シング「どうも、ユニコーンのシングです」
政実「という事で、今回はシングのAFTER STORYです」
シング「私のAFTER STORY……どんな内容になっているのか楽しみです。さてと、それではそろそろ始めましょうか」
政実「うん」
政実・シング「それでは、SEVENTEENTH AFTER STORYをどうぞ」
「……はあ、本当にどうすれば良いんだろう……」
雪がしんしんと降り積もり、日が沈みきった事で外が寒気で包まれているある日の夜、私は外で雪が降る様子を見ながらため息をついた。私の吐いたため息は窓を白く曇らせたが、それ以上に曇っているのは窓に映る私の表情だった。
「……この遠野家にお世話になりながら、一族の皆とはまったく違うこの性格を好きになり、どうにか良い方へ頑張ろうとし始めたけれど、性格の活かし方が思い付かないのは参ったな。雪花が色々言ってくれた以外にも何か良い方法を考えておきたいんだけど、本当にどうしたら良いかな……」
ため息をつき、窓が再び白く曇るのを見ながら私はここにお世話になる事になった経緯を想起した。少し前、私は一族の長である父さんに呼ばれて、神である天斗さんを訪ねるために天上へ来ていた。父さんは私が他のユニコーンとは違う特異個体である点を考えて、成長のための旅に出すべきだとしており、その相談のために天斗さんに意見を仰ごうとしていたのだ。
旅に出る事自体は私も反対しない。私は一般的なユニコーンと違って性質も大人しく多少気弱で、清らかな女性以外でも
天上に着き、父さんが訪問の理由と考えを話すと、天斗さんは自身が転生させた人間であり実の甥でもある柚希さんや柚希さんと絆を結んだモノ達が共に住む遠野家で様々なモノとふれ合いながら成長していくのはどうかと提案してくれた。
天斗さんが言うには、柚希さんは私達のような人ならざるモノ達について深い知識と強い関心を持ち、これまでも神の玄孫や私のような一族の長の末子を預かっている上に人間に憎しみを抱いていたモノと心を通じ合わせたり神獣達と共に試練を乗り越えたという実績があるらしく、叔父の贔屓目を抜きにしても柚希さんなら問題ないと考えているようだった。
それを聞き、旅を考えていた父さんも天斗さんの考えに乗る事を決め、私は天斗さんと共に遠野家を訪れた後、柚希さんや柚希さん達と共に住む様々な方達との昼食会を兼ねた顔合わせをした。
その際、柚希さんは初めて会う私に対してもしっかりと接してくれ、私と同じように同じ種族の仲間とは違った性質を持っている雪女の雪花は私が変えないといけないと思っていた性質が考え方一つで良い物へ変わるのだという事を教えてくれた。
この雪花の言葉は私にとってとても衝撃であったと同時にこれからの指針を示してくれる物になり、そんな人達の中ならば私も安心して成長のために頑張れると感じて正式に柚希さん達のお世話になる事を決め、柚希さんが持つ魔導書である『絆の書』に名を連ねる事になった。
その後、私は柚希さんや雪花だけじゃなく、他の皆さんとも接しながら自分の性質や性格を活かす手段を考えていたが、まったくそれらしい考えが浮かばず、気落ちしていたのだった。
……はあ、こうしてお世話になる事を決めたからには父さんや他の皆にも恥ずかしくないユニコーンになりたいと思っているけれど、一体どうしたら良いものかな……。
良案が浮かばない事も辛かったが、それすらも出来ない自分にも私は失望しており、このままではいけないという思いが奥底から私の事を強く責めていた。
考える事は苦手ではないし、私自身もこの性質を活かせるならばそれに越した事はないと考えているが、方法が浮かばないとなると、どうにもならない。それがわかっているからこそ辛く、自分の無力さを嘆いて責めているのだ。
「……この雪のように良案もどんどん浮かんで積み重なる程なら良いんだけどな」
そんな事を独り言ちていた時、私はふとある事を思い付き、リビングの入り口へと向かった。すると、その私の行動に気づいたのかソファーに座りながらオルトロスのオルト君や白虎の智虎君を撫でていた柚希さんの声が背後から聞こえた。
「シング、どうかしたのか?」
「……いえ、考えすぎている頭を冷やすために少し外を歩いてこようかと思いまして」
「今からか……もうだいぶ暗くて冷えるし、よかったら俺もついていこうか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私に付き合わせて柚希さんに風邪をひかせてもよくありませんから大丈夫です。それに、すぐに帰ってくる予定ですから」
「……わかった。でも、あまり遠くには行かないようにな。力を使って姿は隠せるけど、雪道で歩きづらい上に滑る事もあるし、車だって走ってるからさ」
「わかりました。それでは、行ってきます」
