柚希「どうも、遠野柚希です。まあ、スゴくイメージ通りだよな、それ」
政実「まあね。物語とかゲームとかに出て来る属性はどれも好きではあるけど、その中で一番を決めるなら光属性になるかな」
柚希「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「そうだね」
政実・柚希「それでは、第17話をどうぞ」
白く小さな雪が静かに舞い降り、太陽の光に照らされた雪によって光の道が出来る季節、冬。そんな冬のある休日の朝、俺は特にやる事も無かったため、居間のソファーに座りながら読書をしていた。
……今日は夕士も長谷も用事があるし、合気道の練習も無い。 それに宿題も昨日の内に終わってるし、何か予習復習をする物も無い。
となれば、ここはゆっくり読書をするにかぎ──。
その時、廊下の方からとても楽しそうな声と誰かが走ってくる足音が聞こえた。
あ……これは、読書は無理かもしれないな……。
そう思いながら静かに本を閉じた瞬間、足音の主が居間の中へと走り込んできた。
「柚希ー!! 一緒に外で遊ぼうよー!!」
「柚希兄ちゃん!! 雪だよ、雪!!」
「……雪花、オルト。もう少し声量は小さくしような」
声と足音の主──雪花とオルトの二人に俺は苦笑いを浮かべながら声を掛けた。
……まあ、まさに季節真っ盛りの雪女に犬系統であるオルトロスのコンビだから、冬にはしゃぐのはしょうがないけどな。
そんな事を考えながら雪花達の事を見ていると、雪花はとても楽しそうな表情を浮かべながら言葉を返してきた。
「えー! だって冬だよ、冬! 冬は雪女にとって最高の季節なんだから、ここで楽しまきゃ損ってもんでしょ!」
「……まあ、それは分かるけどさ。今、風之真達がグッスリと寝てるから、起こす事になるのも可哀相だと思ってな」
俺はストーブの前に置かれた暖房スペースの中にいる風之真達を見ながら、静かな声で返事をした。暖房スペースの中では、現在風之真を始めとしたアンや賢亀といった何匹もの妖や神獣などのモノ達がグッスリと眠っているため、風之真達を起こさないようにかなり神経を使っていた。
まあここにいるのは、俺達ぐらいな物で、他の皆は俺の部屋とか和室にいるから、俺さえ静かにしていれば問題は無かったんだけどな。
そして、雪花達は体を寄せ合って眠る風之真達の姿を見ると、納得した様子を見せた。
「あ、なるほどね……」
「たしかに風之真兄ちゃん達を起こしちゃうのは可哀相だもんね……」
「そういう事。まあ、外で遊ぶのに付き合うのは別に良いけど、とりあえず風之真達が起きてからだな」
「そうだね。となると……」
「何をしたら良いかな……?」
「そうだな……」
俺は少し考えた後、ふと思いついた事を雪花達に言ってみた。
「俺みたいに読書してみるとか義智みたいに瞑想してみるとか……後はいっその事、ここで一眠りするとかはどうだ?」
「うーん、読書に瞑想……それにちょっと早めの一眠りかぁ……」
「……柚希兄ちゃんには悪いけど、まだあまり眠くないし、僕達は静かにしてるのってちょっと苦手なんだよね……」
「そうだよねぇ……義智さんとか雷牙さんとの修行とかこころ達のガーデニングの様子を眺めてる時はまだ良いんだけど、普段は全然そういう事が出来ないんだよね……」
「そういえばそうだな……」
そういった時の雪花の様子を思い出し、俺は再び苦笑いを浮かべた。修行を始めた頃に比べれば、雪花もそういった修行とかは好きになったため、その時だけは静かにする事は出来る。
しかし、基本的には居住空間などで風之真達と一緒に遊んでいたり誰かと楽しく話していたりする方が好きなため、やっぱり静かにしているのは苦手なようだった。
昔話なんかの雪女のイメージ的には、白装束を着ていて物静かな性格だったり、言葉や態度が冷たかったりするけど、雪花ってまさにそれの真逆なんだよな……まあ、そうやって皆を明るくしていけるのは、雪花の良いところではあるけどな。
今日はいつもの白装束ではあるものの、雪花はよくこころやアン、それに兎和や鈴音や麗雀といった女子組でよくファッションの話をしていたり、居住空間にいるらしいお手伝いさんに実際に作ってもらった服を着ていたりと、世間一般の雪女のイメージとはやっぱり真逆の位置にいるような気がする。
どこかにいるはずの雪花の親御さん達が今の雪花を見たら、絶対に驚くだろうなぁ……。
