柚希「どうも、遠野柚希です。たしかに雀の囀りってなんだか安心するし、平和って感じで良いよな」
政実「うん、そうだね。ただ、雀が大量に留まってる下はあまり通りたくないけどね」
柚希「だろうな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・柚希「それでは、第22話をどうぞ」
辺りを白く染めていた雪も融け、春らしいポカポカとした陽気の中で蝶や桜の花弁が舞い踊るようになったある春の日の朝、いつものように朝食の準備をするために少し大きめな欠伸をしながら『絆の書』を片手に一階へ向けて階段を下りていたその時、居間から神様モードの姿をした天斗伯父さんが出てくるのが目に入ってきた。
朝から神様モードなんてなんだか珍しいけど、天上の方で何かあったのかな?
そんな事を考えながらそのまま階段を下りていくと、下りる音に気づいた天斗伯父さんがこちらに顔を向け、ニコニコと笑いながらペコリと頭を下げた。
「柚希君、おはようございます」
「おはようございます、天斗伯父さん。神様モードだなんて珍しいですけど、天上の方で何かあったんですか?」
「あ、はい。実は……先程、向こうの部下からちょっとある連絡を受けまして、話を聞く限りだと、どうやら私が行かないといけない物らしいので、今から行ってくるところだったんです」
「なるほど……こっちの仕事が会社の創立記念日で休みだと思ったら、向こうの仕事が突然入ってくるとは……天斗伯父さんも大変ですね」
「ふふ、確かにそうですが、こっちの仕事もあっちの仕事も私にとっては等しく大事ですし、慣れているので平気ですよ。さて……それでは、早速行ってきますね。恐らく、帰ってくるのはお昼頃になると思うので、家の鍵は掛けていって下さい」
「分かりました。それじゃあ、行ってらっしゃいです、天斗伯父さん」
その言葉に頷き、「行ってきます」と微笑みながら言うと、天斗伯父さんはゆっくりと玄関へ向けて歩いていき、静かにドアを開けて外へと出ていった。
「向こうでの仕事か……今回のはどんな内容なのかちょっと気になるけど、それは天斗伯父さんが帰ってきてから聞けば良いか。よし……それじゃあそろそろ皆と一緒に朝食の準備を始めようかな」
そして、キッチンへ向けて歩きながら『絆の書』の表紙に手を置いた後、俺は皆を外へ出すために魔力をゆっくりと注ぎ込んでいった。
『いただきます』
天斗伯父さんが出発してから約一時間後、皆で協力して朝食を作り上げ、居間のテーブルに並べ終えた後、声を揃えて食事の挨拶をし、俺達は朝食を食べ始めた。そして、食べ始めてから数分後、
「それにしても……天斗の旦那はいってぇ何の用事で朝っぱらから呼び出されたってんだろうかねぇ……?」
「さてな……ただ、天斗伯父さんが行かないといけない物となると、それだけ難しい問題かそれだけの立場のモノから呼び出されたからなんだろうけど……
「……無いな」
「申し訳ありませんが、私にも心当たりはありませんね……」
「そっか……」
部署の違いとか仕事内容の違いはあっても、同じ天上での仕事をしていた義智達なら何か知ってるかなと思ったんだけど……まあ、心当たりが無いって言うなら仕方ないよな。
義智達の回答を聞いてそんな事を思っていた時、義智は小さく溜息をつくと、どこか諭すような調子で話し掛けてきた。
「……それよりも、お前も今年で小学校を卒業するのだから、少しずつでも将来の進路について考えておけ。ボーッとしていると、あっという間に学生生活が終わってしまうのだからな」
「それもそうだな……まだ明確には決めてなかったし、そろそろ決め始めておいた方が良いかもな」
「明確にはってぇ事は……何となくなら何をやりたいかは決まっているってぇ事かぃ?」
「ああ、今のところは高校で色々な社会的なスキルを身に付けて、その上で就職をしようかなと思ってるよ」
「へえ……就職だなんてなんか意外かも。柚希の事だから、将来はまだ見ぬ人ならざるモノ達を求めて世界中を旅するかそういうモノ達の事を文献か何かにまとめるような仕事をしたいって言うもんだと思ってたよ」
「あはは、それはそれで楽しそうだけど、やっぱり俺は天斗伯父さんにこれまでお世話になった分の恩返しがしたいんだよ。そして、最終的には天上での仕事の手伝いが出来るまでになる。それが新しく出来た俺の目標かな」
ニッと笑いながら今の自分の思いを口にすると、義智は白澤のお面越しに真剣な眼差しを俺に向けながら静かに口を開いた。
「……柚希、それが今のお前のやりたい事、なのだな?」
「ああ。まあ、これからの人生の中で多少変化する事はあるだろうけど、天斗伯父さんに何らかの恩返しをしたいという気持ちは絶対に変わらないよ。天斗伯父さんが俺の伯父さんとしてこの世界に来てくれたからこそ、父さん達を交通事故で亡くしても俺はこうして幸せな毎日を送れているんだからな」
「……そうか。ならば、我から言う事は無い。だが、その思いだけは絶対に手放すなよ?」
「ああ、もちろん!」
俺の言葉に満足げな様子を見せる義智に対して大きく頷きながら答えていたその時、それを見ていた雪女の
「今の義智さん、なんだか柚希のお父さんみたいだったね」
「義智が父親かぁ……それはそれで面白そうだけど、俺の父さんは亡くなった父さん一人だけだし、どちらか言うなら歳の離れた兄貴みたいな感じだな。まあ、それにしては本当に離れてるけどさ」
「年齢……そういえば、今まで義智さんのお歳って聞いた事が無かったですよね」
「ん、そういやそうだな……それに、誕生日だって正確には聞いた事がねぇや。まあ、これまでは天斗の旦那が決めた日にそれらしい事はやってきたが……なあ、そこんところどうなんでぃ?」
風之真からのその問い掛けに、義智はいつもと何ら変わらない調子で答えた。
「……さて、どうだったか。少なくとも
「忘れたって……つまり、そんなに長く生きてるって事?」
「うむ。だが、我の年齢など
「それはそうだけど……なんかそれって寂しくないか?」
「寂しさなどはない。そもそも、この世に生を受けてから、他者から誕生を祝われたり、年齢を気にされたりする事などは、これまで殆ど無かったのだからな」
「殆どって事は……今までにあった事はあったんですか?」
「……あった事はあった。だが、先程も言ったように気にする必要は無い。その大半が煌龍が剛虎達を引き連れて勝手にやって来て祝っていった物だからな……」
義智が軽く溜息をつきながら言うと、それを聞いていた
「……なんか容易に想像がつくなぁ、その光景。父さん、誰かを祝う事が本当に好きだから、知り合いのそういう話を聞きつけたら、すぐに祝いの品を持って駆けつけるんだ。んで、その会場でまた知り合いを増やすから、今では色々な神様と知り合いなんだぞっていつも自慢げに言ってたよ」
「……なるほど。だから、四神の試練の後の食事会とか今年の新年会もあんなにはりきってたのか」
「あー……たしかにあの時は
「たしかになぁ……柚希の旦那、旦那も色々と料理の勉強にはなったんじゃねぇのかぃ?」
「うーん……なった事はなったけど、流石にアレを作るとなると結構難しいぞ? 材料の事もそうだけど、技術面も俺はまだまだだし。まあ、天斗伯父さんなら作れるかもしれないけどさ」
「ははっ、違ぇねぇや! だが、俺は柚希の旦那の作る料理も好きだぜ? 柚希の旦那の作る料理は、食ってると心の奥がポカポカとしてくるからな!」
「風之真……」
「へへっ、これからも美味くて心の奥がポカポカとしてくる料理を頼むぜ? 柚希の旦那」
「ああ、任せとけ!」
ニッと笑いながら言う風之真の言葉に親指を立てながら答えた後、俺は皆と一緒に再び朝食を食べ始めた。
心の奥がポカポカとしてくる料理、か……個人的には天斗伯父さんや『あの人』に比べればまだまだだと思ってたけど、食べてくれる側からそう言ってもらえると、やっぱり嬉しいよな。
「……それなら、俺は俺らしい料理を目指して、これからも頑張ってみるかな」
「……よし、これで戸締まりは大丈夫そうだし、そろそろ行くとするか」
約一時間後、朝食の後片付けを皆と協力して済ませ、家の中の戸締まりを確認してそう独り言ちた後、俺は居間のソファーに置いておいたランドセルを取りに行った。すると、点けっぱなしになっていたテレビの画面には、今日一日の星座占いの結果が映し出されていた。
占いか……まあ、完全に信じてるわけじゃないけど、参考にする程度なら良いかもしれないな。
「……えーと、俺の星座は……あ、これだ」
そして、俺の星座の欄を見ると、そこには──。
「『出会いの季節らしく、新しい出会いがあるかも。もし出会いがあったら、その出会いは大切にするべし』……か。他の人ならたしかに春は出会いと別れの季節なんてのが合うかもしれないけど、俺の場合は『
……けど、この出会いというのが、まだ『人ならざるモノ』との出会いとは限らないし、もしも夕士達や金ヶ崎達のように新しい人間の友達との出会いになるなら、それはたしかに大切にしないといけないよな。
「……まあ、それに関しては出会ってからのお楽しみという事で、まずは学校に行くか。今日は小学校最後の始業式だから、遅れるわけにもいかないしな」
占いの内容をそう結論づけた後、テレビの電源を消し、ランドセルをしっかりと背負った。そして、玄関へ向かって歩いていき、ドアを開けようとしたその時、ドアの向こうから夕士と長谷の波動を感じ、俺はクスリと笑いながらゆっくりとドアを開けた。
すると、そこには感じ取った通り、笑みを浮かべる夕士達の姿があった。
「おはよう、二人とも。待たせちゃったみたいでゴメンな」
「おはよう、柚希。俺達も今来たところだから、別に謝る必要は無いぜ」
「そうだな。そしておはよう、遠野」
「うん、おはよう。さて……それじゃあ行くか、二人とも」
「おう!」
「ああ」
二人の返事を聞いた後、俺達はゆっくりと歩き出した。そして他愛ない話をしながら学校へ向けて歩いていたその時、少し離れたところから妖力と霊力の気配を感じた。
妖力と霊力の気配……二つの気配が同じ方からする辺り、たぶんこの二つの気配の主は同一人物で、弱いとはいえ只者では無いんだろうけど……一体どんな奴なんだ?