柚希さん達の心配そうな視線を背に受けながら私はリビングを出た後、前足を使って玄関のドアを開けて外へと出た。時間のせいか外は思っていたよりも冷えており、やはり柚希さんを付き合わせなくて正解だったなと感じた。
「……さて、それじゃあ歩くか」
呟くように独り言ちてから私はゆっくり歩き始めた。降り積もった雪は踏む度にサクサクという音を立て、私の蹄の跡をしっかりと残していたが、止まずに降り続ける雪がその上から少しずつ載っていき、その様子に私は程なく足跡も白く染まって消えるだろうという予感を覚えた。
ユニコーンである私がいるところを他の人間に見られるわけにはいかないため、私は遠野家にお世話になり始めた頃に会得した力を使って姿を隠す手段を取っているが、この純白の身体ならばその方法を用いなくても雪に隠れて見えないのではないかと思ったが、私はすぐに頭を振ってその考えを彼方へと追いやった。
「……ダメだ、そんな事をして誰かに見つかり、柚希さん達に迷惑をかけるわけにはいかない。とりあえず歩くだけ歩いて気持ちを切り替えてさっさと帰ろう」
自分に言い聞かせるように呟いた後、私は雪が降る中を一人で歩き続けた。時折、車が通る音や風が吹く音が聞こえる以外はとても静かで、人の姿すら見かけなかった事から、突然この世が私一人だけにでもなってしまったのではないかという錯覚すら覚え、私は寂しさと心細さを感じながら白い息を吐いた。
「……もし、もしも本当に私しかいなくなったら、その時は私は一人でもうまくやっていけるのか? 今は柚希さんや天斗さん、『絆の書』の皆さんのおかげで楽しい毎日を過ごせているし、雪花の言葉が私の支えとなってくれている。
けれど、本当にそのままで良いのか? この性格を活かす手段について悩みだけじゃなく、他にも考えないといけない事があるんじゃないのか……?」
気分を変えるための外出だったが、新しい不安と疑問が私の中に生まれ、それは降り続ける雪のように徐々に私の事を蝕み、次第に私の身体を覆いつくしていくようにして私の気分を沈ませていった。
けれど、このまま帰っては柚希さん達を更に心配させるような気がし、私は遠野家から更に離れていき、あてもなくただひたすらに歩き続けた。
そして数分後、気づくと私は公園の入り口の前にいた。その公園はいつも柚希さんがお友達と遊んだり時には風之真さんやオルト君を連れてきたりしているところであり、偶然にも雪花と柚希さん達が出会った場所でもあった。
「……ここまで来るつもりはなかったけど、せっかくだから中に入ってみるか。そして一通り歩いたら、流石に帰ろう。これ以上は本当に柚希さん達を心配させてしまうから」
独り言ちながら頷いた後、私は公園内へと入った。時間の事もあってか公園内も静まり返っており、私は静寂の中を歩き続け、ベンチなどが置かれた広場に着いた。
「……ふぅ、なんだかだいぶ歩いたような気がするな。ここら辺で一度休憩でもしたいところだけど、この寒さで休憩なんてしていたら風邪をひいてしまうし、休憩なんて考えずにさっさといこ──」
その時、背後から雪を踏みしめるサクサクという音が聞こえ、私は身体をビクリと震わせる。その音は誰もいないと思っていた私を不安にさせて姿を隠すために纏っていた力を剥がすには十分であり、足音が近づいてくる事を知りながらも私は一歩も動けずにいた。
「ど、どうしよう……このままだと見つかってしまう。見つかってしまったら、私は……私は……!」
不安と恐怖、それが私を支配する物であり、その支配からはまったく抜け出せずにいた。その間も足音はゆっくりと近づき、不安と恐怖に耐えきれなくなって私が目を閉じると、その足音はすぐそばで止まり、身を縮こまらせながらもうダメだと考えていたその時、私の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「……え? う、馬……?」
聞こえてきたのは柚希さんとは違う男の子の澄んだ声であり、その声からとても困惑しているのははっきりと感じ取れたが、不安と恐怖でいっぱいになっていた私はその顔を見ようという気にはなれなかった。
「う、うぅ……」
「……いや、よく見たら渦のような模様の角があるし、コイツはユニコーンって奴か。おい、俺の言葉はわかるか?」
「う……わ、わかります……」
「……そうか、それならよかった。けど、妙だな。聞いた話だと、ユニコーンはとても獰猛で、清らかな乙女じゃないと宥められないって“遠野”から聞いたんだが……」
「……え?」
男の子の口から出た言葉に思わず驚き、声がした方へ顔を向けると、そこにいたのは柚希さんの幼馴染みで親友だという長谷さんであり、高級そうなダウンを着た長谷さんの頬は寒さで軽く赤くなっていた。
ど、どうして長谷さんがここに……?
