転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

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政実「どうも、明晰夢を一度は見たい片倉政実です」
琥珀「どうも、獏の琥珀だ」
政実「という事で、今回は琥珀のAFTER STORYです」
琥珀「今回は俺っちだな。にしても、タイトルを見る感じだと、なんだかしんみりしそうな感じがするな」
政実「まあ、そこは読んでみてからのお楽しみという事で」
琥珀「わかった。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・琥珀「それでは、EIGHTEENTH AFTER STORYをどうぞ」


EIGHTEENTH AFTER STORY 夢を旅する獏と過ぎ去った過去

「……さって、今夜も夢の中のパトロールに出るとすっかねぇ」

 

 穏やかな時間が流れる深夜、俺っちはあてがわれた自室で独り言ちた後、簡単にストレッチをした。今からやろうとしてるのは、柚希の兄ちゃん達の世話になってから始めた仲間達の夢の中を巡るパトロール活動だ。

いくら人ならざるモノといっても、悪夢を見ないわけじゃないし、実際に悪夢を見た事でよく眠れずに翌日に眠たそうにしていた奴もいた。そこで俺っちは獏の力を活かして簡単に仲間達の夢の中をパトロールする事に決め、柚希の兄ちゃん達に事前に話した上で毎夜パトロールをしているのだ。

獏という種族上、夢の中を旅するのは好きだし、悪夢を取り除いた事で仲間達から感謝されるのは悪い気はしない。それに、俺っちが仲間になりてぇと思えた程の光輝く絆を結んでる奴らの力になれるのは本当に嬉しい事なのだ。

 

「えーと……この前は風之真の兄ちゃんががしゃどくろに襲われてる夢を片して、その後に兎和の嬢ちゃんが暗闇で一人になってる夢を片したんだったな。

夢ってのは見る奴によって色々変わってくるが、ウチの場合はその夢もバラエティー豊かだから、悪夢を見てねぇ日はだいぶ楽しいパトロールになるし、今夜もそうなる事を願うとするかねぇ。よし……んじゃあ、行くとするか」

 

 パトロールへのやる気を高めた後、俺っちは静かに目を瞑る。目を瞑って集中力を高める事で夢へと入りやすくなり、夢と夢の間を通るのもスムーズになるんだ。

もちろん、そうしなくても夢の中を旅する事は出来て、力も十分に扱えるが、それが俺っちなりのルーティンだから、それは欠かせねぇ。それに、やるからにはしっかりと見回りてぇし、手抜かりも油断もねぇようにしたいんだ。

そして、これだと思えたタイミングで目を開けると、いつものようにどこかの屋敷みてぇなとこの大きな広間に立っていて、周りには色々な模様の扉があった。

 

「さて……今夜も来たな。まずはどの扉から行ったもんかねぇ……いつもならフィーリングで決めるし、今夜もそうしよ──」

 

 その時、背後から妙な気配を感じて俺っちはハッとしながら振り返った。そこには三つ目の牛のような物が描かれた大きな鉄の扉があり、扉からはさっき感じた気配が立ち上っていた。

 

「こいつぁ……義智の兄さんの夢の中に続く扉だな。そういや、義智の兄さんの夢の中はこれまで入った事ねぇや……なんでか義智の兄さんの扉は中々見つけられねぇからなぁ。まあ、これも良い機会だ。今回は義智の兄さんから始めさせてもらうか」

 

 独り言ちてから俺っちは扉を開けて中へと入った。すると、目の前には広大な大地が広がっていた。

 

「……ここが義智の兄さんの夢の中。気持ちの良い程に広いところに出たが……何故か物悲しく思えるな。まあ、その理由を探すのは後にして、まずはこの大地を歩いて義智の兄さんを探してみるかねぇ」

 

 理由探しを後回しにして俺っちは大地を歩き始めた。夢の中はとても広く、花畑や綺麗に澄み渡った川、鬱蒼とした森なんかは見かけても人間や動物なんかの姿はまったく見かけず、俺っちはただひたすらに歩くしかなかった。

 

「なんつーか……やっぱ物悲しい感じがすんだよなぁ。光景自体は綺麗で見ていて気持ちは良いんだが、人間や動物なんかがいないのにこの広さってのがなんだか寂しくてたまらねぇや。義智の兄さんはどうしてこんな夢を見てるんだ? もしや、柚希の兄ちゃんみてぇにこの夢は何か義智の兄さんの過去に関わってんのか……?」

 