そんな疑問を抱きながらもそれを夕士達に悟られないように夕士達の話に相槌を打ちながら歩き、近くにあった曲がり角を曲がったその時、少し先の方に赤いランドセルを背負った黒いポニーテールの少女が辺りをキョロキョロと見回しているのが見えた。
……どうやら、さっきから感じてる力の気配はあの子から発せられているみたいだな。ただ、何かを探してるように見えるけど、一体何を探してるんだ?
そんな疑問を抱きながらその子を見ていると、同じようにその子を見ていた夕士が不思議そうに首を傾げた。
「あの子……この辺では見掛けない顔だけど、何かあったのかな?」
「キョロキョロとしてる辺り、何かを探してるみたいだが……二人とも、どうする?」
「んー……時間はまだあるし、とりあえず話を聞きに行こうぜ? あの子の悩みが俺達に解決できる事かは分からないけど、話を聞く事くらいは出来るからさ」
「俺も柚希に賛成だ。それに、困っている人を放って置くわけにもいかないしさ」
「……分かった。それじゃあ行くか」
その長谷の言葉に頷いた後、俺達はゆっくりとその子へと近付き、その子が発する困惑と不安の波動を感じながら静かに声を掛けた。
「あの……ちょっと良いかな?」
「……えっ!?」
俺の声にその子は体をビクリと震わせながら振り向いたが、声を掛けてきたのが自分達と同じくらいの子供だと分かった瞬間、胸に手を当てながらとてもホッとした様子で息をついた。
「……ビックリしたぁ。いきなり声を掛けられたから一体誰かと思ったよ……」
「あー……それはゴメン。けど、何だか困っている様子だったから、何か手伝えないかなと思ってさ」
「……あ、そうだったんだね。うん、君の予想通り、ちょっと道が分からなくて困ってるところだったんだ……」
「道が……?」
「うん……実は私、家の事情で一週間ほど前にこの近くに引っ越してきて、それで今日からこの辺にある学校に通う事になったんだけど、その学校の場所をど忘れしちゃったんだよね。それで、どうしたら良いかなと思って困ってるところだったんだ……」
「なるほど……それで、その学校の名前は?」
長谷の問い掛けに少女は不安げな表情のまま学校名を答えた。すると、少女が答えた名前は、俺達が通っている学校と同じ名前だったため、俺達は安心感を覚えながら揃って息をついた。
良かった……他の学校だったら、最悪遅刻も覚悟しなくちゃいけなくなったかもしれないけど、同じ学校なら連れて行くだけで済むもんな。
そう思いながら少女に説明をしようとしたその時、夕士がスッと一歩前に進み出たかと思うと、少女に対してニッと笑いながら優しい声で話し掛けた。
「それなら、俺達と一緒に行こうぜ。その学校、俺達が通ってる学校と同じだからさ」
「え、それは助かるけど……でも、本当に良いの……?」
「ああ、もちろん。二人もそれで良いよな?」
「……愚問だな」
「ああ、全くだ。そんな話を聞いて、俺達が断るわけないだろ?」
「……へへ、ありがとな!」
俺達の返事に夕士は嬉しそうな笑みを浮かべながら礼を言うと、少女の方へ向き直り、ニッと笑いながら話し掛けた。
「という事で、早速行こうぜ? このまま立っていても遅れちゃうだけだしさ!」
「あ……う、うん! ありがとうね、えっと……」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は
「
「そして、俺は
「夕士君に長谷君、それに柚希君だね。私は
「六年生……って事は、俺達と同い年だな!」
「あ、そうなんだ! わぁ……それじゃあもしかして同じクラスになるかもしれないね!」
「ははっ、かもな。さて……それじゃあ行こうぜ、皆」
「「ああ」」
「うん!」
夕士の言葉に揃って返事をした後、俺達は学校へ向かって歩き始めた。そして歩き始めてから数分後、「……ん、そういえば……」とふと何かに気付いたような声を上げると、夕士は少し不思議そうな様子で狐崎に話し掛けた。
「なあ、朝香。さっき、家の事情で引っ越してきたって言ってたけど、それって親の仕事の都合みたいな奴なのか?」
「……ううん、違うよ。実はね、私のお父さんとお母さんは一月前に亡くなったんだ」
「亡くなったって……一体どうして?」
「……病気。お父さん、元々持病があったみたいで、お母さんはそれをどうにかしようと必死になって色々と調べてたんだけど、結局お父さんはその持病の悪化で亡くなって、お母さんもその後を追うようにしてその間に罹っていた別の病気で亡くなったの。
それで、最初は親戚の誰かのところにお世話になるっていう話になったんだけど、その親戚が全員引き取る事に反対して、それでたらい回しにされそうになったところをお父さん達の昔からの知り合いの人がそれならウチで面倒を見るって言ってくれて、今はその人の家でお世話になってるんだ」
「そっか……なんかゴメン、辛い事を訊いちゃったよな」
「ううん、気にしないで。それに、今の生活もスゴく楽しいから。家も和風のお屋敷でスゴく広いし、書庫にも色々と珍しい本があるから、毎日退屈しないしね」
「へえ……書庫なんてあるのか」
「うん、まだ全部は読めてないけど、なんでも世界中から集めた本があそこにはあるみたいで、中には色々な曰く付きの本もあるって言ってたよ」
「曰く付きの本って……それ、大丈夫なのか?」
「うーん……大丈夫じゃないかな? その人、
「そっか……それなら良いけど」
曰く付きの本か……その曰くの種類によって危険度はガラリと変わるけど、たしかに狐崎自身からは何かが憑いてるような感じはしないし、本人が言うように大丈夫なのかもな。
狐崎の話からそんなことを考えていたその時、どこからか妖気が漂ってくるのを感じ、俺は夕士達に気付かれないようにしながら周囲の様子を探った。
……恐らくだけど、妖気の主は二人。幸い波動から敵意みたいなのは感じないけど、少なくとも警戒はされてるみたいだな。問題はどんな理由があってここにいるかだけど……本人達に訊かない限り、それは分からないよな。
漂ってくる妖気の主に注意を払いながら、『絆の書』の皆に相談をするために『
……どうやらいなくなったみたいだな。けど、妖気の主達の目的は一体何だったのかは分からないままだし、一応『絆の書』の皆や天斗伯父さんにもこの事は言っておいた方が良いかもしれないな。
妖気の主たちについてそう結論づけた後、俺は歩きながら『伝映綱』を繋ぎ、『絆の書』の皆にさっきの事を話しながら楽しそうに話を続けていた夕士達の会話に混ざっていった。
数分後、学校に着いた俺達は職員室に用がある狐崎と別れ、話をしながら俺達の教室へと歩いていった。そして、教室に入った瞬間、窓際で
「お前達、もう聞いたか!?」
「聞いたって……何をだ?」
「何って転校生だよ、転校生! それもかなりの美少女で、ウチのクラスと隣のクラスに一人ずつ来るって話だぜ!?」
「転校生……ああ、その一人にならさっき会ったぜ? この学校の場所をど忘れしたって言うから、三人で案内しながら一緒に登校してきたんだ」
すると、雪村はとてもショックを受けた表情を浮かべながらゆっくりと後退った。
「お前達……噂の転校生と仲良く登校してきたのか……!?」
「まあな。活発的で人懐こそうな感じだったし、あれならすぐに友達も出来るんじゃないか?」
「そうだな。話した感じだと裏表が無い性格みたいだし、男子女子両方から好かれそうだったよな」
「ははっ、違いないな」
先程出会った狐崎の事を思い出しながら話をしていたその時、雪村は突然膝からガクンと崩れ落ちると、俯きながらとても悔しそうに声を上げた。
「……くそっ、何故だ! 何故、お前達だけそんなに美少女と出会えたり仲良く出来たりする機会が多いんだよ! 柚希の金ヶ崎しかり五年の時の臨海学校の件しかり!」
