黒銀「どうも、琴古主の黒銀じゃ」
アン「どうも、アンズーのアンです」
政実「今回は黒銀とアンがメインのAFTER STORYです」
黒銀「儂とアンがメインという事は、初回で言っていたように視点変更もしていくのか?」
政実「そうだね。と言っても、今回は二人だから、まだそんなにコロコロと変わる感じにはならないけどね」
アン「分かりました。それでは、そろそろ始めていきましょうか」
政実「うん」
黒銀「うむ」
政実・黒銀・アン「それでは、THIRD AFTER STORYをどうぞ」
七月も終盤へと差し掛かり、蒸し蒸しとした暑さからカラッとした暑さへと変わり始めたある日の昼頃、儂は世話になっている遠野家の和室で一人『依り代』である
「ふうむ……思っていたよりも中々思い浮かばぬ物だな。
溜息交じりに独り言ちる中、箏はただ静かに佇むだけで何も答えず、儂は再びゆっくりと溜息をついた。
「やれやれ……ただの箏から
何かを生み出すという事が難しいというのは分かっていたが、まさかここまでとは……。まったく……儂の持ち主であったという人間は、本当に大した奴だったようじゃな……。
そんな事を考えながら本日何度目になるか分からない溜息をついた後、どうしたらよいか考え始めようとしたその時、「……あ、黒銀さん」とどこか嬉しそうな声が背後から聞こえ、ゆっくりと振り向いてみると、和室の入り口には儂と同時にこの遠野家に世話になる事になったアンズーのアンの姿があった。
「アンか……どうかしたか?」
「あ、はい。そろそろお昼ご飯の時間のようだったので、黒銀さんを呼びに来たんです」
「そうか……わざわざすまなかったな、アン」
「いえいえ。ところで……先程、何か考えているようでしたが、何かお悩みでもありましたか?」
「あ、ああ……まあな。昨晩、琴古主となったからには、何か箏曲でも作ろうと思ったのでな。どのような曲が良いか朝食後からずっと考えておったのだ。だが、どうにも上手く行かなくてな……」
「そうだったんですね……私も何かお手伝い出来れば良かったんですが、曲作りの事についてはまったく詳しくないもので……」
「気にせんでよいぞ、アン。その気持ちだけでも充分嬉しいのだからな」
「黒銀さん……」
アンが心配そうに儂を見つめる中、それに対して微笑みながらゆっくりと首を横に振った後、儂は静かに立ち上がりながらアンに声を掛けた。
「さて……それでは、行くとしよう。これ以上、柚希達を待たせるわけにもいかんからな」
「は、はい……」
そして、アンを肩に乗せながら和室を出た後、柚希達がいるであろう居間へ向けて歩いていた時、「そういえば……」とアンは何かを思い出したように声を上げると、少し嬉しそうな様子で儂に話し掛けてきた。
「お互いこのお家にお世話になる事にして、もう少しで一ヶ月が経ちますけど、黒銀さんはここでの生活をどう思っていますか?」
「……ふふ、何だかんだで楽しいと思っておるさ。柚希や
「ふふっ、そうですね。私も同じく、ここでの生活はとっても楽しいですし、色々学ばせてもらっています」
「そうじゃな。ここで起きる出来事は、あの山中の集落にいた頃には決して起きぬ事ばかりじゃからな」
「……そういえば、黒銀さんは元々はそこにあった
「ああ。と言っても、儂が琴古主となった頃には、誰も住んでおらん消滅集落と呼ばれる物になっておったようじゃがな」
そんな事を話しながら儂はここに世話になる事になった経緯を想起した。
今からおよそ2週間前の七夕の朝、儂は山中のある集落の中にあった屋敷内でただの箏から付喪神である琴古主に成った。そして、琴古主となった事に驚いている内に、『依り代』がこれまで辿ってきた出来事が突然頭の中に流れ込み、更に驚く事となったが、その『記憶』を辿る内に儂の中でしかし、その頃には既に儂の持ち主だけでなく、持ち主が住んでいた集落の住民は一人もおらなかったらしく、儂は寒々しい部屋の中でただ佇んでいるしか無かった。
そして、その内に寂しさのような物を感じていたその時、儂の目の前に現れたのが、数人の部下を連れた儂達『絆の書』の住人の主である遠野柚希の伯父であり、柚希を転生させた張本人──いや、『張本神』の遠野天斗だった。