 首を軽く傾げた後、俺っちは柚希の兄ちゃん達と出会い、世話になる事にした経緯を想起した。獏として色々な人間や動物の夢を渡り歩き、偶然柚希の兄ちゃん達が住む街を訪れた際に俺っちは柚希の兄ちゃんのダチの悪夢を取り除いた。

その時、その内の一人である夕士の兄ちゃんの夢の中に出てきた柚希の兄ちゃんにおてんとさんのような暖かな雰囲気を感じ、興味を持った事で柚希の兄ちゃんを探し当てたところ、偶然にも仲間達と眠っていたため、その夢の中へと入った。

すると、その夢の中で柚希の兄ちゃんは過去に亡くした両親の記憶と相対しており、夢の中だとしても柚希の兄ちゃんは今度こそ両親を救いたいのだという想いを仲間達に語るその姿に俺っちは心を打たれ、その手助けをした。

その後、現実世界で再び柚希の兄ちゃん達と会った時に柚希の兄ちゃんに対して感じていた事とその光輝く絆を俺っちも結びたい事を告げ、それを受け入れてもらえた事で『絆の書』の一員になった。

 

 ……そういえば、あの時に義智の兄さんは柚希の兄ちゃんに対して過去とはどういう物かを問いかけて、その答えを聞いた後にその想いを貫くように言っていた。もしかしたら義智の兄さんは過去に何かあって、同じような想いを柚希の兄ちゃんにしてほしくないと思ってたんじゃねぇのか?

 

「……その答えはわからねぇが、とりあえずこの夢の中を歩いてれば、いずれは何かわかるはず──」

 

 その時、少し離れたところに誰かがいるのに気づき、俺っちはようやくこの夢についてわかると安堵してそこへ向かった。すると、目の前には意外な光景が広がっていた。

 

「……あれは義智の兄さんと……俺っちの知らねぇ人間?」

 

 普段の人間の姿とは違って白澤(はくたく)そのものの姿をした義智の兄さんと簡素な布の服を着た若い人間の男がそこにはおり、ソイツは目の前に自分とは違うモノがいても怖がっている様子はなく、むしろ嬉しそうにしながら話しかけているようだった。

 

「……こいつぁ、ちっと妙だな。だが、さっきの俺っちの予想通りにこの夢の内容が義智の兄さんの過去に関係するなら別に不思議じゃねぇや。にしても……あの人間、どっか柚希の兄ちゃんに似てる気がするな……?」

 

 その人間をちゃんと見れば柚希の兄ちゃんじゃねぇ事は一目瞭然だが、顔つきや雰囲気、声の感じなんかはどこか柚希の兄ちゃんを思わせ、義智の兄さんも少し鬱陶しそうにしながらも心なしか落ち着いた様子で人間の話を聞いているように見えた。

 その光景に疑問と興味を持った俺っちが、ゆっくりと近づいていくと、少しずつ人間の話の内容が耳に入ってきた。

 

『それで、近い内に出会った記録を書くための本を作りたいんだ』

『……我のような人ならざるモノ達と出会った記録をか?』

『そう! もちろん、それがバカな考えなのもわかってるし、相手によっては危険な目に遭う事も承知してる。でも、そうじゃないモノだっているわけだし、出会えた事をしっかりと記録しておきたいんだよ』

『……馬鹿馬鹿しいな。その記録を書いてどうするのだ?』

『後で見返して楽しむんだよ。どんな姿をしていたか絵に描いて、その隣のページにどんな名前でどんな特徴かを書く。ほら、なんだか楽しそうでしょ?』

『……聞けば聞く程に馬鹿馬鹿しい。柚瑠(ヨウリウ)、何故お前はそこまでして人ならざるモノ達と会いたいのだ?』

 

 義智の兄さんからの問いかけに柚瑠は微笑みながら答える。

 

『だって、その方が面白いし楽しいから。伝承や民話でしか名前を聞かないようなモノ達が現実に存在していて、実際に歩いていたり一緒に話したり出来るんだよ? 絶対に楽しいよ』

『……わからんな』

『ふふ、貴方の場合はそうかもしれないね。でも、僕は白澤である貴方とこうして過ごしてる時間は大好きだよ。貴方が白澤だからっていうのもあるけど、こうしたなんて事ない話の中にも色々な知識があって、それを学ぶ良い機会でもあるからね』