「あのさ……金ヶ崎に関してはお前だって仲良いし、臨海学校の時はお前だって見てたろ?」
「いいや、違う! たしかに、あの肝試しの時や遠野で偶然会った時の事を含めれば、俺も金ヶ崎とは仲が良いと言えるかもしれない。だが、お前は明らかに金ヶ崎から惚れられてるし、お前だって前よりは金ヶ崎の事が気になってるんじゃないのか!?」
「それは……まあ、否定しないけどさ」
すると、それを聞いた夕士と長谷が少し驚いたような表情を浮かべながら顔を見合わせた。
「意外だな……柚希が否定しないなんて……」
「ああ……いつもの遠野だったら、ここでやんわりと否定するところなのにな……」
「そうだよな……なあ、もしかして何かそう思うだけの出来事でもあったのか?」
「……去年、煌龍さんと話した時に少なくとも金ヶ崎の事を意識しているんだろうと思っただけだよ。それより……女子から好かれるという点では、さっきの夕士だって負けてないんじゃないのか?」
ニッと笑いながら長谷に視線を向けつつ言うと、長谷は一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、すぐに俺の考えが分かった様子でコクリと頷き、夕士の肩に手をポンと置きながら悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「それもそうだなぁ……何せ、困っていた狐崎に対して俺達よりも先に一緒に行かないかと声を掛けたり、まるで不安を無くさせるかのように積極的に話し掛けていたもんなぁ」
「……へ? いや、それはその通りだけど……でも、そんなんで別に女子から好かれるなんて事は──」
「いやいや、それを自然に出来てる時点でスゴいんだぜ? なあ、長谷?」
「ああ。それに、狐崎からすれば転校初日で困っているところに優しい男子が助けてくれたわけだし、これがきっかけで稲葉の事を意識し始める可能性は充分にあり得るよなぁ……」
「おやおや……幼馴染みとしてそれはちょっと気になる話ですなぁ……。まあ、気になってるのはたぶん俺達だけじゃ無いと思うけど……?」
チラリと雪村を見ながら言うと、雪村はにいっと笑いながら大きく頷き、長谷と同じように夕士の肩に手をポンと置いた。
「ああ。柚希の件も気にはなるけど、こっちはこっちでちょっと話がしたいところだな」
「あ、えっと……」
「さあ、色々と話してもら──」
その時、スピーカーからタイミング良くチャイムが鳴り出し、雪村は少し悔しそうにスピーカーに視線を向けた。
「くっ……ちょうど話を聞こうとしたタイミングで鳴り出すなんて……」
「まあ、時間ならしょうがないさ。それに、同じクラスなんだから訊く機会なんて幾らでもあるだろ?」
「うーん……まあ、それもそうか。よし……それじゃあ今日の放課後にまた訊く事にしよう!」
「え……ほ、ほんとに訊くつもりなのか……?」
「おう、もちろんだぜ! という事で……また後でな、お前達!」
「ああ、また後でな」
「おう、また後で」
「ま、また後で……」
いつも通りの調子で返す俺と長谷、そして少し暗い表情で返事をする夕士に対してニッと笑うと、雪村は鼻歌を歌いながら自分の席へ向かって歩いていった。
……さて、俺もそろそろ自分の席に──。
そんな事を考えながら歩き始めようとしたその時、突然肩をガッと掴まれ、俺はそちらに視線を向けた。すると、夕士が恨めしそうな視線を向けながら肩を掴んでいる姿が目に入ってきた。
「夕士、どうした? そんな死んだ魚のような目をして……」
「どうした、じゃないだろ……なんであそこであんな話題を出したんだよ……」
「なんでって……そんなの決まってるだろ? 雪村が狐崎について知りたがってたから、それに関連した話題を提供しようと思ったからだよ」
「だからって、今のは話す必要なかっただろ……それに、長谷もなんだかノリノリで話してたし……」
「ふふ……良い話題があったら提供したくなるのは当然だろう? まあ、これからも遠野と一緒に稲葉と狐崎の件については温かい目で見守っていてやるよ」
「いや、だから……俺と朝香はそんなんじゃないし、朝香だって俺の事は友達くらいにしか思ってないって……」
「いやいや、長く付き合っていく内に友情が愛情に変わるパターンなんていくらでもあるぜ? ほら、遠野と金ヶ崎が良い例だろ?」
「そうそう、俺と金ヶ崎が──って、俺と金ヶ崎だって別にそういう関係ではないからな!? あくまでも少し意識はしてるかなっていうだけで──」
「はいはい。まあ、とりあえず俺達も席に着こうぜ。早く席に着かないと担任に怒られるしな」
「……そうだな」
「……ああ」
正直な事を言えば、まだ少し納得は出来ていなかったが、長谷の言葉はもっともだったため、俺達は一度この話を止め、黒板に貼られていた座席表通りに座った。そしてそれから数分後、廊下の方から二人分の足音と微かな
登校中に妖気を感じたと思ったら、今度は魔力か……まあ、力自体はまだ弱いみたいだけど、魔力の主がどんな奴かは分からないし、警戒だけはしておいた方が良いよな。
そんな事を考えながら警戒心を強めた後、廊下から聞こえてくる足音に注意を向けていると、足音が止むと同時に教室の前の方にあるドアがガラッという音を立てながら開いた。
そして、出席簿を持った担任の先生がゆっくりと教室へ入って来たが、先生の目はどこかとろんとしており、微かに魔力の気配を漂わせていた。
……この感じ、前に天斗伯父さんが持ってる本で読んだ『
『魅了』が掛かっていると思われる先生の様子に注意を向けていたその時、廊下からパチンという音が聞こえたかと思うと、先生は突然ハッとしたような表情を浮かべ、それと同時に先生から漂っていた魔力の気配は消えていった。
そして、先生は少し驚いたような表情を浮かべながら俺達を軽く見回した後、不思議そうに首を傾げてから静かに口を開いた。
「えーと……皆さん、おはようございます。今日から皆さんも6年生になるわけですが、自分達はこの学校の最高学年なのだという自覚を持って学校生活を送るようにして下さい。良いですか?」
『はい!』
「はい、よろしい。さて……たぶんもう知っている人もいるかと思いますが、今日からこのクラスに転校生が来ます。学区の都合などで人によってはこの一年しか一緒にいない人もいるかもしれませんが、それでも転校生の子が楽しい学校生活を送れるようにしていきましょう」
『はい!』
「……では、そろそろ入って来てもらいましょう。
「はい」
先生の言葉に答えると、廊下から色白で艶々とした長い銀髪の少女がゆっくりと教室内へと入って来た。そして、その姿に教室中からざわめきが起こる中、夜野がこちらに顔を向けた瞬間、クラスメート達から漏れていたざわめきの声は止み、それと同時にクラスメート達からさっき先生から漂っていたのと同じ魔力の気配が漂い始めた。
……夜野がこっちを向いた瞬間にこうなったという事は、夜野の顔を見るか目を見ると『魅了』の魔術に掛かると見て良さそうだな。ただ、俺を含めて何人かは『魅了』に掛かっていないようだけど……。
軽く教室内を見回してみると、クラスメート達が『魅了』に掛かっている様子を不思議そうな表情で見回す夕士や夜野の事を興味深そうに見つめる長谷、そして夜野の姿に目を輝かせる雪村やどこか困惑したように周囲の様子を窺う由利と海野と先生の姿が目に入ってきた。
夕士と長谷が『魅了』に掛かっていないのは、恐らくウチによく遊びに来てる分、『
けど、由利と海野が掛かっていない理由だけはまったく分からないんだよな……もしかして、由利と海野も金ヶ崎や雪村みたいに人ならざるモノとの関わりがあったりするのかな……?
