転生者の幽雅な日常   作:九戸政景

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政実「どうも、人魚の歌が聞いてみたい片倉政実です」
フィア「どうも、人魚のフィアです」
政実「という事で、今回はフィアのAFTER STORYです」
フィア「私のAFTER STORYかぁ。どんなお話なのか楽しみだなぁ」
政実「まあ、それは読んでからのお楽しみという事で」
フィア「はーい。さて、それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・フィア「それでは、NINETEENTH AFTER STORYをどうぞ」


NINETEENTH AFTER STORY 人魚姫と白竜

 ある日の午後、私は澄みきった海の中を泳いでいた。『絆の書』の居住空間にある海は視界がとてもはっきりとしている上に様々な魚の姿も見え、陸上と同じように色々な力の波動が混ざりあっていてとても心地よく、何時間でも泳いでいられるような気すらしていた。

もちろん、故郷の海の方が馴染み深いし、さっと泳いだ後に帰ってきて、泳いだ時の事をお祖母ちゃん達にも話せるから楽しい。でも、この居住空間の海はまた違った安心感を与えてくれるし、海底にある豪華な宮殿──柚希君が竜宮城と命名した──もあって、探検している気分にもなれてとても楽しく泳げていた。

 

「……ふふっ、変化の魔法で人間の姿になってみるのも良いけど、こうして人魚の姿で泳ぐのはやっぱり格別だなぁ。この事に気づけたのも柚希君達と出会えたおかげだし、あの日に少し気になって様子を見に行ったのは正解だったかも」

 

 クスリと笑いながら独り言ちた後、私は柚希君達と出会ったあの日の事を想起した。その日、私は一人で海を泳いでいた。理由は簡単、お祖母ちゃんが若い頃に見たという人間に興味を持ったから。

お祖母ちゃんが若かった頃、色々な物を見てみたいと感じた事で世界中を旅していた時に柚希君達が住んでいる日本にも訪れていて、そこで起きていた流行り病をその土地で偶然出会った人間の女の人と一緒に治して回り、仲を深めたのだという。

その話を聞いた人間や日本という国に興味を持ち、行ってみたいと思うようになった。けど、周りのみんなは人間は私達を捕まえて見世物にするような奴らで人間達に近づくのは危険だと言っていて、その反応から誰にもついてきてもらえないだろうなと思った私は一人で出発し、その先で臨海学校中だった柚希君達と出会った。

柚希君は出会って間もない私の話や悩みを聞いてくれて、自分の方の臨海学校のスケジュールなどを考えながら私の望みも叶えようとしてくれた時、柚希君の仲間の内の一人の白竜のヴァイスさんがある提案をしてくれた事で、私達はそれに乗る事にした。

その翌日、変化の魔法で人間の姿に変えてもらった私は同じように人間の姿になったヴァイスさんに付き合ってもらいながら人間達の姿を見て回った。

柚希君やその友達のような良い人ばかりじゃなく、人間にも色々な人がいると知った私は柚希君を転生させた神様であり伯父さんでもある天斗さんと合流し、二人についてきてもらいながら家族の元に帰った後、私はそれまでに見たり感じたりした事をお父さん達に話し、何も知らない世間知らずの人魚姫じゃなく、もっと人間達や世界の事を知りたいと伝え、それを許してもらえた事で柚希君達にも報告し、私は柚希君達の仲間の一員になった。

その後、私は柚希君や天斗さん、『絆の書』のみんなとの生活の中でこれまで知らなかった様々な事を学び、時には女の子達と一緒にファッションを楽しんだり白澤の義智さんや犬神の蒼牙さんから授業を受けたり、他にも一緒にお昼寝したりご飯を食べたり、と充実した生活を送らせてもらっている。

 

「……ほんと、私って幸せ者だなぁ。でも、それには甘えずに私も人魚として成長して、みんなをあっと言わせられるようにならなきゃ」

 

 拳を軽く握りながら決意を固めた後、私は数分程度泳ぎ回ってから、海上に顔を出した。すると、白竜の姿のヴァイスさんが浜辺で日向ぼっこをしているのが見え、私はゆっくりと近づいてからヴァイスさんに話しかけた。

 

「ヴァイスさん」

「……おや、フィアさん。お疲れ様です」

「お疲れ様です。今日はこっちで日向ぼっこですか?」

「ええ、そうです。あちらで皆さんと日向ぼっこするのも良いですが、こうして居住空間でのんびりするのもまた違った良さがありますから」

「そうですね。みんなと一緒にあっちで過ごすのも楽しいですけど、この居住空間は過ごしやすくて色々な自然にも触れられるので私もここにいるのは大好きです」

「ふふ……皆さん、そう言っていますよ。この居住空間は天斗さんがどのような方が来ても落ち着けるように工夫して創ったようですから。おかげで私も幼い頃のようにのびのびと飛び回ったり様々な発見をして楽しんだりさせてもらっています」