天斗は儂が既に琴古主に成っている事に驚きながらも和やかに儂に話し掛けてきたが、儂は突然現れた天斗達の事を訝しみ、素っ気ない返事ばかりをしていた。
そしてそんな会話を続けていたその時、天斗は何か思いついたような表情を浮かべると、よければ自分の家に来てはくれないかと言ってきた。儂はその天斗の提案の意味が分からず、そんな提案をしてきたのは何故なのかと問い掛けると、この集落に儂をこのまま置いておくと、儂の姿を見た周辺の住民達から化け物が出る場所だと騒ぎ出す可能性がある上、それを面白がった者達が次々と来て、この消滅集落が荒らされる事にもなりえると返してきた。
儂はその話を聞き、それでは天へと昇った儂の持ち主や集落の住民の魂が哀しむと思い、天斗の提案に乗り、遠野家へとやって来たのだった。
……まあ、儂を遠野家へと連れて行った後、その集落が荒らされる事が無いように色々取り計らったり、儂の持ち主に儂の現在について報せに行ってくれたりしたらしいから、天斗には柚希達と出会わせてくれた事も含めて本当に感謝せねばいかんな。
天斗への感謝の念を抱きながらアンと共に進む事数分、儂らが居間に着いてみると、せかせかと昼食の手伝いをしていた柚希が不意に儂らへと視線を向け、嬉しそうにニコリと笑った。
「黒銀、アン、もう少しで準備が終わるから、それまでソファに座って待っててくれ」
「分かった」
「はい!」
儂らの返事に柚希がコクンと頷き、再び準備に取り掛かりだした後、儂らがソファへ視線を向けると、そこには楽しそうに話をする
「お主ら、何やら楽しそうに話をしておるが、何の話をしておるのだ?」
「ん? おお、黒銀の旦那にアンじゃねぇか。いやな、午後からどう過ごすかってぇのを話してたんだよ」
「午後からの過ごし方……ですか?」
「ふふ、はい。今日は夕士さんや長谷さんもお家の予定がある上、合気道の練習もお休みという事で、柚希さんもずっとお家にいるみたいでしたので、せっかくなので私達も今日はお家の中で過ごす事にしたのですが、どのように過ごそうかまだ明確に決まってないんです」
「なるほどのう……たしかに儂やこころはまだしも、風之真は散歩に行ったり外出する柚希にくっついていったりする事が多いから、風之真の場合は家での過ごし方は少々悩むところかもしれんな」
「そうなんだよぁ……まあ、候補としては柚希の旦那が読書してるのに付き合って知識を蓄えるとかこころと一緒に庭の花の手入れをするとかが挙がってるんだが、黒銀の旦那やアンは何か良い案は無いかぃ?」
風之真からの問いかけに儂は少し考えてから答えた。
「そうじゃのう……柚希に時間があるなら、様々なモノ達の話を聞くというのはどうじゃ?」
「あ、たしかにそれは良いですね。これからも私達は色々な人ならざるモノ達と会う事にはなると思いますし、予め知識を持っているのと持っていないのではだいぶ心構えや対応の件で違いが出ますから」
「ふんふん、なるほどなぁ」
「たしかにそれはとても良い事だと思います。私も人間と人ならざるモノ達の架け橋となる事を目標としていますし、アンさんを含めて妖以外にもどのような方々がいるのかは知っておきたいですから」
「ははっ、違ぇねぇや。俺ももう後悔しねぇように色々な知識を取り入れてぇと思ってるし、色々知れるんなら大歓迎だ。ってぇ事で、その案は参考にさせてもらうぜ。黒銀の旦那、アン、本当にありがとうな」
「お二人ともありがとうございます」
「ふふ、礼には及ばんさ」
「そうですね。お二人にはいつも色々とお世話になっていますし、何か困っていらっしゃったら相談に乗ったり、一緒になって考えたりするのは当然の事ですから」
「そうかいそうかい……そんじゃあ、
ニヤリと笑いながら言う風之真の言葉に儂とアンが揃って驚いていると、風之真は両手を軽く広げながらなんて事無い様子で口を開いた。
「二人ともだいぶ驚いてるようだが、このくれぇ分かって当然だぜ? 話をしてる時、黒銀の旦那の方は表情が少し暗く感じたし、アンはアンで何か心配そうに黒銀の旦那を何度かチラッと見てたしな。そうだよな、こころ?」
