします!」

「……ああ、もちろんだ。これからよろしくな、輝麒」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 輝麒がとても嬉しそうに答えると、智虎達も同じように嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「輝麒君、これからもよろしくね!」

「これからもよろしくね、輝麒君」

「改めてよろしく頼むぞ、輝麒」

「これからは一緒に頑張って行きましょ、輝麒」

「うん! 改めてよろしくね、みんな!」

 

 智虎達の言葉に輝麒は幸せそうな笑顔を浮かべながら答えた。

 

 ……よし、そろそろ恒例の説明タイムと行くか。

 

 そして、俺は輝麒に転生者の事や『絆の書』の事について話し始めた。話し終えると、輝麒は興味深そうな様子を見せた。

 

「この本が別の空間の扉……何だか不思議な感じですね」

「あはは、まあ確かにそうだな。さて、それじゃあそろそろ頼んでも良いか? 輝麒」

「はい!」

 

 輝麒の返事を聞いた後、俺は『絆の書』の空白のページを開いた。そして、輝麒が右前足を置いた事を確認した後、俺は左手で『絆の書』を持ちながら、右手を空白のページに置き、いつも通りのイメージを頭の中に浮かべながら、静かに目を閉じた。

 

 ……よしよし。

 

 体の奥から魔力が腕を伝って、右手の中心にある穴から流れ込むイメージが無事に浮かんだ事を確認し、俺はそのまま静かに魔力を流し続けた。

 

 ……よし、これで良いな。

 

 そして、必要量が流れ込んだ事を確認した後、俺はゆっくりと目を開けた。

すると、『絆の書』には野原一面に咲き誇る花々を優しい目で眺めている輝麒の姿と麒麟についての詳細が書かれた文章が浮かび上がっていた。

 

 うん、無事に完了っと。

 

 無事に完了した事に安心した後、俺は輝麒のページに魔力を注ぎ込んだ。そして、輝麒が『絆の書』から出て来た後、少し不思議そうに周囲を見回してる輝麒に声を掛けた。

 

「輝麒、居住空間はどうだった?」

「あ、はい……とても心地よい力の波動と色とりどりの花が咲いている花畑や澄んだ川、それに綺麗な山々などがあって、何だか夢の中にいるような気分でした」

「ふふ、そっか。喜んでくれたようで良かったよ」

 

 輝麒の感想に俺が微笑みながら答えていると、煌龍様と聖麒さんが楽しげな様子で声を上げた。

 

「くくっ、そのような異空間を本を媒介にして作り出すとはな。やはりシフルの作る物は、愉快な物ばかりのようだ」

「そうですね、煌龍様。それに、そのように過ごしやすそうな異空間であるならば、私達も住んでみたい物です」

「はははっ、まったくだ!どうだ、柚希。我らも仲間に加えてみる気は無いか?」

「え、あー……その……」

 

 いや、煌龍様や聖麒さんが仲間になるのはスゴく頼もしいし嬉しいけど、ちょっと恐れ多いような……!

 

 俺が答え(あぐ)ねていると、義智がため息をつきながら煌龍様達に話し掛けた。

 

「……煌龍、聖麒。柚希をからかうのはそこまでにしておけ。お前達の冗談は本当に冗談にならん時があるからな」

「くくっ、そうだな。お前の言う通り、戯れはここまでにしておくか」

「ふふ、そうですね。これ以上柚希殿を困らせてしまうのは、流石に心苦しいですから」

「……やれやれ」

 

 楽しげな様子の煌龍様と聖麒さんを見ながら、義智は呆れたように息をついた。

 

 ふぅ……冗談で助かったような残念なような……それにしても、さっきの煌龍様は何だか長谷のお父さんの慶二さんみたいな感じだったな、冗談の重さとかからかうのが好きなところとか……。

 

 そんな煌龍様達の様子を見ていた時、天斗伯父さんが何かを思い付いたように手をポンッと叩いた。

 

「皆さん、せっかくこうして皆さんが集まっていることですし、これからここで昼食会にしませんか?」

「……ほう、それは中々愉快な提案ではないか、シフル」

「ふふ、煌龍さんならそう言うと思っていました。それに、そろそろお昼頃ですし、柚希君達のお祝いも兼ねる事が出来ますからね」

「はははっ、違いないな! よし……そういった趣向であるならば、この催しは大いに盛大な催しとしよう!

剛虎! 甲亀! 飛龍! 緋雀! 聖麒! そして、シフル! 義智!

共に準備を為すぞ!」

「畏まりました、煌龍様」

「ふふ、承知致しました、煌龍様」

「煌龍様の仰せのままに」

「私も承知致しました」

「了解しました、煌龍様」

「ふふっ、了解です、煌龍さん」

「……仕方あるまい、今回だけは手伝ってやるか」

 

 剛虎さん達や天斗伯父さん達が返事をした後、煌龍様は満足そうに頷きながら金色の光を放った。そして、光が止んだ頃には煌龍様の姿はどこにも無かった。

 

 あー……あの調子だと、本当に豪勢で盛大な昼食会になりそうだな……。

 

 その様子を想像し苦笑いを浮かべていると、智虎達が少し不安そうに話し掛けてきた。

 

「……何だか、スゴい大事になっちゃましたね……」

「あはは……楽しみなような怖いようなって感じだね……」

「……煌龍様のご指示とあらば、父上達は様々な事を迅速にこなしてしまいますので、やはり規模の方が少々心配ですね……」

「……それに、天斗さんもだいぶノリノリだったわよね……」

「……柚希さん、僕達はどうしたら良いでしょうか……?」

「……そうだな」

 

 ……まあ、事はもう進んじゃってるし、せっかくの厚意を無碍にするのも良くはない。それに、今日は予定がある事を夕士達には伝えてあるし、合気道の練習日でもない。だから、ここはもう全力で楽しんだ方が良さそうだな。

 

 そう決めた後、俺はニッと笑いながら智虎達に返事をした。

 

「こうなったらもう仕方ないし、全力で楽しむ事にしようぜ。

 こんな経験も滅多にないんだしさ」

「……ふふっ、そうですよね……!」

「うんうん、今更どうしようもないなら、楽しんだ者勝ちだもんね」

「……そうだな、ここは大人しく試練合格の祝いを受け取ることにするか」

「ふふっ、そういう事なら目いっぱい楽しんじゃおうかしらね……♪」

「ふふっ、そうだね。こうなったら、柚希さんの言う通りに全力で楽しんじゃおうかな」

 

 智虎達の顔が明るくなった事を確認した後、俺はこの場に残っている『絆の書』の住人全員に声を掛けた。

 

「よし……皆、これから始まる昼食会兼宴を目一杯楽しむぞー!」

『おー!』

『承知した』

『承知しました』

 

 言葉こそ幾つか種類はあったものの、皆の顔や波動には楽しそうな色が浮かんでいた。

 

 さて……新たな仲間達との昼食会はどうなるのかな……!

 

 そして俺は、そんな皆の様子を見ながら、まったく予想の付かない昼食会への期待などで胸を静かに膨らませた。




政実「第16話の後編、いかがでしたでしょうか」
柚希「今回はこうやって前後編に分けたわけだけど、この先も今回みたいな感じにする話は出てくるのか?」
政実「そこは未定かな。ただ、書きたい事が多くなって、一話の文字数が明らかに多くなったかなと思った時はそうするかもね」
柚希「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。