柚希さんの同行を断ったくらい外は寒いはずなのに同い年である長谷さんが一人でいる事が私には不思議でしかたなく、長谷さんの顔を見ながら驚いていると、長谷さんは少し私の顔を眺めてからニッと笑った。
「ようやく顔を見せてくれたな、ユニコーン。ただ、その角で貫こうとしたり足で蹴ろうとはしないでくれよ?」
「……しませんし出来ませんよ。正直、今は不安と恐怖でそれどころじゃなかったので」
「不安と恐怖……やっぱりお前は遠野から聞いたようなユニコーンの特徴とは少し違うようだな。獰猛さもなくて、男である俺でもここまで近づけて話だって出来てるわけだし……」
「……私は他の個体とは違う特異個体なんです。だからか他のユニコーンよりも弱気で誰が近づいてきても角や足で傷つけようとは思えません」
「なるほど、そういうのもいるのか。まあ、人間にも色々な性格の奴がいるし、ユニコーンにも他とは違う奴がいても不思議じゃないのかもな。それで、お前はどうしてここにいるんだ? 俺が言えた事じゃないが、ここにいたら寒さで身体が冷えきって風邪をひくかもしれないぞ?」
「……はい、それはわかってます。けど、今はちょっと……」
「……なんだか事情がありそうだな。せっかくだ、少しそこで話していかないか?」
自動販売機の横に置かれたベンチを指し示しながら言った長谷さんの提案に私は驚いた。柚希さん程ではないにしても長谷さんが私達のような存在に関心を持っているのは知っていたし、柚希さんの話からとても優しい方なのもわかっていた。
けれど、この寒さの中でベンチに座って話を聞くとなると、流石に身体も冷えきってしまうだろうし、最悪本当に風邪をひいてしまう恐れがある。それなのに長谷さんをこの場に留めておくのは間違いだと感じ、私は静かに首を横に振った。
「……大丈夫です。このまま貴方をこの寒さの中にいさせるわけにはいきませんから」
「たしかに今夜はだいぶ寒いし、下手したら風邪をひくと思う」
「そうですよね。だから、私なんて放っておいて早くお帰りになった方が……」
「けど、俺はまだ帰らないぞ。お前の悩みを放置して帰るなんて出来ないからな」
そう言う長谷さんの顔は頼もしさを感じる程の笑顔であり、次第に私は長谷さんになら話しても良いんじゃないかと思うようになっていた。
……本当に不思議だ。転生前の年齢も含めたら確実に成人している柚希さんとは違って、同じ子供なのにここまで落ち着いていて、誰かを安心させられるような雰囲気を出せるなんて本当に不思議な人だ。私もこんな風になれたらいいのに……。
「……わかりました。それじゃあ話を聞いてもらいますが、本当に無理だけはしないでくださいね?」
「ああ、わかってる。それじゃあ行こうぜ、ユニコーン」
「はい」
頷きながら答えた後、私達はベンチへと向かった。長谷さんはベンチに座る前に隣にある自販機で何かを買うと、一つを一度ポケットにしまってからもう一本を開け、それを静かに飲み始めた。
「ん……はぁ、やっぱり寒い中で飲むホットコーヒーは格別だな。ユニコーン、お前も何か飲むか?」
「あ……いえ、大丈夫です。そもそも私では缶の物は注いでもらわないと飲めないので」
「それもそうか……何か良い方法でもあれば良いんだけどな」
「あの……どうして長谷さんはこんな時間にここにいたんですか?」
「それは……って、どうして俺の名前を?」
「あ……」
そうだ、私と長谷さんは初対面なのに名前を知ってるのは明らかにおかしい。それに、ここで柚希さんの名前を出すのも絶対にマズイ。ど、どうしたら……。
失敗に慌てて私があたふたする姿をジッと見つめた後、長谷さんは突然クスリと笑った。
「……なんとなくだけど、それは遠野が関係してるのか?」
「え……あ、あの……」
「その様子だとそうみたいだな。まあ、どんな経緯でお前と遠野が出会ったかはわからないけど、別に深くは聞かないよ。気にはなるけど、無理やり聞く事でもないからさ」
「長谷さん……長谷さんは本当に優しいんですね」
「そうか? 優しいと見せかけて、何か企んでるかもしれないぞ?」