「はい。なので、私達もお二人のお悩みに協力をさせては頂けませんか?」
「正直、悩みの内容までは見当がついてねぇし、俺達がどこまで手助けできるかは分からねぇが、俺達は俺達なりに解決へ向けて精いっぱい頑張らせてもらうつもりだ。さっき、アンが俺達にいつも世話になってるって言ってたが、俺達だって二人にはちょくちょく手伝ってもらったり、話を聞いてもらったりしてるからな」
「こころさん……風之真さん……」
「もちろん、そういうのはいらないと仰るなら、私達は大人しく見守るだけにしますが……どうでしょうか?」
「そうじゃな……」
こころからの問い掛けに対し、顎に手を当てながらどうしたものかと少し考えた後、儂は顎から手を離しながら考えた結果を話した。
「……それなら、お主ら達にも手伝ってもらう事にしようかの。そう言ってくれたのを
「ふふ……そう言ってもらえて良かったです。さて……そのお悩みなんですが、どちらかと言うならアンさんも私達と同じ立場である上、アンさん自身にも何かお悩みがあるという事で、よろしいんですよね?」
「ん、そうなのかぃ?」
「ほう……それは初耳じゃな」
「あ、はい。説明不足ですみません……」
「ははっ、そんなの気にすんなって。アンだって俺達の大切な仲間だからな」
「そうじゃな……儂の悩みをまるで自分の事のように心配してくれていた分、儂もお主の悩みが解決できるように全力であたらせてもらうぞ」
「お二人とも……はい、ありがとうございます!」
「さて……それじゃあ早速──と言いてぇところだが、準備もしてもらってるから、まずは腹拵えだな。それに、腹をしっかりと満たさねぇと、思いつくもんも思い付かなくなっちまうからな」
「……ふふ、そうじゃな。さて……風之真、こころ、アン、よろしく頼むぞ」
「おうよ!」
「「はい!」」
風之真達の返事を聞き、それに対して儂は心強さを感じた後、仲間達がいてくれる事への心地良さに浸りながら風之真達と共に話を始めた。
昼食後、私と黒銀さんは風之真さん達を連れて和室へと戻ると、全員分の座布団を敷き、各々思い思いの座布団に座った。そして、風之真さんは全員が座った事を確認すると、コホンと一つ咳払いをしてから静かに口を開いた。
「さて……それじゃあ早速話を聞かせてもらっても良いかぃ? まずは……黒銀の旦那からだ」
「うむ、分かった。それでは話すが……今、儂は新たな箏曲について悩んでおるのだ」
「なるほど……つまり、新しい曲のアイデアに悩んでいるという事ですね?」
「そういう事だ。アンには話したのだが、せっかくこうして琴古主となったからには、儂の持ち主だった人間と同じように箏曲を作っていきたいと思った。しかし、まったくどのような曲が良いか思い付かず、朝食を食べ終えてからずっと考え続けていたのだ」
儂が話を終えると、風之真は少し難しそうな顔をしながら腕を軽く組み始めた。
「ふーむ……俺はそっち方面には明るくねぇからこれといったこたぁ言えねぇが、俺にとってそういう曲ってぇのは、作り手の思いや願いが込められてるイメージが強ぇかねぇ……」
「作り手の思いや願い……」
「おうよ。柚希の旦那と一緒になって本を読むようになってから思い始めたんだが、曲に限らず、物語や詩なんかもその作り手の思いや願いみてぇなのが大なり小なり内包されていて、俺らはそれを感じ取る事で感銘を受けたり、影響をされたりするんだと思うんだ。もちろん、その思いや願いは必ずしも良い物ばかりじゃねぇし、その取り方次第では良い物だったはずの物が悪い物として取られる事もあるし、取り入れた結果として悪事を働く奴だって恐らく出てくる」
「そうですね……取り方は人それぞれですから、場合によってはそういう事もあるかもしれません」
「だが、自分が誰かに伝えたい思いや願いがあるなら、それを込めて何かを作るってぇのはありだと俺は思う。まあ、これはあくまでも俺個人の考えだから、参考程度に留めといてくれ」
「ああ、分かった。だが……」
「ん、何だぃ?」
「いや……話をしている時の風之真の顔が、どことなく柚希と同じように見えてな」