夜野に視線を戻しながら由利と海野が『魅了』に掛かっていない理由を考えていたその時、夜野は静まり返った教室内を見回し、ハッとした表情を浮かべると、慌てたように右手でパチンと指を鳴らした。
すると、『魅了』に掛かっていたクラスメート達が一斉にハッとした表情を浮かべ、それと同時に漂っていた魔力の気配が消えていった。
なるほど……今のが『魅了』を解く方法なのか。そして……さっきの夜野の様子から考えるに、あの『魅了』は掛けたくて掛けているわけでは無さそうだな。掛けたくてやっているのならわざわざ解く必要なんて無いしな。
そう思いながら夜野の様子を観察していると、夜野はクラスメート達に掛かっていた『魅了』の魔術が解けた事に安堵したように笑みを浮かべた後、黒板の方へクルリと振り返り、白いチョークを一本取って自分の名前を書き始め、書き終えると同時に静かに振り返ってペコリと頭を下げた。
「初めまして、皆さん。私の名前は
ですが、だからこそ私はこのクラスの皆さんとの絆を深め、この一年を将来一生の宝だと誇れるような一年にしたいと考えています。こんな私ですが、仲良くして頂けると嬉しいです。これからよろしくお願い致します」
そう言い終え、もう一度夜野がペコリと頭を下げると、クラスメート達からパチパチパチと拍手の音が上がり、夜野は少しホッとしたように顔を上げた。そして、拍手の音が止むと、先生は夜野に視線を向けながらニコリと笑った。
「はい、ありがとうございます。さてと……夜野さんの席は──あ、あそこの長谷君っていう子の隣なので、あそこに座って下さいね」
「はい、分かりました」
夜野は先生の言葉に静かに頷くと、クラスメート達からの視線を浴びながら長谷の席へと近づき、その隣に座ると、ニコリと笑いながら長谷に話し掛けた。
「これからよろしくお願い致しますね、長谷君」
「ああ、こちらこそよろしくな、夜野」
「ふふ……はい」
優しげな笑みを浮かべる長谷の言葉に対して柔らかな笑みを浮かべながら夜野が答えていると、そんなとても絵になる二人の姿にクラスメート達からは溜息が漏れ、俺と夕士はそんなクラスメート達の様子に顔を見合わせながらクスリと笑った。
まあ、長谷と夜野はどっちも整った顔付きをしてるわけだし、クラスメート達の反応も分からなくは無いよな。
そんな事を思いながら楽しそうに話す長谷と夜野の方へ視線を向けていると、俺の視線に気付いた様子で夜野がこちらに顔を向け、兎のように赤い目でジッと俺の事を見つめ始めた。そして、しばらく見つめたかと思うと、何か納得した様子で軽く頷き、再び長谷の方へ顔を戻した。
……今の感じ、俺がこっちを見ているのを見て、『魅了』にまだ掛かっているかを確認してる感じだったな。まあ、天斗伯父さんの話によれば、俺は『力』の影響でそういう魔術なんかには耐性があるらしいから、まったく掛からなかったんだけどな。
そんな事を思いながら先生の方へ視線を戻すと、先生はニコニコと笑いながら俺達の事を見ていた。そして、他の生徒達の視線も先生の方へ向くと、先生は「さて……」と言ってから俺達の事を軽く見回しつつ言葉を続けた。
「それでは、そろそろ始業式が始まるので、これから体育館へ移動します。皆、静かに廊下へ並んで下さいね」
『はい!』
声を揃えて返事をした後、クラスメート達は静かに席を立ち、次々と廊下へと出ていった。
俺とどこか似た境遇の狐崎に『魅了』の魔術を掛けられる瞳を持った夜野、か……。どうやら、朝の星座占いは大当たりだったみたいだな。
出てくる前に見た星座占いの内容を思い出しながらクスリと笑った後、俺はクラスメート達がぞろぞろと出ていくのに続いて廊下へと出ていった。
始業式後、教室に戻った俺達は先生が話す明日についての連絡事項を聞いていた。そして、連絡事項を話し終えると、先生は軽く俺達を見回してからニコリと笑った。
「……はい、それでは今日はこれで終わりです。皆、午前中で学校が終わったからといって、あまり浮かれずに気をつけて下校してください」
『はい!』
俺達が声を揃えて返事をすると、先生はニコリと笑いながらコクリと頷き、出席簿を持ってゆっくりと教室を出ていった。そしてそれと同時に、クラスメート達は興味津々といった様子で夜野のところへと集まり、次々と質問をしていった。
あはは……夜野も大変だけど、その隣の長谷も大変だな。まあ、質問タイムもそんなに長くは掛からないだろうし、とりあえずあれが終わるのを待って、終わったら長谷に声を掛けにいくか。
少し困ったような笑みを浮かべる夜野とその様子をニコニコと笑いながら見ている長谷の姿を見つつ帰り支度をしながらそんな事を考えていると、突然肩をポンッと叩かれ、俺はそちらに視線を向けた。すると、苦笑いを浮かべている夕士の顔が目に入り、俺はクスリと笑いながら夕士に話し掛けた。
「長谷も大変そうだよな。夜野への質問タイムが終わるまでこっちに来られなそうだしさ」
「まあな。けど、長谷も夜野の話を楽しそうに聞いてるみたいだし、良いんじゃないか?」
「ふふ、そうだな。けど、あの笑顔の裏では一体何を考えてるんだろうな」
「さあ……夜野の容姿を褒めてる可能性はあるけど、もしかしたら夜野の事を面白い奴って思ってるかもな。ほら、夜野が自己紹介をする前、皆が夜野の事を見てボーッとしてたから、それで興味を持ったとかでさ」
「……ああ、あり得るな。けど、お前と長谷、雪村に海野や由利はそんな事無かったみたいだな。まあ、先生は入ってくる時に同じようになってたから、あえてカウントしないけどさ」
「あはは、そうだな。たしかに夜野はスゴく美人だと思うけど、皆みたいにボーッとするような感じではなかったかな。ただ……」
「ただ?」
俺が首を傾げながら訊くと、夕士は不思議そうな様子でそれに答えた。
「夜野がこっちを向いて、『あ、美人だな』と思った瞬間、頭の中で声が聞こえたような気がするんだよ。『魅了されるな』って、俺の声みたいな感じの声が、さ……」
「魅了されるな、か……まあ、あの時の皆の様子を見てると、たしかに魅了という言葉がピッタリ合う感じだったよな」
「だな……けど、あの声は一体何だったんだろうな?」
「……さてな」
首を傾げながら訊いてくる夕士に対して頬杖をつきながら心当たりが無い様子で答えたが、頭の中にはもしかしたらという答えが一つだけ浮かんでいた。浮かんでいた答え、それは夕士の心のエコーだ。
本来ならば、夕士が自分の心のエコーを初めて聴くのは、高校生になってから起きる『ある出来事』の時なんだが、もし俺の家に遊びに来ている事がきっかけで、さっき考えたような事が起きているのなら、心のエコーを聴いたのも納得がいく。
長谷に関しては未知数だが、夕士に関しては原作においてそういう環境に数ヶ月いただけでヒーリングの能力に目覚める程の素質を持っていたからだ。
……もし、この考えが合っていたとしたら、夕士は原作よりも早い段階で自分の力を高め、あのとても愉快な妖魔達と上手くやっていきそうな気がするな。
その光景を想像して思わず口元を綻ばせていたその時、「よっ、お前達!」という声が聞こえ、俺達が揃って顔を向けると、そこにはランドセルを背負いながら楽しそうな笑みを浮かべる雪村と苦笑いを浮かべている由利と海野の姿があった。
「お前達か。もしかしてこれから夕士の尋問タイムだったか?」
「んー……夕士がそうしたいならそうしても良いけど、どうする?」
「……いや、そう訊かれてやりたいなんて言うわけ無いだろ……」
「あはは、だよな。まあ、朝は放課後にお前と転校生の事についてもう少し訊くなんてつもりだったけど、今日のところは勘弁しといてやるよ。正直な事を言えば、気にならないわけではないけど、夜野の方も気になるからさ」
「あ、やっぱりか」
「当然だろ? まあ、夜野が美人だからっていうのもあるんだけど、実はもう一つ気になる事があるんだよ」
「気になる事って、夜野がこっちを向いた瞬間に皆がいきなりボーッとし始めた事か?」
俺の問いかけに雪村は頷きながら答えた。
「ああ。いくら夜野が美人だからといって、俺達や先生を除いた全員がいきなりボーッとし始めるなんてやっぱり変だろ? それに、夜野がこっちを向いた瞬間、この腕輪も何だか軽く熱くなったし……」
「腕輪……たしか小さい頃に友達から貰った物なんだっけ?」
「ああ、そうだ。まあ、さっき熱くなったのはこの腕輪が俺に活を入れてくれたからだと思ってるよ。美人に見とれてばっかりいるな、しっかりしろ、みたいにさ」
「なるほどな。そういえば……由利と海野もボーッとしてなかったよな」
「ん……まあな」
「さっきは本当にビックリしたよな。いきなり教室が静まり返るもんだから、何かあったかと思ったぜ」
「あはは、まあな。けど、皆すぐに元に戻ってたし、あまり気にしなくても良いかもしれないな」
「かもな」
笑い合いながらそんな事を話していたその時、「……あ、いた!」ととても嬉しそうな声が廊下から聞こえ、俺達はそちらに視線を向けた。すると、そこには嬉しそうに夕士に視線を向ける狐崎と狐崎に手を固く繋がれながら少し気恥ずかしそうに俺に視線を向けている金ヶ崎の姿があった。
……そういえば、狐崎は隣のクラスに転校生として来たんだったな。けど、金ヶ崎まで連れて一体何の用なんだ……?