「幼い頃のように……」

 

 その言葉を聞いた時、私はある事を思い出した。

 

「そういえば、ヴァイスさんは小さい頃は少しやんちゃだったって話してましたよね?」

「そうですね。せっかくなので、少しその時の事についてお話ししましょうか」

「あ、是非聞きたいです。今のヴァイスさんからはあまり想像がつかないので気になってましたから」

「わかりました」

 

 ヴァイスさんが頷きながら答え、私が浜辺に上がって座った後、ヴァイスさんは静かに話を始めた。

 

「柚希さんから聞いているかもしれませんが、私は物心がつく前に両親を亡くしており、保護をして頂いた天斗さんの元で育ちました。その頃は天斗さんも人間の姿の年齢的にはまだ学生でしたから、学校に通いながらタイミングを見計らって私の様子を見に来てもらっていました。

ただ、その頃の私はまだまだ幼く落ち着きも無かったので、天斗さんがいない間に色々な所へ行こうとしたり与えられていた部屋を散らかしたりしていて、それを見る度に天斗さんは困ったような笑みを浮かべていました」

「なんというか……柚希君から聞いた来たばかりの頃のオルト君みたいだったんですね」

「そのようです。天斗さんから両親が亡くなっている事は聞いてましたし、血の繋がりこそなくとも天斗さんからは愛情を注いで頂いたのは間違いないですが、それでも実の両親がいないという事実を私は受け入れる事が出来ておらず、まだどこかで生きているのではないかと思っていたのかもしれません。飛び回ったり探したりすれば見つかると信じて」

「ヴァイスさん……」

「天斗さんも私の様子からそう感じていたようで、両親はもういないのだと言い聞かせようとしたり私の行動を叱りつけたりする事はせず、後で自分が片付ける事を覚悟して私の思うようにさせてくれていたようです。

そんなある日、私は天斗さんが意地悪で両親の居場所を黙っているのだと思い、天斗さんがいないタイミングを見計らって外へ飛び出し、思い付く限り色々な場所をまだあまり強くない翼で飛び始めました。

天斗さんから後で聞いた話だと、その頃には両親ももう転生を果たしていたようなのでいくら探しても見つかるはずがないのですが、天斗さんに対して反抗してやろうと考えていた私はその可能性すら考えずに天上や下界のあらゆる場所を飛び、両親がいないかと探し続けました。

もちろん、両親はもういないので当然見つからず、私が疲労感と空腹で飛べなくなって悲しみに暮れていたその時、突然雨が降り始めまして、たまらず近くにあった洞窟へと入りました」

「そんな時の雨……疲れてるのに更に寒さまでなんてすごく辛そうですね」

 

 その時の気持ちを思い出したのかヴァイスさんは辛そうな表情で頷く。

 

「はい……時間もだいぶ遅くなっていましたし、辺りも暗くなっていた時ですから、当然のように洞窟内も薄暗く、心細さから涙も流れだして、いもしない両親に心の中で助けを求めていました。そうして泣きながら助けを求め、涙も枯れ果てようとしていたその時でした、傘を差した天斗さんが姿を見せたのは」

「よかった……でも、どうして天斗さんはヴァイスさんの居場所を見つけられたんですか?」

「私がいなくなった事を知った時、天斗さんは授業を終えて帰る前に様子を見に来たタイミングだったようですが、ご自身の家に帰るよりも私を探す事を優先し、私を見ていないか色々な方に聞いて回ったようです。

その日の私は誰かに姿を見られる事について特に気にはしておらず、目撃情報は多かった事からそれを辿りながら私がいそうな場所を考えて探し、その洞窟から私が泣く声が聞こえてようやく見つけたと言っていました」

「そうだったんですね……」

「天斗さんの姿を見た瞬間、私は安心すると同時に勝手に出歩いた事などを怒られると思ってびくびくしていましたが、天斗さんは怒るどころか心配そうに見ながら私の体調を気にして下さり、特に怪我や具合の悪さはないと答えると、安心したように微笑んでから私を抱き上げて家まで連れていってくれました。

帰宅後もすぐにはご家族の元には帰らずに私が暖まるように取り計らってくれたり食事の用意をしてくれましたが、まだビクついていた私は天斗さんが怒らないのはきっとそれ以上に呆れていて怒る気にすらならないからだと思い込んでいて、天斗さんに対して私は謝る事すら出来ませんでした。

そして身体も適度に暖まり、天斗さんが食事を並べてくれた時にようやく私は天斗さんに謝る事が出来たのですが、天斗さんはそれでも怒りはせずに私の謝罪を受け入れ、やはり怒られないのだと私が落ち込んでいると、天斗さんはやれやれといった様子で息をついてから私を優しく抱き締めてくれました」

 

 そう話すヴァイスさんの表情はとても安らいでいて、その時のヴァイスさんが天斗さんから抱き締められて本当に安心していたんだと感じた。

 