そう言いながらも長谷さんの表情はいたずらっ子のような感じであり、本心からそう言っているわけではないのは明らかだった。
「……企んでるとしたら私が甘かったと諦めるだけです。けど、長谷さんの雰囲気はそうじゃない。柚希さんと同じように春の陽気のように暖かな雰囲気ですから」
「そうか。さて、ユニコーン……って、そういえばまだ名前を聞いてなかったな」
「そういえばそうでしたね。私はシング、ユニコーンの一族の長の子で、柚希さんとは少し前から交流をしています」
「シング、だな。俺は
「私もです。あの……それで、長谷さんの考え事って何なんですか?」
「俺のか? まあ、簡単に言うなら、どうやってこれからもあいつらと並んで歩くか、だな」
「柚希さん達と並んで歩く……」
長谷さんは頷いてから再びコーヒーを一口飲み、白い息を吐いてから話し始めた。
「両親を亡くしてもへこたれずに頑張る遠野と俺達よりは勉強は得意じゃなくても誰かのために頑張る事に関しては俺達よりも得意な稲葉。そんな二人と一年生の時に出会えたのは本当に幸運だったし、この出会いには感謝してる。
だから、俺はあいつらのために何をしてやれるかって思ったんだ。二人とも努力家だし、俺の本性を知っていてもそれを面白がれる程だから、俺も安心してあいつらには素でいられるし、あいつらよりも良い成績を取れた時には遠慮なく自慢出来るけど、あいつらのために何かをしてやれたかというと別にそういうわけじゃないって思ってな」
「そうだったんですね……」
「まあ、あいつらの事だから、別にそんなのは良いって言うのはわかってるけど、感謝の気持ちは一度しっかりと示しておきたいんだ。あいつらとの出会いがなかったら、素で話せる相手も競い合える相手もいなくて、きっと俺の学校生活はつまらない物になっていた。それくらいあいつらの存在は俺の中で大きい物になってるんだよ」
「長谷さん……」
「シングだったらどうする? いつも世話になってる相手に対してどんな風にその感謝を示す?」
問いかけてくる長谷さんの表情は真剣で、心から柚希さんと夕士さんに対して何かをしたいと思っているのはハッキリしていた。
感謝を示す方法……私も柚希さんや雪花、天斗さんや他の『絆の書』の皆さんに対してとても感謝をしている。だから、私だって皆さんには感謝を示したい。なら、私がやるべき事は……。
「……私ならしっかりとその気持ちを言葉にして伝えると思います」
「言葉にして、か……」
「はい。私はまだまだ未熟ですから、何か贈り物をしたり皆さんの手助けをしたりする事で感謝を示す事は出来ません。私の性格の活かし方すらまったく思い付けない私ではとてもとても……」
「……それがお前の悩みなんだな、シング」
「はい。この性格は考え方一つで良い方へ利用していけるとは言ってもらえたんですが、どうやったら私の性格を活かしていけるかがまったくわからないんです。それに、もしも私以外の人に頼れない事態に陥った時、私は一人でもうまくやれるのかが不安になってしまっていて……」
「…………」
「……やはり、私のような弱いユニコーンではダメですよね。父さんや他の皆のように強ければ何か力になれると思いますが、こんな私ではやはり……」
話している内に気分が沈んでいくのを感じ、私はゆっくりと俯く。視界には降り積もった雪だけが映り、その白さは私の中にあるアイデアが白紙である事を示すかのように見え、私は更に気分が沈んでいくのを感じた。
このままではダメだとわかっていても気分はどんどん沈んでいき、この雪の中へ徐々に埋まっていくような感覚に襲われ、気温だけではなく不安と恐怖で身体が震え始めた。
怖い。私が成長すら出来ず、ずっとこのままでいるかもしれない事が怖い。私の成長を期待して旅に出そうとしてくれた父さんや私を受け入れてくれた上に力を貸してくれている柚希さん達を裏切る事になるのが怖い。
そんな事を考えていたその時だった。
「お前は弱くなんてないぞ、シング」
そんな声が聞こえて顔を上げると、長谷さんは私を見ながら優しく微笑んでいた。
「長谷さん……?」