黒銀さんの言葉を聞くと、風之真さんは心から嬉しそうな顔をした。
「おっ、そうかぃ? へへ、そいつぁ嬉しいねぇ」
「そう……なんですか?」
「おうよ! 何と言っても俺は柚希の旦那の一番の弟分だからな。柚希の旦那と似てるとか同じって言われるのは、やっぱり嬉しいもんだ」
「そういう物か……まあ、それなら柚希の良い部分を見て、更にそれを高めながら自分だけの良い点も伸ばしていくのが良さそうじゃな」
「へへ、だな! さて……こころ、お前は何かあるかぃ?」
「そうですね……私は身近な物や自然からヒントを貰うのも良いと思います。正直、私も作曲などには詳しくないですが、私は日常の中にある様々な音にも旋律がある気がするんです」
「……あ、そういえばこの前、こころさんと一緒にお家の中を歩いていた時、柚希さんが縁側で雨が降っているのを楽しそうに眺めているのを見かけて、その理由を訊いてみたら雨音を聞いているんだって答えていましたね」
「はい。柚希さん曰く、雨音にも色々あるらしく、よく聞いてみれば雨粒が当たる場所や雨の強さによってもその音は少し違うみたいなのです」
「ふむ……なるほどな。つまり、そういった日常的な音を聞き、それらを元にして箏曲を作るのも手だという事か」
「その通りです。後は……少し風之真さんと被ってしまうかもしれませんが、誰かを想って曲を作るのも良いのかもしれません」
「誰かを……想う?」
こころさんの発言に黒銀さんが小首を傾げると、こころさんは上品そうな笑みを浮かべながらコクンと頷いた。
「自分にとって大切な人やお世話になった人、そういった誰かへの想いを曲の旋律に篭め、その想いを胸に箏を弾く事で人の心を打つ曲になると思うんです。私にとって、一族のみんなや両親、柚希さんや皆さんがそうであるように黒銀さんにもそういった誰かがいらっしゃると思うので、その想いを篭めてみてはいかがでしょうか」
「想いを篭める、か……思えばそういった事をしてみようとはしていなかったな」
「ふふ……それなら、一度試してみてはどうでしょう? もしかしたら、思っていたよりもすぐに浮かぶかも知れませんよ?」
「そうじゃな……試してみるとしよう」
「おう! さてと……アン、おめぇは何かあるかぃ?」
「えっと……私は既存の曲から何かヒントを得られないかと思っています」
「既存の曲か……たしかに儂も持ち主だった男が生前に作った曲や他の者が作った曲を演奏できるから、それを弾く事で何か得られるかもしれぬな」
「へへ、だな! さて……黒銀の旦那、ここまで色々な案を出してきたが、作曲の方は何とかなりそうかぃ?」
ニッと笑いながら風之真さんが訊くと、黒銀さんは優しく微笑みながら静かに頷いた。
「……ああ。まだ試してはいないから、どうなるかまでは分からんが、どの案もとても良い物だと思っておる。後はそれらを試してみるだけだ」
「まあ、それが良いだろうな。それじゃあ今度は……アン、おめぇの悩みの解決と行こうかね」
「は、はい……!」
突然話を振られた事で少し驚きながら答えると、風之真さんはからからと笑い始めた。
「はっはっは! 突然話し掛けられたから、ちっと驚いちまったか?」
「え、と……はい……」
「へへっ、そいつぁ悪かったな。んで、おめぇの悩みったぁいってぇ何なんだ?」
「私の悩み……それは、
「自分に自信を持つ方法……か?」
「はい……」
少し驚いた様子を見せる黒銀さんに返事をしながら、私はここにお世話になるまでの経緯を想起した。
私は風の神様であるエンリル様に仕えるお母さんから生まれた三姉妹の末っ子だけど、物覚えも良くて頭も切れるお姉ちゃん達とは違って、どんなに色々な事を教えてもらってもそれをしっかりと行えず、いつしか自分はダメダメな子なんだと思うようになり、自分に自信を持つ事が出来なくなっていた。
そんなある日、エンリル様とお母さんが話しているのを見て、私をエンリル様に仕えさせるのを止めさせようとしてると思い、一人で勝手にショックを受け、意気消沈しながら部屋に閉じこもっていた。