そんな事をぼんやりと考えていたその時、居間に蒼牙と兎和、そして黒烏とヴァイスという珍しいメンツが一緒に入ってきた。そして、雪花とオルトが居間にいるのを見ると、ヴァイスが珍しそうな様子で声を上げた。
「……おや、雪花さんにオルト君。外で遊ぶのはもうよろしいんですか?」
「ううん、違うよ。柚希を誘いに来たんだけど、風之真達が寝てる間は風之真達の側にいるって言うから、その間何をするかを一緒に考えてたの」
「ふむ……そういう事か」
「ところで、みんなはどうしたの? さっきまで縁側にいたような気がするけど……」
「少々居間の様子が気になったのに加え、兎和と黒烏が柚希の元へと行きたそうにしていたのでな、せっかくなので我らもそれに付き合う事にしたのだ」
「えへへ……柚希お兄ちゃんが読書をしてたのは、もちろん知ってたんだけど、ちょっと顔を見たくなっちゃって……ね、黒烏君」
「うん……正直、柚希さんの読書の邪魔になるんじゃないかと思ったんですけどね……」
「いや、そんな事は無いよ。俺だって読書をしてたのは、風之真達が眠ってるのを見守るのに丁度良かったからだからさ」
俺が微笑みながら言うと、黒烏はホッとした様子で小さく息をついた。
「そうですか、それなら良かったです……」
「ふふ、良かったですね、黒烏君」
「はい」
ヴァイスの言葉に黒烏が微笑みながら答えている中、蒼牙は暖房スペースで未だに眠り続けている風之真達を見て、少し呆れたようにため息をついた。
「やれやれ……声を抑えながら会話をしていたとはいえ、未だに眠り続けたままとはな……此奴らは本当に冬が苦手と見えるな」
「私達も冬が得意ではないですけど、風之真さんとアンちゃん、それに賢亀君は冬になるとよくここにいますもんね」
「まあ、雪花が夏が苦手なのとはちょっと違うけど、似たようなものだと思うしかないよな」
「ふふ、そうですね」
幸せそうに眠り続けている風之真達を見ながら話を続けていたその時、玄関の方からドアがゆっくりと開く音が聞こえたかと思うと、天斗伯父さんの神力と知らない魔力の気配が突然漂ってきた。
「……おや、どうやら向こうの方からお客様をお連れになったみたいですね」
「どうやらそのようだな。しかし……魔力という事は、ヴァイスやオルトなどと同じ類の客なのかもしれぬな」
「そうだな」
さて、お客さんの正体は後で分かることだし、とりあえず天斗伯父さん達を出迎えに行かないとな。
天斗伯父さん達を出迎えるべく、玄関へと向かおうとした瞬間、クリーム色よりの長い金髪に白の衣服という神様モードの天斗伯父さんの姿と鋭く尖った角を備えた綺麗な白馬の姿が見えたため、俺は静かに足を止めた。
あ……この白馬ってもしかして……。
俺がその白馬の正体に気付いた時、ヴァイスがニコリと笑いながら天斗伯父さんに話し掛けた。
「お帰りなさい、天斗さん」
「お帰りなさい、天斗伯父さん」
「天斗さん、お帰りなさい」
「天斗さん、お帰りなさい!」
「お帰りなさいです、天斗さん」
「お帰りなさい、天斗さん」
「お帰り、天斗」
ヴァイスに続いて俺達が天斗伯父さんに挨拶をすると、天斗伯父さんはニコリと笑いながら返事をしてくれた。
「はい、ただいまです、皆さん。柚希君、ヴァイスさん。こちらの方はどなたか分かりますか?」
「あ、はい」
「はい、もちろん分かりますよ」
そして、俺達は天斗伯父さんの隣で緊張した面持ちで立っている白馬の名前を揃って口にした。
「「『ユニコーン』ですよね?」」
「はい、ご名答です」
俺達が白馬──『ユニコーン』の事を見ながら答えると、天斗伯父さんはクスリと笑いながらそう答えた。
『ユニコーン』
額の中央に一本の角を生やした白馬のような見た目の伝説の生き物。その見た目こそ綺麗であり、備えた角には毒や病などを浄化する力を有しているが、その気性は非常に獰猛で、清らかな処女にのみ宥める事が出来ると言われている。
……つまり、本来なら俺達はだいぶ危ない筈なんだけど……。
俺は少し警戒しながらユニコーンの様子を窺った。ライオンのような尾に
ところが、そのユニコーンの体長はそこそこ小さく、俺達の事を少し緊張した面持ちで見つめているその様子から、言い伝えられているような獰猛さはまったく感じられなかった。
……角だけはかなり立派だけど、体長から察するにこのユニコーンって仔馬だったりするのかな?