『学ぶだけならば、人間達の中にいても出来るだろう。まあ、お前は人間達の中にいたくないと前に言っていたがな』

『あはは……うん、そうだね。両親を亡くしてからこれまでどうにか頑張ってはきたけど、親無しの僕を見る目はあまりよくないし、親戚の家を転々とするのはもう飽き飽きしてる。だから、大人になれたらその時には自分だけの家を持って、人ならざるモノ達の事を落ち着いて学べる環境を整えたいんだ』

『その時には懸想している相手も家には招くのか? この前も共に出掛けた事を嬉しそうに話していたが』

『あー……うん、出来るならそうしたいかな。彼女、水香(スイシアン)ちゃんも人ならざるモノには多少興味を持ってくれているようだけど、僕と一緒にいたら彼女まで変な目で見られちゃうし、それは中々実現しないかもね』

 

 柚瑠は笑いながら言っていたが、その声や表情からは哀しみが感じられ、義智の兄さんも同じように思ったのか少し心配そうに見てからふぅと息をついた。

 

『それならば、水香を守れる程にお前が強くなり、水香を妻にすれば良い』

『つ、妻って……』

『別に不思議ではないだろう? 気に入った異性と婚姻を交わし、愛情を注ぎあいながら契りを交わして子を成し、その血を残していくのは人間以外にもやっている事だからな』

『そ、そうだけど……べ、別に僕達はそういう関係じゃないし、あの……その……』

『今はそう言っていられるかもしれないが、いずれ水香を好む男が現れ、水香をかっさらって行ってしまうかもしれんぞ? 実際に見た事はないが、お前が言うには水香は内気ではあるが、周囲の人間達からとても好まれる顔立ちをしているようだからな。手の届かぬところに行ってからではどうにもならん』

『う……』

『まあ、お前が初心(うぶ)で女人とそのような関係になった事がないのはわかっているが、その可能性だけは考えておけ。後悔しても遅いのだからな』

 

 義智の兄さんの言葉を聞くと、柚瑠は少し迷ったような表情を浮かべたが、やがて何かを決意したように静かに頷いた。

 

『……そうだね。僕が水香ちゃんの事が好きで夫婦になって一生添い遂げたいのはその通りだし、少し勇気を出してどこかに行ってみたり容姿を褒めたりしながらちょっとずつでも良いから関係を深めていきたい。

水香ちゃん以外の女の子には興味はないし、水香ちゃんが他の人の恋人になるのを考えただけでもモヤッとして心の奥がチクチクと痛むから』

『それが良いだろう。いつも我のところへ来ては人ならざるモノや水香の話をして我の平穏の邪魔をしていくが、他の人間に比べればお前の方が遥かに好ましく思える。柚瑠、焦る事なくしっかりと水香の気持ちを汲んだ上で距離を縮めていくのだぞ?』

『うん、そうだね。ありがとう』

『礼には及ばん。人間の中ではお前が好ましい方であったため助言をしても良いと判断したに過ぎんからな』

 

 義智の兄さんはいつものように落ち着き払った様子で答えており、その様子を見て柚瑠はクスクスと笑っていたが、やがて何かを思いついた様子で両手をポンと打ち鳴らした。

 

『そうだ……ねえ、貴方の事をこれから義智(イーヂィー)って呼んでも良いかな?』

『義智、か……』

『うん、とても義理堅くて多くの智恵を持つ貴方にピッタリだと思うんだ。前に名前はないって聞いてから、どう呼ぼうかと思ってたけど、これ以上の名前は思いつかないしね』

『……お前が呼びたければ勝手に呼ぶと良い。名がない事で困った試しはないが、それを断る理由もないからな』

『うん、ありがとう。義智』

 

 義智の兄さんの返事を聞いて柚瑠は嬉しそうに笑い、その様子を見て義智の兄さんはため息をついていたが、その表情はとても穏やかで柚瑠に対して嫌悪感がないのはハッキリと見て取れた。

だが、そうなると少し不思議な感じがする。柚希の兄ちゃんから聞いた話では、義智の兄さんは天斗の旦那に借りがあって天上での天斗の旦那の手伝いをしていて、義智の兄さんが再び人間達がいる地上に来たのは、柚希の兄ちゃんが転生した際に『絆の書』の最初の仲間として紹介されたからだったはず。

だが、あそこまで柚瑠の事を気に入っていたのなら、柚瑠が死んで天に昇った後もその側にいてもおかしくはなく、天斗の旦那や義智の兄さん本人からもそれらしい話は聞いた事がない。

 

「……まさか、あの柚瑠って……」

 

 俺の頭の中にある考えが浮かんだその時だった。

 