「そうやって悩めるだけお前は強いよ、シング。世の中には相手の期待を裏切る事を何とも思ってない奴や弱さを認められない奴だっている。そんな奴らに比べたらシングは強いと俺は思ってる。自分の弱さをどうにかしたいと考えて、誰かのために何とかしたいと思うのは簡単じゃないしな」
「そうでしょうか……」
「ああ、少なくとも俺はそう思う。だから、お前はお前自身の強さを大事にしながらお前の親父さんの強さに近づこうとすれば良いんじゃないか?」
「父さんの強さ……ですか?」
「そうだ。お前にとって一番身近なユニコーンは一族の長である親父さんで、お前はその強さを間近で見てきたはずだ。だったら、まずはその強さに近づくために頑張り、その後はまた別の強さを求めれば良い。強さの形には明確な答えなんてないしな」
「…………」
「それと、変に考えすぎないっていうのも重要だな。遠野もそうだが、お前達は少し考えすぎるところがあるようだ。この前だって、いつも通りにやれば良いだけなのに変に考えすぎて悩みの迷宮をさ迷い続けていたしな。アイツ、他人の悩みや不安はすぐに解決出来るのに、自分の事となるとからっきしなんだよな」
長谷さんはどこか呆れたように言っていたけれど、その表情はとても穏やかで嬉しそうな雰囲気だった。
「だから、お前も自分の性格を活かそうとするのは良いけど、変に考えすぎて逆に周囲の奴らに心配をかけないように気をつけろよ。答えなんて思ったよりも単純な事もあるからな」
「思ったよりも単純……」
「ああ。幸せの青い鳥だって、旅先じゃなく自分達のすぐそばにいたんだ。一旦深呼吸して自分を見つめ直してみたらきっとお前の求める答えもすぐそばにあると思うぜ?」
「深呼吸をして自分を見つめ直す……か。たしかにそうですね、考えすぎて悩みの中に埋もれるんじゃなく、一度深呼吸をしてみて自分と対話しながら出来る事を探した方が良いかもしれません」
「そうだな。誰でも近づけるっていう点もお前が誰かのそばにいて話を聞いてやれるっていう事にも役立つし、その角に宿る浄化の力や穏やかな気性も助けになる相手はどこかにいるはずだ。だから、一人で抱え込もうとせずにまずは誰かに遠慮なく相談してみろ。遠野だってきっとそうして欲しいって思ってるさ」
「……はい、そうしてみます。ありがとうございます、長谷さん。悩みを聞いて頂いた上にアドバイスまで……」
「良いんだよ、それくらい。それに、お前のおかげで俺も助かったからさ」
「え……?」
長谷さんの言葉を聞いて私が不思議に思っていると、長谷さんは私の額を指でつんとつついてからニッと笑う。
「何かをしてみたり贈り物をしたりするのも良いけど、変に考えすぎるんじゃなく、正直に自分の気持ちを伝えるべきだって気づかせてくれたからな。面と向かって言うのは中々気恥ずかしい物があるし、あいつらも驚くとは思うけど、この感謝はしっかりと伝えてみるつもりだ。これからもあいつらとは良好な関係でいたいしな」
「……それが良いと思います。たしかに驚くとは思いますけど、柚希さんも夕士さんも絶対に喜んでくれるはずですから」
「ああ、そうだな」
長谷さんが優しく微笑み、それを見た私の心の奥底がぽかぽかとしてきたその時だった。
「おーい、シングー」
突然柚希さんの声が聞こえ、私は安心感を覚えると同時に長谷さんとはここでお別れしないといけない事を残念に思った。
「……そろそろお別れみたいですね」
「だな。お前の様子的に遠野はお前と交流がある事を周りに隠しているみたいだから、俺と一緒にいるのがバレたら良くない。俺もそろそろ帰るよ」
「はい……あの、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。物語の中くらいでしか名前を聞かない奴と出会えて俺もまだまだ世界は広いって実感出来たし、俺としても今日の出会いはとても良い経験になったよ。とりあえずお前と出会った事は遠野には内緒にしておく。でも、絶対にまた会おうな。そしてその時には、お前が成長した姿を見せてもらう事にするよ」
「……はい、もちろんです。きっと立派なユニコーンになってみせます」
「ああ、約束だ」
