大帝国 南遣艦隊記   作:ShinGen

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統一宇宙歴939年初頭 北京星域、惑星満州近郊

 

この日、中帝国支配領域に日本海軍の誇る新鋭主力艦隊が侵攻した。

 

 

 

その後方数十宙マイル、陸軍輸送艦隊及び護衛艦隊群

第106護衛戦隊 旗艦「五十鈴」

 

「戦隊司令、旗艦「香椎」の南雲少将より通信です」

 

通信員からかけられた言葉に私――山口(やまぐち)多萌(たもえ)大佐――は作業の手を止めた。

 

「圭子司令から?モニターに出して」

「了解!」

 

通信員が手早くパネルを操作すると、司令席のモニターに朱色の長髪が特徴的な上司の姿が映し出される。

 

『よっ!多萌!』

「どうしたんですか?先輩」

 

南雲圭子(なぐもけいこ)少将。私にとって先輩にあたり護衛艦隊旗艦「香椎」に座乗する艦隊司令だ。

 

『いやー、前線の主力艦隊から要請があってね。なんでも、「伊勢」の機関が不調で引き返させたいから護衛を出して欲しいんだとさ』

「あらら……新鋭戦艦も形無しですね」

『だねぇ』

 

そういうと圭子先輩は苦笑する。

 

『ま、とにかくそういう訳だからさ。多萌の106戦隊で「伊勢」の収容に行っとくれよ』

「はい、分かりました。……全艦引き連れていっても?」

『ああ、構わないよ。ついでにオヤジさんに顔見せてやると良いさ』

 

圭子先輩の言うオヤジさんとは、私の養父である前倉海軍長官の事だ。

 

「流石に任務中ですから……そんな私的なことはしませんよ?」

『はは、そうかい。まぁ、よろしく頼むよ』

「了解しました!」

 

そして通信が終了し、私は戦隊全艦に指揮を飛ばした。

 

「さて、「伊勢」を迎えに行くよ!第106護衛戦隊、全艦出撃します!」

「了解です!106戦隊出撃!」

 

私の指示により、第106護衛戦隊を編成する12隻の艦艇は護衛艦隊から離れ前線へ進出するため速度を増した。

 

 

―――――――――

 

 

 

「前方に主力艦隊を視認!」

 

合流のため艦を飛ばすこと数時間、私たち106戦隊は主力艦隊へと追いついた。

 

「あー……確かに「伊勢」遅れちゃってるねぇ」

「新型機関を搭載した最新鋭戦艦ですからね、調整に苦労しているのでしょう」

 

戦艦9隻を中核に堂々たる勇姿を見せる主力艦隊、その後方に直掩の巡洋艦2隻に伴われて「伊勢」がその巨体を勞っていた。

 

「司令、総旗艦「日向」の前倉長官より通信です」

「お父さ……じゃなかった、長官から?」

 

つい普段のように「お父さん」と呼びかけた事を恥じつつ、通信に応答する。

 

「はい、第106護衛戦隊司令部です」

『うむ、急な進出ご苦労。早速だが「伊勢」の収容を頼みたい』

「了解です」

『直掩の「利根」「筑摩」はそのまま護衛として後方へ共に下げて構わん。中帝国艦隊が襲撃せんとも限らんからな。指揮は山口大佐、貴官が執れ』

「分かり――」

 

ました。そう続けようとした言葉を、突然の爆音が遮った。

 

「っ!?な、何が!?」

「司令!「日向」が!」

 

目に飛び込んだのは艦底部付近から火の粉を散らす「日向」だった。

 

「こ……これは!?樋口提督の第二艦隊が砲撃を!!」

「は、反乱!?」

「第二艦隊だけではありません!末山提督の第三艦隊も砲撃を開始!」

 

第一艦隊の側面を固めていたはずの両艦隊が反旗を翻した事で、中央の第一艦隊は挟撃を受ける形となってしまったのだ。

 

「司令!「日向」より再び通信!」

「すぐ継ないで!メインパネルに!!」

 

艦橋の大パネルに映された「日向」の映像、お父さんの後ろを慌ただしく走り回る幕僚陣が事の火急さを伝えていた。

 

『……多萌、「伊勢」を収容しすぐに逃げろ』

「お、お父さん……?」

『こうなってはもう持たん、直ぐに後退し東郷の第四艦隊や護衛艦隊と合流するんだ』

「で、でも……!」

 

今逃げてしまったら、日本海軍は……海軍主力を失う日本は……そして何より、お父さんは……

 

様々な感情が渦巻き、私は決断できないでいた。

 

それを見抜いたのだろう、お父さんはひとつ息をつくと声を荒らげた。

 

『……山口多萌大佐!!』

「は、はい!!」

『これは命令である!貴官は「伊勢」及び直掩隊を収容し後方へ退却せよ!復唱!!』

「だ、第106護衛戦隊は「伊勢」及び直掩隊を収容、後方へ退却します!」

 

そう言うと、お父さんは目を細めた。

 

『うむ、それで良い。「伊勢」はお前にくれてやる……多萌、日本を、海軍を、頼むぞ?』

「は……はい」

『わかったら直ぐに行け!』

「は、はい……!」

 

そして通信が途切れる。

 

それと同時に「日向」とその直掩戦隊は反乱部隊と姿を見せた中帝国主力艦隊へと突撃を始めた。

 

「司令……」

「……撤退するよ。「伊勢」機関部員には悪いけど、出し得る全力を維持させて。第四艦隊にも通達して歩調を合わせるよ」

「了解しました」

「それから、第一艦隊で離脱可能な艦艇と樋口末山の部隊から離脱する船があったら撤退を支援して」

 

やりきれない感情を堪えながら、自分に出来ることをする。

 

撤退するにしても、救える者はできる限り救って行きたかった。

 

「「伊勢」以下収容完了!本隊より離脱した数隻も収容終わりました!」

「分かった。逃げるよ、速力一杯!後方の護衛艦隊と合流して本土へ撤退!」

 

各部から火の粉を散らし部品を脱落させながらも未だに砲撃を続け、こちらへ敵艦隊が向かうのを阻止し続けている「日向」を尻目に、私たちは全力で星域を離脱した。

 

 

―――――――――

 

 

この会戦で日本海軍は新鋭戦艦「日向」を含む戦艦7隻、巡洋艦11隻、駆逐艦26隻、他補助艦艇等10隻……計54隻もの艦艇を一挙に失うという設立以来最大最多の損害を受ける。

 

更に、前倉海軍長官を筆頭に数多の将兵が失われ、再編成を余儀なくされたのだ……




第106護衛戦隊
旗艦「五十鈴」以下3個駆逐隊(4隻、4隻、3隻(1隻欠))
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