ユニコーンの様子を見て少しだけ警戒を解いた後、俺は天斗伯父さんに声を掛けた。
「……天斗伯父さん。このユニコーン、何だか知ってる様子と違う気がするんですけど……」
「……はい、そうだと思います。実はこの方は──」
次の瞬間、俺は天斗伯父さんの口から出た言葉に耳を疑うこととなった。
「言い伝えられているユニコーンの気性とは真逆で、非常に大人しく気弱な方なんです」
「……へ?」
俺が疑問の声を上げると、ユニコーンは少しショボンとしながら静かに項垂れた。
いや……ユニコーンだって生き物なんだし、色々違いはあるのは当然だけど、ここまで違うのも中々無いんじゃないのか……?
項垂れたままのユニコーンを見ながら不思議に思っていると、天斗伯父さんは静かに説明をし始めてくれた。
「この方──シングさんは、どうやら特異個体という物らしく、先程述べた気性の穏やかさに加えて、他のユニコーンに見られるような清らかな女性にしか宥められないという特徴も無いとの事なのです」
「……つまり、警戒は完全に解いても良いって事ですよね?」
「そうですね。シングさんは柚希君達を襲うような事は一切ありませんので、警戒は解いてもらっても大丈夫ですよ」
「……分かりました」
天斗伯父さんの言葉を聞いて、完全に警戒を解いた後、俺はヴァイス以外の皆にユニコーンについての簡単な説明をした。そして話を終えた後、俺はシングさんの事をチラッと見てから、天斗伯父さんに話し掛けた。
「ところで、天斗伯父さん。シングさんはどうして家に来たんですか?」
「それはですね──」
天斗伯父さんが説明をしてくれようとしたその時、暖房スペースの方から風之真達がモゾモゾと動き出す音が聞こえた。
……あ、流石に起きたのか。
そう思いながら暖房スペースの方へ視線を向けると、風之真達がまだ少し眠そうな様子でむくりと起き上がった。
「ん……なんだ、まだ昼じゃねぇのかぃ……? 」
「ふあぁ……どうやら、そうみたいですね……」
「……でも、お腹は減ってるし、そろそろなんじゃないかな……?」
「うん……たぶん、そうだと思うよ……」
そして、揃って眠そうに目を擦った後、俺達の他にシングさんがいるのに気付いた瞬間、
「……って、うおぉっ!? 何だか知らねぇ御仁がいやがるぞ!?」
「あっ……! ほ、本当ですね……!」
「おぉー! 何だかこの馬、スッゴく白いねー!」
「うん、そうだね。それに天斗さんが神様モードって事は、天斗さんの知り合いとかなのかな……?」
風之真とアンは驚いた様子を見せたが、鈴音と賢亀は興味津々な様子でシングさんの事を見始めた。
あはは……まさか、ここまで反応に差が出るなんてな……。
風之真達の反応の差に苦笑いを浮かべていると、シングさんは風之真達の事を少しビクビクしながら見始めた。
あれ、もしかして……?
「えっと……シングさん? 風之真達は別に危険な奴らとかじゃないので、そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ?」
「あ……はい、分かりました……」
シングさんは静かに返事をすると、少しだけ表情を和らげたものの、その目と波動からはまだ風之真達への警戒心が見て取れた。
うーん……何だかシングさんを見てると、最初の頃の兎和と智虎を思い出すな……。
今でこそ他の皆とも仲良くしている上、毎日を笑顔で過ごしている兎和と智虎だが、仲間になってすぐの頃は興味こそあれども俺や義智以外とは中々馴染めず、時間を掛けて接することでようやく今のようになった。
まあ、兎和と智虎がそうなる事が出来たのは、風之真達元気三兄妹が無理なくゆっくりと距離を詰めていったのと他の皆のフォローがあったからなんだけどな。
その時の事を思い出し、少々懐かしい気持ちになっていると、天斗伯父さんがクスクスと笑いながら俺達に声を掛けてきた。
「風之真さん達も起床なさったようですし、シングさんの事についてはお昼ご飯を食べながらという事にしましょうか。時間的にもそろそろお昼のようですから」
「……え?」
天斗伯父さんの言葉を聞き、時計の方へ視線を向けると、時計の針はもうそろそろ正午を指そうとしていた。
「……あ、本当ですね。それじゃあ、今日は俺達で昼食の準備をするので、天斗伯父さんはシングさんと一緒に待っていて下さい」
「ふふ、分かりました。それでは、シングさん。ここは柚希君達にお任せして、私達はこれからの事について少々お話しをしていましょうか」
「は、はい……分かりました……」
シングさんは静かに返事をすると、天斗伯父さんと一緒にソファーの方へと歩いてきたため、俺はスッとその場から退いた。そして、風之真達の事を見回しながら俺は指示を出し始めた。