そんな疑問を抱きながらランドセルを背負った後、夕士達と一緒に狐崎達へ近付くと、夕士は首を傾げながら狐崎に話し掛けた。
「狐崎、俺達に何か用か?」
「うん! せっかくだから、途中まで一緒に帰ろうかなと思ってね。ねっ、雫ちゃん!」
「う、うん。あ……もちろん、柚希君達が迷惑じゃなければだけど……」
「迷惑って事は無いけど、帰れるのはたぶんもう少し後になるぜ? 今、長谷を待ってるとこだったからさ」
「長谷君を……?」
狐崎は首を傾げながら教室内を覗き込み、未だに質問をされている夜野とそれを静かに聞いている長谷の姿を見ると、納得顔で頷いた。
「あ、なるほどね。けど……翼ちゃん、スゴい人気だね」
「ああ、そうだけど……あれ、夜野の事を知ってるのか?」
「うん。夕士君達と別れた後、職員室に行ってみたら、先に翼ちゃんが中で待ってたから、待ってる間に二人で少しお話をしたんだ」
「あ、そうだったのか」
「うん! それにしても……」
そして、狐崎は笑みを浮かべながら質問に答える夜野へ視線を向けると、どこか羨ましそうな様子で小さく溜息をついた。
「はあ……翼ちゃんって、本当に美人さんだよねぇ。私が職員室に入った時、何人か翼ちゃんを見ながらボーッとしてたし、やっぱりあれだけ美人だと人の目を引くのかもしれないねぇ……」
「うーん……たしかにそうかもしれないけど、俺だったら夜野よりは朝香の方が良いと思うぜ?」
「……え?」
狐崎が不思議そうな表情で夕士を見ると、夕士はニッと笑いながら言葉を続けた。
「だって、朝香みたいに明るくて活発な奴と一緒にいた方が落ち込んでる時に元気をもらえそうだし、接しやすい感じがするだろ? それに、朝香だって一般的に見れば、充分可愛い方だと俺は思うぜ?」
「そ、そうかな……?」
「ああ。だから、朝香はもっと自分に自信を持って良いと思う。その明るく周りを元気にする性格もその容姿もさ」
「夕士君……」
夕士の言葉に狐崎が嬉しそうな笑みを浮かべながら頬を軽く赤く染める中、俺は夕士の肩に手をポンと置いた。
「いやぁ……そんな言葉をさらっと言えるなんて、流石は天然のイケメンですなぁ。これはもう『夕士』じゃなく、『夕士先輩』と呼ばないといけないかなぁ……?」
「いやいや、別に先輩呼びとかする必要ないから! というか、天然のイケメンって何だよ!?」
「ん? あんな感じの言葉をさらっと言えたり、今朝みたいに爽やかな笑顔を自然に浮かべられる奴の事に決まってるだろ?」
「決まってるだろって……そんな言葉今まで聞いた事ねぇよ!」
「そりゃ、そうだ。だって、俺がさっき考えたばかりの造語だからな」
「……はあ、だと思ったよ……」
夕士が少し疲れた様子で溜息交じりにそう言うと、それを見ていた狐崎がクスクスと笑い始めた。
「ふふ、やっぱり夕士君達は面白いね。これなら毎日を楽しく過ごせそうかも」
「……はは、たしかに楽しいけど、柚希と長谷の悪ノリは結構疲れるぜ? コイツら、事前の打ち合わせとかも無しで話を合わせてくるからな……」
「ははっ、そんなの当然だろ? 入学式の日からの付き合いなんだから、言葉にしなくても何を言えば良いのかは大体分かるんだよ。それに……それはお前だって同じだろ?」
「……まあな」
ようやくクスリと笑った夕士に対してニッと笑いながら頷いていたその時、「待たせたな」という声が後ろから聞こえ、俺達は同時に振り向いた。すると、そこにはランドセルを背負った長谷と夜野の姿があった。
「その様子だと……夜野の質問タイムは終わったみたいだな」
「ああ。ところで……狐崎や金ヶ崎までいるみたいだが、お前達は何を話してたんだ?」
「ん……ちょっと夕士先輩の口説き講座を受講してただけだよ」
「いや、だから別に口説いたりしてないって!」
「へえ……それは俺も参加したかったな」
「長谷も変にノらなくて良いから!」
「ははっ、冗談だよ。さて……それじゃあそろそろ帰るとするか。そうじゃないと、また質問タイムが始まりそうだしな」
そう言いながら長谷がチラリと教室内を見るのに続いて視線を向けると、教室内ではさっきまで夜野に質問をしていたクラスメート達が興味津々といった様子で狐崎を見ており、このままだと長谷の言葉通りになるのは明らかだった。
「……そうだな。それに、せっかく狐崎と金ヶ崎が一緒に帰ろうって言ってくれてるわけだし、これ以上待たせるのも申し訳ないからな」
「ん……狐崎と金ヶ崎もだったのか?」
「も、って事は、もしかして……?」
「ああ。さっき、夜野からも俺達と途中まで一緒に帰りたいって言われていたんだ。まあ、断る理由も無いから、OKはしてたんだけど、問題は無かったよな?」
「ああ、もちろん」
「俺達も断る理由なんて無いしな」
「ああ、サンキューな。狐崎と金ヶ崎も良いか?」
「うん、もちろん」
「どうせ帰るなら、大勢の方が楽しいからね。私も賛成だよ、長谷君」
「分かった。二人とも、ありがとうな」
「皆さん、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。さてと、それじゃあそろそろ──」
そう言いながら夕士が歩き始めようとしたその時、「ちょっと待った!」と雪村は大声で夕士の声を遮ると、夕士の肩にポンと手を置きながら話し掛けた。
「夕士、俺達もお前達と一緒に帰って良いか?」
「それは良いけど……まずは海野と由利にも話を──」
「……俺達は構わないぜ、夕士。雪村のこういう行動は今に始まった事じゃないし、元々一緒に帰る予定だったしな」
「そうそう。だから、心配はいらないぜ」
「……分かった。それじゃあ一緒に帰るか」
「おう、サンキューな!」
「どういたしまして。さて……それじゃあ早速帰ろうぜ」
その夕士の言葉に全員が頷いた後、俺達は揃って教室を出た。そして、下駄箱へ向かって歩いていたその時、「あっ、そういえば……」と狐崎は何かを思い出した様子で声を上げると、隣を歩く夜野に話し掛けた。
「ねえねえ、翼ちゃん」
「はい、何でしょう?」
「翼ちゃんの髪って、とても綺麗な銀色をしているけれど、それってお父さんかお母さんからの遺伝なの?」
「はい、そうです。これは父からの遺伝で、生まれた時からずっとこの色でした」
「そっかぁ……」
「……やはり、変でしょうか?」
「ううん、そんな事無いよ。さっきも言ったように綺麗な銀色だと思うし、落ち着いててちょっとミステリアスな雰囲気の翼ちゃんにスゴく似合ってると思う!」
「朝香さん……ふふ、ありがとうございます。ですが、私は朝香さんもとても素敵だと思いますよ」
「私……?」
「はい。朝香さんのその明るく活発な性格と可憐さ、それは私には無い朝香さんだけの魅力だと思っています。そうですよね、夕士さん?」
夜野から突然そう訊かれ、夕士は驚いた様子を見せながら答えた。
「え、ああ……そうだと思うけど、どうして俺の名前を?」
「ふふ……皆さんに自己紹介をした後、長谷さんから既に名前だけは聞いてたんです。それに、先程も長谷さん達との会話で名前を呼ばれていましたしね」
「な、なるほど……」
「そして、夕士さんに話を振った理由は、先程夕士さんが朝香さんに対して同じような事をお話ししていたから、そして夕士さんがこの中では朝香さんの魅力について一番理解をしているようだったからです」
「一番理解してるって……別にそんな事は──」
「……ふふっ、夕士さんはそう思わないかもしれませんが、異性から容姿や性格を褒められるのはとても嬉しい物なんですよ。それに、夕士さんも長谷さんのようにカッコいい方ですから、朝香さんからすればとても嬉しかったと思いますよ。そうですよね、朝香さん?」
「え……う、うん。実は今まであまりそういう事を言われた事が無かったから、夕士君にあんな風に言ってもらえて私はとても嬉しかったよ」
「そ、そっか……それなら良かったよ」
「うん……」
狐崎の言葉に夕士がどこか気恥ずかしそうに少し赤くなった頬を掻き、狐崎が少しだけ顔を赤らめながら俯く中、俺達男子組がニヤニヤしながら顔を見合わせ、金ヶ崎達女子組が夕士達を微笑ましそうに見つめていると、その空気に耐えられなくなった夕士がわざとらしく大きな声で話し始めた。
「あっ、そうだ! まだ長谷と朝香以外は夜野に自己紹介をしてないし、今から自己紹介をしないか!?」
「それは良いけど……夕士、お前逃げたな?」
「に、逃げてないぞ! 俺はただ、これから一緒に学校生活を送る上で、自己紹介をするのは当然だと思っただけだ!」
「あー……はいはい、そうだな。それじゃあ夕士から自己紹介を頼むぞ」
「……ああ」
夕士はまだ納得がいっていない様子で答えたが、すぐに深呼吸をして気持ちを切り替えると、ニコニコと笑いながら自分を見つめる夜野に自己紹介を始めた。
そして、それに続いて俺達も夜野に対して自己紹介をしていき、最後の金ヶ崎が自己紹介を終えると、夜野は名前と顔を一致させていくかのように名前を小さな声で口にしながら俺達を軽く見回していき、それが終わると夜野はニコリと笑いながら静かに口を開いた。
「それでは、私も改めて自己紹介をさせて頂きますね。私は夜野翼、出身は京都でイギリス人の父と日本人の母がいます。好きな物は和菓子と緑茶、そして友達や家族との会話で、苦手な物は辛い食べ物とニンニクを使った料理、それと雨です。皆さん、改めてこれからよろしくお願い致しますね」
「ああ、こちらこそよろしく」
「それにしても……翼ちゃん、ニンニクと雨が苦手なんて、その見た目も相まってなんだか物語に出てくる吸血鬼みたいだよね」
「ははっ、そうだな。まあ、夜野みたいな吸血鬼にだったら、血を吸われたい男なんていっぱいいそうだけどな」
「はは、違ぇねぇや」
狐崎の言葉を聞き、長谷と夕士が笑いながらそんな事を言っていたその時、夜野は上品な笑みを浮かべながら静かに口を開いた。
「ふふ……今、朝香さんが私が吸血鬼みたいだと仰いましたけど、それは一部事実みたいな物なんですよ?」
「……え?」
「それって……どういう事だ?」
「……私の父方のご先祖様が実は吸血鬼らしく、この銀髪もこの赤い瞳もそのご先祖様から受け継いできた物だと父から聞いているんです」
「ご先祖様が吸血鬼……」
「はい。そして、受け継いだのはそれだけではなく、先程から皆さんが話題にしている現象もそうなんです」
「現象……あ、もしかしてそれって……!」