「それで、その後はどうなったんですか?」

「抱き締められている時に天斗さんから発せられる穏やかな波動に心の底から安心していると、怒るのは簡単だけれど、今は私が無事でいてくれた事が何よりも嬉しくて安心しているのだと言い、その言葉から天斗さんが本当に私の事を実子のように感じてくれていると知って、私は泣きながら何度も謝り、それと同時に両親が亡くなっているという事実を受け止める覚悟を決めました。もっとも、天斗さんが一度お家へ帰って向こうでやる事を全て終わらせた後にちゃんと叱られはしたんですけどね」

「あはは、やっぱり叱られたんですね」

「ええ、もちろん。ただ、その時から私は少しずつ今の私に近づいていき、天上でお仕事をさせて頂けるようになった頃にはすっかり今のような話し方や考え方になりました。私には育ての親である天斗さんのようになりたいという目標がありましたしね」

「そっか……それで今のヴァイスさんになったんだ」

「はい。だからこそ私は同じように実の両親を亡くしても負けずに頑張ろうとする柚希さんを応援したいんです。柚希さんは転生者という事もあって、あの頃の私よりは精神面は成熟なさってますから、周囲に心配をかけないように心がけていますが、それでも辛い物は辛いですからね」

「……そうですね。私は天斗さんとヴァイスさんに付き添ってもらいながらみんなのところへ帰った時、お母さん達から無事だった事を喜ばれてお父さんからは叱られながらも私が家出をしてた時の事をちゃんと聞いてもらえたけど、柚希君の場合はそれすら出来ないですもんね」

「その通りです。誰かに叱られたり注意を受けたりする事はあまりいい気分では無いですし、その事について不満を感じる事もあります。ですが、そうしてもらえるのは、私達がその方達からしっかりと“見てもらえている”という証拠でもあるんです。そうでなければ、わざわざ叱ったり注意をしたりなんてしませんよ」

 

 微笑みながら言うヴァイスさんのその言葉は私の心にスーッと染みていく。少し前に好きの反対は嫌いではなく無関心だと聞いた事があるけど、ヴァイスさんの言っている事はまさにそれだ。

小さい時のヴァイスさんを天斗さんが叱ったのも柚希君が風之真君やオルト君を叱るのもお父さん達が私を叱るのも全部叱ってくれた人が私達の事をしっかりと見ていて、叱ろうと思ってくれているから。叱るという行動も会話や一緒に食事をするのと同じコミュニケーションの一つで、それが成立するのは相手が自分に少なからず興味を持ってくれているからなんだ。

 

 ……私、やっぱりまだまだ子供だったなぁ。でも、こうしてお父さんから許可を貰えて、柚希君達からも受け入れてもらえてここにいるわけだし、色々な事を学んだり経験したりしながら私もお父さん達みたいな大人になりたい。学んだり経験したりして得た物を活かして次の世代にも伝えていけるような大人に。

 

「ヴァイスさん、話してくれてありがとうございます。ヴァイスさんのお話、すごく勉強になりました」

「それならばよかったです。私もまだまだ学ぶべき事や努力すべき事は多いですし、私達を信じてくれたり見守ってくれたりしている方々の期待を裏切らないようにこれからも頑張っていきましょう」

「はい!」

 

 ヴァイスさんの言葉に返事をして、それに対してヴァイスさんが微笑みながら頷いていたその時だった。

 

『おーい、ヴァイス、フィア』

 

 空から柚希君の声が聞こえ、私達は揃って空を見上げる。

 

「柚希君だ。うん、なにー?」

『天斗伯父さんと一緒におやつを作ったからよかったら食べに来ないか?』

「おやつ……! うん、食べる食べるー!」

「私もご相伴に預かりますね」

『わかった、それじゃあフィアが人間の姿になったら呼んでくれ』

「うん、りょうかーい」

 

 返事をした後、ヴァイスさんと顔を見合わせて私達は笑い合う。

 

「話をしていたら、ですね」

「そうですね。では、皆さんをお待たせしても悪いですし、早速参りましょうか」

「はい」

 

 笑いながら返事をして、私達は付いた砂や海水をまずは落とすために『絆の書』のみんなと一緒に住んでいるお屋敷へ向けて歩き始める。正直な事を言えば、この先にどんな事が待ち受けているかがわからなくて不安なところもある。

でも、どんな事が待ち受けていても私には支えてくれる仲間も見守りながら助けてくれる人もいる。それを当たり前だと思ったり甘えすぎたりせずにこれからも頑張っていこう。それが私に出来る恩返しみたいな物だから。




政実「NINETEENTH AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
フィア「今回はヴァイスさんの過去に関するお話だったね」
政実「うん。フィアの回だけじゃなくヴァイスの回でも触れてはきてたから、これを機に書いてみようかなと思ってね」
フィア「なるほどね。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
フィア「うん」
政実・フィア「それでは、また次回」
フィア「」
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