「さてと……それじゃあ、風之真とアンと鈴音は俺の部屋に行って、こころ達を呼んできてくれ。そして、黒烏と兎和と賢亀は和室に行って、義智達を呼んできてくれ」
「おうよ!」
「はい♪」
「りょーかいっ!」
「分かりました」
「分かりましたっ!」
「はーい」
風之真達は返事をすると、それぞれの指示に従って居間を出て行った。そして、風之真達が完全に出て行った後、俺は残っているヴァイスと蒼牙に声を掛けた。
「よし……それじゃあ俺達は、昼食の準備に取りかかるか」
「はい、分かりました」
「うむ」
ヴァイス達の返事を聞いた後、俺達は揃ってキッチンへと向かった。
『いただきます』
声を揃えて食事の挨拶をした後、俺達は昼食を食べ始めた。今日の昼食は、パラパラのカニカマチャーハンにソースの香りが漂う肉野菜炒め、そして中華風わかめスープという献立だ。
……うん、やっぱりまだまだ天斗伯父さんの味には敵わないな……。
カニカマチャーハンを咀嚼しつつ、俺は自分の力不足を実感した。天斗伯父さんはわりと料理を作るのが好きなため、時々残り物を利用した献立なんかを考えては、それを大学ノートに纏めていたりする。
そして、そのノートに纏められている試作料理達はどれも美味しいため、風之真達みたいに食べる事が好きな『絆の書』の住人達は、天斗伯父さんがその献立ノートを持っているところを見ると、すぐに天斗伯父さんに質問をしに行ったりしている。
……うん、近い内に天斗伯父さんにもっと料理を教わっておこう。
心の中で静かにそう決意していると、天斗伯父さんが持っていたレンゲを静かに置き、ニコリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「柚希君、とても美味しいご飯を作って頂き、本当にありがとうございます」
「あ……ありがとうございます。……と言っても、天斗伯父さんにはまだ敵わないですけどね」
「ふふ、そんな事は無いですよ。私には私なりの味が、柚希君には柚希君なりの味がありますし、料理は作る人の気持ちが一番重要ですからね」
「作る人の気持ち……」
「ええ。確かに貴重な食材や様々なテクニックを用いる事も必要になる時はありますし、食材や料理の基本的な知識はもちろん必要です。
ですが、それ以外にも大事なのは、食べてくれる人について、様々な事を考慮しつつ、食べてくれる人達の笑顔を思い浮かべる事だと私は思っています。料理は愛情、という言葉もありますしね」
「……そうですね」
天斗伯父さんの言葉に対して、俺は微笑みながら答えた。
言われてみればそうかもしれないな。天斗伯父さんもそうだけど、これから先の未来で出会うかもしれない『あの人』だって食べてくれる人の事を想って日々料理を作っているし、一般的な家庭においてもそうだと思う。
もちろん、その想いは必ず届くかどうかは分からないけど、ちゃんとした想いさえ常に抱いていれば、いつかは届くはずだ。何となくだけど、そんな気がする。
そう思っていた時、義智が静かな声で天斗伯父さんに話し掛けてきた。
「……さて、シフル。そろそろそこの奴──シングについて、我らに説明をするべきでは無いのか?」
「……ふふ、そうですね」
天斗伯父さんは穏やかな笑みを浮かべながら答えると、シングさんの方へ視線を向けた。
「シングさんはユニコーンの一族の長の息子さんの内の末っ子なのですが、今朝私が天上の方へ用事のために向かった際、ちょうど私の事を尋ねるために、天上へといらっしゃっていたんです。
そしてお話を聞いてみると、昨今ユニコーンの一族を狙うハンターのような者の姿を度々目撃していて、ユニコーンの一族はその者より逃れるべく、住処を転々としているとの事でした。
因みにそのハンターのような者は男性らしいので、本来であれば言い伝え通りの対策さえ取られなければ問題は無いのですが……」
天斗伯父さんがそこで一度言葉を切ると、シングさんは再びシュンとした様子を見せた。そして天斗伯父さんは、その様子を見ながら話を続けた。
「先に皆さんにもお話しした通り、シングさんは姿以外はユニコーンという種族の特徴とは異なった特異個体でして、その特性を知られてしまった場合、シングさんは簡単にその者の手に落ちてしまいます。
そこで、シングさんのお父様は、シングさんの身を案じた上、シングさんの成長などへの期待を込めて、旅に出す事を決心し、その相談のために天上へといらっしゃったとの事でした」
天斗伯父さんがそう言葉を締め括ると、雷牙は納得した様子を見せた。