そう言って長谷さんはポケットにしまっていたもう一本の飲み物を取り出すと、ベンチの上にそっと置いた。
「これは……?」
「今回のお礼みたいなもんだよ。遠野だってここまで来て体が冷えてるだろうし、帰りながら二人で飲んでくれ。きっと遠野なら良いアイデアを思いつくはずだからさ」
「わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあ元気でな、シング」
「はい、長谷さんもお元気で」
長谷さんは微笑みながら頷いた後、そのままゆっくりと歩いていき、それから程なくして柚希さんが姿を見せたが、その隣には雪花が、柚希さんの腕の中には智虎君とオルト君の姿があった。
「柚希さん、雪花……それに智虎君にオルト君まで……」
「ここまで来てたんだな、シング」
「まったく……私やオルトじゃないんだから、頭を冷やすだけじゃなく身体まで冷え冷えになっちゃうよ?」
「うん、ごめん」
「あれ……そこのベンチに何か置かれてますね?」
「うん、缶に入った飲み物みたいだけど……シング、これってどうしたの?」
「ああ、これは私に道を示してくれた方から頂いたんです。私もどうやらお力になれたみたいなのでそのお礼との事でした」
「そっか。その人に会えたらシングが世話になった事についてお礼を言いたいけど、まずは家に帰ろうか。このままだと、本当に冷えきって風邪をひくからな」
柚希さんの言葉に私達が頷いた後、柚希さんがベンチの上の飲み物を拾い上げるのを見ながら私はゆっくりと立ち上がった。そして柚希さん達が歩き出そうとした時、私は一度深呼吸をしてから静かに口を開いた。
「……あの、皆さん」
「ん、どうした?」
「特異個体である私を受け入れて頂き本当にありがとうございます」
「……どうしたの、突然?」
「改めてお礼が言いたくなったんだ。柚希さんや雪花、天斗さんや他の『絆の書』の皆さんにはいつもお世話になってるからさ」
「……なるほどな。でも、お礼を言いたいのは俺達もだぜ?」
「え……?」
「そうですね。シングさんが来てから、僕達の生活はもっと賑やかになりましたし」
「たぶん、シングは自分があまり僕達の力になれてないなんて考えてるかもしれないけど、そんな事はないんだよ。シングの穏やかな雰囲気や誰かを気遣おうとするところは僕達にとってとても大切な物の一つだからね」
「そうそう。だから、こちらこそありがとうシング。そしてこれからもよろしくね」
皆さんの言葉を聞いてようやく雪の中から顔を出せたような気持ちになり、私は目の前に見える優しい光に感謝と安心感を覚えながら頷いた。
「はい、改めてよろしくお願いします。今はまだまだ未熟ですが、皆さんに見つけて頂いた私の強さと父さんの強さの二つを兼ね備えた立派なユニコーンになってみせます」
「ああ、そのためにもこれからも一緒に頑張っていこうな、シング」
「はい!」
嬉しさを感じながら返事をした後、私は柚希さん達と共に歩き始めた。思わぬ出会いによって示された私の道。この道を歩いていった先に何があるのかはまだわからない。けれど、私は不安になったりしない。一緒に歩いてくれる人がいて、その人の力になりたいと思えるから、私はこれからもこの道を歩いていく。それが私のこれからの目標なのだから。
……そして、また長谷さんに会えた時には約束通りに立派なユニコーンになったところを見せるんだ。
長谷さんの顔を思い浮かべながらやる気を高め、私は柚希さん達と話をしながら行きよりも心なしか歩きやすくなった雪道をゆっくりと歩いていった。
政実「SEVENTEENTH AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
シング「鈴音さんや蒼牙さんの時と同じで私は長谷さんと出会いましたね」
政実「そうだね。そして、この先のAFTER STORYでも柚希の人間側の仲間と出会うメンバーは作っていく予定だよ」
シング「わかりました。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
シング「はい」
政実・シング「それでは、また次回」