「……ここにいたか、琥珀よ」

「うぇっ……!?」

 

 予想してなかった声に驚きながら後ろを振り返ると、そこにはいつものように人間の姿をした義智の兄さんがいた。

 

「よ、義智の兄さん……」

「夢の中で瞑想をしていてお前の気配を感じて来てみたが、まさかここにいるとはな」

「お、怒らねぇのかぃ……?」

「怒る気はない。お前が夢の中をパトロールしている事で他の者達が助かっているのだからな。それに、いずれはお前も我の夢の中へ来ると考えていた。もっとも、その夢の内容がこれだったとは思わなかったがな……」

 

 そう言いながら義智の兄さんは夢の中の自分と柚瑠が話す姿に視線を向け、どこか哀しそうに息をついた。

 

「……義智の兄さん、あの柚瑠って人間は昔仲良くしていた奴で良いのかぃ?」

「ああ、少なくとも人間の中では大した奴だとは考えていた。我が白澤である事を知っても恐れずに幾度も会いに来たのは奴だけであり、奴の雰囲気は不思議と悪くなかったからな」

「……俺は柚瑠の雰囲気や顔つきが柚希の兄ちゃんにどこか似てると感じた。柚瑠と柚希の兄ちゃんは何か関係があると見て間違いねぇかぃ?」

「……ここまで見た以上、隠しだてはせん。深くは話せないが、柚瑠と柚希は関係があるのは間違いなく、今見ているのは我の過去であるのも間違いない。我がまだただの白澤として地上で生き、シフルとも出会っていない頃だ」

「ほう……天斗の旦那とも出会ってねぇって事は、だいぶ前って事になりそうだ。んで、柚瑠とは今も交流はあるのかぃ?」

 

 その瞬間、仮面越しでもわかるくれぇに義智の兄さんの雰囲気が暗くなり、俺っちは地雷を踏んじまった事を知って酷く後悔した。

 

「う……す、すまねぇ。訊いちゃいけねぇ事だったみてぇだな」

「……いや、構わん。柚瑠とは今は会ってはいない。いや、“もう会えない”と言った方が正しいか」

「会えないって……柚瑠は死んだ後に天上には来なかったのかぃ?」

「来ていないわけではない。だが、諸事情で奴は魂を二つに分ける事になり、その内の一つはシフルの手によって転生したが、もう一つは今も魂のままで天上にある。よって、会って話す事ももう出来んのだ。会ったところであの頃の記憶は失っているだろうからな」

「そうか……けど、義智の兄さんはまた柚瑠に会いてぇんじゃねぇのかぃ?」

「……そうだな。だが、それは叶わぬ夢だとわかっている。奴はもう既に我の知る柚瑠ではないのだからな」

「義智の兄さん……」

 

 俯く義智の兄さんの姿はとても哀しく見え、普段はあまり感情を表に出さない義智の兄さんがさっきのような反応を示す辺り、柚瑠の存在はとても大きかったんだと感じた。

いつもの義智の兄さんの冷たさを感じる程に落ち着き払って、柚希の兄ちゃんや智虎達に修行をつけながらも風之真の兄ちゃん達ともうまく接する姿とは違う種族の違うダチの事を悲しむその姿はどこか小さく見えていた。

 

 ……なんだか、あの柚瑠って人間が羨ましいよな。柚希の兄ちゃんとも義智の兄さんは光輝く固い絆を結んでいるが、柚瑠との絆はとても細くてもしっかりとした虹色の糸のような綺麗な絆に見える。そんな絆を義智の兄さんとの間に結べた柚瑠はそれだけ義智の兄さんにとって大切な存在だったんだろう。

 

 そんな事を考えていた時、義智の兄さんは夢の中の自分と柚瑠から視線をそらし、ゆっくりと歩き始めた。

 

「義智の兄さん、どこへ行くんだぃ?」

「……瞑想に戻る。琥珀、お前もこの夢の中だけでなく、他の奴らの元にも行ってやれ。このままここにいても得られる物はないぞ」

「得られる物……いいや、あったね」

「……ほう?」

 

 義智の兄さんが立ち止まり、俺っちに視線を向ける中、俺っちはニッと笑った。

 

「柚希の兄ちゃんすら知らねぇ義智の兄さんの事を知れたからな。まあ、この件は柚希の兄ちゃんには言えねぇから黙ってるが、これで義智の兄さんもいつか柚希の兄ちゃんに話さねぇといけなくなった時に一緒に話をしてくれる仲間が出来た。ほら、俺っちも義智の兄さんも得られる物があっただろ?」