「……はい。父によれば、私の瞳には父やご先祖様と同じ『魅了』の力が宿っているらしく、何らかの力を持っているかそういった力に耐性がある人以外が私の瞳を見てしまったら、この『魅了』の力で心を奪われてしまうのだそうです」
「それじゃあ、先生やクラスの皆がボーッとしていたのも……」
「はい、その通りです。ただ、私が指を鳴らす事でそれは解除できますし、一度掛かった人は一時的に耐性が出来、半年程度は掛かる事がありません。もっとも、ここにいる皆さんは最初から掛からなかったようですけどね」
その夜野の言葉に夕士と長谷は不思議そうに顔を見合わせていたが、座敷わらしの
……この反応、やっぱり海野達もこれまでに人ならざるモノ達と何らかの関わりがあったみたいだな。となると、海野達ももしかしたら雪村や金ヶ崎みたいに何かそのモノに関連した道具を持ってるのかもしれないけど、妖力と霊力の気配を感じる狐崎とは違って、海野と由利からはそういう気配は感じない事から考えるに、雪村みたいに何らかの事情があって、今は手元に置いてないか身に着けてなくても力を発揮する何かなのかもしれないな。
海野と由利に夜野の『魅了』が効かなかった事についてそんな事を考えていると、「そういえば……」と言いながら夕士が俺に視線を向けてきた。
「柚希、お前が夜野の『魅了』っていうのが効かなかった理由って、もしかしてその『ヒーリング・クリスタル』のおかげなのかな?」
「かもな。お呪い程度ではあるけど、これもそういうタイプのアイテムではあるしな」
夕士の問い掛けに対して、俺が『ヒーリング・クリスタル』を見せながら答えていると、狐崎と夜野の視線が『ヒーリング・クリスタル』へと注がれた。
「へえ……それ、『ヒーリング・クリスタル』って言うんだ」
「ヒーリングと言うからには、この水晶には癒しの力が備わっているのですか?」
「ああ。これを握ってると、疲れがスーッと無くなっていくし、怪我とか病気とかも治してくれるんだ」
「俺も前に体験した事があるけど、本当に不思議な程に疲れも取れるし、むしろ使った後の方が元気になった気がするし、あの時は本当に助かったよ」
「そうなんだ……あ、そういえば私も似たようなペンダントなら持ってるよ」
「え、そうなのか?」
「うん! ちょっと待っててね」
そう言うと、狐崎は服のポケットを探りだし、「……あ、あった!」と嬉しそうな声を上げたかと思うと、ポケットから手を出した。そして、握られていた手を開くと、そこには霊力の気配を放つ空色の麻紐が通された青色の水晶のペンダントと妖力の気配を放つ小さなお札が乗っていた。
……なるほど、狐崎から感じた『力』の気配はこれが放っていた物だったのか。
謎が解けた事で納得しながら軽く頷いていると、夕士は水晶のペンダントとお札を見ながら興味津々な様子で狐崎に話しかけた。
「へえ……朝香のは、青い水晶なんだな」
「うん。これは、一年生の頃にお父さん達からもらった物で、なんでも悪い物を寄せ付けないようにする力があるんだって。それで、このお札は同じ頃に椛さんからもらった物で、悪い物が襲ってきたらこれを貼る事で撃退できるって言ってたよ」
「なるほどな……」
「まあ、このペンダントのおかげなのかその悪い物っていうのには出会った事も無いから、このお札の出番は全くないんだけどね。ただ、椛さんの気持ちは嬉しいから、ペンダントと一緒でどこに行くにもずっと持ってるの。いつか、このペンダントでも力が及ばないような悪い物っていうのに出会うかもしれないしね」
「悪い物、か……」
夕士が狐崎の言葉を繰り返す中、俺はその言葉の意味を考えていた。狐崎の両親や椛さんという人が言う『悪い物』というのは、恐らく悪意を持って狐崎に近づこうとする人ならざるモノ達の事で、この水晶のペンダントやお札を狐崎に与えた理由は、そういうモノが狐崎に近づく恐れがあったからだと考えられる。
だけど、狐崎自身からは『力』の気配は感じられない事から、狐崎がそういうモノ達から力を目当てに襲われる可能性は考えられない。
そうなると……狐崎の両親と椛さんが水晶のペンダントやお札を渡した理由がまったく分からないけど、もしかしたら俺には想像もつかない理由でもあるのかもしれないな。
狐崎が持つ水晶のペンダントを見ながらそんな事を考えていると、夜野は突然俺達の事を軽く見回し、少し不思議そうに小首を傾げた。
「それにしても……不思議な道具をお持ちの柚希君と朝香さんはまだ良いとして、他の皆さんが私の話を疑わなかったのはちょっと不思議です。自分で言うのもあれですが、ご先祖様が吸血鬼だという事や『魅了』の力を持っている事などは、普通に考えれば眉唾物な話ですし、そんな血筋の者が近くにいるのは怖いとは思いませんか?」
「ん……まあ、他の奴ならそう思うだろうな。だが、俺達はこれまで雪女や人魚みたいな人間とは違うモノ達らしき姿を見た事があるから、他の奴よりはそういう話は身近なんだよ」
「だな。と言っても、全員が共通して見た事があるのは人魚らしい奴で、雪女は雪村だけだし、獏らしい奴は俺と雪村だけしか見た事が無いんだけどな」
「それに、私はお祖母ちゃんのお兄さんが持っていた『座敷わらしの力と想い』がこもっている石のペンダントを持っているから、私も疑うなんて事はしないかな。それに、翼ちゃんの事を怖いだなんて全然思ってないよ」
「皆さん……」
長谷達の言葉に夜野が少し驚いた様子を見せる中、俺はクスリと笑ってから夜野に話し掛けた。
「……まあ、つまりはそういう事だ、夜野。お前がご先祖様が吸血鬼だろうとお前の瞳に『魅了』の力があろうと俺達がお前を怖がるなんて事はありえないんだよ」
「それに、翼ちゃんはもう私達の大切な友達だもんね。そんな翼ちゃんを怖がるなんてするわけが無いよ」
「柚希君……朝香さん……」
「だから、これからの学校生活の中で、お前の『魅了』の力で何か起きたとしても俺達が色々サポートするよ。事情を知っている上に『魅了』が一切効かない俺達なら、余程の事が無い限り、対応できるだろうからさ」
「そうだな。それに……こういう時こそ俺達が周囲から得ている人気を利用するタイミングだからな♪」
「人気を利用って……長谷、お前っていつもそういうあくどい事を平気で思いつくよな……」
「ははっ、それ程でも無いぞ」
「いやいや、雪村は別に褒めてないって……」
笑いながら言う長谷に夕士が肩をポンと叩きながらツッコミを入れていると、それを見ていた夜野はどこか安心したような笑みを浮かべながらクスリと笑った。
「……やはり、皆さんはとても楽しく面白い方々ですね。ここに転校してくる事になった時は、色々不安がありましたが、こうして皆さんと出会えたのは本当に良かったです。皆さん、改めてこれからよろしくお願い致しますね」
その夜野の言葉に俺達は揃って頷いた後、再び下駄箱へ向けて歩き始めた。そして、夕士達が長谷に対して夜野の容姿などについて問い掛ける中、それに長谷がいつものように落ち着いて答え、金ヶ崎達女子組がとても楽しそうに他愛のない話を始める姿を見ていた時、俺はそんな平和な光景に安心感を覚えると同時に、思わずクスリと笑っていた。
……こういうのって、やっぱり良いよな。人間である夕士達が吸血鬼の血を引く夜野を受け入れ、仲間としてふれ合うという光景は。でも、人ならざるモノ達と暮らす者としては、
だから、これからも『絆の書』の皆とも協力して、そういう未来が来るように精いっぱい頑張っていかないとだな。
その光景を想像して、やる気が満ちてくるのを感じた後、俺は夕士達の会話に混ざっていった。
「それにしても……今日は本当に朝から色々な事があったなぁ……」
十数分後、いつもの場所で夕士達と別れた俺が、春風に吹かれて桜の花弁が舞い散る中を歩きながらそんな事をポツリと呟いていると、ずっと繋ぎっぱなしにしていた『伝映綱』を通じて風之真が話し掛けてきた。
『たしかになぁ……道に迷っていた転校生を学校まで案内してたら、その途中で妙な妖気を感じるし、もう一人の転校生が吸血鬼の子孫な上に『魅了』なんて物を掛けられる眼を持ってたなんて話、滅多にあるもんではねぇよなぁ……』
『そうですよね……でも、朝香さんも翼さんもとても良い方のようですし、そこは安心ですね』
『ああ。だが、件の妖気の主の正体はまだ分かってない事だけは少々気がかりだな……』
『そうなんだよな……警戒していた理由が、狐崎の周りに俺達がいたからなんじゃないかと思って、狐崎に一緒に住んでる人の数をそれとなく聞いてみたけど、狐崎の他には例の椛さんって人が住んでるだけらしいんだよな』
『ふーむ……って事は、あの朝香ってぇ嬢ちゃんとは無関係って考えちまって良いのかぃ?』
『いや、妖力が宿ったお札を渡している辺り、椛さんという人がただの人間には思えない。だから、妖気の主が椛さんの部下みたいなモノで、狐崎の事を心配した椛さんが様子を見に行かせていたとすれば説明はつきそうかな』
『なるほどのぅ……まあ、本当ならばあの朝香という少女の家に行ければ良かったが、朝香だけではなく夕士達すら予定があるとの事じゃったからな。今のところこの件については、どうしようもないじゃろうな』
『だな。それに、狐崎からは『力』の気配は感じなかった事から、椛さんが狐崎に自分の事を話してない可能性は高いし、変に訊いてこっちの事を話さないといけない事態になっても良くないからな』
『そうですね……』
『まあ、いつか知る事にはなるだろうし、今は様子見に徹するよ。無理やり知ろうとするのもなんか違うしな』
『ふふ、そうですね』
そんな会話を交わしながら歩く事数分、家の前まで着いた後、俺は家の中に入るためにポケットから家の鍵を取り出そうとした。すると、家の中から天斗伯父さんの神力の気配の他に霊力の気配が漂ってくるのを感じ、俺は「……またみたいだな」と呟いた。
これはアンやオルトと同じで、天上がらみのお客さんが来ているパターンだけど、今度はどんなモノが来ているのかな?
そんな事を思いながら期待で胸を膨らませつつドアをゆっくりと開けると、俺は「ただいま戻りました」と声を掛けながら家の中に入った。すると、居間へ差し掛かった時、横から突然軽い衝撃を受け、俺は思わず「えっ……!?」と声を上げてしまった。
な、何だ……!? またオルトみたいなやんちゃな奴でもいるのか?