「ふむ……確かに風之真達にすら恐れをなす程の気の弱さでは、一族の者と共に逃げ延びるには少々無理があるからな。一族というものは、しっかりとした意思決定をする事が出来る長とその長に協力する意思のある者達がいて、初めて成り立つものだ」
「うんうん、そうだよね。多少の性格の差異とかはもちろんあるけど、ちゃんと従う時には従わないと、最悪一族自体が無くなりかねないからね」
「それに、ユニコーンの角には浄化の力がありますから、シングさんの一族を狙う者以外にも多くの人間がその力を欲してユニコーンを狙います。つまり、ユニコーンの一族は、他の種族に比べてそういった事にはもっと気を配る必要があります」
「確かにそうだな……」
ユニコーン自体がまず貴重だし、その角ともなれば更に貴重なものだ。加えて浄化の力ともなれば、商業目的で乱獲する奴が出てもおかしくは──。
その時、風之真が何かを思い出したように声を上げた。
「んー……? 浄化って言いやぁ、旦那の持ってる『ヒーリング・クリスタル』もそんな力を持ってた気がすんなぁ……?」
「……え、そうなんですか?」
おそるおそる訊いてくるシングさんの言葉に、俺は『ヒーリング・クリスタル』を見せつつ、優しく微笑みながら返事をした。
「ええ。もっとも、もう一つの治癒の力の方がよく使うので、あまり目立たないですけどね。なので、人間とユニコーンという種族の違いこそありますけど、シングさん達ユニコーンという種族の事は、あまり他人とは思えないんですよね」
「柚希、さん……」
俺の言葉にシングさんがポツリと呟くと、雪花が静かにうんうんと頷いた。
「私もそうかな。私は治癒とか浄化の力を持ってないし、特異個体って奴じゃないけど、一般的な雪女のイメージとは正反対って意味で見れば、私も似たようなものだからね」
「……一応、その事には気付いていたのだな、雪花よ」
「うん。というか、向こう──故郷の方でも私だけはちょっと違ってたんだよね。他の皆はちょっと静かめだったり、こころとか兎和みたいにおっとりとしてたりでね。もちろん明るい子もいた事はいたけど、こんな感じだったのは私だけだったんだよ」
「そう……なんですか」
「うん、そう。そして私にも友達とかはいたけどさ、向こうにまだいた頃、友達とかと一緒にいる時にふと思ったんだ。
『私って回りに比べたら、ちょっと浮いてるなぁ』
って、ね。
まあ、友達の反応を見る限り、友達とかはそんな事を思ってないし、私だけが思ってた事なんだろうけど、やっぱり同じような人が揃ってる中で一人だけ何か違うとさ、何か疎外感みたいなのは感じちゃうんだよね。
『私はこのままこの一族の中にいて良いのかな?』
……なんてね」
「雪花……」
いつもと違い少し哀しそうな笑みを浮かべている雪花に、俺はまだまだ雪花の事を理解しきっていなかった事を痛感した。もちろん、雪花が話しているのは、俺達と出会う前の事ではある。けれど、いつも明るい雪花の中にも、そういった哀しみを感じていた時期があった事を感じ取れなかった事に、俺は自分自身の力不足のようなものを感じた。
……やっぱり俺もまだまだなのかもしれないな……。
心の中で静かにそう思っていた時、雪花はすぐにいつものような明るい笑顔を浮かべながら話を続けた。
「でもね、この世界に来て、柚希達と出会ってから私の思いはちょっとずつ変わってきたんだ。ここのみんなは、良い意味でも悪い意味でも個性的な存在が揃ってるけど、でもそんな存在の事をお互いに認め合いつつ尊重し合ってる。そんな様子を見て、私は思ったんだ。
『個性は邪魔なものなんかじゃなく、自分や他の人のために活かせるもの』
なんだってね」
「自分や他の人のために活かせるもの……」
「うんっ! それに、さっき聞いたシングのその他のユニコーンと違うところだって、困ってる人や妖や他の存在を助けるために使えるはずだよ。だって、気の弱さ──大人しいところは、誰かを傷付けずに済むって事だし、清らかな女性以外でも宥められるっていうのも、要するに誰にだって近付けるって事だからね」
雪花がニコリと笑いながら言うと、シングさんはとても驚いたような表情を浮かべた。
「……私自身がダメだと感じていたところは、考え方一つでそこまで変わるんですね……」
「ふふっ、そうだね。……まあ、私も個性の塊みたいな人から教えてもらったようなものなんだけどね♪」
雪花はチラリと俺の事を見た後、楽しげにニヤリと笑った。
個性の塊みたいなって……。
「雪花……まさかそれは、黒烏の時にお前達の事をある意味個性的な奴ら、なんて言った事への仕返しか?」
俺がジトッとした目で訊くと、
「……ふふ♪ さぁーてね? 私は義智さんとか雷牙さんみたいじゃないから、ちょーっと分かんないかなー?」