そしてそれから数時間後、エンリル様とお母さんから一緒に来るように言われ、遂にその時が来たかと思いながら着いていくと、到着したのが天斗さんが神様としての姿であるシフルさんとして勤めている執務室だった。
そこはベージュ色の壁紙が貼られていて、クリーム色の絨毯が敷かれたお部屋で、中心にある大きな机と椅子、そしてそれを囲むように置かれた多くの本棚以外には何も置かれていなかったけれど、空気がとても澄んでいて居心地がとても良い場所だった。
そんな事を思っている間、私はの頭の中からさっきまで思っていたような事はスーッと無くなっていたけれど、柚希さんの言うところの神様モードになっていた天斗さんが、エンリル様に訪ねてきた理由を尋ねた瞬間、私の気持ちは再び沈み、今すぐにでもこの場を離れたいという気持ちでいっぱいになっていた。
そして、そんな気持ちを抱きながらエンリル様や天斗さん達の話を聴く事数分、エンリル様達が私を連れてきた理由が、私に世界を見せてほしいという物だと聞いた瞬間、私は勝手に愛想を尽かされたのだと思い、一人で悲しみに暮れていた。私は何故こうもダメなのだろう、私は何故お姉ちゃん達のように出来ないのだろう。そんな気持ちが私の中でグルグルと回る中、私は涙を堪えながらエンリル様とお母さんにお別れを言い、天斗さんに連れられてこのお家へとやって来た。
そして、天斗さんから優しく声を掛けてもらった時、堪えていた悲しさが溢れ出し、涙が堰を切ったように流れ出していた時に柚希さん達が帰ってきたのだった。
……あの日、柚希さんの提案で皆さんと一緒に星空を眺めたあの七夕の日、あの日に私は立派なアンズーになるための私らしいやり方を見つけると誓い、このお家にお世話になる事を決めた。
けれど、そのためにはやっぱり自分に自信を持つ事が出来ないとダメな気がする。自分の行動に自信を持てなければ、どんなに良い方法を思い付いても、それを実行する事が出来ないから……。
「皆さん……自分に自信を持つには、どうしたら良いと思いますか?」
その私の問い掛けに、こころさんと黒銀さんはどうしたものかといった様子で顔を見合わせていたけれど、風之真さんだけは腕を組みながら難しい顔をしていた。こころさんのように他の人の心の声が聞こえないため、風之真さんが難しい顔をしているのが、私には風之真さんが本当にどうしたら良いのか分からないからそんな顔をしているように見えていた。
……やっぱり、こんな悩みを話しても皆さんに迷惑だったのかもしれない……。
そんな事を考え、もう少し自分で考えてみる旨を伝えようとしたその時、「……なあ、アン」と風之真さんが腕を組みながら私に話し掛けてきたため、私は突然話し掛けられた事に再び驚きながらもそれに返事をした。
「は、はい……なんでしょう……?」
「あくまでも俺の考えなんだが……その悩みを解決できるのは、たぶんおめぇしかいねぇぜ?」
「……え? そ、それって一体……?」
「……ああ、間違っても考えるのが無理そうだからそう言ってるんじゃないぜ? 色々考えた結果、そんな答えに辿り着いただけだ」
「は、はい……」
「んで、どうしてそんな事を思い付いたかなんだが……アン、『自信』って漢字でどう書く?」
「え、えっと……『
「そうだ。自らを信じる、それが自信って奴だ。という事は、まずアン自身が自分を、自らを信じてやらなきゃ、自信を持つなんて出来やしねぇんじゃねぇかな?」
「私自身が私を信じる……」
「ああ。この場合の自分ってのは、自分の中にある能力や知識、それと経験や記憶見てぇな物を引っくるめたアン自身の力だ。アン、いくら失敗続きだったからと言っても、おめぇにだって本を読んで得た知識やこうしたらどうなるみてぇな経験はあんだろ?」
「はい……」
「それなら、まずはそれらを信じて色んな事をやってみろ。そして、失敗してもへこたれずにどうして失敗したかみてぇな反省点を自分で考えて、それをどうしたら良いか答えが出たら、最初の内は柚希の旦那や義智の旦那辺りに相談をしてみると良い。
そうやってる内に、失敗続きだった事も成功が重なって、段々自信を持てるようになり、自分はどうやったら良いのか分かってくるはずだからな」
「風之真さん……」