そんな事を考えながらゆっくりそちらに視線を向けると、そこには五彩七色に揺らめく長い尾と三つに分かれた炎を思わせる形の尾羽、猛禽類のような鋭い嘴に煌めきを放つ冠羽を持った鳥のようなモノがおり、それはパタパタと羽ばたきながら滞空した後、俺の肩へ向けてスーッと飛び、そのまま肩にふわりと着地した。
この姿……うん、『アレ』で間違いないな。
特徴からそれの正体を確信していると、居間から困り顔の天斗伯父さんが姿を現し、俺達の姿を見た瞬間に安心したような笑みを浮かべた。
「おかえりなさい、柚希君。いきなりその子が飛び出して来て驚きましたよね?」
「ええ、まあ……ところで、天斗伯父さん。コイツは『シームルグ』で間違いないですよね?」
「はい、その通りです」
俺の問い掛けに天斗伯父さんがコクリと頷きながら答えると、『シームルグ』はとても安らいだ表情を浮かべながら小さく囀った。
『シームルグ』
鳥の王とも呼ばれるイラン神話に登場する治癒の力を持った羽を持つ霊鳥。様々な物語やゲームでも登場する程、その認知度は高く、その身体は象などを掴める程に巨大で、犬のような上半身に孔雀のような下半身を持つとされているが、猛禽類その物の姿で描かれる事もある。
やっぱりシームルグだったのか。そして、大人の鷹くらいあるとはいえ、体が明らかに小さい事を考えるに、コイツはシームルグの雛なんだろうけど、なんでシームルグの雛がここにいるんだ?
肩に乗っているシームルグの雛を見ながらそんな事を考えていると、天斗伯父さんはシームルグの雛を微笑ましそうに見つめながら静かに話し始めた。
「その子、柚希君の肩がだいぶ落ち着くのかスゴく安らいだ表情をしていますね」
「そうですね。それで、シームルグの雛がここにいる理由なんですけど、もしかして今朝言っていた用事に関係しているんですか?」
「はい、そうです。今朝、私は部下と一緒にこの子の親御さんのところを訪ねていまして、その理由を訊いてみたところ、この子を柚希君に預けたいと思ったから、伯父である私に来て欲しかったとの事でした」
「俺に預けたい……ですか?」
「はい。この子は生まれてからまだ二年ほどの雌の末っ子らしいのですが、先程柚希君も見たように、結構活発な子のようでして、少し目を離した隙にどこかへ飛び去ってしまおうとするため、親御さんも少し困っていたとの事でした。
それで、どうしたものかと考えていたその時、以前他の方から柚希君の話を聞いた事を思い出し、神の甥であり人ならざるモノ達と共に暮らす柚希君に預かってもらえれば、この子も色々な体験をする事で分別の付いたシームルグになってくれるのでは無いかと考え、まずは伯父である私に話をしたいという事で、今朝からシームルグさんの元を訪れていたんです」
「なるほど……俺はこの子を預かるのはもちろん構いませんけど、天斗伯父さんはシームルグさんの考えをどう思っていますか?」
「そうですね……私も柚希君ならば、この子をしっかりとしたシームルグとして育てられると思っていますよ。実際、先程まで以前のオルト君のように縦横無尽に動き回っていたこの子も柚希君が来た途端、肩に留まってとてもゆったりとしていますしね」
「……そういえば、オルトもそうでしたね」
「はい。なので、柚希君がこの子を預かるというのなら、私もそれを全力でサポートします。それが君を転生させた神であり君の伯父でもある私の務めであり望みでもありますから」
「天斗伯父さん……」
その俺への信頼に満ちた目を見た後、俺は肩に乗っているシームルグへ視線を移し、キョトンとした表情で俺を見ているシームルグに話し掛けた。
「……シームルグ、お前はどうしたい?」
「キュ……?」
「俺が預かるとすれば、お前はまだ幼い中で親元を離れ、全く知らない俺達と一緒に暮らす事になるけど、お前にとって親御さんや兄姉達と離れる事は寂しくないか?」
「…………」
「もし、寂しいと思うなら、俺はお前の意思を尊重するつもりだ。親御さんの気持ちも分かるけど、お前の気持ちを蔑ろするのはやっぱり違うと思うからさ」
シームルグに向かって思っている事を伝えると、シームルグは小首を傾げながら俺の顔をジッと見つめた後、「キュー!」と嬉しそうに鳴き声を上げ、俺の頬に頭を擦りつけ始めた。
「えっと……これは、つまり……」
「……はい、この子は柚希君といる事を選んだようです」
「シームルグ……」
「キューッ!」
シームルグが嬉しそうに鳴き声を上げた後、俺は「……分かった」と言いながら微笑み、天斗伯父さんへ視線を戻した。
「天斗伯父さん、シームルグの親御さんには喜んで預からせて頂き、しっかりとしたシームルグになるように育てさせてもらいます、と伝えてもらっても良いですか?」
「はい、分かりました。それと……親御さんからのお願いがもう一つありまして、もしも預かってもらえるなら名前も柚希君に付けてもらえないかとの事でした」
「名前も……ですか?」
「はい。なんでもどんな名前を付けようとしても納得する様子が無かったので、とりあえずシームルグという種族名から取ってルーシーとは呼んでいたようですが、もし可能ならばこの子が納得のいく名前を付けてみてもらえないかと仰っていたんです」
「なるほど……それじゃあちょっと考えてみますね」
そして、どこか期待に満ちた視線を向けてくる『ルーシー』を前に、俺は名前を考え始めた。
……さて、名付けは結構久し振りだからどうしたもんかな。とりあえずシームルグ要素は欲しいけど、たぶんそれに拘っても『ルーシー』は納得するとは思えない。だから、それ以外の何かも加えて……。
そうして考える事数分、ある名前を思いついた瞬間、「……よし、これだな」と独り言ち、俺は『ルーシー』にその名前を告げた。
「『ルーシー』、お前の事をこれからは『リルム』って呼ぼうと思うんだけど……どうかな?」
「キュ……」
俺からの問い掛けに『ルーシー』が軽く俯き、やっぱりダメだったかと思った瞬間、「キュー!」と『ルーシー』は嬉しそうに鳴くと、再び頭を俺の頬に擦りつけ始め、その姿に俺は安心感を覚えながら胸を撫で下ろした。
「……どうやら、気に入ってくれたみたいですね」
「そうですね。ところで、何故その名前にしたのか訊いても良いですか?」
「はい。まず、種族名のシームルグの要素を入れた名前にしようと思ったんですけど、そこに拘りすぎてもコイツは納得するとは思えなかったので、他に何か無いか考えてみたんです。そしたら、不意にシームルグの羽に備わっている治癒の力の事を思い出して、『シームルグ』と治癒の英語である『ヒーリング』を組み合わせる事にして、後は女の子らしい名前はどんなのかなと思いながら考えた結果、『リルム』になったんです」
「ふふ、そうだったんですね。私もその名前はとても素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます」
天斗伯父さんにお礼を言った後、空色の目をキラキラとさせながら俺を見つめる『ルーシー』改め『リルム』を見ながらニッと笑った。
「リルム、これからよろしくな」
「キュー!」
リルムが嬉しそうに返事をし、それに対して俺が優しく頭を撫でていると、『絆の書』の中から風之真が楽しそうな声で話し掛けてきた。
『へへっ、どうやら新しい出会いってぇのは、あれだけじゃ無かったみてぇだな』
『……そうだな。まあ、そういう事で新しい仲間が加わったから、皆もリルムの事をよろしく頼むぞ』
『ああ、もちろんだ』
『了解です、柚希さん!』
『私達も全力で柚希をサポートしつつ、リルムのお世話をするよ!』
『ああ、よろしくな』
『絆の書』の皆からの言葉に頼もしさを覚えた後、俺はリルムに『絆の書』の事や俺の事についてなどを話した。そして話し終えると、リルムは「キューッ!」と大きく鳴き声を上げながら右の翼を上へと上げた。
……うん、どうやら理解はしてくれたみたいだし、早速やっていくか。
そう思った後、俺は『絆の書』の空白のページを開き、左手で『絆の書』を持ちつつ空白のページに右手を置きながらリルムに話し掛けた。
「それじゃあ頼むぞ、リルム」
「キュ!」
リルムは大きく頷きながら返事をすると、右の翼を空白のページへと置き、それと同時にいつも通りに目を閉じながら体中を巡る魔力が右手を通じて『絆の書』へと流れ込むイメージを頭の中に浮かべ、それに続いて右手にある穴から『絆の書』へと魔力が注ぎ込まれていくイメージが浮かぶのを感じながらそのまま『絆の書』に魔力を流し込んでいった。
……よし、これで良いな。
そして、右手を離しながら目をゆっくりと開けると、そこには晴れ渡った青空を気持ち良さそうに飛ぶリルムの姿とシームルグについて詳細に書かれた文章が浮かび上がっていた。
「……うん、今回も無事に登録できたな。さてと、せっかくだからこころにも出てきてもらうかな」
そう言いながら『絆の書』をパタンと閉じ、再び魔力を注ぎ込むと、リルムを肩に乗せながらニコニコと笑うこころが『絆の書』から姿を現し、俺はこころにアイコンタクトを送ってからリルムに話し掛けた。
「お疲れ様、リルム。居住空間はどうだった?」
「キュー!」
「……ふふ、居住空間はとっても良い場所で、これから探険するのが楽しみだと思っているようですよ」
「そっか……それなら良かったよ」
「そうですね。さて……それでは、そろそろお昼ご飯にしましょう。柚希君、リルムさんの登録で疲れているかもしれませんが、こころさん達と一緒にお手伝いをお願いしても良いですか?」