雪花は悪戯っ子のような表情で答え、その表情や波動からは悪意のようなものは、当然感じられなかった。
はぁ……まあ、良いけどな。雪花が楽しそうならそれで。
俺が諦めたようにため息をつくと、雪花はクスクスと笑いながら再びシングさんに話し掛けた。
「まあ、私が結局何を言いたいかって言うとさ、自分の性格や個性を嫌いにならないで欲しいって事なんだ。ここまで話した通り、性格や個性っていうのは、別に悪いものじゃなくて、活用の仕方次第でいくらでも良いものにしていけるものだからね。だからさ──」
そして、雪花はニコリと笑いながら言葉を続けた。
「もし、シングがその性格を嫌いだっていうなら、好きになってあげてよ。自分で思っているよりも、その性格は悪いものじゃないはずだからさ」
「雪花……さん」
「雪花、で良いよ。それにタメ口でも大丈夫だよ。たぶん、歳もそんなに変わらないだろうし、天斗さん達以外からさん付けとかで呼ばれるのも、何だかこそばゆいからね」
「……うん、分かった。ありがとう、雪花」
「……ふふ、どういたしまして」
シングさんからのお礼の言葉に対して、雪花は楽しそうな笑みを浮かべながら答えた。
……うん、やっぱり風之真達もそうだけど、雪花は無理なく少しずつ距離を詰めていくし、相手を嫌な気持ちにさせない話し方が出来るから、こういう時は本当に頼りになるな。
雪花のその姿に頼もしさを感じていると、シングさんはとても穏やかな笑みを浮かべながら静かに話し始めた。
「……雪花の言う通り、私は自分のこの性格がとても嫌いでした。一族のみんなともぜんぜん違いますし、周囲から一族の長の息子でありながら弱虫な奴だなどと陰口を言われる事もありましたから。
けれど、今の雪花の言葉で私は少しだけですけど、この性格の事を好きになれたような気がします。性格や個性は自分の活用の仕方次第でいくらでも良いものにしていく事が出来る。この言葉のおかげで、私は自分の性格と向き合っていく自信がつきましたしね」
「ふふ、きっとお父様もそれに気付いて欲しかったから、シングさんを旅に出す事を決意なされたのかもしれませんね」
「そう……かもしれませんね」
天斗伯父さんの言葉に、シングさんは微笑みながら答えた。その表情や波動には、安心や喜びの色が浮かんでおり、感じていた不安や哀しみといった物が無くなっている事は明らかだった。
……うん、本当に良かった。
シングさんの様子を見ながら静かに安心していたその時、シングさんがニコリと笑いながら言葉を続けた。
「……それに、この気持ちさえあれば、ここでも上手くやっていけるような気がしますね」
「……え?」
「……おやおや?」
シングさんの言葉に、俺と雪花は疑問の声を上げていると、義智が呆れた様子で天斗伯父さんに話し掛けた。
「シフル……まさかとは思うが、我らに相談の一つもせずにその事を決めたのではあるまいな?」
「……ふふ、私はあくまでもシングさんに提案をしただけですよ? 義智さん」
「……やれやれ、お前という奴はいつもそうだな……」
天斗伯父さんの穏やかな笑みに対して、諦めたようにため息をついた後、義智は俺の方へ視線を移した。
「……さて、柚希よ。お前の意見を訊かせてもらうぞ? こういった件についての最終決定を下すのは、シングが所属することとなる『絆の書』の主であるお前なのだからな」
「……そうだな」
義智の言葉にフッと笑いながら答えた後、俺はシングさんの方ヘと視線を移した。
どうするかなんて、もう決まってるしな。
そして俺は、ニコッと笑いながらシングさんに話し掛けた。
「俺は大歓迎ですよ、シングさん。もちろん、他の皆も。な、皆」
俺が皆に声を掛けると、満面の笑顔を浮かべる雪花や諦めたようにため息をついている義智を除き、皆は微笑みながらコクンと頷いた。
……ふふ、やっぱりな。
予想通りの皆の反応に俺が小さく笑っていると、シングさんはホッとした様子で話し掛けてきた。
「皆さん……本当にありがとうございます。そして、これからよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、シングさん」
「はい、よろしくお願いします。あ、それと……私の事は呼び捨てで大丈夫ですよ、柚希さん」
「……うん、分かった。それじゃあ、改めてよろしくな、シング」
「はい、よろしくお願いします、柚希さん」
俺達はそう言葉を交わしながら握手を交わした。
さてと……それじゃあそろそろシングにも説明をするか。
そして、俺はシングに俺の事や『絆の書』の事について説明を始めた。すると、説明を終えた途端、シングは目をキラキラと輝かせ始めた。
「転生者に『絆の書』……! 柚希さんはそんなにスゴい方だったんですね……!」