「……ふっ、そう言っても良いのかもしれんな。あの頃の我であればくだらんと一蹴していただろうが、柚希や他の者達と共に暮らす中で我もずいぶん丸くなったようだ」

「性格は丸くなっても体型は丸くなんなよ?」

「心配はいらん。ではな、琥珀」

「ああ──と言いてぇところだが、一つだけ確かめてぇ事がある。訊いても良いかぃ、義智の兄さん?」

「……答えられる事ならな」

 

 その返事を聞いた後、俺っちはさっき浮かんだ考えを義智の兄さんに話した。それを聞いた義智の兄さんは少し驚いたようだったが、すぐにいつものような落ち着いた義智の兄さんに戻って頷いた。

 

「ああ、お前の予想した通りだ。もっとも、この件は柚希だけではなく、他の者にも話せんがな」

「だよなぁ……だが、いつかは話さねぇといけねぇだろ? いつ話すかは決めてんのかぃ?」

「……一応はな。だが、その時までに柚希の成長が我の考えている段階まで来ていなければそれも延期だ。それもシフルと決めていた事だからな」

「……そうか。なら、俺っちもそれまでは黙ってるさ。だが、一応天斗の旦那には知った事を話しておく。その時は義智の兄さんにも同席してもらうが良いかぃ?」

「……構わん。では、そろそろ行くぞ」

「おう、また現実でな」

「ああ」

 

 義智の兄さんが静かに答え、そのまま歩き去っていった後、俺っちは再び二人に視線を向けた。視線の先では夢の中の義智の兄さんと柚瑠が話をしており、楽しそうに話す柚瑠に対して義智の兄さんは素っ気ない返事をしていたが、その表情は嫌がってる様子ではなかった。

 

「……なんだか切ねぇなぁ。義智の兄さんの気持ちを考えるとやるせねぇし、俺っちにも何か出来たら良いんだけどなぁ……」

 

 そうは言ったものの、俺っちに出来る事はない。悪夢だったら、俺っちが食べてどうにか出来るが、この夢は決して悪夢なんかではない。柚希の兄ちゃんの時と同じで、もう二度と帰ってこない過去を再現した夢であり、義智の兄さんの哀しみの象徴のような物なんだ。

 

 ……柚希の兄ちゃんは夢の中に残りたい気持ちを堪えて前に進み、義智の兄さんは過去に囚われながらも柚希の兄ちゃんのために支え続ける道を選んだ。ウチのメンバー達にもそれぞれ心に残り続ける過去はあるだろうが、自分を責め続ける程の後悔を夢の中でもしていたのは二人だけだ。

哀しいがそれもまた一つの絆。いつもの光輝く固い絆とは違った涙の雫のような透き通った絆なんだ。

 

「……ほんとに綺麗だが哀しい絆だな。さて、俺っちもそろそろ行くかね。このまま哀しむよりも今は仲間達のために夢の中をパトロールする方が大事だからな」

 

 そう独り言ちてから俺っちは再び意識を集中させ、扉が並ぶ広間に到着した。しかし、そこにはもう義智の兄さんの夢に繋がる扉はなかった。

 

「……完全に閉じきったな。まあ、また見つけたらその時には少しお邪魔させてもらうかね。今回は少し哀しい話になっちまったが、次はもしかしたら違う夢を見てるかもしれねぇしな」

 

 夢の中で義智の兄さんと話す姿を想像して微笑んだ後、俺っちは次に行く夢を選び始め、決め終えた後にその扉を開け始めた。

 正直、まださっきの出来事が頭の中に残っていて、パトロールに集中出来ない程だ。けど、それじゃあやっぱいけねぇ。当事者の義智の兄さんが頑張ってんのに、俺っちがこんなんじゃ話してくれた義智の兄さんに顔向けが出来ねぇからな。

 

「うっし……それじゃあ次の夢の中に行くか」

 

 扉の先に広がる光景を見ながら独り言ちた後、俺は夢の中へ向けてゆっくりと歩き始めた。




政実「EIGHTEENTH AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
琥珀「今回は義智の兄さんの過去に触れた回だったが、まだ少し謎が残った感じで終わったな」
政実「そうだね。まあ、それに関してはもう少し後になったらしっかりと書く事にはなるかな」
琥珀「なるほどな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価なんかも待ってるから、書いてくれたら嬉しいぜ。よろしく頼むな」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
琥珀「おうよ」
政実・琥珀「それでは、また次回」
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