「はい、もちろんです! よし……やるぞ、こころ」
「ふふ……はい♪」
「キューッ!」
こころと一緒にリルムが返事をした後、俺はランドセルを置きに行くために一度自分の部屋へと向かいながら『絆の書』に再び魔力を注ぎ込んでいった。
狐崎から始まって、夜野、リルムと今朝の占いの通りに新たな出会いが続いたわけだけど、この出会いにはきっと何らかの意味があるんだろう。だから、その意味をしっかりと考える事を忘れずに、皆との出会いは大切にしないといけないな。
そんな事を考えながら、こころやリルムと笑い合いながら話をする『絆の書』の皆、そしてそれを微笑ましそうに見つめる天斗伯父さん達の姿を見ながら俺は春風が運んできた新たな出会いに感謝の気持ちを抱いていた。
「……はぁ、今日は本当に良い日だったなぁ……♪」
夕方、はらはらと落ちてくる桜の花弁を見ながら縁側に座って足をブラブラとさせていると、「……ほう、ここにおったか」という声が聞こえ、私はそっちに顔を向けながら視線の先にいた鮮やかな紅葉の柄の和服姿の人に声を掛けた。
「椛さん、私に何か用だった?」
「いや、そういうわけでは無い。ただ、部屋にはいないようだったので、どこに行ったかと思っておっただけじゃ」
「……そっか。ところで、みんなは?」
「……ああ、アイツらも思い思いの場所でのんびりとしておる。お主が少しは休むように言った事で、休むという事を覚えたようじゃからな」
「……それなら良かったよ。それじゃあ、椛さんも私と一緒にのんびりしようよ。夕御飯の準備まではまだもう少し時間があるでしょ?」
ニコリと笑いながら言うと、椛さんは一瞬驚いたような顔をしたものの、それはすぐに微笑みに変わり、頭からピョコッと生えている
「……うむ、今日も良い春風が吹いておる。こんなに良い風が吹くのなら、今宵は酒呑童子と宴をした際に貰った盃で酒を飲むのも良いかもしれぬな」
「あははっ、それも良いかもね。でも、あの盃は結構大きいし、椛さんくらいじゃないとすぐに酔っ払っちゃうんだよね」
「……まあ、それは仕方あるまい。あの盃にはちょっとした呪いも掛かっておる上、ワシが好む酒は軒並み度数が高い物なのだからな」
「そうだったね。でも、私もいつかはそんな風になれるかな? 椛さんみたいにお酒に強くて、とっても頭の良い和服美人に」
「……さてな。酒の耐性については各々によって異なる故、ワシにはどうにもならん。しかし、お主は母親に似て他者から好かれる顔立ちをしておるし、父親に似て人懐っこい上によく気のつくところがある。故に、そのままのお主でいれば、様々な者達から恋い慕われる事となるだろう」
「……そうかな?」
「ああ。それに……恋しい者が出来れば、自然と身の回りに気をつけるようになり、己の磨き方も洗練されてくる。恋する者とは得てしてそういう物なのだからな」
「……椛さんも?」
「……さてな。そういうお主はどうなのじゃ? 昼にも話は聞いたが……その中でお主が特に好いている
ニヤニヤと笑いながら言う椛さんの言葉に一瞬ドキッとしていると、椛さんは愉快そうにクスクスと笑った。
「……やはり、お主はわかりやすいのう、朝香。まあ、お主の事が心配だからと言って、様子を見に行った者達から何やら朝香に気になる男が出来たかもしれないとは言われておったから、その反応が無くとも分かっていた事ではあったがな」
「も、もう……椛さん!」
「はは、すまんすまん。お主の両親も幼子の頃からそうであった。お互いに好いているのは誰の目から見ても明らかであったというのに、当人達はそれに気付かず気持ちの行き違いばかり起こして……ワシが仲を取り持つために何度心を砕いたかわからんくらいじゃった」
「……そうだったんだ」
「ああ。まあ、お主がその男と恋仲になりたいと思った時も手助けはしてやるつもりじゃ。ワシは古の頃よりお主の一族と共に生きていくと決めたのじゃからな」
「椛さん……うん、ありがとう」
「……どういたしまして」
私と椛さんが笑い合っていたその時、「椛様ー! 朝香様ー!」と嬉しそうに言う声が聞こえ、私達はそちらに視線を向けた。すると、そこには水色の着流しを着た短い黒髪の色白の若い男の人がおり、その姿に椛さんは不思議そうに首を傾げながらその人に話し掛けた。
「
「先程、新鮮な魚と野菜が届きましたので、早速お二人にお伝えしようと思いまして!」
「ほう……それは良い事を聞いた。湊、他の者達にも夕飯の手伝いを頼んできてくれるか?」
「はい、お任せ下さい!」
湊さんは弾んだ声で答えると、嬉しそうに走り出し、その姿を見た椛さんは少し呆れた様子を見せた。
「やれやれ……元気なのは良い事じゃが、もう少し落ち着きを持ってくれても良い気がするのう……」
「ふふ、そうかもね。さてと……それじゃあ私達も行こっか、椛さん」
「うむ」
椛さんが頷いた後、私は椛さんと一緒に立ち上がり、今日出会った夕士君達の姿を思い出しながらクスリと笑った後、他のみんながいるであろう台所へ向けて歩き始めた。
夜、図書室から持ってきていた本を戻しに行く途中、お父様達の部屋に電気がついているのが見え、私はおやすみの挨拶をするために部屋のドアをノックした。
すると、「どうぞ」という声が聞こえたため、私が「失礼します」と答えてから中に入ると、お父様は椅子に座って読書をしていたらしく、私の姿に気付くと、「ほう……」と少し驚いたような顔をしながら声を漏らし、読んでいた本をパタンと閉じた。
「誰かと思ったら翼だったのか。もう眠るところだったのかい?」
「はい。ですが、その前に図書室から持ってきていた本を返しに行こうと思いまして」
「くく……そうだったのか。まあ、お前も私と同じで夜の闇でも目が見えるから問題は無いと思うが、足元には気をつけていくんだよ?」
「はい、もちろんです。ところで……お母様は?」
「彼女ならメイド達と話をしに言っているよ。向こうの家に住んでいた頃から仲は良いからね、色々話したい事があるのだろう」
「なるほど……」
たしかにお母様はメイドさんや使用人さん達からとても慕われていますからね。時々、皆さんと一緒にお茶を飲んだり、趣味についてのお話をしたりしてコミュニケーションを取るようにしている姿をよく見かけますし、お父様のお話も納得です。
そんな事を考えながら頷いていると、お父様はクスリと笑ってから私に話し掛けてきた。
「ところで、翼。昼にも聞いたんだが、新しい学校では上手くやっていけそうかい?」
「はい。うっかりしていて『魅了』を何人もの方に掛けてしまいましたが、この力や私の血筋を知ってもなお、サポートをしてくれると言ってくれた方々に出会えましたから、私はあまり心配をしていません」
「……ああ、昼に話していた遠野柚希君や長谷泉貴君、それに金ヶ崎雫さんや狐崎朝香さんの事だね。たしか『魅了』が効かなかったと言っていたが、その中に何らかの力を持っていると思えた子はいたのかね?」
「そうですね……柚希君と朝香さんは特別な力を持ったアイテムを持っていた上に柚希君からは魔力とも違った力の気配を感じましたし、雫さんや雪村君も同様に何らかのアイテムを持っている様子でした。ですが……夕士君と長谷君だけはそれらしいアイテムを持っている様子が無かった上に力の気配を感じませんでした」
「……ほう? それなのに、『魅了』を無効化したのか。ふふ……それは中々面白いじゃないか。まあ、まだ力に目覚めていないだけで、危機回避のためにそれが一時的に働いた可能性もあるが、その二人も中々興味深いようだね……」
お父様が楽しそうに笑い始める姿に、私は小さく溜息をついた後、釘を刺すために話し掛けた。
「……お父様、面白がるのは良いですが、分かっていますよね?」
「ああ。お前の友人だからね、危ない目には合わせないさ」
「……それなら良いです。さて……それでは、私はそろそろ失礼しますね」
「ああ、分かった。おやすみ、翼」
「はい、おやすみなさい、お父様」
お父様からのおやすみの挨拶に答えた後、私はゆっくりと部屋を出て、静かにドアを閉めた。そして、再び図書室へ向けて歩き始めた時、窓枠に嵌められたステンドグラス越しに入り込んできた月光の美しさにふと目が行った。
「……今日の出会いが、この先の未来でどのような出来事を起こすのかはまったく分かりませんが、皆さんと出会えた事にはしっかりと感謝しないといけませんよね。なにせ、吸血鬼の血を引く私を受け入れて下さったのですから」
今日出会った皆さんの姿を思い出しながら窓から見える青白い月を見上げた後、私は月の力で魔力が少しずつ回復していくのを感じた。そして、しばらく月光を浴びた後、私は図書室へ向かうために誰もいない廊下をゆっくりと歩いていった。
政実「第22話、いかがでしたでしょうか」
柚希「今回の話で新キャラが出て来て、なんだかそれぞれ夕士と長谷との関わりが深くなりそうだけど、それぞれ色々な事情がありそうな感じだよな」
政実「そうだね。朝香と翼はこれからも出していくし、これからの話の中でそういうのも出していくつもりだよ」
柚希「分かった。そして最後に、今作についての感想や意見、評価などもお待ちしているので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚希「ああ」
政実・柚希「それでは、また次回」