「あはは……俺自身がそんなにスゴいわけじゃないんだけどな。さて、それじゃあそろそろ頼むぞ、シング」
「はい!」
シングの返事を聞いた後、俺は『絆の書』の空白のページを開いた。そして『絆の書』を左手に持ち、シングと一緒に右手を『絆の書』へ置いた後、いつも通りのイメージを頭の中へと浮かべつつ静かに目を閉じた。
……よし、今日も大丈夫そうだ。
体の奥に沸き立つ魔力が腕を伝って、右手の中心にある穴から流れていくイメージが無事に浮かんだ事を確認した後、俺はそのまま魔力を流しこみ続けた。
……うん、これで良いな。
そして、必要な量が流れ込んだ事を確認した後、俺はゆっくりと目を開けた。『絆の書』には、青々とした草原の中心で気持ち良さそうに風を感じているシングの姿とユニコーンの詳細について書かれた文章が浮かび上がっていた。
……よし、今回も無事にとうろ──。
シングの事を無事に登録出来た事に安堵していたその時、風之真が不思議そうに声を上げた。
「……ん? そういやこの前も、柚希の旦那は『ヒーリング・クリスタル』の力を借りずに輝麒の事を登録出来てたっけな……?」
「……あ、そういえばそうだったな……」
風之真の言葉を聞き、俺は四神′sの試練の日の事を思い出した。
……あの時は、頭の中が智虎達の試験の事でいっぱいだったから忘れてたけど、確かに『ヒーリング・クリスタル』の力を借りずに登録完了出来てたよな……?
その事について俺が疑問に思っていると、輝麒が何かを思い付いたように声を上げた。
「そういえば……あの時、義智さんは柚希さんが智虎君達との出会いや四神の試練への参加が柚希さんの力となったって言ってた……つまり、柚希さんの中で強くなっていたのは、そういった感覚的な能力とかだけじゃなく、特典として手に入れていた『力』自体も強くなっていた、という事なんだと思います」
「『力』自体が強くなっていた、か……義智、お前の意見はどうだ?」
俺が意見を訊いてみると、義智は腕を組みながら静かな声で答えた。
「……そうだな、我の予想を話す事は構わぬが、まずはシングの事を出してやってはどうだ?」
「……そうだな。シングだって、もう俺達の仲間なんだし、この件についての話を聞く権利はあるもんな」
俺は静かに微笑みながらシングのページに右手を置き、そのまま魔力を注ぎ込み始めた。そして、シングが『絆の書』から出て来た後、俺は驚いたような表情を浮かべているシングに声を掛けた。
「シング、居住空間はどうだった?」
「あ、はい……! とっても爽やかな風と力の波動がスゴく心地良かったですし、力いっぱいに走る事が出来そうな草原もありましたので、これからの生活がとても楽しみになりました」
「ふふっ、そっか。喜んでもらえたようで何よりだよ」
とても楽しそうに話すシングの言葉に微笑みながら答えた後、俺は再び義智の方へと視線を向けた。そして、義智は腕を組みながらコクンと頷いてから話を始めた。
「……我の予想に過ぎぬが、柚希が有する『力』は『絆の書』とも連動をしているのやもしれぬな」
「『絆の書』との連動……」
「ああ。『絆の書』をシフルより受け取り、柚希が『絆の書』の主となった時、『絆の書』には柚希の『力』自体が登録されたのだろう。
そして柚希が『絆の書』を使う度、更には『絆の書』に住人達が登録される度に住人達が有する力が『絆の書』を通して柚希の中へと蓄積され、柚希自身が修行などで高めた力と統合される事で柚希が有する『力』が徐々に増えているのだと、我は考えている」
「……つまり、柚希が『絆の書』を用いる度に柚希自身が有する『力』は徐々に強くなるという事か……」
「……あくまでも恐らくだがな。しかし──」
義智はそこで一度言葉を切った後、俺の目を真正面から見つめながら言葉を続けた。
「柚希自身が我との修行や住人達との触れ合いを通じて、力を高めているのは確かだ。よって、現在柚希が有する『力』は柚希自身の努力の結晶であると言っても差し支えないだろう」
「義智……」
俺の中の力は俺の努力の結晶。その義智の言葉は俺の心にとても強く響いた。
こんな事を言うなんて義智にしては珍しいと思うけど、こうして自分自身の事を認めてもらえるのってやっぱり嬉しいもんだな……。
義智の言葉に少しだけ感動を覚えた後、俺はニコッと笑いながら義智に話し掛けた。
「義智、ありがとうな」
「……ふん、礼を言われる事などしてはおらん。風之真達を始めとした『絆の書』の住人達は、お前の言葉や行動、そして『絆の書』の住人達に救われ、それによって仲間入りを果たした者ばかりだ。
つまり、元を辿るならば、全てはお前自身の力といっても過言ではないのだからな」