「まあ、相談するなら俺達でも別に良いぜ? 黒銀の旦那と違って、俺とこころはおめぇと一緒でまだペーペーのがきんちょだが、今みてぇに一緒になって考えたり、自分なりの考えを話してやったりは出来っからな。な、こころ、黒銀の旦那」
風之真さんがこころさんと黒銀さんに視線を向けながら言うと、お二人は笑みを浮かべながら静かに頷いた。
「……ふふ、そうですね」
「こうして巡りおうたのも何かの縁。仲間であるお主の力となれるなら、儂も相談相手や話し相手になるとしよう」
「皆さん……本当にありがとうございます……!」
嬉しさから目から涙が溢れ、涙交じりになりながら皆さんにお礼を言っていると、風之真さんはニッと笑いながら首を横に振った。
「いいや、礼なんていらねぇさ。俺達だっておめぇの助けになりてぇからな。ところで、こころと黒銀の旦那は何か他に案はあるかぃ?」
「……いいえ、私もそれが良いと思います」
「うむ、そうじゃな。自信の持ち方など十人十色だと思っていたから、どう答えた物かと思っていたが、風之真の答えを聞いて、アンにはその方が良いと思ったからな。儂も異論はないぞ、風之真」
「おう、分かった! さて……ここまでだいぶ話したが、俺達の話はあくまでも参考程度に考えてくれて構わねぇ。さっき、黒銀の旦那は俺達の案はとても良い物だから、色々試してみると言ってくれたが、俺達の案が必ずしも合うとは限らねぇからな」
「そうじゃな。今日出た案とはまた別の物で解決する可能性もあるからな」
「そういう事だ。だが、もしも今回の件に関してまた何か悩みが出て来たり、他の悩みが出て来たりした時は、また遠慮無く相談をしてくれ」
「その時は、また今回のようにお話を聞いたり、一緒に解決の糸口になる物を見つけられるように頑張りますから」
「……ああ、その時はまたよろしく頼む。じゃが……」
「それは風之真さんとこころさんも同じですからね? 何かお困りの事やお悩みがあったら、遠慮無く相談をして下さいね」
「……おうよ!」
「その時はよろしくお願いしますね」
「うむ」
「はい!」
そして、私達が笑い合っていたその時、廊下の方からゆっくりと誰かが歩いてくる足音が聞こえ、私達が揃って廊下に視線を向けると、襖の陰から柚希さんがひょこっと顔を出した。
「よっ、みんな。黒銀とアンの悩みは解決したか?」
「ん? ああ、まあほとんど解決したと言っても良いが……柚希の旦那、黒銀の旦那やアンが悩みを抱えてた事を知ってたのかぃ?」
「まあな。流石にどんな悩みなのかは分かってなかったけど、波動から何か悩んでたのは知ってたよ。ただ……なんだか風之真とこころがそれに関わろうとしてたみたいだったから、とりあえず風之真達に任せて、難航しそうだったら俺も関わろうと思ってたんだ。もっとも、俺が関わるまでも無かったようだけどな」
「へへっ、そうみてぇだな。まあ、何か困った時は柚希の旦那にも相談するから、その時はよろしく頼むぜ?」
「ああ、もちろんだ。その時は、皆の仲間であり『絆の書』の主でもある者として、全力であたらせてもらうさ」
「おうよ!」
ニコリと笑う柚希さんに対して、とても嬉しそうに笑う風之真さんの姿に、私達は顔を見合わせながらクスリと笑った。
ふふっ……やっぱり、柚希さんは風之真さんにとってお兄さんのような存在なんですね。
そんな事を思いながら柚希さん達の事を見ていた時、柚希さんは私達へ視線を向けると、優しい笑みを浮かべた。
「皆、天斗伯父さんが知り合いの神様から色々お裾分けをしてもらったようだから、お相伴にあずかりに行こうぜ。後、皆がどんな風に話をしていたのかも聞きたいから、それも聞かせてもらおうかな」
「へへっ、それなら好きなだけ話してやるぜ、柚希の旦那!」
「ふふ、ありがとうな。という事で行こうぜ、皆」
「おうよ!」
「「はい! 」」
「うむ」
全員で返事をした後、私達は座っていた座布団を片付け、柚希さんの後に続いて居間へと向かった。その途中、黒銀さんが何か考えているような様子だったため、私は小首を傾げながら黒銀さんに話し掛けた。
「黒銀さん、どうかなさいましたか?」
「……いや、箏曲の名について少々考えておってな。とりあえず、二曲分は考えついたのだが……」
「そうだったんですね。あの、その曲の名前を聞いても良いですか?」
「ああ。『絆』と『
「なるほど……『絆』は柚希さん達との事だと分かりますが、もう一曲の『白金』はどのような理由からつけたんですか?」
「……儂の持ち主だった男の楽士としての名じゃ。幼い頃に親から儂を貰い、その命の火が消えるまで儂を傍に置き続けていた男の……な」
「……そうだったんですね」
「まあ、彼奴は今も天国で箏を弾いているらしいが、この曲が出来た暁には、天斗に伝えてきてもらおうと思っておる。そうすれば、彼奴も大層驚くじゃろうからな」
笑顔でそう話す黒銀さんの顔は、いつもの落ち着いた物とは違って、どこか悪戯っ子のような感じがして、私は「そうかもしれませんね」と返しながら思わずクスリと笑っていた。
たしかに驚く事は驚くかもしれないけど、それ以上に喜んでくれるかもしれないなぁ……。
黒銀さんが作った『白金』を天斗さんから伝えられ、驚きながらも喜ぶ男性の姿を想像して心の奥が温かくなったのを感じた。
黒銀さんも前に向かって歩き出したんだし、私もこれから先へ向けて一歩ずつでも良いから、進み出さないといけないよね。
「……皆さん、支えて頂きありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いしますね」
小さな声で皆さんに声を掛けた後、私は皆さんと一緒に話をしながら居間へ向けてゆっくりと歩いていった。
「……よし、これで完成じゃな」
その日の夕方、和室で出来上がったばかりの『絆』と『白金』の楽譜を見て、儂は満足感と達成感を覚えながら小さな声で独り言ちた。
そして、2枚の楽譜を畳の上に置くと、儂は縁側へ向かって歩き、そこに敷いていた座布団の上に座った後、夕焼け空を見上げた。空はいつもと変わらぬ綺麗な橙色をしており、どこからか烏の鳴き声や遊びから帰る人の子達の声も聞こえてきていた。
「……平和じゃな。あの山奥で琴古主として目覚めた時にはこんな平和な日常の中で過ごす事になるとは思わんかったが、やはり良い物じゃ。まあ、これから柚希が更に仲間を増やし、とても賑やかな毎日となるだろうが、それはそれでまた一興かもしれぬな」
そんな事を独り言ちた後、儂は空の向こうにあるであろう天国とそこで今でも箏を弾いている儂と同じ銀髪の老人──白金を想像しながら小さく息をついた。
「……白金。お主の箏は、琴古主となって今でも仲間達と共に仲良くやっておる。お主もそちらの仲間達と仲良くなるのだぞ?」
天国の白金へ向けてそう呼びかけた後、儂はゆっくりと立ち上がり、畳の上の楽譜を拾ってから隅に寄せていた箏へ向けて歩み寄り、その傍に置いていた爪をつけた。そして、箏の前に静かに座り、弦を一本軽く弾いた後、儂は『白金』を弾き始めた。
仲間達の助けがあってようやく作る事が出来た儂の初めての曲、『絆』と『白金』。どんなに時が過ぎようともこの2曲を作るために風之真達と話し合い、柚希達とふれ合った時間は、永遠に儂の中で良き思い出となるに違いないと感じていた。
……ありがとう、皆。そして、これからもよろしく頼むぞ。
この場にはいない皆に向けて心の中で声を掛けながら、儂は日暮れ過ぎまで依り代と共に琴の音色を奏で続けた。
政実「THIRD AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
アン「黒銀さんは新たな箏曲、私は自分に自信を持つ方法について悩みを抱えていたわけですけど、AFTER STORYでは必ずしも誰かの悩みを解決していくのではないんですよね?」
政実「そうだね。時には日常回みたいなのもある予定だよ」
黒銀「そうか。さて……それでは最後に、今作についての感想や意見、評価なども待っているため、書いてもらえると嬉しい。よろしく頼むぞ」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
黒銀「うむ」
アン「はい!」
政実・黒銀・アン「それでは、また次回」