義智が鼻を鳴らしながら言うと、それに続いて風之真達が次々と声を上げ始めた。
「へへっ、確かに義智の旦那の言う通りだ。あの時、柚希の旦那が俺に気付いてあんな風に話を聞いてくれたから、今の俺があるわけだしな!」
「ふふっ、私もそうですね。あの時に柚希さんと出会えずにいたら、私は今のように笑って過ごせていたか分かりませんから♪」
「……儂らも同じじゃな、アンよ」
「はい。柚希お兄さんのあの言葉は、今でも私達の心に残っていますから……♪」
「僕もいつも柚希兄ちゃんの雰囲気には癒されてるし、このオルトっていう名前ももちろん大好きだよ!」
「私も柚希にはスゴく救われたかなー……凍り付きそうになってた心を温かい言葉で静かに融かしてくれたのは、本当にありがたかったからね」
「……ならば、私は柚希達が醸し出す雰囲気に救われたといったところか。柚希達との出会いにより、私は人間と妖の関係の可能性に気付かされたのだからな」
「それならボクもそうだね。柚希達との毎日は楽しいし、柚希達と一緒だと色々な事を学べるからね」
「……私も柚希お兄ちゃんのおかげで、だいぶ人見知りはしなくなってきましたし、今の柚希お兄ちゃんや皆さんとの生活はとっても楽しいと思っています……♪」
「僕も柚希さんや風之真お兄さんのおかげで、自分の目標を見つける事が出来ましたし、生活を楽しみながら様々な事を学ばせてもらっていますからね」
「……ふふっ、私も皆さんと同じですね。柚希さんや皆さんの優しさは、いつも私の支えになってくれていますし、それによって穏やかな毎日を過ごす事が出来ていますから」
「……我は、柚希との出会いが無ければ、今でもただ人間を怨むだけの存在であった。あの夏の日の柚希達との邂逅、そしてあの時に我を救おうとしてくれた事は、心より感謝している」
「僕達は個人個人の悩みだけじゃなく、試練の時もスゴくお世話になったもんね」
「うんうん、本当にそうだよね」
「話を聞いて頂いた旨、そして試練においての助力も含め、柚希殿には感謝してもしきれぬほどの恩義があるからな」
「そうよね。それに……もし、柚希との出会いが無かったらと思うと、スゴくゾッとするわ……」
「うん、そうだよね。智虎君達の事もだけど、僕がここで皆と一緒に過ごせるのも、柚希さんの存在があってのことだからね」
「……私は、この中では一番の新参ですが、柚希さんの人となりはしっかりと理解してるつもりです。何せ、柚希さんと雪花の言葉があったからこそ、私は自分の性格を好きになれましたからね」
「皆……」
皆の言葉に俺が感動を覚えていると、義智が静かな声で話し掛けてきた。
「柚希よ、お前はこれまでの言動や人間以外のモノへの思いの力により、こうして様々なモノに慕われている。この意味は分かるな?」
「……ああ、分かるよ。今の自分の力に慢心する事無く、そして皆の期待に応えるために、皆と一緒にこれからも頑張る必要がある。
そういう事だろ?」
「その通りだ。確かにお前の力は強くはなっているが、それにあぐらをかいてしまっては、これまでの努力や此奴らの想いは全て水泡へと帰してしまう」
「だからこそ、これからは一層頑張って、俺の中の『力』や知識などを更に増やしていかないといけない。……だよな?」
俺がフッと笑いながら言うと、義智は少しだけ安心したような表情を浮かべた。
「……分かっているのならば、我から言う事は無い。柚希、人と人ならざるモノの間に立ち、その絆を結ぶ者として、これからも鍛錬を怠るなよ?」
「……もちろんだよ、義智」
俺はニッと笑いながら義智の言葉に答えた。これからも様々なモノ達と俺は遭遇するはずだ。そのモノ達は必ずしも人間とに対して好意を持っているわけじゃないし、場合によっては蒼牙の時のように戦わないといけない時だってあるだろう。でも──。
俺は天斗伯父さんと『絆の書』の住人達を静かに見回した後、夕士と長谷の顔を思い浮かべた。
皆と一緒に頑張っていけば、絶対にどんな事だって乗り越えられる。何となくだけど、そんな気がする。
そんな確信にも似た予感を覚えつつ、皆がいてくれるというその事に、俺は心が温まっていく様な気がした。
政実「第17話、いかがでしたでしょうか」
柚希「何というか、前回の試練回と同じような雰囲気で終わったな」
政実「うん、前回の時点で柚希が『ヒーリング・クリスタル』無しで輝麒を登録出来てた事について触れてなかったからね。それに柚希に対しての『絆の書』の住人達の気持ちみたいなのも書きたかったから」
柚希「なるほどな。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」